上条「身体が……熱い」 その2

***
--/--/--(--)
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
2013/03/30(土)
433 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:39:51.48 ID:ZMOy06lDO

その2です。


433 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:39:51.48 ID:ZMOy06lDO

──ったく、救いようのねえ馬鹿だな、俺は…………。


どうしようもない怒りを自分自身に抱いた時──────。





「……………………ぐっ!?」




例の激しい頭痛に突然襲われた。



「ぐっ…………が……!」

やがて身体も火照り出し、視界がグルグル回る。
あの気を失った検査の時以来だ。あの時と同等の頭痛────


  いや、それ以上だ。


「な、なん、だ…………!?」

突然上条の頭に聞こえてきた無数の声。老若男女問わない様々な声。

そして、見た事もない計算式が上条の頭を駆け巡る。記号ばかりの複雑な式。
しかしそれは浮かんではすぐに消え、浮かんではすぐに消えを繰り返す。

「ぐ、おお…………っ」

横になり、丸まるように身体を曲げ、両手で頭を抱える。




434 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:41:00.70 ID:ZMOy06lDO

「まだ、か…………っ」

長い。いつになく長い。気を失うか失わないかの境目をなぞる様に意識が飛び掛けては戻る。吐く息も熱い。

「……ぐ、ぐああ!!」

バチッ!と言う音を立てて壁に掛かっていた時計が落ちた。気のせいだろうか。電撃の稲光の様なものが見えた。

「……………っ」

そしてようやく、症状は収まりを見せ始めた。

「……う……ぐ……」

段々と引いてくるその痛みと熱。頭の中の声も、もう届いては来ない。

──お……さまった、か…………?

抱えていた頭をようやく離す事が出来た。いまだ視界がボヤけているが、恐らく直に元に戻るだろう。

「…………俺の身体、どうなっちまうんだ……」

持ちこたえはしたが、さすがに今回は危なかった。

上条は再び天井を見る様に仰向けに転がる。
この言い様のない焦りは何だろうか。

──…………怖え、な……。

『恐怖』だ。
恐らく次にこの症状が出た時、自分は意識を失ってしまうだろう。
段々と強くなってきているこの症状。そして次は…………。

もしかしたら、意識を失ったまま起きる事はないのかもしれない。

何故かと言われれば答える事は出来ないが、自分の身体の事は自分で何となく分かってしまっている。

そこでふと、部屋に置いてある鏡が自分を映している事に気が付いた。

「────!?」

そこに気付いたのは自分の顔────いや、目だ。
赤くなりつつあった己の黒目が、更に赤みを増していて。赤黒いのではなく、純粋な『赤』にもはや近い。

「…………はは、人外の化け物にでもなっちまうのかな…………」

自身に響き渡った声がまるで自分を操ってしまうのではないかという予感。
いや、直感と言ってもいいのかもしれない。

「………………御坂」

会いたい。自分がどうにかなってしまう前に。

もう一度だけ、会いたい。

気が付くと、上条は身を起こしていた。




435 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:42:37.33 ID:ZMOy06lDO

「……御坂さん?」

 インデックスが去った公園にて、茫然自失した様に俯く美琴に向けられて、少年の声がした。

「…………」

しかしそれに気付く事なく美琴はただ俯いていて、傍から見れば泣いている様にも見えてしまっている。

「御坂さん」

少年は少し語気を強めて改めてその名前を呼んだ。

「あ…………」

いや、泣いている様に見えるのではない。
実際、泣いていた。

「海原…………光貴…………」

美琴が呟いた少年の名、海原光貴。美琴が通っている常磐台中学の理事長の孫であり、美琴とも面識のある少年だ。
……しかし、もっとも目の前の彼はそれとは違う人物。扮装魔術を得意とし海原光貴に成り済まして、嘗て彼の属していた組織からの命で上条を消し去ろうとしたアステカの魔術師で。

魔術師──と言うのは知らないが、上条を殺そうとした憎い相手だった。

「…………何しに、来たのよ」

ベンチの隣に座り、美琴の顔を窺う様にして覗き込む。

「やっぱり、泣いてましたね」

「アンタには関係ないでしょ?」

海原はこれはまたキツい、と苦笑いして見せる。自身のやった事は確かに美琴に好かれる行動ではなかったから納得はしてはいるが。




436 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:43:58.26 ID:ZMOy06lDO

海原は美琴に好意を寄せている。美琴もそれを知ってはいるが、どうにも好きになれない人種らしい。

「どうですか?最近、彼とは」

「………………」

「おや?うまくいってないのですか?」

「………………っ」

沈黙で返される返事。

彼──とは上条の事を差している。
海原にとって上条は、美琴とその周りの世界を守らせる約束をしたとは言え恋敵の様なものだ。

「困ったものですね、彼も…………」

「………………」

口も聞いてくれないのか、と肩をすくめたが少し踏み込む事にした。

「彼と、何かあったのでしょう?」

「………………っ」

そこで海原は確信する。
美琴の少し焦った様な、怯えた様な感情がごっちゃになって少し見開かれた目を見て、確信した。

「彼とは前に約束したんですがね」

「…………!」


約束────御坂美琴とその周りの世界を守る────


彼らが交わした約束を、美琴も知っている。




437 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:45:09.88 ID:ZMOy06lDO

あの時は嬉しかった。
喜びに震えていた。
でも、守られるだけでは嫌だ。
あの時の感情が甦りそうになるが、それはやはり憂いで塗り潰される。



「彼がそれを破棄するというのなら、こちらも相応に行動させていただきます」



しかしその時動いた少年の行動で、美琴の思考は止まる。



「え…………?」







少年の顔が、美琴のそれに近付いてきていた。




438 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:46:15.32 ID:ZMOy06lDO

 何処にいるのかも見当もつかない。だが走る。

「ハッ、ハッ…………」

息が簡単に切れてしまう。
先ほどの症状のせいか、身体がまだあまり動かなかった。

「外に、いてくれたら、いいん、だがな……」

寮内にいられたらお手上げだ。それに電話を掛けると言う手段は真っ先に捨てていた。
当然だ、自分からの電話など出るはずがなかろう。

「ハッ……ハッ……」

足が鈍い。身体が重い。でも、走る────。

 会って何になるというのだ。会ってどうなるというのだ。彼女の嫌悪感を掻き立てるだけではないのか。
また罵られたいのか。
蔑まれたいのか。

──はっ、とんだ性質の持ち主だな。

可笑しい。自分自身が可笑しかった。
自分の想いに気付かず今まで過ごしてきた。大切なものは傍にあったと言うのに、それに気付かずにいた。
そして彼女を知らずの内に傷付けていた。原因は分からない。しかし自分にあるというのは分かる。

もう罵られてもいい。
蔑まれたっていい。


ただ、『最後』に。一目会いたかった。元気な姿を見たかった。


「く………………」

一体どれくらい走ったのだろう。分からない。たった数百メートルなのか、数キロなのか。分からないが、たくさん走ったのだろう。




439 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:47:37.71 ID:ZMOy06lDO

真冬なのに額を伝う汗。喉もカラカラだった。

「あそこは……………………」

自身が通う学校の通り道にある公園。それが目に入った瞬間、無意識で上条は足を踏み入れていた。



思えばこの公園でいつも彼女と会っていた。

勝負と言われ追い回され。
自販機にお金を飲み込まれ彼女に笑われ。
倒れた自分を介抱してくれ。

他にもこの公園での思い出はたくさんあった。
何故か、また会えるような気がした。

「…………ジュースでも、買うか」

御坂の好きな物はヤシの実サイダーだっけな、と思い浮かべてあの自販機に向かう。

「ん?あれは………………?」



途中、あのベンチが視界に入る。




440 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:48:27.88 ID:ZMOy06lDO

ベンチに座っている二人組が視界に入る。



男女だろうか。



重なって見える。



接吻でも交わしているのだろうか。



「………………!?」



気付く。二人の内の女…………いや、少女が誰かに。







「み、さか……………………?」




441 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/24(月) 21:49:08.94 ID:ZMOy06lDO



栗色の髪の毛。少し幼い感じのダッフルコート。常磐台の制服のスカート。





間違い、なかった。





「………………そう、いう………………事か………………」





彼の世界は、音を立てて崩れていく──────。




458 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:02:09.10 ID:a5JnTgtDO

 そうか。そういう事だったのか。

彼女が自分を拒んだ理由。
罵った理由。
蔑んだ理由。
自分に嫌悪感を抱いた理由。

全てのパズルがカチッとはまったみたいに照合した。

──…………そうか、そう、だよな……。

美琴には愛する恋人がいて。本来ならその相手と過ごすはずだったのに。
『借り』を返す為だけに自分に接してくれて。研究者に掛け合ってくれて。

この三日間束縛してしまった様なものだ。
好きでもない相手に料理を作らされ。
好きでもない相手に抱き締められ。
好きでもない相手に心配して憔悴する素振りを見せぬ様笑顔を作らされ。
好きでもない相手に涙さえ流させられて。

嫌悪感を催さない訳がないではないか。

「御坂………………!」

それに相手はあの海原だ。中身はあのアステカの魔術師だとしても、美琴を傷付けるという事はしないだろう。
何故なら海原も美琴に好意を寄せているから。相思相愛だろう。

顔立ちも整っている爽やかな少年。恐らく、頭もいいのだろう。

…………何だ、お似合いではないか。
無能力者で何の取り柄もない自分とは大違いで。

「………………っ」

美琴が幸せなら、それでいい。
会話こそ出来てはないが、顔こそ視界が滲んできて見えないが、恐らく幸せそうに笑っているのだろう。

自分が愛した少女が幸せなら、それだけで十分だ。




459 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:03:30.48 ID:a5JnTgtDO

──守ってやれよ…………あいつとその周りの世界を…………。


「幸せ、にな………………」


そっと上条は静かに、踵を返し、走り出そうとしたが。


──あれ…………


目が霞む。


視界が揺れる。


身体が……熱い。


たくさんの、声が聞こえる…………。


──……………………御坂…………。


そこで上条の意識は、深い闇に落ちていく。

彼が最後に呟いたのは、彼女の名だった。




460 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:04:27.34 ID:a5JnTgtDO

 咄嗟に瞑ってしまった目。
今自分の心を埋め尽くしているのは恐怖。
見えない視界の中でも近く感じる他人の体温。それは威圧感とも取れた。

「………………っ」

「………………」

「…………当麻……っ」

「!」

自身の無意識な呟きに、相手の息を飲む音が聞こえる。
美琴が感じた恐怖────唇を襲うであろう感触は、なかった。

「………………」

ふと自分から離れる気配。
それに気付き、美琴は目を開ける。
目の前の少年は、やれやれと言った表情で自分を見ていた。

「キスをされるとでも思いましたか?」

「…………っ」

思い切り目の前の少年を睨む。殺気の様なものも混ぜて、睨み付けた。

「御坂さんも目を瞑っていたので、いただこうと思っていたんですけどね」

何だこの少年は。何が言いたい。
沸々と沸き上がってくる怒り。後一歩で、大切なものを汚されそうになったというのに。奪われそうになったというのに。

「あそこで他の男の名前を、彼の名前を出されたらさすがに」

ね?と言う視線を自分に向ける。
その視線も、自分にとったら不快なものにしかならない。

それは一重に自分に対しても言える事であったが。




461 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:05:51.46 ID:a5JnTgtDO

易々と受け入れてしまいそうになった自分にも怒りが沸き上がる。
恐怖からだからといって、あそこで目を瞑れば待っていると言っている様なものではないか。
自分の初めての相手は決めたはずなのだ。このいけ好かない男ではない。

 心を丸ごと温めてくれたあの少年、ただ一人。
この先どんな人に出会おうがそれは揺るがない。

そう、揺るがないのだ。





ふと、視線を彼から外す。この目の前の彼の顔など見たくなくて、自販機の方を見る。

「それにその彼、そこにいる様ですしね」







「……………………え?」

美琴の目に映ったのは、踵を返した少年の後ろ姿。

美琴の目は大きく見開かれた。

「なん、で………………………………」

信じられなかった。

何故。何故。



「………………当、麻……?」



何故彼が、今ここにいるのだろうか…………?




462 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:07:01.79 ID:a5JnTgtDO

背を向けて走り出すツンツン頭。彼のいつもの私服のジャンバーに、学校に通う時と同じマフラー。

…………間違いない。確かに、彼だ。


   見ラレタ…………?


──………………もしかして…………見ら、れた…………?



先ほどの海原との出来事。
未遂だったとはいえ…………あれは接吻しているとしか、見えなかっただろう。



「幸せ、にな…………」



背中越しではあったが、風に乗ってほんの小さく聞こえてきたその声。
両手で口を押さえ、青ざめてしまう。

──違う!違う!違う違う違う違う!違うの!当麻!当麻ぁ!!

否定したかった。
しかし彼に見られたという恐怖からか声が出ない。
声を上げて、違うと叫びたい。誤解してほしくない。

しかし、あの時彼を拒絶したのは誰なんだ?
今更弁解したって、何になるのだ。

追い掛けそうになって、身体を止める。
葛藤が美琴の心の中で激しく争う。
彼の身体を思い、突き放す自分と。
嫌われたくない、自分と。

彼から告げられる「さよなら」同じ意味の言葉。




463 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:08:13.06 ID:a5JnTgtDO

一体どうしたらいいと言うのだ。分からない。分からないが。

美琴の頭の中で上条との思い出が駆け巡る。

泣いて、笑って。
怒って、照れて。
守られて、介抱して。
抱き締めて、抱き締められて。

涙が溢れ出す。涙腺は渇きを知らず、次から次へと流れ出していた。



──…………やっぱり、私は…………!当麻と…………当麻と一緒にいたい…………!



 距離を離してさえすれば、話くらいは出来るのかも知れない。

自分の肩を掴んでいた海原の手を思い切り振り解き、離れていく彼の背中を追い掛けようとしたその時────。




彼の身が大きく揺れ──────



「…………当、麻……?」



そのまま横倒しになる様に、地面に崩れ落ちていった──────






「……当麻っ!!? 当麻ああぁぁっ!!!」



力の限り叫び、美琴は彼の元へと走った。




464 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:09:23.27 ID:a5JnTgtDO

 彼が倒れていく様子がスローモーションの様に思えた。
ゆっくり倒れるその身体。
ドサッと言う音が美琴の耳に届いた瞬間、彼女は駆け出していた。

「当麻っ!?当麻!当麻ぁっ!!」

もう美琴の頭の中には距離の事などなかった。
彼の傍にいてはいけないと決めた自分など、とっくに消え失せていて。

「当麻!いやああぁぁ!!しっかりしてっ!!」

彼の身体を抱き上げ、仰向けにさせる様に後ろから支える。

「当麻っ!!当麻ぁっ!!」

息が浅い。
身体も熱い。
尋常ではない量の汗が彼の身体から出ていて、美琴のダッフルコートに染みを作っている。
そしてどれだけ呼び掛けても、彼は反応しない。

「当麻ぁっ…………!目を、開けてよぉ…………っ!!」

彼の身体を後ろから思い切り抱き締め、お互いの頬をくっつける様にしながら叫び続ける。

自分はこんな所で彼を失ってしまうのだろうか。
あれだけ彼を突き放しておいて、それでも自分を探してくれたというのに。
自分の身体の事など他所にしてまで来てくれていたというのに。

こんなにも優しく、愛しい彼に自分は何をしてしまっていたのか。
何をしてしまおうとしていたのか。

自分は、救いようのない馬鹿だ。
自分の気持ちに嘘を吐いてまで、何を守ろうとしていたのか。

「答え、てよぉ…………っ!」

嫌だ。
失いたくない。
自分を置いて、何処かに行ってほしくない。

「当麻ぁ………………っ!!」

貴方が、好きだから──────




465 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:10:55.55 ID:a5JnTgtDO

 上条が集中治療室に運ばれてから、どれくらい時間が経ったのだろう。
ただ廊下で長椅子に座り、俯くようにして美琴は座っていた。

「………………」

隣で同じく両膝をキチンと揃え、頭にゴーグルを掛けた少女、御坂妹も治療室のドアを見つめていた。

二人の胸中は共に上条が助かる事を願っているだけ。
御坂妹も上条の身体については、現場に居合わせた打ち止めからの脳波リンクで把握していた。
もっとも、その後の美琴と上条に何があったのかは知らなかったが。

憔悴しきった自分のオリジナル、姉を見れば何かがあったのだろうと予測は立てれてしまう。

彼がこの病院に運ばれてきた時の慟哭。
担架に付き添い、彼の手を握りながらずっと名前を叫び続けていた。自身も共に治療室へ入ろうとする勢いだったのだが、救急車を手配した少年と自身のなだめで美琴は下がった。
あの時の姉はまるで、赤ん坊の様でそんな姉を見た事がなかった。

「……………………」

震えているようにギュッと握っている拳を見て、その上にそっと自身の手を乗せた。
その震えは御坂妹にも伝わり、どれだけ美琴の心が揺れているか分かる。

「お姉様…………」

そんな彼女を一人にさせておけなかった。




466 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 18:11:33.04 ID:a5JnTgtDO

 また別室では、一方通行と打ち止め、そして木山の姿があり。
こちらも同じく彼が運ばれたという連絡を受けて集っていた。

「………………恐らくもう、時間はない」

木山が呟いた言葉に打ち止めの身体がビクッと揺れる。一方通行の服の裾をまた強くギュッと握っていた。

「………………」

時間がない。
それを指す事の意味は、冥土帰しが提示した手段が間に合わなくなる、という事だと一方通行は悟っている。
いや、自身もそれを知っている。知っているのだが、今の所は手の打ちようがない。

演算補助、ネットワーク、脳波リンク、シスターズ、代理演算システム────。

今の一方通行を支えるそのキーワード。チョーカー型デバイスを経由して彼の脳に演算能力を呼び起こすもの。

   冥土帰しが提示した手段とは、そこにあった。

しかし、それには冥土帰し本人が手を付けなければならない。
そして、彼にも持ちこたえてもらなわければならない。

「………………チッ」

自分でも無意識の内に舌打ちが出てしまう。一体どうすればいいのか思案するが、今はどうする事も出来ない。

一方通行がしようとしている行為は、贖罪というものに該当するのかもしれない。
しかし彼が犯した「罪」の償いが、それだとしても、彼にその気はサラサラない。

だが何故かは分からない。何故自分がそうするのかが。

「……………………」

分からないのだが、そうするという事だけが、彼の頭にあった。




475 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 23:57:57.52 ID:a5JnTgtDO

 休日の街並みは喧騒に溢れ返っている。周りを見渡せど人、人、人。
休日を満喫しようと解放感に満ちている学生達の色んな姿がある中、一際目立つ異国の少女が涙を流したままトボトボと道を歩いていた。
そんな彼女を学生達は物珍しそうに眺めながらも、少女、インデックスは構わず時折涙を拭き歩いては涙を拭く、それを繰り返していた。

「…………エグッ……グスッ」

まるで約束を破られたかの様な、誓いを裏切られたかの様な心境。
あれだけ彼を好いていた彼女が何故、あんな言葉を吐いたのかは分からない。

彼女の様子から、それなりの理由はあったのかも知れない。
でも彼女は彼を傷付ける様な事はしないと思っていたのに。
お互い愛し合っている事を知っていたから、自分は身を引こうとしていたのに。

美琴は上条を愛していて、また上条も美琴を愛していて。
その気持ちは確かな筈なのに。本物の筈なのに。

「みことの、ばか…………」



「禁書目録!!」

しかし彼女の呟きは、一人の男によってかき消された。

その声にインデックスは顔を上げた。
金髪にグラサンをした男、土御門だという事に気付き、インデックスは返事を返そうとしたのだが。

「カミやんが…………病院に運ばれたらしい……!」

「え…………?」

焦っている様な彼から出された言葉に、インデックスの心臓は一瞬跳ねた。




476 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/25(火) 23:59:06.47 ID:a5JnTgtDO

「みこと………………」

その声が美琴の耳に届くと、美琴はハッと顔を上げた。

「………………っ」

インデックスの顔を見た瞬間、何故か再び涙が溢れそうになった。

「………………とうまは?」

「…………うん……」

そう言い、治療室のドアの方に視線を向ける。
言わなくても分かった様で、インデックスはそっか、と呟き美琴の左隣に座った。

「クールビューティも……」

美琴の右隣に座る御坂妹とも目を会わし、御坂妹は軽く会釈をする。


「インデックス…………ごめん……ごめん……ね…………」

「…………みこと?」

涙をポロポロ流しながら、美琴は何度も謝っていた。
自分が彼にした事。彼女にした事。
どちらも傷付けてしまっていた。
自分の気持ちを偽ってまで自分がしたかった事とは一体何だったのか、もはや分からなかった。
その自分の勝手な持論で、無意味な意地で傷付けてしまったと言うのに。


「ううん、いいんだよ」

どうしてこんなにも、彼も彼女も、自分によくしてくれるのだろう。

肩を優しく抱き締められ、包まれるような温かい感触が美琴を包んだ。




477 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:00:19.78 ID:+As7ZGLDO

 気を利かせたのか、御坂妹は席を立っていた。

「ヒグッ…………ごめん……ごめんね……エグッ、インデックス…………当麻ぁ……グスッ……」

ただ静かな廊下に響き渡っているのは美琴の泣き声だけ。
包み込む様に、受け止める様に、まるで全てを赦してくれるかの様に。
自分の泣き声を一つ残らず救い上げてくれている様な気がした。

「…………いいんだよ」

その言葉が。その温かみが。
全てを慈しむ聖母の様な光に感じられて。

「…………人ってね」

「…………うん」

「許し合える力を持って生まれてるから、笑って暮らしていけるんだよ」

「…………うん、っ……」

「取り戻せないものなんて、きっとないんだよ」

「…………うんっ……ヒグッ」

「だから、とうまにも言ってあげなきゃ、だよ? とうまは、分かってくれるんだよ」

「うん…………エグッ……」

美琴の心の氷は、もう溶けきっていた。

  そして。

バタン──────。

扉が開いた。




478 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:01:34.20 ID:+As7ZGLDO

「「!!」」

二人が息を飲む。中から出てきたのは……看護師数人と。

冥土帰し────。

「当麻は!?」

思わず立ち上がり、美琴は冥土帰しに詰め寄った。
インデックスも息を殺して冥土帰しの言葉を待つ。
この冥土帰しは今まで運ばれてきた上条がどんな状態でも難なく完治させてきた医者。

そんな医者の腕を期待して、二人は答えを待ったのだが。



「…………何とか、一命は」



「一、命は…………?」


しかし彼の口から発せられた重い雰囲気の言葉。

「どういう、事…………?」

「────…………すまない。僕は少し失礼するよ」

そして投げ掛けられた美琴の質問に答えようと、一瞬開きかけた口を閉じると冥土帰しは背を向け、歩き出してしまった。

呆然とした表情でその場に立ちすくむ美琴とインデックス。
最悪の結末が二人の脳裏をよぎっていた。

「当、麻…………」

無意識に口から出た愛する少年の名前。
もう彼からは自分を呼ぶ声は聞こえて来ないのか。
もう彼の笑った顔は見れないのか。
もう彼の傍にはいられないのか。
もう彼は…………




479 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:02:31.29 ID:+As7ZGLDO

頭を抱える。
イヤだイヤだと首を振る。
胸が張り裂けそうになる。
倒れ込んでしまいそうになる。

ガタガタ震え出した身体をどうする事も出来ない。
気付けばインデックスも自分を抱き締める様に寄り添ってくれていたが、彼女も震えているのが分かった。

「でも、一つだけ言っておく」

踵を返した冥土帰しが振り向き、美琴とインデックスに視線を送る。
二人もお互いに震えを抑えながら耳を傾けた。



「必ず、助けるよ……彼を信じなさい」



それだけ言い切ると、冥土帰しは再び歩き出す。

必ず助ける…………医者として、絶対に吐けない言葉だった。
確証など何処にもない。不測の事態だっていくらでもある。
しかし、普通の医者になど出来ない事を平気でやってのけてしまう冥土帰しの約束。

やはり少しでも希望にすがりたい。

と、無理矢理自分を元気付けると冥土帰しの背中に頭を下げ、美琴とインデックスは治療室の中に入る事を決めた。




480 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:03:46.00 ID:+As7ZGLDO

「………………」

「………………まだかな……ってミサカは……」

「…………もう少し待ちましょう……」

別室では、先ほどの三人に御坂妹を加えた四人が冥土帰しを待っていた。

木山はテーブルの上に置かれたプリントと、革で出来た輪っかに目を通していている。
その顔は、真剣そのものだ。
自身に宛てられた大役をしっかりと頭に叩き込み、イメージをトレースする。

はっきり言って、冥土帰しの提示した『手段』というものが訳が分からなかった。
自身の持つ経験と知識、常識はそんな事はあり得ないと告げていた。

しかし、一方通行を見る。
彼はその『手段』を乗っ取り失った演算能力を取り戻しているのだ。
それに、シスターズ。クローンの脳波リンクをあの様に使うなど、木山からしてみれば常識はずれの様なものだった。

しかし、常識はずれがどうした。

一人の人間を助ける為に、常識にとらわれて何も出来ずにオロオロする方が無益だろう。
それに一方通行という存在が、クローンという存在が、冥土帰しという医者の存在が常識とは並外れているのだから。

『手段』を注意深く確認する。恐らく美琴は、彼につきっきりでいるだろう。

この目で見た想い合う二人を、幸せにしてあげたい。
幸せにせねばなるまい。




481 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:05:24.02 ID:+As7ZGLDO

『あいつらが幸せになってはいけない道理なんてどこにもないはずなんです』

──……それは君にも言える事なんだよ。

一方通行を、打ち止めを、御坂妹を見る。
皆思い思いの気持ちを胸に抱いているのだろう。
冥土帰しが提示した手段も、皆役割が違う。

しかし、皆同じ方向を向いている。
皆で、歩き出せばいい。
皆で、走り出せばいい。

皆で、支え合えばいいのだ。



ガチャ──────。

「待たせたね」

そして、役者は揃った。




482 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:06:17.38 ID:+As7ZGLDO

 呼吸器を付け、腕にも色々な管が付けられている上条の姿が目に入る。

「…………っ! 当麻……!」

痛々しい彼の姿。目をキュッと閉じていて、動いている様子はない。
やはりこんな状態の彼が目に入ると、美琴の胸は軋むほど痛い。
彼の手をギュッと握り、上条の顔を見つめた。

「…………とうま……」

インデックスも上条の姿に目をやると、苦しそうに顔を歪めてトテトテと上条の傍に寄った。
インデックスも美琴と上条の手に自分の手も乗せて、彼の顔を見る。

「……………………」

「…………何も、聞かないの?」

ただじっとしているインデックスに美琴が呟いた。
しかし美琴の質問に、インデックスはフルフルと首を振って返答する。

「みことも…………辛いと思うから。私が心配しないように、してくれてたんでしょ…………?」

確かにそうだ。上条と二人、インデックスの為を思って内緒にすると決めていた。
インデックスも知りたい筈だろう。知りたい筈なのにそれでも人の心を思いやる事が出来るのか。

やっぱり、インデックスは強い────

美琴はその強さを羨ましがった。憧れの様なものも抱いた。
自分にはない強さをインデックスは持っていて。

「あの先生も言ったんだよ、必ず助けるって。だからとうまが治ったら、とっちめてやるんだよ」

そんな強い彼女だから、希望を持っているんだろう。
そしてそんな彼女に感化されて、自分も希望を抱き始めている。
でもだからと言って、後手に回る気もサラサラない。

「ふふ、その時は私が当麻を守るわ」

いや、だからこそ負けない。
この少女以上に、彼に見合う女になりたいから。




483 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:07:28.18 ID:+As7ZGLDO

 病院の待合室では土御門、海原の二人の姿があった。

「……………………」

「……………………」

しかしお互い話す事もないのか、『グループ』の時の仕事以外で馴れ合う必要がないのか、お互い会話はなく沈黙が場を支配している。

一人は親友の為。
一人は自身が好意を寄せる少女の為。

お互いが何を考えているのかは知らないが、それぞれの意思を持ってこの場にいる。

「…………あなたは」

そこでふと海原が口を開く。土御門は視線を向けはしないものの耳を傾けた。

「あなたは、彼をどうするつもりなのですか」

その言葉の意味は親友としてなのか、本来の自分の本職の立ち位置としてなのか。
それは分かりはしないが。

「…………どっちにしたって、あいつは重要な存在だ。必要とあらば、お前とも戦うぞ」

言葉に威圧感を乗せての返答。
しかし海原は特に感慨深くなさそうにそうですかと呟いた。

上条は土御門の属する『必要悪の教会』からしても重要な存在だ。
幾多もの事件も、彼の手があって解決に導かれている。

もっとも、それ以上に上条は土御門の親友だ。
上条に危険が忍び寄るのなら、土御門はどんな手を使おうがそれを排除する気だ。




484 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/26(水) 00:08:53.60 ID:+As7ZGLDO

「そんな事を聞いてどうする」

疑いの色も含め、海原に問い掛けた。

「いえ…………御坂さんも、あなたも大分彼に熱を入れている様なので」

少し溜め息を吐き、肩をすくめる。彼の癖なのか、その仕草をよくしている様な気がした。

「お前には分からんだろうな」

「やれやれ、です」

言った所で分かる訳がない。いや、上条のよさは口では伝わらない。
そういうものなのだ。



ピリリ──────



すると突然、土御門の携帯が着信を告げた。
特に表情を変えず、電話を取り出して場所を移す。

「………………何?」

応対した土御門の目が少しだけ見開かれた。
そんな土御門の様子を後ろから眺めていた海原も表情を引き締めている。

「分かった。 ………………仕事だ」

土御門は海原に用件を伝えると再び携帯のボタンを操作し耳に当てた。




508 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 20:56:50.27 ID:pV5t+oEDO

 街のある商店街にて、大勢の学生達がその場に集っていた。

「きゃー!可愛い!」

「何あれ、凄い!」

「どうやって動かしてんのかな……」

などなど、色々な歓声や感嘆とする声が上がっている。

「ね、ね、佐天さん!凄いですね!」

「こりゃぶったまげたよ……」

その人混みの中にいる少女二人、初春と佐天も周りと同じ様に驚きながらもキラキラと目を輝かせて目の前の物に目をやっていた。

そんな二人の前にあるのは大小、無数のぬいぐるみ達。
クマ、犬、猫、馬、豚、羊や他にもテレビで見る様なキャラクターのぬいぐるみも含めて、ざっと数えると百くらいはありそうなぬいぐるみ達。

それだけでは当然ここまで騒ぎ立てはしない。
そう、特にこの学園都市と言う街にいる以上、ほんの少し不思議な事が起きても皆驚かないのである。

しかしどういう事か、そんな学生達の度肝を抜いてるぬいぐるみ達とその持ち主。

持ち主はぬいぐるみ達の後ろにあぐらをかいて座っている、見るからに明らかな異国の男と女の二人組だった。
 その二人組も楽しそうにギャラリーとぬいぐるみ達に目をやっていて、その一挙一動に観衆が湧く。

それだけなら特に騒ぐものでもないだろう。
しかし何に騒いでいるのかと言うと。



   無数のぬいぐるみ達が、独りでに動いているからだった。




509 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 20:57:56.69 ID:pV5t+oEDO

「面白かったですね!佐天さん」

「可愛かったね!あれでもどうやって動かしてたんだろ?」

見せ物を見終わり、街を歩きながら興奮気味に話す二人。
さすがに中学生の女の子だ、可愛いものには目がなかった様だった。

「電池とかじゃないんですかね?」

「あれが機械の動きに見えた?まんま動物の動きだったっぽい気が」

見た目は確かにぬいぐるみ。しかしその動きは完全に生きているものとしか見えない様な動きを見せていた。
ギャラリーもその動きに驚き、また感動して騒いでいた。

「ですねぇ……。イイコイイコとかしてあげたかったなー」

「私がしてあげるよ。ほらいいこいいこっ」

「私じゃないですーってやめて下さい!お花が散っちゃいます!」

ギャーギャー騒ぐ二人。
元気な女子中学生の姿だった。


「あノ、すみまセン」


するとそんな二人に後ろから女性の声が届いた。
少し片言だった日本語に二人が振り向くと。

「あっ!さっきの!」

先ほどのぬいぐるみショーをしていた二人組の内の女性が少し困った様な表情をして立っていた。
隣では男の方もいたが、視線を少しキョロキョロとさせている。

「さっきは凄かったですぅ!ってあれ、日本語分かるかな……」

「あ、どうしました?」

興奮してはしゃぐ初春を他所に冷静に返事を返す佐天。
まぁ佐天も日本語分かるのかなという不安はあったのだが。




510 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 20:59:10.79 ID:pV5t+oEDO

