2010/07/17(土)
1 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:15:47.62 ID:yepqOhQo
前作
黒子「半額弁当?」
黒子「ひなまつり弁当360円ですの?」
注:このSSはとある魔術の禁書目録のキャラをベン・トーの設定で動かしたクロスオーバー物です。
原作を知らなくても一応楽しめるようには書きますが、原作のキャラや他のラノベキャラが脇役として出てきます。
一応原作だけでも読むと、より一層楽しめるかも知れません。
前作
黒子「半額弁当?」
黒子「ひなまつり弁当360円ですの?」
注:このSSはとある魔術の禁書目録のキャラをベン・トーの設定で動かしたクロスオーバー物です。
原作を知らなくても一応楽しめるようには書きますが、原作のキャラや他のラノベキャラが脇役として出てきます。
一応原作だけでも読むと、より一層楽しめるかも知れません。
2 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:20:31.77 ID:yepqOhQo
また来てしまった。
と、彼女は思う。
スーパーマーケット
曲がりなりにも常盤台のお嬢様である自分が、庶民の味方である大型小売店に来て、いいものかと。
しかしその問いはこれまで何度も繰り返してきたものだ。
そして、その度に打ち消してきた考え。
今夜もその思いを振り払い、彼女はスーパーの自動ドアを潜る。
精練された空気と陽気なBGMが自らを包み、迎えてくれるのを、彼女は感じた。
同時に、突き刺さるような視線を感じる。二つ名付きの自分に、周りが警戒しているのだ。
その中に、自分の相方がいない事に、安堵を覚えた者の気配も感じる。
確かに彼女は二つ名付きとしては経験が浅いだろう。しかし、それでも二つ名付きだ。
今胸をなで下ろした者達は確実に、彼女を舐めた事を後悔するだろう。
3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:23:10.92 ID:yepqOhQo
周りの視線を一身に受けながら、彼女はカゴを手にとり、ズンズンと売り場の奥へと進んでいく。
そしてその最奥、弁当コーナーへと辿り着いた彼女は売り場を一瞥し、すぐに歩き出す。
半値印証時刻を前にして残っている弁当はたったの二つ。
荒れるな。と彼女は思考し、しかし思いに反して売り場から少し離れた位置に陣取る。
飢えた狼たちが殺到するのを待ち、そこを一網打尽にするのだ。
彼女にはそれをするだけの自信があり、そして実力があった。
彼女は生鮮コーナーから流れてくるハムソーセージの歌を聞きながら、お菓子コーナーに足を止め、おまけ付きと言いながらもその実おまけこそが本命であり、申し訳程度にしかお菓子のついていない、ラムネ菓子のパッケージを凝視し始める。
箱に印刷された、緑色の体に紳士服を見にまとい、ちょび髭を生やした奇妙な生物を眺めながら、彼女はただ時を待つ。
4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:26:12.06 ID:yepqOhQo
どれほど経ったろうか、不意に辺りの気配が鋭く、研ぎ澄まされていくのを感じた。
半額神が降臨したのだ。
神が奏でる福音を耳にしながら、彼女は己の身が震えるのを感じる。
恐怖ではない。歓喜だ。
己を鼓舞し、震わせる音色に耳を傾けながら、彼女は思う。
来た――と。
ついに音楽は最終楽章へと転じ、鮮魚コーナーから聞こえるおさかな天国もサビへと突入していた。
そしてペンを走らせるキュッキュと言う音で、演奏が締めくくられる。後は、奏者が礼をし、幕の奥へ消えるのをただ待つのみ。
耐えきれず、目を向ける。
そこには、にこりと笑いながら身を折り、お辞儀をする神の姿。
ス タ ッ フ ル ー ム ゲ ー ト
そして、パタンと『選ばれた者のみが潜ることのできる扉』が、閉じた。
同時だった。彼女は見るものの目を奪うような華麗なスタートダッシュで、磨かれた床を蹴っている。
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:27:53.60 ID:yepqOhQo
弁当コーナーには、すでに幾人かの狼。
そこへ合流するように、さらに多くの狼が駆けている。
その中に、自分も居る。
言い知れぬ連帯感に彼女の心が高翌揚するのがわかる。
彼女はただ駆け、そして辿り着く。
すでに弁当コーナー周辺は激戦区となっており、早くも再起不能となった狼が転がっている。
彼女はその屍を踏み越え――跳んだ。
跳躍。
そして、落下。
彼女は縁を握り締めていたカゴを振りかぶり、叩きつけた。
轟音。
ただその一振りで空気が弾け、豪風に吹かれた狼が木っ端のごとく飛び散る。
獰猛な獣の笑みを浮かべた彼女は、返す刀で前方の狼をなぎ払った。
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:36:25.17 ID:yepqOhQo
なんだ、やはり弱いじゃないか。
そう言いたげに笑む彼女に闘争心を刺激されたのか、あの時警戒の視線を緩めなかった狼の一人が飛びかかってきた。
彼女の倍以上はある巨躯に刺青を入れた、買い物カゴを振りかぶるジャージの男。
どことなくジョニーと言う名前が似合いそうな男に向け、彼女は無造作にカゴを振るった。
人間の肉を打つ壮絶な音を響かせ、ジャージの男――ジョニーっぽい狼が吹き飛ぶ。
瞬間、彼女は周りのターゲットが自分に向いたことを悟った。
狼たちが視線だけで協力体制をとったのだ。
面白い。
彼女の体がさらなる歓喜に包まれ、震える。
来い、と。彼女は歯をくいしばる。狩場の空気を、噛みしめる。
来いよ雑兵。雷神の槌に、どれだけ耐えられるのかな、と。
彼女の名は御坂美琴。
その二つ名を、荒々しい戦い方と、槌のように買い物カゴを古う姿から『トール』と言った。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:39:37.48 ID:yepqOhQo
◆
需要と供給、これら二つは商売における絶対の要素である。
これら二つの要素が寄り添う販売バランスのクロスポイント……その前後に於いて必ず発生するかすかな、ずれ。
その僅かな領域に生きる者たちがいる。
己の資金、生活、そして誇りを懸けてカオスと化す極狭領域を狩り場とする者たち。
――人は彼らを《狼》と呼んだ。
◆
ベン・トー×とある魔術の禁書目録 3
黒子「半額弁当ですの!」
――狼と半額弁当が交差する時、物語は始まる。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:45:19.99 ID:yepqOhQo
《用語集》
・狼
スーパーでの暗黙のルールを理解し、誇りを持って半額弁当の奪取に当たる人間のことを指している。
無論、実際の狼は半額弁当を求めてスーパーに行ったりはしない。
またよく狼には凶暴なイメージがつきまとうが、実際にはそれほどではなく、縄張りを荒らしたり不用意に刺激したりしない限りまず人は襲わないとされる。
・犬
半額弁当を狙ってスーパーにやってくる未熟者を指している。
余談だが、猫派か犬派かと問われれば>>1は猫派。それも日本猫が特に好き。
・半額神
総菜、弁当等に半額シールを貼る店員のこと。敬意をこめて〝神〟と称えられている。
・二つ名
主に《狼》の中から特出した強さ、個性を有する者に自然と付く本名とは別の名のこと。あだ名。
基本的にその者の見た目や、戦闘スタイル、経歴などから付けられる。
ただしある程度有名になれば《狼》でない者にも付けられる場合もある。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:46:30.60 ID:yepqOhQo
《狼》紹介
・白井黒子
常盤台中学に通う第七学区の《狼》
まだ新米の《狼》だが、上条当麻の指導により覚醒、才能の片鱗を見せる
・上条当麻
第七学区の学校に通う高校生で、スーパー『セブンスマート』を縄張りとする凄腕の《狼》
《幻想殺し》の二つ名を持つ。
・結標淡希
孤児院の院長代理を務める少女。かつては古参の《狼》だったが、心の傷からアラシとなる。
しかし黒子達との戦いにより目を覚まし《狼》へと戻る。
《座標移動》の二つ名を持つ。
・茶髪の女
上条当麻と同じ学校に通う3年生。大変いい胸をしている。
・坊主の男
上条と同じ学校の2年生。顎鬚とよくつるんでいる。
・顎鬚の男
上条と同じ学校の2年生。坊主とよくつるんでいる。
《半額神》
・錬金術師
『セブンスマート』の半額神。
どんな食材も美味しく調理することからそう呼ばれている。
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:48:05.43 ID:yepqOhQo
《弁当争奪戦の掟》
一つ、争奪戦前は弁当コーナーから離れよ。
一つ、開始の合図は半額神がスタッフルームの扉を閉じた瞬間なり。
一つ、弁当を手に入れたものを攻撃するなかれ。
一つ、スーパーがリングだ!
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:58:24.33 ID:yepqOhQo
第一章 トール だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから >御坂美琴
白井黒子は人生の岐路に立たされていた。
人生は選択の連続だ。
例えばそれがエロゲーならば選択肢の直前でセーブをすればいいのだが、いかんせん人生というゲームはセーブポイントが存在しない上にリセットも出来ない。そして選択肢も多岐に渡れば、その実、選択問題とも限らない。
そんな中で単純な二者択一というこの状況は恵まれているとも言える。
しかし、究極の選択という『カレー味のウンコかウンコ味のカレーか』と言うような、二択問題の最も度し難いケースも確かに存在する。
この選択は、言ってしまえばその究極の選択とも言えた。
黒子「いえ、さすがにこれをウン○と同列に語るのはどうかとおもいますの」
上条「何か言ったか?」
黒子「何でもありませんわ、ただの独り言ですの」
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:58:59.59 ID:hwnu8UQ0
おいおい美琴が二つ名持ちかよwwwwwwww
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:59:41.37 ID:yepqOhQo
上条「ま、いいけどよ。嫌なら別にいいんだぜ。このチケット、結標あたりにでも渡すからさ」
黒子「いえいえ、あのような何の教養も無い女に、映画文化が理解できるはずもありませんの」
そう、彼女は今、上条当麻から直々に映画へ誘われているのだ。
それだけならば何の問題もない。二つ返事で了承するだけの話だ。
しかし、しかしだ。その日はなんとも間の悪いことに、黒子の敬愛する御坂美琴からもショッピングの誘いを受けていたのである。
黒子(お姉さまはショッピング程度なら度々誘ってくださいますが、当麻さんとは半額弁当争奪戦以外では殆ど会う事すらありませんの!
しかし最初に誘って下さったのはお姉さまですし、最近お姉さまも何やらお忙しいご様子……あーもう! わたくしには決められませんの!)
がくんがくん頭を振りつつ悶絶する黒子に若干引きながらも、上条はその様子を見守っている。
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:01:32.33 ID:yepqOhQo
そもそもこの映画のチケット、抽選でしか当たらない、いわゆる試写会のチケットであり、そういったイベントにそれほど興味のない上条が持っている理由も、たまたま当たったが予定がかぶって行けないという金髪グラサンの友人から貰ったという程度の物であって、上条自身もこの映画を見たいわけではなかったのだ。
それならば予定が会う日に見たい映画を二人で観に行けばいいだけの話なのだが、今の黒子はそういった判断すら出来ないほど混乱していた。
と、言っても、常に金欠な上条を映画に誘うには、彼の分も自分で負担するくらいでなくてはならないだろうが。
上条「あー、そんな真剣に考えなくてもいいぞ?」
黒子「ここで真剣にならずどこで真剣になれと言うんですの!」
上条「……すいません」
黒子(落ち着くんですのよ白井黒子! ここで当麻さまに怒鳴ってもしかたありませんの! ほら、当麻さんも『不幸だー』って顔をしていますし!
決断するのです! そう、当麻さんもお姉さまも不幸にならない、皆が笑って幸せになれる、ハッピーエンドって奴を!)
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:06:32.03 ID:yepqOhQo
ここで黒子に電流走る。
そう、上条も美琴も幸せになれるたった一つの冴えたやり方を思いついたのだ!
黒子「と、当麻さん。すみませんがわたくし、その日は用事がありますの」
上条「そうかー、そいつは残念だな。じゃあ結標あたりにでも……」
黒子「お話は最後まで聞いて欲しいですの」
上条「え?」
黒子「実はその日、お姉さまとも約束をしていたのですが、いかんせん突然の用事が入ってしまったので、なかなか言い出せずにいたんですの……
お願いです当麻さん、わたくしの代わりに、お姉さまとその映画に行ってきてくださいませんこと?」
上条「えぇー!? ビリビリとか? いやいや、アイツにとってもイイ迷惑だろ」
黒子「そんな事はありませんの。ついでにショッピングに付き合って差し上げれば、それで満足されるハズですわ」
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:14:11.20 ID:yepqOhQo
上条「あー、でもなぁ……」
黒子「駄目……ですの?」
必殺上目遣い!
これは黒子のみならず全ての女子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手に感情の変化を起こさせる技。
そして、黒子ほどの美少女が使えば、頷かれずにはいられないのが男子のサガ!
上条「く、黒子がそこまで言うなら仕方ないな。いいぜ、行ってやるよ。ただし、連絡はお前の方からしてくれないか?」
黒子「もちろんですの!」
決まった! と、黒子は内心でガッツポーズをする。
まさに一撃必殺。殿方と言うのはちょろい物ですの。などと考える黒子である。
上条「それじゃ、時間とか決まったらまた連絡してくれよ。じゃあな、黒子」
黒子「ええ、それではごきげんよう、当麻さん」
ふりふりと手を振って、去っていく黒子を機嫌よく見送る黒子である。
黒子(やりましたの! これで当麻さんがあの変態ショタコン女に取られることも、お姉さまが悲しむこともありませんの!これで皆幸せに! ……って、あれ? 皆? その中にわたくしは? 含まれてないような……)
黒子(わたくしの幸せは? 青い鳥はどこですの!? あぁ――まって当麻さん! 今のは、今のは間違いですのぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
ちょろい女だった。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:27:27.36 ID:yepqOhQo
数日後の日曜日。
ウ ェ ッ ト マ ン
第七学区駅前、集合場所として有名な『湿った手の男』象の前に、一人の少女が佇んでいた。
茶色がかった短い髪に、スレンダーな体系、幼さを残しながらもどこか気品を感じさせる整った顔立ちに、そこへワンポイントを加える気丈そうなつり目。
名門常盤台の制服を纏ったその少女こそ、学園都市の第三位、御坂美琴だった。
なにやらそわそわしながら時計を気にしている彼女は、とある男性と待ち合わせをしている。その相手とは言わずもがな、上条当麻だ。
あんな状態になりながらもきっちりセッティングを済ませた黒子は、カップルの聖地と名高いこの第七学区駅前を待ち合わせ場所に指定していた。
周りにいるのはどれもこれも仲睦まじそうに寄り沿うカップルばかり。
そんな中に若干の違和感と気恥ずかしさを覚えつつ、美琴は早めに集合場所へと到着していた。
どれくらい早めかというと、実に集合時間の一時間前。既にかれこれ45分ほど、ウェットマン像の前で待ち惚けているのだった。
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:29:53.00 ID:yepqOhQo
美琴(どうしようどうしようどうしよう! もう黒子の馬鹿! なんで私がアイツと映画を見に行かなきゃいけないのよ!
きききき緊張する! 変じゃないかな? 制服なのはしょうがないとしても、念入りにシャワーだって浴びてきたし、
ネットで調べて薄くだけどメイクもしてきたけど! あーもう! 早く来なさいよぉぉぉ!!)
ぐわんぐわんと黒子顔負けのヘドバンをかましながら悶絶する姿に周りの視線が突き刺さるが、彼女は極度の緊張でそれにすら気付いていない。
過去に彼女は常盤台の友人であり過去のルームメイトであった石岡有希と共に、深夜の無駄に高いテンションのまま、寝ている先輩の部屋へと侵入して顔に落書きをしてやろうと画策。
美琴の能力で電子ロックを解除し、先輩の部屋へと不法侵入を果たした事がある。
当時寮内で傍若無人を働き、嫌われていた先輩が皆に溶け込めるよう愉快なメイクを施してやろうという優しさの元行われた行為であったが、この時ばかりは彼女が嫌われていたおかげでルームメイトがいなかった事に安堵を覚えた。
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:32:07.33 ID:yepqOhQo
すやすやと優しい寝息を立てる姿からは本来の暴君っぷりが伺えず、隣の石岡はなにやら生唾を飲み込んでいたが、美琴はそれを意識して視界の外に追いやる。
なにやらハァハァと荒い息を吐いて違う「イタズラ」を行いそうな石岡からマジックを奪い、美琴はそろりそろりとベッド近づいた。
そしていざ落書きをしようとキャップを引き抜き、手始めに額へ『肉』と書いたところまでは良かった。
彼女は油性ペン独特のあの匂いも、額を走るむず痒さも意に介せず寝息を立てていたのに、石岡のヤロウが興奮して、ヨダレを先輩の顔へとおもいきり垂らしたのだ。
さすがにその生ぬるさに身じろぎし体を起こそうとする先輩に動揺した美琴は『つい』石岡へと電気ショックを加え、気絶した彼女へ油性マジックを握らせると、先輩の眠るベッドへと放り投げた。
上がる悲鳴、走る美琴、なにやら得体の知れない笑いを浮かべて気絶する石岡。
美琴が間一髪自室へ戻る頃には、怯える先輩と寮監に拘束される石岡の姿があった。
いつ石岡が自分を売るか分からない状態で、一睡もできずベッドで丸くなっていたあの時ですら、今のような緊張は無かったのに……。
そして後日談。翌日石岡は一人で寮内全域の掃除を命じられていたが、友情に厚い彼女は美琴のことをバラすどころか、一切のことを覚えていない様子だった。無論これは美琴の電気ショックの影響ではなく、彼女の友情パワーが成せる技である。
ちなみにその先輩はあの夜のことがよほど怖かったのか、それ以降我侭をいうことも無く、むしろ引っ込み思案の少女になってしまったのだが……先輩、元気かなぁ?
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:41:22.42 ID:lAJsr.Io
御坂ヒデェwwwwwwwwww
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:43:57.36 ID:yepqOhQo
そんな一人の少女を更生させ、友情を確かめ合った心温まる話をついつい思い出しつつ、美琴は時計をみやった。
時計は集合時間の5分前を指している。
上条「悪いな御坂。待たせたか?」
美琴「ふ、ふぇっ?」
時計をのぞき込んでいたところに急に声を掛けられ、美琴はつい飛び上がってしまう。
ビリビリと前髪から静電気が舞うが、それをコントロールすることすら出来ない。
しかしそれも、上条が軽く右手を振るだけで打ち消されてしまった。
上条「あっぶねぇな。 何ですかいきなり? やっぱ俺と映画なんて、嫌……だったか?」
必殺上目遣い!
これは上条のみならず全ての男子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手の感情に不快感をもたらす技。
しかし、上条が使った時のみ、美琴へ壮絶なダメージを与えることができる裏技である。
美琴「べ、別にっ!? その映画私も見たいと思ってたし! か、買い物に付き合ってくれるなら私はそれでいいもの!」
上条「そっか、それなら良かった。じゃ、早速映画館に行こうぜ」
美琴「えっ? あ、うん」
上条「行こう」
美琴「行きましょう」
そういう事になった。
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:06:54.98 ID:yepqOhQo
今回二人が見る事となった映画は全米で大ヒットしたハリウッド産ファンタジーの続編で、魔物の調停士である主人公が相棒の魔法使いとブルドックを連れて旅をするという内容なのだが、黙々とその映画を見続ける上条と、隣に上条がいる状態で悶々とする美琴を延々描写する勇気はさすがにないので、映画館での出来事は省かせてもらうと、映画館から出た二人は今、最寄の喫茶店に来ていた。
上条「いやぁ、しかしバトルシーンは熱かったなぁ。まさか毒獣マンティコアをあんな方法で倒すとは」
美琴「でもサトウも可愛かったわよね! あー、私もブルドック飼いたい!」
上条「常盤台の寮ならそういうの融通効くんじゃないか?」
美琴「だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから」
上条「へぇ、なんだかんだで御坂もお嬢様なんだな」
美琴「な、なんだかんだって何よー」
上条「ははは、わりぃ。冗談だって」
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:09:19.91 ID:yepqOhQo
美琴(あれ? なんか普通に話せてる?)
そう、気づけば二人は映画の感想を言い合っていたのだ。
その間に美琴が緊張で爆発することも無く、上条も上機嫌で話に乗っている。
美琴(あぁ、この時間がずっと続けばなぁ……)
上条「さて、そろそろいい時間だし、お前の買い物にでも行くか」
美琴「あっ……」
上条「ん? どうした、なんか忘れもんか?」
美琴「ううん! なんでもないの、行きましょ」
美琴(あーあ。もう少し話、したかったなぁ……)
美琴の後悔も束の間、二人は喫茶店の外に出て、一路セブンスミストへ向かう。
と、大通りまで出た時のことだった。美琴の携帯が着信を告げる。
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:12:43.12 ID:yepqOhQo
美琴「あ、ごめん。ちょっと出る」
美琴「もしもし……うん……うん、分かってる。……え? 今から? でも……うん。分かった。すぐに」
上条「どうした?」
美琴「ごめん、私急用ができたから。今から付き合ってもらうってのに悪いわね」
上条「それはいいが……良かったのか? 買い物」
美琴「すぐに必要なものでもないし、大丈夫よ」
上条「そっか。じゃあな、御坂」
美琴「……うん、じゃあね」
手をふり、別れる。
去っていく美琴を見送り、上条は少し早いがスーパーへと向かうことにした。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:17:54.00 ID:yepqOhQo
美琴「本当に、やるの?」
??「ええ、これは我々全勢力を懸けた闘いですから」
美琴「……それは、復讐?」
??「いいえ、決別ですよ。過去の、弱い自分との決別。これを以て、私は第七学区最強の《狼》となる……
上を目指したいというこの思い。貴女なら分かってくれますよね?レベル1から努力だけでレベル5にまでのし上がった、『超電磁砲』の貴女なら」
美琴「確かにわからなくも無いけれど……」
??「私は無力でした。だから、力が欲しい。そう思い努力して、私はこの二つ名を手に入れた。そして次はこの第七学区を手中に収め、最後には学園都市最強の《狼》となる……!」
美琴「…………」
??「そのためにも、あの《幻想殺し》を倒さなくてはなりません。あの忌々しい、セブンス・マートの主!」
美琴「幻想……殺し」
??「そうです。待っていて下さい《幻想殺し》――いえ、上条当麻。貴方は私の手で、かならず息の根を止めてみせます」
??「さぁ、戦争の始まりですよ」
第一章 終了
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 19:11:43.10 ID:borkBIDO
石岡が誰かわからなかったが調べたらベン・トーのキャラなんだな。
ここだと御坂の過去の被害者友人Aって扱いか。
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 20:00:45.06 ID:B9f4Tgko
お前かwwwwwwwwww
お前のせいでベントー買ったよwwwwwwwwでもまだ読んでない……
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:36:48.32 ID:yepqOhQo
第二章いきます。
このSSがベン・トーの販促になってなにより。
目指せこのラノ2011 第一位!
