TV 「ねことあひるが力を合わせて」 その1

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2010/10/17(日)
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:41:22.66 ID:dx94zRw0
意味不明なスレタイですみません。これらの続きです。


1作目
TV 「ねことあひるが力を合わせて」

2作目
TV 「ねことあひるが力を合わせて」 その1
TV 「ねことあひるが力を合わせて」 その2


禁書の台詞だけのSSです。
オリキャラ出ます。というかオリキャラメインです。
誰得なんだよと思われるかもしれませんが、まず間違いなく>>1得なだけです。
vipに投下できる量じゃないし、そもそもパート化してるようなものなのでこちらをお借りします。
すみません。わたしのつたないSSですが1スレだけお貸しください。
オリキャラとか誰得なんだよ……とか思われる方は見ない方がいいかもしれません。
何度でも言いますがただの>>1得スレです。なんていうか本当にすみません。
もちろん批判を受けつけないわけではありません。

何にせよただのわたしの自己満SSなので、突っ込み所は満載だと思います。ごめんなさい。
ほぼ完成しているので、適当にゆっくりと投下していきたいと思います。
製作速報は初めてなので色々とご迷惑をおかけするかもしれません。ごめんなさい。

それから、今回も前回、前々回に負けず劣らず長いです。長いです。大事なことだから二回言いました。
長いの駄目な方も見ない方が懸命かもしれません。

長々とネガティブなことを書きましたが、
わたしとしてはできるだけ多くの人に読んで楽しんでいただきたいと思っています。
ただ、本能的に無理! とか思われた方は速やかにスレを閉じるのがいいと思います。
なんていうかごめん。
でもキャラだとか能力だとかのコメントもらえるとすごく嬉しいんだぜです。

それでは、適当に投下していきたいと思います。




※オリジナルキャラがでてますのでうんたらかんたら。

2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:46:36.17 ID:dx94zRw0
………………学園都市第七学区

男 「……はぁ」

固法 「何よ、そのため息は」

男 「察してくださいよ」 ハァ 「何で僕は毎日固法さんとパトロールなんです?」

固法 「警邏も風紀委員の大切な業務の一つなんだけど?」

男 「それはわかってますよ。そうじゃなくてですね、なぜ僕と白井さんでパトロールに行ってはいけないのかと……」

固法 「決まってるでしょ。ただのデートになるからよ」

男 「なっ……」 カァァ 「そ、そんなことありませんよっ」

固法 「……先週177支部に寄せられた苦情の一部を読み上げます」

男 「いきなり何ですか、そのキャスターみたいな口調は……」

固法 「『風紀委員の腕章をつけた男女の中学生が仲良く手を繋いで歩いていたぜぃ。ふざけんな[ピーーー]ぞ』byM.T.」

男 「いや、だから――」

固法 「『休憩中とは思うけど、風紀委員の中学生男女がお互いのアイスをあーんし合ってた。[ピーーー]ぞ』byP.A.」

男 「あの――」

固法 「『風紀委員が。風紀を乱すのはよくない。というか。本当に憎らしいからやめてほしい』byA.H.」

男 「………………」




3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:48:14.41 ID:dx94zRw0
固法 「さて、これらの手紙に対して何か申し開きがあるのなら聞くけど?」

男 「いや、あのですね、そこらへんはその、悪かったとは思いますよ? 僕と白井さんもハメを外しすぎました」

男 「ですが一つだけ言わせてもらうなら、」 コホン 「……僕は中学生じゃないです」

固法 「反論できないってことね。ならこの話は終わり」

男 「うぅ……ただでさえ最近は風紀委員で忙しいのに、仕事中も白井さんに会えないなんて……」

固法 「ふふ……いい気味」

男 「……幻聴かな? 優しい固法さんから悪魔のような声が聞こえたような……」

固法 「あら心外ね。幻聴に決まってるじゃない」 ニコッ 「……はぁ、先輩、早く戻ってこないかなぁ」

男 (先輩……?)

固法 「ま、いいじゃない。会えないわけじゃないんだから」

男 「まぁ、そりゃそうですけどね……」

男 「はぁー……白井さん、大好きだよー……」

固法 「………………」 チッ 「……うじうじしてるのもウザかったけど、くっついたらくっついたでウザいわね」

男 「ねぇ今のは絶対に幻聴じゃないですよね」




4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:50:13.81 ID:dx94zRw0
固法 「さ、無駄話はこれくらいにして、パトロールに集中するわよ」

固法 「最近は全世界で反学園都市のデモが起こったりしてるんだから、気を引き締めないと」

固法 「いつ学園都市でテロが起きるか分からないような情勢なんだからね」

男 「……そうですね。僕らがしっかりと学園都市を守らないと」 (そう。僕はこの左手の痕を忘れちゃいけない)

男 (あの時の痛みを常に抱えているような、それで涙しているような、そんな人たちがいることを忘てはいけない)

男 (……そしていずれ、あの子と彼を救いださなきゃいけないんだ)

固法 「………………」 フッ 「……その左手の手袋、なんか背伸びした中学生が着けてるみたいね」

男 「結構カッコいいシーンのつもりだったのでできれば空気を読んでほしかったのですが?」

固法 「ふふ……。い、や、だ」

男 「くっ……まぁ可愛いからいいか」

固法 「………………」 ハァ 「……あなたも大概にクズよね」

男 「否定はしませんよ。でも僕は白井さん一筋でありますゆえに」

固法 「はいはい、どうでもいいわよ」

ガヤガヤガヤ……

固法 「ん……? 人だかり?」 キッ 「……行くわよ、男くん」

男 「はい……!」




5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:51:57.82 ID:dx94zRw0
………………第七学区教会前

ガヤガヤガヤ……

?? 「あ、あの……その、皆さん、落ち着いてください」 オロオロ 「ここは 『神の子』 の御前です。どうか――」

学生1 「神の子だと? ははっ、救世主って奴か?」

学生2 「なら今すぐ救ってほしいもんだよなぁ」

?? 「い、いえ、その、『神の子』 は、人々の業を背負われて、人類が向かう先へと先行していらっしゃいます」

?? 「救世主という表現にも色々と取り方がありましてですね、不思議な力で一気に世界をお救いになるわけではないのです」

学生3 「のらりくらりとさぁ、本当に弁が立つよね」

学生4 「まるで詐欺師みたい。だから宗教って嫌い」

?? 「さ、詐欺師などではありません! 我々は神の教えを世に広め、多くの救いをもたらすために――」

学生1 「それが胡散臭いって言ってるのが分からないのかよ!」 ドン!

?? 「ひっ……!」 ビクッ

学生2 「何が救いだ。何が神の教えだ。その結果がこれか? お前たちの仲間が世界中でデモを起こして、」

学生2 「結果として戦争が起こるなんて話にもなっている!」

学生2 「これがお前らの神が望むことだっていうのかよ!」




6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:53:48.13 ID:dx94zRw0
?? 「………………」 スッ 「……わたしは、ただの神の子の一人。我らが父の望むことなど計りようはありません」

学生3 「そうやってまた誤魔化すんだ」

?? 「そう言われても仕方ないとは思います。しかし、一つだけ言わせてもらうのなら、」 スッ

?? 「わたしはローマ正教ではなく、ロシア成教のシスターです。このロシア十字と、教会がそれを示しています」

学生1 「同じことだろうが!」

シスター 「……そうですね。同じ十字教徒としては、細かな解釈にズレはあろうと、行く先は同じだと信じております」

シスター 「ですが、かの巨大勢力が現在行なっていることを、わたしは決して是とは思いません」

学生2 「っ……ウゼぇ。あのなぁ、シスターさんよぉ、俺たちはべつに、あんたの言葉を聞きたいわけじゃない」

学生2 「さっさとこの学園都市から消えろって言ってるだけなんだよ!」 ダン!

シスター 「……!」 ビクッ 「……いやです」

学生2 「んだと……?」

シスター 「わたしは、この学園都市……科学の街に、救いを、祈りを、神の教えを、もたらすためにやってきました」

シスター 「……わたしには、まだ学園都市でやることがあります」 キッ 「だから絶対に、出ていきません」

学生1 「ッ……! 勝手なことを言いやがって……!」 ガッ

シスター 「……!」 ギュッ 「……暴力には屈しません。わたしには神がついています。この十字の加護がついています」




7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:55:32.93 ID:dx94zRwo
………………

男 「あれは……教会、ですかね」

固法 「そうみたいね。まだ撤退してない教会があるなんて、少し驚きだわ」

男 「まぁ、0930事件もありましたしね……」 キッ 「だけど、だからといって横暴が許されるわけじゃない」

固法 「その通りね。私に言わせれば、あの集団は小さな女の子をよってたかって苛めるクズってとこかしら」

固法 「あの様子だといつ暴力に走るか分かったものじゃないわ。すぐに止めないと」

男 「はい……」 ギュッ 「……僕が、行きます」

固法 「………………」 フッ 「そう? ならお願いするわ」

固法 「がんばってね、『幸福御手(ピースメーカー)』 さん」

男 「……がんばります」 (あの様子じゃ、言葉だけじゃどうにもならないだろうな)

男 「なら……」 ギュッ (いつまでも弱いままの僕じゃない。訓練の成果を見せてやる……!)

………………

学生1 「そうか……そうかよ! なら……!」 ブゥン!!

シスター 「……!」 ギュッ

――――――ガッ……!!




8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:56:45.00 ID:dx94zRwo
シスター 「え……?」

男 「あ、訓練で習ったとおりだ」 グイッ 「加速する前の拳は止めやすいって」

学生1 「な……何だお前は!」 ザッ

男 「見て分かってほしいもんだけど」 スッ 「風紀委員です。それ以上の横暴は許しませんよ?」

学生1 「っ……風紀委員だと……?」

学生2 「……やめとけ。あの腕章、本物だ」

学生3 「っていうか、風紀委員が余所者の味方するんだ」

男 「余所者とか、そういうことは関係ないでしょう。あなた方のやっていることは間違いなく道義に反しています」

男 「こんな小さな女の子をよってたかって……同じ学園都市の学生として恥ずかしいですよ」

学生1 「ッ……言わせておけば……!」 グッ 「何が風紀委員だ! 中学生のガキ一人に何ができるんだよ!」 ブン!!

男 「ははっ……」 スッ 「……風紀委員の一人、フクロにしてしまえば問題ない、ですか?」 ガシッ……!

学生1 「なっ……!?」

男 (訓練どおりに……何十回と繰り返した一連の動作を、実行する……!) スッ

男 (自分より体格のいい相手は、まず身体の軸を捉える) ザッ (そして片手で、芯を揺する……!)

学生1 「のわっ……くっ!?」




9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:57:53.39 ID:dx94zRwo
男 (ぐらついた相手の身体を、全体重をかけて押し……!) ダン! (浮わついた腕を捕縛し、背後から極める!) グッ!

学生1 「がッ……!?」

男 「……おや、動けませんか? 案外弱いんですね」

学生1 「ッ……テメェ……!」

学生2 「……ふん。弱そうなガキでも、きちんと風紀委員だってことか」

男 「はは……生憎と僕は皆さんと同い年くらいですよ。ナリは小さいですがね」

男 「どうされます? これ以上続けていただいても僕は構いませんが、」 ニコッ

男 「その場合、僕は皆さんを公務執行妨害的な罪状で引っ張ることになりますが?」

学生1 「っ……分かった。分かったから離せ!」

男 「今後、この教会に近づかないと言うのなら、そうしましょう」

学生1 「分かったと言っている! 誰が来るか、こんな場所!」

男 「懸命ですね」 パッ 「……では、疾くお引き取りを」

学生2 「けっ……行こうぜ」

ゾロゾロゾロ……

男 「………………」 ガクッ 「……ふはぁー」 ペタァ……




10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 16:59:14.01 ID:dx94zRwo
シスター 「……! あ、あのあの、大丈夫ですか?」 サッ

男 「あ、ああ……すみません。安心したら腰が抜けちゃって……」 テヘッ

男 「……こ、怖かったぁ……」 ガタガタブルブル

パチパチパチパチ……

男 「へ……? あ、固法さん」

固法 「ふふ、よく頑張ったじゃない。危なくなったら割って入ろうと思ったけど、」

固法 「一番暴力的っぽそうなのをのせば、勢いは削がれるからね。そこら辺、上手くやったじゃない」

男 「は、はぁ……ありがとうございます……」 (本当は勢いでああなっただけなんだけどね……)

固法 「それで最後に被害者を気遣えたら完璧かしらね」 チラッ 「……あなた、大丈夫?」

シスター 「へっ……あ、はい! だ、大丈夫です」 アセアセ 「そ、その、ありがとうございます!」

男 「いえいえ……」 ハァ 「なるほど。相手に気を使わせてしまった時点で、僕はまだ半人前かぁ……」

固法 「そこまでは言わないけどね」 フッ 「でも、腰が抜けるヒーローってのもどうなのかしらねぇ」

男 「どうせ僕は惰弱でひ弱で脆弱で臆病ですよー、だ」 プイッ

シスター 「………………」 クスッ 「……ふふ、面白い方ですね」

男 「へ……?」




11 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:02:42.65 ID:dx94zRwo
シスター 「最初はまるで歴戦の勇士のように見えたのに、すぐにその風情をなくしてしまうなんて」

男 「そ、そんな……/// 歴戦の勇士だなんて――」

固法 「――褒めすぎです。訂正してください。今すぐ。早く。手遅れになる前に」

男 「何で固法さんがそんなことを言うのです!? っていうか手遅れって!?」

固法 「私は事実関係を明らかにしただけよ」

男 「酷い……最近特に僕に対しての風当たりが強くなっている気がする……」

固法 「気がするんじゃなくて、本当にそうなのよ」

男 「だから何で僕にはそんなに容赦がないのです!?」

固法 「………………」 ニコッ 「……それで、シスターさん? 少しお話を聞きたいのだけど、よろしいかしら?」

男 「………………」 (そこで平気で知らん顔して話を変えるのはさすが固法さんだよな)

シスター 「あ、はい、もちろんです!」 ニコッ 「……立ち話もなんですし、どうぞ……我らが教会へ!」




12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:03:36.37 ID:dx94zRwo
………………

男 「わっ……中、意外と広い……」

シスター 「そうですか?」 ニコニコ 「ふふ、物が少ないから広く見えるだけかもしれませんけど」

固法 「そうね……なんていうか、あまり教会って雰囲気じゃないわね」

シスター 「そうですねぇ。この国で言う一般的な教会とは少し印象が違うかもしれません」

シスター 「この教会はロシア成教の教会ですので、ローマ正教やイギリス清教式の教会とは様式が違うのですよ」

男 「本当ですねー……みんなが座るような長椅子もないし、オルガンもありませんね」

シスター 「ふふ、ちょっと期待はずれですか?」

男 「そ、そんなことは……!」 ブンブン 「……で、でもでも、絵が沢山あるんですね」

シスター 「ええ。ロシア成教では、基本的に教会にアイコンを置くんです」

固法 「アイコン……? っていうと、聖人とかを描いた絵のこと?」

シスター 「よくご存知ですね。その通りです」 スッ 「……では、しばしこちらでお待ちください」

シスター 「助けて頂いたお礼と言うには浅ましいですが、お茶とお菓子を持って参ります」 タタッ

男 「あっ……お、お構いなく……行っちゃった」

固法 「………………」 クイッ 「……この教会、あの子以外に誰もいないのかしら?」




13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:05:23.85 ID:dx94zRwo
男 「えっ……? ああ、そういえばそうですね」

男 「赤毛に赤眼……中学生くらいですかね? 可愛らしいシスターさんですね」

固法 「………………」 ジトッ

男 「な、何ですか?」

固法 「……ううん」 スッ 「……まさか、彼女がいるのに他になびくなんてことはないわよね?」

固法 「――女子中学生スキーさん?」

男 「ぶっ……! 固法さん! 僕のクズな友達みたいなことを言わないでください!」

固法 「ふふ……四分の一くらい冗談よ」

男 「七十五%は本気ってことです!?」

固法 「ほら、語尾にスキーってつければなんとなくロシア人っぽいわよね」

男 「もう意味不明なんです!?」

トトト……

シスター 「? どうかされました?」

男 「あ……いえいえ、何でもありませんよ」 ニコッ

シスター 「……?」




14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:44:03.92 ID:dx94zRwo
シスター 「ともあれ、お待たせいたしました」 コトッ 「……裏のオーブンで焼いたクッキーと紅茶です」

固法 「わざわざありがとう。とても美味しそうだわ」

シスター 「ふふ。どうぞ召し上がってください」

男 「……? 紅茶と、これはジャムですか?」

固法 「たしか、ロシアではジャムを舐めながら紅茶を飲むんだったかしら?」

シスター 「あー……ま、本当はそうらしいんですけどね、」 アセアセ 「……わたしはどうもそれが面倒でして」

スッ……マゼマゼ……

シスター 「……こうしてジャムを紅茶に入れて飲んでしまうんです。いわゆるパチモン……? ですかね」

シスター 「食べるか飲むかをはっきりさせたいタチでして……お恥ずかしいです」

男 「あ……じゃあ僕も」 スッ……マゼマゼ 「……この方が合理的ですね」

固法 「……まぁ、ここは日本だものね」 スッ……マゼマゼ

ゴクゴクゴク……

シス&固&男 「「「……ぷはぁ」」」

スッ……

シス&固&男 「「「……モグモグウマー」」」




15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:45:01.59 ID:dx94zRwo
………………

男 「……って、そうじゃなくてですね、」 ジッ 「お話を伺うんでしょう、固法さん」

固法 「散々飲み食いしてその言い方ってどうなの?」 ハァ 「……まぁ、そうね。あなたも、いいかしら?」

シスター 「………………」 スッ 「……はい」

固法 「先ほどの連中、見たところただの学生だったけど、何かトラブルでも?」

シスター 「いえ。先ほどの方々は、今日初めて見えた方々です」

シスター 「おそらく……ただ単に、わたしたち十字教徒がいることが気に入らないのだと思います」

シスター 「……あの方々のことを非難するつもりはありません。これも、神の思し召しでしょうから」

シスター 「そして、あなた方がいらしてくださったこともまた、きっと神のお導きなのです」

固法 「………………」 ジッ 「……先日のテロを受けて、学園都市の多くの宗教家がいなくなったと聞くけれど、」

固法 「あなたはどうなの? あんなことがあって、まだここにいるつもり?」

シスター 「………………」

男 「ちょっ……固法さん! それじゃまるで、出て行けって言ってるように聞こえるよ」

固法 「……あなたは本当に純粋な人間ね」 ハァ 「半分はそういう意味も込めてるわよ」

男 「なっ……」




16 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:46:04.31 ID:dx94zRwo
固法 「……厳しいと思うかもしれないけれど、私は風紀委員。学園都市の秩序の守護を義務としているの」

固法 「学園都市に混乱をもたらすような存在を見過ごすわけにはいかないわ」

男 「そ、そんなの……! さっきのことだって、悪いのはあの人たちじゃないですか!」

固法 「事実関係のみを見るのならそうね。けれど、もしここに教会がなければ、どうだったかしら?」

男 「それは……」 グッ 「……でも、そんなの勝手すぎますよ!」

固法 「私はあなたと問答するつもりはないの」 ジッ 「……シスターさん、これはあなたのためでもあるのよ」

固法 「さっきの口ぶりだと、さっきのような輩が来るのは、今日が初めてってわけじゃないんでしょう?」

固法 「いつあなたに危害が及ぶか分かったものではないわ」

シスター 「………………」 コクン 「……分かっています。本当なら、わたしは学園都市を出て行くべきだって」

シスター 「ローマ正教もロシア成教も、この科学の街では区別されることはないと痛感しました」

シスター 「攻撃を恐れた主教様たちが祖国へ帰ってしまい、この教会ももはやわたし一人だけ……」

シスター 「……ですが、わたしはここを離れるつもりはありません」 ジッ

シスター 「わたしは、たしかにこの街に混乱を招いているのかもしれません」

シスター 「救いをもたらすどころか、逆に人々の心を荒ませているのかもしれません」

シスター 「……ですが」 ギュッ 「……それでも、わたしはわたしの祈りを信じます。わたしの救いを、信じます」




17 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:51:16.31 ID:dx94zRwo
固法 「………………」 フッ 「……そう。分かったわ」 サッ

シスター 「え……?」 スッ 「これは……」

固法 「ここから一番近い風紀委員支部……私たちの所属する177支部の連絡先よ」

固法 「何かがあったらすぐに連絡しなさい。出来る限り力になるわ」 ニコッ

シスター 「あ、あの……」

固法 「そこまで思ってのことなら、私は何も言わない……ううん。私には何も言えない」

固法 「だからできるだけ応援させてもらうわ。頑張って」

シスター 「あ……は、はい!」 ニコッ 「ありがとうございます!」

男 「………………」 ブーブー 「……良いトコ取りしちゃってまぁ。ずるいんだから」

固法 「何か言ったかしら男くん?」 バキボキ

男 「滅相もない」

固法 「……さて、と」 コトッ 「事情は分かったことだし、そろそろおいとまさせてもらうわ」

固法 「クッキーと紅茶、ご馳走様。とても美味しかったわ」

固法 「何かがあったらすぐに連絡してね。さっきは嫌なことを言っちゃったけど、私はあなたの味方だから」

シスター 「は、はい! ありがとうございます」




18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:52:51.04 ID:dx94zRwo
男 「………………」 ジッ

シスター 「……? どうかされました?」

固法 (まさかとは思うけど、本当に女子中学生スキー……?)

男 「あ……いえ。日本語上手だなー……なんて」

シスター 「ああ、そう言ってもらえると嬉しいです」 ニコッ

シスター 「わたし、日本が好きで、中学生の頃から日本語の勉強をしてたんですよ」

男 「? 中学生の頃からって……すごいですね。一年かそこらでマスターしたんですか?」

シスター 「そ、そんな、とんでもないです!」 ブンブン 「ここまで話せるようになるまで、五年以上もかかりましたよ」

シスター 「日本語って、本当に難しいです」 ハフゥ

男 「……? 五年って……え?」

固法 「………………」 アセアセ 「……うそ」

シスター 「あのー……どうかされました?」

男 「ね、念のためお尋ねしておきますが……その、シスターさんはおいくつなんです?」

シスター 「? 今年で十九になる予定ですが……」

男 「……と、いうことは……」 ダラダラ 「……じ、十八歳……ってことなんです?」




19 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 17:56:35.93 ID:dx94zRwo
シスター 「ええ、そうですけど……」

固法 「うそ……本当に年上!? あなた、中学生じゃないの?」

シスター 「むむっ……」 プクゥ 「わたし、そんなに小さくありません!」 プンスカプン!

男 「いや、その怒りの表現方法からして幼いんですけど……」

シスター 「む……あなただって、ロシア人視点で見たら小学生にしか見えませんよ!」

男 「し、小学生……!? いや、それはいくらなんでも言い過ぎでしょう!」

固法 「……あながち言い過ぎでもないんじゃない?」 ジッ 「あなた、日本人視点でも中学生にしか見えないんだから」

男 「こ、固法さんまで……!」

固法 「ともあれ、その……さっきまで偉そうにタメ口聞いてすみませんでした」 ペコリ

男 「………………」 プッ (……なんか不良の謝り方みたいですよ、それ)

ドスッ

男 「脇腹に鋭い肘鉄!?」 ガクッ 「うぅ……」

男 (にしても……とても十八歳には見えないよなぁ……)


………………


神裂 「――クシュ……! ……神裂火織、十八歳です♪」 (……? 何故私はこんなことを?)




20 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:01:16.11 ID:dx94zRwo
………………第177支部

固法 「……ってわけだから、みんなも気に留めておいてね」

一同 『はーい』

固法 「じゃ、今日はこれで業務終了。解散」

一同 『お疲れさまでーす』

男 「ふぅ……」 ノビ…… 「終わったぁ……」

白井 「男さん」 ピョン! ギュッ 「今日も大活躍だったそうではありませんの」 スリスリ

男 「わっ……く、くすぐったいですよ、白井さん」 スリスリ

白井 「そう言いつつも男さんもしているではありませんの」 スリスリ

初春 「あの……バカップルのお二人さん? 大変苛つくので目の前で頬ずりはやめてくれませんか?」

白井 「むぅ……」 キッ 「だって、外でやると 『風紀委員のくせに』 と言われてしまいますもの」

白井 「仕方ないではありませんの」 スリスリ

初春 (死ねばいいのに)

男 「大活躍ってほどじゃないよ……白井さんに教えてもらったとおりにやったら、上手くできたってだけ」 スリスリ

白井 「ご謙遜を。わたくしも男さんの活躍、拝見したかったですわ」 スリスリ




21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:02:14.63 ID:dx94zRwo
初春 「うぅ……固法先輩もなんとか言ってくださいよ!」

固法 「……そうねぇ――」 ピピッ 「あ、メール……先輩から!?」 ガバッ

初春 「………………」

固法 「あっ……」 アー…… 「……ま、まぁ、いいんじゃない?」

初春 「うぅぅ……みなさんのバカーーーーっ……!」 ダッ

固法 「ふふ……先輩、もうすぐ戻ってこられるんだ……ふふ……」 ←聞いてない

男 「全部白井さんのおかげだよ」 ←聞いてない

白井 「もう……男さんったら、お上手なんですから」 ←聞いてない

……ガチャッ

初春 「……うぅ。誰か追ってきてくれてもいいじゃないですかぁ……」 グスッ




22 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:11:33.66 ID:dx94zRwo
………………帰り道

男 「はは……まったく、初春さんも冗談が通じないんだから」

白井 「まったくですわ。友人に対しての軽いジョークでしたのに」

初春 「………………」 (絶対うそです)

初春 「まったくどうもすみませんね」 プンプン 「せっかくお二人で帰れるのに、送っていただいたりして」

白井 「いえいえ、全然構いませんのよ。初春は大切な友達ですもの。ねぇ男さん」

男 「もちろんですよ。初春さんは、僕の大切な同僚で、風紀委員の先輩ですからね」

初春 「……お二人とも……やっぱり、少しは私のことを大事に思っていてくれたんですね……」

白井 「それに、初春の寮を迂回した方が、男さんと長く一緒にいられますもの」

男 「そうそう。初春さんの寮から白井さんの寮までの距離、結構あるからね」

初春 「……死んじゃえ、二人とも」 プイッ 「……あれ?」

男 「死んじゃえって……それはいくら何でも言いすぎじゃないです? ……って、初春さん?」

白井 「どうかしましたの?」

初春 「いえ……あの、あれ……あの白い何か、」 スッ 「……人に、見えません?」

白井 「なっ……!?」




23 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:17:09.08 ID:dx94zRwo
男 「っ……!」 ダッ (死体……とかじゃないよね……?) スッ

男 (無闇に揺らしちゃいけないんだよな……まずは耳元で……)

男 「もしもし!? もしもし!? 大丈夫ですか!?」

?? 「む……ぅ……」

白井 「よかった……! 大丈夫そうですの!」

?? 「……う、あ……」

男 (女の子……? うわっ……銀髪……それにこれ、白い修道服……?)

男 (ん? この子、どこかで見たような……)

?? 「あ……あの……」 ガシッ

男 「ひっ、ゾンビ……!?」 アセアセ 「な、何ですか!? どうかしたんですか!?」

?? 「お……おな……お腹……」

男 「お腹……? お腹が痛いんですか!?」

?? 「ち、違う……お……お腹……」 ガシッ 「……お腹、減った」

グゥゥゥゥウゥゥゥゥウゥウウ……

男&白&初 「「「………………」」」




26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:27:52.22 ID:dx94zRwo
………………ファーストフード店内

ハグハグハグハグハグハグハグハグハグハグ……!!!!  ムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャムシャ……!!!!

?? 「はぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐはぐむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃむしゃ」

男&白&初 「「「うわぁ……」」」

?? 「――――――」 スッ 「……ぷはぁ。やっとお腹いっぱいになったんだよ」

白井 「………………」 ジッ 「……その特徴的な外見……あなた、大覇星祭の時、殿方さんと一緒にいた方ですわね?」

?? 「うん。あなたは短髪と一緒にいた車いすのツインテだよね?」

白井 「……よく覚えていらっしゃいますのね」

?? 「もちろん。だってわたしは、一度覚えたことは忘れないから。花飾りも、もちろん覚えてるよ」

初春 「あ……病室以来ですね。どうも」

?? 「それからそっちのあなたは、とうまと同じクラスにいた人だよね。席は青い髪の人の隣」

男 「えっ……? よ、よく覚えてるね……」

?? 「だから言ってるの。わたしは、一度覚えたことは絶対に忘れないから」

?? 「じゃあ、お礼もかねて改めて自己紹介しようかな」 スッ

インデックス 「――はじめまして。わたしは、インデックスっていうんだよ」 ニコッ




27 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:29:14.80 ID:dx94zRwo
男 「……!」 (か……可愛い……!)

白井 「む……」 ドゴォォォオッ!!

男 「強烈な裏拳を顔面に頂きましたッ!!!」 ゴロンゴロン……!!

白井 「まったく……!」 プンスカプン 「……それで、あなた。何故あんなところで行き倒れていましたの?」

インデックス 「だって、仕方がないんだよ。とうまがなかなか帰ってこないんだもん」

インデックス 「お腹が減ってお腹が減って、外へ出たところで動けなくなったんだよ」

初春 「……? とうまっていうのは、上条当麻さんのことですよね?」

インデックス 「そうだよ?」

男 「か、帰ってこないって……ど、どういうこと……?」 ヨロヨロ

インデックス 「? 補習だって言ってた」

男 「たしかに、今日はデルタフォース全員補習だって月詠先生が張り切ってたけど……」

男 「いや、そうじゃなくてね……何で上条くんが帰ってこないと――――ん……?」

男 「……いや、あの……もしやとは思うけど……」 ゴクリ 「君……上条くんの家に住んでる、なんてことはないよね?」

インデックス 「? そうだけど?」

男 「……白井さん。通報だ」 スッ 「シスターさんを監禁してるクソ野郎がいる」




28 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:32:21.84 ID:dx94zRwo
男 「………………」 ゴゴゴゴゴゴ…… 「上条当麻……あのクソ鬼畜野郎……ッ!!」

初春 「すごい怒り……オーラが具現化してる……」

白井 「お、男さん。落ち着いてくださいな」

男 「これが落ち着いていられますか……」 カッ 「友人が犯罪者と分かって、落ち着いていられますかーーーっ!」

白井 「いえ……あの、ですから、まだ犯罪と決まったわけでは……」

インデックス 「よく分からないけど、とうまは悪くないよ?」 ムッ 「行くアテがないわたしを、匿ってくれてるんだもん」

男 「………………」 ハァ 「……まぁ、そんなところだろうとは思ったけどね」

男 (まったく……上条くんも大概一人で抱え込むなぁ。一言いってくれれてもいいだろうに……水くさい)

男 「まったく……匿うためとはいえ、こんな可愛い女の子と一緒に暮らしてるなんて……羨ましい」

初春 「……男さん。本音と建て前が逆になってます」

男 「えっ……?」 ハッ 「――――」 ダッ

ガシッ  ゴゴゴゴゴゴゴ……

白井 「……男さん?」

男 「し、白井さん……? ど、どうして、僕の手を万力の如き力で掴んでいるの……?」

白井 「ふふ、男さんったら……」 ニコッ 「……彼女の前で他の女に色目使ってんじゃねぇですの……ッ!!」




29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:34:51.34 ID:dx94zRwo
………………

男 「うぅ……」 ボロボロ……

インデックス 「うわぁ……これはとうま並の不幸具合かも」

白井 「今のは不幸と言うのではなく、自業自得と言うんですの」 プンスカプン!

初春 「俗にバカとも言いますよねー。あるいは最低とか。クズ野郎とか」

男 「うぅ……言葉にまで毒が混じっている……」

インデックス 「………………」 スッ 「……でも、面と向かって可愛いなんて言われたのは初めてかも」

男 「え……?」

インデックス 「少し嬉しかったんだよ。ありがと」 ニコッ

男 「あ……う、うん」 カァ…… 「ど、どういたしまして…… (やっぱ可愛い……)」

白井 「なっ……」 ビキビキ

初春 「修羅場ー」




30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:35:58.08 ID:dx94zRwo
男 「うぅ……もう死にそう……」 ボロボロ……

白井 「うるさいですの!」 プンプン!! 「……そしてあなた!」 ビシッ

インデックス 「わたし?」

白井 「殿方さんと同衾しているというのは本当ですの!?」

インデックス 「ど、同衾って……//」 ポッ 「そ、そんな事実は確認されてないかもっ」

インデックス 「とうまはいつもお風呂場で寝ているんだよ。だから何にもないもん!」

初春 「うわぁ……居候なのにあなたが布団を使ってるんですか?」

インデックス 「うっ……だ、だって……」 モジモジ 「一緒に寝てもいいよって言ってるのに、とうまが……」

男 「うわぁ何だかよく分からないけど上条のクソ野郎に殺意が湧いてきたぞー♪」

白井 「むぅ……風紀委員として、風紀の乱れは看過しがたいのですが……」

白井 (そもそもこのシスターさんが何者なのかはよく分かりませんし……)

フゥ

白井 「……まぁ、あの殿方さんですものね。仕方ないと言えば仕方ないことですの。大目に見ましょう」

白井 (お姉様が知ったらどうなることやら……) 「ともあれ、お腹はふくれたでしょう? もう寮の方にお帰りなさい」

インデックス 「もちろん、言われずともそうするんだよ」 トン! 「ねこあひるのひと、ご馳走様なんだよ!」




31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:37:32.73 ID:dx94zRwo
男 「……はいはい。どういたしまして」 (はは……お金が……)

白井 「もう外も暗くなりかけていますし、男さん、彼女を送って差し上げてくださいな」

男 「えっ……? 白井さんと初春さんは?」

白井 「もちろん、」 ギロッ 「先に帰らせていただきますの」 プイッ

男 「そ、そんなぁ……」

白井 「他の女に色目なんか使うからですの」 ベーッ 「よーく反省してくださいな」

白井 「行きますわよ、初春」

初春 「……ふふ、」 ボソッ 「いい気味です」

男 「んなっ……!」

初春 「待ってくださいよー白井さーん」 タタタタ……ピタッ 「……いい気味です」 ボソッ……トトト……

男 「………………」 ガクッ 「……はぁぁ……」

インデックス 「? どうかしたの?」

男 「いや、何でもないよ」 スッ 「……送っていくよ。上条くんは高校の寮に住んでるんだったよね」

インデックス 「ん、ありがと、ねこあひるのひと」 ニコッ

男 「ねこあひるのひとって……」




32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:43:51.93 ID:dx94zRwo
テクテクテク……

インデックス 「でも、ねこあひるのひとって、寮で見たことがないかも」

男 「えっ? ああ、そんなことよく覚えてるね」

男 「僕はちょっと同居人……いや、同居動物がいてね。普通の寮にはいられないんだ」

男 「だからちょっと特殊な男子寮に入ってて、高校の寮には入ってないんだよ」

インデックス 「? とうまの部屋にも猫がいるかも」

男 「……それってもしかして、君が拾ってきた猫とか?」

インデックス 「その通りなんだよ! どうして分かったの?」

男 「いや……カンだけど」 ハフゥ 「上条くんも苦労してるんだなぁ」

インデックス 「とうまの場合は、不幸を理由にして苦労を肯定してる節があるかも」

男 「間違いなくその通りなんだけどね……」




33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:44:47.75 ID:dx94zRwo
………………

?? 「うぉぉぉーーーー! インデックスーーー!!!」

男 「………………」 チラッ 「……ねぇ、あの寮の前で叫んでる人って、もしかしなくても上条くんだよね?」

インデックス 「今ばっかりは否定したい気分かも……」 トトト 「こら、とうま。ご近所迷惑だから静かにするんだよ」

上条 「!? インデックス!」 ダッ 「よかった……何ともなかったのか」

上条 「まったく、心配するだろうが……家にいないし、電話しても出ねぇし……」

インデックス 「だってお腹減ったんだもん。携帯電話はとうに電池切れかも」

男 「……過保護すぎる気がするけど?」

上条 「のわっ……! 男!」 バッ 「も、もしかして、男が連れてきてくれたのか?」

男 「そうなるね。天下の往来で倒れてたら、風紀委員としては放っておくわけにはいかないでしょ?」

インデックス 「とうまとうま。ねこあひるのひとがね、ハンバーガーとかをたくさん食べさせてくれたんだよ!」

上条 「お、お前は……」 プルプル 「すまん、男。その……いくらだ?」

男 「えっ? い、いや、いいよ。僕が勝手にご馳走しただけだから……」

上条 「いや、そういうわけにはいかないだろ。ほら、レシート寄越せ」

男 「いやいや、いいって。最近はESP研究所からも結構お金をもらってるし」




34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:47:55.13 ID:dx94zRwo
上条 「しかしだな……」 バリバリ

男 「やめてっ」

上条 「うわ、財布の中に金がねぇ……」

男 「だと思った。こんな大食らいの女の子と同棲してるんなら、そりゃお金もなくなるよね」

上条 「ど、どうせっ……!?」 ブンブン 「おまっ……ちょっと言い方を考えろよ。人聞きが悪いだろうが」

男 「事実でしょー? インデックスさんから色々と聞いちゃったよー?」

男 「なんか真夜中に起きたら目の前に鼻血をたらした上条くんが立ってたとか」

上条 「ぶっ……! インデックス! お前何を話してんだよ!」

インデックス 「本当のことだもん!」

上条 「そ、そりゃそうだがな……」 ハァ 「……すまん、男。今度絶対に返すから、貸しといてくれ」

男 「べつにいいってのに。変なトコで律儀なんだから」

上条 「……あー、ところで、男さん?」 モジモジ 「コイツのことは、できれば秘密でお願いしたいのですが……」

男 「気持ち悪い笑みを浮かべなくてもいいよ。誰にも話さないから」

上条 「……重ね重ね、すまん」 ペコッ

インデックス 「………………」 クイクイ 「……そんなことより、お腹が減ったんだよ、とうま」

男 「あれだけ食べてもうお腹ペコペコ!?」

上条 「インデックス……お前……」 ハァ 「……すまん、男。また明日」




35 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:52:09.35 ID:dx94zRwo
男 「ん。じゃあね。また明日」

インデックス 「あ……」 トト……ジッ

男 「? どうかしたの?」

インデックス 「改めて……今日はどうもありがとう」

男 「ああ……うん。どういたしまして」 ニコッ 「これからは行き倒れにならないように気をつけてね」

インデックス 「努力するんだよ!」 グッ

男 「努力て……まぁいいか」 スッ 「……何かがあったら、この電話番号に電話してね」

インデックス 「……?」

男 「風紀委員、第177支部の電話番号だよ。僕ら風紀委員がいつでも力になるから」

男 「……まぁ、食糧事情は上条くんにどうにかしてほしいけどね」

インデックス 「まったくもってそのとおりなんだよ!」

上条 「インデックス、お前。穀潰しの分際で……」 ワナワナ

インデックス 「そうだ!」 ポン! 「ねこあひるのひと! 携帯電話を出して」 ゴソゴソ

男 「? 携帯電話?」 スッ 「いいけど……」

インデックス 「………………」 ウルウル 「使い方がわからないかも……」




36 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:53:41.36 ID:dx94zRwo
上条 「……何がしたいんだ、お前」

インデックス 「わたしの携帯電話の番号、教えておこうかなって思っただけだよ」

男 「インデックスさんの?」 スッ 「……いいよ。打ち込むから教えて」

インデックス 「――――……だよ。きちんと登録しておいてね」 ニコッ

男 (なに? これはフラグが立ったと解釈してもいいの?) 「う、うん……登録したよ」

インデックス 「もしこの 『禁書目録』 の力を借りたくなったら、いつでも電話するんだよ!」

男 「『禁書目録』 ……? ま、いいか。ありがとう。そうさせてもらうよ」

上条 「………………」

男 「それじゃ、僕は帰るよ。じゃね、上条くん、インデックスさん」 ノシ

インデックス 「また今度、なんだよ。ねこあひるのひと」 ノシ

上条 「……ああ、また明日。気をつけて帰れよー……」 ノシ ………

上条 「………………」 ジロッ 「……それで、何であんなことをしたんだ?」

インデックス 「……あの人から、ごく微量だけど、魔術的なエッセンスが感じられたかも」

上条 「!? それは本当か……!」

インデックス 「うん。でも詳しいことは分からないよ。ただ単にあの人の生命力が一時的に変質しただけかもしれないし」




37 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:54:27.34 ID:dx94zRwo
インデックス 「……けど、あの人が魔術的な何かに関わった可能性は十分にある」

上条 「……まだ、断定はできないのか?」

インデックス 「残念だけど、判断要素が少なすぎるかも。いくらわたしでも分からないよ」

上条 「そうか……」 フッ 「……いや、十分だ。さすがはインデックスだな」 ナデナデ

インデックス 「えへへ……」

上条 (魔術、か……。いや、まさかな……)

上条 (……ま、アイツには風紀委員の仲間がいるし、いざとなればレベル5の御坂もいる。大丈夫だよな)

上条 「……インデックス。男が魔術関係の事件に巻き込まれていると分かったら、すぐに俺に連絡を寄越せよ」

インデックス 「む……」 ジッ 「とうまが無茶をしないっていうんなら、そうする」

上条 「……善処するよ」

インデックス 「むむっ……(人の気も知らないで……っ!)」 ガブリンチョ

上条 「!? なっ……何でいきなり噛みつくんでせうインデックスさん!?」

インデックス 「ムカついたからだよ! ねこあひるのひとから色々聞いたんだから!」

インデックス 「遊園地でたくさん女の子に囲まれて大層幸せそうだったらしいかも!!」 ガブガブガブ!!!

上条 「ちょっ、まっ……! 痛い痛い痛い!」 ジタジタ 「……あの野郎、話をねつ造しやがったな!!」




38 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 18:57:30.73 ID:dx94zRwo
………………

男 「………………」 ハァ

男 「さっきのシスターさんといい、インデックスさんといい……」 ハフゥ 「可愛かったにゃあ……」

男 「……!?」 ブンブンブン!! 「ち、違う違う違うんです! 僕は白井さん一筋なんです!」

男 「ほら、だってこの通り、インデックスさんの白修道服を頭の中で白井さんに着せたりしてるし――――」

ポワンポワンポワン……

白井 『そ、その……男さん……似合っておりますか……?』 モジモジ

男 「……! グッジョブ! グッジョブだよ白井さん!!」 グッ 「ああ、そんな! 安ピンで留めただけの服なんてっ!」

通行人一同 《なにあのひと独り言いってキモこわい》 サササササッ

男 「………………」 ハァ 「……明日、白井さんに謝ろう」

?? 「――――ダメぇぇぇぇーーー!!」

男 「!? な、何だ……?」 ギョッ 「……あれは、さっきのシスターさん……?」

シスター 「ダメなんですーーーっ!! はーなーれーてーーーっ!!!」 ジタジタジタ

男 「……? 清掃用ロボと格闘している……?」 ダッ 「……ともあれ、助けないと」

男 「大丈夫ですか? どうかされました?」




39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:02:10.63 ID:dx94zRwo
シスター 「へっ……? ああ、さっきの風紀委員さん……!」 グググググッ……!!