「あ、ハイ。道が分からナイデス」

あ、日本語分かるんだ、と感心した佐天。
改めて見ると、日の光を浴び輝いている様な金髪に透き通る様な碧眼の女性で、綺麗な人だなーと言う印象を受けながら、道を教える事にした。
大きなボストンバッグに入りきらなく、顔をちょこんと出しているぬいぐるみを物欲しそうに見つめる初春は取り敢えず放っておく。

「この辺りで素晴らシイdoctorがいるhospitalがあると聞いたんですガ、どこにありますカ?」

「へっ?ホスピ……」

佐天の耳に聞き慣れない様な単語が届き、少し戸惑ってしまう。
しかしその単語の前のドクターと言う単語に気付いたのだが、違ってたらどうしようなんて返答に迷っていた。

「Oh……in Japanese……?「病院」oh!」

「あぁ、病院ですね」

隣の男が口を挟むように呟くと、ああやっぱり合ってたんだとホッと一息佐天は納得した様な表情を見せた。
素晴らしい医者がいる病院……やはり、あそこしかないだろう。
それを言うとその男はまたぶっきらぼうに口を閉じ、街並みに視線を送り始めてしまったが。

「えと、この道をこう行って……」

二人とも日本語うまいんだなーなんて思いながら、女性の手にしていた手書きで描かれた簡略化された地図と街並みを指差して教える。

「Thank you!」

道を知れたのが嬉しかったのか、女性は喜んだ様子で佐天の手を握り握手をする。
わっ、外人さんと握手してる、と佐天も少し興奮すると羨ましかったのか初春も外人に握手を求めたがそれは別にいいだろう。








「間違い無さそうだな」

「……ええ、そのようね」

二人と別れ、少し歩くと男が確認する様に呟くと口角をつり上げる。
それに女性も同じく歪んだ微笑みを見せると、返答しながら再び歩き出した。

その二人の会話は、片言ではない流暢な日本語であった。




511 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:00:42.92 ID:pV5t+oEDO

「…………彼は……今どんな状態、なんだい?」

戻るや否や、首輪に自身が持ってきた小型の機械の様な物を付け始めた冥土帰しに木山が尋ねる。
少し言いにくそうにしていたのだが、やはり彼の容態が心配だ。

「今の内に手を尽くさないと…………彼は持たない」

「…………っ」

その言葉に御坂妹の顔が辛そうに歪む。
医者として絶大な信頼を寄せている彼からの言葉だから、一重に重い。
そしてその言葉は手遅れになると…………死だと言う事を意味していた。

「10032号……」

彼女が上位個体と呼ぶ打ち止めは、脳波リンクによる感覚共有にて、どれだけ彼女が上条の事を思っているのかは分かる。
自身が命を賭してまで助けてくれた一方通行に寄せる想いと、彼女が上条に寄せる想いは全く同じであった。
同じであるからこそ、彼女の気持ちは痛いほど分かる。
もしそうなるのが一方通行だったのなら……と考えるだけで打ち止めは震えてしまう。
だからこそ、『家族』である御坂妹と唯一の姉、美琴の為にも、助けてあげたい。

「この方法を取るにあたって確認しなきゃいけない事があるよ」

冥土帰しが打ち止めと御坂妹に視線を送った。




512 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:01:33.74 ID:pV5t+oEDO

「分かっています」

「うん、ミサカも大丈夫だよ」

この方法を取れば、元々一方通行への演算補助にて下がっていた彼女達の能力が更に著しく低下してしまう事を冥土帰しは懸念していたのだが。

好意を寄せる相手の為。
生きるという道を示してくれたあの人の為。
御坂妹と打ち止めには、既に覚悟は出来ている。

「…………君も複雑だろうね」

そして、一方通行。彼の細かい心理は分からない。
しかし、酔狂でここにいるのではない事は分かっている。

「…………ふン、妹達が決めた事だ。俺がとやかく言う筋合いはねェだろォが」

そんな事は何でもないと言う風に言い切る一方通行に、冥土帰しは目を細めて再び首輪……チョーカーに手を掛けた。


シスターズの脳波リンクを用いて、彼の脳に侵入する脳波、演算式をシャットアウトするシステムをチョーカー型デバイスに組み込み、彼に装着させる。

それが上条に施す手段だった。

 それは奇しくも、今の一方通行を形成するチョーカー型デバイスを経由したシスターズの『代理演算システム』を真逆に応用するもの。


『演算代理解除システム』。


正に、光と影。
それぞれの正義を胸に刻み込む『救いし者』と『滅ぼし者』に、間に立つシスターズの力は必要不可欠だった。




513 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:02:36.81 ID:pV5t+oEDO

「………………チッ」

土御門は舌打ちをしながら耳に当てた携帯を乱暴に閉じる。

「出ないのですか?」

土御門の電話の相手が応対しないと分かると、海原は少し驚いた様子を見せた。
『グループ』としての仕事は、属する彼らにとって重要事項であった。
雨が降ろうが槍が降ろうが雷が落ちようが、関係無しに与えられた任務は遂行する。
特に誰かが決めた訳でもないのだが、学園都市の『暗部』に属する者達にとって任務は絶対なのだ。破れば何が起きるかは想像に難くない。
電話先の相手はそれを知っている筈。しかし応対しないとなると学園都市を敵に回す事を決めたか、それ相応の事態が起きているかの二つだ。

「………………」

いや、前者の可能性はないであろう。
電話先の相手が常に一人なら考えられるが、その相手にも守るべき存在ができ、その存在の為に自ら『暗部』に身を置いたのだ。
もはやその彼にはそうする手段は真っ先に捨て去っている事を土御門は知っている。

なら、彼は今何処で何を。

「結標さんは後二十分ほど掛かるそうです」

「そうか」

だが土御門は考えを直した。

与えられた任務は特に大きそうな問題ではない。
たった『二人の侵入者』の偵察、そして動きを見せれば排除だ。

依頼元から詳しい情報は伝えられていない。
しかし別に学園都市最強の男がいなくとも、さほど支障をきたす任務でもないと判断した土御門は、集合場所へ向かう事にした。




514 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:04:34.28 ID:pV5t+oEDO

「…………ねぇ」

 治療室にて、上条の手をただ握り続けている美琴が横に座るインデックスに声を掛ける。

「なに?」

同じく上条の顔をじっと見つめていたインデックスが、美琴に視線を移した。

「前に……言ってた事。あれ、どういう意味だったの?」

前……とはどの事を指すのか。
だが通常の人間なら首を傾げてしまいそうな質問も、完全記憶能力を持つインデックスは察する。
美琴が、何を聞きたいのかを。

インデックスが美琴を後押しする理由。
そして、上条の気持ち。

「………………」

「………………」

「…………それは」

「…………それは?」

「とうまから、聞くべきなんだよ」

「………………でも」

何故彼女は自分を後押ししようとしてくれているのか。
何故彼は、自分の身体の異変を押してまで自分の事を探しに来てくれたのか。

考える。
彼が、彼女がそんな行動に移っている理由を。
そしてその理由は、美琴にとって……喜ばしい事、だという事を期待してしまうのだ。

だからこそ、怖い。
だからこそ、しっかり確認したい。
はっきり口にしてもらった訳でもないのだから、もし違った時の落胆、恐怖は大きい。

「でも?」

「アンタは…………何で…………」

それに、この少女も彼の事が好きな筈だ。
そしてこれは憶測ではあるが、何故彼と自分が共にいる事を望んでいるのかだろうか。




515 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:05:25.96 ID:pV5t+oEDO

違うと言うのなら違うとはっきり言ってほしかった。
もし違っても、自分が上条の事を諦められるかと言えばそうでもないのだが、美琴から見れば自分と共に彼に想いを寄せる彼女が一番上条に近い筈なのだ。

それなのに、何故。

「シスター、だから?」

「………………」

違う。そんなのは理由にならない。
常に自分に素直な彼女だからこそ、今まで見てきた中で上条の事を一番に念頭に置いているから。
どれだけの信仰心が彼女にあるのかは分からない。
しかしそれよりも、上条の事を大切に思っている節は感じられるのだ。

「…………私は」

「…………うん」

「とうまの事、大好きなんだよ」

「………………」

やっぱりそうではないか。
非難の意も込め、インデックスに目をやるのだが。

「…………でもね」

しかし彼女は…………慈しむような、温かくなるような、そんな表情を浮かべていた。

「とうまの事大好きなんだけど。 …………みことの事も大好きなんだよ?」

「………………!」

そう言い、美琴に微笑みかけるインデックス。
本当に身近な、自分が心を置ける存在に向ける笑みを浮かべていて。

「やっぱりとうまの気持ちはとうまに聞くべきなんだけど、とうまもみことも。 …………二人の気持ちを、尊重したいんだよ」

「イン、デックス…………」

美琴にもたれかかる様にして寄り添うインデックスに、美琴は再び目頭が熱くなるのを感じた。

自分なら、ここまで人の為に動く事が出来るのだろうか。
自分なら、ここまで強くなれるのだろうか。

気付けば、上条とインデックスの二人の手をギュッと握り締めていた。




516 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:06:25.57 ID:pV5t+oEDO

「奴の様子はどうなんだ?」

「ええ、いまだに意識ないみたいね」

「ククク…………」

「幻想殺しがあの状態なら、仕事は簡単そうね」

 ある建物の屋上にて、二人の会話が響いている。
先ほど人通りの多い街並みで、ギャラリーを沸かした異国の二人組だ。
会話が進む毎に二人の顔は凶悪に歪んでいき、目の前の建物に視線を向ける。

「ククク…………!10万3000冊の魔導書さえ手に入れれば、世界は俺達の物だ……!」

「ふふ…………!ようやくチャンスが巡ってきたようね……!」

これから起こる事を予想すると、二人は興奮が止まらない。
男が手にしていた地図をくしゃっと握り締めると、女はおもむろにボストンバックのチャックを開ける。

中から取り出したのは、あの無数のぬいぐるみ達。

「さぁお前達!スペクタクルを見せてあげな!」

屋上からぬいぐるみ達をある建物に向けて放り投げると、ぬいぐるみ達はまるで意思を持った様に滑空していく。
その途中でそれらはまるで卵から孵る様に、ぬいぐるみの生地を裂いて変形していった。




517 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:07:23.99 ID:pV5t+oEDO

「何あれ?」

「な、何だあれは……?」

「何か落ちてきてる?」

 病院の玄関辺りでは患者、見舞い客、医師、看護師などたくさんの人が出入りする。
一人の通行人が空から落ちてくる『何か』に気付き声を上げると、周りにいた大勢もそれを見て疑問の声を上げていた。

その落ちてくる『何か』は方向を転換し、唐突に形を変えていく。
そしてその方向とは……この建物。

「な、何か来る!」

「一体何なんだ!?」

「危ないっ!!」

「きゃああっ!?」

そして、それらは地面との衝突時の爆音を上げ、次々に着地していく。

物凄い衝突音と共に砂埃が辺りに充満し、たちまち視界を遮ってしまった。

「きゃあっ!! え!? 何!? 何なの───」

悲鳴と共に声を上げた女性客の声が──────途中で途切れた。

女性の顔を掴んだ『何か』は腕を振るい、まるでゴミを捨てるかの様に投げ飛ばす。
壁に激突した女性の意識は一瞬で吹き飛び、動かなくなった。

砂埃が晴れる。通行人達が目にしたのは────。




「うっ!」

「おええぇぇっ!!」

「ばっ……化け物だ……!」




  まるで生きたまま皮を剥いだ様なグロテスクな人や様々な動物の肉の塊、だった──────。




518 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:09:15.82 ID:pV5t+oEDO

「来たかっ!?」

突然起きた爆音と悲鳴に土御門と海原に戦慄が走る。
待合室にいた人々もその音に驚き、そして怖れた様子だ。

ガシャーンッッ!!

「きゃああっ!?」

「うわっ、な、何だ!?」

病院の玄関の窓ガラスが吹き飛び、場にいた人々の悲鳴が木霊した。

「──────!!」

土御門と海原の目が大きく見開かれた。
扉を破り中へと侵入してきたそれらは。

「おい…………何だぜい……、あれは…………」

「あれは……一体……」

まるで学校の理科室で見た人体模型、解剖図形の様な『異形』達だった。

いや、模型の方がまだかわいい。

顔は識別出来ないほどグチャグチャで原型を留めてないものや、腕や脚が肥大化し皮を裂いて液体がダラダラと流れ出しているもの。
内蔵も飛び出ているものや、四足歩行の動物の形をしたものなどその数はざっと見て数十、いや百はあるだろう。
まるでB級のゾンビ映画に出てくる様なそれで、とてもこの世の物とは思えない禍々しさを放っている。

「ひいいぃぃぃぃっ!!」
「うわあああぁぁぁっ!!」

そのあまりもの恐ろしさと気味の悪さに悲鳴が周りから上がっていく。

「……ag……ne……b……nd…x…pr……」

「……in……br……hi……ima…n…rak……」

一歩一歩ゆっくりと歩き出し、こちらに向かってくるその異形達から発せられる聞き取れない声。
何を言っているのか分からない。

いや、分からなくともいいだろう。




519 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:10:32.84 ID:pV5t+oEDO

「うわああぁっ、たっ助けてくれ!!」

「いや、来ないでえええぇぇっ!!」

「ここはヤバい! 全員下がれ!!」

その異形達を見る限り自我はなく、形振り構わず人々に襲い掛かるだろう。
余計な犠牲を出す前に場にいた人間達を下がらせる事が先決だと考えた土御門は、異形達の前に出た。
横では海原も戦闘体勢を取っている。

──クソ! こんなのが来るなんて聞いてねぇぞ!!

この異形達が侵入者の手先かどうかは分からない。
はたまた別の何かなのか。
相手がどんな手を使ってくるのか分からない以上、下手に動きは見せられない。

だが狙いは絞れている。

ここに来た以上、相手方の狙いは恐らく『幻想殺し』、『禁書目録』だろう。

ピンポイントに病院に攻めて来たのだろうか……向こうは上条があの状態という事を知っているのであろうか。

「クソッ、結標はまだか!?」

「恐らくもう少しかかると思われます! 一方通行がいない以上、苦しくなりそうですね」

だが今は考え事をしている時ではない。
とにかくこれ以上、異形達に侵入させる訳にはいかない。
しかしそれらに気を取られてばかりでもいけないのだ。
これらを陽動にして本丸に上条やインデックスに接触されたら一貫の終わりだ。
だがこの数の異形達相手に二人でも苦しい。せめて一人でも早く加勢に来てもらわねばならない。

──こんな事になるんだったらねーちん達を呼んでおくべきだったぜ!

しかしそんな時間など無かったのも事実。仕事の依頼を受け僅か数分ほどでここまで攻め込まれていたのだ。

「来るぞっ!!」




520 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:12:04.10 ID:pV5t+oEDO

人型の異形の腕が伸びる。
それを横に跳ぶ事で回避し、廻し蹴りを浴びせた。

「グガアアアァァッッ!!」

咆哮を上げ、それはその後ろにいた異形達をも巻き込み後ろに吹き飛んだ。

土御門の本来の戦法は魔術を用いる。しかし彼の魔術には術式を必要とし、それを組んでいる暇はない。
横の海原も同じく魔術師で、彼も同じ様に術式を組む時間などなく己の体術で異形と戦っている。

「はッ!!」

犬型の異形が歯を剥き出しにして海原に飛び掛かると、海原はしゃがみ込み異形の腹に思い切り拳をブチ込んだ。

「ギャン゙ッッ!!」

「うへぇ……この皮膚は要りませんね……」

「チッ! こいつら効いてねぇのかよ!!」

薙ぎ倒した筈の異形が立ち上がるのを見て土御門は舌打ちを打つ。
渾身の蹴りを入れた筈の異形は、その部分が窪む変形をしながらも再び土御門に襲い掛かってくるのだ。
海原の吹き飛ばした犬型の異形も、すぐさま立ち上がりその歯を剥き出しにしていた。

後ろでは、大勢の患者や見舞い客達が恐怖に震え上がりながらもその戦いを見守っている。
異形一体でも通してはいけない。

「グガアアァァァッ!!」

雄叫びを上げて、土御門に噛み付かんと飛び掛かってきた人型の異形の首を、飛び蹴りでへし折った。

「グギギッ…………」

首があらぬ方向に曲がったままでも再び立ち上がる様子を見せた異形に、土御門の表情は焦りを見せる。

「キリがねぇ!」

そんな耐久力を備えた異形達は後何体いるのか。
結標が来るまで持ちこたえられるのか。

そう思ったその時─────!




「ジャッジメントですの!!」



異形達の後ろに姿を現した、『風紀委員』の腕章を腕に付け常磐台の制服に身を包んだ少女の声が響き渡った。




521 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:13:30.30 ID:pV5t+oEDO

「何なんですの!? これは一体!」

吐き気さえ催してしまうこの異形達を目の前にして、見た事のないものにほんの少し引け目な黒子なのだが、まずは状況を把握しようとする彼女はさすがにジャッジメントだけの事はあった。

「超電磁砲の付き人の嬢ちゃんか!」

「貴方は……あの類人猿のご友人の!?」

「説明は後だ! とにかくこいつらをこれ以上中に入れる訳にはいかない!」

「白井さん! 気を付けて下さい!」

「う、海原光貴まで!?」

一先ず空間移動にて土御門の後ろに移動した黒子は、そこで海原の姿に気付き驚いた様な声を上げた。

「これは一体何なのですの!?」

「詳しくは分からん! だがこいつらはとにかく中に入ろうとしている!」

「白井さんはどうしてここに?」

「通報を受けたんですの!」

「世間話している暇はないぜい! 来るぞッ!」

黒子の前に二人立ちはだかる様にして土御門と海原は同時に蹴りを放つ。

「グブアァァッ!!」

「グゴオオォォッ!」

後方の異形達を巻き込み吹き飛ぶが、他の異形達がすぐに襲い掛かる。

「ガアアッッ!!」

「ぐおっ!」

異形の左右同時の攻撃に土御門は対処し切れず、真横に2メートルほど吹き飛んでしまった。




522 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:14:43.59 ID:pV5t+oEDO

「土御門さん!」

「くっ……!」

そして黒子に近付く異形達。
見た事のない生物。見た事のない形に黒子の足は少しすくんでしまう。
仕方のない事だった。
いくらジャッジメントという厳しい環境に身を置こうが、相手は全て人間だ。
それが今は自分の想像もつかない様な見た目の怪物達を目の当たりにしている。
ジャッジメントと言えども、黒子は中学一年生の女の子だ。怖がるのは当たり前の事だった。

「くっ!」

海原も横目でそれを見たが、異形の相手をしているので彼も精一杯だ。

異形の手が黒子の首に伸びる──────!



「ジャッジメントをなめないで下さいませんこと」



「グッグガアアアアアッッッッ!!」

しかしそこで絶叫を上げたのは異形の方だった。
異形は痛みからか腕を振り回し、周りの異形を巻き込み倒れ込む。

その異形の伸ばした腕には…………鉄芯が埋め込まれていた。

「おお、嬢ちゃんさすがだぜい」

回復したのか、土御門は黒子の横に再び立ち体勢を整えた。

「咄嗟でやってしまったのですけど、良かったのでしょうか?」

激痛に暴れ回る異形を見て黒子は呟いた。

「奴らに自我はないんだにゃー。ボコスコ殴ってもすぐ立ち上がるからあれくらいがちょうどいいんだにゃー。拘束とか考えない方がよさそうだぜい」

「…………その様ですの」

調子が出てきたのか、気付けばいつもの口調に土御門は戻っていた。
黒子の攻撃は、生き物相手には良心が少し痛んだのだが、ああでもしなければ自分がやられていた。




523 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/28(金) 21:15:50.74 ID:pV5t+oEDO

「今度はこちらから行くんですの!!」

鉄芯を握り締め、異形に向けてそれを空間転移をさせようとしたのだが────。

「グ…………グバアアアァァァッッ!!」


  後ろの方にいた異形が、火を吐いた。

「なっ!」

ゴウッ!と音を立てて吐き出された火。
突然の炎に、黒子は対処出来ずにその場に立ち尽くしてしまう。

「危ねぇッ!」

「危ないっ!」

そんな黒子の盾になるべく土御門と海原が前に飛び出る──────!


「あ…………!」


二人が…………燃えてしまう!!



そう思った瞬間──────。



「ったく、今回こんな気持ち悪いのが相手なの?」



「え………………?」

黒子の目が大きく見開かれた。

    炎が綺麗さっぱり消えたのだ。

……いや、それは実際には消えたのではない。
吐いた筈の炎が『まるで移動したかの様に』異形の身体を包んでいたのだ。

「グギャアアアアッッッ!」

そして耳に届いた女の声。

「ようやく来たか…………結標」

異形達の後ろに更に姿を現したのは、空間移動系能力者の最高峰、『座標移動』の結標淡希だった。

「あつッ! 結標さん! 転移し切れてないです!」

「結標…………淡希…………!」

彼女を見た黒子の目は、次第に睨み付けるかの様に変わっていった。




536 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:21:25.83 ID:DwohupyDO

「…………なンだ?」

「な、何の音……?」

 チョーカーと機械を繋げ、コンピューターを手繰っている冥土帰しを見守っている木山達の四人が部屋の外から届いた爆音に身構えた。

悲鳴、叫び声、怒声、衝撃音。恐らく、ただ事ではない。

「何かが戦ってる……音……?」

打ち止めがその音に怯えたか、震えながら呟いた。

「…………チッ」

打ち止めを部屋の真ん中辺りに下がらせる様に一方通行、御坂妹、木山は周りを囲み扉の先から聞こえる音に神経を集中させる。
一方通行が携帯を取り出し、ディスプレイを確認すると舌打ちをした。

──……仕事かよ、ンな時に。

着信ありの画面を見て発信元を確認すると、土御門と表示されている。
もちろん着信には気付いていたのだが、今はこの場を離れる訳にはいかなかった。

 チョーカーを上条に装着させる際、まずは彼を取り巻くAIM拡散力場を解析し、そして操作せねばならない。
それを怠れば、チョーカーを着けた所で今彼を圧迫している力が消え去らないのだ。
『ベクトル操作』と言う彼の持つ学園都市第一位の能力は、この方法には必要不可欠だった。

しかしこの騒音は一体何なのか。
『グループ』の仕事と関係のある事なのかも分からない。
とにかく打ち止めがいるこの場と上条のいる治療室は死守せねばならない。




537 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:23:12.25 ID:DwohupyDO

すると御坂妹が打ち止めと一方通行の顔を確認し、口を開けた。

「ミサカが確認して来ます、とミサカは述べます」

「10032号!?」

「あの人への『演算代理解除』が始まるまではもう少し掛かるのでしょう。特に問題なければすぐに戻ります、とミサカは約束します」

驚いた様子の打ち止めにまるで姉が妹に安心させるかの様に、御坂妹は打ち止めに微笑みかけた。
横の一方通行も頭をポリポリ掻く様な仕草を見せ溜め息を吐いていた。

「その問題があった場合はどォすンだ?」

「あの人の為にミサカは戦います、とミサカは即答します」

「危険なのかも知れないんだぞ!?」

しかし木山の言う事ももっともだ。
演算代理解除の事もそうなのだが、彼女の能力はおおよそレベル2程度だ。
これだけの爆音、轟音が耳に届くほどの何かが起きているのだ。
彼女の能力では対処しきれな事態も十二分に考えられてしまう。

「…………それに」

御坂妹は扉の前に立ち、木山達に背を向けた。




538 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:24:24.57 ID:DwohupyDO

「あの人に危険が近付くのなら、ミサカは尚更引けません」

「10032号…………」

「く…………」

御坂妹の見せた覚悟、想いに打ち止めと木山は何も言えなくなった。
今の彼女を止められるものは恐らく、無い。

「チッ、三分だ。三分経ったら絶対に戻って来い」

一方通行が舌打ち混じりに扉に手を掛けた御坂妹に言い放つ。
三分経ったら俺が行くぞと言わんばかりの言葉。
御坂妹もそのつもりだった。
恐らくその時間ほどで冥土帰しの準備も全て整うのであろう。

「心得ています」

そして扉を開け、御坂妹は外に出ていった。

「………………っ」

一人の想い人の為に少しでも危険を減らす為に行動を起こす御坂妹。
そんな彼女を見て、木山は改めてクローンなんかではない『人間』だという事を思い知らされた。

そう、その姿は木山が今まで関わってきた人間達や研究者達よりもずっと、よっぽど『人間』だったのだった。




539 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:26:45.36 ID:DwohupyDO

「何か……あったのかしら……」

「何か、すごい音っぽいんだよ」

一方では上条を見舞っている二人の方にももちろんその音は届いていた。
治療室は雑菌や細菌から保護する為の分厚い壁で覆われている。
それはその理由だけではなく、外からの騒音や雑音にて治療の際に集中を切らされない様にする為、防音壁にもなっているのだ。
しかしその壁でさえも突き通してしまうその爆音に、美琴とインデックスはたじろいでいた。

 上条を見る。
意識はない様だが、口に付いている半透明の器具越しに確かに呼吸をしているのが分かる。

「当麻…………」

上条の事は心配だ。しかし外の様子も気になる。
何しろこの部屋にまで届くほどの騒がしさだ、何か大事でも起きているのだろう。

しかし考える。
外の騒ぎは確かに気になる。
だが自身が騒ぎに赴き、電気の能力を使うような事態だったとしたら。

病院内の電子機器に悪影響を及ぼす────つまり上条を繋ぐこの機器にも影響を及ぼしてしまうかも知れないのだ。

「………………」

それに。
繋いだこの手をもう二度と、離したくはない。



ギュ────。



「………………当麻?」

繋がれた手にほんの少し力が込められた気がして。

「…………うん。 何処にも…………行かない」

いまだに眠り続けている様な上条の手を更に強く握り返し、そう呟いた。




540 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:28:10.21 ID:DwohupyDO

「で、何なの? こいつらは」

「今日の仕事だ」

 結標がまるで汚物を見ているかの様な表情で異形に目をやっていて、土御門も牽制しながらそれに答える。

「……………………」

黒子は何かを言いたそうに結標を見ていたのだが、さすがにこの状況はそればかりに気を取られている場合ではなく、すぐに異形に視線を戻した。

「一方通行はどうしたの?」

「繋がらなかった」

「珍しい事もあるのね」

結標が来た事により、戦況は大分変わる。
土御門の言葉の様子にも余裕が戻り、飄々と返していた。

「来ますよ!」

しかしやはりそんな暇は与えてくれない。
熊型の異形が海原に襲い掛かると、海原は何処からかナイフを取り出していて、異形の切り裂かんとする爪をかわし躊躇なく心臓部に刺し込んだ。

「グヲオオオオォォォォッッ!」

大量の鮮血を吹き出し、異形はその場に倒れ込んだ。

「どうやらここまでやれば倒れてくれる様ですね」

ナイフを抜き、付着した血を振り払う。

「随分乱暴な殺り方ね」

「仕方ないですよ」

海原の扱う魔術にもやはり幾つか条件がある。
発動させる事が出来れば、物であろうが生物であろうが文字通り『分解』させる事が出来るのだが、条件が厳しい上に制御も難しい。




541 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:29:41.82 ID:DwohupyDO

もっとも、海原の戦い方はそれだけではないのだが、ここには無関係の人間達や黒子までいる。
なるべく学園都市にて穏便に暮らしたいと考えるアステカの魔術師は己の体術一つで立ち向かう事にしていた。

それは土御門も一緒なのだが、彼の場合は魔術を使用した際に自身に掛かる負荷が大きすぎる。
魔術を使えばその一回で戦闘不能という事態になりかねない。
しかしそんな魔術など使わなくとも、この異形相手には彼の強靭な肉体で十分渡り合えていた。

「…………色々聞きたい事もあるのですが、とにかく今はやるしかなさそうなんですの」

人間としての戦い方ではこの場は無意味だという事を悟った黒子も、物質を異形の体内にテレポートさせる事で難なく異形を退けれている。

「せいっ!!」

土御門が人型の異形の急所に拳を撃ち込んでいく。
人中、天突、水月、丹田。
並の人間ならその一つ一つに撃ち込むだけで卒倒なのだが、異形はその倍以上撃ち込まなければならない。
しかし土御門は、それを難なくほぼ一瞬でこなすと異形は崩れ落ちた。

「ガアアアァァァッッ!!」

異形の口から時折吐き出される炎を結標の座標移動が防ぐ。

「どんな怪獣なの?これ」

溜め息吐きながらも、11次元の座標の計算と言う難易度の相当高い演算をしていく。

「すごいですね、結標さん。やっぱりあなたがが一番レベル5に近いんじゃないですか?」

「簡単そうに言うけどかなりしんどいわ」

海原も異形の心臓にナイフを突き刺しながら称賛の声を上げる。

「………………」

黒子の心境は複雑だ。
殺し合った仲なのに、今は共闘している。
そして先ほどは、助けられた。助けられてしまった。




542 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:31:30.52 ID:DwohupyDO

悔しかったのだ。
同じ空間移動系の能力者で、結標はそのトップ。
そして何よりも、『あの時』とは違い、結標が大きい存在の様に見えてしまっていた。

「グオオオォォォッ!!」

「くっ!」

噛み付かんと飛び掛かってきた異形を空間移動でかわし、自身の全体重を乗せた踵落としを頭に叩き込む。

「グゲッ!!」

一度では倒れなかった為、二撃目を追撃した所で異形は倒れ伏した。

「荒れてるな、嬢ちゃん」

横から掛かった声に耳を傾ける。
異形の顎に思い切り膝蹴りをかましていた土御門の声だった。

「………………」

「ま、心中お察しするがな」

そしてその土御門。
得体が知れなさすぎる。
黒子の持っている情報は、『上条の友人』ただそれだけ。




543 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/29(土) 23:32:49.52 ID:DwohupyDO

人間離れした格闘術、そして結標との交流。
海原を加えた三人がどんな関係なのかは分からないのだが、ただ者ではない事は先ほどの言葉で十分に把握した。
しかしそれだけだ。
ジャッジメントとしての直感か、海原や結標はもちろん、この土御門からも「裏」の匂いが漂っている。

「グオオオォォォッ!」

「はっ!」

鉄芯を撃ち込む。
だが今はとにかくこの場を収束させねばならない。
色々考えるのは後回しだ。
ジャッジメントとして、この場にいる民間人達に危害が及ばない様にする事が先決だった。










「…………何ですか、これはとさすがのミサカも理解しかねます」

待合室の騒ぎを確認しに来た御坂妹は、異形達、そして黒子と海原の姿を確認すると何か嫌な予感がよぎった様で、別室に戻る事を決めた。




550 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:51:07.48 ID:gS5mDIZDO

「あら、入り口辺りから進んでないわね」

「チッ。能力者とやらがいやがったのか?」

 建物の屋上では、異国の男女がそこから見える病院の玄関口に視線を向けていて、舌打ちをもらした。

「ふふ、あのコ達苦戦している様ね」

その下では彼らが放った異形達がひしめき合っている。
病院の入り口に溜まっている様で中の様子まで伺えはしないが、進まない様子から何か不測の事態が起きている様なのだが。

彼らの顔色に、焦りは無かった。

「まぁこんな事も予想していたけどね」

「出すのか?『あいつ』を」

男が見ているのはもう一つのボストンバック。

チャックこそ閉めてはいたが────中から何かを主張するかの如く、動いている。

「まだね。その能力者ってのがあのコらと戦って、退けていると言う優越感に浸っている時にこのコを向かわせるわ」

女も口角を上げ、ボストンバックに目をやる。

「その時までせいぜい足掻きなって事か。性質悪いな、オマエ」

「味気ない『前菜』を与えればより深く味わえる筈だわ…………」

ボストンバックの外から手を置き、中の感触を楽しむ様に撫でる様に手を動かし。

「絶望と言う名の『メインディッシュ』をね…………!」

勝利と言う甘いデザートを目の前に、異国の男女は不気味に笑っていた。




551 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:52:56.31 ID:gS5mDIZDO

「何、あれ…………」

「あァ?」

「どうしたんだい?」

虚空を見つめていた打ち止めが突然素っ頓狂な声を上げた。

「人が、戦ってる。 …………何かと」

「どォいう事だ?」

「……彼女との感覚共有か。戦闘が起きているのか? いや、何かとは…………?」

ネットワークを繋げ、御坂妹の視覚を共有して打ち止めの脳に届いた映像。
しかし打ち止めには『何か』を表す単語が見つからず言葉を詰まらせていた。

「あれは…………人、なの…………? ううん、動物……?」

「…………チッ。その問題とやらが起きてやがったか。妹はどォした?」

「あ、うん。すぐ戻ってくるってミサカはミサカは後三秒で10032号が到着するって予想してみたり」

「とりあえず無事でよかったよ」

何が起きていたのかは実際に見た御坂妹に聞かねばなるまい。
しかし打ち止めが発した言葉に一方通行は少し嫌な予感がよぎっていた。

──なンでまたいきなりンな所で戦闘が始まってやがンだ?