48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:37:52.53 ID:yepqOhQo
第二章 幻想殺し お前ならできるさ、きっとな >上条当麻
黒子「だりゃあああああ!! ですのっ!」
結標「甘い! 甘いわよ!」
二人の打撃が交錯し、余波を撒き散らす。
両者ともスピード型の《狼》であるが故に、なかなか決定打こそ放たれないが、しかしその余波で双方かなり疲弊していた。
今、弁当コーナーに残っている半額弁当はたったの一つ。
そして、生き残っている《狼》は二人。
その符号が表すものは一つ。
生き残るのは――たったの一人。
黒子が瞬速の抜き手を放てば、それを結標が受け流す。
結標が鋭角な蹴りを放てば、それを黒子が捌ききる。
高速のやりとりの中、互いに弁当へ手を伸ばす事も忘れない。
どちらかが手を伸ばし、どちらかがそれを弾く。
49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:44:21.21 ID:yepqOhQo
永遠に続くかと思われた攻防。しかし、そこへ割り込む影があった。
弁当コーナーの近くで倒れていた、ジョニーっぽいジャージ姿の男である。
ジョニー「うおおおおお!!!」
叫び、カゴを振り上げる。
再起不能と思われていた敵の攻撃に、しかし彼女らは一切狼狽えなかった。
互いにバックステップでカゴを避けると、体制を崩したジョニーへ挟撃をかける。
ジョニー「むん!」
しかしジョニーも負けてはいない。すかさずカゴの持ち手を握り、振り回すように一回転。全方向へ牽制を放つ。
だが、黒子と結標はこれを完全に読んでいた。
たしかに一回転攻撃は密集地帯では有効だ。しかし、こうして身動きを取りやすい場所では、上下方向からの反撃を許す。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:45:29.96 ID:yepqOhQo
黒子が床を蹴り上へ。
結標が潜り込むように下へ。
ジョニーが体勢を整えようとした時にはもう遅い。
完全なコンビネーションで決まった上下からの打撃は衝撃を逃がさず、余すこと無くジョニーへダメージを与えていた。
轟ッ……と、ジョニーの巨体が地に沈む。
スタと地に降り、ここで黒子は気づく。己が結標に嵌められた事に。
地上から攻撃を放っていた結標は、打撃を与えると同時に弁当コーナーへダッシュをかけていた。
空中にいた黒子に、これを追う術はない。
彼女が走りだそうとした時には、すでに最後の半額弁当は結標の手にあった。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:52:21.29 ID:yepqOhQo
ズルズルと、どん兵衛をすする音が公園に響く。
黒子だ。
その横で温めた弁当のパックを開ける「カポ」と言う音。
恨めしそうに、黒子はベンチに座る面々を見やった。
先ほど黒子が取り逃したジャージャー麺弁当を啜る結標淡希。
先に弁当を奪取してレジに並んでいた上条当麻が箸をつけるのは、巨大なハンバーグが中央に鎮座するボリューム満点の弁当。
黒子「そう言えば、今日は見慣れぬ《狼》が何人かいましたわね」
どん兵衛の揚げにかぶりつき、中から滲み出してくる汁と共に味わいながら、黒子が言った。
上条「そうだな。あれは恐らく、東区の狼だろう」
答え、上条がハンバーグを二つに割る。すると湯気を立ち上らせる断面から、とろりとチーズが流れ出す。
上条は不敵な笑みを浮かべると、二つに割ってもまだ大きいハンバーグを持ち上げ、チーズが溢れ無いよう気をつけながら口へ運んだ。
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:56:39.98 ID:yepqOhQo
食いつき、噛みしめる。
するとどうだろう。ハンバーグの間から濃厚なチーズが溢れ出し、そこへ肉汁たっぷりのひき肉がダイブする。
柔らかかったチーズが口の中で徐々に冷え、肉と複雑に絡み合い、肉に独特な風味を与える。
一口食べただけなのにどっしりとした重量感を残すハンバーグ。
食べきれるか? と、思わず弱気になる上条だったが、咀嚼するうち、それが杞憂であると考え直す。
弁当箱の片隅、熱で若干しんなりとしたキャベツの中に、それよりも少し濃い緑色を見つけたのだ。
上条(これは……シソか!?)
そう、キャベツの間に紛れている千切りのシソが、こってりとした口の中を洗い流し、そのサッパリ感がさらなる一口を誘導する。
なんと、完璧に計算された弁当だろう。ハンバーグが! チーズが! キャベツが! シソが!
すべての食材が調和を持って奏でるハーモニー! この弁当こそまさしく――
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:05:16.12 ID:Ma1Pw.go
黒子「当麻さん!」
上条「はっ!?」
結標「どうしたのよ上条くん。必死に弁当をがっついちゃって」
上条「すまん、あまりにも美味かったもんだから」
気づけば黒子たちも各々食事を終え、なぜ見慣れぬ狼たちが現れたのかと話をしている所だった。
黒子「それで、先程結標さんに聞きましたけれど、第七学区に『東区』と『西区』という括りがあったんですのね」
上条「ああ、と言っても、そう呼んでいる殆どが東の連中だけどな。あちらはどちらかと言うと功名心の高い狼が多いからさ」
結標「そう。そして東の狼達は何かと順位を付けたがるの」
黒子「順位……ですの?」
結標「えぇ、『この学区で一番強い狼は誰か』という事を重要視するの。
イマジンクリエイト
そして、今東区で最強と呼ばれる狼の名が《幻想創造》」
黒子「なんだか、三年後にでも戦うことになりそうな名前ですの」
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:10:49.17 ID:Ma1Pw.go
結標「幻想創造は強いわよ。若くして頭角を表し、まるで強くなりたいという幻想を具現化したかのような速度で成長してきた。
最近は新しく引き入れた犬を調教し、雷神の名を冠する『幻想』を作り上げたそうだけれど……」
黒子「ちょっと待ってくださいですの。『幻想』を『創造』するって、まるで当麻さんの二つ名と対になるようですわ」
結標「その通り。《幻想創造》は昔、西区の《狼》だったのよ。それが《幻想殺し》に負け、東へと逃げた」
黒子「そうなんですの?」
上条「あぁ、その頃のアイツはまだ新米の《狼》だったからな。血気盛んで、やたらと力に拘る奴だった。
俺にはアイツが何故そこまで力を求めるのかは分からなかったが、《狼》として向かって来た以上《狼》として答えてやることしか出来なかったんだ」
黒子「なるほど。ではそれと、東区の狼がこちらへ流れてきている事と、何か関係が?」
上条「さあな。ま、それほど珍しいことではないさ。俺だってたまに、東のスーパーに顔を出す事だってある。血気盛んな東のヤツらなら尚更さ」
結標「そうね、気にする程の事では無いわよ。それじゃあ私は孤児院の仕事もあるし、帰るわ」
上条「ああ。じゃあな、結標」
黒子「ごきげんよう、結標さん」
56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:15:36.76 ID:SqltWyU0
夜中に読むとやたら腹が減るSSだなあww
57 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:20:13.47 ID:Ma1Pw.go
軽く手を振り、結標が公園から去っていく。
その後もベンチから動かない所を見ると、上条はまだ帰りそうにない。
黒子はさりげなく彼の近くに座り直した。
黒子「今日は用事が入ってしまい申し訳ありませんでしたの。お姉さまとのお買い物はいかがでした?」
上条「んー? 映画は面白かったぜ。その後、御坂と感想を言いあったのも楽しかったし。ただ買い物の方は結局行けなかったからな」
黒子「何故ですの?」
上条「御坂の奴が急に用事が入ったとかで帰っちまってな。なんだったんだ?」
黒子(はぁ……お姉さまったら、また緊張に堪えきれなかったんですのね……)
美琴の性格から結論付け、黒子は呆れながらも、どこか安堵している自分に気づく。
それが上条に伝わらないよう、慌ててニヤケかけていた表情を元に戻すと、さらに上条へと問いかけた。
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:29:45.41 ID:Ma1Pw.go
黒子「その《幻想創造》なる人物、東区最強と言われながらも元は新米の狼だったんですのね」
上条「ああ。ただ、何処か片鱗のようなものは見せていたように思う」
黒子「そう、ですの……今日も半額弁当を手に入れられませんでしたし、何だかその御方が羨ましいですわ」
上条「何、黒子もすぐ強くなるさ。おれが保証する」
黒子「当麻さんを超えられるくらいに、ですの?」
上条「ははは。お前ならできるさ、きっとな。ただ、そう簡単に抜かさせやしないぜ」
黒子「言いましたわね、後で吠え面をかいても知りませんのよ!」
上条「おう。期待してるぞ、黒子」
優しく微笑みかけられ、黒子は思わず狼狽えてしまう。
黒子(その笑顔は、反則ですの……)
上条「それじゃ、俺も帰るかな。送ろうか?」
黒子「いえ、テレポートを使えばスグですし、結構ですの」
上条「そうか。またな、黒子」
黒子「ええ。さようなら、当麻さん」
61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:35:55.11 ID:Ma1Pw.go
上条を見送り、黒子も帰路に着く事にした。
テレポートを繰り返し、寮監の目から逃れるため、寮の外からベランダへ直接跳躍。靴を脱いで部屋へ入る。
美琴「あら黒子。おかえり」
黒子「ただいまですの! お姉さま~」
美琴「ちょっ!? とびかかってくんな!」
ビリビリと美琴の前髪から紫電が迸り、黒子がジタバタと床の上で悶絶する。
いつものやり取りである。
黒子「うぅ……ひどいですの」
美琴「どっちがよ!」
黒子「そ、そう言えば。今日はデートの途中で帰られたそうですが、一体何をしていらしたんですの?」
美琴「でででデートって!? 別にそんなんじゃないわよ……ま、まぁ買い物の前に帰ったのは、その――ちょっと友達に頼まれごとされちゃって」
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:41:39.62 ID:Ma1Pw.go
黒子「頼まれごと? 照れて一緒にいるのが耐えられなくなったのではありませんの?」
美琴「だ、誰があいつなんかに照れるか!そ、それに最後の方は結構いい雰囲気だったんだから…… って、何言わせるのよ!」
黒子「ま、まぁいいですが……ところでお姉さま、最近お疲れのようではありませんの?」
美琴「え? そ、そう?」
黒子「ええ。最近少しお肌が荒れているような……なんだかヤツれているような気もしますし」
美琴「気のせいだって。でも、心配してくれてありがとね、黒子」
黒子「お、お姉さま……」
これは完全に予想外だった。
黒子はこの後「余計なお世話よビリビリー!」とでもされるだろうと思っていたのに。
いや、お仕置きされるのを前提で話しかけるのもどうかと思うが。
ともかく。不意に優しい言葉をかけられ、思わず黒子は立ち尽くしてしまったのだった。
そして、そこへさらなる不意打ちがかけられる。
美琴「黒子。あんたはずっと、私のパートナーだから」
黒子「お、お姉さま?」
黒子(なななななぁ!? どういう事ですの!? まさかお姉さまの方から、わたくしを抱きしめてくださるなんて!)
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:46:35.62 ID:Ma1Pw.go
黒子がわきわきと怪しい手つきで美琴の細い腰に腕を回そうとした時だった。
スッと、美琴の方から離れて行ってしまう。
美琴「ごめんね、急にこんな事して。さ、今日はもう寝るわ」
黒子「えっ? そんな! もうサービスタイムは終わりですの!?
ついに激アツ確変リーチが来たと思いましたのに! この台ハイスペックすぎですの!
……・ん? CR超電磁砲……これは売れるかもしれませんの!」
美琴「おやすみー」
黒子「ナチュラルにスルーするのはやめて欲しいんですの……」
トボトボとシャワーを浴びに行く黒子を尻目に、美琴は本当に布団を頭まで被ってしまっていた。
がっくりと肩を落とした黒子は、制服を脱ぐと替えの下着を用意し、いそいそと浴室へと向かう事にした。
バタン。と、浴室の扉が閉じ、中から水の跳ねる音が聞こえ始める。
美琴「ごめんね、黒子。でも私は――私は、東の《狼》なの」
その呟きは、布団のなかで反射し、誰にも聞かれること無く、消えた。
第二章 終了
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:16:50.25 ID:Rf1IUiso
第三章《風紀委員》 ギャフン!> 初春飾利
佐天「うーいっはるー!」
初春「ひゃぁ!」
佐天「おお! 今日の初春は縞パンかー。マニア心をくすぐるねぇ」
初春「なんのマニアですか! もう……」
佐天「何って、初春のパンツマニア?」
初春「……もういいですよぅ」
佐天「もう。初春ったら、スネないの」
初春「スネてないです!」
98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:23:44.34 ID:Rf1IUiso
昼下がり、学校を終えた二人の少女が第七学区の公園を歩いていた。
柵川中学一年生の制服を着た彼女らとは、言わずもが『佐天涙子』と『初春飾利』の二人だ。
きゃいきゃいとじゃれ合う少女たちは、傍から見ても仲が良さそうに見える。
どれくらい仲がいいかと言うと、風邪で寝込んでいる佐天の部屋にズカズカ踏み込んでノートPCを広げ
「うおおお!!! 筋肉刑事の新作ktkr! これで勝つる!」だとか「ハァハァ、サイトウ可愛いよサイトウ」だとか、ひとしきり騒いで帰っていく位仲がいい。さすがの佐天もその時ばかりは、この頭花ちゃんと縁を切ろうと思ったほどだ。
佐天「あれ? 白井さんじゃないですか!」
回想にふけり沸々と怒りを抱き始めていた佐天は、知り合いを見かけて我に帰った。
今しがた公園に入ってきた人物は、ツインテールに常盤台の制服を着た少女――白井黒子である。
黒子「おや、初春に佐天さんではありませんの」
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:28:27.18 ID:Rf1IUiso
黒子「今日は二人でデートですの?」
初春「なななな! 何言ってるんですか白井さん!」
佐天「そうですよ白井さん。デートなんてあまっちょろい物じゃないです!
二人はこれから夜の街に……」
初春「佐天さんまで悪ノリしないで下さい! それに今は昼です!」
黒子「まるで夫婦漫才ですの……」
佐天「夫婦だなんて、照れちゃいますよぅ……」
初春「もう佐天さんは黙っててください!」
黒子「で、お二人は何をしてるんですの?」
佐天「今から二人で買い物に行こうと思ってるんですよー」
初春「白井さんも来ますか?」
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:31:08.18 ID:Rf1IUiso
黒子「いえ、今日は遠慮させていただきますの。少し調べたい事があって」
佐天「風紀委員のお仕事ですか?」
黒子「ま、まぁそんな所ですの」
佐天「ふぅん」
と、彼女は興味もなさそうに言う。と、途端顔をほころばせ、良いことを思いついたと言わんばかりのニヤニヤ笑いを浮かべる。
佐天「白井さん。私、今猛烈にクレープが食べたいんですよ」
黒子「はぁ、そうですの」
初春「もう。そんなことばっかり言ってると太りますよ」
佐天「私は初春と違って胸に行くしー ……って、そうじゃなくてぇ!
ジャンケンして、負けた人が三人分のクレープを買いに行くってのはどう?」
黒子「そこはかとなくムカつく発言がありましたが……いいでしょう。受けてたちますの」
初春「正直乗り気はしませんが、今猛烈に佐天さんをギャフンと言わせたいので、私も乗りますよ!」
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:37:17.64 ID:Rf1IUiso
佐天「そう来なくっちゃ! それじゃあ行くよ!」
言い、佐天は某ポルナレフヘアーの人が必殺技を放つときのように右拳を左手で覆う。
佐天「最初はグー!」
初春「ジャンケン……」
黒子「ポン! ですの!」
…………
初春「ギャフン!」
黒子「見事に一発で負けましたわね」
佐天「それじゃ、頼んだよ初春」
初春「うー……」
102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:43:50.85 ID:Rf1IUiso
トボトボと歩き出した初春が十分離れたのを確認してから、佐天は黒子へ向き合い、真面目な顔を作った。
まるで追いつめられたような瞳に、黒子はただ事ではない雰囲気を感じ取る。
佐天「白井さん、大切な話があります」
黒子「大切な話……ですの?」
佐天「えぇ、東の《狼》として」
黒子「――!?」
佐天「これは正直、西の人に言ってはいけない事なんですが……」
苦しい顔を作り、佐天が言い淀む。
ごくりと、驚愕と不安に黒子が息を飲む。
しばしの間。しかししっかりと、佐天は言った。
佐天「東の《狼》達は戦争を始めようとしています。西を飲み込み、第七学区を統一するつもりです……!」
115 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:21:10.53 ID:8xmZvAAo
佐天「東の《狼》達は戦争を始めようとしています。西を飲み込み、第七学区を統一するつもりです……!」
黒子「なん……ですって……」
佐天「最近東の狼がよく西へ遠征に出かけていますよね。あれは偵察なんです」
黒子「確かに最近東の狼をよく見かけますけれど……でも、なんでまた」
佐天「かつて《GENESIS》の時代が在ったことは知っていますよね? 《幻想創造》は、それを繰り返そうとしているんです。
進撃
新しい時代――《AHEAD》の時代を創造するために」
黒子「……どうして、それを佐天さんが知っていますの?」
佐天「《幻想創造》は東の有力な《二つ名》持ちを招集してお触れを出したんですよ。知っての通り、東の狼は強さにこだわり、序列を重要視します。だから東の《長》である《幻想創造》の言う事は絶対なんです」
117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:27:06.02 ID:8xmZvAAo
黒子「でも、何故それをわたくしに?」
佐天「白井さんが友達だからって言うのもあります。それと……ちょっとズルいかも知れないけど、打算もあります」
黒子「打算?」
佐天「白井さんは《幻想殺し》の弟子なんですよね?」
黒子「弟子かと言われると分かりませんが、確かに面識はありますの」
佐天「……お願いです。このことを《幻想殺し》に伝えて下さい。この計画を、止めて欲しいんです」
黒子「でも、それでは佐天さんが東を裏切ることになりますの!」
佐天「嫌なんですよ……序列や強さにこだわって、みんな弁当争奪戦の楽しさを忘れて……そんなの、私が好きな弁当争奪戦じゃない……」
黒子「佐天さん……」
119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:33:00.78 ID:8xmZvAAo
佐天「だから、お願いです。この事を、どうか《幻想殺し》に……」
黒子「分かりましたの。この事は必ず伝えますの」
佐天「ありがとうございます……あ、そろそろ初春が帰って来ちゃうかな」
黒子「そうですわね。あぁ、楽しみですわ。ハンバーグクレープ」
佐天「はは、半額弁当争奪戦でもがっつり食べてるのに、こんな所でそんなの食べたら、太りますよ?」
黒子「うっ……く、クレープは別腹ですの……」
初春「買ってきましたよー!」
佐天「やぁやぁ初春。パシリご苦労!」
初春「パシリって! ひどいです佐天さん!」
初春とじゃれ合う佐天は、先までの真面目な会話が嘘のように晴れやかな顔をしている。
その二面性が――親友を心配させまいとする気丈さこそが、彼女が真剣である証拠に、黒子には思えた。
120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:38:00.89 ID:8xmZvAAo
かつて黒子のクラスメートであり『常盤台マゾの会』の会員である内本さんが、美琴にビリビリされて悶えている黒子を勝手に同志だと思い込み、自作の『常盤台ドSランキング』を見せながら熱く語ってくれた事が在った。
内本さんは寮の廊下で、婚后光子に嬲られたいだの寮監の首狩りは最高だの大声で宣っていたのだが、その時親から掛かってきた電話に「うっせーんだよ! んな事でいちいち電話かけてくんじゃねぇ! ド素人が!」と見事なまでの内弁慶っぷりを発揮したのだ。
これまでさんざんMだと自称していた内本さんが垣間見せた僅かなSっ気に、黒子は密かに戦慄を覚えたのだが、この真剣さはあの時の内本さんにも匹敵するように思う。
だって内本さん。話を途中で遮られたことに、本気でブチキレていらっしゃいましたもの……
黒子はそんな友人の意外な二面性を回想しながらクレープを食べ終えると、《幻想殺し》――上条当麻にこの事を伝えるべく、二人に別れを告げ、帰路についたのだった。
144 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:02:33.01 ID:zm1k5pEo
黒子「……と、言うことがありましたの」
上条「なるほど、戦争か……」
セブンス・マートの冷凍食品コーナー。
本来、この冷凍食品コーナーに待機している《狼》は少ない。
何故なら、通路真ん中におかれたワゴン式の冷凍装置から漏れ出す冷気が年中通路を冷やし、特に薄着になる夏は冷房病になる狼も少なくないからだ。
そのため、この冷凍食品コーナーは《極寒の領域》とも呼ばれており、近づく《狼》の居ない不毛の地とされている。
そんな中、白い息を吐きながら《極寒の領域》で身を寄せ合う二つの影があった。
白井黒子と上条当麻だ。
《極寒の領域》は《狼》が少ない事や、弁当コーナーから離れている等の理由で、密会には持って来いの場所だ。
彼等が話している内容も、そういった『密会』が必要な内容であった。
146 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:11:35.41 ID:zm1k5pEo
黒子「確か佐天さんは《AHEAD》の時代が訪れると――《GENESIS》を再現するつもりだと、おっしゃっていましたの」
上条「《GENESIS》……か。《幻想創造》はまたあんな事を繰り返そうと言うのかよ……!」
言う上条の声は震え、拳は固く握り締められていた。
彼の激情に、黒子は自然と過去の戦乱が悲惨なものであったのだろうと言う事を、自然に理解する。
上条当麻は怒っていた。
何に対して怒っているのか、過去の戦乱を知らない黒子には分からない。
ただ、黒子は思う。
その戦いは、優しいこの御方が怒りを得るような、一握りの強者の所為で、弱者が理不尽に不幸になるようなものだったのですねと。
上条「黒子……その戦争、受けるぞ」
149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:16:59.39 ID:zm1k5pEo
黒子「正気ですの!? そんな物、無視してしまえばいいではないですか」
上条「《狼》同士の戦争は、所謂決闘方式で行われる。そのスーパーを縄張りとする狼に挑戦者が挑み、その縄張りに住む狼と、送り込まれた挑戦者側の狼達が戦い、多く半額弁当を取った側が勝者となる。そのため、
少なくとも縄張り持ちの狼には事前に挑戦状が送られるはずだ。下手に縄張り持ちが挑戦を受けて地元の狼と連携が取れなくなるより、先に全狼にこの事を伝えた方が対策は取れる」
黒子「では、ハナからその挑戦を蹴ってしまえば……」