シスター 「って……ちょっと気を抜いたらまた……!」 ガッ 「は、離れてくださいですー!!」

男 「……? ま、いいか」 ガッ!! 「何だか分かりませんが、手伝いますよ」

男 「この清掃用ロボを押せばいいんですね?」

シスター 「は、はい……すみません」

男 「いえいえ。風紀委員ですから」 グッ……!! 「……せーのっ!!」

グググググッ……!!! ギギギ……!!

シスター 「……ぐぬぬぬぬ……!!」 ググッ 「……あと、少し……!」

男 「むぅぅぅ……!!」 グググググッ…… (ん? ロボの下から、何か……)

男 「!? これは……」

シスター 「………………」 スッ 「……すみません。少し、このロボットをお任せしてもいいですか?」

シスター 「わたしは、この子を拾ってあげなくてはなりませんので」

男 「………………」 コクン 「……任せてください。僕がコイツを押し留めていますから」

シスター 「感謝致します」




40 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:03:34.75 ID:dx94zRwo
………………教会裏

ザクッ……ザクッ……ザクッ……

シスター 「……すみません。穴まで掘っていただいて……」

男 「………………」 フルフル 「いえ……」

男 「……これくらいでいいですかね」

シスター 「はい。十分です。本当にありがとうございます」 スッ 「……安からに眠ってくださいね」

男 「……シスターさんは優しいんですね」

男 「――清掃用ロボがゴミとして処理しようとしていた猫の死骸を、弔ってあげようとするなんて」

シスター 「いくら動物畜生の生命とはいえ、生ゴミとして処理されてしまうのは、あまりにも忍びなくて……」

シスター 「……痛かったでしょうね。苦しかったでしょうね。だからせめて、安らかに」

男 (……野良猫の死骸……あの様子からみて、多分車に轢かれたんだろうな) ギリッ

シスター 「厳密な十字教の規定では、動物に対して哀れみの心を持つことは間違いなのでしょう……」

シスター 「けれど、この行為が間違いだとはわたしは思いません。神の教えには背いていないと思います」

男 「……僕は十字教徒じゃありませんけど」 フッ 「ご立派だと、そう思います」

シスター 「ありがとうございます」 ニコッ 「ですが、動物の命に対してそんなに真摯に臨めるあなたも、立派だと思いますよ」




41 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:04:17.16 ID:dx94zRwo
男 「……いえ、僕は、」 ギュッ 「……僕は、猫の言葉が分かるんです」

シスター 「えっ……?」

男 「あ……僕の能力の話です。特殊なテレパスで、ネコとアヒルとの意志の疎通ができるんです」

男 「……だから、猫の死は、あまり僕にとっては無関係とは思えないんです」

シスター 「そうでしたか……」 スッ 「……それは、さぞお辛いでしょう」 ギュッ

男 「えっ……?」

シスター 「あなたにとって、共に語らい、笑い合える猫の命は、人の命と対等なのでしょうね」

シスター 「ショックだったでしょう。すみません。こんなことに巻き込んでしまって」

男 「いえ……僕が勝手に手伝っただけですから」 スッ

男 「……僭越ながら、猫と人間の架け橋として、感謝させていただきます」

男 「――猫のために身体を張っていただき、ありがとうございます」 ペコリ

シスター 「………………」 フッ 「……いえいえ、わたしはわたしの意のままに行動しただけですよ」

シスター 「暗くなってきましたが、お疲れになったでしょう? 少し教会で休んでいってください」

シスター 「今日は冷えますね……熱いお茶をお入れします」

男 「……すみません。お言葉に甘えさせていただきます」




43 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:42:35.93 ID:dx94zRwo
………………

男 「………………」 ゴクゴク……プハッ 「……美味しいです」

シスター 「ありがとうございます。さ、パンもどうぞ」

男 「すみません……一日に何度もご馳走になっちゃって」

シスター 「ふふ、構いませんよ。日曜日以外は、人がいなくて寂しいですから、こちらがお礼を言いたいくらいです」

男 「日曜……礼拝ですか」

シスター 「はい。なかなかどうして、学園都市にも十字教の方はいらっしゃるようでして」

シスター 「ミッション系の学校もありますし……お菓子や絵本を楽しみに来てくれる子どもたちもいます」

男 「なるほど……だからシスターさんはただ一人、この教会に残っていらっしゃるんですね」

シスター 「……はい。わたしがいなくなったら、ロシア成教を信じる方々が困ってしまいますから」

男 「………………」 フッ 「……すごいです。本当に」

男 「十字教が世界中で信奉されているのは、シスターさんのような方がいらっしゃるからなんでしょうね」

シスター 「そんな……」 アタフタ 「わたしなんて、本当にまだ未熟で……とんでもない俗物です」

男 「はは、そんな謙遜しなくてもいいじゃないですか」 モグモグ…… 「うわ……パンもふかふかで美味しい……」

シスター 「焼きたてですからね」 ニコッ




44 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:48:34.58 ID:dx94zRwo
シスター 「あの……」

男 「はい?」

シスター 「お聞きしていいのか分かりませんが……その左手の手袋は何でしょうか」

男 「ああ……」 スッ 「……実は先日、不注意でちょっとした大やけどを負いまして」

男 「その傷痕を隠しているんです。あまり他の方に見せられるようなものではないので」

シスター 「まぁ……」 スッ 「それは、大変なことですね……」

男 「いや、そんな……これは僕が望んだことですから。傷を消すこともできましたけど、そうしなかったんです」

シスター 「……?」

男 「……僕は、この痛みを忘れてはいけないから。もう、絶対に逃げたくないから」

男 「本当に弱いんです、僕は。怖がりだし、臆病だし、力も弱いし、意志も弱い……」

男 「……でも、もう弱さを理由に逃げたくないんです。だから、その覚悟を忘れないように、傷痕を……」

シスター 「……なるほど」 フッ 「あなたは本当に、お強い方なのですね」

男 「そ、そんなことはありません。僕なんか本当にダメダメで……いつも同僚や先輩に怒られてばかりです」

シスター 「ふふ、そんな謙遜しなくても、いいんじゃありませんか?」

男 「あっ……」 カリカリ 「はははは……」




45 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:51:07.35 ID:dx94zRwo
prrrr……

男 「ん? メール……お母さんから……?」 スッ 「ちょっとすみません」

シスター 「どうぞ。お気になさらずに」

男 「…………………………」 フッ 「……そう、か」

シスター 「……? ご母堂様が、どうかされたのですか?」

男 「あ……いえいえ。あの母親は殺しても死にませんよ」

シスター 「そ、そういう言い方は、冗談にしてもいかがなものかと……」

男 「あっ、すみません。つい……」 ハハ…… 「……妹のことについて、メールが来ただけです」

シスター 「妹さん、ですか……?」

男 「年の離れた妹なんですけどね……今年幼稚園の年長さんで、来年から小学一年生なんです」

男 「……その妹が、学園都市に来たがっているらしくて」

シスター 「はぁ……まぁ、ご兄弟そろって学園都市に来ていらっしゃる方も少なくはないと聞きますしね」

男 「まぁ、そうなんですけど……」 フゥ 「……うちの場合は、ちょっと特殊でして」

シスター 「……これ以上お聞きしてもいいのか分かりませんが、特殊とは?」

男 「……聞いてもらってもいいのかな……ま、いいか」




46 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:51:48.85 ID:dx94zRwo
男 「僕の家庭は、僕が長子で、そのすぐ下に弟、それから忘れた頃に生まれた妹がいます」

男 「……母親がミーハーな人で、なんとしも学園都市に僕を送って超能力者にしたかったらしいんですよね」

男 「まぁ、親に利用されたという気持ちはなくもないですが、それに関してはべつに恨んではいません」

男 「……けど、僕が大した能力者ではないと分かった途端、母親は僕を学園都市に送ったことを後悔したようでして」

男 「下の弟については、学園都市に送る計画を取り止めて、普通の学校に通わせることにしたんです」

男 「……僕に、ネコとアヒルの言葉が分かるというだけの地味な能力しか発現しなかったから、ガッカリしたんでしょうね」

男 「弟にまで僕の二の轍を踏ませるわけにはいかないと思ったんでしょう」

男 「……もしくは、あの人の中で超能力ブームが去っただけなのかもしれません。熱しやすく冷めやすい人ですから」

男 「その可能性の方が高いですけどね……はは……」

シスター 「………………」

男 「あっ……すみません。なんか愚痴みたいになっちゃって……」

シスター 「いえ、構いませんよ。それで、妹さんが学園都市に来たがっているというのは……」

男 「ああ……一年に一度くらいは実家に帰省しているんですけどね、なぜか妹は僕に懐いていて……」

男 「僕がいる学園都市に、自分も行きたいなんて駄々をこねているらしいんです」

男 「だから母親は、僕からも妹をたしなめるようにって……今、メールをくれたという次第です」




47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:54:06.75 ID:dx94zRwo
シスター 「………………」

男 「……ほんと、勝手な親ですよ」

男 「幼い頃、強制的に学園都市に送られた息子が、自分に対して何か思うところがあるなんて夢にも思ってないんですから」

男 「ただ一人学園都市に送られた僕のことなんて考慮に入れもせず、ただ自分の都合を押し付ける……」

男 「……学園都市を今さら否定するんなら、あの時学園都市に送られた僕は、どうなんだよ……」

男 「はは、でも……こんな風に筋違いな恨みを抱いてしまう僕こそが、一番滑稽ですかね」

シスター 「………………」 スッ 「……わたしには、きっとあなたの悩みを解決することはできません」

ギュッ

男 「え……?」

シスター 「けれど、あなたの気持ちの整理を手伝って差し上げることはできます」

シスター 「迷える子羊よ、あなたは、何をどうしたいと考えますか?」

男 「僕は……」 ギュッ 「……もう、家族に会いたくないとも思います」

男 「けれど、やっぱり……会えないと思うと、寂しいです」

男 「……分からないです。僕は、どうしたいんだろう」

シスター 「……一つだけ、言えることがあります」




48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:54:50.71 ID:dx94zRwo
男 「えっ……?」

シスター 「あなたが、心を開いてご母堂様たちとお話をすることです」

男 「心を開いて、話す……?」

シスター 「あなたはお優しい方です。きっと、ご家族の前では弱音や燻る思いをお話になったことはないでしょう」

シスター 「それは間違いなくあなたの優しさであり、強さです。ですが……」 フッ

シスター 「一度は本音を話してみないと、何も分かりませんよ?」

シスター 「ご家族も、もしかしたら、あなたの本当のお気持ちを知りたいのかもしれません」

シスター 「家族とは、話せるうちに話しておいた方がいいでしょう」

シスター 「話せなくなってからでは、もう遅いですから……」

男 「………………」 コクン 「そう……ですね」

男 「僕はきっと、また知らず知らずのうちに逃げていたんだ……」

男 「ありがとうございます、シスターさん。僕、ちょっと電話してきます……!」

シスター 「神はいつでも、あなたを見守っていらっしゃいます」 ニコッ

シスター 「十字教徒ではない人の子よ。されどあなたに、神の祝福があらんことを」




49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 19:55:53.31 ID:dx94zRwo
………………

男 「……お待たせ、しました」

シスター 「……どうでしたか?」

男 「はは……母親を泣かせてしまいました。親不孝者ですね、僕」

男 「僕がそんな気持ちだったってこと、やっぱり気づいてなかったみたいです」

男 「けど……ごめんね、って、泣きながら謝られたら、もうどうでもよくなりました」 ニコッ

シスター 「ふふ……それが家族の絆、というものなのでしょうね」

男 「そう……ですね。きっと、そうだと思います」

男 「妹の学園都市行きについては、よく相談して、考えてから決めるそうです」

男 「僕のことをさっ引いても、昨今の学園都市事情を考えると、子供を送るのは危険とも思えますから」

男 「……まぁ、風紀委員から言わせてみれば、学園都市の中ほど安全な場所はないと思いますけどね」

男 「ともあれ……」 スッ……ペコリ 「……シスターさん、本当にありがとうございました」

男 「心のモヤがひとつ取れました。シスターさんのおかげです」

シスター 「いえいえ、わたしはただ、あなたの背中を押しただけですよ」

シスター 「行動を起こしたのはあなた……お強く優しい、あなたです」




50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:02:54.19 ID:dx94zRwo
ゴリゴリゴリ……

男 「……? ところで、一体何をなさっているんですか?」

シスター 「我がロシア……いえ、シベリアに生える薬草を調薬しています」

男 「薬草……? 漢方薬みたいなものですか?」

シスター 「そうですね。あなた方は科学的でないと笑うかもしれませんが、そんなようなものです」

男 「いえいえ、漢方薬は科学的にもその効能が実証されていますし、そんなことはしませんよ」

シスター 「科学的に実証……ですか」 ボソッ

男 「……? どうかされました?」

シスター 「いえいえ。何でもありません」 スッ 「……できました。『血衣苔(ブラッドモス)』 です」

男 「ブラッドモス……?」

シスター 「はい。北極圏近郊にのみ生える、極寒でしか生きられない苔、ブラッドモスを製薬した塗り薬です」

シスター 「……さ、左手の手袋を外してください」

男 「えっ……?」 アタフタ 「ぼ、僕のためにやっていてくださったんですか?」

シスター 「もちろんです。それ以外に何かありますか?」

男 「いや、でもこの火傷は、もうほとんど治っていますけど……」




51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:03:59.00 ID:dx94zRwo
シスター 「ですが、先ほどからの手つきを見る限り、まだ痛みや違和感は完全には引いていないとお見受けしました」

男 「えっ……? よく分かりますね、そんなこと」

シスター 「それなりの経験は積んでいますので」 ニコッ 「さ、手をお出しになってくださいな」

男 「わ、分かりました……」 スッ 「ありがとうございます」

シスター 「いえいえ……」 サッ 「……これは、かなり酷い火傷ですね」

シスター 「しかも、火傷が少しおかしいような……まるで、焼きごてを握りしめたみたい……」

男 「………………」

シスター 「あっ……す、すみません……」

男 「いえ……まぁ、焼きごてを思い切り握ったのとほとんど同じですからね」

男 「とある事件で、犯人の能力をもろに受けてしまったんです」

シスター 「なるほど。能力での火傷でしたか……なら、この不自然な火傷も納得できますね」

シスター 「では、失礼して……」 ヌリヌリヌリ……

男 「……? 独特のニオイがするんですね」

シスター 「ええ、それがブラッドモスの特徴です。シベリアの永久凍土層近くに生えていることもありますから、」

シスター 「ブラッドモスを探すときは、視覚ではなくこの独特のニオイを探る嗅覚が大事なんですよ」




52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:04:57.16 ID:dx94zRwo
男 「えっ……それって、結構貴重な薬草なのでは……?」

シスター 「まぁ……私たちの市場価格では、1グラムピーーーーーーーーッ米ドルくらいですかね」

男 「!? こ、この塗り薬には、一体何グラム入っているんです!?」

シスター 「そうですねぇ……大体五十グラムといったところでしょうか」

男 「ご、ごじゅっ!? ってことは……」 ヒィフゥミィ…… 「……ヤバイ」 ダラダラダラ……

シスター 「……? ああ、もちろんお金なんて取りませんよ。わたしが好きでやっていることなのですから」

男 「で、でも! さすがにそんなわけにはいかないというか……!」 アセアセ 「いくら何でも悪いですよ!」

シスター 「まだ教会に備蓄はたくさんありますから、問題はありませんよ」 ニコッ

シスター 「それよりどうです? 痛みや違和感は消えていませんか?」

男 「えっ……?」 スッ 「うそ……!? なんか、すごく自然に動く……!」

シスター 「それは何より、です」 ニコッ 「調薬に関しては、少しばかり自信があるんですよ」

男 「す、すごいですね……こんなに即効性のある薬を作れるなんて……」

シスター 「ふふ、ありがとうございます」 スッ 「……さ、残りもどうぞ。一週間も塗り続ければ、違和感も大分緩和するはずです」

男 「すみません……ありがとうございます」 スッ

シスター 「いえ……すべては神のお導き。わたしは、それに従うだけであります故に」




53 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:06:07.44 ID:dx94zRwo
男 (見た目は中学生だけど……優しいお姉さんだ……) ジッ

男 (清貧な感じで、清廉な佇まいで、優しくて、親身で……理想のお姉さんだなぁ……)

男 (神経質な弟や少しおバカな妹より……こんな姉がほしかったなぁ……)

シスター 「……? わたしの顔に何かついています?」

男 「あっ……」 アセアセ 「す、すみません……」

男 「つ、つい見とれて――じゃなくて! その……」

男 「シスターさんみたいなお姉さんがいたらなぁ……って、言ってどうするの僕!?」

シスター 「……?」 クスッ 「……面白いことをおっしゃいますね。お姉さん、ですか」

シスター 「さっきは人のことを中学生扱いしたくせに……」 ブーブー

男 「そ、それは……だって、シスターさんだって僕を小学生なんて言ったじゃないですか」

シスター 「ふふ、ではおあいこですね」 スッ 「姉弟……ですか」 スッ

男 「……?」

シスター 「……実は、わたしには弟がいましてね」 フッ 「去年……亡くなりましたが」

男 「えっ……?」

シスター 「そういえば、どことなくあなたに似ていますね……どこか、面影を感じます」




54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:08:10.89 ID:dx94zRwo
シスター 「あの子はまだ十歳でしたが……ふふ、こんなことを言ってはあなたに失礼ですね」

男 「いえ、そんなことは……」 ジッ 「弟さんと、仲が良かったんですね」

シスター 「はい……弟は、将来は立派な主教様になると意気込んでいました」

シスター 「わたしは、そんなあの子を支える、シスターでありたかった……っ」

男 「………………」

シスター 「あっ……」 アセアセ 「すみません。シスターが一般の方にお話を聞いてもらうなんて、おかしいですよね」

男 「………………」 スッ 「……泣きたいのなら、泣いてもいいと思いますよ」

シスター 「えっ……?」

男 「僕でよければ、お話を聞くことくらいはできますから」

男 「そして、その涙を、悲しみを、少しだけ緩和して差し上げられるかもしれません」

男 「………………」 スッ (猫鶩ネット、接続可能範囲を実行可能最大値へ……演算開始――)

――キィィィ……

シスター 「え……? これ、は……?」

男 「……この近くにいるネコのみんな。ここに、涙を流している人がいる……だから、僕の呼び声に応じてくれ」

男 「ピースサインを、そして幸せをもたらす者……この 『幸福御手(ピースメーカー)』 の呼び声に……!」

キィィィィィィィンンン!!!!!




55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:11:59.30 ID:dx94zRwo
ニャーニャーニャーニャー……!!!

男 「………………」 ギュッ 「……さ、行きましょう」

シスター 「えっ……外に行くんですか?」

男 「ええ、」 トトト……ガチャッ 「……おお、結構集まったな。レベルアップのおかげかな、効果範囲が広がったみたいだ」

シスター 「ね、ネコの大群……!?」 アセアセ

男 「……って、君たちも来たのか」

アヒル1&2&3 『ひどいよ、男さん。僕たちも呼んでよ!』 『ほんとだよ!』 『ひどいやひどいや!』

男 「はは……だってアヒルは個体数が少ないんだもん」 ナデナデ 「ごめんな。ありがとう」

男 「ネコのみんなも、集まってくれてありがとう」 ニコッ 「じゃあ、始めようか」

キィィィィィィィンンン!!!

――――――ねことあひるが力を合わせてみんなの幸せをーーー♪――――――

シスター 「この、唄は……」 ギュッ 「……何ででしょう? 心が、温かくなってきます……」

シスター 「……ふふ、あなたはきっと、神の下で、幸せに暮らしているのね」

シスター 「お姉ちゃんも、時が来ればそちらに行くから……ちょっとだけ、待っていてね」

――――――ねことあひるが力を合わせてみんなの幸せをーーー♪――――――




56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:13:58.43 ID:dx94zRwo
シスター 「………………」 フッ 「……これが、あなたの能力なんですね」

男 「僕の、というよりは」 スッ 「集まってくれたみんなの力、ですかね」

シスター 「そうですね……」 ナデナデ 「ネコのみんなも、ありがとう」

アヒル1 『あっ、お姉ちゃんも酷い! 僕たちアヒルもいるよ!』

シスター 「あら、それはすみません……――!?」 ビクッ 「って、アヒルの言葉が分かる!?」

男 「ああ……今はネコとアヒルによって脳波の中規模ネットワークが形成されていますから」

男 「シスターさんもそのネットワークの中に入っていますから、相互の意志疎通が可能なんですよ」

ネコ1 『おねーさん、おねーさん』 ニャーニャー

シスター 「……? な、なんですか?」

ネコ1 『僕らの仲間のお墓を作ってくれて、どうもありがとう!』 ニャー!!

シスター 「えっ……?」

ネコ2 『おねーさんがそういう優しい人だから、僕たちもこんなに沢山集まったんだよ』

男 「ふふ……だ、そうですよ?」 ニコッ 「これは、あなたの力でもあるみたいですね」

男 「……気休め程度にしかならないと分かってはいますが、お役に立てましたか?」

シスター 「……ええ、とても。気持ちが楽になりました」 ニコッ 「ありがとうございます、『幸福御手』 さん」




57 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:14:46.96 ID:dx94zRwo
………………

シスター 「本当に、なんとお礼を言っていいか……」

男 「とんでもないです。高価なお薬を頂いたお礼……というわけじゃありませんけど……」

男 「とにかく、僕は風紀委員ですから……学園都市に住まう全ての人の役に立つのが、僕の役目ですから」

男 「僕の 『幸福御手』 が、シスターさんの涙を少しでも吹き飛ばせたのなら嬉しいです」 ニコッ

シスター 「……その邪気のない笑顔も、本当にあの子そっくり」

男 「へっ……?」

シスター 「……あの、男さんとおっしゃいましたよね?」

男 「え……、あ、はい」

シスター 「さっき、わたしが姉だったらいいのに、と言ったのは、ただのお世辞でしょうか?」

男 「へ? あ……いや、お恥ずかしながら……」 カリカリ 「本音、でしたけど……」

シスター 「そうですか……」 ジッ 「あ、あの……男さん。厚かましいお願いだとは思いますが……」

シスター 「わたしのことを、本当に姉にしていただけませんか?」

男 「えっ……? そ、それはどういう……?」

シスター 「つまり……」 ギュッ 「わたしと、義姉弟の契りを交わしてはいただけませんか?」

男 「ぎきょうだい……? さ、杯を交わすんですか?」




58 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:16:12.44 ID:dx94zRwo
シスター 「ふふ、生憎とアジアでの作法は存じませんが、」 スッ 「十字教の一部では、これを交換します」

男 「それは……十字架、ですか?」

シスター 「はい。十字架を交わすことで、兄弟の契りを結んだことになるんです」

男 「ちょ、ちょっと待ってください……」 ジッ 「ぼ、僕なんかが弟で、いいんですか?」

シスター 「もちろん、あの子の代わりをあなたに求めているわけではありません」

シスター 「……ただ、ほんの少しでも心の穴を埋めてもらえれば、と思ったんです……」

シスター 「あなたは、どうですか?」

男 「………………」 フッ 「……シスターさんみたいなお姉さんなら、本心から望むところです」

シスター 「ふふ……嬉しいです」 ニコッ 「では、まずはわたしの十字架を、あなたに……」 スッ

男 「あ、はい……」 スッ

シスター 「……では、それをわたしにわたしの首にかけてください」 スッ

男 「あ……わ、分かりました」 スッ……チャッ 「で、できました……」

シスター 「では、頭を垂れてください。今度は、」 チャッ 「この十字架を、あなたに……」

男 「はい……」 サッ

スッ……チャッ




59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:19:04.79 ID:dx94zRwo
シスター 「……これで、終わり」 ニコッ 「ふふ、男さん……ううん、男。これで、わたしたちは姉弟になったの」

男 「あ……はい、シスターさん」

シスター 「………………」 ムッ 「“シスターさん” ?」

男 「え……あー……その……」 モジモジ 「……ね……姉さん」

シスター 「む……」

男 「ま、まだご不満がおありです!?」

シスター 「この国では、基本的に姉のことを “お姉ちゃん” と呼ぶと聞いたけど」

男 「どんな情報!? ちょっとさすがにこの歳になってその呼び方は――」

シスター 「……そう呼んではくれないの?」 ウルッ

男 「――泣かないでお姉ちゃん!!」

シスター 「うん。男がそういうのなら泣かない」 ピタッ

男 「切り替え早ッ!!」

シスター 「それから、姉弟間でのジャパーニーズ敬語はなしだからね。絶対にため口ね」

男 「は、はぁ……」

シスター 「“はぁ” ?」




60 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:19:30.64 ID:dx94zRwo
男 「う……うん」

シスター 「ふふ、よろしい」

男 「……でも、なんかごめんなさい……じゃなくて、ごめんね」

シスター 「……? どうして?」

男 「十字架までもらっちゃって……」

シスター 「ああ……いいの。それはもう、わたしには必要ないものだから」

シスター 「それね、死んじゃった弟の形見なの」

男 「えっ!? いや、それはさすがに……」

シスター 「いいの。それは、男に持っていてもらいたいから」

男 「そうなの?」 ギュッ 「うん……これ、大切にするね」

シスター 「ん……そうしてくれると嬉しいな」

男 「うん……その……お姉ちゃん」 ニコッ




61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:41:01.71 ID:dx94zRwo
………………翌日

男 「………………」 ギュッ 「……えへへ……」

青髪ピアス 「……? こらまたえっらくけったいな顔しとるなぁ」

男 「あ、青髪くん。おはよ」

青髪 「おはようさん。どしたん? なんかええことでもあった?」

男 「あ……いや……」 アセアセ 「ぜ、全然、そんなことはないよ?」

青髪 「? なんか怪しいなぁ」

男 「な、何でもないって」 チラッ 「そ、そんなことより、土御門くんは今日は休みかな」

青髪 「ああ……最近あいつ欠席多いよなぁ。何やっとるのやら……」

男 「出席日数、結構ヤバ目だと思うけど……大丈夫かな」

?? 「男くん。と。青髪くん。おはよう」

男 「? あ、姫神さん。おはよう」

青髪 「おはようちゃーん」

姫神 「………………」 ジッ 「……?」

男 「……? 姫神さん、どうかした?」




62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:42:06.16 ID:dx94zRwo
姫神 「………………」 ジロッ 「……男くん。何か付けてる?」

男 「へ……? な、何か付けてるって……?」

姫神 「いや……。首に。何か付けてる?」

男 「!?」 サッ 「……学ランで隠れてるのに、何で分かったの?」

姫神 「……むしろ。何で分かったのか。よりも。分かってしまったことそのものの方が。大事」

姫神 「それは。いったい何?」

男 「た、ただの……ネックレス、だよ」 スッ 「……そんなに大それたものじゃない」

姫神 「………………」 ジッ 「……それは。本当?」

男 「もちろん。本当だよ」 アセアセ 「う、嘘なんかつく必要はないでしょ?」

青髪 「……? ああ、もしかして、」 ニタリ 「……白やんからのプレゼント?」

男 「えっ……? ……う……うん。そう。そうなんだよ」

姫神 「………………」 ジッ

男 「……な、何? 姫神さん?」

姫神 「………………」 ツ 「……何でも。ない。変なことを言って。ごめん」

男 「う、ううん。べつに、気にしないで」




63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:44:27.39 ID:dx94zRwo
男 (むしろ、僕の方こそごめん、姫神さん。それから、白井さん……)

男 「ごめん……ちょっと、SHRが始まる前に、トイレに行ってくるね」 ダッ

青髪 「はは……男やん、照れんでもええのに」

姫神 「………………」

青髪 「? どしたん?」

姫神 「いや……」 スッ 「男くんは。とても誠実。まさか。自分の彼女を嘘に利用したりは。しないはず」

青髪 「……?」

姫神 「………………」

姫神 (でも。男くんの首もと……たしかに。あの何とも表現のできない気配があった……)

姫神 (アウレオルス=イザードのような……) ギュッ (この。『歩く教会』 のような……)

姫神 (あの。神父さんのような……そんな。気配が)

姫神 「………………」 ハァ 「……でも。きっと。わたしの勘違い」

青髪 「???」




64 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:46:18.76 ID:dx94zRwo
………………

男 「はは……本当に最低だ、僕」 ハァ 「姫神さんに嘘ついちゃった。しかも、彼女をだしにして」

男 (……でも、何となく、本当のことを言っちゃいけない気がしたんだ)

?? 「……おや、こんな時間に廊下に生徒が」

男 「えっ……?」

?? 「しかも何とも悩ましい表情をした中学生ときた。これはなかなかにそそるものだけど」

男 (女生徒……?) 「あの……」

?? 「む? よく見ればこの高校の制服を身につけているけど。つまり、高校生……」

?? 「チビで童顔の男子高校生……つまり、件の 『幸福御手』 ということ」

男 「………………」

?? 「そろそろ、何某かの反応がほしいものだけど」

男 「あなたは、いったいどちら様ですか?」

?? 「見ての通り、この高校の生徒だけど」 フッ 「そして、お前の先輩でもある――」

雲川 「雲川芹亜というものだけど」

男 「雲川……先輩?」 スッ…… 「あなたが、あの噂の……」




65 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:49:11.55 ID:dx94zRwo
雲川 「その噂とやらの内容については聞かないでおこう。私だって怖くないわけではないから」 フッ

雲川 「それで、SHRが始まる直前の廊下で、君はいったい何を悩んでいたのだい?」

男 「先輩には関係ありませんよ。……っていうか、先輩だってここにいるじゃないですか」

雲川 「私は不良生徒だからいいのだけど」 フッ 「聞いた話では、君は優等生らしい。不可思議だけど」

男 「……だから、先輩には関係ありません」 スッ

雲川 「おっと、どこへ行くつもりだ?」

男 「教室に戻るんですよ。もうHRが始まってしまいますから」

雲川 「ほぉ。これからHRはおろか授業までサボる気の私を放って、教室へ戻ると?」

雲川 「お前はたしか風紀委員だったはずだけど。そんな風紀の乱れを看過してもいいのか?」

男 「………………」 ピタッ 「……教室に戻ってください」

雲川 「断固として断わるけど」 スス……

男 「ちょっ……どこに行くんですか!」

雲川 「学生食堂だけど」 ツ…… 「私を教室に戻すには、お前も一緒に来るしかないわけだけど?」 ニヤリ

男 「………………」 ハァ 「……分かりましたよ」




66 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:53:00.97 ID:dx94zRwo
………………学生食堂

雲川 「さて……」 ゴソゴソ

男 「……また随分と甘ったるそうなサンドイッチですね」

雲川 「ふむ……成分的には、パンもケーキのスポンジも大差はないわけだけど」

雲川 「人によってはフルーツサンドを認めないらしいけど、私にはそれがよく理解できない」 ハムハム

男 「……否定するつもりはありませんけどね、朝っぱらからそれってどうなんです?」 (食べ方意外と可愛いな……)

雲川 「頭の運動はまず糖分の摂取から始まる。これ、基本だけど」

男 「肝心の頭を動かす機会を今まさに逸している最中なんですけど」

雲川 「授業など準備運動にもならんけど。もしかしてお前にとっては全力疾走?」

男 「生憎とさっきおっしゃっていたとおり、僕は優等生ですので。ジョグ程度ですかね」

雲川 「くく……本人の口からそういう言葉が出ると、なかなかに寒いものだけど」

男 「とにかく、それを食べ終わったら教室に戻るんですよ?」 (っていうかこの人って何年何組なんだろ?)

雲川 「それは断わるけど」 スッ 「食べ終わったら寝るつもりだけど」

男 「頭動かす気ゼロですよねそれ!」

雲川 「ふむ、いいツッコミだ」 クスクス 「やはりこの学校は、色々な刺激に溢れている」




67 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:53:39.96 ID:dx94zRwo
男 「ああもう、いいです。職員室に行って暇そうな先生捕まえてきますからっ」 ガタッ

雲川 「無粋なことはするものではないけど」 ガシッ

男 「ここで突然実力行使なんです!?」

雲川 「人聞きの悪いことを言うものではない。そこは突然手を掴まれたことに頬を染めるべきだけど」

男 「寝言は寝てから言ってくださいね?」

雲川 「可愛い顔して言うことは意外と辛辣だけど」

男 「それは友達にもよく言われます。とにかく、ほら、手を放してください」

雲川 「ふむ、しかしそうすると面倒なことになるのだけど」

男 「知りませんよ。嫌なら教室に戻りましょう」

雲川 「ならばこうしよう」 フッ 「お前が職員室に向かったら、私は学校をエスケープする」

男 「『ならばこうしよう』 って、それ僕にとって何らプラスな要素ないですからね!?」

雲川 「そう。そして私は不良共にからまれて路地裏に連れ込まれて手籠めにされるのであった。ちゃんちゃん」

男 「この……! さり気なく僕を脅している……ッ!!」

雲川 「……お前も大概に善人だけど」 クスッ 「さて、どうする?」

男 「……はぁ」 ガタッ 「付き合いますよ。一緒に寝ればいいんですか?」




68 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:55:03.84 ID:dx94zRwo
雲川 「なかなかに情熱的なお誘いだけど、一応遠慮しておこうか」

男 「……そんなつもりで言ったんじゃないです。っていうか僕に一体何の恨みが?」

雲川 「恨みはないけど、面白みはある」 ニヤリ 「お前は、自分がそれなりに有名人であるということに自覚はある?」

男 「有名人?」

雲川 「もちろん、限られた範囲での話だけど。お前の 『幸福御手』 が注目を浴びていることは確か」

雲川 「なにせ、あのESP研のショタコンが、久々に研究主任となっているのだからな」

男 「…… 『あの』 ? あの変態を、何でそんなに買い被っているんです?」

雲川 「……その言葉について、私は憤慨するつもりはないけど。存外モグリなんだな、お前は」

雲川 「奴はとてつもなく優秀な研究者だよ。特に、ESP系列の感応/念話分野のスペシャリストだ」

雲川 「おそらく、数年のブランクがある今であっても、未だに右に出る研究者はいないだろう」

男 (うわ……あの変態、そんなすごい人だったんだ) 「……数年のブランク?」

雲川 「数年前、とある実験を頓挫させてしまったようだけど」

雲川 「それについてはお前の方が詳しいのではないか?」

男 「……なるほど。僕の 『特殊感応』 を利用した、レベル5の強化実験……」

雲川 「あの実験がお前の逃走によってお釈迦になってから、奴は腑抜けになっていたからなぁ」




69 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:56:51.27 ID:dx94zRwo
雲川 「まぁ、最近はお前の復帰によって持ち直してきたみたいだけど」

雲川 「奴は元々が、あのカエルにも劣らぬほどの辣腕家だ。お前の今の実験についても、」

雲川 「当初は研究資金はゼロだったが、着実に実績を積み上げている今、スポンサーがいくつもついている」

雲川 「……お前も、今では研究所からそれなりの額をもらっているのではないか?」

男 「なるほど……だから最近、やけに羽振りがいいのか……」

雲川 「くく……そうなってくると、怖いなぁ?」

男 「……? 何の話です?」

雲川 「実験が軌道に乗ってくる。研究所、延いては学園都市からの期待が高まる」

雲川 「――その先に待っていたのは、一体何だったか、ということだけど」

男 「ッ……」

男 「………………」 フッ 「……大丈夫、ですよ。もうあんなことには、絶対になりません」

男 「所長は約束してくれました。もう僕を裏切らないと」

雲川 「……ふむ。良い信頼関係を再度構築し直した、と」 ボソッ

男 「……?」

雲川 「何でもない。ただ、面白そうな情報は集めるようにしているというだけ」




70 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 20:57:45.99 ID:dx94zRwo
雲川 「……さて、未来有望な異能力者をいつまでも拘束しているわけにもいかないか」 スッ

男 「どこへ行くんです?」

雲川 「教室へ帰るんだよ。決まっているだろう?」

男 「………………」 ジッ 「……本当ですか?」

雲川 「おや、この清廉潔白が売りの雲川芹亜を疑うというのか?」

男 「その言葉だけで十分に疑う余地があると思いますけど」

雲川 「ふふ、本当に辛辣な奴だな、お前は」 スッ 「安心しろ。戻るといったら戻る」

雲川 「お前も早く自分の教室に戻れ。そろそろどこかの不老不死実験被験者が探しに来るぞ?」

男 「……ああ、月詠先生のことですか。あの人以外とおばさんっぽいとこ多いですよ?」

男 「ともあれ分かりました。雲川先輩も、絶対にご自分の教室に戻ってくださいね」

男 「……しょうがない。僕も戻るか」

雲川 「くく……戻りたくないと言うような口ぶりだけど」

男 「! い、いえ……そんなことは……」

雲川 「善人は、善人であり続けるべきだと、私は思うけど」 スッ 「また機会があれば会おう。楽しかったよ、『幸福御手』」

男 「あ……行っちゃった……何だったんだろ?」 サッ 「……ま、いいや。僕も戻ろうかね」




71 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:10:45.95 ID:dx94zRwo
………………とある小学校

幼女 「ふぁー……!!!」

三つ編みな友達 「!」 ビクッ 「……ど、どうしたの、幼女ちゃん?」

幼女 「ど、どうしようどうしよう! 宿題忘れちゃった!」

ミツアミ 「えっ……? 今日、宿題なんてあったっけ?」

幼女 「ふぇ?」 スッ 「……そういえば、なかったかも」

ミツアミ 「ほ、本当に面白い勘違いするよね、幼女ちゃんって」

幼女 「えへへー」

ミツアミ 「褒めてないからね?」

……――ガラッ

先生 「はーい、みんな席についてねー」

ガタガタガタッ……シーン……キリーツ キョーツケー レー オハヨーゴザイマース

先生 「はい、おはようございます」 スッ 「実は今日は、みんなに一つ、良いお知らせがあります」

幼女 「お菓子?」 ワクワク

ミツアミ 「お知らせだよ、幼女ちゃん。っていうか何がどうなったらお菓子になるの?」




73 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:15:22.61 ID:dx94zRwo
先生 「なんと、このクラスに新しいお友達が増えるんです!」

エー マジデー テンコーセーッテコトー?

先生 「じゃあ紹介するね。入ってきていいよー?」

――ガラッ

幼女 「……?」

テクテクテク……ピタッ

?? 「………………」 ジッ

一同 『うわぁ……』

先生 「……はい、じゃあ、みんなに自己紹介をしてもらおうかな」

?? 「………………」 コクン 「み――――」

幼女 「――あーーーーっ!」

ミツアミ 「……ひっ!」 ビクッ 「どうしたの幼女ちゃん!? っていうか少しは空気読んでね!?」

?? 「む……? おおっ……おまえは……」

幼女 「イルちゃん!!」

イル 「ようじょ!!」




74 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:19:58.08 ID:dx94zRwo
先生 「あー……? (イルちゃん?)」 ポリポリ 「……ヘレンさんと幼女ちゃんはもうお友達、なのかな?」

幼女 「うん! そうなの!」 ピョン!

ミツアミ 「幼女ちゃーん?」 ガシッ 「まだ自己紹介の最中だから、前に行くのはやめようか」

幼女 「あう……」

ミツアミ 「ささ……自己紹介の続きをどうぞ……」

先生 (……ミツアミちゃん、幼女ちゃんと仲良いせいか苦労性だなぁ) 「さ、どうぞ、ヘレンさん」

イル 「ん……」 スッ 「イルは、ヘレン・キングダムと、いう。United States、から、来た」

イル 「イルのことは、気軽にイルと呼ぶ。そうすると、うれしい」

先生 (何をどうしたらヘレンがイルになるんだろ……? ネルとかじゃないの? ま、いいか)

先生 「はい、じゃあみんな、ヘ――イルちゃんと仲良くしてあげてくださいね」

先生 「今いっていたけど、イルちゃんはアメリカの人です」

先生 「分からないことがあったら、教えてあげるようにしましょうね」

先生 「逆に聞きたいこととかがあったら、積極的に聞いてみましょう」

一同 『はーい!』

先生 「はい、それじゃイルちゃんは……幼女ちゃんの隣の席がいいかな」

イル 「ん。イルは、ようじょのとなりが、いい!」




75 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:20:45.70 ID:dx94zRwo
………………休み時間

幼女 「でもビックリしたよー。イルちゃんが転校してくるなんて」

イル 「そう。イルも、ようじょがいるとはおもわなかった」

ミツアミ 「……? 二人はどういう知り合いなの?」

幼女 「この前遊園地で会ったの」

ミツアミ 「遊園地って……この前、事件に巻き込まれたとき?」

幼女 「うん。そだよー」 ニパッ 「メイおねーちゃんは元気?」

イル 「む……もちろん、だ」

幼女 「カエルさんは?」

イル 「………………」

幼女 「……? イルちゃん?」

イル 「……知らない」

幼女 「へ?」

イル 「とまるのことは、分からない……」

イル 「けれど、きっとげんきだと……イルはそう、信じてる」




76 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:23:23.90 ID:dx94zRwo
………………病院

メイ 「はぁ……イルは今日から小学校、ですか」

メイ 「大丈夫でしょうか。あの子、いじめられたりはしないでしょうか……?」

メイ 「いえ……大丈夫ですよね。あの子は優しくて可愛くて非の打ち所がない天使ですから」

メイ 「………………」 フッ 「……さて、わたしもすぐに繚乱家政女学校の高等部に復学ですものね」

メイ 「予習復習でもやっておくとしましょうか」

メイ (……止様、貴方様が戻ってきたときに恥ずかしくないように)

メイ (貴方の隣に立って恥ずかしくないような女になっておきます)

メイ (だから止様、どうかお早いお戻りを……)




77 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:24:20.19 ID:dx94zRwo
………………放課後 学校前

男 「……はぁ」 (何か、授業が全然頭に入らなかったな)

男 (土御門くんは結局学校に来ないし、姫神さんは時々疑うような目線をくれるし……)

男 (べつに悪いことをしたわけじゃないのに……何であんな嘘をついちゃったんだろ)

?? 「あっ……来たわね……」 ザッ

男 「にゃ……? っ!」 ビクッ 「み、御坂さん!?」

御坂 「遊園地の時以来ね……」 バヂバヂ 「元気っ、だったっ、かしらっ……?」

男 「どうしたの? 僕に何か用?」

御坂 「……そう……分からないのね……分からないのね……っ!」 バヂバヂ

男 「な……何で、怒ってるの?」 タジタジ 「っていうか電気漏れてるから!」

御坂 「怒ってなんか……」 スッ…… 「……ううん、やっぱり怒ってるかも」 バヂバヂ!!