打ち止めの様子から、入院患者達のイザコザとかそういう類いのものではないと感じられた。
つまり、『戦闘』。
実際にあれだけの音が聞こえてきていたのだ、尋常ではない事態という事は予想していたのだが、打ち止めの言う『何か』は何処か予想以上の事を秘めている様に思ったのだった。

ガチャ────。

「予想だにしない事態でした、とミサカは宣言します」

ドアを開け、再び顔を出した御坂妹に視線が集中した。
御坂妹の様子は少し狼狽気味で、一方通行と木山にも緊張が走っていた。




552 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:54:38.27 ID:gS5mDIZDO

「戦闘が起きていました。戦っていたのはお姉様のストーカー二人、金髪にサングラスを掛けた男性とサラシを巻いた女性です、とミサカは報告します」

それを聞いた時、一方通行は心の中で舌打ちを打った。
やはり、グループの面子が揃っていた。
つまりあの電話は仕事だった事を意味していた。
しかし美琴のストーカーが二人いたと説明され、首を捻る。

一人は分かる。あのアステカのよく分からない男だろう。
なら、もう一人は一体誰なのか。

「…………もしや、白井君、か?」

「そうです、とミサカは肯定します」

「…………誰だ?それは」
聞き慣れない名前に一方通行は顔をしかめた。

「ああ。彼女はジャッジメントの女の子でね。空間移動の使い手だ」

「お姉様を慕う特殊性癖の持ち主でもあります、とミサカは付け加えます」

それでもピンと来ないのか、首を捻ったままなのだがジャッジメントと言う言葉を聞いて一方通行は事態を把握した。
しかし、今はそれよりも重要事項がある。


「で、何と戦ってたと言うンだ?」

グループの仕事の相手だとしたら外からの侵入者、己の欲だけにとらわれた研究者、不穏な動きを見せる者────あの木原を含む者共どれをとっても見た目普通の『人間』だ。
暗部としての今まで通りの標的なら、属してはいないが御坂妹もそこまで狼狽する事はない筈だ。




553 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:55:54.50 ID:gS5mDIZDO


「あれは…………化け物、と言うしかありません」


「化け、物…………?」

反芻する様に木山が呟いた。

「それしか表現する言葉が見当たりません。しかも…………およそ、数は百、以上でしょう」

「………………チッ」

面倒臭い事態になってきやがった、とばかりに舌打ちを打つ。
只でさえやっかいな事態に、更にややこしくされた様な重なる出来事に一方通行は内心舌を巻く。
問題はその化け物が何を狙ってここに来たのか、なのだがとにかく今は冥土帰しの準備が終わるのを待つしかない。

そして────。



「準備は整ったよ」



   刻は来たのだった。




554 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:56:52.30 ID:gS5mDIZDO

「せいっ!!」

異形を土御門が殴り倒す。
倒れ伏した異形を見て、次の異形に飛び掛かる。

床に転がる異形の数はようやく数十くらいなものなのだが、まだ半数以上は残っている。

「はぁ…………はぁ…………っ!」

しかし土御門は疲労が溜まっていきていた。
並の攻撃は通用しない上、数も多い。

「はっ!」

隣の海原も懸命にナイフを振るい、確実に倒していくのだが彼にも疲労が伺える。

黒子も結標もかなりの数の空間移動を多用している為、只でさえ難しい演算に辟易している。

「こりゃ……終わらない、ぜい……!」

呟きながら喉頭隆起に拳を撃ち込み、異形を倒す。
しかしその言葉通り、まだかなりの数の異形が残っているのだ。

状況は、厳しい。

重火器でも使いたい気分なのだが、手元には無い。
しかもここには民間人達も多くいる為、使おうにも使えないのだ。

「もっと真面目に能力開発しとくべきだったぜい……!」

愚痴でも吐きたい状況だった。
その時、犬型の異形が飛び掛かった────!

「ぐあっ!」

疲労からか、足が上手く動かず腕に異形の歯が食い込んだ。




555 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:57:39.54 ID:gS5mDIZDO

「土御門さん!?」

海原が叫ぶ。彼も手助けに向かおうとしたのだが、途中で異形の伸びた腕がそれを制止させる。

「くっ…………!」

それを何とか横にかわし首に一閃、頸動脈をかき斬った。

黒子も結標も自身に向かってくる異形への対処の為、土御門を援護する事は出来ない。

「調子に…………」

土御門が腕に力を溜める。
「乗るなッ!!」

いまだに噛み付いて離さない犬型の異形の腹にもう片方の拳をぶち込み、異形を引き離した。

「ギャンッ!!」

「大丈夫ですか!?」

自身の腕からダラダラ流れ出す血に、土御門は舌打ちをした。

「…………右腕がやられちまった」

深い所まで食い込んだ様だ。
痛みで力を込める事が出来なくなってしまっていた。

「ちょっと大丈夫なの!?」

ここで土御門が戦線離脱するとなると更に戦況はぐっと悪くなる。
やっと半分くらいになってきたのだが、結局は半分だ。
疲労が重なる毎にまだまだこれからもっと厳しくなるのだ。




556 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/30(日) 22:58:24.57 ID:gS5mDIZDO

「大丈夫だ、問題ない!」

それを分かっているからこそ、今ここで離脱する訳にはいかない。
利き腕一本の負傷というハンデは果てしなく大きいのだが、引けはしないのだ。

「しかし、その怪我では……」

横目で黒子が心配の表情を見せた。

「心配するな、嬢ちゃん。俺はやる時はやる男なんだぜい」

──…………カミやんなら、この状況でも諦めたりしないんだぜい。

恐らくいまだに眠り続けているだろう親友の姿を思い浮かべ、土御門は体勢を整えた。

今まで散々上条には助けられた。
悲しい結末を迎える筈だったインデックスの記憶。
ローマ正教に牙を剥かれたイギリス清教。
どれも過酷な状況の中で自身がどんな負傷を負おうが、上条は立ち上がった。

大切なものを守る為────土御門にも、それはある。

「気を引き締めろ、来るぞ!」









「ハーイ、大分威勢がいいのね」

突然この場に響いた声。
四人の視線が、姿を現した異国の女に集中した。




573 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:09:13.04 ID:IErFwi6DO

「では、もう一度手順を説明するよ」

「はい」

「うん!」

「ああ」

「………………」

冥土帰しの言葉にそれぞれの返事をし、手順を確認する。

「まずは木山君だ。彼の脳波を確認してほしい」

「了解した」

「次に一方通行。君は彼のAIM拡散力場を解析して、操作してほしい」

「………………」

言葉を返さずに冥土帰しに視線で答える。
そんな彼の性格を分かっている冥土帰しは続ける。

「最後に君達だ。このチョーカーにはもう君達のネットワークに繋いであるから合図を出したら開始してほしい」

「はい、とミサカは返事をします」

「うん!ってミサカもミサカも頷いてみるっ」

微笑ましく思ったのか、彼女達に優しく冥土帰しは微笑むとすぐさま表情を戻し、席を立ち上がった。

「よし、行こう」

そして五人は、上条の眠る治療室へと向かった。




574 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:10:15.80 ID:IErFwi6DO

「…………誰だ?」

土御門が冷たい視線を浴びせる。
目の前にいる女が現れた瞬間、異形の攻撃は止まっていた。
恐らく女は異形の仲間、いや、司令官といった所か。

「答える義務はないんだけどー……ま、いいか」

女は面倒臭そうに前髪を掻き分け、馬型の異形の背中を叩く。

「このコ達の親代わりみたいなものね」

「狙いは何だ?」

そんな事は知っていると言わんばかりに土御門は続ける。
痛む右腕を左手で押さえ、その額には脂汗が滲んでいた。

「あら、つれない男。あなたは知っているかしら? ネクロノミコン、エイボンの書、ナコト写本、イステの歌、断罪の書…………」

その言葉に黒子と結標の顔は怪訝な表情を浮かべるのだが、土御門と海原の二人の肩がビクッと揺れた。

「…………『禁書』、か」

「あら、あなた見た目よりも博識なのね。それを知っているって事は『こちら側』の人間なのかしら?」

土御門の答えに嬉しそうに女は笑みを浮かべた。
女が口に出したのは、どれも閲覧禁止とされた『魔導書』。
そのどれも一つ一つ、見るものが見れば発狂、精神崩壊してしまう程の異世界の法則が書かれた『毒』の書物だ。

──やはり『禁書目録』が狙いだったか。

そしてそのありとあらゆる書物を一字一句違わず、完全に保持している禁書目録──インデックス。

「ふふ、それともただの神話好きなのかしらね」

「あなたの狙いは分かりました。しかし、これは一体何なのですか?」

土御門と同じく事態を把握したのか、海原が口を挟んだ。
海原の表現した『これ』。
彼の視線の先には異形達の姿がひしめき合っている。




575 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:11:38.60 ID:IErFwi6DO

「あなたはネクロノミコンの原典を持っているのですか?」

「あら、そこの可愛い男の子も色々知っているのね」

女は更に嬉しそうに一歩前に踏み出て、馬型の異形の顔を優しげに撫でた。
黒子と結標の二人は何を話しているのかは分からない。
ただ、その会話の行方を見つめていた。

「持ってないわ。このコ達はね、ちゃんと『生きてる』わ」

海原の口に出したネクロノミコン。
世間一般には架空のものとされているのだが、実際にインデックスの脳には刻み込まれている、死者蘇生の可能性をも持つ最大級の魔導書だ。
それだけに留まらず、様々な事象を引き起こすと言われるその魔導書なのだが、故に制御が困難であった。

しかしこの異形達はまるで屍に生命を吹き込んだかの様な姿だ。

「おや、予想が外れましたね」

残念です、と付け加えながらも戦闘体勢は崩していない。

「ふふ、このコ達はね? ……そちらの学園都市が生み出した様なものよ」

「…………どういう事だ?」

女の回りくどい言い方に、さっさと吐けと言わんばかりに土御門は眉間に皺を寄せた。
女はほくそ笑んでいて、さも楽しんでいるかの様に更に口を開いた。



「そっち、『実験』でやったんでしょ?」



「…………! な…………まさか…………!」

実験。
その言葉を聞き土御門の目が見開かれた。




576 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:13:41.41 ID:IErFwi6DO

「どういう事なんですの!?」

痺れを切らしたか、黒子が叫ぶ。
必要とあらば、と拘束具を手にしていたのだが。




「そっちの第三位の超電磁砲ってコと同じよ。こっちは適当なDNAを拾って使っただけだけどね」



「クローン、か…………!」


「当たり!」



「え………………?」

ジャランと言う音を立て、拘束具は地面に落ちていた。




577 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:14:47.52 ID:IErFwi6DO

「クローン…………?」

クローン。
遺伝子レベルでの同一の個体。
耳にした事はあっても日常生活の中で使われる事はほぼ無い。

一瞬何を言っているのかが分からなかった。
いや、ある一つの単語が黒子を混乱させてしまっていた。

「超電磁砲って…………お姉様、なんですの…………?」

クローンと美琴。
これが何を指しているのか。
黒子は完全能力進化実験も知らなければ、一方通行も知らない。美琴の妹達の事も知らなかったのだ。

海原はもちろん、結標も小耳に挟んだ程度でその事は知っていた。

「あら、オフレコだったのかしら。ま、そっちの事は知らないしね」

『表』側の人間なら知る由もない話だ。
女の口から告げられた事実に黒子はただ呆然としていた。

「そっちのある研究者とこっちは繋がっていてね。造り方を教わって『出来た』時は感激したわ」

「『出来た』?これが成功したとでも言うのか?」

土御門の視界には、自我のない異形の姿が映っている。
姿は人間、動物とは程遠い醜いもので、軽々しく言う女に沸々と怒りが湧いてきていた。

「ふふ、技術も設備も整わなくて。培養途中で無理やり引きずり出したからね。皮膚や肉の細胞も中途半端に形成されたままだけど、そっちの方があなた達も心が痛まないでしょ?」

学園都市の科学力は世界の中でも飛び抜けている。
他が真似しようが、なかなかにそれは困難を極める。
しかしその研究者とやらが中途半端に設備や技術を与え、その結果このクローン、異形達が産み出されてしまったのだ。

「…………最低ね」

結標も侮蔑の表情を女に向ける。
しかし女は全く気にしていない様子で、愉快だと言わんばかりに笑みを浮かべ続けた。




578 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:16:44.00 ID:IErFwi6DO

「ま、プログラムもインストールしてあるし、私の命令には従順なの。使えれば問題ないわ」

「てめぇ…………」

生物を冒涜するかの様な台詞。
土御門は顔を歪ませ、女を思い切り睨み付けた。

「プログラム、とは?」

海原も冷静の様だが、その実、ナイフをギュッと握り締めている。


「『禁書目録』の奪取、及び────」

「………………!」

やはり、狙いは10万3000冊の魔導書だったか、と海原は気付くのだが。

「『幻想殺し』の始末よ」

海原の顔付きが変わった。

「…………『幻想殺し』を始末ですって?」

「あら、そんな怒った顔しちゃって。 あなた『幻想殺し』のお友達なのかしら」

女は海原から発せられた殺気に気付くが、特に構いもしない様子だ。
海原も女の言葉に笑った様に頬を緩めるものの、殺気を解きはしない。

「そんなんじゃありませんよ。少し彼とは、大事な約束を交わしただけです」

「へえ……」

約束────。
それは海原にとって、自身よりも大事な事。
好意を寄せる少女の幸せを願うが故に交わした約束だった。

「それに」

そしてその交わした相手も、只の相手なら許しはしない。
しかし、守る事に正義を抱えどんな状況でも諦めたりはしない男だからこそ。
そういう上条だからこそ。
美琴を託した筈だったのだ。

「あなた程度の人間が彼に勝てるとは思いません」

海原が言い切った瞬間、女の雰囲気が変わった。




579 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:18:00.81 ID:IErFwi6DO

「ま、おしゃべりはここまでよ。見た所、半分くらいは倒してくれた様だけども」

そう言い、女は床に置いてあったボストンバックの側面の部分を、まるでスイッチを押すかのように人差し指で突いた。

「「「「………………!!」」」」

四人は息を飲み、構える。



「地獄を見るがいいわ!!」




すると突然『何か』がボストンバックをバラバラに引きちぎりながら、黒く巨大な姿に瞬く間に変わっていった。




580 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:18:57.91 ID:IErFwi6DO

ガチャ────

「「!!」」

 治療室のドアが開き、美琴とインデックスはバッとその方に視線を向けた。

「入るよ」

「ゲコ太、先生…………? 木山先生も…………」

姿を現したのは冥土帰し、木山。

そして。

「妹に……打ち止め……? …………!!」

最後に入室してきた少年の姿に目が見開かれた。

「一方、通行…………!?」

「………………」

一方通行は美琴が驚くか怒りを露にするかの反応は予想していた様で、特に美琴を視界に入れてはいなかった。

「何しに、来たのよ…………!」

「あれ、この前ご飯食べさせてくれた人?」

「あァ? あン時のシスターか?」

「え?」

インデックスが一方通行の姿に気付くとそんな声を上げ、美琴はインデックスの顔を見た。

「なンでシスターがこンな所にいるンだ?」

「何でって、とうまのお見舞いに決まっているかも!」

「知り合いだったのかよ……」

「「ちょ、ちょっと待って!」」

二人の声が重なった。




581 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:20:06.09 ID:IErFwi6DO

「「ん?」」

声を出したお互いの顔を見る。

「打ち止め?」

「お姉様?」

お互いポカンとしている表情をしていて、首を捻った。
二人の心境は違う。
美琴は一方通行と会っていたインデックスに対する心配。
打ち止めは一方通行とインデックスがどういう仲なのかという心配だった。

「インデックス、どういう事なのよ?」

「私がお腹減っていた時、ご飯食べさせてくれただけなんだよ」

急に振られたインデックスはキョトンとするが、一方通行と会った時の事を思い出して呟いた。

「「本当にそれだけなの!?」」

「うん、そうだけど」

「………………」

再びハモってそれぞれに問い詰める二人。
一方通行は別にどうでもよく、無言を貫いていた。

「さて、悪いけど」

冥土帰しが口を開くと、美琴はハッとなり姿勢を正した。

そうなのだ。
この五人がここに来たという事はただ来た訳ではなく、何か用があって来たに違いない。
しかし、どうしても一方通行がいる事に違和感を覚えてしまう。

いや、違和感だけではない。
焦燥感、危機感やら色々な感情が出てきてしまう。
いくら打ち止めや妹達、インデックスと仲良さそうな場面を見せ付けられても、一方通行は憎むべき仇。
美琴の頭にはどうしてもそれが先行してしまうのだ。

「…………御坂君」

木山が美琴を見ていた。
それに気付き、美琴も木山の方に視線を向けると、木山はそれ以上何も言わずに、ただ頷いただけだった。




582 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:20:56.62 ID:IErFwi6DO

「………………」

それが何を示しているのか。
だが美琴には分かった様な気がしている。
一方通行も、危害を加える為にここに来ている訳ではない。
そもそもそれなら、この面子と共に姿を現す筈はないのだ。

つまり一方通行は、上条を助ける為に来ている────。

上条を見る。
苦しそうに少し顔を歪めているのが痛々しい。
出来る事なら、治してあげたい。
いや、どうしても治したい。
だから。

「今から『治療』を始める。悪いけど二人は、外で待っててくれるかな?」

「…………、はい、分かりました」

「…………分かったんだよ」

いまだに納得いかない部分はあるが、ここは冥土帰しに任せる事にした。




583 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:21:44.53 ID:IErFwi6DO

「木山君。脳波はどうだね?」

「あの時と変わってはいない」

脳波グラフは歪な線を描いている。
あの時と一緒の、並の量ではない脳波だ。

「一方通行。AIM拡散力場の解析を」

「…………」

そして一方通行がチョーカーのスイッチを入れ、手をかざし上条を取り巻くAIM拡散力場を解析する。

「………………っ!」

やはり、予想はしていた。
レベル5級の能力の残滓が漂っている。
それも、一つなどではない。
様々な種類の能力が逆に一方通行を圧迫する。

「…………!」

一方通行の今までに解析した事のないベクトル。
目を瞑り、五感の全てを演算に集中させる。
汗が頬を伝った。

──……よし、解析完了だ。

一人の人間が包むには大きすぎる程の量の能力だ。
それを解析するという事はそれ相応の負担が一方通行にも掛かるのだが、やはり学園都市第一位だ。
順調にクリアしていったのだが。

「ぐ………………!?」

「「「一方通行!?」」」

そして、そのベクトルを操作し、彼から切り離す。
それは解析よりも、更なる負荷が掛かるのだ。
呻き声を上げた様な一方通行に、木山、御坂妹、打ち止めの三人が心配の色を込める。

「彼なら、出来る筈だよ」

しかし冥土帰しの一方通行を信じているという様な言葉に、一方通行に詰め寄ろうとした三人もグッと堪え視線で一方通行を援護する。




584 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:22:27.97 ID:IErFwi6DO

──ンにゃろォ…………! とンでもねェ力だ……!

一方通行の頭では嘗てないほどの演算がなされている。
生半可なものではないその力に、一方通行も苦しそうに顔を歪めていた。

──だがよォ…………! 第一位を嘗めンじゃねェぜ…………!

しかし。
彼の孤高のプライド、そしてそれを実証する彼の能力が己を更に高みへと向かわせる。

──俺に不可能なンざ…………ねェ!!

そして上条から、能力を引き剥がしていった。

「…………完了、だ」

「よし! ではチョーカーを装着させるよ。演算代理解除の準備はいいかい?」

「うん!」

「はい!」

一方通行の役割の行方を見守っていた打ち止め、御坂妹は完了したのを見届けると、笑顔で返事をした。




585 : ◆LKuWwCMpeE:2011/01/31(月) 23:23:46.40 ID:IErFwi6DO

「あの白い人とみことって知り合いだったの?」

治療室の前の長椅子で美琴とインデックスが並んで座っていた。

「…………知り合いって言うか…………」

実験の事は中々口に出して言える事ではない。
美琴の中で一方通行はいまだあくまで敵でしかないのだ。

「あの人、悪そうな人には見えないんだけどな」

そんな美琴の心境が分かっていたのかは知らないが、インデックスはそう呟いた。

「………………」

それは、何となく────。

美琴も分かってきていた。
打ち止めと御坂妹とのやり取り、インデックスの言う一方通行の印象。

そして何よりも、一方通行の打ち止めを見る目。
まるで大切なものを見るかの様な彼の目は、悪などではないのだ。
前は聞きそびれた一方通行と打ち止めの間に起きた出来事。
それがどんな事かは美琴は知らないのだが、今こうして打ち止めと一方通行は共にいる。

「…………本当は悪くないのかもね」

「ご飯を食べさせてくれる人に悪い人はいないんだよ」

その事実と、隣に座るインデックス。
何故だろう、少し心が軽くなっている様な気がした。

…………そして。









「『治療』完了だ。もう大丈夫だよ」


「ホントっ!? よかったよ!」

「! …………よかった……! 本当に……! …………グスッ」

更なる希望の光が、未来を眩しく照らし出した様な気がした。




597 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:38:39.78 ID:YlFjMlFDO

「「当麻(とうま)!」」

勢いよく治療室の扉が開き、二人の少女が再び姿を現した。

いまだに呼吸器は付けてはいるが、心なしか顔が楽になって、ただ眠っている様にも見えた。

「まだ寝ているんだ。騒いではいけない」

「あ、ごめんなさい…………」

元気良く入ってきた二人を見ると木山が騒がしくしていた事を咎めるのだが、そんな彼女もすぐに表情を緩ませていた。

「これは…………?」

美琴が上条の首に装着しているチョーカーに気が付くと、冥土帰しを見た。

「うん。これはね、シスターズのネットワークの力を使って彼の脳に侵入する脳波を遮断する為の物なんだ」

それを聞くと打ち止めと御坂妹の方を見た。

「もう演算代理解除始まってるよってミサカはミサカは説明してみたりっ」

「順調にいってますとミサカはある意味であの人の一部になれた事を喜びます」

誉めて誉めてと言わんばかりにその場でピョンと飛び跳ね、彼女の癖毛をピコピコ揺らしていた。
少し御坂妹の言い方に眉がつり上がったのだが。

「うん、始まってから脳波の量も減少してきている。そろそろ正常の数値に戻る所だよ」

木山もモニターを確認しながら続けた。ギザギザだった歪な曲線が今ではゆったりとした線になってきている。

「でも、根本的な部分が治った訳ではないからね。これから研究して治療法を探すよ」

そうだ。
木山の言葉通り、完全に治った訳ではない。
あくまでの一時しのぎなのだ。




598 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:39:53.30 ID:YlFjMlFDO

「………………」

その事実が少しまた美琴の心に憂いを込めさせるのだが。

「……だが、すぐに見つけてみせるさ」

木山の力強い言葉に美琴も頷く。
彼を助けようとするのは一人だけではない。
皆で支え合っていけばいいのだ。

「あの人がいたから成功したんだよ!それにこの人に付けているのはあの人のと色違いなんだよってミサカはミサカは確認してみた……り…………ってあれ?」

打ち止めがそこで一方通行がいた場所に目を向けたのだが。

「セロリがいなくなりましたね、とミサカは報告します」

「あれ?さっきまでいた筈なのだが」

一同、突然にいなくなった一方通行に驚いていた様子だった。

「コーヒーでも飲みに行ったのかなってミサカはミサカは予想してみる」

美琴の手を握り、ぶんぶん振り回しながら打ち止めは楽しそうにしていた。

「…………後でお礼でも言っておかなくちゃね」

扉を見つめ、美琴は複雑な気分ながらもそう呟いていた。

「とうまー、早く起きるんだよ。起きたらたくさんご飯食べるんだよ」

「この人の分まで食べないで下さいね、とミサカは忠告します」

ふと上条の眠るベッドの方からそんな声がしたもんだからそっちの方に目を向けると。

「ちょ、アンタ達!何してんのよ!!」

何故か上条のベッドの上に添い寝をする様な形で左右に寝そべるインデックスと御坂妹を見て美琴は叫ぶ。
木山は溜め息、冥土帰しは苦笑いを浮かべていた。

「そこは私の定位置なんだから! …………って私は何を言ってるのよ!///」

「わっ、お姉様過激な発言だってミサカはミサカはニヤニヤしちゃう」

ギャーギャー叫ぶ集団。
いつもの彼女達の姿が戻ってきていた。










「………………!!」

上条のいた部屋を後にしていた一方通行は『戦闘』の起きている場所に向かったのだが、そこで見た光景に一方通行の目が見開いていた。




599 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:41:36.12 ID:YlFjMlFDO

「さぁ……食事の時間よ!」

女がその言葉を吐いた瞬間、場の空気は騒然となった。

「何だよ…………あれ…………」

「うくっ…………!」

 土御門が信じられない光景を見ているかの様に呟き、黒子は吐きそうになる口を咄嗟に押さえた。
傍観していた民間人達からも悲鳴や嘔吐している様な声が上がった。

「グガアアアッッッ!!」
「グワァァッッ!?」


ボストンバックを中から引き裂き、出てきたより一際大きな異形は、女の合図と共に仲間である筈の異形達を──────喰らい始めていた。


「化け物以外の何者でもないわね…………」

結標も必死に吐き気を抑えている様子をその表情が語っていた。

正に阿鼻叫喚。地獄絵図もいいところだった。

「あら、何処がおかしいのかしらね? あなた達も食べるでしょ? お肉くらい」

愉快に顔を歪め、女は嘲笑う。この光景をさも当たり前かと言う様な言葉だった。

大きな口を開け、獰猛な牙を剥き出しにする。
腕を引きちぎりむしゃぶりつく。
ほぼ一瞬の内に異形一体、一噛みで飲み込んでしまっていた。

「…………身体が……!?」

そして『食事』が進む度に肥大化していく異形の身体。
海原も驚き、そして嫌悪感を顕にしている。

「グガアアッッ!!」


そして一瞬の内に、数十匹いた異形を全て食い尽くしてしまった────。


「!! マズイ、来るぞ!」

そして食事が終わった瞬間、異形の視線はこちらを向く。




600 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:42:47.66 ID:YlFjMlFDO

「結標!」

「あぐっ!?」

土御門が叫んだ瞬間、結標の身体は空を舞っていた。

「速いッ!?」

文字通り、一瞬だったのだ。
結標は壁に激突し、動かなくなる。

──喰われてしまう!?

あれだけの光景を見せ付けられて、そう予想した海原も異形に飛び掛かった。

「ヌガアッッ!!」

「ぐはっ!!」

しかし、飛び掛かってきた海原を裏を見ずに裏拳の様に腕を振るい殴り飛ばした。

「海原っ!」

「海原さん!」

土御門と黒子の叫び声がこだました。

「ヌグゥゥゥ?」

その声に反応するかの様に土御門に視線を向ける。

「ぐほっ!!」

来る!と体勢を整える前に異形の突進にて土御門の身体はまるで玩具の様に回転しながら飛んだ。

「あはははは!! どう!? 一味違うでしょう!?」

女の笑い声が響き渡る。

黒子の足は震えていた。
一瞬の内にあの三人がやられてしまったのだ。
仲間────とも言うべきか、今まで共闘していた傍から見ても相当な戦闘力を持っている三人が、一瞬だ。

「さすがのあなた達もこのコの前では為す術無しみたいね!」

そして異形は、黒子の前に立ちはだかっていった。




601 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:44:20.41 ID:YlFjMlFDO

 一方通行の目の前には、異国の女がいた。
周りには夥しい数の見た事のない生物の様なものの屍。
その中に土御門、海原、結標が地面に倒れ伏している光景が映っていた。

「…………うぐっ……」

そして女の横には、首根っこを掴まれている黒子の姿がある。

「…………チッ。何が起こってやがンだ?」

「あ…………一方、通行……か…………」

地面に倒れている土御門からかすれた様な声が届いた。その上では激突したのか、壁にヒビが入っている。
彼からも大量の出血が見られた。

「あら、あなたは」

女が一方通行の顔を確認するや否や、何かを思い出した様に呟いた。

「白髪に、赤い目…………もしかして第一位さんかしら?」

「あァン? 誰だテメェは?」

いつでもスイッチを入れれる様に、首のチョーカーに手を掛け臨戦態勢を取る。
目の前の女が何者かは知らないが、状況を見る限り十中八九、敵だ。

──チッ、残り五分くらいしか残ってねェか。

先ほど能力を行使したばかりだ。
電池も残り少なくなってきていた。

「もっとゴツい男かと思ったら全然違ったわね。イケメンじゃない。目付き悪いけど」

一方通行の容姿がイメージと反していた様で、驚いた表情を顔に貼り付けながらも笑っている。

「うっせェ。聞きたい事はンな事じゃねェ」

そんな女の言葉を投げ捨てる様に舌打ちを打つ。
苛立ちが沸き上がってくる様だった。

「テメェは誰だ。それとコイツらは何なンだ?」

「あなたもつれないわね」

ハァと溜め息を吐きながら前髪を掻き分ける仕草を見せた。
また説明しなきゃいけないの?とでも言いたい様な表情だ。




602 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:45:37.85 ID:YlFjMlFDO

「ま、このコ達はあなたにも縁のあるもの、とでも言っておこうかしらね」

「あァン?」

何言ってやがると言う目できつく睨み付けた。

「もう面倒臭いからいいわ。それよりもそこをどいてくれないかしら? もし邪魔をすると言うのなら」

女が一歩前に踏み出る。

「…………どォすンだ?」

「こうするわね」



「あぐっ…………ぐ…………!」



一際巨大な身体の異形に首根っこを掴まれていた黒子が呻き声を上げた。

「………………チッ」

あの少女が先ほど木山が言った白井という少女なのだろうか。

──チッ。ジャッジメントだが何だか知らねェが下手に首突っ込みやがって。

以前までの一方通行なら迷わず人質など切り捨てた。
しかし打ち止めと出会い、守るべきものというものが出来てから一方通行の気持ちも変わっていった。

 自身は一流の悪党だ。
『表』の人間を『裏』に巻き込もうとする三流以下のやり方には怒りが沸く。
ましてやその人質は自身が苦しめてしまった妹達のオリジナル、美琴の親友とも聞いた。

──…………クソッタレ。

芽生えた優しさが甘えとも感じる事は少しはある。
しかし打ち止めと過ごしてきた生活。
それは陽の光を知らなかった一方通行を照らしてくれていた様でもあった。




603 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:46:55.00 ID:YlFjMlFDO

それを知った一方通行だからこそ、守りたいものが出来た。
人の気持ちが少しは理解できる様になった。
元々は他人を下手に傷付けぬ様にあの実験を通しレベル6へと上がろうとしていた一方通行だ。
自身をどんなに蔑もうが、打ち止めから見ればヒーローの様なものだったのだった。

──さて、どォ出るか。

考える。
黒子を傷付けず、化け物を倒す方法を。
横を見る。
倒れている海原の手が、少し動く。


一方通行は、心の中でニヤリと笑った。


「と言う訳で、どいてくれないかしら? 早く幻想殺しを始末しておきたいの。放っておいても死ぬらしいんだけどね」

「あァ。その前に一個質問いいかァ?」

「何かしら?」

歩み出た女と黒子を掴んでいる異形を見て、一方通行は道を空ける様に横に歩いた。

「幻想殺しが無事だったらどォすンだ?」

「…………何ですって?」

ピクリ。
女と異形が歩みを止め、一方通行に視線を向けた。

「どういう意味?」

女の表情が一変したのが面白いのか、一方通行は顔に手を当てて笑った。

「クカカ! 言葉通りの意味だァ! で、どォすンだよ?」

「何が可笑しいッ!」

憤怒を表し、女の叫び声が響き渡った。
手を首元に下げ、指をチョーカーに掛ける。




604 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:48:58.44 ID:YlFjMlFDO

「残念だったなァ」


「………………まさか!」


スイッチを入れる。


「三下は…………無事でしたってかァ!!」


そして、海原の手元に転がっていた『何か』を蹴り飛ばした。

 ベクトル操作。
運動量、熱量、光、電気量など、あらゆるベクトルを思い通りに操作する一方通行の能力。
上条との戦闘の際、工事現場の建築用の鉄骨でさえも任意に操作した彼だ。


『ナイフ』の運動エネルギーを操作する事など、造作もない。


「なっ!?」

「グヲオオオォォォッッ!!」


ナイフは放物線なのではない綺麗な直線を飛び、黒子を掴んでいた異形の腕を切り飛ばした。


ヒュン────!