上条「《幻想創造》がそうだとは思いたくないが、戦乱の時代には挑戦を拒否した側のスーパーを荒らす奴らもいた。今では信じられない話だけどな……」
黒子「そんな……誇りは! 《狼》としての誇りは何処に!」
上条「あの頃は闘う事が《狼》の誇りだった……少なくともそう錯覚させるほどに、あの時代は厳しいものだったんだよ……」
152 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:33:20.33 ID:zm1k5pEo
黒子「そんな……」
上条「半額弁当争奪戦はそんな物じゃねぇ。腹の虫の声に答え、勝利の一味を求めるための物だ。黒子、お前ならわかるだろ?」
黒子「えぇ、わかりますの……わたくし達の力、見せつけてやりましょう、当麻さん!」
上条「あぁ、じきに東からの宣戦布告があるはずだ。その前に西の狼たちにこの事をつたえなくちゃな。
悪いが黒子、俺は今からツテを使って西の全《狼》達にこの事を通達してくる。今日の争奪戦は出られそうにない」
黒子「謝る必要はありません。逆にライバルがひとり減って、好都合ですの」
黒子の軽口に上条は薄く笑うと、踵を返してスーパーの出口へと歩いていった。
それから間もなくして、西の《狼》達に《幻想創造》の目論見が明かされた。
まだ見ぬ戦いを恐れる者。強敵との戦いに歓喜する者。上条と同様、義憤に燃える者。
様々な《狼》の思いが錯綜する中、追うように東からの宣戦布告が行われる。
開戦は4日後、金曜日。
ハーフプライスラベリングタイム
東側で最初の《半値印証時刻》をもって、火蓋は切って落とされることとなる。
153 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:46:53.62 ID:zm1k5pEo
第四章 幻想創造
金曜日、風紀委員の仕事を早く終わらせた白井黒子は焦れていた。
現在の時刻は19時を少し過ぎたところ。
閉店の早いスーパーならばもう《半値印証時刻》が始まっている時間だ。
なのに、上条当麻はまだ姿を表さない。
いや、セブンス・マートの《半値印証時刻》が21時前後なのを考えると、特におかしな時間ではない。
むしろこんな時間からいつもの公園のベンチに腰掛けている自分が異常なのだ。
結標「にしても、早く来すぎよ、貴女」
黒子「わたくしより前に待機していた貴女に言われたくありませんの」
白井黒子と結標淡希が互いに目をそらしあったまま、言葉を交わす。
無言の中、結標が携帯電話の時計を見ながら呟いた。
結標「そろそろ、早い店では争奪戦が始まっている頃ね」
黒子「わたくしは……気が気でありませんの」
結標「戦争の事? それとも、上条くんの事かしら?」
154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:02:33.88 ID:zm1k5pEo
黒子「当麻さんの事ですの。あの方のご様子はいくら前の戦乱があったにしても、少し異常なように見えました」
結標「そうかしら? 前の大戦を憎む狼は少なくないわよ。特にあの上条くんならね。彼は、今の争奪戦が大好きだから」
黒子は結標の言葉に若干の嫉妬を抱きつつ、考える。
黒子(わたくしの知らない、当麻さん……)
彼女はまだ《狼》としては新米だ。
もちろん、過去の大戦の事など、知る由もない。
黒子(そして、その頃の当麻さんの事も……)
彼女はこれまで上条と行動を供にし、彼のことを少なからず知っているつもりでいた。
しかし考えてみれば、彼とこうして話すようになったのも、つい最近なのだ。
それまでは、憎くすら思っていたはずなのに。
黒子「当麻さんは……わたくし達は、勝てるのでしょうか」
結標「さあね。でもま、私はこのセブンス・マートさえ守れればそれでいいわ。他のことなんて、興味もない」
黒子「それはいささか無責任では……」
結標「いいのよ、それで。私は私の守れる物を守る。私にはこのスーパーだけで精一杯よ」
黒子「……そうですわね。今はただ、わたくし達の戦いだけを考えましょう」
結標「言われなくても、そうしてるわ」
現在の時刻は19時30分。
セブンスマートの《半値印証時刻》まで、あと1時間半。
155 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:13:14.67 ID:zm1k5pEo
幻想創造「ふふふ……ついに始まりましたね、御坂さん」
美琴「…………」
暗い部屋。
どことなく会議室のように見える大部屋で、二人の人間が巨大な3Dディスプレイを眺めていた。
そこには第七学区の地図が表示されており、エリアごとに赤と青で色分けされている。
これは戦争の状況をリアルタイムで表示するプログラムであり、現在、殆どがまだ西側勢力を示す赤に塗られている。
と、不意に赤かったエリアが青色に塗りつぶされた。
それは、東の狼が緒戦を飾った事を意味している。
幻想創造「さすがは東の精鋭たちです。緒戦は開始から15分で勝利ですか」
幻想創造「少々早いですが、そろそろ準備をされたらどうですか? 御坂さん」
美琴「まだ一時間以上あるわ。そう急く事もないでしょう」
幻想創造「おやおや? 怖気付いちゃったんですか? そうですよね、相手があの《幻想殺し》とあっては、
トール
さすがの『超電磁砲』――いえ、《雷神》でも恐れるのは仕方ありません」
美琴「だ、誰がアイツなんかに!」
幻想創造「ふふ、戦えるならいいんです。私としても文句はありませんよ」
156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:44:12.16 ID:zm1k5pEo
笑う幻想創造。
その頬に薄く張り付いた微笑に、美琴はどこか狂気を感じ、目を逸らす。
美琴は思う。
私が求めていた争奪戦とは、こんな物だったろうかと。
寮の夕食時間を逃したあの日、たまたま入ったスーパーで争奪戦に巻き込まれて以来、彼女は生来の負けん気を発揮し、めきめきと力をつけていった。
その間、常に自分を導き、傍にいてくれたのが《幻想創造》だった。
黒子を導いたのが上条当麻なら、美琴にとってのそれが《幻想創造》だったのだ。
彼女は《幻想創造》に対して恩義を感じているし、好意も抱いている。
しかしそれは身内に対するものであり、彼女が上条当麻を思う時のソレとは違うものだ。
そんな《幻想創造》が彼女に命じたのは『セブンス・マート』攻略。
つまり、彼女の想い人である《幻想殺し》の打倒だ。
しかし、彼女にとってそれは抵抗感を抱くような事ではない。
彼との喧嘩はもはや日常的なものであり、その舞台がスーパーへと移るだけの話である。
そう、それだけならば何の問題も無い。
『たまたま』会ったスーパーで《狼》として闘うならば……
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:50:51.09 ID:zm1k5pEo
だが今回はそうではない。
明確な敵意を持っての対立。
戦争という舞台に於いての、兵士と兵士と言う立場での戦い。
それは彼女にとって、何とも言えない不快感を与えていた。
幻想創造「あれ? あはは、見てくださいよ御坂さん。西も結構善戦しているようです。なかなか制圧地域が増えていきませんね」
美琴「……行くわ」
幻想創造「ああ、もうそんな時間ですか。私も準備をしないと」
笑みを浮かべて椅子から立ち上がる《幻想創造》を尻目に、美琴は無言で扉へと向かう。
静かにドアがスライドし、その向こう側へと美琴は一歩を踏み出す。
幻想創造「いってらっしゃい。御坂美琴さん」
答えること無く、ドアの向こうに美琴は消えた。
現在の時刻は20時15分。
セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと45分。
159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:09:47.13 ID:WdOFmYAO
創造役誰か気になんよ
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:11:57.08 ID:ZbCgRHY0
敬語だからなんとなく海原(本物)のイメージだった
バン・トーのキャラだったなら分からないな
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:15:33.49 ID:RVCB2mgo
バン・トーで不覚にも
163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/24(月) 01:42:03.41 ID:3pflIkAO
バン・ドー《ゆでたまご1つ300円やてッ!?》
なるほど
174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:33:00.29 ID:aPRkZoUo
茶髪「あら《お嬢様》。早いじゃない」
セブンス・マートの奥。
弁当コーナーから離れた乾麺コーナーでカップヌードルライトを凝視していた黒子に、茶髪の女性とが声をかけた。
後ろから、いつもの坊主と顎鬚もついてきている。
黒子「なんですの、それ」
茶髪「知らないの? まだ二つ名ってほど浸透してはいないけど、貴女をこう呼ぶ《狼》がちらほらいるのよ」
黒子「はぁ……二つ名がつくのは素直に嬉しいですが、いささか不本意ですの」
ため息を付いて肩を竦める黒子に、坊主が思い出したと言うように指を立てた。
坊主「なんだ、それが嫌ならもう一つ二つ名候補があるぞ、お嬢」
黒子「まぁ、なんと言うんですの?」
レズビアン
坊主「《変 態》」
175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:39:48.04 ID:aPRkZoUo
黒子「なぁっ!? わたくしの何処が変態なんですの!?」
顎鬚「なんでも『超電磁砲』にビリビリされて悦んでるのを見た奴がいるとかなんとか……
え?お嬢ってそういう趣味?」
黒子「確かにお姉さまからの愛のムチでしたら悦んでお受けいたしますけれども。
別にわたくしにはそういった趣味はありませんの」
結標「その時点で、十分に変態よ」
黒子「そんな……わたくしの愛がそんな風に見られていたなんて……」
「あんなもん、そう見られたって仕方ないっての」
声。
不意に投げかけられた呼び掛けに、皆が一斉に振り向いた。
そこにいたのは右手にカゴを提げた一人の少女――
――雷神《トール》! 御坂美琴!
美琴「はじめまして、西の《狼》さん。神罰を与えに来たわよ」
176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:44:33.68 ID:aPRkZoUo
黒子「お姉……さま」
美琴「話には聞いていたけど、あんたも《狼》になってたとはねぇ、黒子」
結標「あら、東からの刺客は貴女だけなの? 《雷神》」
黒子「《雷神》――!? では《幻想創造》の配下と言うのは……」
美琴「そう、私よ《変態》さん」
言い、カゴを肩に担ぐように保持すると、美琴は誰かを探すように左右に目をやる。
美琴「アイツは――《幻想殺し》はまだ居ないみたいね。結構楽しみにしてたんだけど」
坊主「ふん、奴が居ずともお前一人だけならば、我々だけで十分だ」
顎鬚「俺らも舐められたモンだぜ」
結標「……違うわ」
顎鬚「え?」
177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:48:47.33 ID:aPRkZoUo
美琴「へぇ、気づいたんだ」
うっすらと笑い、美琴が左指を鳴らす。
と、ゾッとするような冷気が。
突き刺さるような視線が。
全方向から彼等へと穿たれる。
茶髪「なっ!?」
結標「なんて数……!」
クリーチャーズ
美琴「よく訓練されているでしょう? 《幻想創造》が作り出した《魑魅魍狼》よ」
結標「こんな兵隊まで作って……《ガブリエルラチェット》の真似事かしら?」
美琴「あんな物と一緒にしないで欲しいわね。こいつらは《ガブリエルラチェット》と違って戦闘能力を有する《軍用犬》よ」
顎鬚「なんだよこれ……《幻想創造》ってのは正気なのか!?」
178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:54:02.45 ID:aPRkZoUo
美琴「これでも勝てるってんなら私はいいんだけど……そろそろ《半値印証時刻》だし、《幻想殺し》を早く呼び寄せた方がいいんじゃないの?」
黒子「そうですの! 当麻さんは一体何を……!?」
美琴「……『当麻さん』ねぇ……《狼》になってんのはともかく、あんたがアイツと隠れて会ってただなんて……」
黒子「そんな……隠れて会っていた訳では……」
美琴「だってそうでしょう? 最近帰りが遅いから何でだろうと思ったら……聞いたわよ、アイツの部屋にも行ったそうじゃない」
黒子「それは……当麻さんがお風邪をひかれて」
美琴「看病しに行きましたって? はん。そんなの遠回しに『風邪を引いたら看病しに行く仲です』って言ってるようなもんでしょ?私にそんな風に見せつけて、楽しい?」
黒子「わ、わたくしは決してそんなつもりでは……」
美琴「無いって言える? あんたが少しもアイツの事を意識してないって、胸を張って言えるの?」
179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:59:51.36 ID:aPRkZoUo
黒子「そ、それは」
言える。
とは、黒子は口にできなかった。
自分は少なからず、それこそ美琴と同列に考えるくらい、彼のことを意識していたのだから。
美琴「あの時の映画だって……何? 私へのお情けのつもりだった?」
黒子「わ、私は決してそのような事……アレはお姉さまにも、当麻さんにも楽しんで欲しくて……」
美琴「それがお情けだって言うのよ!」
黒子「ひうっ……!」
怒声に、黒子が怯えたように身をすくめる。
その身はがくがくと、風雨に打たれ、凍えた子犬のように震えている。
恐怖だった。
絶望だった。
愛する人から受ける剥き出しの嫌悪に、黒子の体は崩れ落ちそうになっていた。
結標「そこまでよ、『超電磁砲』……いえ、《トール》」
美琴「《座標移動》……久しぶりね。意外だったわ、あんたと黒子が一緒にいるなんて」
180 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 22:05:39.87 ID:aPRkZoUo
結標「あら、それも貴女が言う『アイツ』のおかげよ。どう? 嫉妬したかしら」
美琴「あんたねぇ……」
結標「そうそう、その《幻想殺し》だけど」
ニヤリと、結標淡希が笑う。
結標「来ないわよ。今日、ここに」
茶髪「なん……ですって?」
坊主「おい《座標移動》!どういう事だよそれは!」
結標「どうもこうも、ソレ以上もソレ以下も無いわ。彼は来ない。だから私たちだけでここを守るしか無い。それだけのことよ」
美琴「ふふふ……あははははは!」
黒子「お、お姉さま?」
181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 22:10:35.98 ID:aPRkZoUo
美琴「そう……そういう事だったのね……あの子、初めからそういうつもりだったのね」
黒子「一体どういう……」
美琴「いいわ、教えてあげる。《幻想創造》の本当の目的」
結標「…………」
美琴「まぁこれも、ここにアイツが来ないって言う情報から考えた推測だけど……
初めからおかしいと思ってたのよね、あれほど《幻想殺し》にこだわっていたあの子が、ここに私を差し向けたりして」
美琴「《幻想創造》の本当の理由……ソレは、自分の師を倒し、さらなる高みへと至ること……
そして、自分を捨てた《幻想殺し》への――
――復讐よ」
現在の時刻は20時45分。
セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと15分。
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 18:54:47.24 ID:cYnn0Joo
清潔感を漂わせる無機質な白壁になぞられた緑を基調とした模様が、初夏の山々がごとく稜線を描く。
陳列された色鮮やかなパック飲料がそこに彩りを加え、乱れなく整えられた腿肉のパックが無機質な背景に躍動感を与えていた。
並ぶ乾麺のパッケージは視覚を楽しませ、惣菜売り場から漂う油の匂いが食欲を刺激する。
スーパーだ。
セブンスギア
第七学区の東に位置するスーパーマーケット『 7thーG 』。
かつて《四竜》として半額弁当争奪戦で名を馳せた、四人の老人が経営するスーパーだ。
そのお菓子売り場でコアラのマーチに熱い視線を注ぐ少女がいた。
長い黒髪の前部を花型のヘアピンでまとめ、平凡な紺のセーラー服を纏った中学生くらいの少女。
佐天だ。
佐天はコアラのマーチから視線を逸らさぬまま、ただじっと立ち尽くしていた。
……もうすぐ、始まるんだよね。
彼女は今、第七学区全体を巻き込んだ『西』と『東』の戦争の渦中にいた。
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:08:04.96 ID:cYnn0Joo
……私はまだ、未熟だ。
勝てないかも知れない。
期待に応えられないかも知れない。
思考し、佐天はその思いを払うように頭を振る。
それでも私は全力で闘うだけだ、と。
カゴも持たず、商品を手にとる事すらしない彼女を避けるように、数人の子供たちが脇を駆けていった。
と、その子供特有の軽い足音に、ひとつだけ重いものがあるのに気づく。
顔を上げぬまま、佐天は視線だけをそちらに向ける。
天井から射す蛍光灯の光を背に受け浮かぶのは、ツンツン頭の少年のシルエットだ。
一歩ずつ近づいてくるその影を、彼女は知っていた。
佐天「上条……さん?」
答えること無く影は――上条当麻は佐天の横に立つと、同じようにトッポへ視線を注ぐ。
彼女と違い視線をやらぬまま、彼が口を開く。
上条「何驚いてるんだよ。お前が呼んだんだろ、涙子」
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:17:44.77 ID:cYnn0Joo
佐天「本当に来てくれるなんて、思ってなかったです。白井さんに伝えた情報だけでよく分かりましたね。
場所も言ってなかったのに」
上条「そもそもおかしいんだよ。戦争が起こるって事をあの時点で教えたって、何の意味もないだろうに。
領土戦は基本、双方の合意を持って行われる。奇襲なんてそもそも成立しないんだから、
アレはその内こちらの知ることとなる情報だったんだ。それならアレは、挑戦状以外の何物でもねぇよ」
佐天「あはは、いつも鈍感なのに、そういう所ばっかり鋭いんだから……」
沈黙が落ちる。
どこかで扉が開く音が聞こえた。
すぐに商品を整理する音が続く。
佐天「何で……来たんですか」
上条「戦争を止めるためだ」
ぶっきらぼうに、上条が答えた。
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:28:11.55 ID:cYnn0Joo
佐天「……ありがとう……ございます」
上条「別に、感謝されるような事はしてねぇっつーの」
商品整理の音は次第にパックと商品台が擦れ、鳴らす物に変わる。
そこへ重なるようにキュッキュと、マジックがビニールの上を走る音が加わった。
上条「何で、こんな事をしたんだよ」
佐天「力が……欲しかったんです」
上条「力?」
佐天「私ってば無能力者ですから、せめてスーパーでだけは、超能力者に負けたくなかった」
上条「だからって!」
佐天「教えてくれたのは上条さんですよ。ここでは腹の虫の加護だけが本物だって。レベルや能力なんて、全部幻想だって」
上条「…………」
佐天「だから私は、この第七学区を手中に収め、さらには学園都市を統一し、最強となる!」
佐天「そのために、私は貴方を超えなければならない!」
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:33:58.23 ID:F2l28uk0
何…だと?
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:37:08.07 ID:cYnn0Joo
コツコツと、磨かれた床を叩く音。
半額神が役目を終えて歩みだしたのだ。
佐天「目的のために、私は手段を選びません」
その言葉に呼応して、複数の気配が湧出した。
上条は囲まれた事を悟る。
だが、
上条「関係ねぇな、そんな事」
ドアが開く。
上条「御託は終わりか? ならそのふざけた幻想ごと、お前の野望をぶち殺す!」
半額神が、一礼をする間。
一瞬の――静寂。
それを、二つの咆哮が引き裂いた。
イマジンブレイカー
佐天「私の幻想に喰われて眠れ! 《 幻想殺し 》!」
イマジンクリエイト
上条「俺の右手に打ち砕かれろ! 《 幻想創造 》!」
そして、扉が閉じた。
現在の時刻は21時00分。
セブンス・マート及び、7th-Gにて《半額弁当争奪戦》開始。
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:40:13.72 ID:u9WnQloo
佐天さんが…だと…
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:49:28.83 ID:cYnn0Joo
黒子「くっ……! 残る弁当はあと一つですの!?」
この日、セブンス・マートで半額となった弁当の数は3つ。
内2つは既にレジへと運ばれている。
一つは、美琴が指揮する《魑魅魍狼》によって。
一つは、乱戦の中不意打ちのように飛び出した茶髪の手によって。
残り一つ。
『勝利者は肉を食らうもの、弱者の肉を……な ――弱肉強食・焼肉定食!』を手に入れた陣営が勝者!
しかし、
黒子(見えませんの……勝利が!)
猛攻。
怒涛のラッシュ。
まるで空気抵抗を感じさせない速度で振り下ろされるカゴに、黒子は防戦を強いられていた。
201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:54:20.91 ID:cYnn0Joo
打ち付け、打ち払い、薙ぎ、引き倒す。
買い物カゴは武器としては特殊な形状をしている。
かなり扱いにくいが、上手く使えばあらゆる使い方のできる万能の武器だ。
例えば底面。
これは美琴の二つ名の由来として言われるように《槌》として振るう事ができるが、それだけではない。
適度にたわむプラスチックのカゴは、相手の打撃を受け止め、吸収する盾ともなる。
次に上面。
これを門の字型に上から振るえば、相手を引き倒す鉤爪となる。
さらには相手に被せ、視界を奪うのにも有効だ。
そして持ち手。
接合部がヒンジとなっている持ち手は腕の振りとは異なる動きをし、相手に襲いかかる鞭だ。
そして不用意に放たれた相手の拳を通せば、その腕を絡めとることも出来る。
まさに攻防一体。
まだカゴの使い手との戦闘経験の浅い黒子にとって、美琴は荷が勝ちすぎている相手と言えた。
203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:57:44.40 ID:cYnn0Joo
黒子「だからと言って、負けるわけには!」
いきませんの。
吠える。
停滞した攻防を嫌がったのか、美琴が強めに振り下ろしたカゴに両指を絡め、黒子はソレを受け止めた。
そう。カゴの弱点の一つはその網にあった。
穴の多さ故、そこに指を掛けるだけで簡単にホールド出来てしまうのだ。
しかし、
美琴「その程度の弱点、対策してないとでも思ったの!?」
回転。
側面の取っ手を握っていた腕を、強引に回転させる。
そうなると、穴に指をかけていた黒子の腕はねじ上げられるようになる。
持ちやすい事が仇となり、黒子の指はカゴから離す事が出来ず、されるがままだ。
黒子「――っつ!」
カゴが指に食い込み、跡を残す。
たまらず黒子はもがくようにカゴから手を離そうとする。
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:59:52.90 ID:cYnn0Joo
美琴「逃がさないわよ!」
カゴに捻り上げられ、黒子は動けない。
そこへ、衝撃。
動きを封じたところへの、腰の入った蹴り。
斜め――45°!