男 「ひっ……」

御坂 「……とりあえず、」 ガシッ 「ちょっとツラ貸しなさい……」

ズルズルズル

男 「ちょっ、えっ、あーっ……」 ズルズル…… 「だ、誰か助けてーっ!!」

チラッ……プイッ プイッ プイッ プイッ

男 「みんな生存本能に素直だね! 風紀委員としてとっても嬉しいよっ!」 ズルズルズル……




78 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:26:11.22 ID:dx94zRwo
………………

御坂 「……さて、」 ギロッ 「何で私があんたを裏路地に連れ込んだか、分かるわよね?」

男 「ぼ、僕をボコるためなんです?」

バヂバヂ……ッ!! ドン……!!

男 「ひッ!? 電撃の槍!?」 ズザッ 「に、二センチ、いや、二ミリ! ずれてたら死んでたって!」

御坂 「そうね。私が少しでも演算ミスったら、きっとあんたは死んでたわ」

男 「な、何でそんなに冷静なんです?」

御坂 「だって……」 スッ 「一瞬、殺そうかとも思ったくらいだもん」

男 「み、御坂さん? 冗談にしても、ちょっとタチが――――」

御坂 「――――冗談だと、思う?」

男 「………………」 ブンブン 「……もしかして、白井さんのこと?」

御坂 「良かった。もし分からなかったら、私はきっと、本気であんたを殺してたから」

男 「………………」 ペコリ 「ごめん……ごめんなさい」

御坂 「私に謝られたって仕方ないんだけど」

男 「分かってるよ……でも、昨日はメールしても返信ないし、電話をしても出ないし……」

男 「今日謝ろうと思ってたんだよ……」




79 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:31:08.55 ID:dx94zRwo
御坂 「………………」 ギロッ 「……あんた、本当に最低」

男 「………………」

御坂 「あの子を守ってくれるんじゃなかったの? あの子を幸せにしてくれるんじゃなかったの?」

御坂 「言ったわよね? あの子を泣かせたら承知しないって」 ギリッ 「……あの子、昨日の夜、泣いてたわよ」

男 「……!?」 ガバッ 「そ、それ、本当!?」

御坂 「嘘なんかつくわけないでしょ!!」 ガッ 「あの子ね、毎晩私に、その日にあんたのことを話すのよ……!」

御坂 「一緒にいて、こんなことをしたとか、今日は一段と格好良かった、とか」

御坂 「昨日もそんな話をしてくれていたの……そしたら、急に泣き出して……」

御坂 「聞けば、あんた、あのシスターに “可愛い” なんて言ったらしいじゃない」

御坂 「普通彼女の前で他の女にそんなこと言う!?」

男 「………………」

御坂 「男にとったら大したことじゃないのかもしれないけど、女にしたら、かなりショックなんだからね!」

御坂 「……あんた、どうせ軽く考えてたんでしょ。今日謝ればいい、なんていう風に」

御坂 「――っざけんな……」 ビジッ! 「ふざけんな! あんたの軽い気持ちで泣かされたあの子のこと、考えてみなさいよッ!」

男 「………………」 スッ 「……御坂さん」




80 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:36:04.34 ID:dx94zRwo
御坂 「………………」 ギロッ 「何よ?」

男 「――僕を思いきり殴ってくれ」 ブンブン 「いや、最大出力の電撃をお見舞いしてくれ」

御坂 「………………」

男 「頼むよ……」 ギリッ 「頼むよ……頼むッ!!」

御坂 「………………」 パッ 「……分かったわ」 スッ

バヂバヂバヂバヂバヂ……!!!

御坂 「今から、死なない程度に電圧をかけた拳で、あんたを殴る……」 ギギッ 「……歯ぁ、食いしばんなさい……!!」

男 「………………」 ギッ

御坂 「――――――――ぉぉぉおおお!!!!」 ッッッドンンン!!!!

男 「ッア……――――――ッ!!」 ガガガガ……ドン!!

御坂 「………………」 プシュー…… 「……目は、覚めた?」

男 「………………」 ズッ 「……うん。ありがとう。御坂さんのおかげだ」

男 「……ごめん。僕、行かなくちゃ」 ヨロ…… 「一秒でも早く、白井さんのところに行きたいんだ」 ダッ

御坂 「………………」 グーパー 「……殴った方の手も痛い、か。よく言ったもんだわ」 ギュッ

御坂 「まったく、世話のやける “友達” だわ」 ニッ 「上手くやんなさいよ、男」




82 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:36:34.51 ID:dx94zRwo
………………風紀委員第177支部

白井 「………………」 スッ 「……はぁ」

初春 「………………」 (昨日の帰りも、散々愚痴を聞かされましたけど……)

初春 (女としてはやっぱりショックですよね。彼氏に目の前で他の女を可愛いなんて言われたら)

初春 (まったく、男さんったら! デリカシーなさすぎです)

初春 (あの人の場合、天然の所業だろうけど……だからこそ始末に負えませんね)

初春 (本当にもう……人がせっかく恋愛成就に協力してあげたっていうのに……)

――――――バァン!!!

男 「白井さん!!!」 コケッ 「――へっ!? わ、わぁぁぁあああ」 ズアァァァァアアア!!!

初春 「ひっ……!?」

白井 「……? 男さん……? 盛大にコケられましたけど、大丈夫ですの?」

男 「……っ!」 ムクリ 「大丈夫! ちょっと右足を軽くお釈迦にした気がするけど、大丈夫!」

白井 「それ、大丈夫じゃないような……」 ハッ 「……ふん」 プイッ

初春 「!!」 (本当は心配なんだけど昨日のことがある手前素直になれない白井さん萌え!!)

男 「………………」 コクン 「……白井さん、」




84 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:39:43.05 ID:dx94zRwo
白井 「………………」 プイッ 「……何ですの?」

ズサァァァアァアアアアア!!!!

白井 「!? こ、今度は何ですの!?」

男 「――――――ごめんなさい!!!」 ダン!!!

初春 「うわぁ……」 (スライディング土下座に加えて、頭を思い切り床に叩きつけましたね)

男 「ごめんなさい!! 本当にごめんなさいッ!!!」

男 「昨日のアレは、つい口から出てしまったというか、特に意味はないというかッ!」

男 「ぶっちゃけて言ってしまいますと、あの時の 『可愛い』 は、異性に対するものではありません!!」

男 「どちらかというと、愛玩動物を見て感じる 『可愛い』 に近いものであります!!」

男 「それに、そもそも僕は白井さん一筋であります故に! 白井さんのことしか眼中にありません故に!!!」

男 「ごめんなさい! 本当にごめんなさい! でも僕は本当に白井さんのことが好きなんです! 大好きです!」

男 「愛しています! 心の底から……いや、もっと底から!! すごくすごくすっっごく好きです!!」

初春 「………………」 (うわぁ……さすがにドン引きというか……) チラッ

白井 「………………」 ウルウル 「……男さん……そこまでわたくしのことを……」

初春 「えっ……? ええー……?」 (あれで涙浮かべちゃうあたり、白井さんも白井さんですよねー……)




85 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:40:50.36 ID:dx94zRwo
トトトトト……

白井 「男さん……」 ギュッ

男 「えっ……? し、白井さん?」

白井 「わたくしこそ、ごめんなさい、ですの」 ギュッ 「些細なことで嫉妬したりして……」

男 「い、いえっ、そんな! 悪いのは僕ですから!」

白井 「とにかく、お顔をあげてくださいな」 スッ……グッ

男 「あう……白井さん……」

白井 「ふふ……しょぼくれた子犬のようなお顔」 スッ 「大丈夫ですのよ。わたくしはもう怒ってはおりません」

男 「白井さん……本当に、ごめんなさいっ」 ペコリ

白井 「? ですから、もう怒っては――――」

男 「――――実はもう一つ、謝らなきゃならないことがあるんです!」

ピクッ

白井 「………………」 ギロッ 「……もう、一つ?」

男 「……!」 ビクッ 「は、はい……そ、……そうなんです」

男 「じ、実は昨日………………」




86 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:42:03.97 ID:dx94zRwo
………………第七学区 大通り

男 「………………」 バキボキ 「……な、なんか、歩くたびに身体中が軋むんですけど……」

白井 「………………」 プイッ 「……知ったことではありませんの!」

初春 「まったく……誠実なのはいいですけど、せっかく鎮火しかかった火に油を注ぐようなことを言っちゃって」

初春 「……ほんと、よく言えましたね。シスターさんと姉弟の契りを交わした、なんて地雷発言」

男 「いや……だって、その……白井さんに、隠し事とかしちゃダメだって、思ったから……」

ピクッ

白井 「……し、知りませんの!」 プイッ 「こんな浮気性の方だとは存じておりませんでした」

男 「うぅ……」

初春 「?」 チラッ 「………………」 (白井さん、頬緩んでますよ?) ボソッ

白井 「!? う、うるさいですの、初春!」 ……コホン

白井 「ま、まぁ、弟さんを亡くされて傷心の女性の気持ちを慮っての行動であるなら、そこまでは責めませんけど?」

男 「え……? ほ、ほんとですか!?」

白井 「……男さんは優しい方ですから、それくらいは彼女として我慢しなければならないでしょう」

白井 「わたくしは、男さんのそんなお優しいところが、好きなのですから」




87 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:44:45.43 ID:dx94zRwo
男 「白井さん……」 ウルウル 「……僕も、白井さんのそういう優しいところが大好きだよ!」

白井 「もうっ……男さんったら、口がお上手なんですからっ……」

初春 「……?」 (あれ? 何でいつの間にかいつものラブラブ空間になってるんでしょう?)

?1 「……? あっ……!!」 ダッ

初春 「はえ?」

ダダダダダダダッ……ッドン!!

男 「ッ……!? な、何事!?」

?1 「えへー。おにーちゃんだー」 スリスリ

男 「この若干間の抜けたロリボイスは……」 クルッ 「……やっぱり、幼女ちゃん」

幼女 「えへへへへ……」

男 「今のを褒め言葉と取っちゃダメだよ幼女ちゃん」

白井 「……相変わらずのおとぼけさんですわね」

?2 「ち、ちょっと幼女ちゃん、いきなり走ってどうしたの?」

白井 (三つ編みの女の子? 幼女ちゃんのお友達でしょうか)

?3 「……? あっ、おまえたちは……」




88 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:45:34.85 ID:dx94zRwo
男 「へ……?」 チラッ 「あ……君、遊園地でメイドさんと一緒にいた……イルちゃん?」

イル 「む。cat and duck、ひさしぶり、だ」

男 「キャットアンドダックって……ま、いいや」

ミツアミ 「よ、幼女ちゃん? イルちゃん? この人たちは知り合いなの?」

幼女 「うん! 正義の味方のおにーちゃんとおねーちゃんたちだよ」

イル 「うむ。cat and duck boyにteleporter、それから……flower arrangement……?」

ミツアミ 「???」

白井 「………………」 ハァ 「……お二人はちょっと黙っていてくださいな」

初春 「幼女ちゃん以外とは初めましてですね」 スッ 「わたしは風紀委員の初春飾利です」 ニコッ

ミツアミ 「ジャッジメント……ああ、だから正義の味方……」

ミツアミ 「……そしてフラワーアレンジメント」 ジッ 「……それ、生えてるんですか?」

初春 「は、生えてません!」

男 (あ、生えてるんじゃないんだ。知らなかった) 「みんなでどこかへ行くの?」

幼女 「うん! これからみんなでイルちゃんの通ってる教会に行くの!」

幼女 「美味しいパンをごちそうしてくれるらしいんだよっ!」 ワクワク




89 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:46:28.81 ID:dx94zRwo
ミツアミ 「幼女ちゃん……やっぱりそれが目的なのね……」 ハァ

白井 「教会……? まさかとは思いますが、ロシア成教系の教会ですの?」

イル 「Russian……そう、たしか、sisterはそう言っていた」

男 「もしかしてそのシスターさんって、赤毛で赤眼のひと?」

イル 「……? なんで知ってる?」

男 「なるほどね。学園都市は狭いなぁ……」 ハァ 「実は僕らもその教会に行くところなんだよ」

幼女 「本当に!? じゃあ一緒に行こーよ!」

男 「うん」 ニコッ 「白井さんたちも、構いませんよね?」

白井 「……はぁ。まぁ、危険な場所というわけではないですし、構いませんけれど」

白井 「どうやら男さんの言うとおり、そのシスターさんとやらは悪い人ではなさそうですね」

初春 「でも、イルちゃんは何で教会に通っているんです? ひょっとして十字教徒なんですか?」

イル 「イルはAmericaで生まれ、そだった。むかしは、Puritanの教会、かよっていた」

イル 「カミサマを信じられるか、分からない。けど、いま、イルにはいのらなければならないことがある」

イル 「……だから、カタチが違おうと、イルはカミに祈る」

イル 「とまるのあんぜんと、はやく帰ってくることを、イルはいのらなければ、ならない」 ギュッ




90 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 21:47:06.59 ID:dx94zRwo
男 「イルちゃん……?」 (“とまる” ……? どこかで聞いたような……)

イル 「……そんな顔をする、ない。ただ、早く帰ってきてほしい者がいるというだけの、こと」

イル 「そういえば、お前はどことなくとまるに似ている」

男 「……そうなの?」

イル 「ん!」 ギュッ

男 「わっ……ととと」 スッ 「ど、どうしたの?」

イル 「なんでも、ない。いいから、くっつかせる!」

幼女 「あっ! イルちゃんずるい!」 ダッ ギュッ 「わたしも!」

男 「わわっ! 両側から引っ張られたら重いよ!」

幼女 「それくらいガマンガマン!」 ギュッ 「……えへへへへ」 ニヘラ

ミツアミ (幼女ちゃん、分かりやすいなぁ……)

白井 「………………」 トトトト……ゲシッ!!

男 「痛っ! な、何で蹴るんです白井さん!?」 ゲシゲシッ! 「痛い! なんか分からないけど謝るから蹴らないでっ!」

白井 「うるさいですの! ほら、早く行きますわよ!」

男 「あっ、ちょっ、待っ……!」 ズルズルズル…… 「せめて自分で歩いてふたりとも!」

初春 (……男さん、本当にどうしようもないなぁ) フゥ (とはいえ、小学生に妬く白井さんも白井さんですけど)




91 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:23:17.91 ID:dx94zRwo
………………教会前

シスター 「………………」

? 「sister、なにかかんがえごと、か?」

シスター 「……!」 ビクッ 「あ……イルさん」 ホッ

シスター 「すみません。少しボーッとしてしまいまして」 ニコッ 「また来てくれたんですね。うれしいです」

イル 「イルだけじゃない。トモダチ、連れてきた」

シスター 「本当ですか? ありがとうございます」 ニコッ

? 「なるほど……あなたが件のシスターさんですの」

シスター 「? あなたがイルさんのお友だちですか?」

? 「いえ、わたくしはお友だちというよりは保護者でしょうか」

白井 「初めまして、シスターさん。わたくし、風紀委員第177支部所属の白井黒子と申す者ですの」

シスター 「風紀委員の方……? と、いうことは……――」




92 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 22:23:43.40 ID:dx94zRwo
? 「し、白井さん、イルちゃん、ちょっと待って、くださいってばー……」

? 「ちょ、ちょっと幼女ちゃん、いい加減自分で歩いてっ!」

幼女 「にへへー」

シスター 「やっぱり……男!」 ピョン! トトトト……ダッ!

白井 「む……」

男 「へ……? わわっ!?」 ダキッ 「ね、姉さん? 急に抱きついてこないでよ!」

シスター 「えへへー」

男 「褒めてないからね!?」

白井 「………………」 トトト……ゲシッ!

男 「またも足蹴なんです!?」 ゲシッ! ゲシッ! 「ちょっ、なんだか分からないけど謝るから許してっ!」

白井 「うるさいん、ですのっ!」 ゲシゲシッ!!

ミツアミ 「……花飾りの風紀委員さん」

初春 「……なんですか、ミツアミちゃん」

ミツアミ 「風紀委員って、大変なんですね」

初春 「………………」 コクン 「……ええ、それはもう」

初春 (それにしても、この違和感はいったい何なのでしょうか?)

初春 (まるで、何か明らかなバグがあるのに、その正体に気づいていないような、この違和感は……)




93 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 23:56:36.31 ID:dx94zRwo
………………教会

シスター 「先ほどは失礼を致しました。つい取り乱してしまいまして……」

白井 「いえいえ、ですの」

初春 (白井さん、青筋が見えてます)

初春 (……それにしても、赤毛の三つ編み、小柄な上背……これまた男さんが好きそうな方ですね)

幼女 「はぐはぐはぐはぐ……!!」

ミツアミ 「ちょっと幼女ちゃん。少しは遠慮しようよ」

幼女 「はっておいひいんはほん!」

ミツアミ 「あーもう何言ってるのか分からないよ」

男 「はは、たしかに姉さんの焼くパンは美味しいからなぁ」 クスッ 「ミツアミちゃんも、はい」

ミツアミ 「あ……すみません」

シスター 「たくさんありますから、どんどん召し上がってくださいね」 ニコニコ

シスター 「平日にこの教会がこんなに賑やかになるなんて……私、とっても嬉しいです」

男 「あっ、イルちゃんも……」

イル 「………………」

男 「イルちゃん……?」 (前でひざまついて、何をやってるんだろ?)

スッ

男 「姉さん?」

シスター 「今はそっとしておいてあげましょう。あの子、すごい集中力だもの」

シスター 「よほど大切なお祈りをしているのよ。ある人の安全を祈っているとしか聞いてはいないけれど」

シスター 「……その人のことが本当に心配なのね」

イル 「………………」

男 「イルちゃん……」




94 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 23:57:36.98 ID:dx94zRwo
シスター 「さて……それで本日のご用件は何でしょうか? 風紀委員のみなさん?」

白井 「……問題があった昨日の今日ということで、一応の見回りですの」

白井 「見たところ今日は特に嫌がらせなどをされてはいないようですわね」

シスター 「さすがに毎日では敵いません」 クスッ

シスター 「ですが、ありがとうございます。わざわざ心配して見にきてくださるなんて、本当にお優しい方々なのですね」

白井 「あ、いえ、その……」 アタフタ

初春 「本当は恋敵を視察しに来ただけですもんねー」 ボソッ

白井 「う、初春……!」

シスター 「恋敵?」

白井 「な、何でもありませんのっ! お気になさることはございませんわ!」

初春 「まったく、白井さんは」 ハァ 「こういうことははっきりしておいた方がいいんです」

初春 「シスターさん、突然で恐縮ですが、ひとつお伝えしておくことがあります」

シスター 「はぁ……? 何でしょうか?」

初春 「何を隠そう、こちらにおります白井黒子さんは、男さんの恋人さんなのです」

白井 「う、初春!」




95 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/11(土) 23:58:13.51 ID:dx94zRwo
シスター 「恋人……? 男の?」

初春 「はい」

シスター 「………………」 チラッ

男 「幼女ちゃん、なんか頬袋みたいになってるよ……」

幼女 「はむ……はむはむ……もぐもぐ……」

ミツアミ 「聞いてないですね。なんかごめんなさい」

男 「いや、べつにいいんだけどね。可愛いし」 グッ

ミツアミ 「やだこの人かなり危ない」

シスター 「……あれの?」

初春 「……はい」

シスター 「そうなんですか? 白井さん?」

白井 「へっ、あっ、いえ、その……」 コクン 「……そう、ですの。わたくしは、あの方の、恋人ですの」

ガシッ

白井 「へ……? あ、あの、突然わたくしの手を握って、一体――」

シスター 「男のことをよろしくお願いしますね!」

白井 「へあ……?」

シスター 「あの子は私の大切な弟なんです」 ギュッ 「だから、よろしくお願いします」 ジッ

白井 「あ……そ、それは、も、もちろん、ですの……!」 ッドン

白井 「わたくしが責任を持って、男さんをよろしくして差し上げますの!」

初春 (白井さん動揺しすぎです)

初春 (……それにしても、やっぱりすごい違和感。男さんもこのシスターさんも、まるで……)

初春 (――まるで、何年も共に過ごした、本物の姉弟のように自然にお互いを想っています)

初春 (たかだか昨日今日で、ここまで親密になれるものでしょうか……?)

初春 (それに何故でしょう。私自身がそれを当然のことだとすんなり受け止めています)

初春 「………………」 グッ (白井さんが頼りにならない以上、私がしっかりしなきゃ)




96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:00:55.24 ID:lyKPrDso
………………夕刻 教会前

男 「……なんかごめんね。二日続けてお邪魔しちゃって」

シスター 「ううん、いいのよ」 ニコッ 「おかげでこんなに可愛い子たちと知り合いになれたし、」

シスター 「あんなに可愛らしい男の恋人さんと知り合えることができたんですもの」 ニコッ

男 「ね、姉さんっ!」

シスター 「ふふ、照れない照れない」 チラッ

白井 「ふぇっ!?」

シスター 「……重ね重ね、男のことをよろしくお願いします」

シスター 「この子はしっかりしていないようで、見た目通り本当にしっかりしていないんです」

男 「言い過ぎ! それ言い過ぎだから!」

シスター 「だから……この子を支えてあげてくださいね」 ジッ

白井 「はいですの! わたくしにお任せになってくださいな!」 ムッハー

男 「白井さんも真に受けなくていいですからね!?」

初春 「………………」

シスター 「……それから、」 チラッ 「初春さん、でしたよね?」

初春 「へ……? あ、はい!」




97 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:05:44.57 ID:lyKPrDso
シスター 「厚かましいお願いだとは思いますが、男のことをよろしくお願い致します」 ペコリ

初春 「は、はぁ……?」

シスター 「男からとても頼りになる同僚さんだと聞きました」

初春 「え? あ、いや、そんな……」 テレッ 「そんなこと、ありませんよぅ……」 テレテレ

シスター 「男のこと、よろしくお願いしますね」

初春 「はい! この初春飾利に任せてください!」 ドン!

男 「ちょっ、姉さん! 手当たり次第に余計なことを言うのはやめてよ!」

シスター 「あら、まだ序の口よ?」 ニコッ

シスター 「お嬢ちゃんたちも、男のことよろしくね?」

幼女 「うん! おにーちゃんのこと、わたしもちゃんと見てるね!」

イル 「む。あんしんして任せると、いい」

ミツアミ 「あ、あのあの……が、頑張りますっ……!」

男 「みんなも律儀に返さなくていいからっ!」

シスター 「ふふ、男ったら……」 スッ 「……皆さん今日はよくおこしくださいました」

シスター 「今度はお仕事は抜きにして来て頂けると嬉しいです」 ニコッ

シスター 「イルちゃんたちも、いつでも来ていいからね」

イル 「ん。できるだけ毎日、pray、にくる」

幼女 「わたしもパンを食べに来るよっ!」

ミツアミ 「お願いだから幼女ちゃんは少しは自重してね?」

シスター 「ふふ、遠慮せずに毎日来てもいいですからね」

初春 「………………」 (……こう見る限りでは、普通の優しいシスターさんなんですが)

シスター 「それでは皆さん、またお会いしましょう」

ニコッ




98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:08:23.22 ID:lyKPrDso
………………帰り道

白井 「……それでは帰るとしましょうか。固法先輩から、直帰していいとの連絡もありましたし」

白井 「では、わたくしと初春とで幼女さんたちをお送り致しますので、男さんはお先にお帰りくださいな」

男 「えっ……?」 アセアセ 「そ、その、白井さん……? もしかしてまだ怒ってる?」

白井 「バカですわね。わたくしはそんな小さい女ではありませんの」 フン

白井 「今日は研究所での実験があると仰有っていたのはご自分ではありませんの」

男 「えっ……あ、ああ、そういえばそうだったよ」 テヘッ 「他に勘案事項があって忘れてたよ」

白井 「……ふん。それくらい思い悩んでくれるのが普通なのですわ」 ニヘラ

初春 (白井さん……)

男 「うわっ、もうこんな時間……!」

男 「ご、ごめんなさい! 僕もう行きますね!」 スッ 「白井さん初春さん、また明日! 幼女ちゃんたちもまた今度!」

幼女 「またねー」 ノシ 「……って、もう行っちゃった」 シュン

白井 「……それでは、皆さんのお住まいへとお送りします。参りましょうか」

ミツアミ 「はい。よろしくお願いします」 ペコリ

初春 (良く出来た子だなぁ)




99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 00:09:01.22 ID:lyKPrDso
………………

男 「………………」

男 (本当に……僕はいつか地獄に落ちるんじゃないだろうか)

男 (また白井さんに嘘をついてしまった……)

――ピタッ

男 「……ごめんなさい白井さん。本当は、今日は研究所の実験なんかないんです」

男 「僕は本当に……卑怯な男だな」

男 (でも……やっぱり、これ以上白井さんを巻き込むわけにはいかないから……)

?? 「ん? 面会時間ギリギリだぞ。入るのか?」

男 「………………」 ゴクッ 「……はい、入ります」

?? 「そうか。ならこの書類に所属と氏名を記入してくれ」

男 「……はい」 (そう……これ以上、白井さんをこの街の闇に巻き込むわけにはいかないから)

男 (白井さん、本当にごめんなさい。けど、僕はあなたにこれ以上傷ついてほしくないのです)

男 (……あなたは、僕の恋人だから)

………………某病院 精神病棟前




100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 11:11:21.91 ID:lyKPrDso
………………精神病棟特別面会室

――ガチャッ

? 「ちっ……やっぱりお前かよ。また来やがったのか」

男 「悪いね。何度でも来るつもりだよ」 ニコッ 「テロリズムの主犯さん」

少女 「けっ……やっぱあのとき燃やしとくべきだったな」

男 「それができなかったから、今きみはここにいるわけだけどね」

少女 「うるせぇな」

少女 「……それで、何の用だ? 言っておくが、何度来ようと私は何も喋らないぞ」

男 「僕に何かを喋ったら消されるから?」

少女 「さぁてな。何にせよ私は精神病棟の重病人だ」

少女 「私の発言は公式の調書においても効力を発揮するものではない」

少女 「私の口から出た全ての言葉は虚偽かもしくは妄想ってことになるんだよ」

少女 「……無駄なんだよ。何もかもな」

男 「……真実を知るためにあんなテロを起こしたってのに、今さらそれなの?」

少女 「あのテロを引き起こしたのは私ではなくどっかの離反した部隊って話になったんだろう?」

少女 「私はテロをやったつもりになってる痛いガキ……そんなレッテルを貼られている」




101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 11:16:16.53 ID:lyKPrDso
男 「……僕はそんなことは信じない」

男 「頼む。君がテロを起こした理由を……この街の闇を、僕に教えてくれないか?」

少女 「……ふん。その理由を私が口にした途端、お前と私がどうなるか分かるか?」

男 「……どうなるって言うんだい?」

少女 「一瞬にしてこの面会室が爆破……謎のテロで学生二人が死亡」

少女 「そんなくだらない幕引きになるってだけのことだ」

少女 「私は生きる気はないが無駄死にをするつもりはない」

少女 「お前を信じるなんてまっぴらだ」

少女 「……そろそろ面会時間が終わる。もう帰れ」 スッ

男 「………………」 ガタッ 「……分かった。今日はもう帰るよ」

男 「けど諦めないから。もう何度だって来るよ」

少女 「けっ……だったら土産くらいもってこいよ」

男 「べつに構わないよ。何がいいの?」

少女 「そうだな……あえてあげるとすれば、ボウモアの30年物かな」

男 「ボウモア? 何それ?」

少女 「浅学だな風紀委員」 ヤレヤレ 「ウィスキーのブランドだよ」

男 「僕はまだ未成年だよ! っていうか君もそうだよね!?」

少女 「けっ、頭が堅いな」 クスッ 「なら、その代わりにLSDでも頼むわ」

男 「LSD? 何それ?」

少女 「お前本当に風紀委員かよ。合成麻薬の一種だよ」

男 「なっ……!? 君ねえ!」




102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:11:53.69 ID:lyKPrDso
少女 「わたしはニ○カとかよりボウモアのウィスキーが好きなんだよ」

少女 「そして覚醒剤や大麻よりLSDが好きなんだ。だから次会いに来るつもりならもってこい」

少女 「――いいか、忘れるなよ? ボウモアとLSDだからな」

男 「そんなもの持って来れるわけないだろ!」

少女 「そうかい。そりゃ残念」 ニシシ 「……じゃあな、風紀委員」 ガチャッ

男 「あっ……と、とにかく、また来るから! またね!」

男 「………………」 (なんだろう? 何か引っかかるな……)

男 (何にせよ定期的に来ないと……いつ彼女が消されてしまうか分かったものじゃない)

男 (けれど、少なくとも僕がここに来れば、彼女はそうそうは殺されない)

―――― 『覚えておけ。お前の知っている102は死んだ……もういない』

―――― 『……お前は、こちらに来るべきじゃない』

男 (……102は、少年院に入れられたはずだった。けれど、実際はあんな場所にいて、僕に警告してきた)

男 (絶対に何か、裏があるはずなんだ……僕はその裏を曝かなくちゃいけない……!)

グッ

男 「……負けないぞ、絶対。負けてたまるもんか……!」




103 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:13:18.49 ID:lyKPrDso
………………小学校寮前

幼女 「――それじゃぁねー!」 ノシ 「ツインテールのおねーちゃんに、花飾りのおねーちゃん」

幼女 「それから、イルちゃんも、また明日!」

ミツアミ 「今日はお世話になりました」 ペコリ 「イルちゃん、また明日ね」 ノシ

白井 「はい。最近は治安も徐々に悪化しているのですから、色々と気をつけるんですのよ」

初春 「二人とも、バイバイ」 ノシ

イル 「む。ようじょ、ミツアミ、また明日、だ」 ノシ

テクテクテク……

白井 「ところで、イルさんはどちらの寮にお住まいなんですの?」

初春 「やっぱり留学生用の寮とかですか?」

イル 「いや、ただのApartment、だ」

初春 「アパート? イルちゃん一人で借りてるんですか?」

?? 「まさか、そんなことはありませんよ」

初春 「へっ……?」 クルッ 「メイドさん……?」

白井 「メイさんではありませんか」 ニコッ 「お久しぶりですの。その節はありがとうございました」 ペコリ




104 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:16:07.94 ID:lyKPrDso
メイ 「いえいえ、とんでもございません」 ニコッ 「イルを送ってくださっていたのですね。ありがとうございます」

イル 「メイ!」 ダッ……ダキッ

メイ 「あらあら? あなたも大概甘え癖が抜けませんね」 クスッ

白井 「ふたり暮らし……なるほど。イルさんは貴女と暮らしているんですの」

メイ 「そうなります。わたしはイルの後見人のような立場にありますので」

メイ 「……それで、」 フッ 「白井様。今日は恋人さんは一緒ではないのですか?」

白井 「こっ……!?」 ボン! 「きっ……今日は、あの方は、研究所の方へ、行く日です、ので……」

メイ 「あらあら。それはお寂しいことですね」

白井 「さっ、寂しくなんか……」 モジモジ 「……ないことは、ないですけれど……」 ニヘラァ

初春 (ここのところ白井さんがどんどん駄目な人になっていってる気がします)

初春 (それにしても綺麗なひとだなぁ……メイド姿も様になってますし)

初春 (でも、どこか影があるような……)

メイ 「ふふ……」 ニコッ 「ともあれ、イルを送ってくださってありがとうございます」

メイ 「我が家はすぐそこですので、ここまでで大丈夫です」

初春 「そうですか。では、お気をつけて」 ニコッ

初春 「イルちゃんも気をつけるんだよ。最近は色々と物騒なんだから」

イル 「む。きおつける。カザリもきおつける、いいな?」

初春 「えっ?」 プクゥ 「私はいつも気をつけてますっ!」 プンプン

メイ 「ふふ……」 スッ 「……では、参りましょうか、イル。それではお二人とも、またお会いしましょう」

初春 「あ、はい。また今度」 ペコリ




105 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:19:14.50 ID:lyKPrDso
初春 「……さて、私たちも帰りましょうか」 クルッ

白井 「………………」

初春 「……? 白井さん?」

白井 「……やはり、怪しいですわね」

初春 「えっ……?」

白井 「あなたもそう思っていたんでしょう?」 フッ 「それとも、わたくしが色恋沙汰で骨抜きになっていたとでも?」

初春 「そ、そんなこと……!」 ブンブンブン (……白井さんはやっぱり、ダメになんかなっていませんでしたっ)

白井 「……調べてみる価値はあると思いますの」 スッ 「付き合ってくださいます? 初春」

初春 「はい、もちろんです!」

白井 「……それから――」

初春 「分かっています。心苦しいですが、この件は男さんには内密で」

白井 「……ふぅ」 クスッ 「さすがは初春ですの。わたくしの考えていることなんかお見通しですのね」

初春 「それはもちろん」 ニコッ 「あまり長い付き合いとは言えませんけど、密度の濃い付き合いでしたから」

白井 「まったく、その通りですわね」 (……もしかしたら、これは男さんを裏切る行為かもしれない)

白井 (……男さん、もし過ちであったのなら後で全力で謝罪させていただきますの)

―――― 『……でも、諦めない。絶対に、すべてを解き明かしてみせる』

―――― 『僕は……風紀委員だから』

白井 (けれど、今のあなたはあまりにも不安定すぎる。何かを成そうと無理をしているようにしか見えませんの)

白井 (風紀委員のお仕事に加えて、研究所での実験……)

白井 (その上に背負うものは、あなたにとってあまりにも大きく、そして暗い闇)

白井 (……あなたのことを信用していないわけではありません。ですが……)

白井 (わたくしはあなたが心配なんですの。ここ最近のあなたは、あまりにも……危うい)

白井 (だから今は、彼女のことを、調べさせていただきます)

白井 (……わたくしは、これ以上あなたに傷ついてほしくないのです)

白井 (わたくしは、あなたの恋人だから)




106 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:23:21.01 ID:lyKPrDso
………………

「…………ええ――……うん。手はずどおりに」

「……そんな心配はしてくれなくても大丈夫。私は大丈夫だから」

「うん、ありがと。やっぱりあなたは優しいね、――ちゃん」

「ああ……多分、あの方もそう言うだろうね。あなたもあの方も優しすぎるんだよ」

「これは私に下された命令。ならやり通すのが筋ってものでしょう」

「……あ、そうそう。あの方に伝えておいてほしいんだ。例の物、手に入ったのでまたそちらに送りますって」

「え? ……はは、いやだなぁ――ちゃん。今度はもっとまともな物だよ」

「あの方だってずっと――ちゃんをいじめてるわけにはいかないでしょ?」

「え? そうでもない? ……ふふ、相変わらずみたいで安心したよ」

「……もう。何回言わせるの。私は大丈夫だから、心配しないで。上手くやるから」

「…………………うん。分かってる。無理はしないよ」

「……それじゃ、――ちゃん、あの方によろしくね」 フッ

「我らが “うるわしき清貧の娘さん” に、よろしく」




109 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:55:07.87 ID:lyKPrDso
………………???

? 「………………」

キィ

? 「……? ああ、いらっしゃい」

?? 「………………」

? 「……若いな。こういう店は初めてか?」

?? 「……ああ」

? 「そう緊張しなくてもいい」 スッ 「君みたいな若い客は珍しいが、歓迎するよ。どうぞ」

?? 「………………」 ギィ 「……あんたが 『仲買(ブローカー)』 ってことでいいんだよな?」

仲買 「褒め言葉かどうかは知らんが、最近は 『中古屋』 なんて呼ばれ方もしてるけどな」

仲買 「売りか? もしかして、その大きなボストンバックの中身の査定?」

?? 「……いや、生憎とこれの中身は売れるようなもんじゃない」

仲買 「なら買いだな。一体何をご所望かな」

?? 「……そもそもここは何を売っているんだ?」

仲買 「おいおい、それをわざわざ説明させるのかよ」

仲買 「……まぁいいか。どうせ暇だ」




110 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 12:59:23.16 ID:lyKPrDso
仲買 「俺は基本的に 『あるものは何でも売るし、金になるものなら何でも買う』」

?? 「……何でも?」

仲買 「そう、何でもだ。武器だろうがクスリだろうが違法酒だろうが情報だろうが、何でも」

仲買 「……希少動物やキメラ……あとは、“人” もな」

?? 「………………」

?? 「……このオフィスにそんなに多くのモノがあるとは思えないが」

仲買 「物品の管理はFA化された工場を改造した倉庫で自動的にやってくれている」

仲買 「生き物に関しては、まぁ保管しないこともないが、面倒なんでな、」

仲買 「発注を受けてから調達するって手段を取っている。少なくとも一週間は時間をもらうがな」

?? 「……あんたひとりでやってるのか?」

仲買 「他人なんて怖いだけさ。ちょっとばかし先進技術を勉強すれば、この街では一人でできないことの方が少ない」

仲買 「ははっ、学園都市の闇での生き方、なんて本を出版すればかなり売れるかもな」

?? 「はは……」

仲買 「……それで、結局何がほしいんだ?」

仲買 「その顔だと、武器って感じじゃないな……それに、クスリや違法酒をやるほどバカでもない」




111 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:01:43.12 ID:lyKPrDso
仲買 「ああ、もしかして、人がほしいのか? 女か?」

?? 「………………」

仲買 「やっぱ人に関してもある程度は在庫を用意しておくべきかね。最近は発注が多くて敵わない」

仲買 「知ってるか? この街、ガキが多いだろ? それ目当てでくるカスが多いんだよな」

仲買 「能力者なんて言っても、大半が無能力者、ただの子供と変わりはしない」

仲買 「ガキの密度が高いんなら……まぁ、そんな連中が寄ってくるのも仕方がないことだよな」

仲買 「そんな変態が教員やら研究者やらに混じってるってんだから笑えるよ」

仲買 「連中にはこの街がショーウィンドーに見えるんだと」

仲買 「なんてったって、幼稚園児から小学生、中学生、女子高生、女子大生でよりどりみどりだ」

仲買 「リスクは高いが、元手はほぼゼロで済むからな。本当に儲かるんだコレが」

仲買 「世も末だよなぁ。一番発注が多いのが女子小学生で、その次がなんと、女装の似合う男子小学生だと」

仲買 「本当に、学園都市とそこに集うガキ共、それからそれを欲しがる豚ども様々だよ」

?? 「………………」

仲買 「……っと、またお喋りが過ぎたな。悪い。……あ、そういや一つだけストックがあるんだ」 サッ

仲買 「…………ほら、こっちに来い。早くしろウスノロ」

ジャラジャラ……




112 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:03:18.51 ID:lyKPrDso
ジャラ……

女の子 「………………」

?? 「………………」 ギリッ 「……生き物は置いておかないんじゃないのか?」

仲買 「偶然あったストック……ってか、ぶっちゃけると面白い商品だったから置いてただけなんだ」

女の子 「………………」

仲買 「こいつがまた傑作でな……」

スッ……――――――グサッ

女の子 「……!!?」

ボタッ……ボタボタッ……

女の子 「…………ッ……ァ……」

スッ……シューーーー

?? 「………………」

仲買 「……な? すごいだろ? レベル2だか3くらいの 『肉体再生』 らしいが、」

仲買 「ナイフで刺したくらいならすぐに治っちまう。一部のそういうプレイが好きな連中にはもってこいだろ?」

仲買 「しかも痛覚はしっかりと機能するらしいから、苦悶する顔はしっかりと見られるっていうオプション付きだ」




113 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:05:53.41 ID:lyKPrDso
女の子 「………ッ………ア……」

仲買 「ははっ……しかも傑作なことに、コイツのあの膜、破っても破っても再生するんだよ」

仲買 「ほら、処女じゃないとダメっていう男がいるだろ? そういう連中にも高く売れるだろうなぁ」

?? 「………………」

仲買 「だが、まぁ……ちょっと惜しい気もするが、君になら格安で売ってやってもいい」

仲買 「なんだか分からんが君のことが気に入った。話を聞いてもくれたしな」

?? 「……幾らだ?」

仲買 「そうだな……今後もご贔屓にってことで、破格の六百で手を打たないか?」

?? 「………………」 フッ 「……悪いな。生憎と五百しか持ち合わせがない」

仲買 「ははっ……敵わないな。もってけドロボウ。五百でいい」

?? 「そうか。それはありがたい」

スッ……ガチャッ

仲買 「……!?」

――――――カチリ

?? 「お前の命、五百万で買おう」

ニィ

通行止め 「――……こっから先は 『通行止め』 だ。ついでに命も置いていけ」




114 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:10:24.61 ID:lyKPrDso
………………

止 「……ああ、終わった。いや、ただのクズだったよ。だから殺した」

仲買 「………………………………」

止 「安心しろ。倉庫の場所はしっかりと聞き出した」

止 「犯罪者として送検するより死体処理の方が楽だろ? ……大丈夫だ。PCに全ての顧客データが残っている」

止 「ここから先は 『ボックス』 の仕事じゃねぇ。そっちで勝手にやれよ」 チラッ

女の子 「………………」

止 「……それから、一般の救急車を一台よこしてくれ。ああ、まるっきり普通ので構わない」

止 「っ……分かった。移動させる。じゃあな」 ピッ

女の子 「………………」

止 「……ギャグボールとかいったか。実物を見るのは初めてだな」 スッ

女の子 「……!!」 ビクッ

………………カチャッ……

女の子 「あ……」

止 「………………」 サッ 「……けっ」 バサッ

女の子 「…………これ、は……」

止 「上着を投げ捨てただけだ。それが偶然誰に被さろうが俺の知ったことじゃない」




115 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:11:52.96 ID:lyKPrDso
スッ……

止 「来い。こんな場所に救急車は来ない。近くの公園までは送ってやる」

女の子 「………………」 フルフル 「……もう、いいです」

止 「………………」 ガシッ 「……悪いな。俺は利己的な人間なんだ」 グイッ

女の子 「!?」 ビクッ

止 「殺したいヤツは殺す。生かしたいヤツは生かす。相手がどう思うと関係ない」

止 「お前は生かす。俺がそう決めたから、そうする。ただそれだけだ」

女の子 「………………」

止 「――……しまったな。ポケットに五百万を入れてた上着、どっかに捨てちまった」

女の子 「え……?」

止 「……まぁいいか。そこに転がってるタンパク質の塊は五百万を受け取らないらしいしな。拾ったヤツにやるか」

止 「……お前がなぜこんな場所にいるのか、俺は知らない。興味もない」 フン 「……だがお前は生きろ」

女の子 「あ……あなた、は……」

止 「………………」 ケッ 「悪党……と名乗りたいところだが、俺はまだそこには届いてねぇからな」

止 「……人殺し、だよ」 フッ 「ただのしがない、人殺しだ」




116 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:18:42.12 ID:lyKPrDso
……………… 『ボックス』 本拠

止 「……戻った」

?? 「あっ、おかえりなさい、止さん」 タタタ

止 「ああ……って何だその格好は」

?? 「ああ、これですか?」 ニコッ 「似合います? エプロンドレス、作ってみたんですよ」

?? 「メイさんに少しでも近づきたくって!」

止 「………………」 フン 「けっ……似合ってるんじゃねぇの?」

?? 「止さんは相変わらずツンデレさんですねぇ」

?? 「まぁそれはさておき、早く上がってください。ご飯ももうすぐできますから」

世話子 「『ボックス』 下部組織人員改め止さんの身の回りのお世話係が今日も腕によりをかけて作りましたからね」

止 「……けっ、そうかよ。そりゃ楽しみだ」

世話子 「気がない返事だなぁ……」

止 「………………」 フッ 「……シャワー浴びてくる」

世話子 「はい」 ニコッ 「リビングで待ってます」




117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:20:36.30 ID:lyKPrDso
止 「………………」