そして一方通行は一瞬で異形と女の間に移動すると、黒子を蹴り飛ばす。
しかし黒子の身には、ベクトル操作で痛みも衝撃も何もなくソファーにふわっと下ろされた様な感覚だけだった。

「え…………っ?」

一方通行の両隣には女と片腕を無くした異形が隣接している様に立っているだけ。

「クカッ!クカカカカカカッッ!!」

女の驚愕の顔が相当愉快だったのか、一方通行は笑いを抑えきれない様子で笑っていた。

「なっ…………! そんな、まさか……!」

人間業では到底出来うる事ではない事を一瞬でやってのけた一方通行に女は言葉を失っていた。

「オマエさ」

「ウガアアアァァァッ!!」

痛みと怨みみたいなものからか、一方通行の倍以上はある大きさの異形から繰り出される引っ掻き。
しかしそれに対して一方通行は背を向け立ったままだ。

「嘗めてンじゃねェぞ」




605 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:50:17.26 ID:YlFjMlFDO

「グガアアッッ!?」

一方通行に触れた瞬間、逆に吹き飛んだのは異形の方だった。
吹き飛んだ異形は壁に激突し、壁さえも崩して貫き瓦礫の中に埋もれた。

「そ、そんな…………私の、最高傑作、が…………」

それを見た女は知らずの内に膝を付いていた。









しかし、俯いた表情の女の顔を一方通行は見てはいなかった。




606 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:51:17.44 ID:YlFjMlFDO

「さてとォ、コイツをどう料理してやりますかァ?」

座り込み、俯いている女を一方通行は上から見下ろしていた。
異形の方にも気を向けるが、動く気配は無い。

「爪でも剥いでやるかァ? それとも顔でも炙ってみるかァ?」

ニヤリと笑う一方通行。
彼は敵と判断した相手には必要以上に冷酷だった。

「お待ちになって下さいの!」

「あァ?」

女の頭でも踏んでやろうかと足を上げようとしたのだが、声が掛かり一方通行は動きを止めた。

見ると黒子が手に拘束具を持ち、立ち上がっていた。

「ご助勢、感謝ですの。そこの者はジャッジメントが拘束します!」

黒子はそう言うと一方通行と女の間に立ち、女の腕を腰まで回すと拘束具を付け始めた。

「………………チッ。そォかい」

一方通行はそれを見ると、詰まらさそうに舌打ちをしたのだが。
内心、あれだけの目にあったのに気丈に振る舞う黒子を感心したりもしていた。

「ジャッジメントの肝は座ってやがンな」

ふぅ、と一息吐いた一方通行は、ソファーに腰を掛け残り時間も僅かになってしまったチョーカーのスイッチを切った。

「聞きたい事があるんですの」

縄をしっかり持ち、携帯を取り出した黒子は電話を掛ける前に一方通行に視線を向ける。

「あなたは、一体…………?」

あれだけの力を持った異形を一方的に追い詰めた一方通行だ、黒子はそれが気になっていた。
レベル4の自分や結標よりも明らかに圧倒的な力を持っている男。
ただ者などではない雰囲気をも醸し出しているのだ。

「さァな?」

答えるのが面倒だと言わんばかりにそれだけ言うと一方通行は黙ってしまった。




607 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:53:00.69 ID:YlFjMlFDO

「ですが…………」

「ンな事よりもそいつを連れてくか、ここにいる連中の手当てが先なンじゃねェのか?」

「…………そうですの」

しかし的を得すぎている一方通行の言葉に黒子は黙ってしまった。
携帯を操作し、アンチスキルに連絡を入れようとしたが。

「嬢ちゃん、待ってくれい」

何とか身を起こし、身体が痛むのを見ても分かる程ゆっくり立ち上がる土御門の姿があった。

「ご無事なんですの!?」

意識がある事に安堵したのか、土御門を見て黒子は声を上げた。

「ああ、何とかな。一方通行も、助かったぜ」

「………………ふン」

別にテメェを助けた訳じゃねェんだがな、とでも言う風な視線を土御門に向けるが、土御門は分かっていた様で気にはしていない。

「…………そこの女に聞きたい事がある」


「聞きたい事、とは……?」

いまだ俯いている様子の女に目を向け、黒子は反芻した。



「もう一人は何処だ?」



「もう、一人…………?」

「チッ。まだいやがンのか」

土御門の言葉に黒子と一方通行は反応した。
女は動かない。俯いたままだ。




608 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/01(火) 22:53:43.70 ID:YlFjMlFDO

「お前達は二人という情報は掴んでいるんだ。何処だ?」

低い冷たい声色にして尋問する様に問い質す。

 情報によれば、侵入者は二人の筈。しかし姿を現しているのはこの女一人だけだ。

「それって…………」



「ククク…………」

突然、女から笑い声が響いた。

「…………!?」

黒子は更に強く縄を縛り、一方通行は首元のチョーカーに再び手を掛けた。

「あはは!! 今頃どうしているかしらね!?」

「…………何?」

突然俯いていた顔を上げ、歪ませていた顔を見せた。
その顔は…………計画通り、と言わんばかりだった。

「よく二人いるって掴んだわね。まぁいいわ。どうする?」

「何がですのっ!?」

黒子も女の様子を怪訝に思いながら離さない様、注意深く縄を握り締めた。



「もう一人が、既に幻想殺しの元に向かっていたとしたら、よ!」



「何だと…………?」

一方通行の声が場に響いていた。




617 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:44:08.13 ID:vnRLT0pDO

コンコン────。

 治療室の扉をノックする音が響いた。

「あの人、帰ってきたのかなってミサカはミサカは迎えに行ってみるっ」

打ち止めが元気よく言うと、扉に向かう。

「…………ノックをする様な人でしたっけ?とミサカは疑問に思います」

御坂妹がそう言い切る前に打ち止めは扉を開け、外にいた人物を迎え入れてしまった。

 姿を現したのは、学園都市内ではほぼ見かける事の無い異国の者、大柄の男だった。

「どうも」

「えっと、誰かな?ってミサカはミサカは見知らぬ外人さんに戸惑ってみたり」

金色の中の金色と言う程の明るい髪色をした体格の良い男が中に入ってくる。

「…………っ!? 打ち止め!?」


「え──────」


突然に打ち止めは後ろから羽交い締めされ、美琴の叫び声が響き渡った。




618 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:45:39.91 ID:vnRLT0pDO


「全員動くな!!」


突然の男の怒号に、この場にいた全員に戦慄が走る。
突然の事態に、誰一人として動く事が出来なかった。

「そうだ。大人しくしていれば君達には何もしやしないよ」

そしてインデックスの姿を見るや否や、男の顔が凶悪に歪む。
男と視線が合ったインデックスはビクッと肩を揺らし、怯える表情を見せた。

「ここにいたか。『禁書目録』」

「………………!?」

「イン、デックス……?」

インデックスはこの男の正体が何者かを察する。
自身の頭の中に宿す、10万3000冊の魔導書。それを狙ってきた……魔術師だ。

「丁度『幻想殺し』といたとは運がいい」

「と、とうまをどうする気なの!?」

『幻想殺し』というワードを聞いて、美琴の肩が揺れた。

「な、何なのよ、アンタは…………!?」

上条の眠るベッドとインデックスを後ろにして一歩前に出る。
いつもなら電撃を宿している所なのだが、男の手に打ち止めが掴まれていて、更に状況的に上条を繋いでいる医療器具の事もある。
下手に動けはしなかった。

「『幻想殺し』をどうするかって? 始末するに決まってる」

「え…………?」

「な…………!!」

男の言葉に全員息を飲む。
特に美琴、インデックス、御坂妹の三人の心臓がバクッと鼓動を打った。




619 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:46:30.56 ID:vnRLT0pDO

「な、何でよ…………!?」

「何故かって? 俺達の計画の邪魔になるからに決まっているからだ」

「計画って何よッ!」

「お前達に言う必要はない。邪魔だ!」

「ぐふっ!?」

上条のベッドとインデックスを背に立ちはだかった美琴の腹部に、男のブーツの先端がめり込んだ。

「みこと!!」

「お姉様!」

「御坂君!」

蹴り飛ばされた美琴は上条のベッドに激突し、崩れ落ちてしまう。
インデックスと御坂妹、木山の悲壮の叫び声がこだました。

「うぐ…………っ、けほっ……」

痛みから立ち上がる事が出来ずに美琴は蹲る。
インデックスが美琴を介抱しようと駆け寄るのだが、先に男の脚が美琴とインデックスの間に踏み入り、インデックスは立ち往生してしまった。

「………………」

そんな美琴とインデックスを一瞥し、構っている時間など無いとばかりに男は内ポケットから手帳の様な物を取り出し、紙を一枚ちぎって上条に投げ付ける。

「けほっ…………と、当麻、が…………」

男が何をしようとしているのかは分からない。
しかし上条に害を与えるものとだけは美琴は苦しみながらも認識出来た。

しかしここで電気を出す事は出来ない。
一体どうすればいいのかを必死に思案するが、危機的状況と痛みに中々頭が回らなかった。



「────『Del.』」



男がそう呟くと、ひらひら舞っていた紙切れが突如光の矢の様な形になり、意思を持った様に上条の胸を貫かんと飛んだ。




620 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:47:38.25 ID:vnRLT0pDO








「と、当麻あああぁぁぁぁ!!」













「…………よう、クソ魔術師」





眠っていた筈の少年の声が、場に響き渡った。




621 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:48:34.62 ID:vnRLT0pDO

「なっ、何だと…………!?」

上条の突き出した右手が光の矢に触れた瞬間、ただの紙切れに戻る。

「『幻想殺し』、貴様────!?」

「………………おい」

上条が呼吸器を外しながら、ゆっくりと起き上がる。
その様子に男は狼狽した様子を見せた。

「一つだけ聞く」

紙切れを掴んだ右手を深く握り締め、上条は問う。


「美琴に、何をしやがった…………?」


「…………っ!?」

上条のただならぬ様子に男はたじろぐ。
彼の何時もよりも尖った様な口調が、彼の怒りを如実に表していた。


「美琴に、何をしやがったか聞いてんだろうが!!」


上条が紙切れを握り締めていた右手を突き出す。
そしてその右手から、先ほど男が現出させた光の矢が飛び出し、打ち止めを羽交い締めにしていた左腕の肩を抉った────!

「ぐおおっ!?」

激痛から腕を押さえて打ち止めを離してしまい、瞬時に御坂妹が駆け寄り打ち止めを抱き上げた。

「け、けほ……っ……。 当、麻…………?」

「無事か? 御坂」

上条からベッドから出る。
美琴は上条の様子を心配の表情で見つめていたが、彼の逆に気遣う言葉に頷くしか出来なかった。




622 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:50:03.73 ID:vnRLT0pDO

「『幻想殺し』あああアアァァッッ!!」

顔を歪ませた男はポケットに押し込んでいたぬいぐるみの様な物を取り出すと、ぬいぐるみの中から異形が破り出て来る。
たちまち成人男性ほどの大きさに肥大化した人型の異形は牙を剥き出しにし、真っ先に上条に襲い掛かった。

「危ないっ!!」

誰の声だろうか、その声が響いたのだが────。



「ヌガアアアアッッッ!!?」



上条に触れた瞬間、逆方向に飛んでいったのは異形の方だった。



「何ィッ!?」

吹き飛んで来た異形の躰を両手で構え、ぶつかる。

「ぐおおッ!!」

先ほど抉られた左肩から血が吹き出したが、何とか堪え異形と共に男は体勢を整えた。




623 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:51:23.00 ID:vnRLT0pDO

「………………」

そんな異形と男に冷たい視線を送りながら、上条は胸ポケットに入れていた一枚のコインを取り出す。



ピン────。



音を立て、親指で真上にコインを弾いた。



「ま…………、まさか…………」



その行動に真っ先に気付いたのは美琴だった。
続いて御坂妹、木山が気付く。








「超電磁、砲…………?」





美琴が呟いたと共に上条の指から眩い光が一瞬轟いた。



「ウガアアアァァァッッッ!!」

「ぐおおおおっッッ!!」



その閃光は直線を描き、爆音を上げ異形の躰にめり込みながら男共々巨体を吹き飛ばした。




624 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:52:28.26 ID:vnRLT0pDO

 治療室の扉をも吹き飛ばした異形と男が廊下の壁に激突し、ヒビを入れて倒れ込んだ。

視界が霞む程の砂煙を巻き上げたそれは威力の物凄さを示していた。

「と…………当麻……?」

やがて砂煙が晴れ、床に伏す異形と男の姿が確認出来た頃、美琴の声が響いた。

「わり、御坂。技借りちまった」

ポリポリと頬を掻きながら、恥ずかしそうに上条は美琴の方を向く。

「怪我ないか?」

「うん…………私は大丈夫」

「そっか」

「インデックスも無事か?」

「うん…………大丈夫、なんだよ」

美琴の無事が分かると、上条は嬉しそうに微笑む。
美琴の隣にいるインデックスにも目を向けると、彼女も無事な事にホッと一息安堵の表情を見せた。

「上条君…………一体……何が…………」

木山がいまだに驚愕を貼り付け、恐る恐るの様子で上条に尋ねる。
当然だ。
男が放った光の矢をそっくり返し、異形の攻撃を反射させ────。


更には、超電磁砲まで撃った。


「いやー何か出来る様な気がしまして」

とても場の空気に合わない乾いた苦笑いを浮かべ、上条は答えた。




625 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:53:38.89 ID:vnRLT0pDO

 実際、上条自身にも分からなかった。
何故男の魔術を真似る事が出来たのか。
何故反射すると思ったのか。
何故超電磁砲が撃てると思ったのか。
聞かれても、出来る気がしたとしか上条は答える事しか出来ない。

「そ、そうか」

絶対納得していない表情で返事をした木山。
しかし、上条にも説明出来ないのだからしょうがない。

「はは、ははは……」

少し重くなってしまった空気を、上条は申し訳なく感じて場を和ませようと笑ってみせたのだが、効果はあまりないだろう。

「当麻…………」

美琴の呼ぶ声が上条の耳に届く。

「………………」




626 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:54:15.33 ID:vnRLT0pDO

複雑な感情に今、上条はとらわれていた。
あれだけ突き放した美琴が何故ここにいるのかを疑問に思っていた。

 自身の記憶に残った最後の美琴の姿は、あの公園での事だ。
どうしても会いたかった。
話をしたかった。
話を聞きたかった。
探し回って、そしてそこで見た海原との行為。

「………………っ」

思い出しては胸が痛む。
しかし自分が愛する少女の為。身を引こうと決めていたのに。


「当麻…………?」


そんな声で呼ばれたら…………


  揺らいでしまうではないか。






しかし。

「君達、大丈夫か!?」

冥土帰しの叫び声に、上条、美琴、インデックス、木山の四人が振り向いた。




627 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:55:02.21 ID:vnRLT0pDO

「御坂妹!? 打ち止め! どうした!?」

「妹、打ち止め!?」

御坂妹と打ち止めが頭を抱え、苦しそうに蹲っている光景が目に写った。

上条と美琴が駆け寄り、介抱をしようとしたが、御坂妹の手が上条のそれに触れた。

「くっ………だ、大丈夫です、とミサカは、頭を押さえ、ます……」

「頭を押さえるって…………大丈夫じゃねぇじゃねえか!」

「大丈夫だよって…………く、ミサカは、ミサカは言ってみたり」

「打ち止め…………」

御坂妹に止められ、上条は戸惑った様子で握られた手をそのままにしていた。
何かしてあげたいと冥土帰しの方を見たのだが。

「……すぐに、治まる筈だよ」

少し冥土帰しも辛そうに言ったのを見て、上条は視線を御坂妹に戻した。

美琴は打ち止めを抱き抱えていて、額から出た汗を拭っている。
美琴は何故御坂妹や打ち止めが苦しんでいるのかを何となく理解していた。

 恐らく、上条の演算代理解除の影響だろう。
それがどんなに彼女達に悪影響を及ぼしているのか程度は分からない。

「ひっ、ひっ、ふー……ってミサカは、ミサカは言ってみたり…………」

「バカね…………それ意味違うわよ…………」

でも、こうして打ち止めも心配掛けまいと冗談を言いながら、皆で上条を助けようとして、支えようとしている事が美琴は嬉しかった。

 それは妹達も勿論同じだ。
今まで上条には助けられ、守られてばかりだった。
あの実験の時に、妹達の未来を照らしてくれた上条には何一つ恩返し出来ていない気がしていた。




628 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:56:11.87 ID:vnRLT0pDO

だから、こういう形になってしまったとはいえ上条の力になれた事が御坂妹、妹達はとても嬉しかったのだ。
それた多少苦しかろうが、耐えられる事だった。

やがて苦痛は薄まり、御坂妹と打ち止めは落ち着きを取り戻した。

「もう、大丈夫です、とミサカは心配を掛けてしまった事に申し訳なく思います」

「お、おお…………本当に大丈夫、か?」



「はい。 ……あ…………ソウダ」



「え……?」

実際御坂妹に掛かる負荷は無くなり、大分楽になっていたのだが。

「やっぱりダメです、とミサカはあなたの胸に倒れ込みます」

「おいおい、無茶するなよ…………」

上条からは心配の色はまだまだ取れなく、御坂妹の肩に腕を回した。

しかし──────。



「……………………何してんの? アンタ」



「ひぃっ!?」

ドス黒いオーラを放ち始めた美琴に御坂妹は小さく悲鳴を上げた。

「おい御坂、御坂妹はまだ苦しんでるんだぞ」

そんな様子の美琴に上条も気付き、咎める様に言うのだが。

「打ち止めの様子を見ればアンタももう平気って分かってるのよ。それに生体電気を見ればもうとっても正常そうだしね─────」

打ち止めももう平気な表情をして何々?とインデックスと共にこっちの様子を窺っていた。

「バ、バレてる…………とミサカはふ、震え上がります」

「とっとと離れなさいっ!!」

「ひゃいっ!」

嗚呼、恐怖と言う感情が更に芽生えました、とミサカは心に秘めますーと言った表情で上条からピョンと跳び跳ねたのだった。




629 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:57:38.89 ID:vnRLT0pDO

「で、説明してくれるか?」

取り敢えず納得し、椅子に腰掛けた上条が美琴、御坂妹、打ち止めに視線を寄せた。
インデックスは上条の横にちょこんと座っている。

「僕から説明するよ」

上条を繋いでいた機械を操作しながら、冥土帰しが口を開いた。

「…………はい」

真剣な表情をして、冥土帰しを見る。

自身の身体に何が起きたのか。
自身が意識を失ってから何が起きたのか。
恐らく妹達が苦しんだのと意識を失っていた自分が回復したのは関係あるのだろうと直感が告げていた。

「君にはある装置を付けておいたよ。首にね」

その言葉を聞くと、上条は自身の首元に手をやった。

「これは…………」

「チョーカーだよ」

意識するまで気付かなかったが、首輪の様な物が付けられている事に気が付いた。

木山から手鏡を渡され、自身の首元を見る。
深紅の綺麗な色をしたチョーカーが掛けられていた。

「これが、何か…………」

「それにはね。シスターズの脳波ネットワークが繋がれているんだよ」

「え…………?」

御坂妹と打ち止めを見る。
二人は上条に頷いて見せた。

「上条君の脳波を見てみれば、常人では考えられない程の脳波の量が検出されてね」

「それは、つまり…………」

「うん。能力者達の脳波が、君の脳に入り込んでいたんだ」

その言葉を聞くと、あの時自身の脳に響いた声を思い出した。




630 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:58:36.35 ID:vnRLT0pDO

「じゃあ、あの時聞こえた声みたいなものは」

「恐らく、能力者達の演算式だろうね」

──…………やっぱりか。

あの時を思い出して、上条は目を瞑った。
聞いた事もない難しい言葉ばかり響いていたのだ。
それは能力者の『自分だけの現実』。
理解しようにも理解出来る筈がない訳だ、と上条は心の中で呟いた。

「それが上条君の脳を圧迫していてね。頭痛の原因はそれだったんだ」

「…………なるほど」

木山の言葉に上条は納得してみせた。
痛み出した当初は少しズキッと来る程度のものだった。

 しかし、能力者に絡まれた人を助けた時や、能力者の近くにいた後、頭痛が激しくなり出した気がしていたのだ。
能力を打ち消した後が、特に。

「でもそれが、妹達の脳波ネットワークっていうのとどういう関係が…………?」

上条が一番聞きたかったのはそれだ。
何故自身が妹達のネットワークの力を借りる事になったのか気になっていた。
そもそも、そんな事が可能なのか、とも。

「そのチョーカー型デバイスはね、シスターズの脳波ネットワークの力を使って君の脳に入り込んでくる他人の脳波を遮断する物なんだ」

「ん…………ん?」

少し難しい単語が出たのか、上条は分からないと言う表情をした。

「お守りの様な物と思ってもらえればいいです、とミサカは補足します」

「お、おお…………そ、そうか」

納得した様な納得していない様な上条だが、取り敢えず妹達の力で自分を補助してくれていると言うニュアンスだけは分かった。




631 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 22:59:54.95 ID:vnRLT0pDO

「でも、さっき御坂妹と打ち止めが苦しんだのは…………」

「…………。 ……それは」

少し冥土帰しが言い淀む。
上条としては、自身の為に御坂妹や打ち止めが苦しむ事など自身が苦しむよりも辛い事だ。
先ほどの苦しみを見れば、恐らくかなりの苦痛だったのだろう。
自身のせいで、こんなにも小さい女の子が苦しむ事になったのかと思うと胸が痛んだ。

「…………っ」

唇を噛む。何だか自身が情けなかった。

「当麻…………」

美琴もそんな上条を思いやり、声を掛けたのだが上条は顔を上げない。

「あれはただ慣れていなかっただけです、とミサカは言い切ります」

「御坂妹…………」

御坂妹が上条の顔を見つめ、口を開いた。

「慣れればどうって事ないです、とミサカは宣言します」

「そうだよ、楽勝楽勝ってミサカはミサカは10032号に便乗してみたりっ」

「打ち止めも…………」

そんな上条を元気付ける様に御坂妹と打ち止めは軽い口調で言う。
効果はあったか、上条の顔色も少し戻った様な気がした。

「すまん…………」

「気にしないでってミサカはミサカはどんと来い!」




632 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/02(水) 23:01:24.80 ID:vnRLT0pDO

途中、御坂妹は冥土帰しを見ていた。

『余計な事は言うな』

それを視線で告げると、冥土帰しも困った顔をしながら頷いていた。

 少し落ち着いたか、上条がチョーカーを指で掛けながら呟いた。

「でも、このチョーカーがねぇ…………」


「実はこの方法を使って、妹達はもう一人サポートしているんだよ」


「へっ?」

素っ頓狂な声を上げ、上条は聞き返す。

もう一人、サポート?
その人物が誰なのだろうと思案するが全く想像が付かない。
自分と同じ様な症状の人間なのかなくらいしか考えがつかなかった。

「君のとは逆で、演算出来る様にシスターズで補助しているんだよ」

そんな事も出来るのか、と上条は驚いた。

「まあ、勝手に言ったら彼に怒られてしまいそうだからね。聞きたかったら本人に聞くんだよ?」

「彼…………?」

一体誰なのか。想像もつかなかった。

「まぁ取り敢えず今はゆっくり休みなさい。また倒れでもしたらこの子達が泣いてしまうからね?」

冥土帰しがそう言うと、上条の視線にはまず美琴が映る。

「う…………確かに。心配掛けてすまなかった」

ちょこんと頭を下げる。
今ならインデックスの噛み付きも甘んじて受けようという心意気でもあったのだが────。



   上条を包んだのは別の感触だった。




634 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/02(水) 23:06:02.44 ID:x9kfMFNho
つーか上条さん超絶チートじゃねぇかww




638 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:19:58.67 ID:CjNZCsaDO

 上条の頭を包んだのは柔らかい感触。

「え、え………………」

「当麻が無事で、良かった………………」

今まで上条が耳にした事のない程の優しい声。
そしてその声は、上条が一番聞きたかった声だった。

「み、さか………………?」

頭を包む柔らかい感触が心地良い。
こんなにも安心する場所は他にもあるのかと思うくらい、心地良い。

だが。

心地良いからこそ、複雑だった。

「…………離してくれないか?」

「………………ヤだ」

「おい………………」

美琴がギュッと抱き締めている上条の頭に力を込めれば込める程、上条は安心感と戸惑い、恐怖感と言った色々な感情が強くなる。
疑心暗鬼に陥り、心のモヤモヤが増していった。

「俺じゃないだろ?」




639 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:20:48.23 ID:CjNZCsaDO

「え………………?」

その言葉に美琴は上条の頭を離し、視線を合わせた。

「こう、したい相手。俺じゃ、ないんだろ?」

「………………っ」

美琴が何故今こんな行動を取っているのか分からない。
しかしそれは恐らく、一種の感情の揺らぎ。
たまたま近くにいた人間が倒れて、回復して。
その相手が安らぐ様な行動をきっと無意識に取っているだけなのだろう。

レベル5の第三位サマは、優しい普通の女の子なのだから。

 あの実験が起きて全て自分の責任の様にして、誰も傷付かない様に一人だけで朽ち果てようともどうにかしようとしていた、温かい心を持った女の子なのだから。

そしてようやく持った心の拠り所は、彼女に似合う爽やかな少年だ。

「違うんだろ? だから、やめよう。 …………な?」

救いようの無い。
自分で投げ掛けた言葉に自分が心痛くなってどうするのだ。
でも、この少女の事は何よりも大切だ。
だから、心をも守ろうと思った。

ポン、と美琴の肩を軽く叩いて離そうとする。





「………………わよ」



「え………………?」



──当麻しか、いないわよ………………!





美琴は、そう口にしようと思ったのだが──────。



「オイ」



白髪の少年の声が響き、場の視線は全員それに集中した。




640 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:22:19.85 ID:CjNZCsaDO

「あっ、おかえり!ってミサカはミサカは飛び付いてみるっ」

「反射」

「ひゃんっ」

打ち止めをかわし、場に姿を現した一方通行。
彼は上条と美琴の様子を見ると、しまったと言う顔をした。

「ひょっとしてお邪魔でしたかァ?」

「うん、お邪魔さんだったかもってミサカはミサカは頷いてみたり」

「いえ、ナイスタイミングでした、とミサカは称賛を送ります」

おちゃらけた様子で返事をした打ち止めと御坂妹。
ぶっちゃけ御坂妹の方は少し本気でそう思っていたのだが。

場に姿を現した少年の姿と、仲良さそうに話し掛ける打ち止めと御坂妹の様子に上条は驚いていた。

「あ、一方、通行…………?」

一方通行はそれを見て何か気まずいか苛立ちかよく分からない顔をしていた。

「何で、お前がここに…………?」

「彼も君を救う為に一役買ってくれたんだよ」

「え…………、え?」

冥土帰しの言葉に上条は更に混乱した様子だ。




641 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:23:25.28 ID:CjNZCsaDO

 上条も美琴と共に、あの実験以降顔は合わせてはいない。
一方通行のその後、打ち止めや妹達との顛末を美琴と同様に知らないのだ。

故に、あの実験時の一方通行の姿しか知らず、上条が戸惑うのは当然の事だった。

「勘違いすンじゃねェぞ。テメェを助ける気なンざさらさら無かったンだがな」

「…………そう言いながらも一番大変な役を返事一つで引き受けた癖に、とミサカは呟きます」

「あァン?」

ボソッと呟いた御坂妹の言葉が一方通行の耳に届いたかは定かではない。
しかしそれよりも一方通行は気になった事があった。

「ンな事はどうでもいい。何でドアがぶち壊れてそこの壁に穴が開いてンだよ」

尋常ではない衝撃があったかの様な痕跡。
正しくそれはここで戦闘があった事を示している様で、一方通行はそれが気になっていた。

「あ、ああ…………外人の男が襲い掛かってきたんだが…………」

上条の目がそこで見開かれた。
美琴達もその様子に吹き飛んだ扉の方に目を向ける────。










「………………いない……?」

そこに倒れている筈の異形と男の姿が無かった。




642 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:24:52.47 ID:CjNZCsaDO

──…………しくじった。

上条は心で呟いていた。
いくら余程の力で吹き飛ばしたとは言え、魔術師とその仲間らしき化け物の様なモノが直ぐに息を吹き返しそうだと言う事を見落としてしまっていた事に。

自身の身体の事と、美琴への気持ちや戸惑いに気を取られ過ぎてしまっていた。

「外人の男だァ?」

「うん、後ろから羽交い締めにされたんだよってミサカはミサカはちょっと思い出して怖くなってみたり」

「………………んだと?」

そこで一方通行の肩がピクリと動いた。


「(やっべ、セロリがブチ切れてます、とミサカはあなたに耳打ちをします)」


「(ん? どうしてだ? ってかセロリって何だよ?)」

「(セロリはセロリです。まぁ、色々ありまして。上位個体を傷付ける輩に容赦ないんですよセロリは、とミサカは教えます)」

「(何でそう言う経緯になったのか知りたいが、あの様子を見る限りそうだよな…………)」

「(ね、ねえ……アンタ達何ボソボソ話してるの……?)」

隣で内緒話をしているのが気になったのか、美琴が参加しようとしたのだが。



「……………ごめん、なんだよ……」



「…………インデックス?」

インデックスの懺悔の様な謝罪の言葉が場に響き渡った。




643 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:26:41.38 ID:CjNZCsaDO

「どうしたのよ? インデックス…………」

全員の視線がインデックスに集まる。
…………いや、俯いた上条を除いて、だった。

「らすとおーだーを危険な目に合わせたのは、私が原因、なんだよ…………」

「………………シスター。どういう事だ?」

ポツリポツリと話し始めたインデックスに一方通行が聞き返す。
打ち止めも一方通行の隣で頭に疑問符を浮かべていた。
インデックスは申し訳なさでいっぱいだった。

「私、狙われているんだよ…………魔術師に」

「魔術師だァ?」

「魔術、師…………?」

「お、おい…………インデックス…………」

心配そうに上条がインデックスを呼び止める。
魔術の事は何としても隠さねばならない事ではない。

しかし、インデックスの頭の中に秘める10万3000冊の魔導書────。

これだけは、大っぴらに出来る訳がない。
話の流れからそれが出てしまうのかを上条は懸念していた。

このメンバーに知られる事には大した問題にはならないのだが、なるべくなら秘密にしておきたい事実。
それを知ったが故に、と言う美琴達に被さる危険性も危惧していた。




644 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:28:23.74 ID:CjNZCsaDO

「さっきも当麻が言ってたけど、魔術師、って…………」

「あ…………」

──あー、またドジ踏んでいたか。

「私がここにいるのは、狙われていたのをとうまに助けてもらったからなんだよ」

インデックスが表した『ここ』とは、学園都市の事だ。
この東京都の三分の一を占める学園都市は、能力開発を夢見た学生達でひしめき合っている。
その中にポツンといる修道服姿の異国の少女は、確かに奇特にも見えていた。

「インデックスが、どうして狙われているの…………?」

「それは…………」

美琴の言葉にさすがにインデックスも言い淀んだ。
上条が口煩く口外しない様に言い付けていて、彼女もやはり自身が宿す魔導書を危険に感じてあまり人に話したりはしなかった。

 以前の上条に出会った当初の頃はペラペラ上条に話していたのだが、消えゆく記憶と言う状況が彼女を後押ししていたのが原因だったのかも知れない。
しかし記憶を消さずに済んで以降、いや、自身のせいで上条が深く傷付いたのを見て彼女の心境にも変化が起こっていた。

「…………ううん、答え辛いんなら、言わなくてもいいわよ…………インデックス」

「みこと…………」

「御坂…………」

辛そうにしていたインデックスを見かね、美琴は聞くのをやめた。
確かに原因は気になる。
しかし言いたくない事を吐かせる様な事をしたくはなかった。
それに…………。

それに。

上条も、何だか辛い顔をしていたからだった。




645 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:29:25.45 ID:CjNZCsaDO


「…………チッ。とにかく、外人の男とやらを探しに行く。先に見つけたらすぐ俺に知らせろ」


その雰囲気を見て、一方通行がそう言うと踵を返し、扉があった筈の部屋と廊下の仕切りに歩き出した。

「当麻」

「どうした、御坂?」

そんな一方通行の背中を見ていた美琴が呼び、上条は返事をした。

「名前で…………呼んでくれないの?」

美琴に視線を向ける。美琴も上条を見ていて、目が合った。

「…………俺がそういう訳にもいかんだろ」

そう呼べるのは、呼んでいいのは一人だけだ。
自分が呼ぶ訳にはいかないだろう?と視線に意味合いを含めて見つめる。

「…………っ」

言葉が詰まった様に間が出来たのだが、それは一瞬の事。

「私もさっきの男を探してくるわ。当麻はここにいて」

「お、おい、御坂…………」


「色々…………後で話したい事あるから。大丈夫、すぐ戻って来るわよ」


心配するなと言う表情を作り、美琴は上条の手を握る。

「………………」

そんな美琴の様子に、上条は何となく頷くしか出来ないでいた。




646 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:30:40.68 ID:CjNZCsaDO

「一方通行!」

 自分を呼ぶ少女の声に一方通行は振り向いた。

「あァン、オリジナル? 何でテメェが来てやがンだ?」

杖を付きながらも歩く速度が速く、美琴は走って来ていた。

「私も探すわ」

「いらねェ。三下とイチャついてればいいじゃねェか」

「い、イチャ…………///」

「………………チッ」

顔を赤く染めた美琴を見て面倒臭そうに一方通行は舌打ちを打った。

 一方通行はどうにも美琴と接するのが苦手だ。
出来れば、関わりたくはない。
妹達の件を思い返せば、自分がどう接していいのか分からなくなる。
そんな弱くなった自分を見るのも嫌だったのだ。