黒子「かはっ――!」
地面へ叩きつけられる。
衝撃で指はカゴから離れていたが、呼吸すらままならず、黒子は立ち上がれない。
美琴「トドメ!」
持ち直し、両手振り下ろす。
黒子は迫り来るカゴの底面を見上げ、しかし動けない。
お姉さまにやられるのでしたら、わたくしは――
本望。
そう思いかけ、しかし、その時は来なかった。
飛んでいる。
そう思った。
見えるのは迫るスーパーの天井。
そして隣には、
黒子「結標さん!?」
結標「苦戦しているようね」
歴戦の《古狼》は不敵に笑い、牙を剥いた。
216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:29:48.42 ID:ocx/fEIo
着地し、黒子を降ろす。
結標は美琴に対峙し、構える。
にらみ合い、間合いを測るようにしながら、結標は数時間前の事を思い出した。
上条『結標、お前にセブンス・マートの防衛を頼みたい』
結標が着信を受けると、開口早々彼はそう言った。
結標「あら、貴方の縄張りなんだから、貴方が戦うべきではないの?」
上条『どうしても、やらなくちゃいけない事があるんだ……』
結標「貴方、《幻想創造》の所へ行く気ね」
上条『…………』
沈黙。
それは後ろめたさ故か、決意の現れか。
ともかく、それが雄弁に肯定を語っているのは確かだ。
結標は一つ、溜息をつく。
結標「どうして、私なの?」
上条「お前があいつらの中で、一番強いからだ」
答えに、結標は軽い失望を抱いた。
どうせならそこは――
結標(私を信頼しているからと、そう言って欲しかったわね)
218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:35:12.55 ID:ocx/fEIo
結標の思いも知らず、上条は続ける。
上条『経験だけならお前の方が俺より長い。最近の争奪戦でブランクも解消されてるハズだしな』
結標「……分かったわ。好きになさい」
上条『ありがとう。お前なら安心だ。信じてるぜ、結標』
出し抜けに放たれた望む答えに、結標がピクリと反応する。
全く、この男は本当に鈍感だ。
だから、
結標(少しだけ、意地悪をしてやりましょう)
結標「その代わり」
と、前置きし、結標は一つの条件を出した。
彼は少し驚いたように間をおくと、それを了承し、電話を切る。
通話後、結標の頬にはひとつの表情があった。
笑み。
結標「うふふ、私を出し抜いたつもりかもしれないけれど、そうは行かないと言うこと、教えてあげるわ」
呟き、隣で同じように彼を待っている少女を見やったのだった。
219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:40:44.38 ID:ocx/fEIo
思考を終え、彼女は眼前の敵へと意識を戻す。
黒子を圧倒していた様に見えたが、カゴを片手に提げた少女は荒い息をついている。
それなりに、ダメージは与えていたようだ。
美琴「アンタには《魑魅魍狼》をけしかけたハズだったけど……まさかあの数の狼をもう片付けたって言うの?」
結標「それは聞くまでもないでしょう? 私が貴女の前に立ち塞がっている時点でね」
美琴「………」
警戒するように、美琴がカゴを構えた。
対し、黒子と結標も構えをとる。
黒子「結標さんは弁当へ向かって下さいまし。お姉さまのお相手は私が致しますの」
結標「あら、手も足も出なかった癖に、言うわね」
黒子「うっ……」
結標「それに、私も雑魚とは言えあれだけ戦って消耗しているの。手伝ってくれるかしら?」
黒子「ふふ、分かりましたの」
笑い、黒子が跳んだ。
一直線に向かうのは眼前の少女。
220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:45:39.09 ID:ocx/fEIo
美琴「あれだけやられて、未だ分からないの!?」
振り下ろされる。
どれだけ速度を出そうが、黒子の動きは完全に読まれていた。
炸裂――するかと思われた戦槌は、しかし空を切る。
美琴「っ!? 直前に横へ跳んで!?」
完全にバランスを崩した美琴に襲いかかるのは、黒子の後ろについていた結標の拳。
美琴「くっ!」
カゴから手を離し、防御。
重たい一撃に、美琴の体が数歩下がる。
黒子「終わりではありませんのよ!」
戻ってきた黒子の蹴りを捌く。しかしそれは牽制だ。すかさず結標の攻撃が重ねられる。
後退。そこへ打撃。
防御。そこへ崩し。
再度後退。しかし攻撃は止まない。
221 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:51:55.05 ID:ocx/fEIo
追い詰めている。
黒子は結標とのコンビネーションに勝機を感じていた。
カゴを手放した今の美琴なら、二人で十分圧倒できる。
しかし、黒子の思考に反し、結標は気づく。
美琴の後退方向がある場所を目指している事に。
黒子「止めですの!」
結標「!? 待って! この方向は!」
叫ぶ。が、
美琴「もう遅いっ!」
飛び上がり、直上からの蹴り下ろしを放った黒子に、回避不能の一撃が叩き込まれようとする。
黒子(そんなっ!? 今までの後退はそのための!?)
直撃。
美琴が手放したはずのカゴが、抉るように黒子の脇腹へ突き刺さる。
骨格がひしゃげ、悲鳴を上げるような音を聞きながら、黒子が鮮魚コーナーの什器に叩きつけられた。
美琴「カゴ置き場への、逃走ルートよ」
再び握られる《雷神の槌》。
さらに今度は、
結標「二振り――!?」
美琴「《雷神の双槌》 それじゃ――天罰を下しましょうか」
222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:59:15.06 ID:ocx/fEIo
そこからは一方的な展開だった。
乱打。
嵐のごとく振るわれる双槌を受けるので結標はいっぱいいっぱいだった。
結標「くっ……」
美琴「いつまで耐えられるかしらねぇ?」
いつ終わるともしれないカゴの暴風に、しかし結標の心は折れていなかった。
結標(なんとか、反撃の糸口を……)
思い、乱撃を防ぎながら結標は攻撃の軌道を見極める。
こうしたラッシュはテンポが重要だ。
その為、続けば続くほど攻撃は規則性を持ってくる。
耐え、
防ぎ、
堪え、
結標(見つけた――!)
捻じ込む。
223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:10:50.33 ID:ocx/fEIo
右から振り下ろされるカゴに合わせるようにして左へ。
左から叩きつけられるカゴを潜るようにして前へ。
バックハンドで戻ってくる左を躱して下へ。
次の右は薙ぐように振るわれる。だからさらに下へ。
そこで捻じ込む。
美琴「――!?」
結標「通れ……っ」
身を縮め、伸び上がるようにアッパーを放つ!
結標「通れ!」
しかし――
美琴「かかったわね」
――しかし、それも誘導!
レベル5の高速演算が可能とする、正確な先読みッ!
224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:26:27.66 ID:ocx/fEIo
ハンマーコネクト
美琴「《双槌連結》ッ!」
身を伸ばし初め、力のベクトルを定めてしまった結標に、回避は不能。
振り上げた両槌を、美琴は重ねる。
現れるのは、両手持ちの重槌。
ゴルディオン・ハンマー
美琴「《雷神王天罰槌》ァァァァァァァ!!!」
轟と、空間がたわむ。
迫り来る大質量を、結標は
結標(通す!)
構わず、放つ。
衝突。
次いで、衝撃。
結標の拳が、重槌を受け止め、押し返す――かに見えた。
美琴「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
均衡が崩壊する。
途方もない圧力が、雷のように結標を襲った。
227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:52:40.73 ID:2UlZEWIo
買い物籠すげぇ
229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:16:08.64 ID:.pgDFfw0
>黒子が鮮魚コーナーの什器に叩きつけられた。
笑う所じゃないのに吹いたww
230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:19:29.60 ID:ocx/fEIo
黒子は朦朧とした意識の中、結標が倒れるのを見た。
連結を解除し、結標を見下ろして何か呟くと、美琴は弁当コーナーへ歩き出す。
向かう狼は居ない。
誰もが《魑魅魍狼》との戦いで手一杯だ。
ならば、
黒子(わたくしが、行かなくては)
思いに反し、身体は動かない。
身体は、すぐにでも意識を手放そうとしている。
黒子(動いてくださいまし、わたくしの身体)
もがく黒子をもはや気にする事無く、美琴はゆっくりと歩を進めていく。
黒子(わたくしは……守ることができませんの?)
失う。
美琴が半額弁当を掴むと言う事は、あの人との思い出の場所を失うという事だ。
黒子(それは……嫌ですの)
ならば、
黒子(抗うしか、ありませんの)
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:25:26.15 ID:ocx/fEIo
思うのは、ちらりと見た焼肉弁当の事だ。
たっぷりの白米に、こってりとしたタレがかかった牛肉。
つけあわせの焼きシシトウのピリっとした辛みを想像し、黒子の口内によだれが滲む。
あぁ、あの白米にタレを染み込ませ、肉と一緒に噛みしめられたら、どれだけ幸せだろう。
ドクンと、心臓が脈打つ。
血液は体中を巡り、力なく萎んでいた胃にも血を送る。
急速に膨らむ胃が空気を吸い込み、空である事に抗議の音を鳴らした。
黒子(腹の虫が……騒いでいますの)
黒子は飢餓感を堪え、しかし微笑む。
まるで孕んだ子を慈しむ母のように腹を撫でると、思い切って四肢に力を込めた。
動く。
静かに胎動する腹の虫に呼応して、黒子の足が床を踏む。
そして、立った。
232 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:34:43.03 ID:ocx/fEIo
立ち上がる黒子に、美琴が振り向いた。
美琴「まだ立ち上がるかぁ…… ホント、アンタのしつこさにはうんざりするわ」
黒子「わたくしは、そう簡単に大切なものを諦められるほど、物わかりが良くありませんので」
睨み合う。
美琴「来なさい、《変態》さん」
ジャッジメント
黒子「《風紀委員》ですの!」
駆けた。
そして、
黒子(ぶつかる!)
高速で衝突した2つの影が、中間点で拮抗する。
黒子の右拳を美琴が左手のカゴで受け、
美琴の片槌を黒子が左の掌底で止める。
233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:41:41.85 ID:ocx/fEIo
ぐ、と美琴がカゴを押し込んだ。
黒子はそれを利用するように引き寄せ、蹴りを打ち込む。
バックステップでそれを避け、美琴が再び跳びかかった。
振り下ろされる両槌を捌き、逸らし、拳を放つ。
しかしそれも返すカゴで受け止められる。
絡めとった黒子の拳を引き寄せ、交差法気味に残ったカゴを叩きつける。
それを黒子が受け止める。
攻防は加速する。
結標を破った美琴の読みに、黒子が追ていく。
否、それは読みではなく経験。
長い間二人で過ごしてきた歴史。
彼女たちは今、経験に則った勘のみで攻防を続けている。
それはまるで、信頼にも似ていた。
お姉さまならこう打てば、こう返す。
黒子がこう放てば、私はこう捌く。
美琴のカゴを、黒子が跳びすさって避けた。
ジリ、と。互いに向かい合う。
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:58:00.97 ID:ocx/fEIo
限界が近づいてきていた。
お互いもう余力は少ない。
ならば、
黒子(次が、全力を懸けた最後の一合……)
す、と美琴が双槌を振り上げた。
美琴「《双槌連結》……」
カゴを重ねる。
それは《雷神王天罰槌》の構え。
対し、黒子も拳を握った。
静寂。
耳を刺すような静けさが狩場を支配する。
気付けばこの場に立っているのは黒子と美琴の二人だけだ。
残りの狼たちは力なくスーパーの床に身を横たえ、動かない。
ならばこれこそが決着。
次の交差で立っていた方が勝者。
236 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:03:51.20 ID:ocx/fEIo
美琴「これで最後よ。砕けて散りなさい、黒子」
黒子「その鉄槌で全てを砕けるとお思いならば、まずはその幻想をぶち殺して差し上げますの」
駆けた。
真っ直ぐな、愚直なまでの突撃。
回避は考えない。
防御はあり得ない。
全てを砕く鉄槌を、拳ひとつで打ちぬいて見せる。
《幻想殺し》が神の奇跡も打ち消すならば、その幻想の天罰も打ち破って見せる。
ここはセブンスマート。
ここが《幻想殺し》の縄張りならば、優先されるのは神の奇跡でも天罰でも無く、腹の虫の加護のみ!
踏み込み、放つ!
イマジンブレイカー
黒子「貫け!《 幻想殺し 》ァァァァァ!!」
ゴルディオン・ハンマー
美琴「叩き伏せろ!《雷神王天罰槌》ァァァァァ!!」
237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:14:17.07 ID:ocx/fEIo
二つの力が再度ぶつかり、衝撃波を生む。
ジリジリと、黒子の腕が重槌を押し込む。
しかし、
美琴「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
加速するように、槌が重くなった。
黒子(やはり、そうでしたのね!)
《雷神王天罰槌》その威力の源は、プラスチック繊維の反発力にある。
先述した通り、買い物カゴはたわむことで相手の攻撃を吸収し、受け止めることができる。
しかしそれはこちらが打撃したときにも言えること、どれだけ強く打ちつけてもインパクトの瞬間に、どうしても力が逃げてしまうのだ。
その弱点をカゴを二つ重ねることで底を補強し、全力をフルに伝えるのが《雷神王天罰槌》だ。
しかしそれでは打撃の反動がモロに返って来てしまう。
それを解決するために、美琴はインパクトの瞬間、握りを緩めるのだ。
それにより第一のカゴがたわみ、第二のカゴを持ち手を支点にして押し出す。
衝撃を吸収し、一瞬遅れて持ち手を握りこむ事により、第一のカゴのたわみを裏のカゴでたたき直す。
それが吸収した衝撃をも打ち返し、さらに強力な一撃を生む。
二段重ねの、最強の一撃。
それ故に一瞬、相手は押し込むような感覚を得るのだ。
238 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:26:47.98 ID:ocx/fEIo
黒子(そう、ならば――)
全力が来る。
その瞬間、黒子が左の拳を握った。
黒子(ならば、第二のインパクトが来た瞬間こそが勝機!)
その状態ならばもうカゴはたわまない。
つまり、
黒子(こちらの衝撃を、直に叩き込む事ができる!)
そして、来た。
耐える。
押し込まれそうになる。
だが、そうはさせない。
黒子「うおおおおおおおおおおお!!! ですの!」
イマジンブレイカー
美琴「左手の――《 幻想殺し 》!?」
本命の直撃を押し切り、黒子が第二の拳を放つ。
黒子「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
放った。
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:33:37.47 ID:ocx/fEIo
轟音だった。
静寂のスーパーを轟音が揺るがした。
宙を舞うのは二つのカゴと、その持ち主。
御坂美琴が、スーパーの狭い空を舞っていた。
美琴「かっ……はぁっ……!」
どさりと、美琴が床に落ちる。
遅れて、買い物カゴが床を跳ねた。
黒子「はぁ……はぁ……」
荒い息を付き、拳を振り抜いたままの姿勢で、白井黒子は止まっていた。
勝った。
自分は勝ったのだ。
思った瞬間、急速に力が抜けていくのが分かる。
予想以上に重い攻撃に、余力を使いきってしまったのだ。
241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:40:11.88 ID:ocx/fEIo
黒子(後は……弁当を手にするだけですのに)
耐えられず、足が崩れる感覚を得た。
美琴と同じように、床へ倒れた。
黒子「なぜ……何故動いてくれませんの……!?」
涙が溢れる。
不甲斐ない自分が悔しくてしょうがない。
自分は、愛する人を倒してまで、半額弁当を求めたと言うのに……
美琴「ねぇ、黒子」
す、と黒子の頬に手を添える者がいた。
美琴だ。
黒子「お姉……さま」
美琴「楽しかったねぇ、黒子。やっぱり半額弁当争奪戦は、楽しくないと……いけないねぇ」
隣で倒れ伏す美琴が、同じように涙を流しながら、呟くように呼びかける。
242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:44:23.00 ID:ocx/fEIo
美琴「私ね、本当はアイツに倒されるつもりで来たの……」
黒子「それは……」
美琴「倒されたら、そのまま半額弁当争奪戦を引退するつもりだった」
でも、
美琴「アイツ、居ないんだものねぇ。だから今度は、アイツの居場所を壊してやろうと思ったの」
黒子「それで、あんな事を……」
美琴「ごめんね、辛かったよね」
目を伏せ、悔いるように涙をこぼす。
美琴「でも、黒子や結標と戦ってる間、すごく楽しかった。初めて争奪戦の事を知った時みたいに、全力で戦えた。私はまだここに居ていいんだって思えた」
黒子「…………」
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:49:40.55 ID:ocx/fEIo
美琴「勝ちたいと、そう思えたの。でも、負けちゃった……」
だから、
美琴「立って、黒子。半額弁当を手にするのは、貴女なんだから」
黒子「お姉さま……」
歯をくいしばる。
涙をぬぐい、足に力を込める。
立った。
黒子が立った。
しかし、それすらも全力だ。
今にも倒れそうな足取りで黒子は徐々に弁当コーナーへと近づき、そして、ワゴンの淵に手をかける。
手を伸ばす。
ビニールパックされたパッケージに触れる。
キュと音をたてる弁当を撫で、
黒子「お腹が……空きましたの」
掴んだ。
黒子「やりましたの……わたくし、やりましたわお姉さま」
掴んだ弁当を掲げるようにして、振り向く。
愛する人へ、打ち倒した敵へ、勝利を告げるため。
黒子「おねえ……さま?」
だがそこに、御坂美琴の姿は無かった。
246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 19:21:49.55 ID:b7fWdEAO
買い物カゴの奥が深すぎて、今度手に取る時にカゴを一撫でしてしまいそう
250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/02(水) 17:15:39.86 ID:BgZhbYAO
いずれ買い物カゴが厨二武器と呼ばれる時も近いな、こりゃ
252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:27:15.12 ID:D8RmmnAo
御坂美琴は夜の街を歩く。
疲労で動かない足をひきずり、纏まらない思考で演算も出来ず、何の力もない無能力者のように這いずっていた。
全身を襲う痛みから意識を逸らすように、御坂美琴はただ思う。
初めは好奇心だった。
好奇心から立ち寄った、寮の近くのスーパー。
そこは箱庭育ちのお嬢様にとって、見たことも無い異界だった。
そこで彼女は半額弁当、そして《狼》と出逢う。
好奇心から立ち寄ったスーパー。
好奇心から手を伸ばした半額弁当。
ネ コ
そして好奇心は、容易く『超能力者』を殺す。
気付けば彼女は宙を舞っていた。
能力を使えば容易く得られる浮遊感を、彼女は暴力により得ていた。
それが彼女の、初めての敗北の記憶。
スーパーにおいては無敵のレベル5すら赤子同然に扱う《狼》達に惹かれ、彼女はこの世界に足を踏み入れたのだ。
253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:30:42.45 ID:D8RmmnAo
そんな彼女を導いたのこそ、彼女の友人である佐天涙子――《幻想創造》だった。
佐天は美琴に知識を与え、技を授け、誇りを説いた。
美琴はそれを吸収し、理解し、身につけた。
彼女が二つ名持ちになるまで、時間はそうかからなかった。
半額弁当争奪戦は楽しかった。
毎夜訪れる《半値印証時刻》が、彼女の生きがいだった。
超能力者である彼女にとって、
すでに『辿り着いてしまった』彼女にとって、
まだ見えぬ《狼》の頂は目指さずにはいられないものだった。
だから、学園都市を統一するという佐天の言葉は、彼女にとって福音であり、そして宣託だ。
《幻想創造》の命ずるがままに東の《狼》達に挑み、倒し、奪う。
それは争奪戦であり、争奪戦では無かった。
彼女が求めた、
彼女が愛した争奪戦では無かったのだ。
美琴は悔み、嘆いた。
しかし気付けば、己が作り上げた流れは、止めることの出来ない瀑布となって戦争へと流れ落ちていく。
254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:35:24.68 ID:D8RmmnAo
だから、贖罪だったのだ。
この一戦……
セブンス・マートにおける決戦は、彼女なりの懺悔だった。
《幻想殺し》に打ち破られ、その後佐天を倒すよう焚きつける事こそ、自分の使命だと思っていた。
だが、《幻想創造》はそんな簡単な幻想を生み出すことを許さなかった。
美琴「だから、黒子を煽った」
ジャッジメント
裁いて欲しかったのだ。己を、 審判員 である彼女に。
そして、目的は果たされた。
果たされた、はずなのに。
美琴「なんで私は、こうも未練がましくあの子の元へ向かっているのかしらね」
255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:38:55.55 ID:D8RmmnAo
震える足を前へ、前へ。
走ることすらままならず、彼女はただ歩き続ける。
こうして歩くことに何の意味があるだろう。
こうして向かうことで得るものとはなんだろう。
分からない。
行ってもいいのだろうか。
あの子の元へ、駆けつけてもいいのだろうか。
私は未だ――
結標「《狼》と名乗って、いいのだろうか? って所かしら?」
美琴「!?」
朦朧とした視界に映ったのは、肩からブレザーを羽織り、サラシを巻いた少女。
結標淡希。
結標「気に入らないわね。この私に勝っておいて、元々負けるつもりだったって言うの?」
256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:43:35.06 ID:D8RmmnAo
どうやら思考は呟きとして漏れていたらしい。
不機嫌そうな彼女の台詞に、美琴は言葉を重ねる。
美琴「負ける気なんて無かったわ。本気で闘うからこそ意味があったのだから。完敗よ、あの子には」
結標「やっぱり、気に入らない」
美琴「…………」
結標「貴女、まだ夕食を食べていないでしょう?」
言う結標の表情は、いつもの皮肉めいた笑みではなく、優しい微笑み。
結標「なんだかごちゃごちゃと言い訳を重ねてるみたいだったけれど、スーパーに向かう理由なんて、一つで十分なのよ」
美琴「でも私は、東の狼で……」
結標「私は、西の狼。だから何? 戦争?そんな物は貴女の造物主が勝手に言ってる事でしょうが。私にはなんの関係もないわ」
美琴「でもっ!」
258 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:46:54.71 ID:D8RmmnAo
結標「じゃあこういう事にしましょう。貴女達は少し反省が必要だわ」
だから、
結標「行って、あの人に説教受けてきなさい。それこそが、貴女の贖罪」
言い、結標はホルスターから軍用ライトを引き抜き、手の内でクルクルと回すと美琴へ向ける。
結標「全ては、腹の虫が命ずるままに…… 食べてきなさい。勝利の一味を」
す――と、結標がライトを振ったそこに、もう美琴の姿はない。
行ったのだ、己の罪を贖うために。
初めは好奇心だった。
次に懺悔となり、
最後は贖罪だった。
ライトを仕舞い、結標は傷だらけの身体をビルの壁へと預ける。
見据えるのは第七学区の東、7th-G 。
困ったように溜息を吐き、結標は呟く。
結標「見てらんないのよね、貴女みたいな子」
現在の時刻は21時30分。
7th-Gで戦闘が開始されてから、30分が経過していた。
270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:49:25.89 ID:dm6Eh5Eo
佐天「ぐ……さすが上条さん、一筋縄ではいかないか……」
右腕を庇うように、佐天は上条と距離をとる。
戦闘開始から30分。すでに《魑魅魍狼》達は全滅、佐天自身も少なからず疲弊していた。
初めは優勢だった。
《魑魅魍狼》による牽制、妨害。そこに東区最強の《幻想創造》の力が加われば、たとえ《幻想殺し》だろうと圧倒出来る……ハズだった。
しかし弁当コーナーへ近づいた瞬間、形勢は逆転する。
《魑魅魍狼》に事前に弁当を買わせる事で残り一つとなった弁当――
『・――力は無限となる。 四川風激辛スタミナ炒飯』――を視界に入れた上条の攻撃翌力が突如上昇、佐天達を襲った。
一瞬にして《魑魅魍狼》は全滅、佐天も弁当コーナーを死守するので精一杯だった。
肩で息をつき佐天は相手を睨む。
ゆっくりと歩いてくるのは、自分の敵。
倒さなくてはならない、最強の敵。
ごくりと、無意識のうちに唾を飲む。
そして、
佐天「負けない!」
駆けた。
271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:53:55.05 ID:dm6Eh5Eo
《幻想創造》の戦い方は、どちらかというと黒子に近い。
彼女は自分に力がないことを分かっていた。
だから、
佐天(技とスピードで戦う!)