止 (これで通算168人目、か)

止 (くくくっ……我ながら女々しいな。殺した人数をしっかりと把握しているなんて)

止 (……もう、人を殺しても何も感じないな。いや、当たり前か)

止 (殺さなくてもいいオーダーであっても、俺は対象を確実に殺している)

止 (……自覚はある。俺は強くはない。だからこそ、反撃が怖い)

止 (たとえ捕縛したとしても、それを抜けられると想定すると、どうしようもない)

止 (だから、殺す。自分の命を確実に守るために、対象は殺す)

スッ

止 「……そうだ。俺はもう迷わない」

止 「アイツらを守るためなら、何人でも殺すと、そう決めた」

止 「俺はただの人殺し……アイツらの幸せを守るためだけに存在する」

止 「……アイツらの、幸せを守る……ただそれだけのために」

止 「『通行止め (ドライブキャンセラー)』 を名乗り、戦うと……そう、決めた」




118 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:33:41.42 ID:lyKPrDso
………………リビング

止 「……む。これは、卵焼きか?」

世話子 「はい、メイさんのお部屋にあったレシピを元に作ってみただし巻き卵です」

止 「………………」 (シィが好きだったあれか……)

世話子 「……頑張ってみたんですが、メイさんの味は再現は難かしいです」

止 「……いただきます」

パクッ……モグモグ……

世話子 「………………」

止 「……うまい」

世話子 「えっ……」 パァァ 「本当ですか?」

止 「嘘を付いてどうする。うまいよ」 パクパク 「……うん」

世話子 「えへへ……嬉しいです。ずっと、メイさんみたいになりたいなって思ってましたから」

止 「………………」

止 「……悪いな」 スッ 「……本当に、すまん」

世話子 「へ……?」




119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:39:06.65 ID:lyKPrDso
世話子 「どうしたんですか、突然」

止 「……俺は、メイとイルのことしか考えていなかった」

止 「あのとき、お前も一緒に表に戻せと言っておけばよかった」

止 「そうすれば……お前も、メイとイルと一緒にいられたかもしれない……」

止 「すまん」

世話子 「………………」 フッ 「……そんなこと、どうでも良いです」

止 「……?」

世話子 「そもそも、私たち下部組織の人間は、死を前提として生きていますから」

世話子 「今さら表に戻ろうなどとは思っていませんよ」

世話子 「……先日のイルちゃんの抗争で、下部組織はもう私くらいしか残っていません」

世話子 「それなのに私はこの本拠で安穏と暮らしていられる……それは、止さんの計らいでしょう?」

世話子 「それだけで十分です。それだけで、とても嬉しいですから」

世話子 「……幸せな世界に戻ろうとは思いません。私は、それ相応のことをして暗部に落ちた人間ですし」

世話子 「あとは……メイさんとイルちゃんの元へ、止さんを戻すだけ。それだけで、私はきっと十分です」

止 「………………」




120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:40:24.07 ID:lyKPrDso
止 「……俺は、しかし――」

世話子 「――……止さんは、これ以上背負うモノを増やしてはダメです」

止 「………………」

世話子 「メイさんとイルちゃんを守ると決めたんでしょう? そのために戦うと決めたんでしょう?」

世話子 「なら、私のことなんて……その他のことなんて考えず、ただあの二人を守ることを……」

世話子 「そして、あの二人の元へ行くことを……ただそれだけを考えていれば良いんです」

止 「………………」

止 「ああ……」

世話子 「………………」 ニコッ

止 「………………」 (……戻す)

止 (上層部との交渉権を得る……そして、いずれ絶対に、コイツもあの二人の元へ送る)

止 (能力を研鑚しろ。戦闘能力の向上を怠るな。戦果を確実に積み上げろ。そのために誰であれ殺せ)

止 (そして上層部の期待に応えられれば……チャンスはまた巡ってくるはずだ)

止 「………………」




121 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:42:10.90 ID:lyKPrDso
世話子 「……あ、そういえば、今日の任務で例のボストンバックの中身は使ったんですか?」

止 「……? ああ……いや、使ってない」

世話子 「………………」 ジロッ 「……何でです? 試用にはピッタリな任務だったと思いますけど」

止 「たしかに、能力者でもないただの人間一人だったらな。だが無関係なヤツもいた」

世話子 「……?」

止 「人身売買の商品のガキだよ。無関係なヤツがいる状況であの “中身” は使えない。確実に巻き込むからな」

世話子 「………………」 ハァ 「……何でまた余計なものを背負いますか」

止 「背負ったつもりはねぇよ。殺したくないヤツは殺さないってだけのことだ」

世話子 「どうせ救急車が入れる場所まで送ったりしたんでしょう?」

止 「いや、それが……」 カリカリ 「……面倒だったから、直接病院まで送った」

世話子 「あなたは……」 ガクッ 「いえ、もう言っても詮無いことなんでしょうね」

止 「………………」 ポリポリ 「……なんか、すまん」

世話子 「いいですよ、もう。止さんの極度のツンデレは今に始まったことじゃないですから」

世話子 「……? そういえば、上着はどうしたんです? 対象を油断させるための五百万円は?」

止 「………………」 パクパク…… 「あー……今日も晩飯がうまいなぁ」




122 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:46:15.39 ID:lyKPrDso
………………

止 「………………」 スリスリ 「……グーで殴らなくてもいいと思うんだがな」

世話子 「もう一発いっときます?」

止 「悪い。待て。悪かったから拳を握るのは待て」

世話子 「……まったく。これで人殺しとか名乗ってるんですからちゃんちゃら可笑しいです」

世話子 「分かってますか? ただでさえ 『ボックス』 は財政難です」

世話子 「正規人員が止さんだけの今、上層部から下りてくるお金はもう雀の涙ほどです」

世話子 「そのくせ正規人員どころか下部組織の補充要因もない始末なのですよ」

世話子 「あの五百万円をちょろまかせれば……もう少しお金のやりくりが楽になると思ったのに……」 グスッ

止 「……すまん」 ポリポリ 「ほら、なんか恵まれないヤツにお金を渡すと、義賊っぽくてちょっと格好いいかな……とか」

世話子 「今どきそんなの流行りませんよ! 正直ダサすぎです!!」


………………


一方通行 「――――――クシッ……!」

海原 「……? へぇ、あなたもクシャミをするんですね」 クスクス 「さすがの最強も噂話は反射できませんか?」

一方通行 「……うるせェ擦り潰すぞ」




123 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:47:54.94 ID:lyKPrDso
prrrrr……

止 「あん……?」 ピッ 「……テメェか」

?? 『どうもこんばんは。本日はお疲れ様でした』

止 「なんだ? 何か問題でもあったのか?」

?? 『いえいえ、とんでもない。あなたの言っていた通りの場所に隠し倉庫がありましたよ』

?? 『現在は他の人間に 『仲買』 の顧客を潰させているところです』

止 「……潰す、ね。随分と穏やかじゃないじゃねぇか」

?? 『おやおや、これは異なことを。違法なものを売り買いした人間への厳正なる正義の処罰ですよ』

止 「胡散くせぇな」 ケッ 「……それで何の用だ? 無駄話がしたいだけなら他当たれ」

?? 『ふぅ……誰かさんと同じでいつも不機嫌そうですね。参ります」

?? 『それでは単刀直入に。今すぐ指定の場所に来てください。緊急のオーダーです』

止 「……んだと?」

?? 『………………』

止 「っ……分かった。場所はどこだ」

世話子 「………………」




124 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 13:58:09.28 ID:lyKPrDso
ピッ

止 「……というわけだ。また出てくる」

世話子 「止さん……」

止 「心配するな。戦うってわけじゃないらしい」

世話子 「そんなの……上層部の言うことなんて……」

止 「まぁ、アテにはならないだろうな。だが武装の完全解除と言われれば従わざるを得ない」

止 「だからあのボストンバックも置いていく。エアガンもな」

世話子 「……なら、これを」 スッ

止 「あん……? レディスの小型拳銃?」

世話子 「相手が成人男性ならよほど至近からでないと胸部を貫通させることすら難かしいですが、携帯性には優れます」

世話子 「こうして……」 チャッ 「……袖口にでも隠しておいてください」

止 「……ま、これならばれないか。ありがたい。借りておく」

世話子 「左手は大丈夫ですか?」

止 「んあ……? ああ、少し違和感があるって程度だ。問題はねぇよ」

止 「先に寝てろ。ってか、何度も言うように待ってなくていいからな」

世話子 「何度も言うように、絶対に待っています」 ニコッ 「……お気をつけて。お早いお帰りを」




125 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:00:30.58 ID:lyKPrDso
………………

止 (……第七学区、風車群……駅から北に七つめの風車の下……)

止 (クソが。男や白井……それにアイツらがいるから、あまり第七学区には近づきたくないってのに)

止 (あん……? あれは……)

止 (………………) チッ (……女と、子供……? 巫女服?)

女 「……来たわね」

止 「………………」 ケッ 「……あんたが上層部の使いか?」

女 「開口一番、人聞き悪いことをいわないでくれない? 私はただのパシリよ」

止 「そうかよ」

子供 「………………」 ジッ

止 「………………」 (イルと同い年くらいか……)

―――― 『……だから、とまるは生きて』

止 「ッ…… (何だってイルと重なりやがる……)」 ギリッ 「……一体何の用だ?」

女 「あら、そんなに邪険にしなくてもいいじゃない。あなたとは初めましてのはずだけど」

止 「……悪いな。生憎とツインテールのテレポーターには嫌な記憶しかないんでな」




126 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:04:02.50 ID:lyKPrDso
女 「……何ですって?」

止 「はっ……霧ヶ丘も随分とレベルが落ちたもんだな。まさか現役生から暗部落ちを作るとは」

止 「そこんとこはどうなんだ? 『座標移動』 、結標淡希」

結標 「……ふん、生憎とファンクラブなら間に合っているの。あなたは入会制限年齢を越えているけどね」

止 (……テレポーターってのはどいつもこいつも似たような言葉の応酬をするもんなんだな)

結標 「あなたと無駄な会話をしている暇はないの。上層部に言われたとおり、」 サッ

結標 「……この封書と、この女の子をあなたに預けて、それでおしまい」

子供 「………………」

止 「……何だと?」

結標 「聞かないで。私は詳細を知らないし、知りたくもないから」

結標 「それに、私はその女の子を連れて行くわけにはいかないの。命令を抜きにしてもね」

結標 「あなただって、10歳スキーと義妹モエーとJCラバーの三人組がいる場所に、」

結標 「……そんな無垢そうな女の子を放り込みたくはないでしょ?」

結標 「巫女服の小さい女の子と一緒のアイツらなんて……」 ブルブルッ 「想像するだに恐ろしいわ」

止 「……


………………


一方通行 (何だか知らねェが……)

土御門 (とても失礼なことを……)

海原 (噂された気がします……)




127 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:06:37.03 ID:lyKPrDso
………………

子供 「………………」 テクテクテク……

止 「………………」 (くそっ……結局、結標はあのままいなくなっちまうし……)

止 (ガキは仏頂面のまましっかりと俺について来やがるし……)

止 (……というか何だ? 最近は学園都市でコスプレでも流行ってるのか?) チラッ

止 (……巫女服のガキとそれを連れている高校生とか……我ながら犯罪臭しかしねぇな)

子供 「………………」 ズルズル……ヒョイッ………………

ズルズル………………ヒョイッ……ズル……

止 (何だ、あの長物は……? 竹刀入れか?) 「……おい」

子供 「………………」 ジッ

止 「……それ、持つか?」

子供 「……!!」 ギュッ!! 「………………」 ブンブンブン!!!

止 「……?」 (触るな……ってとこか)

止 「……取りはしねぇよ。引きずらないように気をつけろよ」

子供 「………………」 コクン   ………………ズルズルズル……




128 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:10:11.17 ID:lyKPrDso
……………… 『ボックス』 本拠 リビング

子供 「………………」

止 「………………」

世話子 「………………」

ガシッ!! ……グイグイグイ

止 「……んだよ。こんな壁際まで引っ張って」

世話子 「シャラップ!!」 ズビシィ!! 「……あの子は一体全体何なのです?」

止 「だから言っただろうが。この手紙に書いてあるとおりだ」

止 「――あのガキは 『ボックス』 の新規補充要員らしい」

世話子 「ウソおっしゃい!!」 ビシィ!! 「隠し子! 隠し子ですか!? 隠し子なんですか!!」

止 「連呼するような言葉じゃねぇだろ、それ。ってか、俺の隠し子って歳じゃねぇよ」

子供 「………………」

世話子 「……なるほど」 グワングワン 「一体誰との子供だゴラァーーーーーッ!!」

止 「とりあえず話を噛み合わせる気がゼロだよなお前!! とにかく落ち着け!」

世話子 「――とまぁ冗談はこれくらいにしておきましょう」




129 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:13:20.77 ID:lyKPrDso
止 「お前なぁ……」

タタタタタ……

世話子 「お嬢ちゃん」 ニコッ 「……お嬢ちゃんのお名前は?」

子供 「………………」 ジッ 「………………」

世話子 「……?」

子供 「………………」 プイッ

世話子 「………………」

止 「………………」 プッ

世話子 「今笑いましたね? 笑いましたね? 笑ったな?」

止 「悪かった……怖いからにじり寄るな!!」

子供 「………………」 ケッ

止&世 「「なッ……!」」

世話子 (……止さん、どうするんです?) ヒソヒソ (……イルちゃんと違って、とても陰湿そうですよ?)

止 (いや、それは言い過ぎだろ。とにかく、歩み寄りが重要だ) コホン

子供 「………………」




130 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:18:04.94 ID:lyKPrDso
止 「あー……」

子供 「………………」 ジッ

止 (真っ黒な長髪は、眉でパッツン……そしてそれよりもなお黒い瞳……) ジッ

止 (……吸い込まれそうだな)

子供 「………………」

止 「………………」

子供 「………………」

止 「………………」 フゥ 「……名前は?」

子供 「………………」 …… 「――――――……つ、き、……こ……」

止 「あん……? “つきこ” ?」

子供 「……つき、こ……?」 ……コクン 「……そう、だ」

止 「あー……なら、月子? …………えーと、だな……」

月子 「………………」

止 「………………」 フゥ 「……俺は 『通行止め』 だ。よろしく、月子」

月子 「……? どら……どらい……どらいぶ、きゃん……きゃん……きゃん……?」




131 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:22:59.60 ID:lyKPrDso
止 「………………」 プッ 「……止、でいい」

月子 「む……」 ジッ 「………………」

止 「………………」 ジッ

月子 「………………」

止 「………………」 フッ 「……おい」

世話子 「あ、はい……?」

止 「甘いものとお茶でも持ってきてくれ」

世話子 「……? 分かりました……」 タタタ……

月子 「……?」

止 「………………」

月子 「………………」 ジッ

止 「……何だ?」

月子 「………………」 ジッ

止 「……聞きたいことは山ほどある。だがまぁ……急ぐ必要もないからな」

月子 「………………」 ボソッ 「……トマル……」

止 「あん……?」

月子 「……!」 ブンブンブン!! 「………………」 プイッ

止 「……?」

月子 「………………」 チラッ

止 「………………」

月子 「………………」

月子 「……変な、奴……」 ボソッ

止 「………………」

止 (巫女装束着て竹刀袋ぶら下げたガキに言われたくねぇよ)




132 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:26:36.03 ID:lyKPrDso
………………翌朝

チャーンチャチャーチャーチャチャチャチャーチャーンチャチャーチャーチャー…………♪

月子 「む……ぅ……?」 ムクリ

月子 「……? 裏から……らじお、体操……?」

………………

チャーンチャーンチャーン……チャーチャチャチャーチャーン……♪

月子 「………………」 ジッ

止 「むぅ……の、伸びる……」

世話子 「運動不足じゃないですかー?」

止 「殺し合いって運動じゃないのか……」

世話子 「どうでしょう……ねっ……」

月子 「……?」

止 「ん……? おう、起きたのか」

月子 「………………」 コクン

止 「ちょうどいい。一緒にラジオ体操するか?」

月子 「………………」 ……コクッ




133 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 14:41:31.78 ID:lyKPrDso
………………

止 「……しかし、なぜ俺は律儀にラジオ体操を続けているんだろう」

世話子 「仕方ないじゃないですか。『ボックス』 の慣例だったんでしょう?」

止 「そりゃそうだが……」

月子 「………………」 ニコニコ

止 「……? どうしたんだ?」

月子 「!」 ビクッ 「………………」 プイッ

止 「?」

世話子 「……楽しかった……んですかね?」

月子 「………………」 カァ……

止 「………………」 フッ 「……朝飯」

世話子 「あ、はいはい。ただいま用意します」 タタタ……

止 「………………」 ポイッ

月子 「……?」 バサッ 「……これ、は……?」

止 「もう十月だ。汗かいたままじゃ風邪引くぞ」




134 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:06:43.22 ID:lyKPrDso
………………キッチン

世話子 「………………」 コソコソ (あの、止さん)

止 「何だ?」

世話子 (このままでいいんですか? あの子、結局名前以外何も分からないじゃないですか)

月子 「………………」

止 「……? 問題があるのか?」

世話子 (だって、あんな小さな子が補充要員なんて……おかしいじゃないですか)

止 「イルだってそうだっただろ」

世話子 (そりゃそうですけど……っていうか止さんももう少し声を小さくしてくださいよ)

世話子 (聞こえちゃうじゃないですか)

止 「意味ねぇよ、そんなの」

世話子 (えっ……?)

止 「テメェの噂話されてるときは、見れば誰だって大体分かる。雰囲気でな」

世話子 「………………」

止 「……俺はべつに、アイツについて思うところはない」

止 「上層部の思惑も、俺の知ったことじゃない」




135 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:10:54.83 ID:lyKPrDso
世話子 「……そんなことを言って、あの子が上層部のスパイだったりしたらどうするんです?」

止 「……こんな弱小組織をスパイしてどうする」

世話子 「それは……分かりませんけど、上層部の悪意が介在していないという保証はありません」

止 「はっ……バカらしい」

世話子 「……メイさんとイルちゃんを守るんでしょう?」

止 「……突然何だ」

世話子 「なら、リスクは極力回避しないと。あの子についても、少しは距離を置くべきでは?」

止 「………………」 ケッ 「……知るかよ。距離を縮めた覚えはねぇぞ」

世話子 「……イルちゃんと、重ねていませんか?」

止 「んだと?」

世話子 「あの子とイルちゃんを、重ねて見てはいませんか? と問うています」

止 「………………」 フン 「……だったら何だ?」

世話子 「……これ以上何を背負うつもりです? まさかあの子まで――」

止 「――人を勝手に善人扱いするな。俺は何を背負うつもりもねぇ」

世話子 「………………」 フゥ 「……分かりました。私だってうるさいことを言うつもりはありませんよ」




136 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:13:25.65 ID:lyKPrDso
………………

月子 「………………」 パクパク

止 「………………」 (アイツと違って食い方が綺麗だな)

月子 「………………」 ムシャムシャ――ジッ

止 「……ああ、気になるか。悪い」 ……パクパク

世話子 「………………」 …… 「……美味しい、ですか?」

月子 「……!」 ビクッ 「………………」 コクン

世話子 「……それは何よりです」

止 「………………」

月子 「………………」

世話子 「………………」

カチャカチャカチャ……パクパクパク……――ピタッ

月子 「………………」 ジッ

止 「……? 何だ?」

月子 「……何も、聞かないのか?」




137 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:15:23.50 ID:lyKPrDso
止 「……聞いてほしいのか?」

月子 「………………」 ブンブン 「……答えたくは、ない」

止 「なら聞かねぇ」

月子 「………………」 ジッ 「……それで、いいのか?」

止 「よくないのか?」

月子 「………………」 …… 「……分からない」

止 「ならいいんじゃねぇの」

月子 「………………」

月子 「……本当に、変な奴だ」

止 「そうかい」

世話子 「………………」 フッ 「……お代わり、いりますか? 月子ちゃん」

月子 「………………」 コクン 「……いただく」 スッ

世話子 「はい」 ニコッ

止 「………………」 ハグハグハグ……

月子 「………………」 ムシャムシャ……




138 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:28:12.37 ID:lyKPrDso
………………

世話子 「止さん、今日はたしかオーダーが入ってませんでしたよね」

止 「ああ、空いてるぞ」

世話子 「じゃあ買い物に付き合ってくださいな」 チラッ

世話子 「……あなたのお洋服も、見つくろわなきゃいけませんし」

月子 「………………」 ブンブン 「……いらん」

世話子 「いらんって……あなた、その巫女装束しか持っていないじゃないですか」

世話子 「寝巻きとか、身の回りのものも買わなきゃいけないし……」

月子 「………………」 ブンブンブン 「……いらん」

世話子 「………………」 ムッ 「……あなたねぇ――」

止 「――月子」

月子 「……!」 ビクッ 「………………」

止 「………………」

月子 「………………」

月子 「……必要ないから、必要ないと言った。われは他の服は、着られない」




139 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:28:59.91 ID:lyKPrDso
止 「………………」

止 「……そうか。ならいらないか」

月子 「………………」 コクン 「……そうだ」

世話子 「ちょっと、止さん……!」

止 「本人がいらないって言ってるんだからいらないんだろう」

世話子 「だからってずっと同じ服を着ているわけにはいかないでしょう! 昨日だってお風呂に入ってないし!」

月子 「大丈夫だ」 ジッ 「……身は毎日清めている。この装束もまた然り」

世話子 「清めてるって……」 チラッ

止 「………………」

世話子 「む……分かりました。もういいですよ!」 バン!

世話子 「勝手にしてください。もう知りません!」 タッ 「……止さんも留守番していてください!」

ドタドタドタ……バン!!

止 「……ふぅ。怒らせちまったか」

月子 「………………」

止 「アイツも悪気はないんだろう。怒らないでやってくれ」




140 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:37:25.93 ID:lyKPrDso
月子 「………………」 ジッ 「……お前は何故怒らないのだ?」

止 「怒る要因がねぇからな。他人にお節介焼くほど善人じゃねぇってことだ」

月子 「……われは、あの女に悪いことをしたのだろうか」

止 「俺が知るか」

月子 「………………」 ムゥ 「……トマルは、厳しいな」

止 「厳しい? そんな風に言われたのは初めてだ」

月子 「………………」

止 「……ま、何にせよ全部お前の勝手だ。アイツに謝ろうが謝るまいがな」

月子 「………………」

月子 「……一つ訊きたい」

止 「あん?」

月子 「お前たちは学園都市の人間なのだな?」

止 「そりゃそうだ」

月子 「……ならば、われはお前たちの敵だ」

月子 「やはり、馴れ合ってはならない」




141 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:38:03.69 ID:lyKPrDso
止 「………………」

止 (……昨日から分かっていた)

止 (このガキは学園都市の人間じゃない)

止 (……コイツには何故か俺の 『通行止め』 のパスが繋がらない)

止 (ということは、このガキはAIM拡散力場を発していない……つまりは能力者ではないということ)

止 (能力者でない就学児……それはつまり、学園都市の外部から来たガキに他ならない)

止 「………………」 フッ 「……お前の言う敵とやらが何なのかよくは分からないが、」

止 「……言い方が悪かったか。一応断わっておくが、俺はむしろ学園都市上層部の敵だぞ?」

月子 「……何だと?」

止 「まぁ、今はもちろん命令を聞いているが……もし上層部を確実に破壊する算段がついたら、」

止 「――それを即実行するだろうくらいには、俺は上層部を憎んでいる」

月子 「………………」 ジッ 「……そんなことをわれに話してしまっていいのか?」

止 「べつに誰に話されたって損するようなことじゃない。上層部だってそれくらいは百も承知だろうよ」

月子 「……トマルは、本当に変な奴だ」 ジッ 「……甘いのか、厳しいのか、皆目見当がつかない」

止 「そうかい。褒め言葉として受け取っておくよ」




142 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:39:29.68 ID:lyKPrDso
月子 「……聞かないのか?」

止 「何を」

月子 「われが何者なのか」

止 「興味がない」

月子 「……われはここにいていいのか?」

止 「上層部の命令だからな」

月子 「われは人殺しをするのか?」

止 「させねぇよ」

月子 「………………」

止 「………………」

月子 「………………」 ジッ 「……ここは、“ぼっくす” といったか」

止 「ああ」

月子 「……われは、ここにいてもいいのだろうか」

止 「いたきゃいろ。いたくなきゃ消えろ」

月子 「………………」 コクン 「……分かった」




143 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 15:40:45.15 ID:lyKPrDso
止 「………………」 ガタッ 「……何かあったら呼べ」

月子 「どこへ行くのだ」

止 「地下の訓練場だ」

月子 「………………」 カタッ 「……われも行く」

止 「勝手にしろ」


………………地下訓練場

月子 「……人殺しの道具だらけだな」

止 「まぁな」 カチャカチャ……

月子 「何をやっているのだ?」

止 「人殺しの道具の整備」

月子 「………………」

止 「確実に人を殺せるようにしているってことだ」 フッ 「……よく考えりゃ、これも人殺しの一環だよな」

月子 「………………」 ジッ 「……人殺しを、笑うのか」

止 「ああ。誰かを殺さなきゃ何もできない滑稽な自分をな」

フッ

止 (“奴ら” のようなヒーローにはなれない、滑稽な自分を、な)

月子 「……?」




144 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 16:10:04.32 ID:lyKPrDso
………………

月子 「………………」 ジッ

止 「………………」 カチャカチャ……フッ 「……見てて楽しいか?」

月子 「あまり」

止 「だろうなぁ」 カチャカチャ……

月子 「……トマル」

止 「あん?」

月子 「指は、どうしたのだ」

止 「指……?」 スッ 「ああ、これのことか」

止 「左手の小指と薬指……」 フッ 「ある女にくれてやった」

月子 「……?」

止 「……っていうほど格好いいシチュエーションじゃなかったけどな」

止 「ちょっとした事件でなくしたんだよ。もう慣れた。無理に動かすと痛いけどな」

月子 「………………」 スッ 「……手を出せ」

止 「……?」




145 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 16:13:48.20 ID:lyKPrDso
止 「何だよ」

月子 「いいから手を出せ。左手だ」

―――― 『……とまる、手をだす』

止 「………………」 スッ (なんかデジャヴが……)

月子 「それでいい」 サッ 「……少しじっとしていろ」

止 「……?」 (塩と水と……粉……? どっから出した?)

月子 「……何か白い物はあるか?」

止 「白い物……この薬莢のパッケージでいいか?」

月子 「ああ」 スッ …… パッパッ

止 「……?」 (パッケージを俺の左手に被せ、塩をかけた……?)

月子 「………………」 スッ …… バシャッ

止 「!」 (断りもなく水をぶっかけるなよな……)

月子 「………………」 スッ――

止 「待て」

月子 「……?」 ジッ 「何だ?」

止 「その黄色い粉はなんだ」




146 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 16:14:57.67 ID:lyKPrDso
月子 「そんなことも知らんのか」 フゥ 「これは蒲の花粉だ」

止 「蒲……? っていうと、あの沼地に群生する多年草のことか?」

月子 「……む。科学的な解説は嫌いだ」 プイッ

止 「………………」 (科学的? ……怒りのツボがよく分からん)

月子 「……着の身着のままで学園都市に来たのだが、この基本術式の物品だけは懐に入れてあったのでな」

止 「……?」

月子 「お喋りが過ぎた。術式を続ける」

止 「………………」 (だからその術式ってなんだよ)

月子 「………………」 パッパッ

キィィ……パッ

止 「……!?」 (何だ……? 白い光が――)

月子 「―――― “御身ニ在リテ素ノ兎ヘ 治癒ト祝福ヲ捧ゲン”」

ポォ……パァァァァァァ……!!

止 「なッ……! こ、これは……」

――――――――……ッ……ポン……




147 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 16:24:12.08 ID:lyKPrDso
月子 「………………」 フゥ 「……かなり過程をはぶいたが、鎮痛と完治促進の効果くらいはあるはずだ」

止 「い、今のは……一体……」

月子 「『因幡之素兎(イナバノシロウサギ)』 の術式だ。われの宗派では最も一般的に用いられる治癒術式の一つである」

止 「因幡の白兎……? っていうと、あの昔話のか?」

月子 「そう。魔導書の 『原典』 の一つ、『古之記(イニシエノシルシ)』 に記された行の一部」

月子 「それを流用し、塩と水と蒲の花粉を使うことにより、白兎の再生を再現している」

止 (……魔導書? オリジン……?) スッ 「なっ……!」

止 「……本当に、痛みが引いている……?」

月子 「当たり前であろう。略式とはいえ、このつ――月子が直々に行使してやった術式であるぞ」

止 「お前は……能力者……ではないよな」

月子 「当然だ。誰が好きこのんで科学などに身を預けるか」

月子 「……本当なら科学の人間であるお前に術式を見せるつもりはなかったのだが、」

月子 「気が変わった。われは慈悲深い。傷が痛む者あれば治癒術式を使うのも已む無しであろう」

止 「………………」 スッ

ギィィィィィンンン!! ………………ギッ……




148 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 17:07:48.44 ID:lyKPrDso
止 (ッ……やはり、このガキには 『通行止め』 のパスが繋がらない)

止 (そもそも、あんな複雑なプロセスが必要な能力など聞いたことがない……)

止 (しかし今のは、手品などではない……一体、何なんだ……?)

月子 「………………」 フッ 「……聞きたいか?」

止 「………………」 スッ 「……いや。興味がないと言えば嘘になるが……その前に、」

月子 「……?」

止 「……ありがとう。左手全体が大分楽になった」

月子 「………………」 ジッ 「……お前は、本当に変な奴だな」

止 「何度目だ、それ言うの」 フッ 「………………」 カチャカチャ……

月子 「………………」 ジッ

月子 「……決めた」

止 「ん……?」

月子 「あの女が帰ってきたら、謝罪することにする」

止 「………………」 フッ 「……そうかよ」

月子 「うむ」




149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:38:33.10 ID:lyKPrDso
………………

世話子 「………………」 フゥ 「……私も止さんのこと言えないかな」

世話子 「結局甘々なんだから……ほんと、我ながらダメダメね」

……ガラッ

世話子 「ただいまー――っと、」 ビクッ

月子 「………………」

世話子 「……い、いたの、月子ちゃん」

月子 「………………」 コクン 「……お前を待っていた」

世話子 「……?」

月子 「………………」 ペコリ 「……さっきは、すまなかった」

世話子 「えっ……? あ……」 カァ…… 「……こ、こっちこそ大人気なかったわ」

世話子 「こちらこそ、ごめんなさい」 ペコリ

月子 「む……その謝罪、謹んで受け取ろう」

世話子 「うん」 スッ 「……そ、それでね、そのその……」

月子 「む?」

世話子 「いらないって言ってたけど……結局、買って来ちゃったの」 スッ

世話子 「服とか、寝巻きとか……あと、玩具とか」




150 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:40:24.58 ID:lyKPrDso
月子 「………………」 ジッ

世話子 「……うん、そのその、いらなかったら捨て――」

月子 「……謹んで貰い受ける」 スッ 「ありがとう」

世話子 「……!」 パァァ 「うん!」

止 「………………」 フッ 「……財政難とか言ってたくせに、結局甘やかしてるじゃねぇか」

世話子 「む……そんなこと言う止さんにはおみやげはなしです」

世話子 「さ、月子ちゃん。ケーキを買ってきたから、一緒に食べよ」

月子 「む。われは甘味は大好物だ。頂こう」

止 「ち、ちょっとまて! 俺も混ぜろ」

世話子 「嫌ですー。さ、月子ちゃん、行きましょう」 スッ

月子 「うむ」 ギュッ

トトトトト……

止 「………………」 フッ 「……結局子ども好きなんじゃねぇか」

止 「………………」 スッ (……左手、本当に違和感がなくなったな……)

止 (……術式、魔導書、『原典』 ……少し調べてみるか)




151 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:42:52.86 ID:lyKPrDso
prrrrrr……

止 「あん……? ……っ」 ピッ 「……連絡はするなと言ったはずだが?」

?? 『……すみません。ですが……』

止 「……お前はもう “あちら” の人間だ」 フゥ 「…… “こちら” の俺に連絡してはいけない。メイ」

メイ 『ですが……止様、わたしは……』

止 「………………」

メイ 『わたしは……貴方様のお声が聞きたいのです……!』

止 「……俺は忙しい。悪いが、切るぞ」

メイ 『し、しばしのお待ちを!』 ジジッ

?? 『……とまる?』

止 「……ッ、イルか?」

イル 『ん。That's right、だ』

止 「……もう二度と、こちらには連絡をするな。電話も、メールもなしだ」

イル 『………………」




152 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:44:14.29 ID:lyKPrDso
イル 『……でも、それだと、メイとイル、さみしい』

止 「大丈夫だ。すぐに慣れる。すぐに俺のことなんか忘れられる」

イル 『わすれられるはず、ない!!』 グスッ 『……イルとメイは、とまるのことを、ゼッタイ、わすれない』

止 「………………」 ハァ 「……学校、通い始めたんだろう? 友達はできたか?」

イル 『……とーぜんだ。イル、もうガッコの、charisma、だ』

止 「カリスマか」 フッ 「そりゃすごい。その調子で、友達百人目指せよ」

イル 『………………』 エグッ ヒグッ

止 「……? イル?」

イル 『……なんで?』 ヒグッ

止 「………………」

イル 『なんで、とまるはここにいない?』 ヒグッ エグッ 『なんで、とまるが、ここにいない?』

止 「………………」

イル 『さみしい……かなしい……つらい……とまる、』

イル 『――会いたい……』

止 「………………」 フッ 「……大丈夫。お前たちが忘れた頃に、俺はそちらに行く」




153 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:45:03.82 ID:lyKPrDso
イル 『……ほんと、か?』 エグッ

止 「本当だ。まだ仕事が山ほどある。だから俺はそちらには行けない」

止 「だが、すぐに全部終わらせて、そちらに行くよ」

止 「だからその時まで、メイと一緒に良い子にして待ってろ」

イル 『………………』 グシグシグシッ 『わかった。イル、イイコになって、まってる』

イル 『とまるのこと、わすれるようにする……そうすれば、とまる、戻ってくる』

止 「……ああ、その通りだ。俺のことなんか忘れて、人生を楽しんでろ」

止 「そうすれば、俺はいつかそちらに行ける……絶対に、そちらに行くから」

イル 『やくそく、だから。ゆびきり、だから! ゼッタイ、だから!』

止 「ああ……約束だ」 フッ 「……メイに代わってくれるか?」

イル 『ん……わかった。bye-bye、とまる』

止 「ああ……」

メイ 『――止様……』

止 「……もう二度と電話はするな。お前たちはもう暗部の人間じゃないんだ」

メイ 『………………』 グスッ 『……はい。分かりました』




154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:46:25.52 ID:lyKPrDso
止 「………………」 フン 「……俺のことがそんなに信用できないか?」

メイ 『そうではありません! ですが……』

メイ 『……怖いんです。貴方様が、死んでしまうのではないか。消えてしまうのではないか……』

メイ 『そんな風に考えてしまうと、いてもたってもいられくなって……つい、電話で確認を……』

止 「安心しろ。俺は絶対に死なない」 スッ 「……絶対に、死なないから」

メイ 『はい……』

止 「……お前はどうだ、最近」

メイ 『……長らく休学していた繚乱家政女学校の高等部に復学しました』

止 「……そうか。それはいい」 フッ 「お前も、俺のことなんか忘れて、たくさん勉強しろ」

メイ 『ふふ……たくさん勉強しろ、ですか。止様らしいお言葉ですね』

止 「はっ。俺は勉強と能力の研鑚以外に何もしていなかったからな」

止 「……イルの右腕はどうだ?」

メイ 『特注の義手により、運動能力の低下はほとんど見られないようです。イル自身も、もう慣れたようですし』

メイ 『……あのお医者様と、何より止様のおかげです』

止 「……俺は何もしちゃいない。イルの生命力が強かったってだけのことだろうよ」




155 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:49:51.10 ID:lyKPrDso
メイ 『………………』

止 「………………」

メイ 『……止様……』

止 「………………」

メイ 『会いたいです……』

止 「……無理だということは、お前もよく分かっているはずだ」

メイ 『……でも……でも……っ』

止 「………………」

止 「……悪い。もう切る」

メイ 『! と、止様……!』

止 「……何だ」

メイ 『……愛しています。今までも、今も、これからも……ずっと……っ!』

止 「………………」

メイ 『…………言葉を返しては、くれないのですね』 グスッ 『愛を囁いては、くれないのですね』

止 「………………」 スッ 「……じゃあな、メイ。また、いつか」 ピッ




156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:53:52.86 ID:lyKPrDso
止 「………………」 フッ

止 「……言えるわけがないだろうが」

止 「せっかく自由になれたお前を、縛りつけるような言葉、吐けるわけがないだろうが」

?? 「懸命な判断だな」

止 「……!? ……ッ、月子か」

月子 「驚くな。気配を消していただけだ」

止 (……このガキ、本当に何者なんだ) 「……盗み聞きってのはあまり高尚な趣味じゃないな」

月子 「人聞きの悪いことを申すでない。われはただ、お前に話しかけるたいみんぐを探っていただけのこと」

月子 「……あの女が、可哀想だからお前も呼んでこいと言ったから来たまでだ」

止 「そうかい」 ケッ 「……懸命な判断ってのはどういう意味だ」

月子 「決まっている。お前の恋い慕う気持ちを電話の相手に伝えなかったことについてだ」

止 「………………」

月子 「……この国には、古来より言霊という力が存在する」

月子 「真心の籠もった言葉は、良し悪しは関係なくその人間を縛りつけることになる」

月子 「電話口に向けていくつもの嘘を吐いていたお前には、その責任を取ることなど到底できないだろうからな」




157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:57:01.43 ID:lyKPrDso
止 「嘘、だと?」

月子 「誤魔化すな。戻る気もないくせに、よくもぬけぬけとあんな言葉を吐けたものだな」

月子 「相手が自分を信頼していることを良いことに、忘れれば戻るなどと、よく言えたものだ」

止 「ッ……!」 ギリッ 「お前に何が分かる……ッ」

月子 「分からんな。正直に伝えればよかろう? 自分はそちらには行けないと。戻る気はないと」

月子 「中途半端な言葉を投げかけおって……まったく、浅ましい男だな。結局己を忘れてほしくないのではないか」

止 「お前……ッ!!」 ガッ

月子 「………………」 ニィィ 「……何だ? 図星か?」

月子 「殴りたくば殴ればよかろう? 安心しろ簡単に壊れるような身体はしていない」

止 「………………」 スッ 「……くそっ……!」 ブゥン

月子 「………………」 ギュッ

――――――ピタッ

月子 「…………?」 パチッ 「……何故殴らん?」

止 「………………」 スッ 「……生憎と、ガキを殴る趣味はねぇ」

――ット

止 「……胸ぐら掴んだりして悪かった」 サッ 「……俺はもう寝る。アイツには適当に言っておいてくれ」




158 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 18:58:46.49 ID:lyKPrDso
………………

世話子 「ふんふんふーん♪」 チラッ 「……あら、月子ちゃん。遅かったね」

月子 「………………」 ジッ 「……うむ」

世話子 「止さんは?」

月子 「具合が悪いらしい。寝ると言って自室に行った」

世話子 「ふぅん……」 スッ 「そう。ま、いっか。じゃ、食べよ」

月子 「む……」

月子 「………………」 パクパクムシャムシャ……

世話子 「……うん。デパートに新しく入ったスイーツ、なかなかだね」

月子 「うむ。甘露である」

世話子 「ふんふんふーん♪」 パクパク

月子 「……のう、」

世話子 「……? なぁに?」

月子 「“めい” と “いる” というのは、誰だ?」

世話子 「………………」 フッ 「……止さんから聞いたの?」

月子 「………………」 コクン




159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:01:10.76 ID:lyKPrDso
世話子 「うーん……簡単に言えば、この 『ボックス』 の元正規人員の二人だよ」

月子 「……われの前任ということか」

世話子 「うん。訳あって止さんが上層部と交渉して、その二人は普通の生活に戻ったんだけど」

月子 「われには学園都市の事情は分からんが……もしや “ぼっくす” とは、特殊な場所なのだろうか」

世話子 「……そんなことも知らずにここに来たの? そうだよ。ここは学園都市の暗部、」

世話子 「言わば闇の中、最先端科学溢れる街の、裏側。血で血を洗う戦場だよ」

月子 「む……」

世話子 「そんな場所にいた二人が、今は平和な世界にいるの」

世話子 「そして、止さんは二人を守るために、今もこの暗部で戦っているの」

月子 「めいといるとやらを守るために、トマルが戦っている……?」

世話子 「止さんだって本当は戻りたいんだろうけど……でも、上層部の命令には逆らえない」

世話子 「止さんが上層部の命令に従わなければ、一番に狙われるのは、メイさんとイルちゃんだから」

月子 「………………」

世話子 「……私の勘だけど、多分、止さんは平和な世界に帰る気なんてないんだと思う」




160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:03:38.22 ID:lyKPrDso
月子 「……何だと?」

世話子 「……あの人の中で、一番優先順位が高いのがメイさんとイルちゃんなんだよ」

世話子 「止さんはきっと、どうなろうと絶対に死なない。メイさんとイルちゃんがいる限り、絶対に死ねないから」

世話子 「メイさんとイルちゃんのために上層部の命令を聞いて、何人も人を殺して、」

世話子 「……きっと、あの人はそんな自分を許さない。口では蓮っ葉なことを言ってるけど、優しい人だから」

月子 「つまり、トマルはめいといるのために命を磨り減らしているということか?」

世話子 「それは分からないよ。私は止さんの計らいで、最近は戦場に立っていないから」

月子 「……奴見ていると、違和感を憶える。その正体かそれか」

世話子 「えっ……?」

月子 「トマルは人の生命を奪うような輩ではない。しかし、奴からは確かに血の臭いがする」

月子 「何十人と殺したような、濃厚な血の臭いがな」

月子 「……望まぬ人殺しなど、己の御魂を穢し、犯し、貶める行為に他ならぬというのに」

世話子 「月子ちゃん……」

月子 「………………」 スッ 「……少し、トマルに言い過ぎてしまったやもしれん」

月子 「謝罪をしてくる」




161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:10:36.97 ID:lyKPrDso
………………