「あのさ…………」

「………………」

「ありがと、ね…………?」




647 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:31:46.56 ID:CjNZCsaDO

「はァ?」

──何を言っているンだ? コイツは。

突然礼を告げた美琴が一方通行は意味が分からなかった。
蔑み、罵り、憎しみ、妬み。
てっきりそんな言葉が飛んで来るのかと思いきや真逆の意味の言葉だった。

「何考えてンだ? テメェは。俺が妹達にした事忘れた訳じゃねェだろォな?」

「そんな事分かってるわよ…………憎んでるわよ、勿論。忘れられる訳ないじゃない」

「それがさっきの言葉は何なンですかァ? 三下心配しすぎてネジでもブッ飛ンだンですかァ?」

全く意味が分からない。理解不能だ。
礼など言われる謂れもないし、言ってほしかった訳でもない。
溜め息を吐きながら出た自分の言葉。
打ち止めにいつも言葉遣いを何とかしてと言われてはいるが直すのは無理な話だ。

「…………当麻を、助けてくれて。打ち止めを、助けてくれて」

一方通行の眉がつり上がった。

「…………オイ。聞いたのかよ?」

打ち止めを、助けてくれて。
その言葉が示す意味は、美琴は全てを知ったのかどうかという事。
打ち止めか妹か、どちらかが話してしまったのだろうか。

「やっぱり、助けてたのね」

「…………あァ?」

──…………知ってはいなかったのか? コイツ────。

そこで一方通行は気付いた。自分が、かまをかけられた事に。




648 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/03(木) 23:33:22.68 ID:CjNZCsaDO

「妹達と何があったのかは知らないけど、妹達、特に打ち止めがアンタになついているじゃない? あの実験を覆す様な何か大きな事が起きたのね?」

「………………」

「無言は肯定と受け取るわよ?」

「チッ」


何か無性に苛々してきた。
何故かは分からないが、無性に、だ。


「何があったのかは知らないけど…………言っておくわ」


あぁ、そうか。この苛々は自分に対するものか。



「ありがとね」



お礼された事に心がスッとした様な感覚を覚えた自分の心にか、と。




689 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:09:31.72 ID:IHKgETkDO

「泣くなよ…………」

あれからインデックスは涙を流してしまい、インデックスの頭を打ち止めが撫でていた。

「大丈夫ってミサカはミサカは気にしてないよ」

「…………ごめんね? ごめんね……グスッ」

木山と冥土帰しと御坂妹もどうしたもんだかとお互い顔を見合わせていた。

「とにかく、御坂と一方通行の第三位サマと第一位サマが動いてくれてんだ、これ以上安心出来るもんはないだろ?」

「うん………………」

「よく考えれば、物凄いな…………」

木山の呟きに上条も苦笑いだ。
確かに凄い。凄すぎる。




690 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:10:35.49 ID:IHKgETkDO

学園都市の広告塔の様な存在の230万人の中の三位の美琴。
更にはその上の最強と言う名も欲しいままに頂点に君臨する一位の一方通行。
そんな二人が揃ってこの部屋にいた。
そして、揃って上条と言う一人の少年を救う為だけに尽力している。

「ふむ…………贅沢にも程があるな」

「俺なんかにゃもったいないっすよねー…………はは」

溜め息と共に吐き出された木山の言葉に上条は苦笑いした。

 しかし何故この上条にこんなにも人が集まるのか、木山は何となく理解していた。

彼の人望、人柄、優しさ、強さ────。
そのどれもが人のそれよりずば抜けていて、尚彼は自慢気にする事無く、虚栄する事も無く、押し付ける様子もおくびにも出さない。
そうするのが当たり前かの様に、無自覚でやってのけてしまう。

だからこそ、上条の周りにはこんなにも人が集まって来るのだろう。
第三位だろうが第一位だろうが関係なく、隔たりなく接してしまう。
様子を見る限り一方通行とはまだそうはいかないのだろうが、ゆくゆくはそうなっていくのを何故か容易に想像出来てしまっていた。

「全く、君と言う少年は」

「へ…………何か悪い事しましたかね」

「したさ。だからこそ早くその身体を治してしまえ」

「………………そう、ですね……面目無いです」

申し訳無さそうにした上条を見るが、木山は微笑んでいた。

──人として、何が大切かを既に弁えているこの少年の未来はきっと明るいものになるのだろう。

「…………頑張るんだ、御坂君……」

「ん? 御坂がどうしました?」

「いや、何でもないよ」

ふと無意識の内に、そう呟いていた。




691 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:11:31.84 ID:IHKgETkDO

「あれ、黒子?」

「お姉様!?」

一方通行と共に周りを警戒しながら歩いていると、風紀委員の腕章を着けた彼女の相部屋の少女の姿が目に写った。
黒子の方も何故美琴がここにいるのかと驚いていた様だった。

「何、これ…………」

周りを見れば大量の先ほど見た化け物の様な異形の屍。
それを黒子が呼んだアンチスキル達が片付けていたが、夥しい血や体液らしき液体、そして崩れかけている壁や扉を見て美琴の顔色は驚愕を示していた。

「ここでドンパチやり合ったんだにゃー、超電磁砲。カミやんは無事か?」

「あれ、土御門…………舞夏のお兄さん。アイツは無事です……って知ってたんですか?」

「まあな。それにしてもよかったにゃー」

美琴に話し掛けた土御門は、椅子に座り看護師らしきナース姿の女性に手当てを受けていた。
美琴は知らない事なのだが、海原と結標がいた筈なのだが別室で治療を受けている為か、現在この場にはいなかった。

「あれ、一方通行じゃん」

「チッ、黄泉川…………やっぱいやがったか」

一方では一方通行の同居人でアンチスキルに所属している土御門と上条の通う高校の教師、黄泉川が一方通行の姿に気付いていた。

「黄泉川。外人の男を見なかったか?」

「いや? 見たのは外国の女だけじゃん?」

黄泉川は親指で後ろを指差し告げる。
そこにはちょうどアンチスキルに連行されていく女の姿があり、美琴もそれを見ると思案顔をした。

「黒子はどう?」

「いえ、私も見ておりませんの」

「そっか……」

「あの女も共犯者がいるらしき事を言ってたんですの。私も探しますの」

空間移動の黒子がいれば心強い、と美琴は頷いた。




692 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:12:33.63 ID:IHKgETkDO

「あの、お姉様。お姉様はどうしてここに?」

「それは…………」

美琴が何故ここにいるのか。
何となく黒子は予想が付いていた。
何故かは分からないが、何となく。

「いらっしゃるんですのね? あの類j……上条さんがここに」

「………………うん」

「やっぱりですの」

溜め息を吐く黒子に、美琴は少し気まずい気持ちを抱く。
以前、自身が黒子の前で上条に告げた酷い罵倒がまだ美琴の頭の中でこびりついている。
心にも思ってない言葉を、言いたくもなかった言葉を彼に浴びせてしまった事を思い出してしまっていたのだ。

「全く、お姉様は…………お姉様の頭の中は上条さんしか無いんですの?」

とは言いながら黒子の内心は実は軽い。

 冷たい言葉を浴びせたあの時の美琴と、今上条がいるからと言う理由でこの場にいる現在の美琴と。

決定的に、顔付きが違っていた。

何時仲直りの様なものをしたのかは知らないが、恐らくあの時とは状況が違うのだろう。




693 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:13:28.65 ID:IHKgETkDO

あの時の美琴と、今の美琴。
どっちが黒子の大好きなお姉様?と聞かれれば答えは既に決まっている。

「そっ、そんな事無いわよ…………!///」

ほら、これが何時ものお姉様だ。
しかし悔しいので安心した様子はしてやらない、と黒子は決め込んでいた。



「カミやんも隅には置けないんだにゃー」

「ん?上条って、あの上条か??」

その他二人はそんな事を呟いていたらしいが。




694 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:14:23.94 ID:IHKgETkDO

「チッ。ンな無駄話なンかしてる時間はねェ。置いてくぞ」

不機嫌な様子が彼にとっては普通なのだろう。
美琴と黒子はお互いに顔を合わせ、苦笑いを浮かべた。
しかし彼の言う事ももっともで、彼女達は背を向けた一方通行の後に続こうとしたのだが──────。


ドォォォォォォン!!!


「!?」


連行する為に女を乗せた車の方から、突然爆発音の様な音がした。



「うわっ!?」

「きゃっ!?」

「な、何だ!?」

場にいる人々の騒然とする声が響き渡る。
美琴達が壊れていた扉の外に目を向けると、異形達よりも更に一際大きい異形の車を破壊している姿が目に飛び込んできた。

「無事だったか?」

「ええ。何とかね」

そしてその横には、あの異国の男が女の手を引き車から連れ出していた。

「あ、あの外人!」

男と女は美琴達を見ると、ニヤリと顔を歪ませた。
異形はいまだに暴れていて、取り押さえにかかったアンチスキル達が吹き飛ぶ。
そして男と女は、ゆっくりと再び病院内に踏み込んで来た。




695 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:15:16.28 ID:IHKgETkDO

一方通行はチョーカーに手を掛け、美琴は電撃を手に宿し、黒子は構えて戦闘体勢を取った。

「気を付けて。男の方は魔術と呼ばれるものを使ってくるわ」

「ま、魔術?」

「あァン?男の方とやり合ったのか?」

「さっきは当麻が吹き飛ばしたけどね」

「三下がか?」

「…………、うん」

超電磁砲を使って、とは言わなかった。
今はそれよりも、先に異国の男女を迎え撃つのが先決なのだ。

 男の戦闘スタイルはまだ詳しくは把握していない。
しかし先ほど見せた様な、よく分からない能力────恐らくあれが魔術と呼ばれるものなのだろう。
女の方も、恐らくそうだろう。
そしてその後ろで暴れ終わったのか、男女の後に付いてくる異形。
異形の方は見る限り戦闘という戦闘はしない。ただ襲い掛かるだけ。
しかし鍛えられたアンチスキル達を吹き飛ばす程の力を持っているのを見ると、掴みかかられるのは避けなければいけないだろう。

「私もやるじゃんよ!」

「俺もいるぜい」

黄泉川と土御門も揃って美琴達の横に並んだ。
しかし土御門の方は手当てを終えたばかり。まだ痛むのだろう包帯を巻いた腕からは血が滲んでいる。

「土御門さん、あなたはその傷では…………」

「心配ご無用だにゃー。何せこっちには超電磁砲と一方通行がいるんだぜ」

「あの、この方はやはり…………」

そうだ。土御門の言う通り、こちらにはあの一方通行がいる。
黒子も一方通行と言う単語を聞いて、驚いた様な顔を見せた。
恐らく噂には聞いていたのだろう。第一位の通名、一方通行という話を。




696 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:16:01.52 ID:IHKgETkDO

 かつての敵だった筈の憎き第一位。彼が味方についているのだと思うと、これ以上安心出来るものはないのだった。

「クク、ククククク…………」

しかし男の方から、突然笑い声が聞こえてきた。

「第三位と第一位が揃ってここにいるとはな…………どれ、こいつでも試してみるかな」

男がそう言い、ポケットから何かを取り出そうとする。
それを見た美琴達は、更に腰を落として身構えた。

「あれは、何ですの?」

男が取り出したのは小型トランシーバーの様な大きさの黒い箱形の機械。
アンテナが付いていて、男はそれを伸ばす。

「そんなのが本当に効果あるの?」

女の方も疑問の声を上げてそれを怪訝そうに見ていたが、男は構わずそれにスイッチを入れた──────。





キュイイイィィィィン──────。





「……………………ぐっ!?」

「チッ………………!?」

「あぐ…………っ……!?」

「ははは!ご覧の通りだ!」

その機械から発せられた超音波の様な高音に、一方通行、美琴、黒子の三人が苦しそうに顔を歪ませた。




697 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:17:15.37 ID:IHKgETkDO

「キャパシティダウンか!」

「ご名答。お前に効かないという事はお前は無能力者という部類か?」

即座に言い当てた土御門、男は含み笑いを持たせながら言う。

 キャパシティダウン。能力者の演算を阻害する音響兵器の事だ。

「だが超電磁砲や一方通行程の能力者に効くキャパシティダウンは持ち運び出来ない筈だ…………!」

土御門の言う通り、彼らに効く程の完成型のキャパシティダウンは大型化し、易々と持って歩けるものではない筈なのだ。

「ククク。この化け物共を造る技術を提供した研究者がな、これも持たせてくれたのだよ」

「ぐ…………!」

「う…………あ…………!」

「大丈夫か!?」

とうとう蹲ってしまった美琴と黒子に、黄泉川が駆け寄る。

「誰だよ、そのクソ研究者は…………!」

土御門が苛立った顔を隠しもせず、男と女を睨み付ける。
そこまで情報、技術を漏洩してしまっている研究者というのは、間違いなく『グループ』の標的にされる程の学園都市にとっての悪人の筈なのだがそんな仕事はした事が無かった。

「噂によれば、そこの第一位に殺されたみたいなんだがな。ま、そんな事はどうでもいい。通してもらうよ」

男がそう言うと、パチンと指を鳴らす。それを合図に異形が土御門に向かって飛び出していた。




698 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/05(土) 23:17:44.15 ID:IHKgETkDO

「!? くそっ!」

巨体の割りに予想以上の素早い動き。更には痛む身体の為に反応できず、異形のなぎはらう腕を避ける事が出来なかった。

「ぐはぁっ!!」

「土御──────」

その様子を見て黄泉川も叫ぼうとした瞬間、一瞬で移動してきた異形に突き飛ばされ、黄泉川を吹き飛んでしまった。

「がっ!!」

「雑魚には用は無い。とっとと通してもらうよ──────」







「おい、てめぇら………………いい加減にしろ」




男と女が歩こうと足を踏み出した瞬間、その声が響き渡った。




710 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:50:44.54 ID:Zqh8XHEDO

「ぐ…………と、当、麻…………?」

何故ここに────。
拳を握り締めている上条を見て、美琴は苦痛に顔を歪ませながらも声を上げた。
上条も美琴に目をやると、拳に更に力を込める。
ギュッと力強く握り締めたそれは、怒りに震えていた。

「『幻想殺し』、まさか貴様の方から来るとはな」

「うるせぇよ魔術師。さっさとそれを止めろ」

男の言葉に被せる様に上条は吐き捨てた。
美琴達を苦しめるものはどういうものかは分からないが、恐らく男が手にしている機械の様なものだろう。

「貴様にはこれが効かないのか?」

キャパシティダウンが効いてない様子の上条に男は驚いていた。

上条の手に宿す幻想殺し。
魔術でもない、能力でもない、原石でもない上条の生まれつき持っている力。
その力はいまだ詳細不明で、上条自身もよくは分かってはいない。

しかし今はそんな事はどうでもいい。

「………………っ」

自身の持つ力の些細な事など上条の頭には無い。
美琴が苦しんでいるのだ。
男をぶっ飛ばし、美琴を苦しめる機械を壊す────それしか上条の頭には無かった。




711 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:51:39.52 ID:Zqh8XHEDO

「三、下ァ…………妹達は、無事、か……?」

「……部屋にいたら急に苦しみ出してな。飛び出てきちまった」

キャパシティダウンの音が上条達のいた部屋にも届き、御坂妹と打ち止めも頭を押さえて蹲っていたのだ。
それを見た上条は嫌な予感のまま飛び出してきたのだが、やはり、美琴も苦しんでいた。

グッ──────。

右手を握り締める。強く、深く。血が出るほど。


「まあいい。殺れ────」


「グオオオォォォッッ!!」

男がそう言い、上条に指を差すと異形が飛び掛かってきた。

「カミやんッ!」

異形の巨体に似合わぬ俊敏性で上条の首目掛けて獰猛な爪が襲い掛かる。
しかし上条は顔色一つ変えずにそれを見ていて──────。

ガギンッッ!

上条に触れた瞬間、異形の爪が吹き飛んだ。

「チッ、やはりか」

「ちょっと!どういう事よ!?」

男が舌打ちをし、女は顔を驚愕に歪める。

「なっ…………!」

「カミやん…………!?」

一方通行と土御門も驚きを隠せず、目を見開く。
美琴も先ほど見た光景なのだが、やはり彼らと同じ反応をしていた。




712 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:52:48.01 ID:Zqh8XHEDO

そして吹き飛んだ異形に手を向け、上条は力を込める。

「………………」

「ヌグアアァァァッッ!」

学習能力が無い故か、再び上条に向かい異形は突進する。

「な、何だ…………!?」

しかし突如、場の温度が跳ね上がったかの様に熱くなり出す。
男は何事かと上条に目をやり、そして理解した。


上条の突き出した腕が、高温で蜃気楼の如くゆらめいている。
そして、炎が渦巻き始めた。


「ば、バカな…………!」

「幻想殺しが何で…………!?」

情報が違うとばかりに男と女は焦り出す。
幻想殺しは、魔術は使えない筈なのに…………。


「…………まじかよ…………あれは、ステイルの…………!」




上条の手に現出したのは、『必要悪の教会』の魔術師、ステイルの技の筈の炎剣だった。




「はっ!!」

上条は出来た炎の剣を襲い掛かった異形に振り払う。

「ウガアアアアァァァァッッ!?」

異形の身体が切り刻まれ、そこからたちまち炎が噴き出した。




713 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:53:56.04 ID:Zqh8XHEDO

「畜生!何なんだあいつは!?」

パチパチと音を立て、やがて真っ黒の炭になって物言わない骸となってしまった異形。
そんなとてつもない光景を見せつけられ、男と女は危険を感じずにはいられなかった。

「当、麻…………?」

美琴の苦しそうな声が上条の耳に届く。
上条はハッとし、美琴に目を向け駆け寄ろうとしたが。






ビクッ──────。






美琴の身体が一瞬震えたのを見逃さなかった。
美琴の目に浮かんだのは、畏怖の色──────だろうか。

「………………っ。すまん、まだ辛いんだったな……」

男と女の方に目を向けると、背中を見せ逃げ出そうとする姿が写る。
それを見た上条は、文字通り一瞬で男と女の目の前に移動していた。


「なっ!?」

「きゃ!?」

突然目の前に現れた上条に男は立ち止まり、女は尻餅を付く。




714 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/06(日) 01:54:46.58 ID:d5ScQ59Ao
上条さんまじチート




715 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:54:56.30 ID:Zqh8XHEDO

「テレ、ポート…………?」

それに気付いたのは黒子。
上条には使えない筈の彼女の能力である空間移動によって上条が移動したのを苦しみながらも理解した。

「カミやん…………?」

土御門も驚きを隠せない。

「………………」

「チッ!や、殺れ!」

そして何処にいたのか、上条の後ろに現れた片腕の無い異形に男が命令し、腕を振り下ろす。

しかし上条はそれを避ける事なく、振り下ろされた腕を振り向きざまに掴み、簡単に止めた。


バチッ──────!!


「ヌガアアッッ!?」

突然稲光の様な閃光が一瞬轟き、異形の身体は崩れ落ちた。

「切れ」

それに目を向けず、上条は冷たく男を見下ろす。
上条が言っているのは美琴を苦しめる、キャパシティダウンの装置だった。

「畜生!『Del.』!」

もう破れかぶれか、男は再び紙切れを上条に投げつけ、光の矢を作る。

「もう一度言う。切れ」

しかしそれが上条の身体に当たった瞬間、逆に男の脚に突き刺さった。




716 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:56:14.93 ID:Zqh8XHEDO

「ぐああああッッ!?」

「ひいいぃぃっっ!?」

何が起きたのかは分からない。
男の脚に穴が空き、焼けた様な音と共に血が吹き出た。
女はもう悲鳴を上げる事しか出来ない。

「………………」

男はまたもや抵抗を見せようとする。
上条はそれを見ると溜め息を吐きながら、仕方なしにキャパシティダウンの装置を壊す為に電気を宿したのだが。









「上条君!もう能力は使うんじゃない!!」

木山の声が響き渡った時に──────。







「ぐあっ!?」





上条に再び、あの症状が襲い掛かった。




718 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:57:18.87 ID:Zqh8XHEDO

「と、当、麻…………!?」

「上条君!?」

その場に膝を付き、頭を押さえて上条は苦しみ出す。

「ぐああああっっ!?」

「うおおっ!?」

「きゃああっ!?」

彼の苦痛の叫びと共に、爆発の様な衝撃が上条を中心に巻き起こり男と女は吹き飛んだ。

「くっ!?」

衝撃に腕で顔を押さえ、何とか堪えた木山の足元に小さい機械の様なものが転がってきた。

「これは…………!?」

それを見た瞬間、一瞬で把握した木山はすぐさま拾い上げ、美琴達を苦しめるそれの電源を切った。

「キャ、キャパシティダウンの音が…………」

「消え、たか…………」

脳に直接響かせる不協和音が消え、美琴達は苦痛から逃れられた。

………………しかし。





「当麻っ!!」



「うがああああっっ!!」


苦しみ悶え出す上条に美琴が駆け寄ろうとするが、一瞬怯んでしまう。




719 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:58:22.32 ID:Zqh8XHEDO

──な、何で…………私…………?

何故足がすくむ。彼が身体をおして救ってくれたというのに。
何で、何で。

「うぐああああっ…………!」

苦しむ上条を目にして、自分は何を考えてしまった?

怖い──────

誰が?

カレガ──────

自分の知らない魔術の世界に身を起いてきた上条。
魔術を使い、火を出した上条。
一方通行の反射や黒子の空間移動を行使した上条。
そして、超電磁砲を撃った上条。
…………しかし。

それがどうしたと言うのだ?

彼は人を助けようとしただけなのに。
あれだけ突き放した自分にも優しく気に掛けてくれたのに。

何故、私は──────。



しかしそんな美琴の考えも途中で止まる。




720 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:59:15.01 ID:Zqh8XHEDO

上条の様子がおかしい。
苦しみ方が、違う。

「当麻ぁっ──────ぐっ!?」

決心し、上条に駆け寄ろうと美琴にバチッ!と電撃の様なものが起き、身体を止めさせられた。





「え……………………?」



そして突然、様々な事象が上条を中心にして巻き起こった。

電気、炎、水、風、光、影──────

「ぐああああああっっっ!!??」

そしてそれは一際彼の絶叫とも取れる叫びと共に、彼に降り注ぐ様に集まり目映い光が発生した。




721 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 01:59:56.04 ID:Zqh8XHEDO

「くっ…………!?」

「一体、何が起きてますの…………!」

木山や黒子達も堪え切れずに、目を覆い隠す。
サングラスを掛けている土御門でさえ、直視出来ない程だった。

「チッ!!」

一方通行がチョーカーに手を掛ける。
上条を包む力を操作してやらねばならない。
このままいけば、上条は………………。

木山も上条の身に何が起きているのかを直感で察知する。

──AIM拡散力場が暴走している…………!?

あの後に発現してしまった、『幻想猛獣』。
しかしあの力の渦巻き方とはまるで違う。
規模は、比べ物にならない。

「当麻!?当麻ぁっ!!」

美琴からも悲痛の叫び声が聞こえる。
上条が苦しむ事への悲しみと、躊躇してしまった自分への怒りと。
一言では言い表せない苦悩が美琴を支配していた。



「ぐあああああああああぁぁぁっっ!!」



そしてその叫び声と共に、上条は光る竜の様なものへと姿を変えていった──────。




733 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:37:11.97 ID:Zqh8XHEDO

「当、麻………………?」

「御坂君、危ないっ!!」

 呆然と立ち尽くす美琴に、木山が駆け寄る。
出現した竜に取り巻く力のせいか、崩れた壁の破片が舞っていた。
木山が美琴の手を連れ、中の方へと下がらせると、一方通行が一歩前に踏み出た。

「カミ、やん…………?」

魔術、科学共に詳しい土御門でさえも上条の身に起きている事が理解出来ない。
いや、理解する云々の問題ではない。
変わっていってしまった親友の姿に土御門も呆然としてしまい、ただ見る事しか出来なかった。

「あれは…………幻想猛獣、なんですの……?どうして、上条さん、が…………」

黒子もただ見守るしか出来ない。
竜は少しずつ形を形成していった。

そうしている内に、場に二人の声が響く。

「一方通行!」

「あれは…………まさか!」

打ち止めと御坂妹が姿を現し、二人も上条だったであろう姿を見て驚愕していた。

「打ち止め!ここは危険だ!テメェは来るンじゃねェ!」

打ち止めの姿を見て、この場は危険だと判断した一方通行は咄嗟に下がらせる。
寄ってきた打ち止めを背中に回し、一方通行は身構えた。




734 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:38:13.58 ID:Zqh8XHEDO

「お、お姉様がもう一人!?それにこっちは小さなお姉様なんですの!?」

その二人に黒子はまた驚き、そして察知する。

クローン────。

先ほど耳にしたあの単語。
そっくりなこの二人は、恐らくそうなのだろう。
だがジャッジメントと言う気持ちからか、今はそれよりも一方通行と同じく、危険なこの場からどうにかせねばならないと言う思いが先行した。

「あの人、代理解除振り切っちゃったよ!あなたはどうするの!?」

打ち止めが叫ぶ。

「テメェらはどっか避難してろ!」

一方通行は答え、チョーカーのスイッチを入れた。

──チッ!!充電が残り少ねェ…………!

チョーカーに残された充電ももう残り僅かしかない。
相手は幻想猛獣の様なものだ。
しかも恐らく、自分なんか比較にならない程の力を持っているのだろう。
しかし、だからと言って引ける訳は無い。
暴れるかどうかは分からないが、完全に形成されたそれを見る限り、恐らく暴れるだろう。

「グルルルル………………」

翼を生やし、大の大人の二倍くらいはあるであろうその身体。
獰猛な牙と爪を剥き出しにして、辺りに視線を送っている。





そして、一方通行を先頭とする集団が目に入った瞬間、竜はその口を大きく開けた──────。





「グアアアアッッ!!!」

「クソッ!?」

竜の口から火が飛び出し、一方通行は食い止めようと手を突き出した。




735 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:39:15.20 ID:Zqh8XHEDO

もし。
その炎に幻想殺しが宿っていたとしたら────。

嫌な予感が一方通行の脳裏をよぎる。
幻想殺しが宿っていたら、反射、解析、操作も何も出来ずに焼かれるだろう。
しかし後ろには打ち止めがいるのだ。

例え焼かれたとしても、守らねばならない──────。

「ぐッ!!」

反射は………………効く!

しかしどういう事か、全ては反射し切れない。

「クソ…………があああァァッッ!」

反射し切れない分を解析して、操作し方向をずらす。
手が焼かれ、やがて痛みが感じ出したが一方通行は突き出した腕を下ろしはしない。

「三下がァァッッ!」

怒号と共に、その炎を弾き返した。

「一方通行!!」

打ち止めの声に無事だったのかと安堵するが、気を抜く暇はない。

「当麻…………」

いまだ呆然としている美琴の声が耳に届く。

「チッ…………」

ダメだ。
今の美琴は使い物にならない。
この状況では猫の手も借りたいほどだ。




736 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:40:25.02 ID:Zqh8XHEDO

無能力者の土御門、黄泉川。彼らは怪我もしている。
空間移動能力者の黒子。
そして、超電磁砲の美琴。
打ち止めと妹達は演算補助にて参加はさせられない。
状況のまずさに一方通行は苦虫を噛んだ。

しかし、ここでこの竜を止めなければ…………恐らく、全員殺されてしまう。

あの上条がそんな事をする人間だとは思わない。
しかし今はそう考えねば、そうなりかねないのだ。
それに、あれは今上条などではない。

ただの、化け物なのだ。





しかし。





「一方通行!充電が…………!」



「クソッ────────!?」




とうとう、一方通行の演算を補助するチョーカーの充電が………………切れてしまった。




737 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:41:26.49 ID:Zqh8XHEDO

──クソ…………!

「一方通行!!」

 演算補助が効かなくなり、薄れ行く意識の中で打ち止めの叫び声が届く。

ズサッと音がして、自分が倒れた事だけは分かった。

──…………俺は結局、誰も守れねェクソタレの三流の悪党、なのかよ……?

竜が倒れた一方通行を訝しげに見ている。

──三下ァ…………テメェはそンなに、むやみやたらに誰かを傷付ける奴だったのかよ…………?


「ウゴオオオォォォォ!!」

倒れて動かない一方通行を見て、勝利の余韻にでも浸っているのか雄叫びを上げた。
竜に自我はあるのかどうかは、分からない。
上条の意識も残っているのかどうかも、分からない。

「一方、通行…………っ」

──打ち止め…………クソガキ、マセガキ、泣き虫がァ…………

打ち止めが涙を堪えている。
顔こそ動けずに見えないが、何故かそれだけは分かった。

「グルル…………グワアアアアッッッ!!」

竜の咆哮がこだまする。
やがてその大きな口を再び開け、バチバチと電気が口の回りから発生している。

「…………!」

それを見た打ち止め達に戦慄が走った。
間違いなく、何かを放ってくる──────。

そう感じた打ち止めは、倒れた一方通行の前に立った。




738 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:42:29.54 ID:Zqh8XHEDO

「この人はミサカが守る!今まで、いっぱい助けてくれたもんっ!!」

「グルル………………?」

「あなたと言えども、この人に何かしたら、絶対許さないんだからっ!!」

木山達も危険と感じたのだが、身体が動けない。
余りもの状況に、動ける者は誰一人としていなかった。

「グルル…………グガアアアァァァッッ!!」





そして、竜の口から電気か炎か、どっちとも取れない凄まじい光線が吐かれる──────!






──アホかテメェは…………!守るのは、俺に決まってンだろォが!!




突如一方通行の背中から現出した黒い翼が打ち止めを包んでいた。




739 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:43:19.78 ID:Zqh8XHEDO

「一方通行!?」

翼が光線を弾き、打ち止め、そして後ろに待避している全員を守る。
ゆっくりと立ち上がる一方通行は、打ち止めを抱き抱え黒い翼を振るい完全に光線を弾き飛ばした。

爆音と共に逸らされた光線は壁を天井を突き破り、穴を開ける。
一瞬にして溶けた様な跡が残った穴は、どれだけのエネルギーが込められていたのかを理解させていた。

「──────gd打止at」

打ち止めは突如出現した一方通行の翼に驚いている様子だ。
後ろにいる全員も────美琴も同じ、光線を放った竜もまた同じだった。

「グルルルル…………?」

何事かと様子を見守る竜。
それは自分の攻撃が弾き返された事に苛立っている様にも見えた。

「──────gw守mda!」

ノイズが混じり、言語とも取れない様な言葉を吐く一方通行。
しかし打ち止めには、彼が何を言っているのか何となく、分かる様な気がした。

 翼を竜の方に向け、光線を受けた際に散った一枚一枚の羽根が矢の如く竜に襲い掛かる凶器へと化す。
目にも止まらぬスピードで飛んだそれは、竜の身体へと突き刺さっていく。

「ヌガアアアァァァッ!?」

恐らく直感からだろうか、飛来してくる羽根を腕を振るい弾き飛ばすが、全ては振り払えない。
いくつもの羽根が竜の身体へと突き刺さった。

そっと優しく打ち止めを地面に下ろした一方通行は、再び竜を睨み付ける。

「───────am三下tjp──!!」

いまだ痛みに暴れる竜へと、一方通行の身体が飛び跳ねる様に爆発的なスピードをえて、拳を突き出す。
そしてそれは、竜の腹へと突き刺さっていった。




740 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:44:39.42 ID:Zqh8XHEDO

「グガアアァァァッッ!!」

身体を吹き飛ばされ、激突した壁を破壊させながらも体勢を整える竜。

「当、麻………………!」

美琴の声が響き渡る。
しかし一方通行は更に竜を追い討ちを掛けるが如く両手を突き出した。

視界が、歪んだ。

「なっ!!AIM拡散力場全てのベクトルを操作すると言うのか!?」

一方通行に向かい、またその口を大きく開け、先ほどの光線の様な光を灯し始めた。
しかし次第にその光は集束する様に縮まっていき、そして終には消えてゆく。

「──────jd愚あmtg!」

だが黒翼を現出させた一方通行の全能力解放状態でさえも、その全てのベクトルを操作するのは困難を極める。

当然だ。
今上条を包み込む様に形成した竜は、彼が秘めていた能力、魔術の力の残滓によるもの。
ステイルの炎、黒子の空間移動、美琴の超電磁砲、そして一方通行の反射、ベクトル操作。
もちろん、それだけではない。
数え切れない程の能力、魔術の量が組み合わさって、レベル5の力など問題にならない程のAIM拡散力場のベクトルなのだ。

その重さは、計り知れないほど。

あの光線を消すのがやっとだったのだ。
竜は自分の攻撃がかき消されたと察知すると、一方通行に向かいその身体を突撃させる為に翼をはためかせる。
しかし一方通行のベクトル操作の力が強力だった為か、思う様に身体を浮かせられなかった。



それは、一重に見れば弱っているかの様。



「──────ぐっ!?」

そこで一方通行から現出した翼は、彼の体力の限界を告げたかふっと消えてしまったのだった。




741 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:46:15.10 ID:Zqh8XHEDO

「当麻………………」

あのいつもの顔は何処?
あのいつもの声は何処?