背後に回り込み、連打。
しかしダメージは薄い。
右から振り向きざまに放たれる裏拳を回転に合わせるように左へのステップで回避。同時に回り込む。
再度背後に回ると、今度は足を狙う。
素早く、しかし振り抜くスピードでくるぶしを薙ぐ。
若干バランスを崩した上条に、こちらは姿勢を整えると、肩を入れたタックルをぶちかます。
揺れる。
不動のように見えた上条に隙ができた瞬間だった。
その隙にねじ込むように、佐天は渾身のラッシュを放った。
肩、腰、背、首、後頭部。
肉と骨を打つ音が響き、さらにその上に重なるようにして響き、鳴り止まぬうちにまた響き。
高速のあまり繋がるように聞こえる打撃音が、しかしはっきりとリズムを作る
272 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:55:14.59 ID:dm6Eh5Eo
佐天「まだまだ!」
加速する。
つながったまま、テンポが早くなる。
ど、で始まる衝撃音が絶え間なく続く。
無限に続くかと思われたラッシュ。が、
上条「効かねぇよ」
弩、と、これまでとは比較にならない音。
分厚い鉄板を鋼鉄のハンマーで殴りつけたかのような音が響く。
同時、佐天が左後方の地面に叩きつけられていた。
上条が右上方から打った拳が、佐天の頭蓋を打撃したのだ。
佐天「かっは……」
叩きつけられ、しかし立ち上がれない。
敗北。
その二文字が佐天の脳裏を走る。
佐天「嫌だ……嫌ですよ、そんなの」
273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:56:14.57 ID:dm6Eh5Eo
上条「なら立て。言っとくが俺の腹の虫はこんなんじゃ収まらねぇぞ」
言葉とは裏腹に、しかし佐天の四肢には力が入らなかった。
衝撃で、視界が揺れている。
意識も今にも飛びそうだ。
でも、
佐天「負けられない……私は最強になるんだ……貴方に勝って、最強に!」
上条「ならその幻想は、俺が 殺 す 」
その右手を、上条が振り上げる。
トドメだと、彼の表情が告げる。
振り下ろされた。
――上条へと、鉄槌が。
274 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:57:08.47 ID:dm6Eh5Eo
ゴルディオン・ハンマー
美琴「雷神王天罰槌ァァァ!」
撃音。
しかし、
上条「甘い技だ」
押し返された。
美琴の手から離れた買い物カゴがスーパーの宙を舞っていた。
美琴「そんなっ……」
間髪入れず、上条の拳が美琴を打つ。
床を転がり、しかし美琴が立ち上がった。
上条「今の攻撃を受けて立ちやがりますか」
美琴「伊達に《雷神》なんて名乗ってないわよ!」
上条「……やっぱり、《トール》ってのはお前の事だったんだな」
美琴「佐天さんから離れなさい!」
佐天「御坂……さん」
275 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:57:54.42 ID:dm6Eh5Eo
動けぬまま、佐天がつぶやく。
言いたいことはあった。
セブンスマートでの戦いはどうなったのか。
どうしてこの戦いに間に合ったのか。
そもそも何故来たのか。
何故、私のために、立ち向かってくれるのか。
だから、佐天は問いを放つ。
佐天「何で、来たんですか」
美琴「私、まだ晩御飯食べてないのよね」
ニヤリと、不敵に笑んで美琴が駆けた。
美琴の手に、今やカゴは無い。
だが、打撃はあった。
ひたすら連撃を放つ美琴から声が飛ぶ。
美琴「立って、佐天さん!」
276 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:58:23.47 ID:dm6Eh5Eo
しかしその全てを、上条が綺麗に捌き、受け流す。
美琴「佐天さんもまだ晩御飯食べて無いでしょ!」
言われ、佐天は自分が空腹であることを思い出す。
美琴「食べましょう! こいつに勝って、晩御飯を一緒に食べようよ!」
カウンター気味の拳が美琴の頬を掠める。
美琴「力なんてどうでもいい! 強さなんていらない!」
上条の拳を避け、美琴が足払いをかける。しかし身を落としてインファイトを決め込んだ上条には通用しない。
美琴「私は今弁当が欲しい! 半額弁当が欲しい!」
隙を生んだ美琴に上条の拳が突き刺さる。それでも美琴は怯まずに打つ。
美琴「勝って、勝利の一味の入った弁当を! 究極の料理を!」
拳を形作り、美琴が放った。
美琴「食べたい!」
277 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:59:56.59 ID:dm6Eh5Eo
衝撃。
上条の体が、一瞬浮く。
上条「な……に……!?」
追いかけ、回し蹴り。上条の体が今度こそ宙に浮いた。
美琴「だから――だから立って! 佐天さん!」
掌底。
踏ん張る事が出来ない上条が、ついに吹き飛ばされた。
上条「くっ……!」
空中で体を捻り、上条がバランスを崩しつつも着地する。
たたらを踏み、しかし体が傾ぐ。
上条「なんて威力だよ」
美琴「本当の《幻想創造》は、私の比じゃないわよ」
佐天はその攻防を見て、思考する。
私が《狼》となったのは、何時だっただろうか。
半額弁当ではなく、戦いのみを求めるようになったのは何時からだったか。
強さに執着するようになったのは、どれほど前だろう。
少なくとも、半額弁当の味を忘れたのは、大分前の事だったように思う。
278 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 14:00:44.93 ID:dm6Eh5Eo
食べたい。
あの味を、久しぶりに味わいたい。
口内に涎が湧く。
ひりつくように喉が乾く。
際限なくあふれる唾を飲んでも喉は潤わない。腹は満たされない。
空腹が胃を刺激する。
眠っていた腹の虫が目覚める。
そして、咆哮を上げた。
ぐぅ。
頼りない音だ。
そう聞こえるだろう。
だが、
佐天(私には、狼の遠吠えに聞こえる)
だから啼いた。
否、吠えた。
喉が枯れるまで。
胃液が、果てるまで。
279 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 14:01:13.27 ID:dm6Eh5Eo
ビリビリと、胃が震える。
腹の虫の咆哮が、体を震わす。
四肢に力がみなぎる。
足が地面を噛み、背は堂々と反った。
立った。
佐天「お腹が空きましたね、御坂さん」
美琴「もうペコペコよ」
顔を見合わせ、笑う。
それはまるで、狼が牙を剥くようで。
佐天「行きますよ!」
美琴「ええ!」
駆けた。
287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 21:50:57.50 ID:dm6Eh5Eo
◆
先手を打ったのは美琴だ。
落ちていた二つのカゴを拾い上げ、同時に叩きつける。
上条は右を避け、左を受け止める。
上条「軽いぜ!」
佐天「ならこれはどうですか!」
佐天の飛び蹴り。
カゴを受けて、ベタ足の上条は避けられない。
上条「チッ!」
舌打ち。
さらに腰を落とし、左肩で受けた。
骨と筋肉の軋む音。
だが、
上条「オラァ!」
288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 21:56:44.99 ID:dm6Eh5Eo
着地前の足をつかみ、投げ飛ばす。
佐天は身を捩り、受身をとって再度突貫をかける。
美琴もカゴを引き戻して打撃。
上条「聞こえるぜ! お前らの腹の声!」
右拳を美琴へ、左拳を佐天へ。
別方向への二撃。
これを佐天は跳んで回避。
美琴は受け止め、ホールド。
上条「こんなモン!」
つかまれた右手を強引に振り、美琴を引きずり倒す。
美琴は背で地面を受け止め、しかし手をはなさない。
上条「くっ……!」
上空からの襲撃。
速度と重力を伴った佐天の蹴りが、上条の背に直撃する。
美琴「やった!?」
289 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:06:01.06 ID:dm6Eh5Eo
上条「やってねぇ!」
わざと吹き飛ばされるようにし、巴投げの要領で、
美琴「うわっ!?」
美琴を投げ飛ばした。
美琴がワゴンに叩きつけられる音を背に聞き、立ち上がる。
目標は着地した佐天。
佐天「来てみなさい!」
迎え撃つ佐天は、軽くステップを踏み。
佐天「想像してよ! 貴方が倒れる様を!」
上条「うおぉぉぉぉ!!」
全体重をかけた突進。そこへ握った右拳を、
上条「はァッ!」
振り抜く。
290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:11:59.47 ID:dm6Eh5Eo
が、
上条「!? すり抜け!?」
佐天「想像力が足りませんよ! 上条さん!」
残像だ。
ぎりぎりまで引きつけた佐天の緊急回避。
そして、
佐天「伊達に何年も、自分の能力を妄想してません!」
佐天の、軽いフットワークから放つ重い連続回し蹴り!
イマジン・イマジネイション
佐天「想え! 《 幻 想 想 像 力 》」
決まる。
一撃目は足へ、二撃目は腰へ。
佐天「まだまだっ!」
独楽のように回る。
再度の二連撃。
次は勢いを増し、佐天の足がさらに上がった。
佐天「踊れぇッ!」
腹へ、側頭部へ、決まる。
291 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:23:17.09 ID:dm6Eh5Eo
上条「ぐっ……」
揺らぐ。
軽い脳震盪に冒された上条の体が傾ぐ。
だが、まだ倒れない。
美琴「私も忘れないでよね!」
そこへ走りこむのは美琴。その手には、
美琴「《雷神の槌》多重連結!」
吹き飛ばされた先、積んであった買い物カゴ、十数個!
もはや長大となった槌を両腕を広げ保持、叩きつける!
ゴルディオン・ストライク
美琴「《 雷神王の一撃 》ッッッ!」
衝撃。
店を震わす轟音が、響いた。
◆
ドサリと、ポテトチップスの袋が棚から落ちる。
カルビーではなく、コイケヤだ。
それを拾い、棚に戻すのは老人。
《四竜》の一人、四吉。
四吉「なかなか楽しい戦いでゴザルが――」
店内に流れるのは、終局の旋律。
蛍の光。
四吉「もう、終わりが近いでゴザルよ」
◆
292 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:29:50.83 ID:dm6Eh5Eo
カゴを担ぎ、立ち上がるのは美琴。
その横では、佐天が息をついていた。
佐天「やりました……よね?」
美琴「ええ、あれで立っていられるはず無いわ」
しかし、目を向けた先には、立ち上がる上条の姿。
佐天「なっ!?」
美琴「そん……な」
ゆらりと地を踏み、一歩を踏み出す。
まさに、幽鬼の如く。
上条「楽しいなぁ……お前らも楽しいだろ?」
更に一歩。
思わず佐天が後ずさる。
294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:43:52.66 ID:dm6Eh5Eo
上条「やっぱさぁ、半額弁当争奪戦はこうでなくっちゃなぁ……」
ふらついてはいるが、しかしその足は床を噛み、離さない。
上条「腹、減ったなぁ。食いてぇなぁ、弁当」
奥歯を食い締めるのは、美琴だ。
もう自分たちに余力は残っていない。
負ける。
そう思った。
上条「お前らもさ、分かっただろ? 思い出しただろ? スーパーってのは、こんなに熱い場所何だぜ?」
更に一歩。
佐天と美琴は、もはや手の届く距離だ。
上条「だからさ、最強だとか、戦争だとか、そんな幻想捨てちまえよ」
上条が両腕を振り上げた。
ぎゅっと、美琴と佐天が目を閉じた。
上条「《狼》には、半額弁当さえあればいい。それでもお前らが強さを求めるってんなら――」
ぽんと、二人の肩に上条の手が置かれた。
佐天「えっ……?」
上条「まずはその幻想、俺がぶち殺 してやるよ」
295 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:49:02.63 ID:dm6Eh5Eo
パリンと、何かが砕ける音。
しかしその音も、物悲しい蛍の光の旋律にかき消される。
佐天「上条……さん?」
上条「へへっ……参った。降参だ。《幻想創造》それに《トール》」
上条「勝利の一味。俺の代わりに、存分に味わえ」
どさり、と上条が床に伏した。
呆然と、美琴と佐天はそれを見下ろす。
美琴「勝った……の?」
佐天「みたい……ですね」
じわりと、佐天の目尻に涙が浮かんだ。
ついに、やったのだ。
自分は師を超え、最強に――。
296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:55:18.85 ID:dm6Eh5Eo
しかし、想像していたような歓喜は無い。
なんだか、心の奥に、ぽっかりと穴があいたような。
胃袋に、何も詰まっていないような。
佐天「お腹、すいたなぁ」
美琴「奇遇ね、私もそうよ」
お互い笑いあい。
佐天「なら!」
美琴「やることは一つ!」
構え、叫ぶ。
美琴「それじゃあ、最後の弁当を懸けて!」
佐天「忘れていた誇りを懸けて!」
そう、答えは一つ。
弁当も、一つ。
立っているのは、二人。
ならば――
美琴・佐天「いざ尋常に――勝負!」
激突した。
297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:02:34.83 ID:dm6Eh5Eo
エピローグ
公園に、湯気が立つ。
それは温められた弁当と、お湯を入れたカップ麺が立てるもの。
パキリと、上条が割り箸を割った。
ペリリと、美琴がどん兵衛の蓋を剥がした。
カポッと、佐天が弁当の蓋を開けた。
同時、鼻の粘膜を刺激する匂いが、佐天の鼻腔を襲った。
それは、唐辛子の匂い。
目に沁みるような辛さが、口を付ける前から感じられる。
じわりと、無意識の内に涎が垂れた。
拭い、箸を持ち直す。
上条「それじゃ」
美琴「手をあわせて」
佐天「いただきます!」
喰らった。
298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:05:12.41 ID:IurFTFE0
蛍の光が神すぎるwwww
299 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:07:09.97 ID:dm6Eh5Eo
一口。
同時、口内の唾が一瞬で蒸発した。
それほどの感覚を得る辛さが、佐天の口腔を蹂躙する。
思わず、一緒に買ったジュースへ手を伸ばす。
しかし、口にしようとした瞬間だった。
佐天「アレ……? 辛く、なくなってる?」
アレほどまでの刺激を与えた辛さが、口の中から完全に消失していた。
そして、辛さのあとに残るのは――
佐天(濃厚な、旨み……!)
これは、海老の濃厚なエキス……!
プリプリとした海老の食感が口の中で弾け、同時に軽く素揚げされた海老の中から旨みがドロリと溶け出す。
佐天(でも、これだけで辛味が軽減されるとは……)
思った瞬間だった。
プチリ、と、口の中で何かが爆ぜた。
その味は――
300 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:10:23.25 ID:dm6Eh5Eo
佐天(あ、甘い!?)
それは粒状の点心だ。
激辛のチャーハンの中に混ぜられた小粒のタピオカが口の中ではじけているのだ。
これが、辛味を抑える正体!?
激辛と甘み。
相反する二つの要素がぶつかり合い、一口目の火をふくような辛さと、後に来る清涼が如き甘みが、佐天の身体を震わせた。
佐天(美味しい……)
もっと、と、腹の虫が佐天を急かす。
辛さが跡を引き、海老だけではなく、脂っこい肉までもがつかれた身体にエネルギーを補充し、その脂っこさを青菜の苦味が引き締める。
食べれば食べるほど、佐天は次々にスプーンを動かした。
そして。
佐天「ご馳走様でした」
手を合わせ、祈る。
食材に、調理者に、そして腹の虫に。
明日も、こんなにおいしい料理が食べられますように、と。
301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:12:58.68 ID:dm6Eh5Eo
上条「美味かったか?」
佐天「はい……すごく、美味しかった」
美琴「佐天さん、すごい食べっぷりだったわね」
佐天「えへへ、恥ずかしいですね、なんか」
上条「恥ずかしがる事ではないさ。誇りを懸け、命を賭して手に入れた弁当だ。がっつくのも無理はないって」
微笑む上条に、佐天は目を伏せ、問う。
佐天「こうして弁当を食べていると、実感します。私はやはり、間違っていたのだと」
美琴「佐天さん……」
上条「そんな事、無いさ」
え? と、佐天が上条を見つめる。
その表情は、驚きに満ちていて。
上条「だって、間違えていた奴が、あんなに楽しい戦い、出来るはず無いんだからさ」
にこりと、上条が笑みを深くする。
上条「お前は、俺を超えた。もう立派な、一人前の《狼》だ」
じわりと、佐天の目に涙が溜まる。
嗚咽が、喉からこぼれた。
佐天「がみじょう……ざんっ!」
302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:14:38.94 ID:dm6Eh5Eo
上条「泣くなよ、涙子」
美琴「もう、佐天さんてば泣き虫なんだから」
言葉に、佐天は無理やり笑みを刻む。
そして、精一杯の声で。
佐天「はいっ!」
頷いた。
これは、己の誇りと空腹を懸けて戦う、狼達の物語。
そして、正しい強さを求める、若者達の物がt 黒子「ちょ、ちょっとお待ちになって!」
黒子「これで終わりですの!? わたくしは? わたくしの出番は?」
結標「いいでしょ、貴女は弁当取れたんだし。私は結局やられただけなんだから」
黒子「せ、せめて食事シーンだけでも! ほら、おいしいですの! 焼肉弁当チョー美味しい!」
結標「はいはい、私もどん兵衛 オン ザ コロッケが胃袋に染みるわぁ」
黒子「悲しみの味ですの……」
……出番を求める、若者達の物語。
黒子「半額弁当ですの!」 END
303 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:17:04.65 ID:S.DRs3so
おつ
いつも楽しいよ
304 名前:1:2010/06/12(土) 23:19:25.06 ID:dm6Eh5Eo
後半駆け足過ぎたかな?
でもこれが俺の限界なんだ……ゆるしてくれ。
ともかく、最後まで読んでくれたみなさんありがとうございます。そして、お疲れ様でした。
続編については特に考えて無いので、これが最後だと思ってくださって結構です。
もしかしたらまたスレを立てるかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。
305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:23:32.40 ID:1p9MR02o
乙
よみやすくて面白かった
306 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:30:41.13 ID:5c5AhEk0
これが最後は実に惜しい。
というか、俺をとあるベン・トーの世界に引き込んだ責任として、ネタとヒマが出来次第続編をお願いしたい。とミサカモドキは懇願します。
316 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 01:08:23.52 ID:Tza/J1k0
/≦三三三三三ミト、 . ―― .
《 二二二二二フノ/`ヽ / \
| l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ / , !l ヽ
ト== ==彡 》=《:ヽ ′ ―‐ァ!l / ̄}
/≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ | (__ _ノ |
′: /: イ: /': :/ |:リ ヽ }i! : . | _j_ ツ |
i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i| | d __ 、、 |
|:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l| | ノ - ノ |
|小f} ` , ´ ji }} : .{ { ┌. ー ´ }
}小 _ ,ムイ|: :∧ . |/ ヨ
//:込 └` /| : :i i : :.∧ 、 o ―┐!l /
/:小:i: :> . .イ _L__|:| :li {∧ \ __ノ /
. /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'. / く
N V 「{´ / ヽ{ハ| `\ / ヽ
| }人ノ/ li V _.′贈 惜 と '
i´ } //} i′′ ハ 、| `ヽ. り し ミ !