止 「……結局は己を忘れてほしくはない、か」

止 「くくくっ……まったくその通りなんだから笑えるよなぁ」

止 「そうじゃなきゃ、メイと別れる時、あんなことを……」

止 「……あんなことを、しやしなかっただろうからな」

止 「………………」 フッ 「……ああ、そうだよ。俺だってお前に言いたいよ」

止 「メイ……俺はお前を……」

――――コンコン

止 「……月子か」

月子 『そうだ』

止 「何か用か?」

月子 『お前は……優しいな。無視されるくらいは覚悟していたのだが』

止 「人間できちゃいないが、少なくとも大人ではあるつもりなんでな」

月子 『そうか……先ほどの非礼の謝罪をしたい。入ってもいいか』

止 「………………」 チッ 「……勝手にしろ」




162 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:13:27.27 ID:lyKPrDso
キィ

月子 「……ありがたい」 トトト…… 「む……」 チラッ

月子 「この写真……これが、めいといるとやらか」

止 「ああ……」 ムク 「メイの部屋に残ってた写真を、勝手に拝借したもんだけどな」

月子 「……家政婦に、欧米人の子供か」 スッ 「……いや、その前に、謝罪だったな」

月子 「すまなかった。われはきっと、言ってはならぬことを言った」 ペコリ

止 「……ふん、べつに構わねぇよ。考えれば考えるほど、本当のことを言い当てられたってだけに思えてくる」

月子 「……違うのだ」

止 「あん?」

月子 「違うのだ。われは……」 ジッ 「……われは、わざと、お前を怒らせようとしたのだ」

止 「……?」

月子 「……お前を試したかった。お前を、そこらの人間と変わらぬ者であると思いたかった」

月子 「だから、普通の者なら怒り狂うであろう、心底の逆鱗にわざと触れた」

月子 「……お前の背負う背景も、過去も、何も知らずに、お前を怒らせようとしただけなのだ」

止 「………………」 ジッ 「……何故そんなことをした?」




163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:21:32.90 ID:lyKPrDso
月子 「さっきも言ったとおりだ。お前もただの人間であると、ただの普遍的な人の子であると思いたかった」

月子 「……しかし、お前はわれを殴らなかった。あまつさえ、胸ぐらを掴んだだけで謝罪をした」

月子 「やはりお前は、優しく、甘く、厳しく、変な……そんな奴だった」

止 「……それは褒め言葉と受けとっていいのか」

月子 「さてな」 ジッ 「……とにかく、すまなかった」

止 「……構わないと言っている」

月子 「ああ……」 チラッ 「……しかし、ここと、あの二人がいる場所は地続きではないのだな」

月子 「われはてっきり、いつでも会えるものをお前が会わないとごねているのだと勘違いしていた」

止 「はっ……平和な世界と、人殺しの道具を握る世界が地続きなわけがないだろうが」

月子 「すまぬ。自分で言うのもなんだが、われは一般的な観念が著しく欠如している」

月子 「学校とやらにも行っていなかったしな。常識というのがよく分からんのだ」

月子 「それに加えてここは科学の街、学園都市であろう? われには分からぬことだらけだ」

止 「………………」 スッ 「……少しだけ調べさせてもらった」

月子 「なんだと……?」

止 「魔導書や 『原典』 という言葉はよく分からないままだが…… 『古之記』 についてだ」




164 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:32:24.20 ID:lyKPrDso
止 「……この国の伝説の類を記した書物だろう? 『日本之書(ヒノモトノショ)』 とやらと列記されていた」

月子 「ほう……てっきり、寝そべって泣き言でも吐いているのかと思っていたが」

止 「大部分はそうだったけどな」 ケッ 「……因幡の白兎。端的に表わせば、皮を剥がれた兎がカミサマの助言で治るって話だな」

止 「……これが一体どうなると、さっきの手品もどきに繋がるんだ?」

月子 「手品ではない。『魔術』 だ」

止 「……やはりか。薄々は勘付いていた」 ギロッ 「……つまりお前は、ローマ正教の人間ということか」

月子 「それは正しくはない。われは由緒正しき日本神道の巫女である。十字教の宗派など知らぬ」

止 「……何だと? ローマ正教以外に、『魔術』 とかいう能力開発を行なっている組織があるのか?」

月子 「そもそも前提からして間違っているな。なるほど、学園都市はあくまで科学的な超常現象しか認めぬつもりか」

止 「どういうことだ?」

月子 「………………」 ブンブン 「……いや、これ以上は言えん」

止 「………………」 フゥ 「そうかい。なら言わなくてもいい」

月子 「……われがこんなことを言うのは筋違いかもしれぬが、」 ジッ 「何故、聞かないのだ?」

止 「決まってるだろ。言いたくないことを言わせるほど、俺は暇じゃないんだよ」

止 「言いたきゃ言え。聞かせたきゃ無理にでも聞かせろ。言いたくなきゃ言わなくていい」




165 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:42:14.92 ID:lyKPrDso
月子 「………………」 フッ 「……トマルは、やはり厳しいな」

止 「優しいと言われたこともそうはないが、厳しいと言われることも滅多にないな」

月子 「いや、お前は優しい男だ。優しいが、それ故に厳しい」

止 「……? ああ?」

月子 「すべてわれに決めろと言っている。それは優しく、そして厳しいことだ」

止 「……俺が、指図されるのが嫌いだからかもしれねぇな」

月子 「そうか……」 フッ 「……われはずっと、この世に生を賜わってからずっと、指図をされて生きてきたからな」

月子 「それが嫌でたまらなかったというのに……いざ離れてみれば、これか」

月子 「何をどうすれば最適なのか、まったく分からない。われは本当に……弱いな」

止 「………………」 ケッ 「……ガキが、何を偉そうなことを言ってやがる」

月子 「!? このわれを餓鬼だと!!」

止 「ガキだ、ガキ。どこからどう見ても、まだオムツも取れないようなガキじゃねぇか」

月子 「こ、この……! 言わせておけば――――」

止 「――――その意気だ。何をどうすればいいとか、そんな難しいことを考える必要はねぇ」

止 「やりたいようにやれ。感じたままに、自由にやってみろ」 フッ




166 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:44:37.91 ID:lyKPrDso
月子 「………………」

月子 「……うむ。分かった」 コクン 「われは、われのしたいようにする」

月子 「われはやはり、『魔術』 についてお前たちに話すわけにはいかない」

止 「そうかい」

月子 「たとえ学園都市での立ち位置がどうであれ、科学に与する者に準じるわけにはいかない」

月子 「そして……何よりわれは、優しいお前たちを、われの事情に巻きこみたくはない」

月子 「知るということは、誰が望まぬとも、それだけで事情に対しての責任が発生する」

月子 「われは、われだ。やはり、誰を巻き込むわけにもいかぬ」

止 「………………」

月子 「……助けを求め、学園都市までやって来たが、」 フッ 「やはり、われはどうにもならぬらしい」

月子 「すまぬな、トマル。短い間だったが、世話をかけた」

月子 「科学など巻き込んでも構わぬと思っていたが、お前のような者がいると知った今、そういうわけにもいくまい」

月子 「われはこの “ぼっくす” を……いや、学園都市を出る。あの女にもよろしく言っておいてくれ」 スッ

ガチャッ……

月子 「ではな、トマル」 フッ 「いつか、めいといるとやらの元へ、行けるとよいな」 トトト……




167 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:52:34.51 ID:lyKPrDso
止 「……けっ」

?? 「……追わないんですか?」

止 「っ、世話子……。やっぱ聞いてやがったか。追いたきゃお前が追えよ」

世話子 「分からないんですか?」 ハァ 「あの子、止さんに追いかけてほしいんですよ」

世話子 「随分と老成した子でしたけど、分かります」

世話子 「ちょっとしたワガママ……というか、構ってほしい……ともまた違うかな……」

止 「………………」

世話子 「けど、あの子は絶対に引き留めてもらいたいはずですよ。誰でもない、あなたに」

止 「………………」

世話子 「そして何より、止さん自身が引き留めたがっているように見えますけど?」

世話子 「――ねぇ、利己的な人間さん?」 ニコッ

止 「っ……くそったれ……」 ガタッ 「……コンビニにでも行ってくる」

止 「……もしかしたらあのクソガキを偶然連れて帰ってきちまうかもしれねぇから、」

止 「なんか温かい飲みモンでも用意しておけ」 ダッ

世話子 「ふふ、分かりました。いってらっしゃい」 スッ 「……ほんと、強引なツンデレさんなんだから」




168 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:57:33.75 ID:lyKPrDso
………………

月子 「………………」 ズルズルズル…… 「……ふっ、われは、また一人か」

月子 「ずっと一緒にいてくれるのは “これ” だけだな。まったく、我ながら孤独なものだ」

―――― 『その意気だ。何をどうすればいいとか、そんな難しいことを考える必要はねぇ』

月子 「………………」 スッ 「……学園都市ならば、科学の街ならば、いくらでも利用してやろうと思ったが」

月子 「あのような者がいるのでは、それもままならんな。まったく、難儀なことだ」

ズルズル……

―――― 『……取りはしねぇよ。引きずらないように気をつけろよ』

月子 「ふっ……引きずった程度で、この霊装がどうこうなるはずはないだろうが……」

月子 「まったく……子供扱いしおって、あの無礼者め……」

月子 「その上、このわれに月子などという名を付けおって……」

月子 「また独りぼっち……か、」

グスッ

月子 「……!」 ゴシゴシゴシ!! 「な、泣いてなどおらぬ! これは、目に塵が入ったからであって――」

?? 「――お前、一体誰に言い訳してるんだ?」

月子 「ひうっ……!?」 ビグッ! 「と……トマル!」




169 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 19:59:17.83 ID:lyKPrDso
月子 「な、何故追って来た!?」

止 「勘違いするな。俺はただそこのコンビニに買い物に来ただけだ」

月子 「えっ……?」 シュン

止 「………………」

月子 「あっ……ち、違うぞ! べつに、落胆したわけではないのだからな!」

スッ……ファサッ

月子 「む……?」

止 「おっと手が滑った。上着を落としてしまった」

月子 「………………」 ジッ 「……お前、さすがにそれは無理があるぞ」

止 「うるせぇ。お前に言われたくはねぇよ」

月子 「………………」

止 「………………」

月子 「…… “こんびに” とやらに行かないのか?」

止 「お前こそ、ここから一番近い学園都市の出口は、あっちだぞ?」

止&月 「「………………」」




170 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:04:22.63 ID:lyKPrDso
止 「学園都市の外部から来て、すぐに暗部に落とされたんだ」

止 「お前にも何か事情があるんだろう? 行くアテはあるのか?」

月子 「……お前には関係ない」

止 「それもそうだな」

月子 「そうだ」

止 「………………」

?? 「ん……? あ、おいお前ら、」

止 「あん?」 (教員か……?)

?? 「……こんな時間に出歩いているんじゃない。もう最終下校時刻じゃん」

止 「……? もしかしてアンチスキルか?」

?? 「そうなるじゃん」 スッ 「アンチスキルの黄泉川愛穂だ。子どもは早く帰って寝ろ」

黄泉川 「……? というか、そっちの女の子の方、」

月子 「!」 ビクッ 「な、何だ……?」

黄泉川 「なんだその珍妙な格好は? そういや、月詠先生も少し前まで巫女服の奴を匿ってたな。流行ってるのか?」

月子 「し、知ったことではない」

黄泉川 「……? まぁいい。一応聞いておくが、この一見優等生っぽいが、口を開くとガラが悪い男はお前の知り合いか?」




171 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:09:09.78 ID:lyKPrDso
月子 「………………」 コクン 「……友達、だ」

止 「………………」

黄泉川 「そうか。ならいい」 フッ 「とにかく早く帰れ」

黄泉川 「お前はきちんと責任を持ってその子を家まで帰すんだぞ?」

止 「……ああ。そうさせてもらうよ」 スッ 「帰れ、という命令だ。仕方ないな」

月子 「……うむ。大人に命令されたのなら仕方がないな」 スッ……ギュッ

止&月 「「帰ろう」」

黄泉川 「?」

止 「ありがとよ、アンチスキルの黄泉川センセ」 フッ

月子 「……感謝する」 フッ

黄泉川 「何だそりゃ……?」 ポリポリ 「……ま、いいか。気をつけて帰れよーっ!」

止 「………………」

月子 「………………」

ギュッ……




172 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:10:56.86 ID:lyKPrDso
ズルズルズル……

止 「………………」 スッ 「それ、持つか?」

月子 「いや、大丈夫だ」 スッ……ズルズル…… 「っ……」

止 「無理するなよ。べつに取り上げはしないから、貸せって」

月子 「そんなことを心配したわけではない。ただ、これはお前に渡すわけにはいかない」

止 「あん?」

月子 「……おそらく、能力者はこれの毒素に耐えられないだろう」

止 「毒……? おいおい、穏やかじゃないな」

月子 「笑い事ではない。これは魔導書の 『原典』 に準ずるほどの力を秘めた霊装だ」

月子 「触れればただの人間でも死は免れぬだろうが……それが能力者であればなおのこと」

月子 「触れた途端に身体が弾け飛ぶ……などということになりたくはないだろう?」

止 「……何の冗談だそれは」

月子 「冗談ではない。今は封印を施してあるから、そこまでの効力はないだろうが……」

月子 「その上からでも、触れれば間違いなく能力者の命を減らすだろう」

止 「……お前は持ってるじゃないか」




173 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 20:11:36.99 ID:lyKPrDso
月子 「われは普通の人間ではないし、ましてや能力者ではないからな」

止 「……なら何だって言うんだ?」

月子 「分かっているだろう? 魔術師だ。まぁ、われはこの呼び名は好きではないのだがな」

止 「………………」 フッ 「……魔術師、ねぇ」

月子 「そうだ。そしてわれはこの霊装の守護者にして管理者なのだ。害はない」

止 「……そうかよ。よく分からねぇな」

月子 「それでいい。そう、あるべきなのだからな」

止 「そうかい」

月子 「………………」 ジッ 「……のう、」

止 「あん?」

月子 「われは本当に、“ぼっくす” にいてもよいのか?」

止 「………………」 ケッ 「……言ってるだろうが。勝手にしろ」

止 「ガキ一人の食い扶持くらいは、俺が稼いでやる」

月子 「む……だからわれは餓鬼ではないと言っている」

止 「くくっ……そう言ってるうちはガキだ」




175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:29:17.16 ID:lyKPrDso
……………… 『ボックス』 宿舎

月子 「………………」

月子 「結局、戻ってきてしまった」

月子 「われの事情に、これ以上奴らを関わらせるわけにはいかんのだが……」

月子 「………………」 スッ

月子 (トマルの手……温かかった) ギュッ (誰かに手を握ってもらうなど、初めてことだ)

月子 (否……われが忘れているだけで、われが幼い頃にはあったのだろうか)

月子 (父様や母様が、われの手を握ってくれていたことが……)

フッ

月子 「……考えても詮無きことであるな。父様も母様も、もう……」

月子 「………………」

月子 「われは……何故――――」

――――コンコン

月子 「ひゃっ……!?」 ガバッ

?? 『月子ちゃん? いるー?』

月子 「せっ、世話子か? 何の用だ?」

世話子 『何の用だって、そんなの決まってるでしょ?』

ガチャッ

世話子 「今日こそお風呂に入ってもらうんだからね」




176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:36:39.41 ID:lyKPrDso
月子 「むぅ……だからわれは風呂には入らんと言っているだろう」

世話子 「ダーメ。今日は絶対にお風呂に入ってもらうからね」

月子 「身は清めていると言っているだろう」

世話子 「むぅ……」 (確かに不思議なことにこの子の身体、汚れてるようには見えないのよね……)

世話子 「それでも、ダメ。女の子は常に身体を清潔にしていなきゃ」

月子 「む……」 ジッ 「しかしだな、われは科学によって沸かされた湯は肌に合わんのだ」

月子 「食物は仕方なく食しておるが……入る必要もない湯に浸かるのは我慢ならん」

世話子 「科学って……そんな意味不明なこと言ってないで、ほら、一緒に入ってあげるから」 グッ

月子 「は、離せ! 離すのだ!」 ヨジヨジ

止 「……? 何やってんだ?」

世話子 「あ、止さん! 聞いてくださいよ。月子ちゃん、またお風呂に入らないってごねてるんですよ」

止 「………………」 (もしかして、俺がやりたいようにやれって言ったせいか……?)

止 「あー……月子? 風呂ぐらいは入ったほうがいいぞ?」

月子 「科学の風呂は嫌いだ」 プイッ 「われは入らん。さっきも言ったが、身は清めている」

止 「……だ、そうだ」

世話子 「………………」 ギロッ

止 「あ、いや……つ、月子? 風呂は嫌いなのか?」

月子 「そうではない。だが、火で沸かした風呂ならまだしも、電気とやらで沸かす風呂は嫌いだ」




177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:37:55.13 ID:lyKPrDso
止 「火、ねぇ……」 チラッ 「……そういや、武器弾薬補充のときのコンテナがあったよな?」

世話子 「え……? え、ええ。地下に置いてありますけど……」

止 「………………」 スッ 「……分かった。なら、ちょっとやってみるか」

世話子 「やるって、まさかとは思いますが……」

止 「そのまさかだろうな。お前は裏の倉庫から灯油とボロキレを持ってきてくれ」

世話子 「………………」 ハァ 「……子どもには甘いんだから。このロリコン」 ボソッ

止 「……なんか言ったか?」

世話子 「べつに何も。じゃ、ちょっと行ってきます」

止 「頼む……」 スッ 「……さて、と。まずはコンテナを地下から中庭に持ってくるか」

月子 「??? トマル? 一体何をしようというのだ?」

止 「大したことじゃねぇよ。ちょっと、即席の風呂を作ろうってだけだ」

月子 「む……?」

止 「お前も、天然の火で沸かした風呂なら文句はないだろ?」




178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:50:24.89 ID:lyKPrDso
………………ゴォォォォオオオオオオオ……!!!

止 「っ……熱い……」 フーフー 「……くそったれ、何だって俺がこんなことを……」

世話子 「止さんが言い出しっぺなんですから、仕方ないじゃないですかー」 カポーン

世話子 「ふー……極楽極楽……悪くないですね、簡易露天風呂っていうのも」

止 「そりゃ、入ってる奴はそうだろうさ……」 フーフー 「……下で火を維持してる奴の身にもなれ」

世話子 「ははー、いい気味ですー」 スッ 「……でも、覗いたりしたら殺しますからね?」

止 「お前って最近どんどん良いキャラになってるよな……」

世話子 「褒め言葉として受け取っておきます」 ジッ 「……どう? 月子ちゃん」

月子 「むぅ……湯舟が気に入らぬが、まぁ良かろう」 スッ 「……良い湯であるぞ、トマル」

止 「けっ、そうかい。そりゃ何よりだ」

チャポン……スッ……フー……キャッキャウフフ……

止 「くそっ……楽しんでやがる」 フーフー 「……熱い……」

月子 「………………」 ザバァ 「……トマル?」

止 「あん……?」 チラッ 「……身を乗り出すな。冷えるぞ」

月子 「代わるか?」




179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:51:09.85 ID:lyKPrDso
止 「ああ? バカヤロウ今お前裸だろうが」

月子 「構わん」

止 「そこは構えよ」 シッシ 「いいから、ちゃんと湯に浸かってろ」

月子 「むぅ……」 チャプン

止 「ここ最近、随分冷えるからな。しっかりと温まっておけよ……」

止 「――ってのは俺の言葉じゃなくて、天気予報のキャスターが言ってたんだけどな」

世話子 「止さん、それはいくらなんでも無理矢理すぎますよ」

止 「うるせぇ。さっさと温まってさっさと俺に風呂を空けろ」

世話子 「ツンデレさんもここまで来るといっそ清々しいというか何というか……」 ザバァ

止 「ああ?」 チラッ 「――って何でお前まで身を乗り出すんだよ!」 アタフタ

世話子 「――とか言いつつもガン見しているウブな止さんなのであった」 クスクス

止 「う、うるせぇ!」 プイッ 「覗いたら殺すとか言ったのはどこのどいつだよ!」

世話子 「これはいいんです。見せてるんですから」 チャポン

止 「………………」 (い、意外と大きかった……)

月子 「こら、はしたないぞ。『男女七歳にして席を同じとせず』 、だ」




181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:52:03.01 ID:lyKPrDso
世話子 「だ、男女死地祭……? 月子ちゃんは難しい言葉を知ってますねー」

月子 「日本人としての最低限の知識だ。これだから科学かぶれ共は……」

止 「……っつうかお前が言うなよ。さっきのこと忘れたとは言わせねぇぞ」

月子 「わっ、われはまだ六歳であるから良いのだっ」 カァァ……

止 「今さら照れるくらいならやんなきゃ良かっただろうに」

月子 「て、照れてなどおらぬっ! 自惚れるなおたんこなすっ!」

止 「おたんこなすて……」

月子 「ふ、不愉快だ! われはもう出る!」 ザブッ! ……ツルッ 「ふおっ!?」

止 「っ……!」 ダキッ 「……ったく、急に立ち上がるからだぞ。大丈夫か?」

月子 「……!? と……トマル!?」

止 「あん? っつーか、さっさと自分で立て。熱い」

月子 「だっ、誰が熱くなっておるか誰が!」 ドン!

止 「なっ……! (何だこの馬鹿力……!?)」 ドサッ 「痛ってぇ……」

月子 「ぶ、無礼者! 破廉恥男! 出歯亀男!」 タタタタタ……

世話子 「あっ、月子ちゃん!」 ザバァ……ピタッ 「………………」 ジッ




182 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:53:42.11 ID:lyKPrDso
止 「痛てててて……何なんだ、あいつ」 スリスリ 「……あん? んだよ、その目は」

世話子 「………………」 ボソッ 「……ロリコン」

止 「っ!? ちょっ、おいっ、何だその不名誉な称号は!」

世話子 「……そうですね。ちょっと違いましたかね」

世話子 「――アリコン。もしくはペドフィリア」

止 「グレードアップしてんぞおい!」

世話子 「滑って湯舟から転げかけた全裸の女の子を抱きとめるなんて……申し開きがあるんですか?」

止 「何故俺が責められているのか、真剣に分からないんだが……」

世話子 「冗談です」 ニッ 「……月子ちゃーん!」 トトトト……

止 「……ったく。何なんだよ」 (……つうか、今の尋常じゃない力は一体何だ?)

止 (……俺が油断してただけ、か?) スッ 「……まぁいい。風呂、入るか」




183 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:56:13.10 ID:lyKPrDso
………………リビング

止 「……へくしっ」 ズズ…… 「うへぇ……やっぱし余熱だけじゃ不十分だったか……」

止 「ったく、あの風呂も改善が必要だな……つっても、火の制御装置なんかつけたら月子が怒るだろうし……」

止 「……ってか、これから毎日、月子が風呂に入るたびに俺が火の維持をするのか」

止 「うへぇ……」

月子 「………………」 ジッ

止 「……?」 スッ 「月子?」

月子 「……!」 ビクッ

止 「どうかしたか?」

月子 「い、いや、その……あの、だな……」 スススッ

止 「ん……? ああ、あいつが買ってきたパジャマ、着たんだな。似合ってるじゃないか」

月子 「そ、そうか?」 パァァ 「……って違う! 褒められても嬉しくなどはないっ!」

止 「? なに一人で大立ち回りしてんだ?」

月子 「動揺などしてはおらぬ!」

止 「んなことは一言も言ってないわけだが……」




184 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 21:57:19.20 ID:lyKPrDso
月子 「う、うるさい! 少しは人の話を聞け!」

止 「話を遮った憶えはないんだが……」 カリカリ 「……ま、いい。何か話があるのか?」

月子 「いや……大したことではない」 コホン 「その……わざわざ風呂を作ってくれて、ありがとう」

止 「ああ……なんだ、そんなことかよ」 フゥ 「……そりゃどういたしまして」

月子 「うむ」 スッ 「……そ、それから……さっきはすまぬ。少し取り乱してしまった」

止 「構わねぇよ。六歳児に簡単に突き飛ばされた俺も俺だ……」

月子 「いや、それは……仕方がないことだろう」

止 「ああ?」

月子 「……われは……特殊、なのだ。だから、驚いて力の制御を誤ると、とてつもない膂力を発揮してしまう」

止 「……それも 『魔術』 ってことか?」

月子 「誤りではないが、正確ではないな」 スッ 「……われは、『神体(シンタイ)』 なのだ」

止 「『神体』 ?」

月子 「……うむ。だから先のように力を持てあましてしまうこともある」

月子 「すまぬが、そちらも気をつけてくれるとありがたい」

止 「……ああ」 (やはり説明する気はない、と……)




185 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:24:57.12 ID:lyKPrDso
………………自室

止 「………………」 (魔術……)

止 (学園都市の公式発表では、『ローマ正教独自の能力開発』 ということになっている……)

止 (月子はローマ正教の人間ではない。しかしあの珍妙な能力を魔術であると言った)

止 (科学……ではない? それはつまり、非科学……オカルト、ということか)

止 (都市伝説の類ではあるが、『原石』 という言葉は聞いたことがある)

止 (学園都市の能力開発と同じ刺激が脳に与えられることによって、自然と脳が開発された能力者……)

止 (言うなれば、俺たち人工のダイヤと比較すれば、天然のダイヤと言うべき存在……)

止 (……しかし、それもおそらくは科学の延長線上だろう)

止 (魔術師、魔導書、原典、霊装……意味の分からん単語ばかりだ)

――――――ドン!!

止 「――ッ……!?」 ザッ 「……な、何だ、今の衝撃は……?」

?? 『ひッ!?』

止 「この声……月子かッ!?」 ダッ




186 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:26:01.21 ID:lyKPrDso
月子 「ひっ……あ……」 ガクガク

止 「月子!!」 バァン!! 「どうかしたのか!?」

月子 「ひっ……!」 ビクッ 「と、トマルか。い、いや、べつに、何でもないのだ」 サッ

止 「……? お前、震えてるぞ?」

月子 「ふ、震えてなどおらぬ! み、妙なことを申すでない」

止 「それから、今、背中に何を隠した?」

月子 「!? べ、べつに何も隠してはおらぬ!」

止 「嘘をつけ嘘を」 スッ 「……何があった?」

月子 「なっ、何もないと言っているだろうが!」

?? 「へぇ? なら見せてもらってもいいよね? 手紙かな」

サッ

月子 「なっ……!? お、お前、いつの間に後ろに回った!」

世話子 「すみませんね。昔スリ業を嗜んでいたもので」 ニコッ 「こういったことはお手の物なの」

月子 「か、返せ!」 ピョンピョン

世話子 「いやだよ」 ヒョイッ 「なになに……?」




187 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:26:57.66 ID:lyKPrDso
世話子 「………………」 スッ 「……月子ちゃん?」

月子 「っ……な、何も申すでない!」

止 「……何と書いてあったんだ?」

月子 「と、トマル!!」

世話子 「……これは脅迫状、ですかね」

止 「……脅迫状、だと?」

世話子 「『明後日、午前零時、御身と 『剣』 を貰い受けに参ります』」

止 「………………」 ジッ 「……月子、どういうことだ?」

月子 「お、お前たちには関係ないことだ!」

世話子 「これ、墨で書かれてますね。この部屋にはそんなものはないし……月子ちゃんが書いたものではないですね」

止 「……それはつまり、その脅迫状は、月子に向けてのもの、ということだな?」

月子 「だっ、だからお前たちには関係のない――」

止 「――悪いな。もう無関係じゃなくなった」

月子 「――!? な、何だと……?」

止 「『ボックス』 は馴れ合いのチームでな」 フッ 「仲間の危機は見逃せないんだよ」




188 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:28:05.76 ID:lyKPrDso
月子 「な……い、一体何を……」 カァァ 「な、仲間だと……?」

止 「そうだ。お前がどこで何をしようと、ここから出て行こうが自由だが、それでもそれだけは許さない」

止 「――脅迫状を手に一人震えているなんて、そんなことだけは絶対に許さない」

月子 「トマル、お前……」

止 「答えろ、月子。その脅迫状は一体何だ?」

月子 「………………」 スッ 「……われの身体を……力を欲する者からの、脅迫文だ」

月子 「たった今、届いた……」

世話子 「今って……どうやって? 窓は閉まってますよ?」

月子 「これだ……」 スッ

止 「……? 何だそりゃ? 矢のミニチュア……?」

月子 「『矢文』 の術式に必要な略式霊装だ。機密性の低い知らせを放つ時に用いる」 スッ

月子 「――などと言っても分からんだろう。おい、その手紙を返せ」

世話子 「へっ? あ……うん」 スッ

月子 「特殊な手順を踏んで書いた手紙を、このようにこの霊装にくくりつけ、胸の内で文言を捧げれば、」 スッ……ブゥン!

止 「なッ……!?」 ――トン (矢のミニチュアが、一瞬で俺の手の上に移動した……!?)




189 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:30:30.24 ID:lyKPrDso
世話子 「い、今の! 『空間移動』 系の能力ですか!?」

月子 「科学の超能力などと一緒にするな。魔術のひとつだ」

月子 「そう驚くものではない。われが正式な手順を踏んで作った矢文なら、軽く何十きろめーとると飛ばすも容易い」

月子 「こんな偽物のような代物では、大した距離は飛ばせんだろうがな」

止 「……これも魔術、か」 スッ 「……ただのミニチュアと手紙にしか見えないがな」

月子 「己で 『神力』 を精製することもできないただの人間の身にあれば当然のことだろう」

止 「神力……?」

月子 「ふむ……西洋かぶれも甚だしいな。嘆かわしいことだ」

月子 「魔力、とでも言った方が、お前たちには聞こえがいいのだろうか」

世話子 「ま、魔力……?」 アセアセ 「ちょっと待ってくださいよ! 話に全然ついていけないんですけど……」

月子 「……ふむ」 スッ 「……どうする? 聞くか? われの話を」

月子 「聞けばおそらく、お前たち科学の子は、聞かぬ方が良かったと嘆くことになるぞ?」

止 「………………」 フッ 「……悪いな。聞かせてもらおう」

止 「お前が話したくないのなら聞く必要はないと思っていたが、こうなってはもうダメだ」

止 「――仲間が脅迫状を受け取った……なら、きちんとそれに対処するために、情報を集めなければならないからな」

月子 「………………」 コクン 「……分かった」




190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:33:16.40 ID:lyKPrDso
………………リビング

止 「……では改めて聞こう。『魔術』 とはなんだ?」

世話子 「……あのー、何でいきなりそんなコアっぽい話題なんですか?」

止 「お前は黙ってろ」

世話子 「うぅ……」

月子 「………………」 コクン 「『魔術』 とは、言うなれば科学と根本を違える法則だ」

止 「法則……?」

月子 「魔術は便利な魔法ではない。そうだな……このような言い方は癪だが仕方あるまい」

月子 「――貴様らが信じる科学を自然科学と定義するのなら、魔術は魔術科学とでも言うべきであろうな」

止 「……もはや訳が分からねぇな」

月子 「われが言わんとしているのは、自然科学にはその法則があるように、魔術にも法則があるということだ」

月子 「そしてその法則は、お前たち 『才能ある者』 たちに対抗するために生み出された」

止 「……? 『才能ある者』 ……?」 ギリッ 「……それはまさか、『能力』 のことか?」

月子 「その通りだ。まぁ、一概にそうとは言えんかもしれんがな、少なくともわれはそう教えられた」

月子 「魔術とは、『才能なき者』 が、それでも 『才能ある者』 と同じことをするために生み出された法則だ」




191 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:34:28.20 ID:lyKPrDso
止 「…… 『才能ある者』 と同じことをするために生み出された法則……か」

止 「ふん……随分な言い様だな。まるで俺たち能力者が才能に寄るところが多いような言い方だ」

月子 「事実、そうであろう?」 フッ 「……学園都市の能力開発とやらは、脳の仕組みを外的作用によって変えると聞いた」

月子 「その一連の作業を、お前は努力で埋められると思うのか?」

止 「っ……それは……」

月子 「お前たち能力者のその脳の仕組み……それを我々は 『才能』 と呼ぶのだ」

月子 「……まぁ、原義としては、もちろんお前たちのような科学によって生み出された存在のことを指すのではなく、」

月子 「本当に天然の、自然に生まれた 『超能力者』 のことを 『才能ある者』 と言っていたのだろうがな」

月子 「そもそもの前提として、先ほど言ったとおり、 『魔術』 はお前たちの自然科学では計れない」

月子 「魔術はべつに特別なことではない。この世界の根幹には魔術が介在しているし、」 サッ

月子 「そもそも我々が生きているという事実……この生命そのものが魔術的要素を多分に含んでいる」

止 「……お前、人が何で出来ているか知っているか?」

月子 「十字教のとある聖人の言葉を借りれば、肉体と魂と聖霊によって成っているらしいが」

止 「……バカらしい。細かな成分は覚えてはいないが、基本的には炭素と水素と窒素と酸素だ」

止 「それらを主要素として、様々な分子が構成され、それを軸とした物質があり、その上に細胞等の諸要素が成り立っている」




192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:35:50.54 ID:lyKPrDso
月子 「ふん……それは科学の言い分だな。それもたしかに真理であり、正しいのであろうと認めよう」

月子 「しかしな、ならば科学で説明のつかない要素についてはどう説明する?」

月子 「まさかすべて科学で割り切れるなどとは言うまいな?」

月子 「脳という身体器官の全てが科学的に解明されているのか?」

月子 「お前たちが言うところの “おかると” が介在する余地は本当に存在しないのか?」

止 「それは……当然、まだ科学が解明していないことも多いが……」

月子 「それに、先の 『矢文』 や 『因幡之白兎』 についてはどう説明する?」

月子 「よもやこの期に及んで能力などと言うのではあるまいな?」

世話子 「因幡の白兎……? 何です、それ?」

止 「………………」 スッ 「……これだよ」

世話子 「? 止さんの傷口……?」 ハッ 「……あれ? こんなに綺麗に塞がってましたっけ?」

止 「俺も驚いたさ。あいつにちょっとしたおまじないみたいなことをしてもらっただけで、」

止 「その場で違和感が消えただけじゃなく、日ごとに傷口が完全に塞がり始めたんだからな」

月子 「そのまじないが 『因幡之素兎』 だ。基本的な魔術のひとつである」

月子 「……まぁ、魔術を信じるか信じないかはお前たち次第だ」




193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:36:59.42 ID:lyKPrDso
世話子 「今さら信じないなんて言わないよ。月子ちゃんが嘘ついたって仕方ないもん」 ニコッ 「ねっ、止さん」

止 「……まぁ、嘘をつく意味がないからな」

月子 「お前たち……」

世話子 「それにしても、さっきの 『矢文』 といい、便利なんですね、魔術って」

月子 「そんなことはない。もし魔術が本当に便利で万能な代物であれば、科学はここまでの進歩を遂げなかっただろう」

月子 「われらから見れば、科学の方がよほど便利で効率的だ。その効率性を是とするかはまた別だがな」

世話子 「そんなことないよ」 フルフル 「……私は特に、無能力者だから余計に憧れちゃうな」

止 「………………」

世話子 「『空間移動』 能力に 『肉体再生』 能力……」

世話子 「能力開発を受けもせずに、都市伝説の 『多重能力』 みたいなことができるなんて……」

世話子 「……ね、ねえねえ、月子ちゃんっ」

月子 「む?」

世話子 「その魔術って、私にも使えるのかな?」 ワクワク

止 「……お前なぁ」 ジトッ

世話子 「大能力者の止さんは黙っててくださいっ」 ワクワク

月子 「ふむ……端的に言ってしまえば、使えない」




194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:38:16.92 ID:lyKPrDso
世話子 「………………」 シュン 「……そうですか……」

月子 「そもそも魔術とはある一定の信仰の元に、異世界の法則をこの世界に下ろすことにある」

月子 「信仰心のないものが魔術を行使すれば、最悪脳髄が弾け飛ぶ」

世話子 「えっ……!」 ビクッ

止 「……だが、それなら今からコイツが仏門にでも入ればいいわけだろ?」

月子 「お前は黙っていろたわけが。神道と仏教の違いも分からんのか」

止 「………………」

世話子 「でも、たしかにその通りですよね」 ワクワク 「私、能力者になれるんなら、神さまも信じますよ」

月子 「なんと不純な……」 ハァ 「……しかし、たとえお前が敬虔なカミの信奉者であったとしても不可能だ」

世話子 「な、なんでですか!? もしかして、才能がないとか……?」

月子 「その逆だ。“才能があるから” ダメなのだ」

世話子 「……? どういうことです?」

月子 「先も言ったであろう? 魔術とは才能なき者が、それでも才能ある者と同じことをするために生み出されたと」

世話子 「……それじゃあ、もしかして、私が能力者だから……?」

世話子 「だから、魔術を使うことができないんですか?」

月子 「………………」 コクン 「……そういうことになる」




195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:46:12.54 ID:lyKPrDso
月子 「魔術は普通の人間にしか扱うことが出来ぬのだ。だから能力開発を受けたお前には使うことが出来ない」

月子 「もしお前がそれでも強引に魔術を行使しようとすれば……拒絶反応が起こり、最悪、身体が弾け飛ぶ」

世話子 「そんなぁ……」

止 「……世話子は何の能力も使えない無能力者だ。それでも無理なのか?」

月子 「能力が使えるか否かは問題ではない。脳髄の回路が一般人と変わってしまっていることが問題なのだ」

月子 「まぁ、能力の “れべる” とやらが高い方が、魔術を行使したときのダメージはより大きいかもしれんがな」

止 「……と、いうことらしい。残念だったな、世話子」

世話子 「うぅ……」 ガクッ 「才能を得たために、才能のない人のためのものが使えないなんて皮肉です……」

止 「………………」

月子 「……話を戻そう」 スッ 「お前たちも知ってのとおり、魔術とは我々神道を信じる者だけが使えるわけではない」

止 「ローマ正教も、っていうことか?」

月子 「ローマ正教だけではない。イギリス清教には 『必要悪の教会』、そしてロシア成教には 『殲滅白書』 もある」

月子 「正しくは、十字教の人間も、というべきであろうな」

月子 「もちろんのこと、教会深部に携わる人間しか魔術の存在など知らぬであろうがな」




196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:47:22.32 ID:lyKPrDso
世話子 「なるほど。そのローマ正教の魔術を使える人っていうのが、この前学園都市に攻めてきたってことだね?」

月子 「そうなのであろうな。この科学の街にそれなりの深手を与えたのだ。並の魔術師ではないだろう」

月子 「教皇並か……それ以上の魔術師が来たと見てまず間違いないだろう」

止 「………………」 (0930では、かなり大規模な被害が出たと聞く)

止 (超能力者――レベル5と同等か、それ以上の奴らがやって来たと考えるべきか)

―― 『それに……今、私結構苛ついてるから……ヘタするとあんたたちも巻き込んじゃうわよ?』

―― 『イイなァイイなァイイなァ!!! イイ顔してるぜオマエ!!!』

―― 『……くだらない真似をしてんじゃないわよッッ!!! 死ねッッッ!!』

止 「くそったれ……魔術師ってのはあんなバケモノばっかなのかよ……」

月子 「化け物、か……」 フッ

月子 「安心しろ。そんな強大な力を持つ魔術師などごく一部だけだ。大多数が基本的な術式を使うだけで手一杯だろう」

月子 「……それに、真に化け物といわれるべきは、われの方であろうしな……」

止 「……?」




197 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:48:24.20 ID:lyKPrDso
月子 「……トマル、世話子、われは、お前たちにひとつ謝らねばならぬことがある」

世話子 「謝る? 一体何を?」

月子 「われは、本当は月子などという名ではない」

月子 「否。元々からして、われは名前など持ってはいないのだ」

止 「名前を持っていない……?」

月子 「われはとある血筋の直系の子。とある神社の一人娘である」

月子 「神社と言えど、お前たちが想像するような生やさしいものではない」

月子 「今も宗教として息づく、本物の神社だ」

月子 「カミの声を聞き、供物を捧げ、祭祀を執り行い、大地に祝福を捧げ、天に豊穣を乞う……」

月子 「一つ一つの行いに魔術的意味を伴う、本物の宗教だ」

月子 「そこでは神社の娘として生まれたわれは、ヒトではなかった」

月子 「巫女という役職そのもの……言わば、われは巫女という “モノ” だった」

月子 「そんな存在にヒトとしての名など不要であろ?」

月子 「魔術とは科学という光の陰に隠された暗闇だ。われが人間である意味などなかったのだ」

止 「………………」

月子 「……名こそなかったが、われには生まれた時からひとつの呼称があった。それを改めて名乗ろう」

月子 「――われは、『月詠之巫女』(ツキヨミノミコ) 。『夜統ベル神』(ヨスベルカミ) と同様の器を持つ、『神体』 だ」




198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:50:31.60 ID:lyKPrDso
止 「『月詠之巫女』 ……? なるほどな。それを俺は “つきこ” と聞き間違えたわけか」

世話子 「それで、その 『月詠之巫女』 というのは一体……」

月子 「それを説明する前に、『神体』 について実感をしてもらおう」

月子 「トマル。手を出せ」

止 「? ああ……」 スッ 「何をするっていうんだ?」

月子 「なに、簡単なことだ。腕相撲で勝負をしろ」

止 「あん? 腕相撲だと? 誰と?」

月子 「われ以外に誰がいる。ほれ、結果など見えているのだから、手早く済ませるぞ」 スッ

止 「あ、ああ……」 (そりゃまぁ、六歳児と十五歳とじゃ結果なんか見えてるだろうさ)

月子 「む……」 ギロッ 「お前、手を抜くつもりであろう。くだらぬことをするな。全力で来い」




199 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:51:49.28 ID:lyKPrDso
止 (ガキ相手にそんなことできるわけねぇだろうが)

グッ……

月子 「正式な競技ではない。遠慮はいらぬぞ。そのままわれの手を机の上にたたきつけてみるといい」

止 (しゃあねぇな。軽く……) ググッ 「……?」

止 「っ……、お……!」 (お、おいおい……冗談だろ?)

止 (何だこれ……まるで金属を素手で潰そうとしてるような感覚だ。ビクともしねぇ……!)

ニタリ

月子 「なんだ、トマル? よもやこれで本気とは言うまいな?」

止 「っ、上等、だ……!」 グググッ……!

月子 「弱いわ、たわけ」 グッ……――

――ッダン!!

止 「ッ……!?」 (ま、まさか……負けた、だと?)