「グルアアアアァァァッッ!」

一方通行のベクトル操作の力により、苦しみ出した様に見えた竜が唸った。

あれが、上条、なのか…………?
あれが、自分の愛した少年の姿なのか…………?

その少年の面影は、あの竜からは微塵も感じられない。
ただ破壊に身を任せた、化け物の様。

「一方通行!」

再び倒れ込み、彼の背中に現出していた黒翼も消えてしまったのが視界に入った。
それに打ち止めが駆け寄り、一方通行を抱き止める。

「グルルルル…………?」

竜の身体がゆらめく。
所々鱗がめくめるみたいに剥がれ落ち出していた。

「グアアァァァァッッ!!」

しかしそんな事は構わず、より一層大きな雄叫びを上げ打ち止めの身体がビクンっと跳ねたのが分かった。





「とうま………………?」



そして美琴と共に、誰よりも彼の身を案じる少女の声が場に響き渡る。




742 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:47:14.33 ID:Zqh8XHEDO

「イン、デックス…………っ」


「とうま、だよね…………?」

その竜が、上条だと肌で感じたのだろうか。
修道服に身を包んだ少女が、黄泉川と木山の横を通り過ぎ。
土御門と御坂妹の横を過ぎ。
自分の横を通り過ぎ…………。

打ち止めと一方通行の横を通り過ぎた。

「とうま、どうしちゃったの…………?」

「禁書目録!危険だ!近付くな!」

美琴の後ろから土御門の叫びが響くのだが、インデックスには聞こえてはいない。
ただ、上条に近寄るだけ。




「グルル…………!?」




それを見た竜の口が──────凶悪に歪んだのが、美琴の目には見えた。




743 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:47:55.66 ID:Zqh8XHEDO


もはやそれは自我も無いただの殺戮の化け物で。



美琴の大の親友ともなったインデックスに牙を剥き出して。



一方通行のベクトル操作を振り切り、再びその口を開けて。



あの光線の様な光を再び灯し始めて。



──インデックスが…………危ない!!

美琴の頭にはそれだけが浮かび──────





「インデックス────ッッ!!」




そして竜の口目掛けて、美琴の指から超電磁砲が放たれた。





ドオオオォォォン!!!



その音速を越え放たれたコインは、竜の喉元へと突き刺さり、首と胴体を引きちぎっていく。

   パリーン………………

何だかガラスが破られた様な、グラスを割った様な、そんな音が場に響き渡った──────。




744 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:48:47.35 ID:Zqh8XHEDO

「グガアアアァァァッッ────!!」

悲鳴を轟かせながら、地面に崩れ落ちる竜。
美琴はインデックスをそれ以上前に行かせないように後ろから抱えていて、二人共その様子を固唾を飲んで見守っていた。

それ以上前に進めば、身は危なかった。
割れたガラスの様に竜の身から段々と剥がれ落ちていくその破片が高温の鉄の塊の様に壁や床を焼けただれさせていく。

「………………っ」

悲鳴も聞こえなくなり、落ちた首は床の黒い染みに溶けていき。
……次第になくなってしまった。

「当、麻…………!」

胴体の方からも、上から溶けていく様に形を失ってゆく。
木山も御坂妹も土御門も黄泉川も打ち止めも、ただ呆然と見ているだけだった。

そして、一瞬目映く閃光が轟いた。







「くっ………………」





「とうま!」



その閃光の後に残ったのは、膝を付いている上条の姿だった…………。




745 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:49:27.85 ID:Zqh8XHEDO

──俺は、一体何を…………!?

ようやく意識を取り戻せた。
意識を一瞬で奪ってしまった症状。
自分の中の黒い何かが、まるで上条の身体を支配してしまったかの様だった。

汗が地面に垂れ落ち、ボロボロの床に染みを作る。
そこで上条は、周りに目を向けた。

「………………!?」

焼けた様な跡の惨状。壁は崩れ、所々溶けているかの様。

──これは…………俺が、やったのか……?

御坂妹、土御門、黄泉川、木山がいる。

一方通行は倒れていて、打ち止めが傍にいる。

インデックスがいる。



そして、美琴がいる。



「………………っ」



美琴の目に見えるのは何なのだろうか。
自分を、どんな風に見ているのだろうか。
自分は、愛した少女に何をしてしまおうとしたのか。


怯え、侮蔑、畏怖、敵対──────。


そんな顔にさせてしまったのは、自分なのだろうか。




746 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/06(日) 17:50:21.49 ID:Zqh8XHEDO

 理解出来た。
倒れた一方通行も、崩れた壁も床も。
怯えた美琴も。

やってしまったのは、全て自分だと。

「………………」

立ち上がる。

ビクッ────────。

自分の一挙一動を見守る少女の、震えた様子が手に取る様に分かった。

一歩美琴に近付く。
ギュッとさらにインデックスを抱く腕の力が込められていた。

──…………はは、とんだクソ野郎の化け物だな、俺は。

その目は来ないで、近寄らないで。
言葉に無くても、そう語っている気がした。

「………………っ!」

近付く事に震えが増している様に、美琴の身体は震えている。
インデックスも回された美琴の腕を、自身も抱く様に持っている。
彼女に触れたい。
声が聞きたい。

そして、一歩、また一歩と進むと。

キュッと、美琴の目が瞑られた──────。






「…………無事か?怖がらせて悪かった………………美琴」







上条は、気付けば踵を返し走り出していた────。




757 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:40:09.23 ID:3y0709oDO

「当、麻………………?」

上条の深い優しさ、呼んでくれた名前、そして悲しみの含んだ声が美琴に届く。
美琴は瞑ってしまった目を開けると、上条はもう近くにはいない。
この建物の入り口にて、まるで逃げるかの様に走っていく上条の背中が見えた。
…………その背中は、悲しげに寂しげに見えて、泣いていたかの様で。

「当麻………………!」

自分は…………彼をまた拒絶してしまったのか?
優しく声を掛けてくれた彼に対して、化け物の様に思ってしまったのか?
あれだけの人に対して底抜けに優しい彼が、こうなった事態に誰よりも自分を責めてしまう少年なのに?


何よりも、彼を愛していたのに?


「当麻……当麻っ!!」

「みこと………………」

「いや…………私……いや……そんな、当麻…………!!」




759 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:41:15.49 ID:3y0709oDO

 彼の寂しさに沈んだ背中が美琴の脳裏で何度も再生される。
公園での時も。
そして、つい先ほどの時も。
彼は何度も救ってくれたのに。

自分は、何度も彼を拒絶してしまった。

美琴よりも少し小さな少女に回していた腕を放し、顔を押さえて蹲る美琴。
インデックスも美琴の背中に手を置き、気を静める様に慰めるが効果は無いだろう。

「私…………当麻に…………いや…………いやあああぁぁぁッッ!!」

「御坂、君…………っ」

「お姉様…………!」

ただその場には、美琴の悲痛な泣き声が、こだまするだけだった。




760 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:42:11.35 ID:3y0709oDO

 あれから美琴は何をどうしていたか覚えていない。
気付けばある一室の部屋の椅子にただ座っているだけ。
隣にはインデックスがいて、御坂妹、木山の二人は少し離れた所に座っていた。

「………………」

「みこと…………」

今の彼女を表現するならば、放心状態……言わば脱け殻の様な姿だった。
その顔は悲愴に濡れ、溢れる涙も拭う事なく彼がいつも使っていたベッドを見つめている。

そう。
彼女達がいたのは、上条専用と化しているあの病室だった。

インデックス達もそんな美琴に対してどんな言葉を告げれば良いのか分からず、口を開き掛けては瞑ってしまっている。

「当麻………………」

美琴はただ誰もいないベッドに、少年の名前を呟くだけ。
痛々しいその表情に、光を与える者はいなかった。

 時刻ももう夕方に差し掛かるという所。
あの時吹き飛ばされた異国の男女は完全に戦意を喪失し、黄泉川のアンチスキル達が連行していった。


コンコン────


するとノックの音が響き、扉が開く。

「白井君…………」

事後処理を終えたのか、腕に着けた腕章を外しながら入室する黒子の姿があった。




761 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:43:28.12 ID:3y0709oDO

場を見る。とんでもなく空気が重かった。
美琴を見る。いつもの彼女……では、ない。

「お姉様」

「黒子…………」

泣いた顔もそのままに、振り向き入室者を確認した美琴。
そんな美琴の顔は、黒子は知らなかった。

どれだけあの少年が美琴の中で大きな存在かは知らない。
美琴と少年の間に、何が起きたのかも知らない。

「お姉様は」

しかし、今の美琴は黒子の憧れの先輩なんかではない。
絶望に濡れ、ただ地団駄を踏む様に泣き崩れるだけの美琴など、黒子の知る美琴ではないのだ。

あの世間を揺るがせた『虚空爆破事件』、『幻想御手』、『乱雑解放』等の様々な事件。
あれらを解決させる為に、希望の為に各地へと赴いた彼女の勇ましい顔は、今は見る影もない。

だからこそ。

「お姉様は、それでいいんですの?」

見たくないから。いつもの彼女に戻ってほしいから。
活き活きとしたいつもの彼女の顔が好きだから。
笑顔でいてほしいから。

「そんなお姉様は、お姉様じゃありませんの」

だからこそ、叱咤をする。




762 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:44:51.79 ID:3y0709oDO

「黒、子…………?」

その泣き顔に少しだけ驚いた色が付け加えられる。
インデックスも御坂妹も木山も、ただ見守っているだけだった。



──良いわけ、ないじゃない…………!

しかし自分が彼に顔を合わせる資格など有り得ようか。
こうして、かつて彼のいた場所で彼の身を案ずる。
贖罪にもなりはしないが、自分にはもうこうするしか出来ないというのに。

黒子の口が再び開く。

「あの類人猿がお姉様にとって、どれだけ大切な存在かは分かりませんの」

──だったら…………!

だったら放っておいて欲しい。
何せ彼は自分の全てだったのだから。
自分の生き甲斐そのものなのだから。
それを自分から突き放してしまった苦悩、悲しみなど分かってたまるか。

「でも」

黒子が続ける。美琴に嫌われるのを。
何よりも大好きな先輩に嫌われるのを、覚悟して。

「でも、私がお姉様の立場だったのなら、そんな弱虫みたいにいじけるだけの惨めな姿にはなりませんの」

「………………っ!」

「私だったらば、じっとはしていられませんの。大好きな方があの様な状態になっても」

黒子の目はじっと美琴の目を見つめている。
少しでも、伝わってくれればいい。
彼女を救うのは、自分ではない。
それでも少しだけでも、伝わってくれればいい。




763 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:46:05.67 ID:3y0709oDO

「死ぬほど追い掛けて、追い掛けて」

美琴がそうなったとして。
例え自分がどれだけ傷付こうが酷い目に会おうが。

「この手で、どんな手を使っても捕まえてみせますの」

美琴の手が震える。身体が、震える。

自分は、何をしているのだ────?

もう彼の傍から離れないと決めたのではないのか?
愛する彼と何があっても共にいると決めたのではないのか?


『当麻の身体は、私が治してあげるわ!』


あの時、その言葉と共に笑顔をずっと守ると決めたのではないのか?






「立ちなさい!超電磁砲、御坂美琴!」






その黒子の叱咤が、いつしか美琴を立たせていた。




764 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:47:08.80 ID:3y0709oDO

「うぅ…………ミサカは、ミサカはぁ……」

「………………チッ。ピーピー泣くなクソガキ」

また先ほどのロビーにて、演算補助を再始動した打ち止めと復活した一方通行の二人がソファー腰を掛けている。
一方通行の胸の中で打ち止めは泣きじゃくっていた。

「でも……グスッ、ミサカは…………あの時、ヒック、あの人にあんな事、言っちゃって…………グスッ」

打ち止めが言っているのは竜化した上条へのあの言葉。

許さないから────

打ち止めはその吐いてしまった言葉が、上条を傷付けてしまっていたのではないかと後悔していた。
上条がこの場から姿を消してしまったのも、自分のせいだと自分を責めてもいたのだ。

いくら一方通行が傷付けられようとしたからと言って、自分を含む妹達約一万人の命を救ってくれた相手に投げていい言葉などではない。
しかし打ち止めは感情に身を任せ、そう吐いてしまった。

「………………チッ」

こういう時どう慰めればいいのか分からない一方通行は困った様な顔をしながら舌打ちをした。
ここで打ち止めの身体を、頭を撫でられる素直さが彼に備わっていれば話は別だったかも知れないが、気恥ずかしさが先行してしまう彼にはそれが出来なかった。

「あァン?」

そこで走る様な足音が響き渡り、音を立てている少女の姿が目に入った。

「一方通行と打ち止め…………」

自分の胸元で泣きじゃくる打ち止めのオリジナル、美琴だった。




765 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:48:06.12 ID:3y0709oDO

──…………息吹き返しやがったかァ。

先ほど見た絶望していた美琴の顔とはまるで違う。
涙の跡は残るが、それは何かを本気で決意したか、そんな様な顔付きだった。

「うぅ……お姉様ぁ……」

「打ち止め、…………どうしたの?」

美琴が身を屈め、泣く打ち止めと視線を合わせた。

「ミサカは……あの人に謝らなくちゃ……グスッ」

「…………っ、そう、ね」

打ち止めはそんな事を言う。

しかし美琴にとって、一番に謝らなくてはならないのは自分だった。
何度も自分を気に掛けてくれた彼を拒絶した自分が、許せないのだ。
だからこそ、彼に会いに行く。
だからこそ、想いを伝えに行く。
自分が彼に抱く想いを包み隠さず、全て。

「オリジナル。奴の居場所は分かってンのか?」

「…………ううん、分からないわ。でも、探す」

「お姉様…………」

美琴に何があったのか、何が彼女を奮い立たせたのかは分からないが、その心境の変化に打ち止めと一方通行は驚いた。
見ていられなかったあの状態から、ここまで活力を取り戻した美琴。

    上条に会う。

今の美琴の全てだった。


「俺も奴には言いてェ事があるなァ」

「み、ミサカも!」

「…………それじゃあ、行くわよ。皆で、連れ戻すわよ」

そして三人は、病院の外へと、己が望む希望へと向かっていった。




766 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:49:28.90 ID:3y0709oDO

「ンで、探すあてはあンのか?」

「取り敢えず、アイツのいそうな場所に行ってみようと思う。まずは家ね」

「お姉様あの人のお家知ってるの?行った事あるの?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「う、うん…………ま、まぁ…………」

少し元気になったか、茶化すような打ち止めの言葉に美琴は頬を染めながら答える。

「何処だ?」

「うん、第七学区なんだけど……」

「お姉様の寮と近いの?ってミサカはミサカは問い詰めてみたりっ」

「うん、意外とね」

そんなやり取りを見ながら一方通行はチョーカーのスイッチを入れた。

「テメェら二人とも俺に掴まれ。飛ぶぞ」

「うんってミサカはミサカは飛び付いてみるっ!」

一方通行がそう言うと打ち止めは背中に飛び付いた。
美琴は何だか分からない様な顔をしていたのだが、強引に一方通行が手を引っ張った。


「え、え?な、何──────ひやあああぁぁっっ!?」


美琴が言い切る前に一方通行の脚が強く地面を蹴り、文字通り飛んだ。




767 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:50:36.28 ID:3y0709oDO

有り得ないほどのスピードで50メートル程の高さまで一瞬で上がり、第七学区の方角へと進行方向を変える。

「舌噛むンじゃねェぞ」

そんなスピードの中、一方通行の言葉が届いたのかどうかは分からない。
気が付けば美琴の知っている道、いつもの上条宅へと向かう道に着地していた事に気が付いた。

「す…………凄いわね…………」

感想はもはやそれしか出ない。
無理に引っ張られたからか、少し肩が痛んだが別に気にならないほど。
もう向こうにここ数日間で何度か通った白い建物の姿が目に写っていた。


「あそこよ」


視線で告げると、再び三人は風になる。
ものの数秒で入り口まで到着していた。




768 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:51:29.26 ID:3y0709oDO

「当麻………………」

いるかどうかは分からない。
電気がつけられていない様子を考えると、いないのだろうか。
しかし行動しない事には分かりはしない。

ピンポーン──────。
意を決して、インターフォンを押す。
後ろで打ち止めも少し緊張している様な様子が伝わった。

「………………」

反応は、無い。

もう一度、押した。

ピンポーン──────。

「…………………………」

待てど、やはり反応はない。

「いないのかな…………ってミサカはミサカは……」

打ち止めも残念そうに呟く。一方通行は予想していたのか、別に表情を変えたりはしていなかった。

「………………当麻」

呟く。
いないのか。
…………いてほしい。
その想いで美琴のいつもの方法で、ドアを開ける。

ガチャ──────。

ドアが開くと、夕暮れの陽が射し込む窓ガラスがまず目に映った。
そして、中に入った。




769 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:52:33.05 ID:3y0709oDO

「当麻………………?」


反応は、ない。
物音一つしない。



やはり、いなかった。




「いなかったねってミサカはミサカは…………」

探した少年の姿がなかった。
だが、美琴はそんな事ではもうへこたれなどしない。

「次、あの公園に行くわ」

少し落ち込んだ様子の打ち止めに対して、気にするなと言う意味合いも含ませて気丈に言う。

「掴まれ」

美琴が鍵を閉めるや否や、一方通行が美琴の腕を掴んだ。
打ち止めは既に彼の背中に張り付いていた。

「うん」

そして、視界は空中へと移っていった。

上条が自分との思い出の場所にいるのかどうかは分からない。
しかし、いてほしかった。
自意識過剰だと言われたっていい。
彼の特別でありたかった。
「ン──────」

すると飛びながら、一方通行の喉の奥からそんな声が聞こえる。
打ち止めも美琴にそれに気付き打ち止めが尋ねる。

「一方通行?どうしたの?ってミサカはミサカは聞いてみたり」

「…………。いや、何でもねェ。それよりももう着くぞ」

眼下に広がったのは緑が生い茂るあの公園。
美琴にとって、色々な…………本当に色々な思いが詰まったあの公園だった。




770 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:53:55.99 ID:3y0709oDO

 あの自販機の前に着地する。
あのベンチもすぐ近くにあり、人が座っていた────。


「当………………」


しかしそこに座っていたのは、何処の誰だか知らない男子学生。
自分の探した少年ではないと分かると、美琴も悲しそうな表情を作った。

「この公園、あの人といつも会う所なの?ってミサカはミサカは聞いてみる」

「うん…………って言うか私がいつも待ち伏せてるだけなんだけどね」

「ストーカーですかテメェは?」

自分の言葉に美琴は何かを気付く。

待ち伏せ──────。

ここで待ってれば、彼が現れるのではないか?
いつもの登校時間や下校時間辺りになるとダルそうな顔をして、彼が歩いて来るのではないか?

『お、おっす』

『…………ふあーあ』

『人が挨拶してんのに無視すんなゴラアアァァッ!!』

『ちょ、御坂待て!ビリビリすんなああぁぁぁ!!』

『ビリビリ言うなあああぁぁぁ!!』

『ぎゃあああぁぁぁ不幸だあああぁぁぁ!!』

何故自分はいつも彼にすぐ攻撃的な態度を取ってしまっていたのか。

しかし、今なら分かる。
好きだから。
自分に気を向けてほしかったから。
彼に自分の気持ちを気付いてほしかったから。




771 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:54:48.19 ID:3y0709oDO

──でも、あんなんじゃまるで子供ね…………。

自身がやった照れ隠しの行動は、紛れもなく子供だった。

そんな事を思い出し、少し切なくなってしまった。

「ちょっくらコーヒー買ってくらァ」

一方通行の声にハッとし、美琴は意識を咄嗟に戻す。

「うん、ってミサカはミサカはお姉様とここで待ってるよ!」

「って一方通行、どこ行くのよ?自販機そこにあるわよ?」

しかし一方通行が歩いて行った方向はあの自販機のある方向とは逆方向だった。

「そこのには俺の飲みてェのが無ェ。テメェらはそこで大人しく待っとけ」

一方通行はそう言うと、背中を向けツカツカと歩いて行ってしまった。

「あの人の好みって結構うるさいからってミサカはミサカは納得してみたり」

打ち止めもそんな事を言って、美琴の手を握る。

「そうなんだ」

美琴はそんな二人を見て、やっぱり打ち止めと一方通行、凄い仲いいんだなという感想を抱いていた。













やがて二人から姿が見えなくなる所まで行くと、一方通行は切っていたチョーカーのスイッチを入れる。

「……………………」

そして地面を蹴り、一方通行は目にも止まらぬスピードである場所へ向かって行った。




772 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:56:02.99 ID:3y0709oDO

「美琴………………」

上条は今自分が何処に向かって、これからどうするのかを自分自身でもよく分かっていなかった。

自身の頭にあるのはあの時の恐怖に震えた美琴の顔。

「………………っ」

明らかな拒絶、明らかな畏怖。
自分と言う化け物に、何処か行け、いなくなれと言っている様な表情。

思い出しては、胸が苦しくなった。

自分は好きだった少女に何をしようとした?
守ると決めた少女に、何をしようとした?
一歩遅ければ、殺してしまっていたのかも知れなかった。

右手を見る。
異能の力を消す幻想殺し。
この力で、救うと決めたのに。
守ると決めたのに。

「くそ………………!」

視界が滲む。もう何がなんだか分からない。
とにかく自分に腹が立っていた。

舞い上がっていた。
美琴に近付けて、仲良くなれた様な気がして。
あの実験の時だって、救えた様な気がして。




773 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 00:57:03.99 ID:3y0709oDO

しかし自分がやった行為は、美琴にとって全て逆効果だったのではないのか?


『そういうの、やめてよね…………迷惑だから』

その言葉と、海原とのキス。

「…………う……あ……っ」

悔しい。何が悔しいのか分からないが、とにかく悔しかった。

もう自分は、彼女といてはいけない。
もう誰ともいてはいけない。
この訳の分からない力で、傷付けて苦しめてしまうから。

こんな力など、いらなかった──────。


「ここは…………」

 そこで上条は、あの実験の時のあの場所にいる事に気が付いた。

御坂妹、一方通行、美琴。
色々な事があった。
戦って、守って、倒れて、介抱されて、救ってくれて、気を失って、死なせてしまいそうになって──────

「美琴………………っ」

会いたい。とにかく、会いたい。
でも………………会えない。
彼女が幸せならそれでいい。
幸せにするのが自分でなくともいい。

とにかく、彼女が愛しかった────────。











「よォ、三下ァ」



そしてその『操車場』に、一人の男の声が響き渡った。




794 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:47:33.64 ID:3y0709oDO

「三下ァ、何処へ行くつもりなンだァ?」

白髪の少年が上条に近付いて来る。

「一方通行…………!?」

上条の赤目に驚きの色が混ざる。
何故、一方通行がここに?何処から現れたのかは分からない。
周りを見渡すが、彼一人の様だった。

「テメェも気付いていたんだろォが」

「………………っ」

あの時。
目にも止まらぬ速さで飛ぶ何かが上条は見えていた。
遥か上空の、目にも止まらぬスピードだった為によく分からなかったのだが、何となく一方通行とだけは気が付いていたのだが。

しかし、一方通行だけならまだいい。
もし、美琴が一緒にいたのなら…………。
それを思った上条は、その場にいられなく、場所を移したのだが。
やはり気付かれていた様で、さすがに彼からは逃げ切れない様だ。
少々の焦りを上条は感じる。

「…………で、何しに来たんだ?」

しかし上条の一方通行に対するイメージは前とは全く違っていた。
以前はあの腐った実験を嬉々としてやっていたあの残虐な一方通行しか知らなかったが、打ち止めに危険が迫ったと知って激昂した一方通行を見て、上条の彼に対するイメージはがらりと変わった。




795 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:48:43.42 ID:3y0709oDO

それに、自分をも救ったらしいのだ。
以前なら想像もつかない様な一方通行の行動。

しかし、事実なのだ。

「…………まあいいぜ。とにかく、俺を連れ戻しに来たってんなら、俺はお断り────」

「テメェに言っておきてェ事があってよォ」

上条の言葉の上から被せる様に一方通行が口を開く。
一方通行は笑いを堪えきれないといった様子で口角をつり上げていた。

「何だよ?」

「ククク、クカカカカカ…………!!」

そしてついには、声に出して笑い始めた。
そんな一方通行を上条は訝しげに見る。

「何だよ…………?」

「なァ、どォするよ!?」

「何がだよ?」

言いたい事があるならすぐに言えよ────その言葉を吐こうとしたのだが。











「実験が再開したって言ったらよォ!?」





「何………………?」


上条は一瞬、彼が何を言っているのか分からなかった。




796 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:50:14.06 ID:3y0709oDO

「再開…………だと…………?」

「クカカ!告げられたのはついさっきの事でよォ!テメェに止められて以来、生温い日々を送ってたンだがなァ、とォとォおさらば出来たぜェ!!」

「…………何……言ってんだ…………?」

あの実験?再開?
目の前の男は一体何を言っているのだ?
冗談にしては質が悪すぎるだろう?
余りものその言葉に、上条の思考が止まる。

蘇る。
あの時の理不尽さ、憤りが。
美琴を基に妹達が人工的に造られ、ただ殺されてゆくだけの非人道的にも程がある実験。
人間を人間とも思わないその所業。
欲だけにとらわれた研究者、そして目の前の男。

何より、美琴を泣かせた──────。

「クカカ!再開って聞いた時なァ、まずは手始めにあン時殺れなかったあの10032号を手に掛けたンだけどよォ」

「……何だと?」

上条にとって、聞き捨てならない言葉が吐かれた。

「あのネックレス、テメェがくれてやったんだってなァ。引きちぎってやった時にゃ返せと涙ぐみやがってなァ」

「まさか…………!」

「テメェが無駄に助けなきゃよォ、余計な感情も芽生えず、苦しまずにお陀仏出来たンだがなァ」




797 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:51:47.86 ID:3y0709oDO

「一方通行!御坂妹をどうした!?」

「ここまで聞きゃ分かンだろォが。   殺ってやったんだよォ!」

「てめぇ…………!!」

「お次はあのクソガキだったなァ。ちょっと優しくしたらつけあがりやがってよォ。10032号を殺ったらピーピー喚いて五月蝿かったから腕もいでやったらパタリと泣き止みやがってたなァ」

「黙れ…………!」

「そんでもって…………」

そこで一方通行は一度口を閉じた。
だが続きがありそうなその言葉の雰囲気。
御坂妹に手を掛け、打ち止めに手を掛け────。

上条を嫌な予感がよぎる。
最悪の、予感が。






「邪魔しやがったから、オリジナルも殺ってやった」





「…………何だと?」



その瞬間、上条を中心に爆風が起き、幻想殺しを宿すその右腕に光の衣を纏うが如く、竜が螺旋状に巻き付いていた。




798 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:53:29.13 ID:3y0709oDO

 一方通行は許せなかった。
上条の自身の隠された力に驚き、怯え、他人の為を思ったつもりで取ったその行動を。

あの実験を止め、光を与えられたのは妹達とオリジナルの被害者達だけではない。
あれがあったから、打ち止めに出会えた。
あれがあったから、守るべきものの大切さを知れた。
あれがあったから、光を知れた。
加害者であった筈の自分にも、上条は光を与えたのだ。

それが何だ。
それが何だ、今の上条のザマは。
今の上条の逃げ惑うその姿は一方通行には、ろくな覚悟も持たずに大罪を犯し、『光』へ必死に逃げようとする『裏』の世界のクソッタレ共と重なって見えてしまっていた。

 一方通行から見れば、上条は一種のヒーローだ。
悪者をやっつけて、弱者を救い、最後は笑顔で終わるそんな物語。
小さい頃だったか最近だったか覚えてはいないが、テレビで見た事がある様な気がする。
そしてあの起きてしまった実験は、まるでその物語の様で。
悪者(自分)を倒し、弱者(妹達)を救い、ヒロイン(美琴)を笑顔にし、ハッピーエンドで終わった筈なのに。
そんなヒーロー(上条)は、今は何処にもいない。


だからこそ、自分でも反吐が出る様な嘘を吐いた。


再び上条の目に、火が灯る様に。
奇しくも場所はあの時対峙したあの操車場。
彼を奮い立たせる為に、咄嗟だったとはいえあんな嘘を吐いてしまったこの口に、自身で全力で憎しみを抱きながら全身で受け止めてやろう。





「かかって来い、三下。最強と最弱の格の違い、見せてやる」





「てめえ…………!ただじゃおかねぇぞ!!」




799 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:55:14.03 ID:3y0709oDO




──そうだ、それでいい。それでも、いまだにテメェが自分の力に怯え、誰も救えなくなっちまった様な臆病者に成り下がっちまうってンなら────









「まずはその甘ったれた様なふざけた幻想、俺がぶち殺してやる──────」





「一方通行あああぁぁぁッッ!!」



上条に竜、一方通行に黒翼が現出し、そしてぶつかり合っていった。




800 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:56:45.17 ID:3y0709oDO

「があああぁぁッッ!!」

上条の怒り任せに振るう右手。
自身の身体にベクトル操作を最大限に使い、顔に突き刺さるかの所で横にかわす。

「ッ!!」

上条の突き出した腕から竜の光の様なものが飛び出し、爆薬が積まれていたか如くその先にあったコンテナが大きな音を立てて爆破した。
そしてかわした筈なのだが、一方通行の頬から切れた様に血が流れ出す。

「ダアッ!!」

かわした動きから半身を翻し、一方通行は裏拳を上条の顔めがけて撃ったのだが上条の身体能力で身を反らしかわされる。

「ハッ!!」

そして至近距離のまま一方通行は黒翼を振るい、上条もまた右手を突き出した。

ガギンッ────!!

金属がぶつかり合った様な、そんな音と火花を散らして二人はお互い後ろに5メートル程、後退った。

「テメェ、やっぱ面白ェ右腕持ってやがンな」

数メートル後ろには大破したコンテナ。それを見ると、遠距離攻撃にも気を割かねばなるまい。
しかも、恐らく竜が宿る幻想殺し。
当たれば自身のベクトル操作、反射はたちまち消えてしまう。
黒翼でさえ、当たった部分はそこだけちぎり取られた様に無くなってしまっていた。




801 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:58:27.45 ID:3y0709oDO

「何でだ!?」

「あァ?」

「何でまた実験しようと思いやがったんだよ!?」

「…………。力の為だ」

上条の問いに、一方通行は一瞬言い淀む。
元より嘘なのだ、そんなに答えは用意してはいない。

しかし、『力の為』。

何となしに答えたその言葉は、嘘ではないのかも知れない。
誰かを、打ち止めを守る力が、もっと。

「んな自分勝手な理由でだと…………? ざけんな…………!」

一方通行の深い真意を知らない上条はただ激昂する。
一方通行も別に知ってもらう必要はないと感じているのか、気にした様子は無かった。

「あの部屋で打ち止めは…………打ち止めは楽しそうにあの人は、あの人はって話をしてたんだぞ…………!? てめぇを信じてたんだぞ!? それなのにてめぇは何も感じてなかったのかよ!?」

「………………」

知っている。
打ち止めがクソみたいな自分に信頼を寄せてくれているのだろうと言う事は、肌で感じている。
こんな悪党でしかない自分に向き合い、笑顔を見せて。
自分も打ち止めが将来を誓える相手が現れるまで、いや現れても守っていくつもりだった。
何も感じない筈は、無い。

だが。




「その言葉、そっくりテメェに返すぜ」




「…………何?」


上条の顔が歪んだ。




802 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/07(月) 23:59:40.75 ID:3y0709oDO

 打ち止めのオリジナルである超電磁砲、美琴。
美琴も上条がどうにかなる度に泣いて、笑って、また泣いたのを見た。
そして上条に逃げられた時の最後の顔は痛々しいものであり。
…………打ち止めと同じ顔であったから、より感じる所があったのだ。

「テメェがあン時逃げなかったら、オリジナルは笑ってたンだぞ?テメェに掛けた誤解を必死に謝りたくて、泣いてたンだぞ?」

「どういう…………事だよ…………!?」

何が言いたいともそれるその言葉。
誤解云々は打ち止めを通して聞いていた。
互いを想い合うがあまりに起きたその誤解。
物悲しいものではあったが、一方通行は核心を教えてやろうという気はない。

気になるのなら自分で決着をつけろと。
逃げてしまった自分と、求める相手と二つの事を思い戒めろと。



一方通行は、上条の背中越しに写ったものを見て腰を落とす。




803 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/08(火) 00:00:45.91 ID:xQJ3T/5DO



「話は終わりだ。まァ奴らもいねェし、次にどっちが生きるか死ぬか、テメェと俺で決着付けよォぜ」



一方通行の黒翼が羽を開く。
美琴達もいない────
上条もその言葉を聞き、それを見て心の内が再燃し右手を強く握り締めた。



「行くぜ三下ああああァァァァッッ!!」





「来やがれ一方通行あああぁぁぁぁッッ!!」










「当麻!!」


「一方通行!!」



二つの白と黒の光がぶつかり合い、凄まじい爆音と爆風を巻き上げたその場にまた二つの叫び声が混ざり合っていった。




804 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/08(火) 00:01:24.59 ID:xQJ3T/5DO

 いくら待っても一方通行は戻って来なかった。
何となく、胸騒ぎがした気がした。
何故だか分からない。
分からないのだが、打ち止めもまたそうだ。

「お姉様…………っ」

「………………」

ギュッと打ち止めの手を握る。

胸騒ぎ…………上条に、会えなくなってしまうのかという胸騒ぎだった。
もう夜に近い闇が押し迫っていて、この公園を照らすのは備え付けられた街灯だけが頼りだ。
その暗さもまた美琴の心に不安を塗り付けている。

「あの人…………能力使ってる…………」

「え…………?」

そしてその打ち止めの言葉が美琴の心臓を鷲掴みにするみたいに響いた。
一方通行が能力行使の状態になっている、という事は。

「戦ってるの…………?」

それなら、誰と?