{ { 〃ノ {l l! } : { } ま み サ |
rー‐'⌒ヽ ,イ i{| | i | す な カ
〉一 ' ∨n ∨ ′ ハ | い. は }
`r‐‐ ´ V | | ! 称 ′
‘r‐‐ ´ \ }/i⌒ヽ { . 賛 /
`¨¨` ー .、 ` < ` | `ト、 } ヽ を
}}\  ̄ `ヽ ト ソ \ /
327 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 12:11:28.72 ID:ttZw5y2o
俺の腹の虫も乙と言っている
328 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 14:43:22.78 ID:uyYncCoo
乙でした
ほんとお腹の空くスレだwwww
読み物:禁書目録
お絵かき掲示板
画像掲示板
また来てしまった。
と、彼女は思う。
スーパーマーケット
曲がりなりにも常盤台のお嬢様である自分が、庶民の味方である大型小売店に来て、いいものかと。
しかしその問いはこれまで何度も繰り返してきたものだ。
そして、その度に打ち消してきた考え。
今夜もその思いを振り払い、彼女はスーパーの自動ドアを潜る。
精練された空気と陽気なBGMが自らを包み、迎えてくれるのを、彼女は感じた。
同時に、突き刺さるような視線を感じる。二つ名付きの自分に、周りが警戒しているのだ。
その中に、自分の相方がいない事に、安堵を覚えた者の気配も感じる。
確かに彼女は二つ名付きとしては経験が浅いだろう。しかし、それでも二つ名付きだ。
今胸をなで下ろした者達は確実に、彼女を舐めた事を後悔するだろう。
3 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:23:10.92 ID:yepqOhQo
周りの視線を一身に受けながら、彼女はカゴを手にとり、ズンズンと売り場の奥へと進んでいく。
そしてその最奥、弁当コーナーへと辿り着いた彼女は売り場を一瞥し、すぐに歩き出す。
半値印証時刻を前にして残っている弁当はたったの二つ。
荒れるな。と彼女は思考し、しかし思いに反して売り場から少し離れた位置に陣取る。
飢えた狼たちが殺到するのを待ち、そこを一網打尽にするのだ。
彼女にはそれをするだけの自信があり、そして実力があった。
彼女は生鮮コーナーから流れてくるハムソーセージの歌を聞きながら、お菓子コーナーに足を止め、おまけ付きと言いながらもその実おまけこそが本命であり、申し訳程度にしかお菓子のついていない、ラムネ菓子のパッケージを凝視し始める。
箱に印刷された、緑色の体に紳士服を見にまとい、ちょび髭を生やした奇妙な生物を眺めながら、彼女はただ時を待つ。
4 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:26:12.06 ID:yepqOhQo
どれほど経ったろうか、不意に辺りの気配が鋭く、研ぎ澄まされていくのを感じた。
半額神が降臨したのだ。
神が奏でる福音を耳にしながら、彼女は己の身が震えるのを感じる。
恐怖ではない。歓喜だ。
己を鼓舞し、震わせる音色に耳を傾けながら、彼女は思う。
来た――と。
ついに音楽は最終楽章へと転じ、鮮魚コーナーから聞こえるおさかな天国もサビへと突入していた。
そしてペンを走らせるキュッキュと言う音で、演奏が締めくくられる。後は、奏者が礼をし、幕の奥へ消えるのをただ待つのみ。
耐えきれず、目を向ける。
そこには、にこりと笑いながら身を折り、お辞儀をする神の姿。
ス タ ッ フ ル ー ム ゲ ー ト
そして、パタンと『選ばれた者のみが潜ることのできる扉』が、閉じた。
同時だった。彼女は見るものの目を奪うような華麗なスタートダッシュで、磨かれた床を蹴っている。
5 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:27:53.60 ID:yepqOhQo
弁当コーナーには、すでに幾人かの狼。
そこへ合流するように、さらに多くの狼が駆けている。
その中に、自分も居る。
言い知れぬ連帯感に彼女の心が高翌揚するのがわかる。
彼女はただ駆け、そして辿り着く。
すでに弁当コーナー周辺は激戦区となっており、早くも再起不能となった狼が転がっている。
彼女はその屍を踏み越え――跳んだ。
跳躍。
そして、落下。
彼女は縁を握り締めていたカゴを振りかぶり、叩きつけた。
轟音。
ただその一振りで空気が弾け、豪風に吹かれた狼が木っ端のごとく飛び散る。
獰猛な獣の笑みを浮かべた彼女は、返す刀で前方の狼をなぎ払った。
6 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:36:25.17 ID:yepqOhQo
なんだ、やはり弱いじゃないか。
そう言いたげに笑む彼女に闘争心を刺激されたのか、あの時警戒の視線を緩めなかった狼の一人が飛びかかってきた。
彼女の倍以上はある巨躯に刺青を入れた、買い物カゴを振りかぶるジャージの男。
どことなくジョニーと言う名前が似合いそうな男に向け、彼女は無造作にカゴを振るった。
人間の肉を打つ壮絶な音を響かせ、ジャージの男――ジョニーっぽい狼が吹き飛ぶ。
瞬間、彼女は周りのターゲットが自分に向いたことを悟った。
狼たちが視線だけで協力体制をとったのだ。
面白い。
彼女の体がさらなる歓喜に包まれ、震える。
来い、と。彼女は歯をくいしばる。狩場の空気を、噛みしめる。
来いよ雑兵。雷神の槌に、どれだけ耐えられるのかな、と。
彼女の名は御坂美琴。
その二つ名を、荒々しい戦い方と、槌のように買い物カゴを古う姿から『トール』と言った。
7 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:39:37.48 ID:yepqOhQo
◆
需要と供給、これら二つは商売における絶対の要素である。
これら二つの要素が寄り添う販売バランスのクロスポイント……その前後に於いて必ず発生するかすかな、ずれ。
その僅かな領域に生きる者たちがいる。
己の資金、生活、そして誇りを懸けてカオスと化す極狭領域を狩り場とする者たち。
――人は彼らを《狼》と呼んだ。
◆
ベン・トー×とある魔術の禁書目録 3
黒子「半額弁当ですの!」
――狼と半額弁当が交差する時、物語は始まる。
8 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:45:19.99 ID:yepqOhQo
《用語集》
・狼
スーパーでの暗黙のルールを理解し、誇りを持って半額弁当の奪取に当たる人間のことを指している。
無論、実際の狼は半額弁当を求めてスーパーに行ったりはしない。
またよく狼には凶暴なイメージがつきまとうが、実際にはそれほどではなく、縄張りを荒らしたり不用意に刺激したりしない限りまず人は襲わないとされる。
・犬
半額弁当を狙ってスーパーにやってくる未熟者を指している。
余談だが、猫派か犬派かと問われれば>>1は猫派。それも日本猫が特に好き。
・半額神
総菜、弁当等に半額シールを貼る店員のこと。敬意をこめて〝神〟と称えられている。
・二つ名
主に《狼》の中から特出した強さ、個性を有する者に自然と付く本名とは別の名のこと。あだ名。
基本的にその者の見た目や、戦闘スタイル、経歴などから付けられる。
ただしある程度有名になれば《狼》でない者にも付けられる場合もある。
9 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:46:30.60 ID:yepqOhQo
《狼》紹介
・白井黒子
常盤台中学に通う第七学区の《狼》
まだ新米の《狼》だが、上条当麻の指導により覚醒、才能の片鱗を見せる
・上条当麻
第七学区の学校に通う高校生で、スーパー『セブンスマート』を縄張りとする凄腕の《狼》
《幻想殺し》の二つ名を持つ。
・結標淡希
孤児院の院長代理を務める少女。かつては古参の《狼》だったが、心の傷からアラシとなる。
しかし黒子達との戦いにより目を覚まし《狼》へと戻る。
《座標移動》の二つ名を持つ。
・茶髪の女
上条当麻と同じ学校に通う3年生。大変いい胸をしている。
・坊主の男
上条と同じ学校の2年生。顎鬚とよくつるんでいる。
・顎鬚の男
上条と同じ学校の2年生。坊主とよくつるんでいる。
《半額神》
・錬金術師
『セブンスマート』の半額神。
どんな食材も美味しく調理することからそう呼ばれている。
10 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:48:05.43 ID:yepqOhQo
《弁当争奪戦の掟》
一つ、争奪戦前は弁当コーナーから離れよ。
一つ、開始の合図は半額神がスタッフルームの扉を閉じた瞬間なり。
一つ、弁当を手に入れたものを攻撃するなかれ。
一つ、スーパーがリングだ!
12 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:58:24.33 ID:yepqOhQo
第一章 トール だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから >御坂美琴
白井黒子は人生の岐路に立たされていた。
人生は選択の連続だ。
例えばそれがエロゲーならば選択肢の直前でセーブをすればいいのだが、いかんせん人生というゲームはセーブポイントが存在しない上にリセットも出来ない。そして選択肢も多岐に渡れば、その実、選択問題とも限らない。
そんな中で単純な二者択一というこの状況は恵まれているとも言える。
しかし、究極の選択という『カレー味のウンコかウンコ味のカレーか』と言うような、二択問題の最も度し難いケースも確かに存在する。
この選択は、言ってしまえばその究極の選択とも言えた。
黒子「いえ、さすがにこれをウン○と同列に語るのはどうかとおもいますの」
上条「何か言ったか?」
黒子「何でもありませんわ、ただの独り言ですの」
13 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:58:59.59 ID:hwnu8UQ0
おいおい美琴が二つ名持ちかよwwwwwwww
14 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 16:59:41.37 ID:yepqOhQo
上条「ま、いいけどよ。嫌なら別にいいんだぜ。このチケット、結標あたりにでも渡すからさ」
黒子「いえいえ、あのような何の教養も無い女に、映画文化が理解できるはずもありませんの」
そう、彼女は今、上条当麻から直々に映画へ誘われているのだ。
それだけならば何の問題もない。二つ返事で了承するだけの話だ。
しかし、しかしだ。その日はなんとも間の悪いことに、黒子の敬愛する御坂美琴からもショッピングの誘いを受けていたのである。
黒子(お姉さまはショッピング程度なら度々誘ってくださいますが、当麻さんとは半額弁当争奪戦以外では殆ど会う事すらありませんの!
しかし最初に誘って下さったのはお姉さまですし、最近お姉さまも何やらお忙しいご様子……あーもう! わたくしには決められませんの!)
がくんがくん頭を振りつつ悶絶する黒子に若干引きながらも、上条はその様子を見守っている。
15 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:01:32.33 ID:yepqOhQo
そもそもこの映画のチケット、抽選でしか当たらない、いわゆる試写会のチケットであり、そういったイベントにそれほど興味のない上条が持っている理由も、たまたま当たったが予定がかぶって行けないという金髪グラサンの友人から貰ったという程度の物であって、上条自身もこの映画を見たいわけではなかったのだ。
それならば予定が会う日に見たい映画を二人で観に行けばいいだけの話なのだが、今の黒子はそういった判断すら出来ないほど混乱していた。
と、言っても、常に金欠な上条を映画に誘うには、彼の分も自分で負担するくらいでなくてはならないだろうが。
上条「あー、そんな真剣に考えなくてもいいぞ?」
黒子「ここで真剣にならずどこで真剣になれと言うんですの!」
上条「……すいません」
黒子(落ち着くんですのよ白井黒子! ここで当麻さまに怒鳴ってもしかたありませんの! ほら、当麻さんも『不幸だー』って顔をしていますし!
決断するのです! そう、当麻さんもお姉さまも不幸にならない、皆が笑って幸せになれる、ハッピーエンドって奴を!)
18 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:06:32.03 ID:yepqOhQo
ここで黒子に電流走る。
そう、上条も美琴も幸せになれるたった一つの冴えたやり方を思いついたのだ!
黒子「と、当麻さん。すみませんがわたくし、その日は用事がありますの」
上条「そうかー、そいつは残念だな。じゃあ結標あたりにでも……」
黒子「お話は最後まで聞いて欲しいですの」
上条「え?」
黒子「実はその日、お姉さまとも約束をしていたのですが、いかんせん突然の用事が入ってしまったので、なかなか言い出せずにいたんですの……
お願いです当麻さん、わたくしの代わりに、お姉さまとその映画に行ってきてくださいませんこと?」
上条「えぇー!? ビリビリとか? いやいや、アイツにとってもイイ迷惑だろ」
黒子「そんな事はありませんの。ついでにショッピングに付き合って差し上げれば、それで満足されるハズですわ」
21 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:14:11.20 ID:yepqOhQo
上条「あー、でもなぁ……」
黒子「駄目……ですの?」
必殺上目遣い!
これは黒子のみならず全ての女子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手に感情の変化を起こさせる技。
そして、黒子ほどの美少女が使えば、頷かれずにはいられないのが男子のサガ!
上条「く、黒子がそこまで言うなら仕方ないな。いいぜ、行ってやるよ。ただし、連絡はお前の方からしてくれないか?」
黒子「もちろんですの!」
決まった! と、黒子は内心でガッツポーズをする。
まさに一撃必殺。殿方と言うのはちょろい物ですの。などと考える黒子である。
上条「それじゃ、時間とか決まったらまた連絡してくれよ。じゃあな、黒子」
黒子「ええ、それではごきげんよう、当麻さん」
ふりふりと手を振って、去っていく黒子を機嫌よく見送る黒子である。
黒子(やりましたの! これで当麻さんがあの変態ショタコン女に取られることも、お姉さまが悲しむこともありませんの!これで皆幸せに! ……って、あれ? 皆? その中にわたくしは? 含まれてないような……)
黒子(わたくしの幸せは? 青い鳥はどこですの!? あぁ――まって当麻さん! 今のは、今のは間違いですのぉぉぉぉぉぉぉ!!!)
ちょろい女だった。
24 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:27:27.36 ID:yepqOhQo
数日後の日曜日。
ウ ェ ッ ト マ ン
第七学区駅前、集合場所として有名な『湿った手の男』象の前に、一人の少女が佇んでいた。
茶色がかった短い髪に、スレンダーな体系、幼さを残しながらもどこか気品を感じさせる整った顔立ちに、そこへワンポイントを加える気丈そうなつり目。
名門常盤台の制服を纏ったその少女こそ、学園都市の第三位、御坂美琴だった。
なにやらそわそわしながら時計を気にしている彼女は、とある男性と待ち合わせをしている。その相手とは言わずもがな、上条当麻だ。
あんな状態になりながらもきっちりセッティングを済ませた黒子は、カップルの聖地と名高いこの第七学区駅前を待ち合わせ場所に指定していた。
周りにいるのはどれもこれも仲睦まじそうに寄り沿うカップルばかり。
そんな中に若干の違和感と気恥ずかしさを覚えつつ、美琴は早めに集合場所へと到着していた。
どれくらい早めかというと、実に集合時間の一時間前。既にかれこれ45分ほど、ウェットマン像の前で待ち惚けているのだった。
25 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:29:53.00 ID:yepqOhQo
美琴(どうしようどうしようどうしよう! もう黒子の馬鹿! なんで私がアイツと映画を見に行かなきゃいけないのよ!
きききき緊張する! 変じゃないかな? 制服なのはしょうがないとしても、念入りにシャワーだって浴びてきたし、
ネットで調べて薄くだけどメイクもしてきたけど! あーもう! 早く来なさいよぉぉぉ!!)
ぐわんぐわんと黒子顔負けのヘドバンをかましながら悶絶する姿に周りの視線が突き刺さるが、彼女は極度の緊張でそれにすら気付いていない。
過去に彼女は常盤台の友人であり過去のルームメイトであった石岡有希と共に、深夜の無駄に高いテンションのまま、寝ている先輩の部屋へと侵入して顔に落書きをしてやろうと画策。
美琴の能力で電子ロックを解除し、先輩の部屋へと不法侵入を果たした事がある。
当時寮内で傍若無人を働き、嫌われていた先輩が皆に溶け込めるよう愉快なメイクを施してやろうという優しさの元行われた行為であったが、この時ばかりは彼女が嫌われていたおかげでルームメイトがいなかった事に安堵を覚えた。
26 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:32:07.33 ID:yepqOhQo
すやすやと優しい寝息を立てる姿からは本来の暴君っぷりが伺えず、隣の石岡はなにやら生唾を飲み込んでいたが、美琴はそれを意識して視界の外に追いやる。
なにやらハァハァと荒い息を吐いて違う「イタズラ」を行いそうな石岡からマジックを奪い、美琴はそろりそろりとベッド近づいた。
そしていざ落書きをしようとキャップを引き抜き、手始めに額へ『肉』と書いたところまでは良かった。
彼女は油性ペン独特のあの匂いも、額を走るむず痒さも意に介せず寝息を立てていたのに、石岡のヤロウが興奮して、ヨダレを先輩の顔へとおもいきり垂らしたのだ。
さすがにその生ぬるさに身じろぎし体を起こそうとする先輩に動揺した美琴は『つい』石岡へと電気ショックを加え、気絶した彼女へ油性マジックを握らせると、先輩の眠るベッドへと放り投げた。
上がる悲鳴、走る美琴、なにやら得体の知れない笑いを浮かべて気絶する石岡。
美琴が間一髪自室へ戻る頃には、怯える先輩と寮監に拘束される石岡の姿があった。
いつ石岡が自分を売るか分からない状態で、一睡もできずベッドで丸くなっていたあの時ですら、今のような緊張は無かったのに……。
そして後日談。翌日石岡は一人で寮内全域の掃除を命じられていたが、友情に厚い彼女は美琴のことをバラすどころか、一切のことを覚えていない様子だった。無論これは美琴の電気ショックの影響ではなく、彼女の友情パワーが成せる技である。
ちなみにその先輩はあの夜のことがよほど怖かったのか、それ以降我侭をいうことも無く、むしろ引っ込み思案の少女になってしまったのだが……先輩、元気かなぁ?
29 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:41:22.42 ID:lAJsr.Io
御坂ヒデェwwwwwwwwww
30 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 17:43:57.36 ID:yepqOhQo
そんな一人の少女を更生させ、友情を確かめ合った心温まる話をついつい思い出しつつ、美琴は時計をみやった。
時計は集合時間の5分前を指している。
上条「悪いな御坂。待たせたか?」
美琴「ふ、ふぇっ?」
時計をのぞき込んでいたところに急に声を掛けられ、美琴はつい飛び上がってしまう。
ビリビリと前髪から静電気が舞うが、それをコントロールすることすら出来ない。
しかしそれも、上条が軽く右手を振るだけで打ち消されてしまった。
上条「あっぶねぇな。 何ですかいきなり? やっぱ俺と映画なんて、嫌……だったか?」
必殺上目遣い!
これは上条のみならず全ての男子が持つ必殺技であり、その効果は個々で差異があるものの、確実に相手の感情に不快感をもたらす技。
しかし、上条が使った時のみ、美琴へ壮絶なダメージを与えることができる裏技である。
美琴「べ、別にっ!? その映画私も見たいと思ってたし! か、買い物に付き合ってくれるなら私はそれでいいもの!」
上条「そっか、それなら良かった。じゃ、早速映画館に行こうぜ」
美琴「えっ? あ、うん」
上条「行こう」
美琴「行きましょう」
そういう事になった。
31 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:06:54.98 ID:yepqOhQo
今回二人が見る事となった映画は全米で大ヒットしたハリウッド産ファンタジーの続編で、魔物の調停士である主人公が相棒の魔法使いとブルドックを連れて旅をするという内容なのだが、黙々とその映画を見続ける上条と、隣に上条がいる状態で悶々とする美琴を延々描写する勇気はさすがにないので、映画館での出来事は省かせてもらうと、映画館から出た二人は今、最寄の喫茶店に来ていた。
上条「いやぁ、しかしバトルシーンは熱かったなぁ。まさか毒獣マンティコアをあんな方法で倒すとは」
美琴「でもサトウも可愛かったわよね! あー、私もブルドック飼いたい!」
上条「常盤台の寮ならそういうの融通効くんじゃないか?」
美琴「だめだめ、お嬢様学校は規則が厳しいんだから」
上条「へぇ、なんだかんだで御坂もお嬢様なんだな」
美琴「な、なんだかんだって何よー」
上条「ははは、わりぃ。冗談だって」
32 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:09:19.91 ID:yepqOhQo
美琴(あれ? なんか普通に話せてる?)
そう、気づけば二人は映画の感想を言い合っていたのだ。
その間に美琴が緊張で爆発することも無く、上条も上機嫌で話に乗っている。
美琴(あぁ、この時間がずっと続けばなぁ……)
上条「さて、そろそろいい時間だし、お前の買い物にでも行くか」
美琴「あっ……」
上条「ん? どうした、なんか忘れもんか?」
美琴「ううん! なんでもないの、行きましょ」
美琴(あーあ。もう少し話、したかったなぁ……)
美琴の後悔も束の間、二人は喫茶店の外に出て、一路セブンスミストへ向かう。
と、大通りまで出た時のことだった。美琴の携帯が着信を告げる。
33 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:12:43.12 ID:yepqOhQo
美琴「あ、ごめん。ちょっと出る」
美琴「もしもし……うん……うん、分かってる。……え? 今から? でも……うん。分かった。すぐに」
上条「どうした?」
美琴「ごめん、私急用ができたから。今から付き合ってもらうってのに悪いわね」
上条「それはいいが……良かったのか? 買い物」
美琴「すぐに必要なものでもないし、大丈夫よ」
上条「そっか。じゃあな、御坂」
美琴「……うん、じゃあね」
手をふり、別れる。
去っていく美琴を見送り、上条は少し早いがスーパーへと向かうことにした。
34 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 18:17:54.00 ID:yepqOhQo
美琴「本当に、やるの?」
??「ええ、これは我々全勢力を懸けた闘いですから」
美琴「……それは、復讐?」
??「いいえ、決別ですよ。過去の、弱い自分との決別。これを以て、私は第七学区最強の《狼》となる……
上を目指したいというこの思い。貴女なら分かってくれますよね?レベル1から努力だけでレベル5にまでのし上がった、『超電磁砲』の貴女なら」
美琴「確かにわからなくも無いけれど……」
??「私は無力でした。だから、力が欲しい。そう思い努力して、私はこの二つ名を手に入れた。そして次はこの第七学区を手中に収め、最後には学園都市最強の《狼》となる……!」
美琴「…………」
??「そのためにも、あの《幻想殺し》を倒さなくてはなりません。あの忌々しい、セブンス・マートの主!」
美琴「幻想……殺し」
??「そうです。待っていて下さい《幻想殺し》――いえ、上条当麻。貴方は私の手で、かならず息の根を止めてみせます」
??「さぁ、戦争の始まりですよ」
第一章 終了
39 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 19:11:43.10 ID:borkBIDO
石岡が誰かわからなかったが調べたらベン・トーのキャラなんだな。
ここだと御坂の過去の被害者友人Aって扱いか。
42 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 20:00:45.06 ID:B9f4Tgko
お前かwwwwwwwwww
お前のせいでベントー買ったよwwwwwwwwでもまだ読んでない……
47 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:36:48.32 ID:yepqOhQo
第二章いきます。
このSSがベン・トーの販促になってなにより。
目指せこのラノ2011 第一位!
48 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:37:52.53 ID:yepqOhQo
第二章 幻想殺し お前ならできるさ、きっとな >上条当麻
黒子「だりゃあああああ!! ですのっ!」
結標「甘い! 甘いわよ!」
二人の打撃が交錯し、余波を撒き散らす。
両者ともスピード型の《狼》であるが故に、なかなか決定打こそ放たれないが、しかしその余波で双方かなり疲弊していた。
今、弁当コーナーに残っている半額弁当はたったの一つ。
そして、生き残っている《狼》は二人。
その符号が表すものは一つ。
生き残るのは――たったの一人。
黒子が瞬速の抜き手を放てば、それを結標が受け流す。
結標が鋭角な蹴りを放てば、それを黒子が捌ききる。
高速のやりとりの中、互いに弁当へ手を伸ばす事も忘れない。
どちらかが手を伸ばし、どちらかがそれを弾く。
49 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:44:21.21 ID:yepqOhQo
永遠に続くかと思われた攻防。しかし、そこへ割り込む影があった。
弁当コーナーの近くで倒れていた、ジョニーっぽいジャージ姿の男である。
ジョニー「うおおおおお!!!」
叫び、カゴを振り上げる。
再起不能と思われていた敵の攻撃に、しかし彼女らは一切狼狽えなかった。
互いにバックステップでカゴを避けると、体制を崩したジョニーへ挟撃をかける。
ジョニー「むん!」
しかしジョニーも負けてはいない。すかさずカゴの持ち手を握り、振り回すように一回転。全方向へ牽制を放つ。
だが、黒子と結標はこれを完全に読んでいた。
たしかに一回転攻撃は密集地帯では有効だ。しかし、こうして身動きを取りやすい場所では、上下方向からの反撃を許す。
50 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:45:29.96 ID:yepqOhQo
黒子が床を蹴り上へ。
結標が潜り込むように下へ。
ジョニーが体勢を整えようとした時にはもう遅い。
完全なコンビネーションで決まった上下からの打撃は衝撃を逃がさず、余すこと無くジョニーへダメージを与えていた。
轟ッ……と、ジョニーの巨体が地に沈む。
スタと地に降り、ここで黒子は気づく。己が結標に嵌められた事に。
地上から攻撃を放っていた結標は、打撃を与えると同時に弁当コーナーへダッシュをかけていた。
空中にいた黒子に、これを追う術はない。
彼女が走りだそうとした時には、すでに最後の半額弁当は結標の手にあった。
51 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:52:21.29 ID:yepqOhQo
ズルズルと、どん兵衛をすする音が公園に響く。
黒子だ。
その横で温めた弁当のパックを開ける「カポ」と言う音。
恨めしそうに、黒子はベンチに座る面々を見やった。
先ほど黒子が取り逃したジャージャー麺弁当を啜る結標淡希。
先に弁当を奪取してレジに並んでいた上条当麻が箸をつけるのは、巨大なハンバーグが中央に鎮座するボリューム満点の弁当。
黒子「そう言えば、今日は見慣れぬ《狼》が何人かいましたわね」
どん兵衛の揚げにかぶりつき、中から滲み出してくる汁と共に味わいながら、黒子が言った。
上条「そうだな。あれは恐らく、東区の狼だろう」
答え、上条がハンバーグを二つに割る。すると湯気を立ち上らせる断面から、とろりとチーズが流れ出す。
上条は不敵な笑みを浮かべると、二つに割ってもまだ大きいハンバーグを持ち上げ、チーズが溢れ無いよう気をつけながら口へ運んだ。
52 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/13(木) 23:56:39.98 ID:yepqOhQo
食いつき、噛みしめる。
するとどうだろう。ハンバーグの間から濃厚なチーズが溢れ出し、そこへ肉汁たっぷりのひき肉がダイブする。
柔らかかったチーズが口の中で徐々に冷え、肉と複雑に絡み合い、肉に独特な風味を与える。
一口食べただけなのにどっしりとした重量感を残すハンバーグ。
食べきれるか? と、思わず弱気になる上条だったが、咀嚼するうち、それが杞憂であると考え直す。
弁当箱の片隅、熱で若干しんなりとしたキャベツの中に、それよりも少し濃い緑色を見つけたのだ。
上条(これは……シソか!?)