世話子 「えっ? えっ? ……えええっ!?」 アタフタ 「な、何で負けてるんですか止さん!?」

世話子 「も、もしかして今の、トマルさんの渾身の演技、とか?」

月子 「ふん。そうであれば大した役者であると思うがな」




200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:53:39.56 ID:lyKPrDso
止 「………………」 グーパー 「………………」

月子 「まぁそうショックを受けるものではない。お前は力に秀でるという身体でもないであろう。詮無いことだ」

止 「……たしかに俺は力に優れているわけじゃない」

止 「だが身体の構造的に、俺がお前くらいの歳の子どもに負けるはずがないんだよ」

止 「……物理的にありえないことなんだ」

月子 「そういうことだ。科学の生物学や力学などでは計れぬ力が、われの身体には内包されている」

月子 「そしてそれこそが 『神体』 ……カミに似た身体の構造を持つ者なのだ」

月子 「十字教における 『聖人』 とほぼ同位の存在……といってもお前たちには分からぬか」

月子 「普段はこの圧倒的な膂力を使わぬよう気をつけているがな」

月子 「認めたくはないがわれはまだ幼い。制御を誤ってしまうこともある」

月子 「さっきお前を突き飛ばしてしまった時も、本来の膂力を少しばかり解放してしまったのだ」

止 「……カミサマに似た身体の構造を持つ、か」 フン 「なら、十字教の教会にでも行けばちやほやされるんじゃないか?」

月子 「これだから科学かぶれどもは……」 ハァ 「十字教の神とわれら日本神道のカミは全くの別物だ」

月子 「よもや一神教と多神教の違いから説明せねばならぬとは言うまいな?」

世話子 「止さん……さすがに今の発言はないわー、です」

止 「………………」

月子 「……まぁ、日本神道は厳密には多神教とは違うのだが、まぁそんな事情をお前たちに説明しも詮方ない」




201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 22:55:01.90 ID:lyKPrDso
止 (……とにかく、物理的にあり得ないことがあり得てしまったことだけは揺るぎない事実)

止 「なるほどな。これで俺はもうお前の言葉を信じるしかなくなったわけだ」

月子 「そういうことだ。われの言葉を否定したくば、まずわれに力比べで勝ってからにするのだな」

止 「けっ……元々否定する要素なんか何一つないんだ。要は俺たちが頷くか頷かないかだろうが」

止 「魔術なんて存在を知っちまったんだ。今さらカミサマの身体云々で驚く気はねぇよ」

止 「……少なくとも、俺はお前の言葉を今さら疑う気はない」

世話子 「ま、止さんはそもそもの基礎知識がまるで足りてませんしね」 クスクス

止 「うるせぇな。俺は理系なんだよ」

世話子 「ふふ……。月子ちゃん、私も月子ちゃんの言葉を疑うつもりはないよ」

世話子 「だから続けて」 ニコッ

月子 「……うむ」




202 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:00:54.79 ID:lyKPrDso
月子 「……お前たちは 『夜統ベル神』 と聞いて分かるだろうか」

止 (全然分からねぇ……)

世話子 「えっと……たしか、日本神話の偉い神さまで、夜を統治しているんだっけ」

月子 「大まかには合っている。『遍照ラス神』(アマネクテラスカミ) や 『霊荒ラグ神』(タマアララグカミ) と兄弟にあたる神だ」

止 (勘弁しろよ……またカミサマとやらが増えやがった……)

世話子 「ああ、その二人の神さまは知ってるよ。一番偉い神さまと、乱暴な神さまだよね」

月子 「まぁ一般的にはその見解で間違いではないが……」

月子 「『遍照ラス神』 を最高神と主張しているのは、伊勢の連中と一般大衆だけだ」

月子 「関東圏では 『霊荒ラグ神』 の勢力の方が強い場合の方が多い」

月子 「それに、カミが司る性質上、乱暴と一括りにしてしまうのは納得がいかんな」

月子 「それからもう一つ、細かいことではあるが、カミの単位は “人” ではなく “柱 ” だ」

止 (一体何を話してるのかさっぱり分からん)

月子 「……とまぁ、そんな説明をしても致し方ないな」

月子 「とにかく、そんなものだ。止は、『夜統ベル神』 とは偉いカミであることと、」

月子 「われがそのカミと似た身体の構造をしていること、この二つを理解すればよい」

止 (そこはかとなくバカにされている?)




203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:03:26.26 ID:lyKPrDso
月子 「『神体』 はもちろんのこと、日本民族の血を引く者にしか発現しない希有な特質だ」

月子 「われの他に、恐らくは二人といないだろう」

月子 「『夜統ベル神』 のような高位のカミの 『神体』 に至っては、われだけであろうな」

月子 「われは世界でただひとりの貴重な存在……そう言っても過言ではないだろう」

月子 「そしてわれは、だからこそ “これ” を管理することができる」 スッ

止 「……? お前がいつも持ち歩いている竹刀入れか」

月子 「うむ。本当ならわれが持ち歩く必要などはないのだが、万一にもお前たちが触ってはまずいのでな」

スッ……スルスル……

――――ゾワッ!!

止 「ッ……!?」 (なっ……!? 何だ……この禍々しい気配は……!?)

――――――ヒタッ

止 (いや、そんなことよりも……何なんだ、この胸の圧迫感は……!)

――――――――ヒタッ

止 (月子が竹刀入れの紐を解くたびに憶える、この圧倒的な危機感は……!)

―――――――――――ヒタッ

止 (何か……凶悪で禍々しいものが、迫ってくる……ッ)




204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:05:54.92 ID:lyKPrDso
世話子 「? どうしたんですか、止さん。顔色が悪いですよ?」

止 「お、お前は何も感じないのか?」

世話子 「へ……? 何がですか?」

月子 「………………」 フム 「……どういうわけか、止は魔術的な気配に敏感なようだな」

――スルスル……

止 「ッア……!!」 ビグッ 「――やめろそれ以上その紐を解くな!!」

世話子 「わっ! ど、どうしたんですか止さん?」

――……ピタッ

月子 「冗談だ。本気にするな」 ニッ 「こんな場所でこれの封印を解きはしない」

月子 「……止にはもう分かったようだな。これがどういう代物なのか」

止 「何だ……? 何なんだよ、これは……」 ヘタリ 「竹刀入れが開くと思った瞬間、死を覚悟させられた……」 ゼェゼェ

止 「頼む、月子……早くその “剣” をしまってくれ」

世話子 「剣……?」

止 「ん? ――!?」 ゾッ 「……何で俺は、それの中身が剣だと……?」

月子 「分かったのではない。感じたのだろう。確かにこれの中身は 『剣』 であるからな」

月子 「止はやはり魔術的な感性に秀でているようだ。この中身を本能的に感じ取ったのだろう」 スルスル……

世話子 「……?」 スッ 「大丈夫ですか? 止さん」

止 「ああ……悪い。大丈夫だ」




205 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:07:33.68 ID:lyKPrDso
止 (くそったれ……) ブルブル (震えが止まらねぇ……ちくしょう)

月子 「この剣はわれが生まれた神社の御神体だ。とてつもない毒素を持っている」

月子 「トマルが恐れるのも無理ない話だ。それはもはや、人間の生物としての本能なのだろう」

世話子 「御神体って……そんなもの持ち歩いちゃっていいの?」

月子 「………………」

世話子 「月子ちゃん……?」

月子 「……致し方、あるまい」 フッ 「われの神社は……数日前になくなってしまったのだからな」

世話子 「へっ……? なくなった?」

止 「………………」

月子 「……滅ぼされたのだ。『神体』 であるわれとこの御神体を求める、俗物どもに……ッ!」

月子 「……だからわれはただ一人、この御神体だけを持って、着の身着のままこの学園都市へと逃げ延びた」

月子 「科学に頼るしか、われに逃げ延びる先はなかったのだ」

月子 「父も、母も、神社の要職どもも……誰一人残らず殺されたであろうに、われだけがおめおめと生き残っている」

世話子 「月子ちゃん……」




206 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:10:03.30 ID:lyKPrDso
止 「……さっきの脅迫状は、そいつらから送られてきたってことだな」

止 「そいつらは何者だ?」

世話子 「と、止さん! そんな急かさなくたって――」

月子 「構わぬよ。辛いからと言って黙ってはおれぬ」 スッ 「お前は優しいな、世話子。それからトマルも」

世話子 「月子ちゃん……」

止 「……けっ」

月子 「……日本神道系魔術結社の一つ、『神生ミヲ現ス士』(カミウミヲアラワスヒト) だ」

止 「『神生ミヲ現ス士』 ……? 魔術結社ってのは、魔術師の集団ってことでいいのか?」

月子 「ああ。そういう認識で良い」

月子 「かくいうわれも 『必要悪の教会』 に言わせれば、神社という魔術結社の一員となるのだろうがな」

月子 「魔術を人の役に立てようとする結社や、ただ魔術を極めるためだけに存在する結社もある」

月子 「しかしそんな中で、危険な思想を持った魔術結社もある。『神生ミヲ現ス士』 も、その一つだ」

月子 「その存在理由はただ一つ。その名の表わす通り 『神生ミ』(カミウミ) を実行することにある」

止 「『神生ミ』 ……?」

月子 「その名のままだ。連中の目的は、カミを生むことにある」

月子 「そしてその素体となるのが強大な 『神体』 であるわれ……だから連中はわれを欲し、神社を襲った」




207 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:12:25.20 ID:lyKPrDso
止 「カミサマを生む、か……随分と大仰なことだな」

月子 「そう思うのも無理はないだろうな。われら魔術師からしてもそれは驚くべきことだ」

月子 「お前たちに分かるように言うならば、われは強大な軍事力の卵のようなものなのだ」

月子 「それこそ、軍事国家が強力な兵器を欲するように、戦力を求める魔術結社はわれという軍事力を求める」

世話子 「……月子ちゃんがそんなに危ないものには見えないけど」

月子 「見た目で判断すればそうであろうな。そして、今まで見せてきた要素だけではそれもやむなしか」

止 「……ふん。そんなことはどうでもいいさ。重要なのは、その危険な連中がお前を求めていることだろう」

止 「そして脅迫文によれば、明後日、そいつらがお前を攫いにやって来るということ……」

止 「それだけ分かれば十分だ。それだけで、俺が何をすべきなのかが自ずと分かるからな」

止 「……辛いことを思い出させて悪かったな」 ポン




208 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:13:45.88 ID:lyKPrDso
月子 「トマル……」

ブルッ……

――――ヒトリ、ボッチ

月子 「うぅ……あっ……」

――――トーサマ、シンダ  カーサマ、シンダ  ミンナ、シンダ

月子 「ああああああ……ああああっ……」

――……ガタガタガタ……

世話子 「月子ちゃん……」

月子 「………………」 ハッ 「たっ……たわけがっ。だからわれはそのような名では――」

――ギュッ

世話子 「関係ないよ。私にとって、あなたは月子ちゃん。それ以外でもなんでもない。大切な、女の子」

月子 「世話子……」

止 「……ま、そもそもからして 『ボックス』 は誰も彼も本名なんてなかった。俺も、あいつらもな」

止 「俺たちにとってはお前は “月子” だよ」 フッ 「お前にとって、俺が “トマル” であるようにな」

月子 「トマル……っ……お前たち……」

世話子 「強いんだね、月子ちゃんは。今までずっと、泣くのを我慢してたんだね。偉いよ」

世話子 「でもね、もう我慢しなくて良いんだよ。今だけは、強がらなくていいんだよ」

世話子 「我慢しなくていいの。震えてもいいの。泣いてもいいの。今は、私たちがついてるから」

月子 「世話子……っ」 ジワッ…… 「うぅ…………あっ……ああああああああああああ――――――――!」

ギュッ……ツー――ポタッ……ポタッ……




209 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:17:21.79 ID:lyKPrDso
………………

月子 「………………」 プイッ 「……恥ずかしいところを見せた。すまぬ」

世話子 「べつにいいよ」 ニコニコ ナデナデ

月子 「いっ、いつまでも撫で撫でしているでない!」

止 「………………」 (この脅迫状からして、連中の目的は月子と月子の持つあの御神体……)

止 (けっ……ガキを守りながら戦うってのは俺のセオリーなのかね)

止 (いや、そもそも暗部に落ちるきっかけは、ガキを殺そうとしたことだったな)

フッ

止 (皮肉なモンだ……まさかただの学生だったあの頃より、暗部に落ちた今の方が真っ当なことをしてるなんてな)

止 (いや、真っ当とはいえねぇか。やることは人殺し。それは変わらないんだからな)

止 (アイツらなら……ヒーローなら、こんなクソッタレなことをせずに、月子を守るんだろうがな)

止 (……くだらない。俺はヒーローにはなれない。だから人殺しになるって決めたんだろうが)

止 (今さら迷うな。俺は守るために “戦う” んじゃない。守るために “殺す” んだ)

世話子 「………………」

止 「……とはいえ明後日の午前零時……約24時間後か。そう時間はねぇな」

月子 「……?」

世話子 「そうですね。迎え撃つ準備にしたって、大したことはできません」

月子 「っ!? お、お前達、一体何を申している!」

止 「あん? どうかしたか?」

月子 「どうかしたか、ではない! お前達は、まさか……まさか、戦おうと言うのか?」




210 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:27:28.73 ID:lyKPrDso
止 「何を今さらなことを言ってやがる。戦わずに済むならそうするさ

止 「だが、相手はお前を奪うために神社を一つ潰すような集団だ。それは無理だろう」

止 「――だったら戦うさ。迷う余地なんかこれっぽっちもないだろうが」

月子 「怖くは、ないのか? お前達が戦おうとしている相手は魔術師……お前達科学の常識が通用せぬ相手なのだぞ?」

止 「怖くないのか、か。それもまたナンセンスな質問だな」 フッ

止 「生憎と俺は臆病者でな。これから殺し合いをしようって時は、相手が誰だろうと関係なく怖いんだよ」

止 「科学だ魔術だ、そんなことを考える前に、怖いよ。当たり前だろ」

月子 「トマル……」

世話子 「安心して、月子ちゃん」 ニコッ 「口ではあんなこと言ってるけど、いざ戦うとなったら止さんは本当に頼もしいひとだから」

世話子 「止さんは大能力者の、通称『通行止め』 なんだから」

世話子 「絶対に月子ちゃんを守ってくれるよ」 ギュッ 「……もちろん、私も、がんばるから」

月子 「お前達……馬鹿者……馬鹿者……っ」 ギュッ

止 「………………」 フッ (……さて、)

止 (例のボストンバッグの中身だけでも完全にしておかなければ。……くくっ、まさか初の運用が未知の相手との実戦とはな)

止 (いや……その前に俺にはすることがあったな)




211 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:28:58.10 ID:lyKPrDso
prrrrrr……ガチャッ

止 「やっと出やがったか。二日ぶりだなクソ野郎」

?? 『ああ、通行止め。お久しぶりですね』 フッ 『私が休んでいる間、貴方もしっかりと休息を取れましたか?』

止 「後付けでもっともらしいこと言ってんじゃねぇよ。擦り潰すぞ」

?? 『はは、それは怖い』 クスクス 『それで、そろそろあの巫女さんと馴れ合い始めた頃合いですかね?』

止 「生憎だったな。とっくのとうに馴れ合っている」

?? 『ふふ、流石ですね。これで貴方はまた一つ大事なものを増やしてしまった、と』

止 「背負ってやるさ。全部含めて。お前たちクソ野郎から守り抜いてやるさ」

?? 『それはそれは、頑張ってください。微力ながら応援させてもらいましょう』

?? 『それで、用件はなんです? 貴方は私との歓談を楽しみたいというほど酔狂な方ではないでしょう?』

止 「……一応、上層部の意向を聞いておこうと思ってな」

?? 『上層部の意向?』

止 「とぼけるな。月子を 『ボックス』 の正規要員に仕立てたのはお前たちだろう」

止 「魔術とかいうものと俺たちを接触させるんだ。お前たちにも何らかの思惑があるんだろう?」

?? 『まぁ、それはそうですよね。でも、それを貴方に素直に教えると思います? この私が』




212 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:31:10.08 ID:lyKPrDso
止 「……つまり、俺が月子を奪いにくる連中をぶち殺したとしても文句は言わないってことだな?」

?? 『おやおや血気盛んですね。ええ、構いませんよ。むしろそうしてくれるとこちらとしても助かりますし』

止 「嘘をつくな。ならば俺じゃなくもっと確実な連中に対処をさせるはずだ」

止 「そうしないということは、お前たちにとって俺が敗北しようが勝利しようが関係ないということだろうが」

?? 『……はは、これは参りましたね。これ以上貴方と話していると余計なことまで話してしまいそうだ』

?? 『ただ一言だけ申し添えておきますと、貴方の勝利を望んでいるのは本当ですよ?』

止 「……何だと?」

?? 『もちろんのこと、学園都市に対してのダメージは、貴方が敗北しようが勝利しようがどちらにしろゼロです』

?? 『……まぁ、個人的な話とだけ言っておきましょうか。私は貴方に是非とも勝ってもらいたいんですよ』

止 「………………」 フッ 「……ずいぶんと気色の悪いことを言うじゃないか。頭でも打ったか?」

?? 『ご安心を。こちらにはこちらの打算がありますので。残念ながら私はそちらの馴れ合いには入れないでしょうし』

止 「入りたくもないくせによくもまぁぬけぬけと言えたもんだ」

?? 『さてどうでしょうね』 クスッ 『こちらも色々とガタが来ていましてね。積極的に外に敵を作りたくはないのですよ』

止 「どの口がそれを言ってやがる」

?? 『ローマ正教のこともありますが、貴方もご存知の通り、学園都市上層部は敵が多いですからね』

?? 『それに加えて日本神道の魔術結社とも正面切って争い事をする元気はないんですよ』




213 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:34:21.28 ID:lyKPrDso
止 「……早い話が、学園都市上層部としては月子を守る意向はないということか?」

?? 『そうなります。魔術的に強い意味を持つ少女……魅力がないと言えば嘘になりますが、』

?? 『魔術結社と事を構えてまで保護したいと思うほど、学園都市上層部は物好きではありませんから』

?? 『ですので、貴方には 『ボックス』 単体として戦ってもらいます。上層部の力添えは期待しないでください』

止 「……けっ、ハナからそんなモンを期待しちゃいねぇよ。くだらねぇ」

止 「学園都市としては月子を守る気はない。俺たち 『ボックス』 が独断で守ろうとしているだけ……か」

止 「そういうことにしておけば、魔術結社に対して対立の意志はないと言えるってことだな」

?? 『さすが、察しがよくて助かるやら困るやら』

止 「……上等だ。その魔術結社とやら、俺が返り討ちにしてやるよ」

?? 『それはそれは、大変頼もしいことですね』

?? 『そんな貴方に一つだけ耳寄りな情報を。現在、上層部と魔術結社との間にいくつかの条項で密約が交わされます』

?? 『その内のひとつに、巫女を回収しに来る魔術師はひとりまで、という取り決めがあります』

?? 『つまり、貴方はその魔術師ひとりを撃退すれば、巫女を守ることができるということです』

止 「……ふん。学園都市の治安を脅かす可能性があるから、とでも理由をつけたのか」

?? 『そういうことです。実際、何人もの魔術師を学園都市に入れるのはリスクが高すぎますからね』

止 「分かった。その魔術師を叩き潰す。それでいいんだな?」

?? 『ええ。期待しています』

止 (どの口が言ってやがる……)




214 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:37:13.62 ID:lyKPrDso
止 「……もう一つだけ、個人的に尋ねたいことがある」

?? 『おや珍しい。一体なんです?』

止 「俺には、月子にそこまでの価値があるとはとても思えない」

止 「たかだか、超能力以外の不思議な力が使える、少し膂力の強いガキ……って程度だろう」

止 「……そんなものを、わざわざ学園都市の中にまで取りに来るというのはあまりにもリスクが高いだろう」

止 「月子に本当にそこまでするほどの価値があるのか?」

?? 『おかしなことを聞かれますね。そんなことを私に聞かれましても困ります』

?? 『私はべつに魔術のエキスパートというわけではありませんし、裏事情に精通しているというわけでもありません』

?? 『ただ一つだけ指摘できるとしたら……』 クスッ 『貴方のその認識は、色々と誤っているかもしれないということだけです』

止 「なんだと?」

?? 『貴方は少し魔術というものを甘く見てはいませんか?』

?? 『とてつもない存在であるという話を聞いて、しかしそれを本心からは信じられていない』

?? 『私にはどうにも、そう思えてなりませんが』

止 「……なるほどな。たしかにそうかもしれん。俺はまだ、月子の全てを知っているわけではないしな」

?? 『そういうことです。未知数の相手なのですから、警戒してし過ぎることはないでしょう』




215 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:38:01.26 ID:lyKPrDso
?? 『特に、貴方は低レベル能力者との戦闘ではほぼ無敵なことから、少し慢心がありませんか?』

止 「あん? べつに驕ったつもりはねぇぞ」

?? 『―― “能力殺し(AIMキラー)”』

止 「“能力殺し” ? 何だそれは?」

?? 『やはりご存知ではありませんでしたか。貴方、アングラなサイトなどで都市伝説になってますよ?』

?? 『何でも、その近くにいると勝手に能力が暴走し始める能力者、だとか』 クスクス

止 「っ……どっかのクズが、暗部のくせに情報を漏らしやがったな」

?? 『まぁ実害はありませんよ。むしろサイトでは 『幻想殺し』 などと肩を並べてるのですから誇るべきでは?』

止 「『幻想殺し』 ? 何だそれは?」

?? 『くく……何でもありません。忘れてください』

クスクス

?? 『――それでは頼みましたよ、“能力殺し” ―― 『通行止め』』




216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:40:52.62 ID:lyKPrDso
………………

止 (………………)

止 (今の口ぶりからすると、学園都市上層部にとって、月子は本当にどうでもいい存在なんだろう)

止 (“できれば” 魔術結社に渡したくないと考えている程度……)

止 (しかし、ならば何故月子を保護するようなことをした?)

止 (それも、わざわざ 『ボックス』 に正規人員として派遣するなんて……一体どういうつもりだ)

止 (……いや、そんなもの、答えは一つに決まってるか)

止 (―― “俺” なのか)

止 (上層部は、俺と魔術師とやらをぶつけたいと考えている……そう考えて間違いないだろう)

止 (………………)

ニヤリ

止 「ああ、本当に上等だよ……」 ギリッ 「……いいだろう。期待に応えてやろうじゃねぇか」

止 「いつまでも無力なままの俺じゃない。俺は強くなったんだ」

止 「“能力殺し” ……」 ケッ 「今回はその真価は発揮できねぇが」

止 「…… 『通行止め』 の力、見せてやるよ。クソ野郎が」




217 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:45:32.64 ID:lyKPrDso


………………

?? 「……まぁ、本当はあなたではなく、『幻想殺し』 か 『一方通行』 にぶつけたかったのですがね」

?? 「上条当麻は誰かさんによる非公式のオーダーによりフランスへ」

?? 「一方通行は公式のオーダーにより同じくフランスへ」

?? 「やれやれ。ままならないものですね」 フゥ 「…… 『プラン』 の軸が揃いも揃っていないとは」

?? 「…… 『通行止め』 はあくまでも保険。ほんの短い経路を短縮 “できるかもしれない” という程度の存在」

?? 「まぁ、たとえ可能性が限りなくゼロに近くとも、利用できる分は利用させていただきますがね」

?? 「……日本神道系魔術結社。その精鋭がやってくることになるのでしょうか」

?? 「さて……能力者以外の相手には無能力者と相成る貴方に、果たして退けることができるのですかね」

?? 「くく……それにしても、『通行止め』 に “能力殺し” ですか」

?? 「一方通行に上条当麻……まるで何かの暗示のようですね」

?? 「まぁ、能力の希少性に関して言えばあの二人には遠く及ばないわけですが」

クスッ

?? 「……願わくは、『神体』 と 『剣』 を守り通し、良いデータを提供してくれることを」

?? 「――そして有益な時間稼ぎを」

………………




218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:54:25.30 ID:lyKPrDso
………………寝室

月子 「む、ぅ、……」

月子 「本気なのか?」

世話子 「なんで? べつに減るものじゃないでしょ」

月子 「むぅ……それはそうだが……」 モジモジ

世話子 「心配だから一緒に寝るってだけじゃない」

月子 「……しかしだな、われは今まで一度も、誰かと一緒に寝るということをしたことがなくてだな……」

世話子 「? もしかして月子ちゃん照れてるの?」

月子 「なっ!? て、照れてなどおらぬっ!!」

世話子 「うわぁ月子ちゃん可愛いっ!」 ギュッ

月子 「だっ、抱きつくでない! 頭を撫で撫でするなっ!」

世話子 「ああもう可愛いなぁもう食べちゃいたいなぁもう」 チュパチュパ

月子 「とか申しつつ本当に食べるな! われの指は食物ではない!」

世話子 「……? でもなんか甘いような……」

月子 「……!!」 ビクッ

世話子 「………………」 ジィーーーッ 「つ・き・こ・ちゃーん?」




219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:55:20.40 ID:lyKPrDso
月子 「わ、われは何もしてはおらぬぞ! 決して、菓子のつまみ食いなどしてはおらぬのだっ!」

世話子 「………………」 ニコッ

月子 「……!」 ビグッ 「……す、すまぬ」 ガタガタブルブル

世話子 「はい、じゃあ寝る前にもう一度歯磨きだね」

月子 「い、行ってくる!」 ダッ

世話子 「ふふ……」

? 「……ったく。すでにお姉さんだな、お前」

世話子 「止さん、覗いてたんですか?」

止 「人聞きの悪いことをぬかすな。たまたまだ」

世話子 「へえぇ?」 ニヤリ 「寂しいのなら止さんも一緒に寝ます?」

止 「ああ、ならそうさせてもらおうか」

世話子 「えっ……!?」

止 「くくっ……冗談だよ」

世話子 「なっ……」 カァァ 「と、止さんのくせに生意気です」

止 「はは、久々にお前を出し抜けた気がするな」 ニヤリ 「悪くない気分だ」

止 「メイと同じで、からかわれるのは苦手だよな、お前」

世話子 「……ふん、余計なお世話です」

止 「? メイと同じなら喜ぶと思ったがな」




220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:56:39.93 ID:lyKPrDso
世話子 「……今は、メイさんの話は無しにしてください」

止 「……どうかしたのか?」

世話子 「本当に分かりませんか?」 ジッ 「今は、他の女の話なんてしないでくださいと言っているんですよ」

止 「……? お前、何を言ってるんだ?」

世話子 「………………あなたが、……だから……」

止 「何だ? 聞こえないぞ」

世話子 「あなたが、そんなだから……あなたが、そんな風にメイさんのことばかり口にするから……」

世話子 「メイさんのことしか、見ていないから……っ!」

世話子 「だから私は、メイさんに近づきたいって、そう思ったんですよ!」

止 「……!?」

世話子 「私は……ダメ、ですか?」

世話子 「私では、ダメですか?」

止 「お前……」

世話子 「……やっぱりメイさんの代わりなんて嫌です。私は、私として、止さんの力になりたい」

世話子 「私は、“私” を止さんに求めてもらいたい!」

世話子 「私は……私は……」

――カタッ




221 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:57:25.63 ID:lyKPrDso
止 「!」 ビクッ 「……つ、月子……!」

月子 「す、すまぬ。そ、その、われは――」

世話子 「――なーんて、ね」

止 「……?」

世話子 「止さん、顔真っ赤ですよ? ふふ、少しは動揺していただけたようで何よりです」 ニコッ

世話子 「先ほどのお返しです。本当に騙されやすいですね、止さんは」

止 「なっ……お前……!」

世話子 「ふふふ……まだまだですね、止さんも」 スッ 「……やり残した家事があることを思い出しました。失礼します」

トトトト……

止 「………………」

月子 「………………」 トト…… 「……トマル」

止 「何も言うな。さすがに俺でも分かる」

月子 「……どうするつもりだ?」

止 「……ふん」 スッ 「どうもしないさ。あいつも、俺とは相容れない存在だからな」

月子 「……?」





222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/12(日) 23:58:31.83 ID:lyKPrDso
止 (絶対に、だ……!) ギリッ (絶対に、メイとイルの元へあいつを送る)

止 (その上で、俺は上層部が倒れるまで戦うというだけのこと。光へ戻るあいつと俺とは決して相いれない)

止 (光当たる場所へと戻ったメイや、これから戻らなきゃならないあいつの好意を、受け取ってはいけない)

止 (あいつらに俺という重荷を背負わせてはいけない)

止 (そしてもちろん月子も) ジッ (俺は、もう誰も、シィのように失いたくない)

止 (ピンチじゃない。チャンスと考えろ。魔術という新たな存在を認識できるまたとないチャンスだと)

止 (上層部との交渉材料として使える “何か” を手に入れるためのファクターだと……!)

スッ……グッ

止 (何としてでも手に入れるんだ。上層部との直接交渉権を得られるくらいのモノを……!)

止 (たとえこの手に何が残らずとも構わない。両の手さえも失おうと、脳さえあれば俺は戦える)

止 (この身体の生体電気が止まるその時まで……ッ!)

止 (戦い抜いてやるさ……絶対に)

月子 「………………」

ギュッ

月子 (われは、やはり……)




231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 16:14:43.18 ID:xmFcp8Qo
止がイケメンすぎて濡れる///




234 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:26:12.04 ID:50jE4hko
………………学園都市外縁部

?? 「……ふむ。学園都市お手製の警備ロボは機能せず、ですか」

?? 「それに外縁部を守ると言われる 『迎電部隊』 とやらも見られませんね」

?? 「罠……という雰囲気でもありませんし、これはどうやら本当のようです」

?? 「『神体』 と 『剣』、どちらも科学にとっての魅力はないようですね」

?? 「ならばおとなしくこちらに差し出せば良いものを。科学はよほど戯れが好みのようです」

?? 「……学園都市そのものに我々と敵対する意志はない」

?? 「さてさて、その言葉の真意がどこにあるかは知りませんが、」

?? 「分かっているのですかね、統括理事長様とやら」

?? 「あなた方科学と、我々魔術は、決して相容れることがないということを」

?? 「……まぁ、我々はローマ正教ほど苛烈に行くつもりはありませんがね」

?? 「しかし、我が物顔で偽善を働く隠れキリシタン共が英国へ消えた今がチャンスであることに変わりはない」

?? 「あの連中は正義の味方でも気取るかのように、我々に対し目を光らせていましたからねぇ。忌々しい」

?? 「『救われぬ者に救いの手を』 ですか」 ククク 「……まったく、本当に忌々しい連中です」

…………スッ――トン……




235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:27:27.93 ID:50jE4hko
?? 「……ともあれ、また随分と簡単に潜入できてしまったものです」

?? 「学園都市上層部と我々で密約が交わされているとはいえ、それも一部の人間しか知らぬことでしょうに」

?? 「なるほど。まともな人間は皆平和ボケしているといったところでしょうかね」

?? 「もうすぐ世界規模の戦争が始まるというのに……まったく、度し難いことですね」

?1 「ん……? 何だ貴様は!」

?? 「おや、さすがに警邏の人間くらいはいましたか」

一般警備員 「動くな!」 ガチャッ 「侵入者か!?」 (神主? 宮司……?)

宮司 「ええ、まぁそういったところでしょうか」 スッ

警備員 「動くなと言っている!!」 グッ

宮司 「………………」 クスッ 「……くくくくく」

警備員 「なっ……何が可笑しい!」

宮司 「いやいや、すみませんね。貴方の底が知れたので、可笑しくて、つい」

宮司 「ああ、正しくは、“この街全体の底が知れた” と言うべきですかね」 クスクスクス




236 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:29:25.33 ID:50jE4hko
警備員 「貴様、一体何を――」

宮司 「決まっているでしょう? 警告の後に動いた私に対して、発砲するのではなくなおも警告した……」

宮司 「その時点で、この街の底が知れるというものです。本当に平和なのですね。この街は」

宮司 「どうされます? 私を捕縛しますか?」

警備員 「と、当然だッ! そこを動くなよ!」

宮司 「そうですか。では、丁重にお断り致します」 ダッ

警備員 「ッ……! あまり我々を舐めるなよッ!」

警備員 (外縁部警備のため、この銃の中身は実弾……だがッ……!)

――ッタン!!

ピタッ――……

警備員 「……スマートライフルだ。急所は外してあるだろう」

警備員 「我々を甘く見るな。これでもこの街を……この街の子どもたちを守るために銃を握っているんだ」




237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:31:01.98 ID:50jE4hko
宮司 「………………」 クスッ

警備員 「なッ……!?」

宮司 「それはまぁ、自分に対し向かってくる敵性に対しては引き金くらいは引きますよね」

――――……ポロッ

警備員 「……!!?」 (あれは……弾丸!? まさか弾いたというのか!?)

宮司 「子どもを守る覚悟……大変結構。ですが、残念ながら力量がまるで及びませんね」

宮司 「さすがは学園都市お手製の最新型銃器……狙い違わず足下に飛んできましたが……」

宮司 「残念ながら、私の 『焔薙』 の術式の前には、その全てが無駄です」

――チャッ……!

警備員 「!? き、貴様……いつの間にそんな……そんな刀を取り出した!?」

宮司 「この時代の刃物は基本的に “刀” とは呼びませんがね。まぁ細かいことはさておくとして」

宮司 「そろそろ飽きてきました。終わりにしてもよろしいですか?」

警備員 「ッ……!」 グッ 「……舐めるなと言ったはずだ!」

ガチャッ……ダララララララララララッ!!!!




238 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:31:47.28 ID:50jE4hko
………………

警備員 「……今は特別厳戒態勢下だ。外部からの侵入者に関しての殺害許可はすでに出ている」

警備員 「残念だったな。我々は、子どものためならば誰をも殺す覚悟を持っている」

宮司 「――なるほど。それは素晴らしい心意気ですね。その思いは魔術に通じるものがある」

警備員 「!? な……な……ッ!?」

パラパラ……バラバラバラバラ……

宮司 「しかし、いきなりフルオートに切り替えるというのは酷すぎませんか? 驚いてしまいましたよ」

宮司 「まさかその形状でこのレベルのサブマシンガンにもなるとは……さすが学園都市ですね」

宮司 「ですが、言ったはずです。『焔薙』 の術式の前では、その全てが無駄だと」

警備員 「ッ――――」

宮司 「――――おっと、もうこれくらいにしておきましょうよ」

スッ――……ズダン……!!

警備員 「っあ――――」

バタン……




239 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:33:20.63 ID:50jE4hko
宮司 「彼我の距離は20尺といったところでしょうか」

宮司 「……ですが残念ながら、33尺までは私の 『草薙』 の射程内です」

宮司 「学園都市との密約で、余計な損害を出さないこと……とありましたからね」

宮司 「峰打ち……といっていいのかは分かりませんが、気絶させただけです。ご安心を」

警備員 「……………………」

宮司 「……と言っても、もう寝ていらっしゃいますか」

ククククク……

宮司 「………………」 スッ 「…… さて、『ボックス』 といいましたか」

宮司 「くく……一応は万全の体勢で望むべきでしょうかね」

宮司 「予告の時刻まではあと一日」

ニタリ

宮司 「月の姫―― 『月詠之巫女』 ……もうしばらくお待ちください」

宮司 「――すぐ、お迎えにあがります故に」




240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:37:01.05 ID:50jE4hko
……………… 『ボックス』 宿舎 屋上

月子 「………………」

キーーーーーー………………

月子 「……嫌な気配だ」

―――― “カミ”

月子 「っ――!」

―――― “貴方はカミの素体です”

―――― “『神体』。本物のカミを生み出す依代”

―――― “貴方は日本神道の礎となるのです”

月子 「……われは、」

―――― “月子……ッ、逃げろ……!”

月子 「……父様」

―――― “月子! 早く! もう奴らがやって来るわ! 貴女だけは何としても逃げなさい!”

月子 「……母様」

月子 (……われは、ずっと、自分のことを物扱いされていると思ってきた)

月子 (しかし……父様と母様は、きっと……強大な力を持つわれを守るために、心を鬼にして……)

月子 (われを神社に縛りつけ、われの身体を制御する術を叩き込んでくれたのだ)




241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:37:49.53 ID:50jE4hko
月子 「……でも、分かりません、父様、母様」

月子 「父様と母様の言うことしか聞いてこなかったわれには、分かりません」

月子 「われは……」 ジワッ 「……われは、どうしたら……」

? 「――どうしたんだ? こんなところで」

月子 「!!」 ビグッ 「……と、トマル」 ゴシゴシゴシ

月子 「な……何故、ここに?」

止 「俺は臆病者でな」 フッ 「気配には人一倍敏感なんだよ。階段の軋む音で起きた」

止 「……屋上に登ったのは初めてだな」 スッ 「もう夜風も冷たい季節だ。風邪引くぞ」

月子 「……風邪など引かぬ。『神体』 であるわれは身体が頑健であるからな」

止 「そうか」 サッ 「……隣、いいか?」

月子 「勝手にすると良い」

止 「ああ」

スッ……トン

月子 「………………」

止 「………………」

止 「……月、綺麗だな」

月子 「……ああ」




242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:38:35.69 ID:50jE4hko
止 「………………」 フッ 「……怖いか?」

月子 「………………」

月子 「………………」 コクン

止 「そうか」

スッ……ポン

月子 「む……?」

止 「そうだな。怖いな」

ナデナデ

月子 「こ、子供扱いするでない!」

止 「だからそう言ってる内はガキだっての」 フッ

月子 「むぅ……」

止 「……嫌か?」

月子 「………………」 プイッ 「……そんなことは、ない」

止 「そうか」

ナデリナデリ




243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:39:03.01 ID:50jE4hko
止 「………………」

月子 「………………」

月子 「……トマルは、」

止 「あん?」

月子 「トマルは……われを、ただの子供と思うのか?」

止 「………………」 フゥ 「……さて、な」

月子 「……?」

止 「俺にも分からねぇよ、そんなの」

止 「俺にとって、お前は特別だ。魔術とか 『神体』 とかを抜きにして、お前は仲間だからな」

止 「だが、だからこそお前には 『普通』 になってもらいたい。しかしそれをお前に強要したくはない」

月子 「………………」

止 「お前はどうしてほしい? ガキ扱いされるのは嫌か?」

月子 「………………」

フルフル

月子 「そんなことは、ない」

月子 「われはきっと、それに憧れていたのだ」




244 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:40:36.04 ID:50jE4hko
月子 「ただの子供として扱われること。ただの子供として生きること。それを、望んでいたのだ」

月子 「……のう、トマル。われは 『普通』 に戻れるであろうか?」

月子 「われは、『普通』 を手に入れることができるのであろうか?」

止 「………………」 フッ 「……一つだけ良いことを教えてやる」

月子 「……? 何だ?」

止 「奇跡を起こすコツだよ」

月子 「奇跡?」

止 「ああ。俺は今まで、何度かそんな奇跡を目の当たりにしてきた。だからこそ、これは絶対だ」

止 「――信じろ。望みが必ず叶うことを。己がその望みを手に入れることができると」

止 「それを手に入れた未来の自分を、信じろ」

月子 「信じる、こと?」

止 「ああ」 ニッ 「それが何でもない小さな奇跡を起こす、唯一の方法だ」

止 「そしてそのちっぽけな奇跡の積み重ねが、いずれ大きな奇跡に繋がるんだ」

止 「俺は知っている。そんな風にして、奇跡を起こしてきた連中をな」

月子 「………………」 コクン 「……うむ!」

月子 「われは信じるぞ! われの未来を。われの望みを。そして、止のことを!」

止 「……はっ」 ハァ 「仕方ねぇな。信じられてやるよ」

月子 「うむ!」

止 「………………」 (……さて、ここまで言っちまったんだ。もう情けないマネはできねぇな)

止 (だが残念ながら、俺には奇跡を起こす力なんてものはない) フッ (それはヒーローの専売特許だからな)

止 (だからこそ、考え得る全ての状況を考慮に入れて動く)

止 (そんなことしか、ヒーローになれない俺にはできないからな)

止 (………………) スッ (俺はまだ死ぬわけにはいかない。そして、月子も世話子も、絶対に死なせない)

止 (ボストンバッグの “中身” の最終調整を、今夜中に終わらせる。そして――)

ギリッ

止 (――来たる魔術師から、月子と世話子を守り通す……!)




245 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:43:34.97 ID:50jE4hko
………………深夜 学生寮

………………カタカタカタ……

男 「………………」 (LSD……LSD……)

男 「合成麻薬の一種……非常に強力な幻覚作用を持つ、か……」

男 「……日本では違法薬物としては流通の規模が大きいわけじゃないんだな」

男 「えーっと……俗称はアシッド、ペーパー、タブレット、ドラゴンなど……」

男 「まぁ僕ら能力開発を受けている学生は似たような薬を打たれたりしているわけだけど」

ゴロン……

男 「……それはさておき、やっぱり気になるなぁ」

―――― 『――いいか、忘れるなよ? ボウモアとLSDだからな』

男 「彼女は僕に何かを伝えようとしてた……そう思えるんだけどなぁ」

男 「ただ単に僕をからかってただけなのかなぁ……」

?? 「どうしたの、男。めずらしく夜更かしね」

?? 「何か調べ物? 風紀委員も大変ね」

男 「ああ、ネムサスにデイジィ。ごめん、起こしちゃったかな」

ディズ 「あんまり無理しないでね。もうあんたひとりの身体じゃないんだから」

男 「すごく勘違いされそうな台詞はやめてくれ」




246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:44:45.98 ID:50jE4hko
ネム 「それでそれでっ」 ナー 「白井とはどこまでいったのよ? まさか手も繋いでないなんて言うんじゃないでしょうね?」

男 「お前は近所のおばさんか。そういう話はやめてくれ」

ディズ 「なによう」 ガーッ 「少しくらい教えなさいよ」

男 「………………」 カァァァ…… 「べっ、べつに何もないよ。手は……一応繋いだけど」

ネム 「キスは?」

――ッボン!!

男 「当たり前のようにとんでもないことを聞くな!」

ディズ 「あーあ……」 ガー…… 「この反応じゃ、ね……」

ネム 「ったく……本当に甲斐性無しなんだから」

男 「……寝る」

ネム 「ごめんごめん。冗談よ」 ニャー

男 「……お前たちの冗談はタチが悪いのっ」

男 「まったく……」 スッ (……そういえば、まだウィスキーの方は調べてなかったな)

カタタタタ……

男 (ボウモア……スコットランドにある蒸溜所で作られるスコッチ・ウィスキーのブランド……)

男 (……うわっ、高っ。二十万円以上するのかよ……あ、何十年物なのか……なるほど)

男 (ん……? そういえば――)

―――― 『そうだな……あえてあげるとすれば、ボウモアの30年物かな』




247 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 21:46:19.76 ID:50jE4hko
男 (30年物……あったあった。これはそんなに高くないんだな。ってもウン万はするんだけど)

男 (まぁ買えない値段じゃないけど……あ、しまった。たしか学園都市って酒の関税が高いんだった)

男 (……ダメだ。とても買えたもんじゃないよ)

男 (っていうか何を僕は買うつもりになってるんだよ。お土産はいいけどもっとまともなものにしようよ)

男 (……とはいえ、このボウモアってパッケージなんか格好いいな)

男 (へぇー……何年物かでパッケージが変わるんだ。30年物の柄は……)

男 「……ん?」 ハッ 「……これは、もしかして……!」

カタタタ……

男 「やっぱりそうだ。LSD……ボウモア……」

ネム 「男?」

男 「――繋がった……ッ!!」

ディズ 「きゃっ……いきなりどうしたの?」

男 (これが、この言葉が、彼女が僕に伝えたかったこと……)

男 (この言葉の何かを知るために、彼女はテロまで引き起こした……)

グッ

男 (糸口は見つかった……なんとしても真実を、この街の闇を、不幸を……)

男 (――絶対に曝いて見せる……ッ!)