…………いや、恐らく。考えるまでもない。




「ツンツン頭のあの人に、もう演算解除出来ないの。振り切られて、ずっとそのままだからあの人とかどうかは分からないけど…………」

分からないけど──────感じる。

説明出来ないが、感じる。

「打ち止め!行くわよ!」

「うん!」

気が付けば美琴は走っていた。
自分と、妹達と、一方通行と、そして上条の縁のあるあの場所へ。




805 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/08(火) 00:03:21.19 ID:xQJ3T/5DO

ぶつかり合った後、何が起きたのかは分からなかった。
一方通行は黒翼を、そして自分は右手をぶつけて、光と衝撃と音が破裂した。

「ぐあっ!!」

「があァッ!」

自分の幻想殺しは、確かに黒翼を消したのだが消え方が今まで打ち消してきた異能のものとは違った。
いや、魔術のものと近い様な、そんな感触。

そして、その時に聞こえた二つの何かが割れた様な音。
凄まじい衝撃音の中に確かに聞こえた小さなその音だが、何故だか頭の中には衝撃音よりもその割れた様な音の方がしっかり残っていた。

自分は今、何をしているのだろうか。
どういう状態なのだろうか。
顔に、身体に、手に冷たい感触を感じる。
冬の寒さに冷えた、冷たい硬いもの。

そうか。
自分は今、倒れているのか。
それがコンクリートだと分かると、上条は妙に納得してしまった。

視界が全く見えない程の煙と砂煙の中、誰かの足が上条の頭の近くに寄って来ていたのを感じた。

──…………負けたんだな、俺……。

その足ははっきりと見えないが、恐らく一方通行なのだろう。
諦めない精神力には自負があるのだが、今はもう指一本たりとも動く気がしない。
まるで自分の中の全てを出し切ってしまったかの様な疲労感と痛むズタボロの身体。
しかし意識ははっきりしていた。




806 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/08(火) 00:04:51.74 ID:xQJ3T/5DO

──俺も、お前の所行けっかな…………。

自分で心の中で呟いて苦笑いをする。
全て、美琴で埋め尽くされていた。
それほどまでに、大切な大好きな女の子だった。



ザッ──────。



とうとうその足が顔のすぐ上にまで来た。

それを感じると、上条は目を瞑る。
色々な思い出が駆け巡った。
記憶を無くして、魔術師と戦って、能力者と戦って、イギリスに行ったりイタリアに行ったり。
楽しい思い出、辛い思い出、色んな事があった。

しかし、やはりどんな時でも浮かぶのが美琴の顔。
泣いた顔、笑った顔、喜んだ顔、照れた顔、怒った顔────

そのどれも一つ一つが大切だった。
大好きだった。
だから、幸せを願う。
自分などいなくても既に幸せなのだろうが、彼女の幸せをより一層。
彼女の不幸分を全て引き受けてもいい。

ただ、美琴が幸せになってくれれば、それでいい。




807 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/08(火) 00:05:54.11 ID:xQJ3T/5DO





上条の身体が、引き上げられた。

──悔しいなぁ…………。会いたいぞ、美琴………………。












「やっと…………やっと捕まえた………………当麻」


引き上げられた上条の耳に届いたのはその言葉。

上条の身体を包んだのは、世界で一番優しい感触だった──────。




827 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:53:14.92 ID:kI7EFVyDO

 その声が上条の脳に染み渡る。
しかし上条は理解が出来なかった。

「え……………………?」

何故。
何故彼女が、今ここにいる?
一方通行に、殺されたのではなかったのか?

──夢、か?
  幻、か…………?

自分の五感を疑う。
この感触、この声、この匂い────。
確かに、自分の知る感覚だ。

「当麻…………!もう、何処にも、行かない、で…………!」

自身の顔は彼女の胸に押し付けられている為、目を開けても何も見えない。
しかし、確かにその声は。

「み、こと………………?」

「当麻…………当麻ぁ…………!」

自分を呼ぶその声と共に、首に回された腕の力がギュッと強くなった。
感情が昂ったのか、涙混じりの声色になっていた。
自身の手を動かし、自分もまた抱こうと考える。

しかし身体の痛みや、信じられないという気持ちで手がどうしても震えてしまっている。

この手が、空を切ってしまわないかと。
この自身を包む温かい感触が、無くなってしまうんじゃないかと。

自身はこんなに臆病な人間だったのだろうか。
しかしそれほどまでに、信じられない、信じたい、抱きたい────




828 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:53:51.29 ID:kI7EFVyDO

「あ………………」

肩を触る。確かな感触。

「当麻ぁ…………グスッ」

背中に回す。…………間違いない。




美琴は、ここにいる。




「本当に…………美琴、なんだな………………?」

「当たり前じゃない…………他に誰が、いるってんのよ……」

「そっか…………よかった」

「もう、離さないわよ…………絶対に…………」

そのまま、二人は深く深く抱き合っていた。




829 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:54:32.17 ID:kI7EFVyDO

 ようやく上条も落ち着き、身を起こそうと足に力を入れる。

「…………つっ」

「大丈夫…………っ?」

美琴も上条の身体を支えながら、屈んでいた自身の姿勢も立たせる。
そこではっきりと上条の顔を見た。

あぁ、彼がここにいる。

その事実だけで美琴の心はこれ以上無いくらいに満たされていくみたいだった。

しかし彼の顔のある部分を見た瞬間、美琴の目が大きく見開かれた。

「当麻…………目が…………!?」

「ん……?」

上条の目。真っ赤になりつつあったあの黒目が。

そのかつての黒の光を、取り戻していた。

「戻った、のか…………?」







「恐らく、あの……得体の知れねェ、竜の力を…………使い切ったせい、だろォな…………」





「一方通行…………!?」

その出し辛そうな声と共に、上半身を起こしていた一方通行の姿が目に入った。




830 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:55:29.43 ID:kI7EFVyDO

「完全に、テメェに取り込まれたって…………考えても、いいかもな……」

そしてその一方通行を、打ち止めが支えている。
しかしそれを見ても、上条はいまだに状況を把握出来ていなかった。

一体どういう事だ。
打ち止めも、一方通行に殺されたのではなかったのか。

上条の目に写る、横にいる美琴と前方にいる打ち止め。
そこで上条はハッと気付く。

「おい、一方通行…………実験が再開したってのは…………」

「へ?ミサカはそんな事全然聞いてないよ?」

一方通行の身体をギュッと抱き締めながら、打ち止めは素っ頓狂な声を上げる。

「でも、あいつは再開したって…………」

「え?何言ってるの?この人がもうそんな事する訳無いよってミサカはミサカは言い切ってみる」

その一方通行を全て信じている様な打ち止めの言葉、行動に上条は事実を悟った。

「ね?」

「嘘、だったのか…………?」

「…………。 …………チッ」

打ち止めの無条件で一方通行を信じている一途な心。
一方通行に向けられた、そんな打ち止めの純真無垢な笑顔と上条のその問いに返したのは、舌打ちだけ。

…………一重にそれは、肯定を意味していた。

「当麻…………一方通行も、アンタを探してくれてたのよ……?」

そして上条の耳元に届いた美琴の声。
他のどんなものよりも、上条の脳に染み渡るその声に、上条もやっと肩が下りていった。




831 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:56:10.16 ID:kI7EFVyDO

「そう、だったのか…………」

「…………ケッ。目ェ、覚めたかァ?」

「……一生寝られなくなる気持ちだったぜ」

「死んだ魚のよォな目ェしてた奴がよく言うぜ」

一方通行も溜め息を吐く。
それは暗に、手間取らせやがってと言っている様だった。

「悪かったな、一方通行………………サンキュ」

本当に、色んな人に迷惑や心配を掛けたと感じた上条は、自然とそう口が動いていた。

「ありがとな」

その言葉は一方通行だけに向けたものではない。
打ち止め、そして勿論一番に美琴にも向けた、上条の今の素直な思いだった。




832 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:57:02.57 ID:kI7EFVyDO

「あなたは、よかったのですか?と、ミサカは…………問います」

「クールビューティ?」

あれから美琴が出て行った後の病室に残った、インデックス、御坂妹、黒子、木山。
彼女らはただ無事に、美琴達が戻ってくるのを願っていた。

「お姉様に行かせて…………よかったのですか?」

御坂妹はインデックスに尋ねる。
お互い想い人は同一人物で、その気持ちは本物の筈。
故に御坂妹は聞きたかった。
インデックスが、敢えて美琴に行かせたその真意を。

「うん、いいんだよ」

躊躇もせず、まるでそうするのが当たり前かの様にインデックスは言い切った。
だから気になった。
まるで始めから諦めていたかの様なその言い方に。


「でも、あなたもあの方の事を」

「それは」

途中でインデックスが口を挟む。
微笑みを浮かべて、まるで優しく言い聞かせる様に御坂妹の目を見てその口を開かせた。

「クールビューティも、一緒でしょ?」

自分も、一緒。
それは単に彼に好意を寄せているという事だけに関してなのか。
それとも。

それとも、自分のその思いと共に奥深くに感じていた想いも含めて、なのか。




833 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:57:42.67 ID:kI7EFVyDO

目の前の、小さな修道服姿の少女の目を見る。

「………………」


その深い緑色の瞳は、まるで全てを見透かしている気がして────。


ああ、やはり彼女も自分と一緒なのだ、と御坂妹は察知した。

色々な部分で、一緒だった。
彼に好意を寄せるのも、彼を追っていった少女を大切に思っているのも。
そしてその少女が、彼の傍にいる時が一番幸せな顔をしているというのを知っている事も。

だから、彼女に行かせたのかと悟った。

そしてその彼と彼女は、もうすぐここに戻って来る事を打ち止めとの通信を通して知らされている。

御坂妹とインデックスの気持ちは一緒だ。
彼が戻って来るのをまだ知らない筈のインデックスなのだが、戻って来るのを信じている様子で。





笑顔で、迎えてあげよう。



ガチャ──────。





「…………その。 …………ただいま」




「おかえりなさい」

「おかえり!とうま」




834 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:58:19.10 ID:kI7EFVyDO

「ふむ、安定してるね」

「目も戻った様だし、特別なAIM拡散力場も、もう君からは観測しない」

脳波のモニターを見ていた冥土帰しと、AIM拡散力場を計測していた木山が告げた。
その言葉に、椅子に座っていた上条と後ろで固唾を飲んで見守っていた少女達の口から安堵の溜め息が漏れた。

「しかし、何があったんだ?」

突然に常人の脳波、AIM拡散力場の数値になった事を疑問に思った木山が尋ねる。

「うーんと…………」

上条は言い淀むが、考える。

 ここはハッキリさせておかなければいけない事だ。
有耶無耶にして、もしまたあんな事が起きてしまえば────。
だからこそ、原因を究明しておきたい。おかなければならない。

「さっき、一方通行と戦った時に」

「…………戦った?」

木山が表情を一変させて上条を見た。
上条と後ろのソファーに座っていた一方通行は、少し気まずそうにしていたが続けた。

「右手、幻想殺しから竜みたいなのが出まして。…………多分、俺の知らなかった力だと思うんですけど」

「竜…………」

あの時の竜、か。
病院のロビーで暴走したみたいに暴れ回り、一方通行と美琴の超電磁砲で何とか静めた、あの竜。




835 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 00:59:08.62 ID:kI7EFVyDO

あれが放っていたAIM拡散力場は、もう計り知れないものだった。
無意識に展開する力のフィールド。
例えて言えば湯気の様なものだ。
そしてあの時、その湯気自体がもうレベル5同等のものなのだった。
近くにいるだけで吹き飛ばされてしまいそうな、そんな圧倒感をあの竜は放っていた。

「戦っていた時、何故か制御出来ていた様な気がします。それで最後に」

「…………ふむ。それで?」

「一方通行とぶつかった時に、パキンって音がしました」

あのぶつかり合った時に、上条の身に感じたのは凄まじい衝撃と、そしてグラスが割られた様なあの音。

「音?」

「はい。俺が幻想殺しで能力を打ち消す時に感じるあの音と…………同じだった様な気がします」

「俺の黒翼を消した音、だったか?」

後ろから一方通行の声が届く。
あの時、一方通行の黒翼も根こそぎ打ち消されていた。
もしかしたら、その音なのかも知れない、と一方通行は思う。

「…………いや、違うと思う。一方通行の方からじゃなく……」

あの時を思い起こす。
色んな事があって、上条の記憶は前後してしまうのだが。
大事な事なのだ。


「俺の身体の方から、だった」

そう。
まるで自分の能力が打ち消されたみたいに。
まるで自分を蝕む何かがかき消されたみたいに。
まるで自分の幻想がぶち殺されたみたいに────。




836 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:00:45.62 ID:kI7EFVyDO

「…………そうか」

その言葉に木山は腕を組み、難しい顔をして考える。
幻想殺しについて、彼の身体について未知な事が多過ぎた。
これから研究してはいくが、自分に研究しきれるのかどうか。

「俺の考えなンだがな」

「ん?」

一方通行の声に場の視線が集中した。

「テメェが持つ幻想殺しは、テメェとは別に自我を持ってやがると思うンだがな」

「俺とは別の、自我…………?」

上条は右手を見る。今は何の変哲もない右手だ。
しかし右腕ごともがれたあの錬金術士と対峙した時を思い出した。

あれは、あの竜は自分の意志と関係無しに動いた。

その後気を失ってしまいどうなったか分からなかったのだが、今は上条の斜め前に立っている冥土帰しが右腕をくっつけた為にあの時発現したその竜は姿がなくなっていて。

まるで、自身で自分の身体に『封印』したかの様な気がした。

「恐らくテメェの幻想殺しの中に眠る竜が、能力やら魔術やら喰っちまってたンだなァ」

その一方通行の言葉に上条は妙に納得してしまった。
しかし、何故今になって発現したのだろうか。

「テメェの精神力次第だと思うぜ」

まるで上条の頭に浮かんだ疑問に答えるかの様に一方通行は続ける。

「精神、力…………?」

「確証は無ェがな。まァ、また出やがったら俺ン所来い」

上条は考え込んでいたのだが、最後に一方通行が言った言葉に眉がつった。

「へ?」

「今回は引き分けだったンだがなァ。次があったらその右腕ごとミンチにしてやンぜ」

そして、顔が引きつった。




837 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:02:10.11 ID:kI7EFVyDO

「ちょ、ちょっと!」

「お姉様?」

しかしさすがにそこまで聞けば美琴も黙っていなかった。
一方通行を睨み付け、上条を守るかの様に身を乗り出す。
黒子がそんな美琴に声を掛けたが、美琴は黒子は眼中に無い。

「ミンチって何よ!?そんな事したら私がアンタを逆にミンチにしてやるわよ!!」

「あァ?ンだとオリジナル?なンならテメェを今からミンチにしてやってもいいぜェ!?」

一方通行も首のチョーカーに手を掛けると、美琴と焦りをほとんど見せない冥土帰し以外のその場全員の顔が上条と同じく引きつった。





「「「「ちょ、ちょっと待って(待つんだ)!」」」」





「レベル5の二人にここで暴れられたらシャレにならんわ!」

「落ち着いて!ってミサカはミサカは演算補助ストップの準備をしてみるっ」

「取り敢えずお前ら、落ち着けとミサカは溜め息を吐きます」

「はぁ、一方通行も御坂君ももっと大人になってくれないか…………?」

「ただでさえここは壊されたから、やるなら外でやるんだね?」

こうして、上条に騒がしいいつもの日常が戻っていく。
上条は、そんなやり取りを不幸だと思いつつも、何だか嬉しさが勝っていた様だった。




838 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:03:22.65 ID:kI7EFVyDO

「追い出されちまった…………」

「騒ぎ過ぎちゃったね」

「…………ごめん」

 月明かりと街灯だけが照らす夜の公園を歩く。

あれから冥土帰しに病院を追い出され、上条と美琴とインデックスの三人は家路につく道の途中にあるあの公園を歩いていた。
もっとも、ロビーやら治療室やら大破したあの病院に泊まらせる訳もなく、上条は家へと帰らされていた。
それは冥土帰しが上条の身体を一通り診察して、家に帰ってもいい、という判断を下したと言う経緯もあったのだが。

「…………なぁ」

「どうしたの?」

「何?とうま」

歩いている途中で立ち止まり、上条は美琴とインデックスの二人に目を向ける。
上条の顔は、申し訳ない気持ちやら感謝の気持ちやら色んな感情がごっちゃになった、そんな表情だった。

「…………すまん。悪かった」

口から出たのは謝罪の言葉。
今回、本当に二人…………いや、皆には迷惑と心配を掛けてしまった。
そして何よりも、危険にさらしてしまった。


 自身が許せなかった。
守ると決めた筈の二人を、この手に掛けてしまいそうになった自分に。
易々と意識を飲み込まれた、自分の弱さに。
姿を消してしまえばいい、と考えた自分の安易な逃げに。
どうしても、許せなかった。

いつしか、俯いていて、手を握っていて。
二人の顔が見れなかった。

罵ってくれてもいい。
蔑んでくれたっていい。
そんな安っぽい自分の謝罪など、してもし切れはしない。
救うだの守るだの偉そうな事を抜かしておいて、自分が晒してしまったあのザマはとんでもない弱虫の男だ。
それで二人の気分が少しでも晴れてくれれば、いくらでも甘んじて受けるつもりだった。




839 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:04:34.24 ID:kI7EFVyDO



しかし、俯いた上条の頭を包んだのは。



「…………謝らないでよ…………バカ」




ここ数日で何度味わったのだろうか。
それでも何度でも味わいたい、いくらでも包まれたい。


そんな感触だった。



「み…………さか……?」

俯いた頭を美琴の肩に置く様にそっと優しく美琴は首に片腕を回した。
そして背中に感じるもう一つの腕の感触。
温かい、優しい感触が上条の身体全体に伝わる。

「アンタは、何で…………」

「………………」

「何でそんなに、全部一人で背負っちゃうのよ…………!」

そして彼女の身体が震え出すのが伝わった。




840 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:05:22.92 ID:kI7EFVyDO

「少しくらい…………私にも、背負わせてよ……!」

「………………っ」

「アンタの人を傷付けたくないって気持ちは、分かるわよ…………でもね」

でも。

「私は、もうアンタが一人で傷付いてくのを…………見たくないの…………!」

「御、坂………………」

握り締めた自分の手を更に強く握り締める。
自分を抱き締めるこの少女は、また泣いているのだろうか。

自分だって見たくない。
この少女が、傷付くのが。
自分が傷付けられる以上に、痛むから。

だから、余計な心配も掛けたくなかった。
美琴と会うのは、いつも笑顔でいい。
危険な世界を知らないまま、笑顔でいてくれればいい。
そうずっと思っていた。




841 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:06:20.07 ID:kI7EFVyDO




「当麻、私さっき病室で言ったわよね? ………………後で、話したい事あるからって」





「……………………ああ」





「何で、私がアンタが傷付くのを見たくないか…………分かる?」






何故だろう。

何故、彼女はそんな優しい言葉を投げ掛けてくれる?

何故、彼女はそんなに自分を気に掛けてくれるのだろう…………。

聞きたい。

知りたい。

美琴の事なら、何でも知りたい。

例え他の男のものであろうが、知りたい──────。




842 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:07:14.53 ID:kI7EFVyDO









「私が、アンタの事──────









     大好きだからよ」











「え……………………?」




843 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:08:25.42 ID:kI7EFVyDO


上条は耳を疑った。
美琴は、今何て言った…………?

スキ…………?
ダレガ…………?
ダレヲ…………?


「アンタの事が、好き。世界で一番、好き」


更に聞こえてきたその声。
夢ではないかと疑う程のその言葉の意味。

「嘘、だろ………………?」

だって。
だって美琴は、自分を蔑む程嫌いではないのか。
憎んでいるのではないのか。
海原が好きなのではないのか。
あの時のあの光景は。

「何時言おうかずっと迷ってた。何度口にしかけたか分かんないくらい、アンタの事ばっか考えてた」

「御坂………………?」

「嘘でこんな事…………言える訳ないじゃない…………!」

ギュッと回された腕に更に力が入る。
それはもう、苦しいくらいに。
でもそれよりも、いまだに上条は信じられない。

「アンタが名前で呼んでくれた時、凄く嬉しかった。作った料理を美味しいって食べてくれた時、凄く嬉しかった」

「……………………」

「アンタが私を頼ってくれた時、凄く嬉しかったの。何があっても守ろうって、そう思ったの」

「………………御坂……」

思い出される美琴との思い出。
ご飯を食べて。
料理を作ってくれて。
勉強を教えてくれて。
擬似デートをして。
笑って。
泣いて。
抱き締めて。
抱き締められて。

それを美琴は喜んでくれていたのか?
嫌がってはなかったのか?




844 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:09:21.16 ID:kI7EFVyDO

「アンタが倒れた時、心が壊れそうだった。アンタが…………背中を見せた……時…………グスッ、当麻が…………死にそうって、わかった時…………ヒック……」

声色に涙が混じる。
話すのも辛いだろう言葉を、それでも口に出す。

「当麻に…………あんな事を言っちゃった時……エッグ、当麻に…………勘違いされた時…………」







「もう、いい………………美琴」



「………………っ!」



気付けば、上条も強く美琴の背中に腕を回していて────。



強く、その小さな身体を抱き寄せていた。




845 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:10:01.09 ID:kI7EFVyDO

「当麻ぁ…………っ!当麻ぁっ!」

畜生。
自分はなんていう大馬鹿野郎だ。

自分の気持ちに向き合いもせず、美琴の気持ちにも気付こうとせず。
美琴を一番傷付けていたのは、自分のそういう部分だったのではないか。

自分の想いを込めて、ギュッと抱き締め返す。
どうしようもなく、自分の胸の中の少女が愛しかった。
ずっと、守りたかった。
ずっと、好きだった。


その少女が、自分を求めてくれている。



だったら答えは分かるだろう? 上条当麻。




846 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:10:41.18 ID:kI7EFVyDO







「…………美琴。俺もお前の事────





    大好きだぞ」







「……………………っ!!」





「嘘なんか吐けるか。紛れもない、俺の本心だ。…………ずっと、好きだった」



「当麻……っ!当麻ぁっ!」



そして、二人の想いは深く繋がっていった────────。




847 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:11:29.01 ID:kI7EFVyDO

「よかったね、みこと」

寒空の下、公園で繋がった二人の想いに素直にインデックスは喜んでいた。

「インデックス…………」

上条と抱き合いながら、美琴は首だけをインデックスの方に向ける。
二人を見れば、本当に幸せそうで。

「…………恥ずかしいとこ、見られちまったな」

「言うな!顔から火が出るほど恥ずかしい」

「それでもお互い離さないんだね」

「ぐ…………」

見ているだけで微笑ましい。お腹いっぱいだ。
とても、何だか嬉しかった。

「でも、インデックス…………」

美琴の少し寂しい様な、そんな声。
インデックスも彼が好きなのを、彼女も知っていた。
それなのにその美琴を応援してくれた様な行動の意味は、何故だったのだろう。

「私ね、とうまもみことも大好きだから。私からはそれだけ!」

しかしそれを言うときっぱり口を閉じ、先をトコトコ歩き出してしまう。
上条と二人、顔を見合わせて美琴は首を捻った。

「あ」

声を上げ、インデックスは立ち止まった。

「浮気したら噛み付いてあげるからね、とうま」

それを聞くと上条の顔が引きつる。
彼女の噛み付きは本気で痛いのだろうと言う事はその表情を見れば分かる。
しかしすぐに表情を戻り、次第にはて?という顔になった。




848 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:12:06.04 ID:kI7EFVyDO

「いや待て。そもそも浮気なんか出来ないだろ。こんな上条さんを相手してくれるのは美琴さんしかいないぞ」

「…………よくそんな事言えるね、この歩くフラグ製造機」

上条の言葉にインデックスは呆れた様な顔をする。
美琴はあんぐりを開けて顔を真っ赤にしてどこかにトリップしている様だった。

「上条さんにそんなフラグなんてありませんよ!それに美琴がいれば他には何もいらん!」

キリッという擬音まで聞こえてきそうな程キメた上条に、インデックスは呆れというよりイラっときていた。

「ふにゃー///」

「ちょ、美琴!?ど、どうしたんだよ!?」

そして顔から文字の如く、湯気が出て倒れ込みそうになった所を上条が支える。
冬だったから、余計に湯気の量も多い。

「べーだ」

するとインデックスは舌を出して走ってしまった。

「こら、インデックス!ちょい待て!」

「あはは!先行ってるねー、ごゆっくりー!」

追い掛けたかったが、美琴を放っておける訳もなく仕方なく回復まで待つ事にした。




「…………ったく。 …………ありがとな、インデックス」




上条は自然とその言葉が口に出ていた。




849 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:13:42.47 ID:kI7EFVyDO

「にゃっ!」

「お、気が付いたか?」

あの公園のベンチに二人で座り、そしてやっと美琴は正気を取り戻した。

「あれ、私何を…………」
上条の肩にもたれ掛かる様にしていた美琴は、そこで思い出して顔を再びポンっという音と共に赤らめる美琴。

──やっべ………………可愛い…………。

そんな美琴が素直に可愛いと思ったのだが、口に出掛ける所を何とか飲み込んだ。
口に出したらどんな状態になるか分かったもんじゃない。

「私、どれくらい…………?」

「時間にして約三分間くらいだ。良かったな、カップ麺作れるぞ」

「何言ってんのよ、アンタは…………あれ、インデックスは?」

「先行っちまった。ごゆっくりーだってよ」

そう言いながらその言葉を聞くと、上条の胸にキュッと抱き付く美琴。
上条は内心心臓をバクバクさせながら、そっと美琴の背中に腕を回した。

「寒いか?」

「ううん、あったかい」

「そっか」

「うん」

淡々と交わされるその会話。
何となく、もう何も言う必要は無い。
お互い、全てを出し切った。
奥深くの想いを、包み隠さず。
嬉しさと愛しさで、お互い爆発してしまいそうな、そんな気持ち。




850 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:15:56.98 ID:kI7EFVyDO

「あ、そうだ」

「どうしたの?」

上条が何かに気付いた様に声を上げる。
いや、何かを思い付いた様な、そんな雰囲気だ。

「前言ってたよな?退院したらプレゼントくれるって」

「言ったわね」

確か、上条が入院する朝。
上着もろくに着ずに外に出た上条を見かねて、コートでも買ってあげようと思い付いた美琴の提案だった。

「それがどうしたの?」

ふっと顔を上げて上条の顔を確認する。
上条は少し躊躇している様な、覚悟を決める様なそんな表情をしていた。






「よし決めた。先に貰っておくぞ」





851 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:16:29.78 ID:kI7EFVyDO






「え………………?」











「        」












二つの影が、夜を優しく照らす月明かりの下────






    重なった──────





852 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:17:37.86 ID:kI7EFVyDO


 顔を離せば目を見開いて、呆然とする様な表情をしている美琴。

いまだに何が起きたのか理解出来ていない様な、そんな顔だった。



「え………………え………………///」



そしてその反応。
目をグルグル回して、混乱してしまったかの様だ。

「もしかして、嫌、だったか…………?」

上条はそんな美琴の様子を見て不安になる。
自分を好きと言ってくれはしたのだが、やはりこれはやり過ぎたのではないのか、と。

「!」

そしてようやくハッとした美琴は、ブンブンと首を振る。

「嫌な訳、ないじゃない…………!」

そしてはち切れんばかりの笑顔。
その顔は、どんなものより輝かしいものに上条は感じた。



「へへ、俺のファーストキスだ。美琴の初めては俺じゃないのはちょっぴり悔しいがな」



自分で言っておいて心がキュンと痛む上条。

ダメだ、重症だ。
こんなにも、美琴が好きなのだった。




853 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:18:20.62 ID:kI7EFVyDO




「私も…………初めてだよ?」



「え………………?」



しかし美琴の口から飛んだ言葉に、上条は驚く。

え、でも、だって。
あの時。



「でも、美琴………………」




「あの時はキスなんかしてないわよ」




美琴にとっても、思い出すのが少し辛いあの時の事。

でも、誤解されたままはイヤ──────。

自分の初めての相手は、決めていたから。



「アンタ以外に、いないわよ………………絶対に」




やっと、夢が一つ叶ったから。

やっと、大好きだった少年と繋がる事が出来たから。



「当麻以外とは、絶対にしないから…………」




そして美琴は、再び顔を近付ける。

自分が愛しているのは彼だけ、という印を優しく。

優しく、記していく。




854 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:19:20.25 ID:kI7EFVyDO


「夢、なんかじゃねぇよな」


「夢なんかじゃないわ。当麻とやっと通じ合えたこの瞬間が夢だって言うんなら────





   まずはその幻想、私がぶち壊してやるわよ────」





これから先、どんな事があるのか分からない。

二人を揺るがす、何かがあるのかも知れない。

引き裂こうとする脅威があるのかも知れない。



でも。



でも二人なら、きっと乗り越えていけるのだろう。

こんなにも好きな相手が、近くにいるのだから。

こんなにも信じ合える相手が、傍にいるのだから。





だから、二人で歩んでいく。




二人なら、何だって出来る。

何だって、守れる。

何だって、救える。


「うし、帰るか!」


「うん!またご飯作ってあげるわよ」


「まじか!楽しみだ!」


そんな想いを胸に、美琴と二人で。
         当麻と二人で。





855 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:20:22.08 ID:kI7EFVyDO












これが二人の、確かな想いなのだから──────。







      ~fin~




856 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 01:23:48.41 ID:kI7EFVyDO
あれれー、最初は150レスくらい、一週間で終わるつもりだったのに……気付けば一ヶ月かかっちまったよ
疲れたけど、目茶苦茶楽しかった!
結構見苦しい所まであったと思うけど、読んでくれた人ありがとう!

特に皆のレスが物凄い嬉しかった。

本当に皆ありがとう!




857 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/09(水) 01:24:13.35 ID:i6HeBzwDO
乙!激しく乙!