そう、キャベツの間に紛れている千切りのシソが、こってりとした口の中を洗い流し、そのサッパリ感がさらなる一口を誘導する。
なんと、完璧に計算された弁当だろう。ハンバーグが! チーズが! キャベツが! シソが!
すべての食材が調和を持って奏でるハーモニー! この弁当こそまさしく――
54 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:05:16.12 ID:Ma1Pw.go
黒子「当麻さん!」
上条「はっ!?」
結標「どうしたのよ上条くん。必死に弁当をがっついちゃって」
上条「すまん、あまりにも美味かったもんだから」
気づけば黒子たちも各々食事を終え、なぜ見慣れぬ狼たちが現れたのかと話をしている所だった。
黒子「それで、先程結標さんに聞きましたけれど、第七学区に『東区』と『西区』という括りがあったんですのね」
上条「ああ、と言っても、そう呼んでいる殆どが東の連中だけどな。あちらはどちらかと言うと功名心の高い狼が多いからさ」
結標「そう。そして東の狼達は何かと順位を付けたがるの」
黒子「順位……ですの?」
結標「えぇ、『この学区で一番強い狼は誰か』という事を重要視するの。
イマジンクリエイト
そして、今東区で最強と呼ばれる狼の名が《幻想創造》」
黒子「なんだか、三年後にでも戦うことになりそうな名前ですの」
55 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:10:49.17 ID:Ma1Pw.go
結標「幻想創造は強いわよ。若くして頭角を表し、まるで強くなりたいという幻想を具現化したかのような速度で成長してきた。
最近は新しく引き入れた犬を調教し、雷神の名を冠する『幻想』を作り上げたそうだけれど……」
黒子「ちょっと待ってくださいですの。『幻想』を『創造』するって、まるで当麻さんの二つ名と対になるようですわ」
結標「その通り。《幻想創造》は昔、西区の《狼》だったのよ。それが《幻想殺し》に負け、東へと逃げた」
黒子「そうなんですの?」
上条「あぁ、その頃のアイツはまだ新米の《狼》だったからな。血気盛んで、やたらと力に拘る奴だった。
俺にはアイツが何故そこまで力を求めるのかは分からなかったが、《狼》として向かって来た以上《狼》として答えてやることしか出来なかったんだ」
黒子「なるほど。ではそれと、東区の狼がこちらへ流れてきている事と、何か関係が?」
上条「さあな。ま、それほど珍しいことではないさ。俺だってたまに、東のスーパーに顔を出す事だってある。血気盛んな東のヤツらなら尚更さ」
結標「そうね、気にする程の事では無いわよ。それじゃあ私は孤児院の仕事もあるし、帰るわ」
上条「ああ。じゃあな、結標」
黒子「ごきげんよう、結標さん」
56 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:15:36.76 ID:SqltWyU0
夜中に読むとやたら腹が減るSSだなあww
57 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:20:13.47 ID:Ma1Pw.go
軽く手を振り、結標が公園から去っていく。
その後もベンチから動かない所を見ると、上条はまだ帰りそうにない。
黒子はさりげなく彼の近くに座り直した。
黒子「今日は用事が入ってしまい申し訳ありませんでしたの。お姉さまとのお買い物はいかがでした?」
上条「んー? 映画は面白かったぜ。その後、御坂と感想を言いあったのも楽しかったし。ただ買い物の方は結局行けなかったからな」
黒子「何故ですの?」
上条「御坂の奴が急に用事が入ったとかで帰っちまってな。なんだったんだ?」
黒子(はぁ……お姉さまったら、また緊張に堪えきれなかったんですのね……)
美琴の性格から結論付け、黒子は呆れながらも、どこか安堵している自分に気づく。
それが上条に伝わらないよう、慌ててニヤケかけていた表情を元に戻すと、さらに上条へと問いかけた。
59 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:29:45.41 ID:Ma1Pw.go
黒子「その《幻想創造》なる人物、東区最強と言われながらも元は新米の狼だったんですのね」
上条「ああ。ただ、何処か片鱗のようなものは見せていたように思う」
黒子「そう、ですの……今日も半額弁当を手に入れられませんでしたし、何だかその御方が羨ましいですわ」
上条「何、黒子もすぐ強くなるさ。おれが保証する」
黒子「当麻さんを超えられるくらいに、ですの?」
上条「ははは。お前ならできるさ、きっとな。ただ、そう簡単に抜かさせやしないぜ」
黒子「言いましたわね、後で吠え面をかいても知りませんのよ!」
上条「おう。期待してるぞ、黒子」
優しく微笑みかけられ、黒子は思わず狼狽えてしまう。
黒子(その笑顔は、反則ですの……)
上条「それじゃ、俺も帰るかな。送ろうか?」
黒子「いえ、テレポートを使えばスグですし、結構ですの」
上条「そうか。またな、黒子」
黒子「ええ。さようなら、当麻さん」
61 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:35:55.11 ID:Ma1Pw.go
上条を見送り、黒子も帰路に着く事にした。
テレポートを繰り返し、寮監の目から逃れるため、寮の外からベランダへ直接跳躍。靴を脱いで部屋へ入る。
美琴「あら黒子。おかえり」
黒子「ただいまですの! お姉さま~」
美琴「ちょっ!? とびかかってくんな!」
ビリビリと美琴の前髪から紫電が迸り、黒子がジタバタと床の上で悶絶する。
いつものやり取りである。
黒子「うぅ……ひどいですの」
美琴「どっちがよ!」
黒子「そ、そう言えば。今日はデートの途中で帰られたそうですが、一体何をしていらしたんですの?」
美琴「でででデートって!? 別にそんなんじゃないわよ……ま、まぁ買い物の前に帰ったのは、その――ちょっと友達に頼まれごとされちゃって」
62 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:41:39.62 ID:Ma1Pw.go
黒子「頼まれごと? 照れて一緒にいるのが耐えられなくなったのではありませんの?」
美琴「だ、誰があいつなんかに照れるか!そ、それに最後の方は結構いい雰囲気だったんだから…… って、何言わせるのよ!」
黒子「ま、まぁいいですが……ところでお姉さま、最近お疲れのようではありませんの?」
美琴「え? そ、そう?」
黒子「ええ。最近少しお肌が荒れているような……なんだかヤツれているような気もしますし」
美琴「気のせいだって。でも、心配してくれてありがとね、黒子」
黒子「お、お姉さま……」
これは完全に予想外だった。
黒子はこの後「余計なお世話よビリビリー!」とでもされるだろうと思っていたのに。
いや、お仕置きされるのを前提で話しかけるのもどうかと思うが。
ともかく。不意に優しい言葉をかけられ、思わず黒子は立ち尽くしてしまったのだった。
そして、そこへさらなる不意打ちがかけられる。
美琴「黒子。あんたはずっと、私のパートナーだから」
黒子「お、お姉さま?」
黒子(なななななぁ!? どういう事ですの!? まさかお姉さまの方から、わたくしを抱きしめてくださるなんて!)
63 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/14(金) 00:46:35.62 ID:Ma1Pw.go
黒子がわきわきと怪しい手つきで美琴の細い腰に腕を回そうとした時だった。
スッと、美琴の方から離れて行ってしまう。
美琴「ごめんね、急にこんな事して。さ、今日はもう寝るわ」
黒子「えっ? そんな! もうサービスタイムは終わりですの!?
ついに激アツ確変リーチが来たと思いましたのに! この台ハイスペックすぎですの!
……・ん? CR超電磁砲……これは売れるかもしれませんの!」
美琴「おやすみー」
黒子「ナチュラルにスルーするのはやめて欲しいんですの……」
トボトボとシャワーを浴びに行く黒子を尻目に、美琴は本当に布団を頭まで被ってしまっていた。
がっくりと肩を落とした黒子は、制服を脱ぐと替えの下着を用意し、いそいそと浴室へと向かう事にした。
バタン。と、浴室の扉が閉じ、中から水の跳ねる音が聞こえ始める。
美琴「ごめんね、黒子。でも私は――私は、東の《狼》なの」
その呟きは、布団のなかで反射し、誰にも聞かれること無く、消えた。
第二章 終了
96 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:16:50.25 ID:Rf1IUiso
第三章《風紀委員》 ギャフン!> 初春飾利
佐天「うーいっはるー!」
初春「ひゃぁ!」
佐天「おお! 今日の初春は縞パンかー。マニア心をくすぐるねぇ」
初春「なんのマニアですか! もう……」
佐天「何って、初春のパンツマニア?」
初春「……もういいですよぅ」
佐天「もう。初春ったら、スネないの」
初春「スネてないです!」
98 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:23:44.34 ID:Rf1IUiso
昼下がり、学校を終えた二人の少女が第七学区の公園を歩いていた。
柵川中学一年生の制服を着た彼女らとは、言わずもが『佐天涙子』と『初春飾利』の二人だ。
きゃいきゃいとじゃれ合う少女たちは、傍から見ても仲が良さそうに見える。
どれくらい仲がいいかと言うと、風邪で寝込んでいる佐天の部屋にズカズカ踏み込んでノートPCを広げ
「うおおお!!! 筋肉刑事の新作ktkr! これで勝つる!」だとか「ハァハァ、サイトウ可愛いよサイトウ」だとか、ひとしきり騒いで帰っていく位仲がいい。さすがの佐天もその時ばかりは、この頭花ちゃんと縁を切ろうと思ったほどだ。
佐天「あれ? 白井さんじゃないですか!」
回想にふけり沸々と怒りを抱き始めていた佐天は、知り合いを見かけて我に帰った。
今しがた公園に入ってきた人物は、ツインテールに常盤台の制服を着た少女――白井黒子である。
黒子「おや、初春に佐天さんではありませんの」
99 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:28:27.18 ID:Rf1IUiso
黒子「今日は二人でデートですの?」
初春「なななな! 何言ってるんですか白井さん!」
佐天「そうですよ白井さん。デートなんてあまっちょろい物じゃないです!
二人はこれから夜の街に……」
初春「佐天さんまで悪ノリしないで下さい! それに今は昼です!」
黒子「まるで夫婦漫才ですの……」
佐天「夫婦だなんて、照れちゃいますよぅ……」
初春「もう佐天さんは黙っててください!」
黒子「で、お二人は何をしてるんですの?」
佐天「今から二人で買い物に行こうと思ってるんですよー」
初春「白井さんも来ますか?」
100 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:31:08.18 ID:Rf1IUiso
黒子「いえ、今日は遠慮させていただきますの。少し調べたい事があって」
佐天「風紀委員のお仕事ですか?」
黒子「ま、まぁそんな所ですの」
佐天「ふぅん」
と、彼女は興味もなさそうに言う。と、途端顔をほころばせ、良いことを思いついたと言わんばかりのニヤニヤ笑いを浮かべる。
佐天「白井さん。私、今猛烈にクレープが食べたいんですよ」
黒子「はぁ、そうですの」
初春「もう。そんなことばっかり言ってると太りますよ」
佐天「私は初春と違って胸に行くしー ……って、そうじゃなくてぇ!
ジャンケンして、負けた人が三人分のクレープを買いに行くってのはどう?」
黒子「そこはかとなくムカつく発言がありましたが……いいでしょう。受けてたちますの」
初春「正直乗り気はしませんが、今猛烈に佐天さんをギャフンと言わせたいので、私も乗りますよ!」
101 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:37:17.64 ID:Rf1IUiso
佐天「そう来なくっちゃ! それじゃあ行くよ!」
言い、佐天は某ポルナレフヘアーの人が必殺技を放つときのように右拳を左手で覆う。
佐天「最初はグー!」
初春「ジャンケン……」
黒子「ポン! ですの!」
…………
初春「ギャフン!」
黒子「見事に一発で負けましたわね」
佐天「それじゃ、頼んだよ初春」
初春「うー……」
102 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/17(月) 01:43:50.85 ID:Rf1IUiso
トボトボと歩き出した初春が十分離れたのを確認してから、佐天は黒子へ向き合い、真面目な顔を作った。
まるで追いつめられたような瞳に、黒子はただ事ではない雰囲気を感じ取る。
佐天「白井さん、大切な話があります」
黒子「大切な話……ですの?」
佐天「えぇ、東の《狼》として」
黒子「――!?」
佐天「これは正直、西の人に言ってはいけない事なんですが……」
苦しい顔を作り、佐天が言い淀む。
ごくりと、驚愕と不安に黒子が息を飲む。
しばしの間。しかししっかりと、佐天は言った。
佐天「東の《狼》達は戦争を始めようとしています。西を飲み込み、第七学区を統一するつもりです……!」
115 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:21:10.53 ID:8xmZvAAo
佐天「東の《狼》達は戦争を始めようとしています。西を飲み込み、第七学区を統一するつもりです……!」
黒子「なん……ですって……」
佐天「最近東の狼がよく西へ遠征に出かけていますよね。あれは偵察なんです」
黒子「確かに最近東の狼をよく見かけますけれど……でも、なんでまた」
佐天「かつて《GENESIS》の時代が在ったことは知っていますよね? 《幻想創造》は、それを繰り返そうとしているんです。
進撃
新しい時代――《AHEAD》の時代を創造するために」
黒子「……どうして、それを佐天さんが知っていますの?」
佐天「《幻想創造》は東の有力な《二つ名》持ちを招集してお触れを出したんですよ。知っての通り、東の狼は強さにこだわり、序列を重要視します。だから東の《長》である《幻想創造》の言う事は絶対なんです」
117 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:27:06.02 ID:8xmZvAAo
黒子「でも、何故それをわたくしに?」
佐天「白井さんが友達だからって言うのもあります。それと……ちょっとズルいかも知れないけど、打算もあります」
黒子「打算?」
佐天「白井さんは《幻想殺し》の弟子なんですよね?」
黒子「弟子かと言われると分かりませんが、確かに面識はありますの」
佐天「……お願いです。このことを《幻想殺し》に伝えて下さい。この計画を、止めて欲しいんです」
黒子「でも、それでは佐天さんが東を裏切ることになりますの!」
佐天「嫌なんですよ……序列や強さにこだわって、みんな弁当争奪戦の楽しさを忘れて……そんなの、私が好きな弁当争奪戦じゃない……」
黒子「佐天さん……」
119 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:33:00.78 ID:8xmZvAAo
佐天「だから、お願いです。この事を、どうか《幻想殺し》に……」
黒子「分かりましたの。この事は必ず伝えますの」
佐天「ありがとうございます……あ、そろそろ初春が帰って来ちゃうかな」
黒子「そうですわね。あぁ、楽しみですわ。ハンバーグクレープ」
佐天「はは、半額弁当争奪戦でもがっつり食べてるのに、こんな所でそんなの食べたら、太りますよ?」
黒子「うっ……く、クレープは別腹ですの……」
初春「買ってきましたよー!」
佐天「やぁやぁ初春。パシリご苦労!」
初春「パシリって! ひどいです佐天さん!」
初春とじゃれ合う佐天は、先までの真面目な会話が嘘のように晴れやかな顔をしている。
その二面性が――親友を心配させまいとする気丈さこそが、彼女が真剣である証拠に、黒子には思えた。
120 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/20(木) 00:38:00.89 ID:8xmZvAAo
かつて黒子のクラスメートであり『常盤台マゾの会』の会員である内本さんが、美琴にビリビリされて悶えている黒子を勝手に同志だと思い込み、自作の『常盤台ドSランキング』を見せながら熱く語ってくれた事が在った。
内本さんは寮の廊下で、婚后光子に嬲られたいだの寮監の首狩りは最高だの大声で宣っていたのだが、その時親から掛かってきた電話に「うっせーんだよ! んな事でいちいち電話かけてくんじゃねぇ! ド素人が!」と見事なまでの内弁慶っぷりを発揮したのだ。
これまでさんざんMだと自称していた内本さんが垣間見せた僅かなSっ気に、黒子は密かに戦慄を覚えたのだが、この真剣さはあの時の内本さんにも匹敵するように思う。
だって内本さん。話を途中で遮られたことに、本気でブチキレていらっしゃいましたもの……
黒子はそんな友人の意外な二面性を回想しながらクレープを食べ終えると、《幻想殺し》――上条当麻にこの事を伝えるべく、二人に別れを告げ、帰路についたのだった。
144 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:02:33.01 ID:zm1k5pEo
黒子「……と、言うことがありましたの」
上条「なるほど、戦争か……」
セブンス・マートの冷凍食品コーナー。
本来、この冷凍食品コーナーに待機している《狼》は少ない。
何故なら、通路真ん中におかれたワゴン式の冷凍装置から漏れ出す冷気が年中通路を冷やし、特に薄着になる夏は冷房病になる狼も少なくないからだ。
そのため、この冷凍食品コーナーは《極寒の領域》とも呼ばれており、近づく《狼》の居ない不毛の地とされている。
そんな中、白い息を吐きながら《極寒の領域》で身を寄せ合う二つの影があった。
白井黒子と上条当麻だ。
《極寒の領域》は《狼》が少ない事や、弁当コーナーから離れている等の理由で、密会には持って来いの場所だ。
彼等が話している内容も、そういった『密会』が必要な内容であった。
146 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:11:35.41 ID:zm1k5pEo
黒子「確か佐天さんは《AHEAD》の時代が訪れると――《GENESIS》を再現するつもりだと、おっしゃっていましたの」
上条「《GENESIS》……か。《幻想創造》はまたあんな事を繰り返そうと言うのかよ……!」
言う上条の声は震え、拳は固く握り締められていた。
彼の激情に、黒子は自然と過去の戦乱が悲惨なものであったのだろうと言う事を、自然に理解する。
上条当麻は怒っていた。
何に対して怒っているのか、過去の戦乱を知らない黒子には分からない。
ただ、黒子は思う。
その戦いは、優しいこの御方が怒りを得るような、一握りの強者の所為で、弱者が理不尽に不幸になるようなものだったのですねと。
上条「黒子……その戦争、受けるぞ」
149 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:16:59.39 ID:zm1k5pEo
黒子「正気ですの!? そんな物、無視してしまえばいいではないですか」
上条「《狼》同士の戦争は、所謂決闘方式で行われる。そのスーパーを縄張りとする狼に挑戦者が挑み、その縄張りに住む狼と、送り込まれた挑戦者側の狼達が戦い、多く半額弁当を取った側が勝者となる。そのため、
少なくとも縄張り持ちの狼には事前に挑戦状が送られるはずだ。下手に縄張り持ちが挑戦を受けて地元の狼と連携が取れなくなるより、先に全狼にこの事を伝えた方が対策は取れる」
黒子「では、ハナからその挑戦を蹴ってしまえば……」
上条「《幻想創造》がそうだとは思いたくないが、戦乱の時代には挑戦を拒否した側のスーパーを荒らす奴らもいた。今では信じられない話だけどな……」
黒子「そんな……誇りは! 《狼》としての誇りは何処に!」
上条「あの頃は闘う事が《狼》の誇りだった……少なくともそう錯覚させるほどに、あの時代は厳しいものだったんだよ……」
152 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:33:20.33 ID:zm1k5pEo
黒子「そんな……」
上条「半額弁当争奪戦はそんな物じゃねぇ。腹の虫の声に答え、勝利の一味を求めるための物だ。黒子、お前ならわかるだろ?」
黒子「えぇ、わかりますの……わたくし達の力、見せつけてやりましょう、当麻さん!」
上条「あぁ、じきに東からの宣戦布告があるはずだ。その前に西の狼たちにこの事をつたえなくちゃな。
悪いが黒子、俺は今からツテを使って西の全《狼》達にこの事を通達してくる。今日の争奪戦は出られそうにない」
黒子「謝る必要はありません。逆にライバルがひとり減って、好都合ですの」
黒子の軽口に上条は薄く笑うと、踵を返してスーパーの出口へと歩いていった。
それから間もなくして、西の《狼》達に《幻想創造》の目論見が明かされた。
まだ見ぬ戦いを恐れる者。強敵との戦いに歓喜する者。上条と同様、義憤に燃える者。
様々な《狼》の思いが錯綜する中、追うように東からの宣戦布告が行われる。
開戦は4日後、金曜日。
ハーフプライスラベリングタイム
東側で最初の《半値印証時刻》をもって、火蓋は切って落とされることとなる。
153 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 21:46:53.62 ID:zm1k5pEo
第四章 幻想創造
金曜日、風紀委員の仕事を早く終わらせた白井黒子は焦れていた。
現在の時刻は19時を少し過ぎたところ。
閉店の早いスーパーならばもう《半値印証時刻》が始まっている時間だ。
なのに、上条当麻はまだ姿を表さない。
いや、セブンス・マートの《半値印証時刻》が21時前後なのを考えると、特におかしな時間ではない。
むしろこんな時間からいつもの公園のベンチに腰掛けている自分が異常なのだ。
結標「にしても、早く来すぎよ、貴女」
黒子「わたくしより前に待機していた貴女に言われたくありませんの」
白井黒子と結標淡希が互いに目をそらしあったまま、言葉を交わす。
無言の中、結標が携帯電話の時計を見ながら呟いた。
結標「そろそろ、早い店では争奪戦が始まっている頃ね」
黒子「わたくしは……気が気でありませんの」
結標「戦争の事? それとも、上条くんの事かしら?」
154 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:02:33.88 ID:zm1k5pEo
黒子「当麻さんの事ですの。あの方のご様子はいくら前の戦乱があったにしても、少し異常なように見えました」
結標「そうかしら? 前の大戦を憎む狼は少なくないわよ。特にあの上条くんならね。彼は、今の争奪戦が大好きだから」
黒子は結標の言葉に若干の嫉妬を抱きつつ、考える。
黒子(わたくしの知らない、当麻さん……)
彼女はまだ《狼》としては新米だ。
もちろん、過去の大戦の事など、知る由もない。
黒子(そして、その頃の当麻さんの事も……)
彼女はこれまで上条と行動を供にし、彼のことを少なからず知っているつもりでいた。
しかし考えてみれば、彼とこうして話すようになったのも、つい最近なのだ。
それまでは、憎くすら思っていたはずなのに。