248 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:10:51.42 ID:50jE4hko
………………風紀委員第177支部

初春 「………………」

kttttttttt……

初春 「………………」

白井 「………………」

初春 「……やはり、妙ですね」

白井 「………………」

初春 「調べても調べても、彼女に関するデータだけが一向に出てきません」

初春 「――いえ、むしろ出てきすぎていると言うべきでしょうか」

初春 「まるで、隠したいことがあることを隠すように、表層的なデータばかりが登録されています」

白井 「……それに、こちらの書き込みも気になりますわね」

初春 「ええ。まだあの “教会” がきちんと機能していた頃……つまり0930事件以前、」

初春 「教会で一番偉いはずの主教があるシスターに頭が上がらない様子だった……」

初春 「……そう。赤髪に赤眼の、中学生のようにも見えるシスターに」

白井 「………………」 フゥ 「……調べれば調べるほど怪しいですの」

prrrrr……

初春 「支部の固定電話?」

白井 「わたくしが出ますの」




249 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:15:42.39 ID:50jE4hko
ガチャッ

白井 「はい。風紀委員第177支部ですの」

?? 『やぁ。その声はいつぞやの男くんの同僚くんじゃないか』

白井 「……このダンディズム溢れる声は、ESP研の所長さんですの?」

所長 『ああ、すまない。その通りだよ。失礼したね』

白井 「いえいえですの」

所長 『男くんから聞いたよ。君たちつきあい始めたんだってね」

白井 「えっ……/// ま、まぁ、そうなっておりますが……////」

所長 『死ねばいいのに』

白井 「――えっ?」

所長 『さて、要件だが――』

白井 「ちょっ、お待ちになってくださいですの! 今とんでもない言葉が聞こえた気がするのですが!?」

所長 『気のせいだろう。死ねばいいのに』

白井 「ほら聞こえた! 確かに聞こえましたの!」

所長 『いやいや、死ねばいいのに』

白井 「もう敵意を隠す気ゼロですわね!?」




250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 22:24:42.47 ID:50jE4hko
所長 『さて冗談はこれくらいにするとして』

白井 「……いつか腹の中に石でもテレポートさせてやりますの」

所長 『男くんはそちらにいるだろうか?』

白井 「えっ? あ、その……いませんわ」

所長 『? どうかしたかい?』

白井 「いえいえですのっ」 アセアセ (まさか男さんに内緒で調べ物をしていたなんて言えませんものね)

所長 『まぁいい。伝えたいことがあったのだが、また今度にするとするよ』

白井 「? そんなもの、今日会ったときにでも伝えれば良かったではありませんの」

所長 『? 何を言っているんだい? 私は今日は彼に会っていないよ?』

白井 「えっ……? だ、だって男さんは今日、研究所で実験だと……」

所長 『そんなことはありえないな。何故なら今日は私は研究所にいなかったからね』

白井 「……そん、な……」 ガクッ 「………………」

所長 『まったく……着信履歴を何十件と残しただけで着信拒否されるし……』

所長 『それでこちらに電話をかけてみればいないときたものだ』

所長 『まったくついていないよ』 ハフゥ 『……? 白井くん? 聞いているのかい?』

白井 「…………………………」

白井 (男さん……) ズキッ (何故……また、わたくしに嘘を……?)

――ジワッ……




251 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:12:25.52 ID:50jE4hko
………………翌朝

男 「ふわぁ~~~ああ……ねむ……」

青髪 「またどえらく眠そうな顔しとるなぁ」

男 「全然寝てなくてさ……ずっと調べ物をしてたから」

青髪 「風紀委員も大変やなぁ」

男 「…………まぁ、ね」

男 「……ところで土御門くんはまたお休みかぁ。それに、上条くんまでいないね」

青髪 「本当やな。何しとるのやら」

姫神 「………………」 ジッ

男 「……?」 (姫神さん……? どうしたんだろ? 僕の方を見てる?) チラッ

姫神 「………………」 カタッ

男 「?」

トトトト……

姫神 「……男。くん?」

男 「う、うん? なに、姫神さん?」

姫神 「――首に付けてるそれは。本当に恋人からもらった物?」




252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:18:53.25 ID:50jE4hko
男 「ッ――!?」

青髪 「……? いきなり何言い出すのん?」

姫神 「……答えて。男くん」 ジッ

男 「………………」

―――― ((本当に……僕はいつか地獄に落ちるんじゃないだろうか))

ギリッ

男 「……そんなの、姫神さんには関係ないよ」

青髪 「お、男やん……?」

姫神 「……それは。否定だと解釈してもいいの?」

男 「好きにすればいいだろう。僕は、もう――」

男 (――身近な人に、嘘をつきたくないんだよッ……!)

姫神 「………………」 フゥ 「そう。なら。その根本を正してみるしかない」

スッ……

男 「へっ……?」

――ダキッ

青髪 「姫神やん!? な、ななな……何でいきなり男やんを抱き締めてはるのん!?」




253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:27:20.18 ID:50jE4hko
男 (ななななな……何が起こってるの!?)

フワッ……

男 (うわ……姫神さん良い香り……じゃなくてっ)

男 (意外と胸おっきいんだなぁ……じゃなくてっ)

男 (い、一体何が起きて――――――)

――バキッ

男 「ッ……!?」 (なっ……何だ……?)

―――― 『……ただ、ほんの少しでも心の穴を埋めてもらえれば、と思ったんです……』

―――― 『やっぱり……男!』

―――― 『……重ね重ね、男のことをよろしくお願いします』

男 「なっ、に……がっ……! がっ……?」

――――――――ナニカ オカシク ナイカ?

―――――――――――――――― "イワカン" ガ ナイカ?

姫神 「………………」 (……本当は。上条くんがいてくれればよかったんだけど)

姫神 (やっぱり。『歩く教会』 の外部との隔絶作用が働いてる)

姫神 (思った通り。男くんは。何らかの魔術に……)

姫神 「……男くん。何かに気づかない? 何か。とても大事なことを見落としてるって。思わない?」

男 「僕、は――」

―――― 『そういえば、どことなくあなたに似ていますね……どこか、面影を感じます』

―――― 『わたしは、そんなあの子を支える、シスターでありたかった……っ』

男 「ッ……僕から離れろッ!!!」

ドン!!

姫神 「……!?」 ドサッ




254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:38:35.16 ID:50jE4hko
男 「あっ……」

青髪 「お、男やん!?」 アタフタ 「いきなり何やっとんの!?」

男 「ご、ごめん、姫神さん……」

姫神 「………………」 ジッ

男 「うっ……」

クラッ

男 「……僕、は……」

姫神 「………………」

男 「……………………」

――ダッ

青髪 「お、男やん!!?」

姫神 「………………」 (ダメ。だった。けど……)

青髪 「姫神やんも姫神やんや。彼女持ちの男をいきなり抱き締めたりしたらアカンやろ」

姫神 「……だけど。信じてる」

青髪 「は……はぁ?」

姫神 (男くん。あなたは。あの人の友達だもの)

吹寄 「ちょっと、姫神。大丈夫?」 スッ

姫神 「あ。吹寄……」 ギュッ……ット 「ありがとう。大丈夫。ちょっと尻餅をついただけ」

吹寄 「まったく。男ったら風紀委員のくせにSHR前にまたどっか行っちゃったわ」

吹寄 「……あいつ、最近なんか変よね。何か、暗いというか、何というか……」

姫神 「………………」 (男くん。私にはきっと、何もできない)

姫神 「………………」 グッ 「……だから――負けないで」




255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:41:32.23 ID:50jE4hko
………………

ハッハッハッ……!!!

男 「………………」 (はは……初めてだ。学校をエスケープするなんて)

男 (けど、どんな顔していたらいいのか分からないよ)

男 (クラスメートの女の子を突き飛ばして、転ばせた後なんて……)

男 (何で僕はあんなことを……? たかだか抱き締められたってだけで)

男 (……姉さん)

男 (姉さん……会いたい。会いたいよ)

――――ピタッ

男 「姉さん……」

………………教会前




256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/13(月) 23:48:43.24 ID:50jE4hko
ギィ……

シスター 「……?」 クルッ 「……! 男!?」

男 「……うん。ごめん、姉さん。突然来ちゃって」

シスター 「それはべつに構わないけれど……学校は?」

男 「………………」

シスター 「………………」 フッ 「……そう。分かったわ」

男 「……怒る?」

シスター 「いいえ」 ブンブン 「男がそういうことをするなんて珍しいもの。何か事情があったんでしょ?」

シスター 「むしろ嬉しいわ。真っ直ぐ姉さんのところに来てくれるなんて」 ニコッ

男 「姉さん……」

シスター 「ちょっと待っててね。いつもの紅茶とクッキー、持ってくるから」

トトトト……

……………………

シスター 「………………」

スッ

シスター 「……そう。お友達とケンカをしてしまったのね」

男 「うん……。ケンカって言うか、僕が一方的に突き飛ばしちゃっただけなんだけど」

シスター 「ん。そのことに関しては男が悪いわね」

男 「………………」 コクン 「……うん」

シスター 「でも、今日は謝りづらいわよね」 ニコッ 「だったら、今日はここにいなさい。明日は日曜だから、来週から学校に行けばいいわ」

男 「……うん。ありがとう」




257 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:01:00.16 ID:/s6r2vAo
男 「………………」 (……やっぱり、姉さんは優しいや)

男 (ごめんね、姫神さん。でも、変なことを言う姫神さんも悪いんだよ)

男 「…………うん、そうなんだ……」

シスター 「? なぁに、男?」

男 「へっ? ううん。何でもないよ」

シスター 「あっ、気になるじゃないっ」 スッ 「お姉ちゃんに隠し事はダメ。話なさい」

男 「や、やだよ」

シスター 「お姉ちゃんに刃向かうのもダメ」 ガシッ……ギュッ

男 「わっ……き、急に何をするの……?」

シスター 「お姉ちゃんに隠し事をしたバツ。ギュッとさせなさい」

男 「そ、そんなの……」

シスター 「……いや?」

男 「………………」 プイッ 「いやじゃ、ないけど……」

シスター 「ふふ……♪」 ギュッ

シスター 「………………」

男 「………………」

シスター 「……ねぇ、男」

男 「……なぁに、姉さん」

シスター 「男は、私が守るからね」

男 「………………」 コクン 「……なら、姉さんは僕が守るよ」

――……ギュッ――……ギュッ




258 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:15:24.47 ID:/s6r2vAo
………………

男 「……じゃあ、今日はありがとう、姉さん」

シスター 「いいのよ。男がお姉ちゃんを頼りにしてくれて嬉しいもの」

男 「うん」 ニコッ 「僕はそろそろ風紀委員の時間だから、行くね」

シスター 「行ってらっしゃい。しっかりお仕事してくるのよ?」

男 「……うん」

シスター 「それから、恋人さんたちに、よろしくね」

男 「姉さん……。もうっ」

シスター 「ふふ……いってらっしゃい、男」

男 「……うん。いってきまます、姉さん」

………………

prrrr……

男 「うん? メール……青髪くんから?」

男 「明日の夜にお祭り……? 恋人でも誘って行ったらどうやって……」

男 「……はぁ。ダメダメだなぁ、僕。青髪くんにまで気を遣わせてるのか」

男 「………………」 コクン 「……でも、悪くないな。白井さんと二人でお祭りっていうのも」

ニヘラ

男 「……白井さん、浴衣着てくれたりして……」

――タッ……タタタ……

男 (姉さんもそうだけど……やっぱり白井さんにも、一刻も早く会いたい……!)

男 「177支部に急がなきゃ……」




259 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 00:21:40.73 ID:/s6r2vAo
………………風紀委員第177支部

白井 「………………」

初春 「………………」 (……昨日の電話からずっとあんな調子です)

初春 (男さんったら……嘘をついてたなんて、酷すぎですっ!)

初春 (……とはいえ、私たちも男さんに内緒で色々と調べたりしたわけですが)

初春 「しかし、ここまで黒くなるとは……」

固法 「……まぁ、予想外だったわね」

固法 「けれど、ここまで不審な点が重なってるとなれば……風紀委員としては彼女を監視せざるを得ないでしょうね」

白井 「………………」

初春 「……白井さん、元気出してください」 スッ

白井 「……初春?」

初春 「最近、男さんとろくに話してないでしょう? 一度、二人きりの時間を取るべきだと思うんです」

初春 「なので、これとかどうですか?」 スッ

白井 「これって……お祭り?」

初春 「はい。明日の夜に開催される秋祭りです」 グッ

初春 「白井さん! 浴衣姿で男さんをメロメロにするチャンスですよっ!」

白井 「………………」

初春 「……白井さん?」

白井 「男さんは……本当にわたくしのことが好きなのでしょうか?」

初春 「!? いきなり何を言い出すんですか! そんなの好きに決まってるでしょう!」

白井 「でもっ! ……男さんは、わたくしに隠し事ばかり……こんなの……」

白井 「……こんなのっ……」

初春 「白井さん……」




262 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:01:52.14 ID:/s6r2vAo
ガチャッ

男 「どうも、少し遅くなりましたっ」

白井 「!」 ビグッ

初春 「………………」

固法 「……こんにちは、男くん」

男 「……? どうかされたんですか? 何か様子が変ですけど」

固法 「………………」 フッ 「……何でもないわよ。ただ、勘案事項が増えたってだけ」

男 「ああ。だからこんなに空気がピリピリしてるんですね」

男 「……僕も頑張ります。犯罪者でも学園都市に入ってきたんですか?」

初春 「いえ、そういうわけではありません。ですが、かなり怪しい人物がこの第七学区にいます」

男 「怪しい? どういうことです?」

初春 「なんらかの使命を帯びてこの学園都市にいる可能性が高い女性です」

男 「女性? ……あの、それってどんな人なんです?」

初春 「……先日、学園都市に対し敵対行動を取ったことのある組織と近しい組織に属する方です」

男 「ローマ正教の人……ってこと?」

初春 「いいえ。ロシア成教の方です」




263 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/14(火) 23:20:25.07 ID:/s6r2vAo
男 「……初春さん? 僕の記憶違いかな? 第七学区にロシア成教系の教会は――」

初春 「――ええ。一つしかありません」

男 「その教会に残ってる人といえば、一人に限られるはずだよね?」

初春 「そうですね。とある赤髪赤眼の可愛らしいシスターさんが、一人」

男 「………………」

初春 「分かりますよね、男さん? 私たちは、彼女が怪しいと言っているんですよ」

男 「な……な、ぜ?」

白井 「……男さんに内緒で、わたくしと初春で調べさせていただきましたの」

男 「………………」

白井 「あのシスターさん、あまりにも経歴に謎が多いんですの」

白井 「巧妙に隠しているように見えても、見抜けます。彼女の経歴はどこかズレている」

白井 「……そして何より、彼女は0930以降一人になってから、一度もロシア本国に連絡を取っていませんの」

白井 「おかしいとは思いませんか? 一人で心細いであろう一介のシスターが、

白井 「業務は激減したとはいえ、誰の指図も受けずに教会を運営しているんですのよ?」

白井 「今は厳戒態勢下。十字教全てを否定するわけではありませんが、」

白井 「……残念ですが、何らかの裏があると疑ってしまうのも無理がありませんの」




264 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:01:29.59 ID:OVlylNso
黒子カワイソス




265 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:19:56.45 ID:yEJIdI.o
男 「………………」

白井 「……男さんがあの方と親交を深めていたことは存じています」

白井 「お辛いとは思いますが、その……わたくしたちと一緒に、彼女の監視を……」

―――― 『さっさとこの学園都市から消えろって言ってるだけなんだよ!』

男 「……ッ……!!」

白井 「男さん……」

スッ……――

男 「っ……」

――バシッ

白井 「痛っ……」 ハッ 「男、さん……?」

男 「どの口が……それを言っているんです?」

――ブルッ

男 「そして……どの手がッ……僕に触れようと言うんですかッ!?」

白井 「っ……!」

男 「たった……たったそれだけのことで? 彼女が十字教徒だからというだけで?」

男 「姉さんを疑うって言うの? ねぇ……何で?」

初春 「お、男さん――」

男 「――何でだって聞いてるんだ答えろッ!!」




266 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:23:40.14 ID:yEJIdI.o
初春 「ひっ……!」 ヨタッ

――ガシッ

固法 「……大丈夫、初春さん?」

初春 「は……」 ガタガタガタ…… 「はい、だ、大丈夫、です……」

固法 「……あっちに行って休んでなさい。こっちは大丈夫だから」

初春 「はい……」 フラフラ……

白井 「初春……」 ギリッ

男 「ねぇ、白井さん? 正直に答えて?」

男 「そもそも何で、姉さんを調べたりしたの?」

白井 「………………」

白井 「……おかしい、から、ですわ」

男 「何だって? 何がおかしいって?」

白井 「……あなたの、様子が……男さんの様子が、おかしいからですわ……っ」

白井 「あのシスターさんに出会ってから、あなたの様子はおかしいですの」

白井 「まるで……まるで、大昔からの姉弟のように、仲睦まじくしていらっしゃいますし、」

白井 「何より、そのことを、あなたやシスターさんが全く疑問に思っていないこと」

白井 「……それが、あまりにも不可解でしたので、調べた次第ですの」




267 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:28:33.45 ID:yEJIdI.o
男 「………………」

白井 「………………」 フゥ 「……ご理解いただけまして?」

男 「………………」 フッ 「……くはは……はははははは……」

男 「ははは……あっはっはっはっは……ははははははははっ……!」

白井 「! なっ……何を笑っていらっしゃいますの?」

男 「なるほど……なるほどね。これはこれは光栄なことだと思うよ。本当に、光栄すぎて涙が出そうだ」

ハハハハハハハ……

白井 「……何を言ってらっしゃいますの、あなたは?」

男 「そんなに僕を独占したいですか?」

白井 「――は……?」

男 「僕が少し他の女性と仲良くしただけで、嫉妬からわざわざその女性の身辺を調査したりするんですか?」

白井 「なっ……!? 何を!!」

男 「姉さんはただ単純に僕の姉だって……そう、言いましたよね?」

男 「そんなに僕のことが信じられませんか? ねぇ、僕の恋人様?」

男 「――僕のこと、信じてはくれないのですか?」

――――……ギリッ

白井 「わっ……わたくしがッ!」 ワナワナ…… 「わたくしがそんな狭量な女に見えますのッ!?」




268 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:46:21.96 ID:yEJIdI.o
男 「だったら何で姉さんを調べたりしたんだッ! 僕と姉さんが仲良くて何が不自然なんだよッ!!」

白井 「わたくしは! そんな風に言えてしまうことそのものが不自然だと言っているのです!」

男 「……やっぱりッ……僕を信じてないんじゃないか……ッ」

白井 「………………」 ウルッ 「……信じたい、ですわよ……」

白井 「でも、あなたは嘘をついてばかり……」

男 「嘘? そのことについてはもう謝ったでしょう?」

白井 「……とぼけるおつもりですのね。結局、わたくしはその程度の存在ですのね」

男 「いったい何の話をして――」

白井 「――昨日、あなたはESP研究所に向かってはいない」

男 「!?」

白井 「……どこで何をしていらっしゃいましたの? わたくしに言えない用事でも?」

男 「そっ……それは……」

―――― ((でも……やっぱり、これ以上白井さんを巻き込むわけにはいかないから……))

男 「それは……言えない」

白井 「………………」

白井 「……っ……」

――……ウルッ




269 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:49:39.98 ID:yEJIdI.o
――ポタッ……ポタッ……

白井 「わたくしだって、あなたのことを信じたいですの……でも……」

白井 「嘘をつかれて……隠し事をされて……それで、何を信じればいいんですの?」

白井 「わたくしは……わたくしは……!」

ポタポタッ……ポタッ……

男 「………………」 ハッ 「……し、白井さん……」

……ジジッ!!!

男 (っ……!?) ガクッ

―――― 『……ねぇ、男』

―――― 『男は、私が守るからね

―――― 『……なら、姉さんは僕が守るよ』

男 「っ……あ……僕、は……」

男 「………………」

男 「……泣けばいいって思ってる?」

白井 「――へ……?」




270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 00:53:38.03 ID:yEJIdI.o
男 「自分は女の子だから? 僕がその恋人だから? 泣けば、何とでもなるって?」

白井 「男、さん……?」 ガタガタ…… 「な、何故……? そんな、酷いこと、を?」

男 「へぇ。白井さんはそれを酷いって思うんだ。そっちの方がよっぽどずるくて酷いと思うけど」

男 「僕を信じてはくれないんだよね。守りたいって思ってるだけなのに、信じてくれないんだね」

白井 「いや……いやっ……わたくしは、ただっ……あなたが心配で――」

男 「――僕が信用できないから? 僕が何をやらかすか分からないから? だから心配?」

白井 「っ……」 フルフル 「……男さん……男さん……」

エグッ……ヒグッ……エグッ……

男 「………………」

男 (僕はただ、姉さんと白井さん両方を守りたいだけなのに……何で分かってくれないんだ……ッ!)

固法 「………………」

固法 「……男くん、」

男 「……はい?」

――ニコッ

固法 「今のあなた、最低ね」 クスッ 「驚くくらいのグズだわ。客観的に見て」

男 「………………」

固法 「白井さん、ちょっとあっちに行っていなさい」

白井 「………………」 コクン

……タタタ……

男 「………………」




271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 01:13:22.81 ID:yEJIdI.o
男 「……固法さんは、」 ジッ 「その口ぶりだと、白井さんと初春さんを信じるわけですね?」

固法 「まぁ、男くんを信用しないってわけじゃないけどね」

固法 「私はべつにあなたの恋人じゃないし、そもそも疑う理由もそうはないから」

固法 「けど、さっきのやりとりを見ていて思ったわ。やっぱりあなたはおかしい」

男 「……おかしい?」

固法 「この前の遊園地の事件以来、あなたが何か使命感のようなものを持ったことは分かったわ」

固法 「そしてそれがあなたを訓練などに向かわせ、結果として風紀委員の業務が円滑化していることも」

固法 「それはとてもいいことだと思うし、私も正直、助かってるわ」

固法 「……けれど、ここ最近のあなたはやはりおかしい。今のやりとりを見てもそうよ」

固法 「そんなのがあなたの人格かしら? 恋人に対し理不尽に激昂して泣かせるような人格が」

男 「そんなの……」

固法 「あの二人が掴んだ情報は確かなものよ。だから、私はあの教会の……あのシスターを監視しようと思う」

男 「ッ……!!」 ギロッ 「やっぱり……固法さんまでっ……!」

固法 「いや、正しく言い直すとすれば……」

サッ……サッサッサッ……

男 「177支部の皆さん……?」

固法 「――私たち風紀委員第177支部は、あのシスターを監視するわ」

固法 「……これは決定事項よ」




273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 01:57:04.89 ID:yEJIdI.o
柳迫 「………………」

男 「柳迫さん……?」

坊主 「………………」

男 「坊主先輩……?」

――ジッ

初春 「………………」

男 「初春さん……」

固法 「………………」

男 「固法さん……」

男 「っ……」

――――カタッ

白井 「………………」

男 「……白井、さん……」

男 「………………」

男 「……そう、ですか。みんな……そうなんですね」




274 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 02:00:54.01 ID:yEJIdI.o
男 「そっか……そうかよ……ッ」 ギリッ

男 「人の祈りを聞き届けるひとを……」

男 「人の痛みを共感して分かってくれるひとを……」

男 「親身になって人の話を聞いてくれるひとを……」

男 「……風紀委員っていうのは、そんなひとを疑うためにあるのかよッ……!」

……ガッ! スッ……

男 「だったらいらない……」 ――ッダン! 「こんな腕章はいらない!」

固法 「………………」

男 「僕は、今日限りで……」



男 「――風紀委員を辞める」



――ダッ!!

白井 「お、男さん……!!」

……スッ

白井 「固法、先輩……?」

固法 「………………」 フルフルフル 「……今は、放っておきなさい」

初春 「………………」 トトト……スッ 「……男さん、腕章を本当に捨てていきました……」

固法 「……仕方ないわ。今回に関しては、男くんは仕事から外れてもらいましょう」

白井 「………………」

……ギュッ

白井 「男さん……」




276 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 02:49:54.90 ID:PWGe2iIo
話の流れからして仕方ないけど
やっぱりこう言うシーンは読んでて辛いな……
男の覚醒に期待




278 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/15(水) 14:07:27.65 ID:DydSb.AO
黒子が健気で色々と辛い




282 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:32:11.54 ID:TR6nn9Uo
………………教会

シスター 「………………」

シスター 「ロシア民話における意味づけは完了……」

シスター 「あとはこれを……」 スッ 「……上手く、やるだけ」

シスター 「……お姉ちゃんは、あなたのために、絶対に上手くやるからね」

シスター 「わたしは――」

――……ガタッ……

シスター 「……?」 ――スッ

?? 「………………」

シスター 「男……?」

男 「……姉さん……」

……ポタッ……ポタッ……

シスター 「!? 男……あなた、泣いているの?」

男 「姉さん……」

シスター 「………………」 ニコッ 「……おいで、わたしの愛しい弟」

男 「姉さん……!」

ダッ――ヒシッ

男 「姉さん……姉さん……っ!」

シスター 「……どうしたの? なんてことは、今は聞かないわ」 フッ

シスター 「今は思う存分泣きなさい。お姉ちゃんでよければ、いくらでも泣いてくれていいから」 ギュッ

男 「……っ……あ……あ、ああああああああーーーーーーーっっ!!!」

――――ギュッ




283 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:36:22.35 ID:TR6nn9Uo
………………

シスター 「……そう。白井さんたちとケンカしちゃったのね」

男 「………………」 グスッ 「……ん」 コクン

シスター 「どうしても許せないことを言われたのね?」

男 「……うん」

男 「僕、は……ただ、白井さんたちを、巻き込みたくなくて……」 グスッ

男 「けど、そのせいで白井さんに信じて、もらえなくて……」

男 「だから、みんな……僕の言うことを、信じてくれなくて……」

男 「……あんなの、風紀委員じゃないよ。だから、僕は……もう、いいんだ」 グスッ

シスター 「………………」 ニコッ 「……そう」

――スッ……ナデナデ

男 「あ……」

シスター 「……信じてほしかったのね。けど、ダメだったのね」

シスター 「辛かったわね。悲しかったわね……よく頑張ったわ、男」

ナデナデ……

男 「……うん」




284 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:38:02.27 ID:TR6nn9Uo
シスター 「………………」

男 「………………」 (……姉さんの手は温かいな)

ギュッ……

男 (ずっとこうしていたいな……)

シスター 「……ねぇ、男」 ……スッ

男 「うん?」

シスター 「頑張った男に、一つプレゼントがあります」

男 「プレゼント?」

シスター 「うん。これ」

男 「……?」 スッ 「……白い指輪?」

シスター 「ええ。鹿の角を加工した指輪よ。ロシアの上司から届いたの」

男 「もらっちゃっていいの?」

シスター 「上司ったらおっちょこちょいでね」 クスッ 「ほら、わたしにはちょっとぶかぶかなの」

男 「ああ……本当だ」 スポッ 「僕にはちょうどいいや」

シスター 「うん。似合ってるわ」 ニコッ 「だから、それは男がもらって。大事につけていてね」

男 「……ん。ありがとう。大事にするね」




285 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 22:39:49.27 ID:TR6nn9Uo
シスター 「……その代わりと言ってはなんだけど……」

男 「なぁに? 僕にできることなら何でもするよ?」

シスター 「明日の朝にね、この教会で礼拝があるの」

シスター 「わたしひとりでもできないことはないんだけど……男にも手伝ってほしいなって……」

シスター 「……明日、大丈夫かしら?」 ジッ

男 「……うん。もちろん」 ニコッ 「空いてるよ」

シスター 「良かった」 ホッ 「じゃあ、明日の朝、この教会に来てね」

男 「うん」

シスター 「あ、あと、それからね……」

ゴソゴソ……

シスター 「これも、付き合ってほしいんだけど……」 スッ

男 「これって……あっ、明日のお祭り……」

シスター 「知ってたの? もし良かったら一緒に行かない?」

シスター 「わたし、この国のお祭りっていうイベントに行ったことがなくて、行ってみたいの」

男 「………………」

―――― 『……でも、悪くないな。白井さんと二人でお祭りっていうのも』

男 「……うん、一緒に行こう! きっと楽しいよ」

男 「僕がしっかりとエスコートするからね」

シスター 「ふふ……期待しているわ」

ニコッ

シスター 「――明日、楽しみにしてるからね」




286 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/16(木) 23:41:25.09 ID:ZgqX5FIo
男ばかあああぁぁぁ




287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:01:38.36 ID:VtOFwjwo
………………風紀委員第177支部

白井 「………………」

初春 「………………」 グスッ 「白井さん……」

固法 「………………」

――ファサッ

白井 「……?」

固法 「ブレザーだけじゃ冷えるわ。羽織ってなさい」

固法 「……辛いと思うけど、頑張りましょう。男くんもきっと、すぐに元に戻るわ」

白井 「………………」 コクッ 「……そうですわね。わたくしがしょぼくれていても仕方ありませんの」

初春 「白井さん……」 ウルッ

固法 「……例のシスターの監視は月曜日から開始するわ」

固法 「各自、さっき伝えたローテーション通りに動いてもらうわ」

初春 「……っ」 ゴシゴシゴシ 「はい!」

白井 「はいですのっ」

固法 「………………」

固法 (男くん……あなたは、本当にどうしてしまったというの……?)

固法 (願わくは、元の優しいあなたに早く戻ってくれることを……)




288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/17(金) 00:06:52.23 ID:VtOFwjwo
………………帰り道

初春 「………………」 トコトコトコ……

白井 「………………」 トト……

初春 「………………」 (白井さん、とっても辛いだろうに、何でもないって顔してます……)

初春 (男さん……)

――ピロリン!

初春 「メール……佐天さんからだ」

初春 「……あっ……」

白井 「……? どうしたんですの?」

初春 「あ……いえ、その……」 アセアセ 「……明日のお祭り、一緒に行かないかって……」

白井 「………………」

初春 (わーーーーっ! 佐天さんの地雷踏みーーーっ)

白井 「……良いですわね」 ニコッ 「気晴らしですの。どうせですからお姉様や固法先輩もお誘いしてみんなで行きましょう」

初春 「白井さん……」 グッ 「そうですねっ! みんなで行きましょうっ!」

白井 「楽しみですわね」 ニコッ

初春 「はいっ!」

白井 「………………」

白井 (男、さん……)




295 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:36:45.77 ID:0LoI1rwo
………………翌日

月子 「………………」

世話子 「? どうしたんですか月子ちゃん? 仏頂面だよ?」

月子 「……べつに仏頂面などしてはおらぬ。不機嫌でもない」

止 「だったら何だっていうんだ?」

月子 「――変、ではないかの?」 モジモジ

世話子 「変? 何が?」

月子 「だからっ……!」 カァァ…… 「……洋服などわれには似合わぬのではないか、と問うているのだっ」

止 「………………」

世話子 「………………」

月子 「な、なんだその沈黙はっ!」

世話子 「何って、ねぇ?」

止 「……まぁなぁ」

月子 「……?」

世&止 「「そんなに似合ってるのに今さら何を」」

月子 「ふぉっ……?」




296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:38:02.43 ID:0LoI1rwo
月子 「どっ、どういう意味だっ!?」

世話子 「意味も何もそのままですよ。要はぁ……」

ソロー……ギュッ!!

月子 「ふぉ!? いきなり抱きつくでないっ!」

世話子 「あー月子ちゃん可愛いモフモフしたい! もふもふもふもふ!」 モフモフ

月子 「ふぉーーーぉーーーぁーーー…………」 トロン

世話子 「もふもふもふもふ……黒髪くんくん……もふもふもふ……むふふ」 モフモフ

世話子 「艶やかな黒髪パッツンに白いワンピースなんて……あーもふもふもふ」 モフモフ

――ビシッ

止 「誰もそこまでやれとは言ってねぇよ変態」

世話子 「痛い……」 スリスリ 「突っ込みに愛がないですよ。酷いなぁ止さん」

止 「うるせぇ」

月子 「――……ふぉーーぉー……」

止 「お前もいつまでぶっ壊れてるんだ?」

月子 「ふぉーぉー……」 ハッ 「わ、われは何を……!?」

止 「……付き合いきれねぇ。俺、帰っていいか?」

世話子 「えへへ。冗談ですよ冗談」

月子 「われは冗談では済んでないのだが……」




297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:40:21.59 ID:0LoI1rwo
止 「……とにかく、お前は変じゃないよ。安心しろ、月子」

月子 「トマル……」

止 「むしろよく似合ってるぞ。それで変なんて言ったらバチが当たるから気をつけろ」

月子 「………………」

――……ッボン!!

止 「……? どうした? 顔赤いぞ?」

月子 「あ、赤くなってなどおらぬ! 照れてなどおらぬっ!」

世話子 「月子ちゃーん? 自爆してるよー?」

月子 「だ、黙っておれ世話子っ!」

止 「………………」 (照れる? 何でだ?)

世話子 「でも止さんは私のものなんですからねー?」

月子 「なっ……! と、トマルはわれのものだっ!」

世話子 「私のですー」 スッ……ギュッ! 「そして月子ちゃんも私のものっ!」

月子 「ふぉーーーー……ぉーーー……」 トロン

止 「俺は誰のものでもねぇよ。つか何回繰り返すつもりだお前ら」




298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:41:00.75 ID:0LoI1rwo
世話子 「はっ! そうです! 今日はこんなことをしている暇はないのです!」

世話子 「今日は目一杯遊ぶんですからね!」

世話子 「……さっ、行きましょ、月子ちゃん」 スッ

月子 「うむ……しかし、決戦直前の昼だというのに……」

世話子 「だからこそ、だよ。ずっと緊張してたら気が滅入っちゃう」

止 「………………」 フッ 「……まぁ、息抜きは大事だよな」

月子 「む……」 コクン 「うむっ!」

スッ――ギュッ

………………スッ

止 「あん?」

月子 「トマル、こっちの手が空いてるぞ?」

止 「だから何だよ?」

月子 「………………」 ジッ

止 「………………」 チッ 「……仕方ねぇな」

スッ――ギュッ




299 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:42:14.73 ID:0LoI1rwo
月子 「うむ!」

世話子 「ふふ……」 (まるで私と止さんが夫婦で、月子ちゃんが娘みたい……なんてね///)

世話子 「さぁ行きましょう、止さん、月子ちゃん!」 ビシッ 「まずはショッピングモールでお買い物ですっ!」

月子 「うむ、行くぞ世話子!」 ダッ

止 「のわっ!」 ヨロッ 「俺の手を掴んだまま走るなお前ら!」

月子 「トマル、早く走れ!」

止 「っ…………」 フッ (……世話子なりに、月子のためを思ってやってるのか)

止 (たかだか二、三日で月子はここまで笑うようになった……)

止 (これは間違いなく世話子のおかげだろう。そして月子も、それを分かってる)

止 (……だったら俺がその笑顔を潰すわけにはいかないよなぁ)

ギュッ

止 (大丈夫。万一の時のためにボストンバッグは持ってきている。何があったとしても問題ない)

止 (今日は目一杯、せめて月子に “普通” を味わわせてやらなきゃな)




300 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:48:13.95 ID:0LoI1rwo
………………服屋

……シャッ――

世話子 「トマルさん! どうですどうです? 可愛いでしょう?」

止 「おー、似合ってるぞ」 フッ 「――月子」

月子 「そ、そうだろうか……? ////」

止 「ああ。どうせだからその花柄ワンピも買うか」

月子 「ほっ、本当か!?」

止 「おう。普通の女子は服を欲しがるもんなんだろ? 買ってやるよ」

月子 「トマル……///」

世話子 「………………」 プクゥ 「止さん! 私の方も見てくださいよ!」

止 「あー可愛い可愛い良かったな」

世話子 「おざなりっ!?」

止 「買ってもいいぞー?」

世話子 「てきとうっ!?」

止 「冗談だよ」 クルッ 「……ま、まぁ、似合ってるんじゃねぇの?」

世話子 「むぅ……?」 ズイッ 「本当ですか?」

止 「あ、ああ……」 (胸元開きすぎなんだよバカヤロウ……!)

世話子 「???」




301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 21:49:14.06 ID:0LoI1rwo
………………ゲームセンター

月子 「……何だこの煩い場所は?」

止 「やっぱりゲーセンも知らないのか」 カリカリ 「とはいえ、俺も友達いなかったからあまり知らないんだけどな」

世話子 「そういうせつないことをサラリと言わないでください」

世話子 「ここはゲームセンターって言って、ゲームで遊ぶ場所なんです」

月子 「ふむ? げーむ……遊戯であるか」 キョロキョロ

止 (何だかんだで興味津々だな)

月子 「む……これは何だ?」

世話子 「それはモグラ叩きだよ。ここにコインを入れて……」

月子 「おお! モグラ……? みたいなのが出てきたぞ!」

世話子 「それをこのハンマーで叩くんです。さ、どうぞ、月子ちゃん」

月子 「うむ!」

――バンバンバンドドドドドドン!!!!

止 「……うわぁ」 クスッ (すげぇスピード。容赦ねぇなあいつ)

?? 「………………」

止 「あん……?」 チラッ 「あれは…… 『超電磁砲』 !?」

ササッ

世話子 「……? 止さん?」




304 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:02:32.84 ID:0LoI1rwo
止 (何だって第七学区でもねぇのに 『超電磁砲』 がいやがるんだよッ……!)

止 (周りに……白井や男は……いねぇか)

止 (色々と調べてみたら、『超電磁砲』 と風紀委員には強い繋がりがあるらしいからな……)

御坂 「………………」

――……ハァ

止 (……? 何だ?)

御坂 「………………」

――…………ハァ

止 「………………」 イラッ

止 (……あの女……)

止 (テメェはヒーローだろうがっ……! 何だってそんな顔してやがるんだよ……)

止 (ヒーローならヒーローらしく、常に強そうにしてやがれよ……!)

止 (――っと、これはちと勝手が過ぎるか)

御坂 「………………」

――――…………ハァ

止 「………………」

――ブチッ

世話子 「止さん? さっきから一体――」

止 「――世話子、悪い。五分だけ空ける」 タッ

世話子 「えっ……? と、止さん!?」




305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:06:09.13 ID:0LoI1rwo
………………

御坂 「………………」

御坂 (……何なのよ)

ギリッ

御坂 (何なのよ……あいつ……あの電話、本当なの……?)

御坂 (一体いつから? どんな風に? もしかして、あの時のことも……?)

?? 「おい」

御坂 「……?」 スッ 「……あんた……遊園地であいつと一緒にいた……」

止 「『通行止め』 だ。他に名前はない」

御坂 「……何か用?」

止 「………………」 フゥ 「……単刀直入に聞くが、何かあったのか?」

御坂 「……?」 ギロッ 「……あんたになんの関係があるのよ」

止 「ないな。あるはずがない」 ギリッ 「だが、気に入らないんだよ」

御坂 「はぁ?」

止 「……テメェはヒーローだろうが。なのに何で、そんなしょぼくれた顔してやがるんだよ」

御坂 「………………」




306 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:07:45.15 ID:0LoI1rwo
御坂 「……人を勝手にそんなものにしないで。私はただの中学生よ」

止 「………………」 チッ 「……本当に死んでやがるんだな。くそったれが」

クルッ

止 「だが一つだけ覚えておけ、『超電磁砲』」

御坂 「………………」

止 「お前に憧れてる奴もいる。お前を勝手にヒーローにして期待してる奴もいる」

止 「そいつらを裏切るな。お前はこの街で数少ない本物の超能力者だろうが」

止 「……それだけだ。勝手を言った」 スッ…… 「じゃあな」

御坂 「――ねぇ」

止 「……あん?」

御坂 「……もし、――」



御坂 「――もし、あんたがヒーローだと認める人間が、記憶喪失だと分かったら?」



止 「はぁ?」

御坂 「もし、一度自分の何もかもを救ってくれた相手が記憶喪失中だと分かったら、あんたはどうする?」

止 「………………」

御坂 「あんたの言うヒーローが記憶喪失だって分かったら……あんたはどうするって、そう聞いてるのよ」




307 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:09:29.26 ID:0LoI1rwo
止 「………………」

止 「……変わるのか?」

御坂 「えっ……?」

止 「それで何か変わるのかと、そう聞いている」

御坂 「……どういう、意味?」

止 「俺の知ってるヒーローは、きっと記憶をなくした程度じゃどうにもならない」

―――― 『そんな奇跡を……待つことが、できるんだよ……!』

―――― 『俺はレベル0だよ……それでも、戦わなきゃならねぇから戦うんだ! 結果なんて考えてる場合かよ!?』

止 「……あいつらの根幹は、きっともっと別の場所にある。記憶程度じゃ揺らがない、奥深くにな」

御坂 「………………」

止 「……お前がそいつのことをヒーローだと思うのなら信じてやれ」

止 「そうすれば、ヒーローって奴は何も変わりはしねぇ。記憶をなくそうが、な」

止 「……まぁ、お前自身の気持ちの整理がつくかどうかは別だが」

御坂 「………………」

止 「……なぁ、『超電磁砲』 。俺はお前もそんなヒーローだと思ってるんだぜ?」

止 「だから期待を裏切らないでほしい……なんて、勝手極まりねぇな」

止 「……お前が思うよりずっと、お前に憧れてるレベル1やレベル0は多い。それだけは忘れるな」

止 「長々と勝手なことを喋っちまったな。悪い」 スッ 「……今度こそ、じゃあな。もう会うこともないだろうが」

………………

御坂 「………………」

御坂 「……私、は……」

御坂 「私は……」




308 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:10:47.94 ID:0LoI1rwo
………………

世話子 「――あっ、止さん!」

止 「? 何だ、焦ったような顔をして」

世話子 「その……ちょっと目を離した隙に月子ちゃんがいなくなっちゃって!」

止 「はぁ……?」 ハッ 「はぁぁああ!!?」

………………

月子 「むぅ……」 キョロキョロ 「トマルと世話子がどこかへ消えてしまったのだ」

月子 「奴らめ。いい歳をして迷い子か。まったく世話が焼ける」

月子 「……しかし、われはどちらから来たのであったか?」

月子 「むぅ……」

キョロキョロ……キョドキョド……

月子 「うぅ……」

――ジワッ

月子 (……一人はもういやなのだ。トマル、世話子……どこにいるのだ?)

?1 「あ……? ねぇねぇ、あの子」

?2 「どうしたの? あー……うん。そうっぽいね」

?1 「……助けてあげなくちゃ!」

?2 「うん、そうだね」

月子 「むぅ……うぅ……」

――……ホロリ――




309 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:12:41.84 ID:0LoI1rwo
?1 「――あのあの、髪がとっても綺麗なあなたっ!」

月子 「!!」 ビグッ 「……わ、われのことか?」 ソロリソロリ (驚いて涙が引っ込んでしまったのだ)

月子 (子供が……二人?)