861 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/09(水) 01:26:56.05 ID:gpue6cLK0
激しく乙

こっからは後日談を待ってていいんだよね




888 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:23:09.10 ID:kI7EFVyDO

 翌日の、午前九時過ぎ。
日曜日らしく、周りも私服姿の学生達が休日を満喫している中、上条は美琴と待ち合わせをしたあの公園に向かっていた。

「今日は暖かいな」

真冬だというのに太陽はポカポカ元気に働いている様で、マフラーもいらないくらいだった。

 思えば、改めてこうしてデートという認識で美琴に会うのは初めてで、上条も少し緊張している。
待ち合わせ時間は午前十時なのだが、何となく早く家を出てしまい、公園に足を踏み入れたのはついさっきの事。

まあ、コーヒーでも飲んで待っていようとあの自販機がある場所に向かったのだが、自販機の近くにあるあのベンチに座る少女の姿が目に写った。

「美琴?」

「あ、当麻」

彼女も上条の姿に気付くと、笑顔になって走り寄ってくる。




889 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:23:49.93 ID:kI7EFVyDO

「早いじゃねーか。もしかして待ってたか?」

「うん。でも当麻だって早いじゃない」

今日は暖かいとはいえまだ冬、特に朝は冷たい風が吹き付く。
待たせてしまっていた事を上条は申し訳なく思っていた。

「いつから来てたんだよ?」

「でも、私も今来たばっかりよ」

待ち合わせのテンプレとも言える言葉を告げる美琴。
その言葉を素直に受け止め、上条はそっかと笑った。



実の所、今より更に三十分ほど前に来ていたのは美琴だけの秘密だ。

「何だか今日は楽しみでな、ちょっと早く家、出ちまった」

そんな彼と同じ気持ちだった事が、美琴は嬉しかった。

だから、キュッと手を握る。







「………………美琴。本当は随分前からいたんだろ」

「ふえっ!?」

まさかバレるとは思わなかったけど。




890 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:25:09.27 ID:kI7EFVyDO

 そのまま手を握り合いながらセブンスミストに着いたのは午前十時になった所で、開店時間とちょうど重なっていた。

「いらっしゃいませー」

店内に響き渡る、事務的な挨拶の声。

「ほんとにいいのか?」

「いいわよ。アンタに風邪なんかひかれたら困るし」

本日セブンスミストに来たのは、上条の上着を買う為。
しかし退院のお祝いだからと言い張っても、上条の遠慮する様子に少し強く出なければいけない。
彼のいいところであるのだが、欲が無さすぎるというのも少し難点。

「ほら、こんなのどう?」

ハンガーに掛けられたコートを手に取り、上条に当ててみる。
温かそうなコートだ、故に少しずっしり重量感を感じた。

「…………違うわね」

しかしそのコートは合わないと感じた美琴はすぐさま戻した。




上条はチラリと見えた値段の書かれたタグを見て顔をひきつらせていた様子だった。




891 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:25:52.06 ID:kI7EFVyDO

「これなんかどうだろ?」

そう言い、上条が自身の手に取ったのはファー付きのダウンジャケット。
それを自身に当ててみて、鏡で確認している。

「着てみたらどう?」

上条にしてはいいセンスをしていて、悪くないかも、と思いながら美琴は試着室へと促す。

「ん、ちと行ってくる」









「どうだろ?」

「  」

そして時間にして一、二分後、上条が試着室から出る。
上条は少し見られる事が恥ずかしい様な緊張している様な赴きだったのだが。

美琴は口を開けて数秒間静止してしまった。



少し身体にフィットする様なそのダウンジャケット。
彼の男らしい身体つきを殺さずに生かしている。
黒っぽい色がまた彼の魅力を引き立てている様な気がして、その姿に美琴は悩殺されていく。

と言うか、上条スキスキフィルターが完全に掛かっている為何でも似合ってしまうと美琴は感じてしまっているのだが。




892 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:26:56.61 ID:kI7EFVyDO

「い、いいんじゃない?」

「何か歯切れ悪いな」

似合わないのかな?と上条は心配そうにしていたのだが、美琴は首を振った。

「あ、でも、ちょっと待って」

「やっぱダメか」

「そ、そうじゃなくて…………」

「どうしたんだ?美琴」

何だかそんな様子の美琴に上条は怪訝そうに見る。
体調でも崩してしまったんじゃないのかと心配している表情だった。



上条は、どっちかと言うとカッコいい部類に入る。
美琴フィルターが掛かって超絶イケメンに見えてしまっている為、更にそれを引き立てるアイテムを着けてしまったら彼は更にモテてしまうのではないかと美琴は危惧していた。

付き合っている彼氏がモテる事は、客観的に見れば羨ましいで済む。
しかしその当人ともなればうかうかなんかしていられない。
でももっとカッコいい彼氏が見たい。

そんな葛藤が美琴の胸中で渦巻いていた。

「いいと思ったんだけどなぁ」

残念そうにジャケットを脱ぎ、ハンガーに掛けた上条を見て美琴はハッと意識を現実に戻した。




893 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:27:42.10 ID:kI7EFVyDO

ああ、彼が残念そうな顔をしている。
あれは確かに、似合っていたのに。
自分の身勝手な我が儘で彼を困らせてしまっていたという失態を美琴は恥じ、覚悟を決める。

「…………それ、貸して。買ってくるから」

「ん?でも」

「気に入ったんでしょ?それ」

「…………まあ」

ポリポリと頬をかきながら答える上条。

他の人に取られそうになっても、渡さなければいい。
それに、彼も自分を好きだと言ってくれたのだ。
それを自分が信じないでどうする。
自分も、彼が好きなのだから────








「ありがとな、美琴」

袋を持って微笑みを見せる上条。

「べ、別にいいわよっ///」

彼のそんな微笑みに一番弱い美琴はついそんな口調で返してしまうのだが、お礼を言ってくれたのが嬉しい。



ぶっちゃけ、服を買うだけの話だったのだが何故こんなにも大袈裟に悩むのだろうか。

それほど、彼の動向を気にしているから。
それほど、彼の全てが知りたいから。

「ん…………」

「どうした?」

「手」

「あいよっ」

この温もりは、絶対に誰にも渡さない。渡してなるものか。




894 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:28:40.05 ID:kI7EFVyDO

店から出て、お互いの温もりを確かめ合いながら道を歩く。
それだけで、満たされる。
それだけで、嬉しくなる。

「夜は鍋にしようと思うんだけど」

「鍋か、いいな」

「ふふ、美琴スペシャルを食べさせてあげるから覚悟しなさい」

「はは、何だよそりゃ。まぁでもインデックスには気を付けなきゃなぁ。油断すれば全部食われちまう」

楽しい。相手と話をするだけで、道を歩くだけでこんなにも楽しい。

するとそこで、上条がキョロキョロ周りを確認した。



「よし」



どうしたの?と尋ねようとすると、上条がそう意気込んだ。




895 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:29:18.37 ID:kI7EFVyDO





「ありがとな、美琴。お礼だ」








「    」






柔らかい、感触。






896 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:29:56.01 ID:kI7EFVyDO



「つーかまぁ、俺がしたかっただけだったな。はは、悪い」




「あう………………///」




もう。

すぐ彼は謝る。

謝る事など何も無いのに。




「当麻」




「ん?」








「もう一回…………お礼して?」







自分に向けてくれているこの幸せの現実に、美しい琴の音を奏でていこう。




彼と二人で、ずっとね。





897 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/09(水) 23:33:44.24 ID:kI7EFVyDO
これにて終わり!

何だろう、甘々な上琴が書きたかっただけだった。

本当に大好きだこの二人




898 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/09(水) 23:36:09.54 ID:TLrhC4GAO
おつうううう!!!




899 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/09(水) 23:38:53.40 ID:/xKC2Ioko
超乙




927 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:39:55.58 ID:IZ5RBuRDO

 ワイワイガヤガヤという騒ぎの中、見知らぬ部屋に一方通行はポツンと女性達…………いや、少女達の群れの中にいた。

「ンで、どォして俺はここにいるンだァ?」

とっても居辛そうな気まずい表情を浮かべ、一方通行は壁にもたれる様にして座っていた。

それにしても、狭い。狭すぎるぞ、この部屋は。

自分を含め、既に八人。
右から見れば、打ち止め、御坂妹。
ベッドの上にはインデックスが座っていて、正面には木山がいる。
そして左にあの時にいたジャッジメントの少女と、そして何故か知らない少女も二人座っていた。
一人は頭お花畑、もう一人は小さな花の形のヘアピンを付けている少女だ。

いや、花畑の方は…………見た事があるな。
そんな事を思い浮かべながら周りを見る。

しかしこれだけの人数が部屋を占拠していると言うのに、この部屋の主がいないとはどう言う事だ。
そしてその人物に一番近しい少女の姿もなかった。

ワイワイ、キャピキャピ────。

女三人寄ればかしましいと言うが、それどころの人数ではない。
計算上、倍以上の人数の黄色い声が場を支配していて、一方通行は非常に場の空気に馴染めずただ窓の外を眺めていた。

「むー、あなたも会話に参加してよってミサカはミサカは人付き合いが苦手そうなあなたを心配してみたり」

「断る」

そんな打ち止めの誘いを一刀両断し彼の機嫌が悪いせいもあった。




928 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:43:18.05 ID:IZ5RBuRDO

何故悪いのか。簡単に説明するとこうだ。





      拉致られた。





それしか言えまい。
だって演算補助を解除され、身動きが出来なくなった所を打ち止めと御坂妹に運ばれ、見知らぬ部屋に連れて来させられていたから。

いや、見知らぬ部屋というのも違って実は一度来た事があったのだが、その時は部屋の形や模様を堪能する暇など無かった為に見知らぬ部屋という表現はそのまま当てはまっていた。

何処だと聞けばあの男の部屋だという事を聞かされ。
何故連れて来させられたと尋ねればニヤリとだけ返され。
帰ると言えば、演算補助解除するよと言って脅される。

何となく打つ手なしと言った形で渋々この部屋にいるという様子だった。

「で、ちょっと気になってたんだけど、あの人って誰なのかな?」

すると少女の中の一人が一方通行に視線を向けてそう尋ねる。
目が合ったのだが、答える義務はないし面倒臭い。
人の名を聞くならまず自分から名乗れ、とは言わずに特に興味なく窓の外を眺めるのを続行していた。

「一方通行って言うんだよってミサカはミサカは代わりに返事をしてみたり!」

「通称セロリです、とミサカは補足します」

「誰がセロリだコラ」

流石にそれには口を挟まざるを得ないが。

「一方通行、さん…………?日本の方じゃないのかな?」

その名前に髪飾りの少女、佐天は首を捻る。

「いや、違うよ。彼の能力がそのまま名前になっているんだ」

苦笑いしながら答えたのは木山だった。




929 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:46:11.44 ID:IZ5RBuRDO

「能力、ですか…………この人もさぞ凄い能力者なんだろうなぁ……」

それを聞くと、佐天は少し複雑な顔をしていた。
能力というワードに反応した様で、何かコンプレックスでも抱え込んでいるのだろうか、と一方通行はその呟きに感想を持った。

「凄いなんてものじゃありませんの。230万人の中の第一位なんですの」



「「ええっ!?」」



黒子の言葉に反応したのは佐天だけではなく、お花畑…… 初春の声も混ざっていた。

「だだだ、第一位!?そんな人が何でこんな所に!?」

特に佐天の驚きは半端ない。
その大きな目を更に大きく開かせて、一方通行に指を差して口を大きく開けていた。
何気に失礼な行動にも見えるのだが、一方通行は気にしない。
それよりも早く帰りたいとばかり思っていて、ぶっきらぼうに窓の外をじっと見ていた。

「どんな能力なんですか!?」

まるで有名人を見つけた!とばかりに一方通行につかみ掛かる勢いで尋ねる佐天に目を移して、舌打ちを打った。
面倒臭いが、答えてやった方が早そうだ。

「ベクトル操作」

「ベクトル、操作…………?」

パッと言われた言葉に首を傾げ、反芻する。
何だかよく分かんない、という表情をしているのは分かった。

「あらゆる熱量、光の量、運動量、電気の量とか色々なベクトルを操作できるんだよってミサカはミサカは説明してみるっ」

「言うなればチートもやしです、とミサカは付け加えます」

いちいち御坂妹の言い方に眉がつるのだが、怒るのも面倒臭い。

「そうなんだぁ…………まだよく分かんないけど、凄いんだね、第一位だし」

「…………」

やけに第一位につっかかるな、という印象を一方通行は持った。
顔を見れば悩み事があるかの様な、そんな表情。




930 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:47:36.59 ID:IZ5RBuRDO

「それに比べて、私なんか能力つく気配もないし…………」

その呟きが一方通行の耳に届いて、何となく把握する。

 佐天は能力が発現しない事にコンプレックスを抱いていた。
美琴や黒子、初春という彼女の友人達は既に能力が発現しているというのに、自分だけはどうしても出ない。
一方通行は知らない事なのだが、あの『幻想御手』に手を出してまで能力を欲しがっていたのだ。
あの事件をきっかけに佐天は変わったのだが、それでも心の奥底ではやはり能力者というのに憧れを抱き、セコい近道はもうしないもののどうにか能力が出来やしないか常に考えていたのだ。

「私なんか、どうせ頑張ってもダメなんだろうなぁ…………」

しかしいつまで経ってもその気配が無い事に、佐天は焦りと不安を感じていた。
自分のやっている事は全て無駄な事ではないのか、と。

──………………チッ。

気付けば一方通行は舌打ちを打っていた。
ウジウジしている様子が妙に腹立たしく感じていた。

「佐天さ────」





「だったらやめちまえばいいじゃねェか」





「え…………?」

空気が止まる。
突然に口を開いた自分に視線が集まったのが分かった。




931 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:49:04.39 ID:IZ5RBuRDO

「無理だと思っているンだろ?ンならもうやめちまえばいいじゃねェか」

「…………っ」

「ちょ、一方通行?」

打ち止めが咎める様に名を呼んだが、一方通行はそれを手で制した。

「ンなウジウジしてる奴に、能力なンざ出るかよ。もう荷物纏めてここから出て行きゃいいだろォが」

「……………………」

佐天の目に段々涙が溜まっていく。
下唇を噛み、必死に堪えようとする表情は悔しさを表していた。

「……………………さい」

「あァ?」

とうとう俯いてしまった少女から、掠れた様な声が響いた。
手をグッと握り締め、それは震えてもいる。



「勝手な事言わないで下さい!!あなたに…………私の何が分かるって言うんですか!私の苦しみが分かるんですか!?第一位に無能力者の気持ちが分かるんですか!?」



「佐天さん!?」

怒りに任せ、怒鳴り散らした佐天に初春が止めようとするが。

打ち止めが初春の手を取って、落ち着いてと視線で訴えた。

「あァ、分かンねェな」

「だったら…………!」










「だが、諦めたらそこまでなンじゃねェのか?」






「え………………」




932 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:51:22.58 ID:IZ5RBuRDO

「俺は知ってるンだがな。どンな状況だって諦めねェで、俺でさえ困難な状況を気持ち一つで乗り越えてきやがった『無能力者』を、な」

「………………!」

「そいつは自分がどンなに傷付こォが苦しもォが、諦めずに誰もが逃げ出すような状況も乗り越えやがったンんだ」
その姿を思い出す。
間違っていた自分を変えたあの姿を。
クソッタレの幻想をぶち殺した、あの姿を。

「腕っぷしとか、特別な能力とか、そういうのじゃねェ。諦めねェ気持ち一つでな。気持ちだけで、俺に勝ちやがった」

「第一位のあなたに…………勝った……?」

思う。
おそらくその少年が幻想殺しを持っていなくとも、自分は負けていた。
始めから、負けていたのだ。

「諦めるンなら、死ぬほど努力しやがれ。死ぬほど足掻いてみやがれ。そっからでも遅くねェだろォが」

だが、自分にも守るべき者は出来た。
とてもしきれるとは到底思えないが、償いの方法も見つかった。

だからそいつにも負けない様な『想い』の力を、自分もつけてやろう。

そう、思っていた。




933 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:53:43.24 ID:IZ5RBuRDO

「あの、すみませんでした…………」

あれから佐天は泣き出してしまい、黒子と初春が佐天の背中を優しく慰めていた。

「チッ。ウジウジしてンのが気に障っただけだ」

「全く…………君も素直じゃないな」

「うるせェ」

木山の言葉に不機嫌そうに一方通行は答える。
木山の膝の上に座っていた打ち止めも何だか嬉しそうな表情を一方通行に向けていた。

「しかし、佐天君に能力がつかないかと聞かれればそんな事は無いと私は思うんだがね」

「え?」

そんな木山の言葉に佐天は泣き腫らした顔を上げて木山の顔を見た。

「『幻想御手』の時。君は確かに能力を使えていたのだろう?」

「…………はい」

「あァン?」

一方通行が怪訝な顔をする。
幻想御手の事は耳にしていたが、詳細は知らない。
しかし今はそっちではなく、能力が使えていたと言う事が一方通行の中で引っ掛かっていた。

「オイ」

「はい?」

少し一方通行に引け目を感じてしまったか、ビクッと反応をして佐天は返事をする。
そっと、佐天の頭に手を乗せた。

「一方通行?」

「オイ、そン時の感覚は覚えているか?」

木山の何をしているんだという声を無視して佐天に問い掛ける一方通行。
もしかしたら、という考えが一方通行の中で浮かんでいる。




934 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:55:01.93 ID:IZ5RBuRDO

「ええと……あんまり…………で、ですけど!思い出します!」

頭に置かれた手の感覚がどう感じているのかは分からない。
ただ少し、緊張しているだけ。




「あ、何となくこんな感じだったかな────────






その時、突如風が部屋の中に巻き起こった。






「きゃっ」

扇風機の中くらいの強さの突然の風に、スカートがめくれそうになるのを押さえる初春。彼女はいつもこんな役回り。

「え、え、何今の!?」

一番驚いていたのは佐天だった。
その風は自分を中心として巻き起こり、髪の毛がふわふわとなびいている。

そこで佐天はハッとした。
確か、あの幻想御手の時に使った能力は『空力』。
もしかしたら、という予感が佐天の頭の中でよぎり、一方通行の顔を見た。




935 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:56:14.34 ID:IZ5RBuRDO

「この風は、テメェの能力だ」

「私の、能力…………?ほ、本当に今、私が……!?」






風を起こしているのか。






佐天は興奮を抑えられなかった。
一方通行が頭を置いた途端、あれほど欲しがっていた能力が発現したのだ。
確かな、自分の能力。
何だか状況はよく掴めないが、嬉しかった。

「あ…………」

しかし一方通行が手を離した瞬間、風はパタリと消えてしまった。

「能力っつーのは一種のプラシーボ効果の延長線上のもンを科学的に発現させたよォなもンだ。パーソナルリアリティのもう一つの言い方を知ってるか?」

そして一方通行の口からよく分からない話が飛び出してきたが、授業でも聞いた事がある、そんな気がした。

「『自分だけの現実』、ですよね?」

「そォだ。要するにだ」

 プラシーボ効果とは、人体にも影響を及ぼす『思い込み』だ。
ある被験者にただのビタミン剤を渡して、下剤と告げる。
そしてそれを飲んだ者は、実際に下剤を服用した効果が現れたという検証結果も出ていた。
それほどまでに、人間の『思い込み』の力は影響を及ぼすのだ。

事実、この学園都市の能力の発現の方法も、学生達の『思い込み』の力を利用したものだ。

自分ならこれが出来る、こういう能力が使える────

実際どれだけ思い込んだかによって能力の強さの差が出るのだ。
故に、脳が形成されてしまった成人には発現しない。
こうなる筈がない、出来る筈がないという雑念がどれだけ思い込んだ『つもり』になっても、成人の脳はそれを邪魔してしまうのだ。




936 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:58:02.73 ID:IZ5RBuRDO

だから、『脳が未完成の内』ではないと能力の発現見込めないのだ。



「つーわけで自分で出来ねェと少しでも思ってンなら、絶対出ねェ」

「なるほど…………」

一通り説明した後だが、分かった様な分からない様な表情を浮かべる佐天。

確かに、自分は無理だと思ってしまっていた。
絶対、出る筈が無いという気持ちが少しでも脳内にこびりついていた。

でも今は違う。
一方通行の補助があったとはいえ、先程能力を実際に使い風を起こした。
だから。

「もう一回、やってくれませんか?」

出来た時のイメージを定着させておきたい。
絶対、出来るんだと自分に自信をつけておきたい。

「ン」

一方通行が佐天の頭に手を置き、再び風のベクトルを操る。
佐天の目は先程とは違い、希望を秘めていた。
景気付けに少し強めのやつにしてやるか、とその目を見て考えていた一方通行。
己のベクトル操作で、彼女が起こした『無風』をレベル4と同等の力に増幅させていく────




ガギンッ!





その瞬間、ドアが飛んだ。





「ぶほっ!?」




レベル4もの力になると、大型トラックでさえ動かせる程のその力。
一方通行の操作によって玄関先にむけてコントロールされ、放たれた空力は、ドアを吹き飛ばす事など造作もない。
ドアが外れた大きな音と共に、飛んできたそのドアに吹き飛ばされたのだろう少年の悲鳴が響き渡った。

「げっ!?」

「当麻ぁっ!?」

佐天がヤベ、といった表情をし、同時に少年の隣にいたのだろう少女の叫び声が響く。

「ナイスですの!」

上条の最後に耳に届いた言葉は、佐天に対する黒子の嬉々とした称賛の声だったという。




937 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/11(金) 23:59:15.51 ID:IZ5RBuRDO

「で、妹達は分かるとして、何で黒子達はここにいるのよ」

気絶した上条の頭を膝に乗せながら佐天と黒子をベッドの前で正座をさせ、不機嫌そうな表情をしながら美琴は尋ねた。

本日はサプライズで上条退院パーティを開こうとインデックスと計画していて、あの件に関わった御坂妹、打ち止め、木山を上条に内緒で呼んでいたのだ。
…………一方通行まで来るとは思ってなかったのだが。

しかし黒子もあの時居合わせていたとはいえ、美琴は何となく黒子まで呼ぶのをやめとこうと話してなかったのだが、何故彼女が今ここにいるのか疑問に思っていた。
というか、何故黒子がここを知っているのだろうか。
それに上条とほとんど面識の無い初春や佐天までいるのだ。
気になるのは仕方の無い事だった。

「お姉様の純潔を類人猿から守る為に決まってるんですの!」

「ば、バカ!いきなり何を言い出すのよ!///」

黒子の返した答えに美琴は顔を真っ赤にさせ反論する。
しかし上条に膝枕をしているという姿の為、彼女が否定しようが説得力は無い。

「だってお姉様!昨日あんな遅くまで隣で乙女声を出しながら電話されれば誰だって気になりますの!」

「「「「へー」」」」

「ほう」

「ちょっと!///」

黒子の言葉にインデックス、打ち止め、初春、佐天、木山が興味津々といった様子の顔付きになり美琴に視線を送る。
御坂妹は笑顔で握り拳を作っていた。

「何なんですの!?『明日は楽しみにしてるから』って!隣にいた私の事完全に世界の外に置いてしまわれて!」

「………………///」

「まるでお付き合いでもなさってるかの様な挨拶交わしてんじゃねえですのおおおおおぉぉぉ!!」







「あれ、みことまだ言ってないの?」




「ほォ」

「「「「「「えっ」」」」」」



インデックスがそう言った瞬間、空気が止まっていた。




939 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:01:23.72 ID:UNVgwFaDO

「まさか付き合っていたとは」

木山は次々に鍋に具材を入れながら冷やかす様に美琴に告げる。
台所では佐天が野菜や肉を切り、初春が運ぶ。
インデックス、打ち止め、一方通行は何もする事が無いと言われた為にただじっと座っている様だ。
美琴といまだに起きない上条は体勢は変わらずだ。

「チクショウアノルイジンエンイツカコロス…………」

「ミサカハカクゴシテイマシタケドマサカコンナニハヤククッツイテシマッテイタトハトミサカハ…………」

肩を落としながら呪詛の様にぶつぶつと呟いている黒子と御坂妹は放っておいた方がよさそうだろう。

「ん…………」

「あ、当麻。大丈夫?」

するとそこで上条が気が付いたのか、目を開ける。
それに美琴は心配そうな表情をして尋ねた。




940 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:03:04.20 ID:UNVgwFaDO

「おお…………あれ、俺どうしたんだっけ」

記憶が前後しているのか、起き上がりながら頭を押さえて目をパチクリとさせるのだが、まずはこの状況に戸惑った。

「え、え、何だここ。何でこんなに人がいっぱいいるんだ?」

この部屋にいる人数は自分の知る限り過去最高だ。
自分を含め、何とその数十人。
見れば知らない少女の姿も…………いや、一度会った事あるなと記憶を呼び起こすのだが。

「ここ、俺の部屋だよな……?」

しかし今はそれよりも状況をまず把握する事が先決だろう。

「うん」

上条の体調を心配しながら美琴が答える。

「皆はとうまの退院祝いでここにいるんだよ!」

「へっ?」

インデックスの言葉に上条は素っ頓狂な声を上げた。
退院祝い、だって?

「そうなんだ。大勢の方が楽しいだろうから、皆でやろうという事になっていたんだがね」

「まじっすか。俺なんかの為に」

「もっとも、御坂君と二人っきりの方が良かったかい?」

からかうように上条に木山は突っ掛かった。
いや、実際からかっているのだが。

「いや、嬉しいです」

しかし上条は鈍感故にそのからかいも効かなかった。

素直に嬉しい。
たくさんの人が自分の為に集まってくれているのだ、嬉しくない筈がなかった。




941 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:04:19.01 ID:UNVgwFaDO

「んじゃ、皆飲み物持った?」

「持ったー!」

「おなかぺこぺこなんだよ、早く食べるんだよ」

「うお!蟹だ!上条さんこんな高級なもの食べた事無いですよ!うおおおおいっぱい食べ過ぎて蟹条さんになってしまわぬ様気をつけなければ!」

「シスター、オマエは少し自重しとけ。三下、テメェは落ち着け。もっと食生活なンとかしろ。蟹ごときで騒ぐンじゃねェよ」


美琴が音頭を取る。
隣に座る上条を見て、頷いた。

「まずは当麻、退院おめでとう。そして、おかえりなさい」

「美琴…………」







本当に、美琴には迷惑、心配、悲しい思いをさせてしまった。


それでも美琴は自分の為に身を削り、助けられた。


もう、一生掛かってもお返しできない、そんな気分。




942 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:05:17.09 ID:UNVgwFaDO







なら、一生掛けてでも美琴の傍にいよう。






「それじゃあ皆、カンパイ!」





「「「「「「「「カンパイ!」」」」」」」」






彼女が望む限り──────永遠に。




943 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:06:28.35 ID:UNVgwFaDO

~おまけ~

「そういえば、チョーカー無駄になってしまいましたねとミサカは少し残念そうに呟きます」

「「「チョーカー?」」」

豆腐を箸で割りながら御坂妹は話した。
彼女の言葉に黒子、初春、佐天が聞き返している。

「ああ、そうだな」

蟹の足をくわえながら答えた上条だが、ポケットに入っていたそれを取り出すとまじまじと眺めた。

自分と、妹達を繋いでいたもの。

今となってはもうそのチョーカーに込められた力を使う必要は無くなったのだが、上条は大事に肌身離さず持っていた。
力は必要なくとも、それに込められた思いは上条を元気付かせるお守りになっている。

「随分と、助けられたもんな…………」

その場にいる全員、そんな上条の様子を見ていた。
初春と佐天は事情を知らないのだが、何となく思い入れがあるんだなーと感じていた。

「でも一番残念に思っているのはこの人かもってミサカはミサカは事実を告げてみる」

「はァ?」

一方通行を見ながら言い切った打ち止めに彼は素っ頓狂な返事をする。
何を言っているんだこのガキは、と言う表情を向けていた。

「え、だってあの人とお揃いのやつ付けれなくて残念だって思っているんでしょ?」

「「「えっ」」」




944 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:07:38.61 ID:UNVgwFaDO

絶句したのは一方通行、美琴、御坂妹だ。
美琴達は一方通行の方を見た。
上条は頭に?を浮かべていたが。




「え、だって赤かった目が治った時もちょっと寂しがってたんじゃなかったの?ってミサカはミサカは聞いてみる」





「ちょっと待てクソガキ────






「あなたの大好きなヒーローさんとお揃いが出来なくて残念だったねって慰めてみたり!」








945 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:08:43.59 ID:UNVgwFaDO





「一方通行………………アンタって…………」

「ちょっと待てオリジナル!何を思ってるのか知らンが変な誤解すンじゃねェよ!!」

「第一位さんって………………そういう人d「違ェ!!」」

「ロリコンとホm「テメェは口を開くな!!」」

「あ、ここにまだ蟹が残ってるんだよ」

「それは俺ンだ!」

「ん?どういう事だ?」

「テメェは知る必要はねェ!!」

ああ、やっぱり来るんじゃなかったと一方通行は後悔していた。
一人一人に対して律儀にツッコミを入れている為、もう身体から出る汗は凄いことになっている。










「鍋にこの部屋の温度と一方通行の熱気……………………熱い」


「「「「「「「「「脱ぐな!」」」」」」」」」


さすがにそれには全員でツッコまざるを得なかったらしい。




946 : ◆LKuWwCMpeE:2011/02/12(土) 00:11:17.27 ID:UNVgwFaDO
正真正銘これで終わり!
能力云々については>>1の個人的解釈がかなり入ってます。
色々拙いSSだったけど、皆本当にありがとう!




952 :VIPにかわりましてNIPPERがお送りします:2011/02/12(土) 01:21:43.40 ID:AfvhCM6H0
一通さん、中身は子供っぽいからありえそうwwwwwwww






--------------
当ブログについて
※欄724さんありがとうです。



とある科学の超電磁砲 DVD_SET1
とある科学の超電磁砲 DVD_SET1
ジェネオン・ユニバーサル 2013-04-24
売り上げランキング : 162

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
とある科学の超電磁砲 DVD_SET2 とある魔術の禁書目録II DVD_SET2 とある魔術の禁書目録II DVD_SET1 Grow Slowly (TVアニメ「とある科学の超電磁砲S」エンディングテーマ)(初回限定盤) とある魔術の禁書目録 DVD_SET1



読み物:禁書目録
お絵かき掲示板
コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/30(土) 13:19: :edit
    御坂のふとももにおにんにんはさみたいよぉ
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/30(土) 14:16: :edit
    ながいんご
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/30(土) 16:03: :edit
    横書きは台本形式の方が読み易い体になっちゃった(ビクンビクン
  4. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/30(土) 22:27: :edit
    今まで見たssの中でも最高でした。
    何回も泣いた

    ただちょっと長かったです。
  5. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/30(土) 23:47: :edit
    素晴らしかった
    これをまとめてくれた管理人さんにも感謝を
  6. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/31(日) 01:24: :edit
    最高だった
    まとめてくれたことに感謝
  7. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/31(日) 13:01: :edit
    あーこれか
    絶賛する人も多いけど俺には合わなかった
    美琴の優柔不断な行動や言動にイライラさせられるんだよな・・・話を引き伸ばすためには仕方ないのかもしれないけど
  8. 名前: 継木 #-: 2013/03/31(日) 21:43: :edit
    超が付く程の名作だなコイツぁ…
    本当に良かった!!!
    このssをまとめてくれたぷん太殿には感謝感激雨霰だぞオイ!
    有意義な時間をありがとー!!
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/03/31(日) 23:48: :edit
    面白かった



    長すぎ……
  10. 名前:   #-: 2013/04/01(月) 01:12: :edit
    面白かったけど、登場人物や事件に対する説明が細かすぎるせいで長い。
    あとこれどのタイミングでの話かさっぱり分からん。
  11. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/01(月) 05:45: :edit
    読んでないけど面白かったよ
  12. 名前: 安心の名無しクオリティー #-: 2013/04/01(月) 08:34: :edit
    このクラスのSSが2011年に出ていたとは… ぷん太のニュースに収録されたSSで知る限り、このクオリティは『悪条「その希望を」』『一方×目録シリーズ』『麦×面「私が暗部に堕ちるまで」』に匹敵するかと。

     本編とは別にifシリーズって事でアニメとかやらないかなーという、まさに超個人的お気に入りタイトルとなりました。2時間ほどじっくり堪能できたぜ! 作者氏&ぷん太氏乙。


     あと※11氏! せめて読んでないのが本編かどうか書いといてくださいよ気になるじゃないですか!(苦笑
  13. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/01(月) 16:27: :edit
    くっさい中学生だな
  14. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/01(月) 19:20: :edit
    長すぎワロタwww

    でも俺の見たSSの中では最高級におもしろかった
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/01(月) 21:49: :edit
    面白い! まじ最高
  16. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/02(火) 04:28: :edit
    何回「一重に」っていうんだよ
  17. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/04(木) 04:28: :edit
    楽しく読ませていただきました。
    有意義な時間をありがとうございます。
  18. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/04/24(水) 17:48: :edit
    予想以上の長さでワロタwww

    エロ系だと思っていた時期が私にもありました
  19. 名前: 通常のナナシ #-: 2013/06/17(月) 00:47: :edit
    上条さんのチョーカーあたりが微妙だったな個人的には。
    あそこで真紅のチョーカーで復活した上条さんがデメリット減らした幻想殺しと男女平等パンチだけで襲撃者をぶっ飛ばして美琴と仲直りして終わってりゃ俺の中で最高だった。

    強いて言えば、上条さんが倒れて襲撃者が現れた後が、龍云々ENDかチョーカーENDかのどっちかだったら良かった。
    龍云々があるならチョーカーで一通さんと裏表がどうとか妹達の恩返しがどうこうの下りは直後に無駄になるから書かないほうが良かっただろっていう。

    けど楽しめたことに違いはないから乙!
  20. 名前: #: 2017/01/20(金) 22:25: :edit
    このコメントは管理者の承認待ちです
コメントを投稿する
c o m m e n t
p a s s
 
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.
俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.

 
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。