?2 「あのねぇ幼女ちゃん。いきなり背後から大声上げたらビックリさせちゃうでしょ」

幼女 「あ、そっか。ごめんね、ミツアミちゃん。それからあなたも。ごめんね?」

ミツアミ 「この子も悪気はないの。許してあげてね」

月子 「う、うむ……」 コクン 「大丈夫だ。われはそこまで狭量ではない」

幼女 「良かった!」 ニコッ 「初めましてっ! わたしはね、幼女っていうの!」

ミツアミ 「私はその友達のミツアミ。よろしくね」

月子 「む……」 コホン 「われは 『月 ―― 月子という。よろしく」

ミツアミ 「……ん、月子ちゃん」 ニコッ 「……ところで月子ちゃんさ……」

月子 「うむ?」

ミツアミ 「……迷子、だよね?」

月子 「!?」 ビクッ 「だっ、誰が迷い子であるか!」

幼女 「えー? だってひとりでキョロキョロしてたよ?」

月子 「そ、それは、連れを探していただけのことだっ」

ミツアミ 「……子どもが一緒に来た人を探してる状態のことを迷子って言うんだよ?」




310 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:14:52.93 ID:0LoI1rwo
………………ワーワーギャーギャー

世話子 「あっ! いましたいました! 良かったぁ……」 ホッ

世話子 「なんか女の子ふたりと一緒にいますね」

止 「………………」

世話子 「止さん?」

止 「………………」 (クソッタレなんだってあのガキがこんな場所にいやがるんだよ……!)

止 (『超電磁砲』 といいあのガキといい、第七学区で遊べばいいだろうが……)

世話子 「止さん、どうしたんです? 早く月子ちゃんを迎えに行きましょうよ」

止 「………………」 (いや、待てよ……?)

止 「……いや、お前だけ行ってやれ。俺は着かず離れずの距離で見ている」

世話子 「えっ……? どういうことですか?」

止 「あいつだって同年代の友達がほしいだろうからな」

ニヤリ

止 「“普通” に戻ったときの予行練習だよ」




311 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:15:43.34 ID:0LoI1rwo
………………

世話子 「――だ、そうですよ?」

月子 「どういうことだ?」

世話子 「さぁ? 友達がいない寂しさを月子ちゃんに味わってほしくないってことじゃない?」

………………物陰

止 (聞こえてるし余計なお世話だよ)

………………

世話子 「と、いうことで、可愛らしい女の子方」

幼女 「はいっ!」

ミツアミ 「そこで胸を張って返事をするあたりしたたかなように見えるけど実は何も考えてないよね幼女ちゃん」

世話子 「この月子ちゃんとお姉さんも一緒に遊んでもいいですか?」

幼女 「わーいっ! 月子ちゃんとおねーさんも一緒だってミツアミちゃん!」

ミツアミ 「う、うん……」 (まぁ、悪い人じゃなさそうだし……)

ミツアミ 「そもそも二人だけっていうのも少し心細かったしね」 ペコリ 「よろしくお願いします」

世話子 「ん。ありがとう」 ニコッ 「ほら、月子ちゃんも」

月子 「む……。ありがとう」





312 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:16:31.51 ID:0LoI1rwo
幼女 「えへへー。じゃ、行こ、月子ちゃん」 ガシッ

月子 「む?」

幼女 「えへへへー」 ダッ

ミツアミ 「あっ、ちょっと幼女ちゃん!」

世話子 「ふふ……」 スッ 「……私たちも、行こう?」

ミツアミ 「あ……」 スッ……ギュッ 「は、はいっ!」

………………UFOキャッチャー

月子 「む? 何だこれは?」

幼女 「? UFOキャッチャーだよ?」

ミツアミ 「このカニみたいな爪で中のぬいぐるみを掴んで取るゲームなの」

月子 「むぅ……」 ……ポッ (可愛い……)

ゲコ太 「………………」

月子 「………………」 スッ……チャリンチャリン

世話子 「ふふ……」 グッ 「頑張って!」

ミツアミ 「……がんばってねっ」

幼女 「がんばれ月子ちゃん!」




313 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:24:09.62 ID:0LoI1rwo
………………プリクラ

月子 「むぅ……」

世話子 「ああいうゲームはなかなか上手くいかないものなんですよ」

ミツアミ 「惜しかったね……」

幼女 「あとちょっとだったのにねー」

月子 「………………」

ミツアミ 「月子ちゃん……」 アセアセ 「……あっ、みんなみんな!」

世話子 (この子、大人なように見えて焦ると面白なぁ) 「どうしたんですか?」

ミツアミ 「あれ……みんなでプリクラでも撮りませんかっ?」

幼女 「わっ、いいなっ。わたしも撮りたい!」

世話子 「いいね、プリクラ。みんなで撮ろうか」

月子 「……? プリクラとは何だ?」

世話子 「簡単に言えば、みんなで可愛い写真が撮れる機械だよ」

月子 「!? 写真だと!? あの魂の複写を作り出す禁断の呪法のことかっ!?」

ミツアミ 「………………」 ポカーン 「……禁断の呪法……?」




314 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:25:17.26 ID:0LoI1rwo
幼女 「何それー?」

月子 「知らぬのか!? あの西洋から送られてきたとされる、忌まわしき霊装のことを……」 ワナワナ

世話子 「大丈夫大丈夫」 グイグイ 「科学100%だからそんなものが介在する余地はありませんよ」

月子 「は、放すのだ世話子!」 ジタジタ

世話子 「やーでーすー」 ニコッ 「さ、幼女ちゃんもミツアミちゃんも、一緒に写ろ」

幼女 「うん!」

ミツアミ 「は、はいっ」

………………

ピロリン♪

世話子 「……ん、ちゃんと撮れたみたい」 スッ 「さっ、みんなでラクガキしよ」

幼女 「わーいっ」 カキカキ

月子 「むぅ……?」

ミツアミ 「はい、スタイラスペン」 ニコッ 「幼女ちゃんがやってるみたいに、この画面に何か書きたいこと書いてみて」

月子 「……うむ!」 ニッ 「有り難う、みつあみ」

ミツアミ 「どういたしまして」 ニコニコ




315 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:28:29.25 ID:0LoI1rwo
………………遊び終わって

世話子 「はい、じゃあプリクラの画像は後で二人のアカウントアドレスに送っておくからね」

幼女 「うん! 後で寮母さんにプリントしてもらうんだっ」

ミツアミ 「そうだ! 今度写真立て買いに行こうか?」

幼女 「そうだねっ。かわいいの買って、お部屋にかざるのっ」

月子 「………………」

幼女 「月子ちゃんも一緒に行こ?」

月子 「へ……?」

ミツアミ 「……また今度、一緒に遊ぼうね」 ニコッ

月子 「あっ……わ、われは……」

世話子 「――そうですね。また月子ちゃんと遊んでくれると嬉しいです」 ニコッ 「ね、月子ちゃん?」

月子 「あ……」 グッ 「う、うむ! われもまた、幼女とみつあみと、遊びたいのだっ」

幼女 「えへへへ……」 ニコッ 「じゃあ、また今度ね、月子ちゃん。おねーさんも、バイバイ!」 ノシ

ミツアミ 「お世話になりました。また今度」 ペコリ 「……月子ちゃん、絶対また遊ぼうねっ」 ノシ

月子 「う、うむ! 気をつけて帰るのだぞ! 幼女! みつあみ!」




316 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:29:17.92 ID:0LoI1rwo
………………

月子 「………………」 ニヘラ 「……ふふ……」

ポン

? 「良かったな。友達ができて」 ナデナデ……

月子 「トマル……」

止 「世話子も、ガキのお守りご苦労様だな」

世話子 「いえいえ、私も楽しかったですから」 フッ 「ねぇ? ひとり寂しく尾行してた止さん?」

止 「っせーな。俺はあのガキは苦手なんだよ」

世話子 「さすがロリコン……」 ブルッ 「この付近の幼女少女全てに目星をつけているんですか……」

止 「ちげーよ。っつかあのガキは第七学区に住んでるんだよ」

世話子 「それがすごい自爆発言になっていると気づかない止さんなのであった」

止 「だからうるせぇ!」

月子 「………………」 ニヘラ 「……友達、か」

世話子 「………………」 チラッ

止 「………………」 チラッ

フッ

止 「さて、帰るとするか」 (クソッタレな案件をさっさと終わらせて、月子を……)

世話子 「そうですね。決戦直前です。ここからは気を引き締めましょう」 (この日常に送り出す……!)

月子 「へへ……ふふ……ふふ……――――――」


――――――ッッキャァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!




317 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:43:28.03 ID:0LoI1rwo
止 「!?」 (悲鳴!? この声はあのガキ二人組の……!)

月子 「幼女!? みつあみ!?」 ダッ

止 「月子……!?」 ギリッ 「くそっ……! 行くぞ世話子!」 ダッ

世話子 「はい!」 ダッ 「悲鳴はあの角を曲がった先から聞こえました!」

止 「ああ!」

バッ

月子 「……? 誰もいない……?」

止 「いや……」 タタタ……スッ 「これはあのガキ共のバッグだろ?」

世話子 「たしかに……」 ギリッ 「と、いうことは、あの二人は何者かに連れ去られたということですか」

止 「いや、車のエンジン音も何もしなかった。普通に考えれば悲鳴からこの短時間でそんなことは不可能だ」

世話子 「えっ……? じゃあ……」

止 「なるほど、クソッタレな演算の残滓がある」 ツッ…… 「“上” だな」

世話子 「上……?」

止 「………………」 フン 「……何にせよ俺たちには関係ない。帰るぞ、月子、世話子」

月子 「!?」




318 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:44:31.91 ID:0LoI1rwo
月子 「トマル! それは本気で言っているのか!?」

止 「生憎と冗談は言わない性分なんでな」

月子 「あの二人を……見捨てて行くというのか!!」

止 「見捨てる? 勘違いするな。俺にとってあのガキ共は何の関係もない連中だ」

止 「俺はヒーローでもなんでもない、ただの人殺しだ」 フッ 「そんな人殺しが、人助けをすると思うか?」

月子 「し、しかし! あの二人は――」

止 「――お前はお前のことだけを考えていろ」 ギロッ 「無関係なことはもう無しだ」

月子 「っ……」 ギリッ

止 「……関係ないんだよ。あのガキ共は、俺たちには」

止 (……俺はヒーローじゃない。ただの人殺しに、何かをする権利なんてないんだ……)

―――― 『くく……だから、彼女には勝手に死んでもらおうと思ったというわけだ。この中でな』

止 (だってそうだろう? 俺はあのガキを殺そうとしたんだぞ? それが元で、暗部に落ちたようなクズなんだぞ?)

止 (それがどうしたら、そんなヒーローみたいなマネができるっていうんだよ)

止 (俺はただの人殺しだ。俺はヒーローじゃない) ギリッ (ただの……人殺しなんだよ)

止 (俺は……)




319 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:45:54.61 ID:0LoI1rwo
月子 「トマル……」

世話子 「………………」

止 「………………」

―――― 『……うーん、カエルのおにーさん、どこかで会ったことない?』

止 (っ……!)

止 (それでも……それでも俺は……ッ!)

ギリッ

止 「……少し用事を思い出した。先に本拠に帰ってろ」

月子 「トマル……!」 パァァ

世話子 「止さん……」 ニコッ

止 「変な顔をするな。俺は何もしやしない」

止 (……これは正義じゃない。ただ単純に俺の自己満足。俺が殺したい奴を殺し、生かしたい奴を生かすという、ただそれだけのこと)

止 (俺は人殺しだ。生かしたいと思ったワガママを、人殺しをして貫き通すだけのこと)

止 (罪滅ぼしなんかじゃない。ただの俺のワガママだ。だからいいだろう)

止 (ヒーローじゃない、ただの人殺しの俺が、かつて殺そうとしたガキを助けようとするくらい)




320 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:47:38.85 ID:0LoI1rwo
………………ビル屋上

?? 「ぐふ……ぐふふふ……っ」

ジュルッ

?? 「ほんと、簡単すぎてヨダレが止まらないよ」

?? 「人気のないビルの谷に入った子供を、僕の能力で屋上までつり上げるだけで誰にもバレやしない」

?? 「ポニテ幼女に三つ編み幼女……」 グフッ 「ふふ、今日はついてるなぁ。二人も一気に網にかかるなんて」

幼女 「………………」 zzzzz……

?? 「さて……寝かせておいてもつまらないし、起こすとするか」

?? 「聞かせてくれよ? 極上の叫び声を……」

ククククククククククククク……

ミツアミ 「ぅ……ん……?」

?? 「んあ?」 ニィ 「よほど運がないみたいだね。起こすまでもなく起きた?」

ミツアミ 「ん……だ、れ……?」

?? 「名乗る気はないよ。ただ一つ言えるとすれば、」

?? 「――君を犯し殺す者ってところかな?」

グフフ……

ミツアミ 「へっ……? あ、あのあの……」

――――ッガ!!




321 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:51:56.26 ID:0LoI1rwo
ミツアミ 「ひっ!?」

?? 「まずは君からだよ」 ニタリ 「ぐふふ……可愛いなぁ可愛いなぁ」

ミツアミ 「や……! いや! やめてください!」

?? 「可愛い顔に可愛い声に可愛い匂い……ぐふっ、素敵だよ素敵すぎるよ……!」

ミツアミ 「いやっ!」

――バッ……トトト……

?? 「っ……逃げるなよ面倒だなぁ」

……スッ キィィィィィィ……

ミツアミ 「へっ……?」 フワッ 「か、身体がっ……?」

ミツアミ 「――身体が浮いてるの!?」

?? 「僕の網にかかったらもう逃げられない。逃げてはいけない」 グフッ

?? 「無駄な抵抗はやめておこうよ。半径50メートルまでは僕の能力の射程範囲内」

?? 「僕の能力と君の足、どちらが早いか競争してみるかい?」

ミツアミ 「お、下ろして! 下ろしてくださいっ!」

?? 「もちろん下ろすよ? じゃないと君にいたずらができないから」

ミツアミ 「いたずら? い、一体なにをするんですか?」




322 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:52:55.71 ID:0LoI1rwo
?? 「いいなぁその純粋無垢な質問。興奮するよ」

?? 「何をするってそれはもちろん、」 ニタッ 「君の大事なところに僕の大事なものを突っ込むってだけのことだよ」

ミツアミ 「はぇ……?」

?? 「血が一杯出て、とっても痛いけど、とっても気持ちいいことなんだよ?」

ミツアミ 「血!? 痛いことなら私はしたくありません!」

?? 「悪いけど君に拒否権はないんだねぇ」

ニタリ

?? 「早い話が、さっさとヤらせろよ、ってことかな?」

――フワフワ……

ミツアミ (ち、近づいてるの!?) ジタジタ (やっ……いやっ!)

?? 「ぐふっ……ぐふふ……」

ミツアミ 「いや……誰か……」

ギュッ

ミツアミ 「誰か、たすけて……!」

――――ジジッ




323 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:55:01.45 ID:0LoI1rwo
?? 「っ……!?」 (なっ……!)

ビジッ!! パスッ

ミツアミ 「きゃっ……」 (落ちる……!?)

……ストン

ミツアミ 「はぇ……?」

? 「油断している相手への演算の割り込みならこんなもんか。一時的に能力を無効化できる、と」

? 「便利には便利だが、不意打ち程度にしか使えねぇな」

ミツアミ 「……!!」 (私、お姫様抱っこされてるの!?)

? 「大丈夫か? ……なんて聞くのは俺の役目じゃねぇか」

……スッ

ミツアミ 「あっ……」

? 「そこで静かにしてろ。怖ければ耳を塞いでもいい。目を閉じてもいい」

?? 「……邪魔者か。煩わしいなぁ」 ギロッ 「一応聞くけど、何者だい?」

? 「あいにくと名前はない。能力名もそこまで有名というわけじゃないしな」

止 「――とりあえず、“能力殺し(AIMキラー)” と名乗らせてもらおうか」




324 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 22:58:51.54 ID:0LoI1rwo
?? 「……なるほど。まさか都市伝説と実際に対面できるとはね」

?? 「サイトでは愉快的能力暴走者と書かれていたが……正義の味方というご職業だったとはねぇ」

止 「勝手に人をヒーローなんかにしてんじゃねぇよ、クソッタレ。俺はただの人殺しだ」

止 「……覚悟しろよレベル4の 『純念動力者(ローサイコキネシスト)』 。俺の標的はお前だぞ」

純念動力者 「……!?」 ギリッ 「……ははっ、そこまで有名になった憶えはないんだけどねぇ」

止 「“もっとも超能力者らしい能力の一つ、『念動力』 が純粋に研磨された 『超能力らしい超能力』”」

止 「……まぁ、大したキャッチコピーじゃないがな。早い話が客寄せのための動物園のゾウってとこだ」

純念動力者 「………………」 クスッ 「……なるほどね。まぁそもそも逃がすつもりもなかったけど、」

純念動力者 「死にたいらしいからサクッと殺してあげようか」

止 「それはこっちの台詞だクソ野郎。大事な案件の前にくだらねぇ用事を増やしやがって」

止 「……だがまぁ、ひとつだけ感謝すべきことがある」

止 「このボストンバッグの中身―― “武装” の試用をさせてもらえること、それだけはお前に感謝してやるよ」

ツー……――――ガヂャッ!!!

止 「……だからこれは、対戦相手としてはお前が初めて見ることになる」

止 「“最凶の対能力者戦術” 、」 ニヤリ 「―― 『斉撃』 をな」




325 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:11:46.85 ID:0LoI1rwo
――――……数日前 『ボックス』 本拠

カタタタタ……

止 「………………」

世話子 「? 何か調べ物ですか?」

止 「……いや」

止 (……俺は弱い) カタカタカタ…… (低レベル能力者相手なら負けはないが……)

止 (相手が俺と同位のレベル4、上位のレベル5、もしくは能力者以外だった場合、俺の勝ちは一気に怪しくなる)

止 (一気に強くなることなど不可能だと知っている。だが、何か俺の目的に合致した戦術や武装があるはずだ)

止 (……このままでは間違いなく俺は死ぬ。俺が死ぬということは、メイとイルの安全は保障されないということだ)

止 「………………」 ガクッ 「……はぁ」

止 (学園都市中枢のサーバにクラッキングをかけてみたが、大したものはねぇな)

止 (俺レベルのクラッキングじゃ入れる場所なんてたかが知れてるしな……) カタカタカタ

止 (検索キーワード……いや、閲覧対象を広げてみるか……)

世話子 (止さん、何やってるんだろ?) チラッ 「……? 論文でも閲覧してるんですか?」

止 「ん? ああ……。アンチスキルが書いた論文だよ」 カタカタカタ……カタッ




326 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:13:40.62 ID:0LoI1rwo
世話子 「なになに? “一対多状況下における圧倒的火力による単騎での敵勢力殲滅に関する研究” ?」

止 「は……?」 ジッ 「なんだ? さっき検索をかけたときはこんな論文はなかったぞ?」

止 「……? 論文提出者、Stephanie Gorgeouspalace ……? アンチスキルを辞めているのか」

止 「……なるほど。アンチスキルとしての本分を逸脱した戦術の理論展開のため論文は受理されず、記録だけが残ったと」

止 「だからわざわざディレクトリを分けて、隠すように置いてあったのか」

世話子 「……うっわー。えげつないこと書いてありますよ。ショットガンを持って敵陣に突っ込むってことかな?」

止 「………………」

世話子 「? 止さん?」

止 「……なるほどな。これは使えるかもしれない」

世話子 「へ?」

止 (……誰もこのステファニーとやらが言わんとしていることを理解できなかったんだろうな)

止 (コイツは大多数を相手にする際の戦術としてこの論文を書いたんじゃない)

止 (大能力者以上の強大な能力者を倒すための戦術をここに展開しているんだ……)

ニヤリ

止 「……なら、せいぜい有効利用させてもらおうじゃねぇか」 クク…… 「感謝するよ、ステファニーさんとやら」




327 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:16:27.65 ID:0LoI1rwo
………………

純念動力者 「………………」

グフッ

止 「……? 何が可笑しい?」

純念動力者 「何が可笑しいって、そんなの決まってるよねぇ。君がそんなオモチャを取り出したことに決まってるだろ?」

純念動力者 「さっきの僕の 『念動力』 の阻害に関しては驚かされたけど、それで何かができるわけではないんだね」

止 「……何が言いたい」

純念動力者 「決まっているよね。“能力殺し” とは大した能力者ではなかったということさ」

純念動力者 「ショットガンかな? そんなものに頼らなきゃ戦えないなんて……本当に哀れなことだよ」

止 「……オモチャかどうか試してみるか?」

純念動力者 「試すまでもないよ」 スッ 「“能力殺し” の正体はこのノイズなんだね。なら、能力の演算式を変えるだけで対処できる」

純念動力者 「悪いけど僕はイラついているんだ。すぐに終わらせるよ」

――――キィィィィ……

止 「ッ……!」

ブゥン!!

純念動力者 「……へぇ、背後からの攻撃をよく避けたね」




328 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:18:27.84 ID:0LoI1rwo
止 (屋上の床に敷き詰められたタイルの一枚…… 『念動力』 で動かしているのか)

止 (軽そうだが固い。あの勢いで頭に当たったら致命傷だな)

純念動力者 「一度避けたくらいで安心するなよ?」

ヒュン!!

止 「っ……!!」

――ズザッ!!

止 (この様子では不規則な軌道は描けない。せいぜい直線とその時点でのスピードに応じた円運動だけだ)

止 (いくら速度が高くとも軌道が読めれば回避は簡単なことだ。そして――)

止 「―― 『機械化小銃(メカニカルライフル)』 、“弾丸を通常弾へ(Barrett = HP)” 、」

――ガゴッ!……パァン!

止 「……確率が最大の状態で物体を破壊。それで終わりだ――」

純念動力者 「――なんて思ってはいないよねぇ?」

ニヤァ

止 「……ッ!?」

……ヒュンヒュンヒュンヒュン!!!!




329 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:24:41.23 ID:0LoI1rwo
止 (破砕した破片がそのまま向かって……!?)

ドガガガガガガ!!!!

止 「――がッ……!!?」

ガクッ……

純念動力者 「………………」 グフッ 「面白なぁ」

純念動力者 「まさか僕ほどの念動力使いが、たかだか十ほどのタイルの欠片を操作できないとでも思った?」

純念動力者 「操作してる物体を破壊したって、念動力の力場を変化させれば欠片の全てを操作可能なんだよ」

止 「っ……!」

純念動力者 「……機械化小銃ねぇ。まさかそんな時代遅れの骨董品を持ち出してくるとは思わなかったけど」

純念動力者 「今や時代は演算銃器だよねぇ? 言葉による指令を必要とする旧時代の遺物……本当にオモチャだね」

止 「……っ、」 ギリッ 「長々と説明ありがとよ。おかげで解説の手間が省けた」

純念動力者 「ああ、まだ立つんだ? 結構なダメージだったと思うけど」

止 「小さい破片がいくつ当たったところで致命的なダメージには成り得ない」

純念動力者 「なるほどね。精神論でどうにかできるというレベルってことか。熱血だねぇ」




330 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:27:40.14 ID:0LoI1rwo
――ガチャッ!!

止 「これで終わりだ! “弾丸を散弾へ(Barrett = Shot)”」

ガゴッ……ドバァッ!!!

純念動力者 「……はぁ」

キィィィ……バババババ!!!!

止 (!? タイルが何枚も飛来して……!? くそッ! 念動力か!)

純念動力者 「……悪いけど、そんな時代遅れの銃器じゃ僕を傷つけることはできないよ」

止 「ッ……!」 (くそったれ! まずい……!)

――――ダッ

純念動力者 「ああ、やっぱり気づいた? 僕はね、一度に大量の物を操作する技能にも長けているんだよ」

ニタリ

純念動力者 「防御に使ったこのタイル……一斉に君にぶつけたらどうなるのかなぁ?」

止 (くそったれが……ッ!) ガシッ 「来いッ!」

ミツアミ 「へっ? は、はいっ……!」

……ヒュンヒュンヒュン!!!




331 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:31:28.28 ID:0LoI1rwo
幼女 「………………」 zzzz……

止 (間に合ったか……) ザッ!! 「……このガキと一緒にいろ。絶対に動くなよ」

ミツアミ 「は、はい!」

ヒュンヒュンヒュン!!!

止 「くそがッ……!」 ――ガチャッ   ……ドバァ!!! ドバァ!!! ドバァ!!!

止 (塵レベルまで破砕しちまえば……!)

純念動力者 「ふぅん。判断が早いからなかなか攻撃が与えられないなぁ」

止 「……散弾は面攻撃だから防御にも優れてるんだよ。覚えとけ」

純念動力者 「面、ねぇ……」 ニタリ 「なら、こうしてみようか?」

キィィィ……バキッ……バキッバキッ……バキッ……

止 「っ……!」 (屋上中のタイルを引きはがして浮かび上がらせるか……)

止 (演算能力と出力に関しては大能力者中でも間違いなくトップレベルだな……)

純念動力者 「――まぁ、いわゆるオールレンジ攻撃ってやつだよね?」

――バババババッ……!!!

純念動力者 「全方位からの攻撃、たかだか散弾ごときで防御できるのならしてみるといいよ!」

止 「………………」 ニヤリ 「……バカが」




332 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:33:21.40 ID:0LoI1rwo
止 「俺がこの状況を予測できなかったと思うのか?」

純念動力者 「!?」

止 「俺が何のためにこのガキ二人を手元に置いたと思う?」 ニィ 「頭が良くても頭が悪いタイプだな、お前」

純念動力者 「っ……! ほざくな無能力者がッ!!」

止 「“カートリッジ変更”」 ガゴッ! 「“特殊弾頭A装填”」 ……ガヂャッ!!

――ガゴッ!!

純念動力者 (銃口を真上へ……? 一体何を――)

止 「――気をつけろよ、大能力者?」 ニヤリ 「この弾頭は、対人 “兵器” のカテゴリだからな」

ッドォン ―――――――― ゴバァアッッ!!!

純念動力者 「っ……!!?」 (榴弾か……!?)

……ズガガガガガガガガガガッッ!!!!!

………………モクモクモク……

ミツアミ 「………………」 ガタガタガタ……

止 「………………」 スッ……ガチャッ 「……直下以外に対する全方位攻撃弾頭だ。タイルは全て破壊した」

止 「こういったイレギュラーが使えるから、俺は演算銃器じゃなくてこっちを選んだんだよ」

純念動力者 「………………」




333 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:36:14.60 ID:0LoI1rwo
止 「……まぁ、こっちとしてもお前がこれくらいで死んでるとは思ってないさ」

純念動力者 「……――――が……」

止 「あん?」

純念動力者 「――――クソ野郎がッッッ!!!!」

純念動力者 「たかだか雑魚がッ、この僕にッ、傷をつけやがったのかッ!!」

止 「……はっ」 クク…… 「言うほどの野郎かよ、テメェが」

純念動力者 「殺すッ……」 ギッ 「お前だけは絶対に殺すッ!!!」

キィィィィ……!!!!!  ガゴッ――――バキッ……!!

止 「あん……?」 チラッ 「……!!?」

…………フワフワフワ……

止 「貯水タンク!? 何キロってレベルの重さじゃないぞ……!」

純念動力者 「僕の能力は最大質量3050kgまでの物体を持ち上げることができるんだよッ」

純念動力者 「分かるか? ぶつけるとか、当てるとか、そんな風に考える必要もない、純粋な暴力」

純念動力者 「圧倒的な質量を前に、ちんけな銃一本しか持たないお前には何もできないんだよッ!!」

純念動力者 「潰れて死ねッ! “能力殺し” ッ!!」




334 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:37:56.80 ID:0LoI1rwo
止 「………………」

フッ

純念動力者 「!?」 ギリッ 「何が可笑しい!」

止 「たしかにお前の言うとおりだ。圧倒的な質量を前に、人間ひとりにどうこうする術はない」

止 「――その大質量物体が頑丈だった場合においては、な」

純念動力者 「何を……! 金属製の貯水タンクだぞッ!?」

純念動力者 「大量の水を内部に入れている時点で、強固な耐圧構造になっていることは分かるだろう!!」

止 「そのとおりだ。だが何故そこに穴があると気づかない?」

止 「“強固な耐圧構造” ってのは、貯水タンクが万全の状態でのみ効果を発揮するものだろ?」

――――ガチャッ

止 「“カートリッジ変更”」 ガゴッ 「…… “弾丸を徹甲弾へ(Barrett = AP)”」 ――ガヂャッ!!

純念動力者 「っ……だからそんな銃ひとつで何ができる!!」

止 「いい加減説明も面倒だ。見てからほざけ、クソが」

……ッドン!! ッドン!! ッドン!!

…………プシャッ……ビシャッ……ビシャッ……!!

――――――――――………………………………ッッバァン!!!

純念動力者 「なッ……!?」 ビグッ 「た、タンクが……破裂、した……だとッ!?」




335 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:39:36.13 ID:0LoI1rwo
止 「……要は風船を割るのと同じことだよ。強大な圧力に対して安定した状態の容れ物に穴を空ける、」

止 「そうすればあとは自壊が始まるってことだ」

止 「耐圧構造なんてのは、裏を返せば強大な圧力が常時かかっているってことだからな」

止 「……どうだ? 大能力者」 クスッ 「テメェの底の浅さが露呈している今の状況は」

純念動力者 「ッ……バカにするんじゃねぇよレベル0ォォォオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」

キィィィィ……!!!

止 「ッ……」

――――フワフワ……

純念動力者 「そうだよ……最初からこうすれば良かったんだ……」

純念動力者 「お前自体を念動力で動かせば、お前には何もすることはできない……」

止 「………………」 フッ 「……おいおい、そんなことに今さら気づいたのかよ」

止 「だからテメェは頭が悪いっていうんだ。クソが」

純念動力者 「ッ……減らず口もそこまでだ!!」 キィィィィ…… 「死ねッ!」

スッ――――――




336 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:40:58.23 ID:0LoI1rwo
………………同日 教会

シスター 「『――……主はおっしゃいました。私を愛することが……――』」

学生 「………………」

子供 「………………」

教員 「………………」

男 「………………」 (すごいなぁ、姉さんは)

男 (こんなに沢山の人の前で、物怖じもせず聖書のくだりを読み上げてる……)

男 (しかも、みんな静かに聞き入るように聞いてるんだ……)

男 (……すごいなぁ) ジッ

男 「ん……?」

イル 「………………」

メイ 「………………」

男 (イルちゃんとメイさん……?)




337 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:43:25.87 ID:0LoI1rwo
………………礼拝後

メイ 「風紀委員の方」

男 「あっ……メイさん、どうも」 ペコリ 「お久しぶりです。その節はどうも」

メイ 「いえいえです」 ペコリ 「こちらこそ、お世話になりました」

男 「……メイさんも十字教徒でいらっしゃるんですか?」

メイ 「いえ、わたしは、」 チラッ

イル 「………………」

メイ 「あの子の付き添いで」

男 「………………」 ジッ 「……よほど大切な方なんですね、“とまる” という方は」

メイ 「ええ……早く帰ってきてほしいのはわたしも同じなのですが……」

メイ 「あの子の真摯な祈りを見ていると、わたしのような不信心者が横にいてはいけない気がして……」

男 「そんなことはないでしょう。“とまる” という方に、メイさんの想いもきっと届いていますよ」

メイ 「そうですね……そうだと、いいのですが……」 ギュッ

メイ (お願いです、止様……) グッ (生きて……生きて、帰ってきてください……)

メイ (絶対に……絶対に死なないで……っ)




338 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:45:03.51 ID:0LoI1rwo
男 「………………」 (やっぱりそうだ……)

男 (こんな風に、神様に祈ることしかできない人たちだって大勢いる……)

男 (そんな人たちの思いを、風紀委員のみんなは踏みにじろうとしてるんだ)

男 (この教会から姉さんがいなくなってしまったら? そしたら、この教会に足を運んでいる人たちはどうなる?)

男 (十字教徒はこの学園都市にいてはいけないっていうの? ……そんなの、絶対におかしい)

グッ

男 (絶対に、僕がこの教会と姉さんを守る)

男 (たとえ……)

男 「――――たとえ、白井さんと争うことになろうとも」



イル (おねがい、します……カミサマ)

イル (イルの右手、うごかなくなっても、いい。なんなら、左手も、あげてもいい)

イル (だからおねがいします、カミサマ。とまるを、たすけてください)

イル (とまるを……まもってあげてください……)

イル (………………)

イル 「わすれる、なんて、ムリ、だ……」

イル 「とまる……」




339 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:46:49.50 ID:0LoI1rwo
………………

ギィィィィィィンン!!!

止 「――逆算、完了」 ニッ 「脳髄支配率、100%を確認」

――ピタッ

純念動力者 「な、に……?」 ガタガタ 「の、能力に、不全……? 動か、な……い、」

止 「演算術式の解体、及び対象の能力効果範囲を一部に限定。主要演算へ割り込み、術者に対する能力を解除」

――――ストン

止 「ふん。能力が単純なだけに操作は簡単だな」

純念動力者 「な、何、が……?」

止 「お前は本当に浅はかで馬鹿な奴だな。何で俺が正面切ってお前と戦ったんだと思う?」

純念動力者 「な、何だと……?」

止 「お前は自動防御能力に長けているわけじゃないだろうが」

止 「この機械化小銃の砲身を狙撃用のものに交換して、隣のビルから撃ち抜けばそれで終わりだ」

止 「俺が何故それをしなかったと思う?」




340 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:49:00.68 ID:0LoI1rwo
止 「一つに、『斉激』 のテストをしたかったから」

止 「――そして二つに、お前をただ殺すだけじゃ気が済まなそうだったから、だ」

純念動力者 「ッ……!?」

止 「お前、今まで何人のガキを殺してきた?」

純念動力者 「そ、そんなこと――」

止 「――声帯への信号を強制クラック。思っていることを正直に口に出せ」

ギィィィィィィンン!!

純念動力者 「ッァ……!?」 ガクガク 「……じ、十人くらい。全員、子供。犯して、殺して、」

純念動力者 「石像の下、などに、潰して隠した」

止 「……なるほどな。お前の能力なら、3tまでの大質量物体の下敷きにできるってことか」

止 「隠蔽には最適だな。本当に胸くそ悪い野郎だ」

ミツアミ 「………………」 ガタガタブルブル……

止 「………………」 スッ 「……悪かった。目を閉じて耳を塞いでいてくれ」

ミツアミ 「あっ……は、はい……」 ギュッ

止 「………………」 ナデナデ 「……それでいい。もう、大丈夫だ」




341 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:50:04.64 ID:0LoI1rwo
純念動力者 「な、何をした!? 僕に何をしたんだ!?」

純念動力者 「能力が働かない……身体も、上手く、動かない!」

純念動力者 「な、何だこれは……!? 何なんだよこれは!?」

止 「だから俺は名乗っただろう? 俺は “能力殺し” だと」

純念動力者 「ま、まさか……お、お前……能力をッ!」

止 「誰が無能力者だと言った? 悪いが俺はお前と同位のレベル4だよ」

止 「戦闘の途中でお前の脳髄はそれなりに支配できていた」

止 「その時点でお前の心臓なり何なりを暴走させれば済んだ話だったんだがな」

フッ

止 「まぁ、さっき言ったとおりの理由から、それも却下だったんでな」

止 「だからお前の脳髄を100%まで支配した。かなり時間を食っちまったが、成功だ」

止 「こんな回りくどいマネは本来俺の領分じゃねぇんだが……」

止 「……しかしまぁ、正解だったようだな。お前が今までやってきたことに鑑みれば」

スッ……ギィィィィィィンン!!

純念動力者 「ッ……!? あ、く……、がッ!?」




342 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:52:17.74 ID:0LoI1rwo
止 「脳髄からの胴体への随意動作信号のみをシャットダウン。不随意動作に関しては現状維持」

止 「なお、ショック死レベルの衝撃に対しても不随意運動は強制続行」

純念動力者 「……な、何を――」

――ッパァン

純念動力者 「がッ……!? ァァァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!」

止 「うるせぇな。たかだか肩を撃ち抜かれた程度でガタガタ騒ぐな」 ガチャッ 「“弾丸を散弾へ”」

――――ドバッ!!

純念動力者 「ごがッ……!? ッガ……ア……!!?」

止 「頭イカれたか? いや、まぁイカれないようにしてるんだけどな」

ニヤリ

――――ドバッ!!

純念動力者 「グゴガァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

止 「おっと、これ以上やって簡単に死なれても困るか」 ガチャッ 「“弾丸を通常弾へ”」

……ッドン!!

純念動力者 「ッ……ガ――……」




343 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:53:44.84 ID:0LoI1rwo
純念動力者 「ぐ……お……が……」

止 「………………」

――ガッ!!

純念動力者 「ひっ……!?」

止 「……なぁ、痛いか?」

純念動力者 「ひ、あ……」 ガタガタガタ……

止 「痛いよなぁ? 怖いよなぁ? 苦しいよなぁ?」

純念動力者 「は、はひ……!」 コクコクコク

止 「だろうなぁ。だがな、お前が殺してきたガキ共は、もっと痛かったんだ。怖かったんだ。苦しかったんだ」

止 「それ、お前に分かるか?」

純念動力者 「は、はひ……わ、わかりまふ……!!」

止 「……そうか」 ニコッ

純念動力者 「あ……」

止 「――――二秒で分かる嘘ついてんじゃねぇよクソが」

……ッドン!!




344 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:54:57.04 ID:0LoI1rwo
純念動力者 「がッ……!?」

止 「くだらねぇ。こんなクソ未満のどうしようもねぇ野郎が “念動力者” を名乗ってるのかよ」

―――― 『麦野自身は、僕が死んでも通さない。立方体を維持し続ける』

―――― 『ふふ……リーダーとしての、最後の命令だ……止、あの二人を……守ってくれ」』

止 「……テメェみてぇな野郎が、アイツと同じ能力体系を名乗ってんじゃねぇよクソがッッ!!」

……ッドン!!

純念動力者 「ひがッ……!? が……」

……ッドン!! ッドン!! ッドン!!

止 「……けっ、十分苦しんだか」 ガチャッ 「“弾丸を徹甲弾へ”」

純念動力者 「ひっ……? た、たすけ――――」

止 「生憎だったな」 ギリッ 「……ここにいるのが俺で、本当に良かった」

止 「アイツらみたいなヒーローだったら、お前みたいなクソも救おうとしちまうだろうからな」

ガチャッ……!!

止 「――こっから先は 『通行止め』 だ。ついでに命も置いていけ」

…………ッッドォン!!!




345 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/09/22(水) 23:56:25.75 ID:0LoI1rwo
………………

ミツアミ 「………………」 ギュッ

止 「………………」 スッ 「……終わった」

ミツアミ 「へあ……?」

止 「いや、まだ目を開くな。汚物があるからな」 サッ

幼女 「………………」 zzzz……

止 「よく寝ちまってまぁ……」 フッ 「このガキはおぶるか……じゃあ、お前は前だ」 ギュッ

ミツアミ 「あ……」 (ま、またお姫様抱っこ……///)

止 「下に救急車を呼んでおいた。そこまで送る」 ト、ト、ト…… 「……悪かったな。変なことを聞かせてしまって」

ミツアミ 「い、いえ……」 ……パチッ 「……あ、あなたが……私たちを助けてくれたんですね」

幼女 「………………」 zzz……

止 「……助けたわけじゃねぇよ。ただ単純に、あの野郎が気に入らなかっただけだ」

ミツアミ 「ち、違います! 助けてくれたんです!」 ハッ 「……あ、私は何を……////」

止 「………………」 フッ 「……今日のことはすぐに忘れろ。その様子ではトラウマにはなっていなそうだからな」

ミツアミ 「いえ……」 (この人は、きっとヒーローさんなんだ……)

ミツアミ (……忘れないです、絶対) ギュッ 「……あ、あのっ」

止 「あん?」

ミツアミ 「お名前を、教えていただいてもよろしいですか……?」

止 「………………」 ケッ 「……止と、そう呼ばれている」

ミツアミ 「!?」 ビグッ

止 「……? どうかしたか?」

ミツアミ 「い、いえ……」 (そっか、止さんって……イルちゃんの……)

止 「……?」

ミツアミ (私のヒーローさん……止さん) テレッ (へへへ……止さん、かぁ……////)

止 「???」








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コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 09:34: :edit
    うーん……
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 09:43: :edit
    えっ?
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 10:05: :edit
    えっ
  4. 名前:   #-: 2010/10/17(日) 11:53: :edit
    2行で飽きた
  5. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 12:05: :edit
    姫神のふとももにおにんにんはさみたいよぉ
  6. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 12:36: :edit
    すっごく微妙・・・
  7. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 13:18: :edit
    久々に続きを見たお~ 
    まあこれから見るんだがw
  8. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 16:04: :edit
    やっぱ合わないや
    こういうのは付いて行ける人といけない人がいるわな
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 16:14: :edit
    きたーー
    まったり読ませてもらう
    作者はどんどん続きを書いてくれ
  10. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 17:30: :edit
    今まで以上にオリジナル過多だけど
    そんなの気にならないほどにこのキャラクターたちが好きです、はい
  11. 名前: 通常のナナシ #nmxoCd6A: 2010/10/17(日) 17:35: :edit
    読むのに滅茶苦茶時間かかったわ
    面白いが長いなこりゃ
  12. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/17(日) 18:23: :edit
    二桁?
  13. 名前: 名無しさん@ニュース2ちゃん #-: 2010/10/18(月) 11:06: :edit
    オリジナル系はやっぱ面白くないね。
  14. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/18(月) 22:36: :edit
    妄想がいきすぎてて無理だった
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/20(水) 00:07: :edit
    前作も前々作もそして今回も一回は読んだけど・・・無理矢理なこじ付けとやたら長い本編はいただけない。
  16. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/20(水) 01:40: :edit
    気持ち悪いよこれ
  17. 名前: 通常のナナシ #0.6P4m4g: 2010/10/20(水) 19:51: :edit
    このシリーズ、オレは好きだが、
    一般受けはしないよ、
    2次創作でオリキャラってのには限界がある。

    2次創作でなくて、作者オリジナルの話を書けばいいのに。
  18. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/10/21(木) 02:15: :edit
    男が急に女好きのチャラ男っぽくなったな
  19. 名前: 通常のナナシ #Z1IwPY76: 2010/10/21(木) 08:14: :edit
    一般受けしないとしても俺は好きだな。
    合わない奴はどうぞトップページへお帰り下さいな。
  20. 名前: 通常のナナシ #sPJE478s: 2010/11/02(火) 19:10: :edit
    止が出てくると面白い
  21. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/11/26(金) 05:42: :edit
    SSそのものは面白かった。
    ただ、主人公に名前つけてやれよ……
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