黒子「当麻さんは……わたくし達は、勝てるのでしょうか」
結標「さあね。でもま、私はこのセブンス・マートさえ守れればそれでいいわ。他のことなんて、興味もない」
黒子「それはいささか無責任では……」
結標「いいのよ、それで。私は私の守れる物を守る。私にはこのスーパーだけで精一杯よ」
黒子「……そうですわね。今はただ、わたくし達の戦いだけを考えましょう」
結標「言われなくても、そうしてるわ」
現在の時刻は19時30分。
セブンスマートの《半値印証時刻》まで、あと1時間半。
155 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:13:14.67 ID:zm1k5pEo
幻想創造「ふふふ……ついに始まりましたね、御坂さん」
美琴「…………」
暗い部屋。
どことなく会議室のように見える大部屋で、二人の人間が巨大な3Dディスプレイを眺めていた。
そこには第七学区の地図が表示されており、エリアごとに赤と青で色分けされている。
これは戦争の状況をリアルタイムで表示するプログラムであり、現在、殆どがまだ西側勢力を示す赤に塗られている。
と、不意に赤かったエリアが青色に塗りつぶされた。
それは、東の狼が緒戦を飾った事を意味している。
幻想創造「さすがは東の精鋭たちです。緒戦は開始から15分で勝利ですか」
幻想創造「少々早いですが、そろそろ準備をされたらどうですか? 御坂さん」
美琴「まだ一時間以上あるわ。そう急く事もないでしょう」
幻想創造「おやおや? 怖気付いちゃったんですか? そうですよね、相手があの《幻想殺し》とあっては、
トール
さすがの『超電磁砲』――いえ、《雷神》でも恐れるのは仕方ありません」
美琴「だ、誰がアイツなんかに!」
幻想創造「ふふ、戦えるならいいんです。私としても文句はありませんよ」
156 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:44:12.16 ID:zm1k5pEo
笑う幻想創造。
その頬に薄く張り付いた微笑に、美琴はどこか狂気を感じ、目を逸らす。
美琴は思う。
私が求めていた争奪戦とは、こんな物だったろうかと。
寮の夕食時間を逃したあの日、たまたま入ったスーパーで争奪戦に巻き込まれて以来、彼女は生来の負けん気を発揮し、めきめきと力をつけていった。
その間、常に自分を導き、傍にいてくれたのが《幻想創造》だった。
黒子を導いたのが上条当麻なら、美琴にとってのそれが《幻想創造》だったのだ。
彼女は《幻想創造》に対して恩義を感じているし、好意も抱いている。
しかしそれは身内に対するものであり、彼女が上条当麻を思う時のソレとは違うものだ。
そんな《幻想創造》が彼女に命じたのは『セブンス・マート』攻略。
つまり、彼女の想い人である《幻想殺し》の打倒だ。
しかし、彼女にとってそれは抵抗感を抱くような事ではない。
彼との喧嘩はもはや日常的なものであり、その舞台がスーパーへと移るだけの話である。
そう、それだけならば何の問題も無い。
『たまたま』会ったスーパーで《狼》として闘うならば……
157 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 22:50:51.09 ID:zm1k5pEo
だが今回はそうではない。
明確な敵意を持っての対立。
戦争という舞台に於いての、兵士と兵士と言う立場での戦い。
それは彼女にとって、何とも言えない不快感を与えていた。
幻想創造「あれ? あはは、見てくださいよ御坂さん。西も結構善戦しているようです。なかなか制圧地域が増えていきませんね」
美琴「……行くわ」
幻想創造「ああ、もうそんな時間ですか。私も準備をしないと」
笑みを浮かべて椅子から立ち上がる《幻想創造》を尻目に、美琴は無言で扉へと向かう。
静かにドアがスライドし、その向こう側へと美琴は一歩を踏み出す。
幻想創造「いってらっしゃい。御坂美琴さん」
答えること無く、ドアの向こうに美琴は消えた。
現在の時刻は20時15分。
セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと45分。
159 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:09:47.13 ID:WdOFmYAO
創造役誰か気になんよ
160 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:11:57.08 ID:ZbCgRHY0
敬語だからなんとなく海原(本物)のイメージだった
バン・トーのキャラだったなら分からないな
161 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/23(日) 23:15:33.49 ID:RVCB2mgo
バン・トーで不覚にも
163 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/24(月) 01:42:03.41 ID:3pflIkAO
バン・ドー《ゆでたまご1つ300円やてッ!?》
なるほど
174 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:33:00.29 ID:aPRkZoUo
茶髪「あら《お嬢様》。早いじゃない」
セブンス・マートの奥。
弁当コーナーから離れた乾麺コーナーでカップヌードルライトを凝視していた黒子に、茶髪の女性とが声をかけた。
後ろから、いつもの坊主と顎鬚もついてきている。
黒子「なんですの、それ」
茶髪「知らないの? まだ二つ名ってほど浸透してはいないけど、貴女をこう呼ぶ《狼》がちらほらいるのよ」
黒子「はぁ……二つ名がつくのは素直に嬉しいですが、いささか不本意ですの」
ため息を付いて肩を竦める黒子に、坊主が思い出したと言うように指を立てた。
坊主「なんだ、それが嫌ならもう一つ二つ名候補があるぞ、お嬢」
黒子「まぁ、なんと言うんですの?」
レズビアン
坊主「《変 態》」
175 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:39:48.04 ID:aPRkZoUo
黒子「なぁっ!? わたくしの何処が変態なんですの!?」
顎鬚「なんでも『超電磁砲』にビリビリされて悦んでるのを見た奴がいるとかなんとか……
え?お嬢ってそういう趣味?」
黒子「確かにお姉さまからの愛のムチでしたら悦んでお受けいたしますけれども。
別にわたくしにはそういった趣味はありませんの」
結標「その時点で、十分に変態よ」
黒子「そんな……わたくしの愛がそんな風に見られていたなんて……」
「あんなもん、そう見られたって仕方ないっての」
声。
不意に投げかけられた呼び掛けに、皆が一斉に振り向いた。
そこにいたのは右手にカゴを提げた一人の少女――
――雷神《トール》! 御坂美琴!
美琴「はじめまして、西の《狼》さん。神罰を与えに来たわよ」
176 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:44:33.68 ID:aPRkZoUo
黒子「お姉……さま」
美琴「話には聞いていたけど、あんたも《狼》になってたとはねぇ、黒子」
結標「あら、東からの刺客は貴女だけなの? 《雷神》」
黒子「《雷神》――!? では《幻想創造》の配下と言うのは……」
美琴「そう、私よ《変態》さん」
言い、カゴを肩に担ぐように保持すると、美琴は誰かを探すように左右に目をやる。
美琴「アイツは――《幻想殺し》はまだ居ないみたいね。結構楽しみにしてたんだけど」
坊主「ふん、奴が居ずともお前一人だけならば、我々だけで十分だ」
顎鬚「俺らも舐められたモンだぜ」
結標「……違うわ」
顎鬚「え?」
177 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:48:47.33 ID:aPRkZoUo
美琴「へぇ、気づいたんだ」
うっすらと笑い、美琴が左指を鳴らす。
と、ゾッとするような冷気が。
突き刺さるような視線が。
全方向から彼等へと穿たれる。
茶髪「なっ!?」
結標「なんて数……!」
クリーチャーズ
美琴「よく訓練されているでしょう? 《幻想創造》が作り出した《魑魅魍狼》よ」
結標「こんな兵隊まで作って……《ガブリエルラチェット》の真似事かしら?」
美琴「あんな物と一緒にしないで欲しいわね。こいつらは《ガブリエルラチェット》と違って戦闘能力を有する《軍用犬》よ」
顎鬚「なんだよこれ……《幻想創造》ってのは正気なのか!?」
178 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:54:02.45 ID:aPRkZoUo
美琴「これでも勝てるってんなら私はいいんだけど……そろそろ《半値印証時刻》だし、《幻想殺し》を早く呼び寄せた方がいいんじゃないの?」
黒子「そうですの! 当麻さんは一体何を……!?」
美琴「……『当麻さん』ねぇ……《狼》になってんのはともかく、あんたがアイツと隠れて会ってただなんて……」
黒子「そんな……隠れて会っていた訳では……」
美琴「だってそうでしょう? 最近帰りが遅いから何でだろうと思ったら……聞いたわよ、アイツの部屋にも行ったそうじゃない」
黒子「それは……当麻さんがお風邪をひかれて」
美琴「看病しに行きましたって? はん。そんなの遠回しに『風邪を引いたら看病しに行く仲です』って言ってるようなもんでしょ?私にそんな風に見せつけて、楽しい?」
黒子「わ、わたくしは決してそんなつもりでは……」
美琴「無いって言える? あんたが少しもアイツの事を意識してないって、胸を張って言えるの?」
179 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 21:59:51.36 ID:aPRkZoUo
黒子「そ、それは」
言える。
とは、黒子は口にできなかった。
自分は少なからず、それこそ美琴と同列に考えるくらい、彼のことを意識していたのだから。
美琴「あの時の映画だって……何? 私へのお情けのつもりだった?」
黒子「わ、私は決してそのような事……アレはお姉さまにも、当麻さんにも楽しんで欲しくて……」
美琴「それがお情けだって言うのよ!」
黒子「ひうっ……!」
怒声に、黒子が怯えたように身をすくめる。
その身はがくがくと、風雨に打たれ、凍えた子犬のように震えている。
恐怖だった。
絶望だった。
愛する人から受ける剥き出しの嫌悪に、黒子の体は崩れ落ちそうになっていた。
結標「そこまでよ、『超電磁砲』……いえ、《トール》」
美琴「《座標移動》……久しぶりね。意外だったわ、あんたと黒子が一緒にいるなんて」
180 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 22:05:39.87 ID:aPRkZoUo
結標「あら、それも貴女が言う『アイツ』のおかげよ。どう? 嫉妬したかしら」
美琴「あんたねぇ……」
結標「そうそう、その《幻想殺し》だけど」
ニヤリと、結標淡希が笑う。
結標「来ないわよ。今日、ここに」
茶髪「なん……ですって?」
坊主「おい《座標移動》!どういう事だよそれは!」
結標「どうもこうも、ソレ以上もソレ以下も無いわ。彼は来ない。だから私たちだけでここを守るしか無い。それだけのことよ」
美琴「ふふふ……あははははは!」
黒子「お、お姉さま?」
181 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/25(火) 22:10:35.98 ID:aPRkZoUo
美琴「そう……そういう事だったのね……あの子、初めからそういうつもりだったのね」
黒子「一体どういう……」
美琴「いいわ、教えてあげる。《幻想創造》の本当の目的」
結標「…………」
美琴「まぁこれも、ここにアイツが来ないって言う情報から考えた推測だけど……
初めからおかしいと思ってたのよね、あれほど《幻想殺し》にこだわっていたあの子が、ここに私を差し向けたりして」
美琴「《幻想創造》の本当の理由……ソレは、自分の師を倒し、さらなる高みへと至ること……
そして、自分を捨てた《幻想殺し》への――
――復讐よ」
現在の時刻は20時45分。
セブンス・マートの《半値印証時刻》まで、あと15分。
190 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 18:54:47.24 ID:cYnn0Joo
清潔感を漂わせる無機質な白壁になぞられた緑を基調とした模様が、初夏の山々がごとく稜線を描く。
陳列された色鮮やかなパック飲料がそこに彩りを加え、乱れなく整えられた腿肉のパックが無機質な背景に躍動感を与えていた。
並ぶ乾麺のパッケージは視覚を楽しませ、惣菜売り場から漂う油の匂いが食欲を刺激する。
スーパーだ。
セブンスギア
第七学区の東に位置するスーパーマーケット『 7thーG 』。
かつて《四竜》として半額弁当争奪戦で名を馳せた、四人の老人が経営するスーパーだ。
そのお菓子売り場でコアラのマーチに熱い視線を注ぐ少女がいた。
長い黒髪の前部を花型のヘアピンでまとめ、平凡な紺のセーラー服を纏った中学生くらいの少女。
佐天だ。
佐天はコアラのマーチから視線を逸らさぬまま、ただじっと立ち尽くしていた。
……もうすぐ、始まるんだよね。
彼女は今、第七学区全体を巻き込んだ『西』と『東』の戦争の渦中にいた。
192 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:08:04.96 ID:cYnn0Joo
……私はまだ、未熟だ。
勝てないかも知れない。
期待に応えられないかも知れない。
思考し、佐天はその思いを払うように頭を振る。
それでも私は全力で闘うだけだ、と。
カゴも持たず、商品を手にとる事すらしない彼女を避けるように、数人の子供たちが脇を駆けていった。
と、その子供特有の軽い足音に、ひとつだけ重いものがあるのに気づく。
顔を上げぬまま、佐天は視線だけをそちらに向ける。
天井から射す蛍光灯の光を背に受け浮かぶのは、ツンツン頭の少年のシルエットだ。
一歩ずつ近づいてくるその影を、彼女は知っていた。
佐天「上条……さん?」
答えること無く影は――上条当麻は佐天の横に立つと、同じようにトッポへ視線を注ぐ。
彼女と違い視線をやらぬまま、彼が口を開く。
上条「何驚いてるんだよ。お前が呼んだんだろ、涙子」
193 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:17:44.77 ID:cYnn0Joo
佐天「本当に来てくれるなんて、思ってなかったです。白井さんに伝えた情報だけでよく分かりましたね。
場所も言ってなかったのに」
上条「そもそもおかしいんだよ。戦争が起こるって事をあの時点で教えたって、何の意味もないだろうに。
領土戦は基本、双方の合意を持って行われる。奇襲なんてそもそも成立しないんだから、
アレはその内こちらの知ることとなる情報だったんだ。それならアレは、挑戦状以外の何物でもねぇよ」
佐天「あはは、いつも鈍感なのに、そういう所ばっかり鋭いんだから……」
沈黙が落ちる。
どこかで扉が開く音が聞こえた。
すぐに商品を整理する音が続く。
佐天「何で……来たんですか」
上条「戦争を止めるためだ」
ぶっきらぼうに、上条が答えた。
194 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:28:11.55 ID:cYnn0Joo
佐天「……ありがとう……ございます」
上条「別に、感謝されるような事はしてねぇっつーの」
商品整理の音は次第にパックと商品台が擦れ、鳴らす物に変わる。
そこへ重なるようにキュッキュと、マジックがビニールの上を走る音が加わった。
上条「何で、こんな事をしたんだよ」
佐天「力が……欲しかったんです」
上条「力?」
佐天「私ってば無能力者ですから、せめてスーパーでだけは、超能力者に負けたくなかった」
上条「だからって!」
佐天「教えてくれたのは上条さんですよ。ここでは腹の虫の加護だけが本物だって。レベルや能力なんて、全部幻想だって」
上条「…………」
佐天「だから私は、この第七学区を手中に収め、さらには学園都市を統一し、最強となる!」
佐天「そのために、私は貴方を超えなければならない!」
195 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:33:58.23 ID:F2l28uk0
何…だと?
196 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:37:08.07 ID:cYnn0Joo
コツコツと、磨かれた床を叩く音。
半額神が役目を終えて歩みだしたのだ。
佐天「目的のために、私は手段を選びません」
その言葉に呼応して、複数の気配が湧出した。
上条は囲まれた事を悟る。
だが、
上条「関係ねぇな、そんな事」
ドアが開く。
上条「御託は終わりか? ならそのふざけた幻想ごと、お前の野望をぶち殺す!」
半額神が、一礼をする間。
一瞬の――静寂。
それを、二つの咆哮が引き裂いた。
イマジンブレイカー
佐天「私の幻想に喰われて眠れ! 《 幻想殺し 》!」
イマジンクリエイト
上条「俺の右手に打ち砕かれろ! 《 幻想創造 》!」
そして、扉が閉じた。
現在の時刻は21時00分。
セブンス・マート及び、7th-Gにて《半額弁当争奪戦》開始。
198 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:40:13.72 ID:u9WnQloo
佐天さんが…だと…
200 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:49:28.83 ID:cYnn0Joo
黒子「くっ……! 残る弁当はあと一つですの!?」
この日、セブンス・マートで半額となった弁当の数は3つ。
内2つは既にレジへと運ばれている。
一つは、美琴が指揮する《魑魅魍狼》によって。
一つは、乱戦の中不意打ちのように飛び出した茶髪の手によって。
残り一つ。
『勝利者は肉を食らうもの、弱者の肉を……な ――弱肉強食・焼肉定食!』を手に入れた陣営が勝者!
しかし、
黒子(見えませんの……勝利が!)
猛攻。
怒涛のラッシュ。
まるで空気抵抗を感じさせない速度で振り下ろされるカゴに、黒子は防戦を強いられていた。
201 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:54:20.91 ID:cYnn0Joo
打ち付け、打ち払い、薙ぎ、引き倒す。
買い物カゴは武器としては特殊な形状をしている。
かなり扱いにくいが、上手く使えばあらゆる使い方のできる万能の武器だ。
例えば底面。
これは美琴の二つ名の由来として言われるように《槌》として振るう事ができるが、それだけではない。
適度にたわむプラスチックのカゴは、相手の打撃を受け止め、吸収する盾ともなる。
次に上面。
これを門の字型に上から振るえば、相手を引き倒す鉤爪となる。
さらには相手に被せ、視界を奪うのにも有効だ。
そして持ち手。
接合部がヒンジとなっている持ち手は腕の振りとは異なる動きをし、相手に襲いかかる鞭だ。
そして不用意に放たれた相手の拳を通せば、その腕を絡めとることも出来る。
まさに攻防一体。
まだカゴの使い手との戦闘経験の浅い黒子にとって、美琴は荷が勝ちすぎている相手と言えた。
203 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:57:44.40 ID:cYnn0Joo
黒子「だからと言って、負けるわけには!」
いきませんの。
吠える。
停滞した攻防を嫌がったのか、美琴が強めに振り下ろしたカゴに両指を絡め、黒子はソレを受け止めた。
そう。カゴの弱点の一つはその網にあった。
穴の多さ故、そこに指を掛けるだけで簡単にホールド出来てしまうのだ。
しかし、
美琴「その程度の弱点、対策してないとでも思ったの!?」
回転。
側面の取っ手を握っていた腕を、強引に回転させる。
そうなると、穴に指をかけていた黒子の腕はねじ上げられるようになる。
持ちやすい事が仇となり、黒子の指はカゴから離す事が出来ず、されるがままだ。
黒子「――っつ!」
カゴが指に食い込み、跡を残す。
たまらず黒子はもがくようにカゴから手を離そうとする。
204 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/05/28(金) 19:59:52.90 ID:cYnn0Joo
美琴「逃がさないわよ!」
カゴに捻り上げられ、黒子は動けない。
そこへ、衝撃。
動きを封じたところへの、腰の入った蹴り。
斜め――45°!
黒子「かはっ――!」
地面へ叩きつけられる。
衝撃で指はカゴから離れていたが、呼吸すらままならず、黒子は立ち上がれない。
美琴「トドメ!」
持ち直し、両手振り下ろす。
黒子は迫り来るカゴの底面を見上げ、しかし動けない。
お姉さまにやられるのでしたら、わたくしは――
本望。
そう思いかけ、しかし、その時は来なかった。
飛んでいる。
そう思った。
見えるのは迫るスーパーの天井。
そして隣には、
黒子「結標さん!?」
結標「苦戦しているようね」
歴戦の《古狼》は不敵に笑い、牙を剥いた。
216 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:29:48.42 ID:ocx/fEIo
着地し、黒子を降ろす。
結標は美琴に対峙し、構える。
にらみ合い、間合いを測るようにしながら、結標は数時間前の事を思い出した。
上条『結標、お前にセブンス・マートの防衛を頼みたい』
結標が着信を受けると、開口早々彼はそう言った。
結標「あら、貴方の縄張りなんだから、貴方が戦うべきではないの?」
上条『どうしても、やらなくちゃいけない事があるんだ……』
結標「貴方、《幻想創造》の所へ行く気ね」
上条『…………』
沈黙。
それは後ろめたさ故か、決意の現れか。
ともかく、それが雄弁に肯定を語っているのは確かだ。
結標は一つ、溜息をつく。
結標「どうして、私なの?」
上条「お前があいつらの中で、一番強いからだ」
答えに、結標は軽い失望を抱いた。
どうせならそこは――
結標(私を信頼しているからと、そう言って欲しかったわね)
218 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:35:12.55 ID:ocx/fEIo
結標の思いも知らず、上条は続ける。
上条『経験だけならお前の方が俺より長い。最近の争奪戦でブランクも解消されてるハズだしな』
結標「……分かったわ。好きになさい」
上条『ありがとう。お前なら安心だ。信じてるぜ、結標』
出し抜けに放たれた望む答えに、結標がピクリと反応する。
全く、この男は本当に鈍感だ。
だから、
結標(少しだけ、意地悪をしてやりましょう)
結標「その代わり」
と、前置きし、結標は一つの条件を出した。
彼は少し驚いたように間をおくと、それを了承し、電話を切る。
通話後、結標の頬にはひとつの表情があった。
笑み。
結標「うふふ、私を出し抜いたつもりかもしれないけれど、そうは行かないと言うこと、教えてあげるわ」
呟き、隣で同じように彼を待っている少女を見やったのだった。
219 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:40:44.38 ID:ocx/fEIo
思考を終え、彼女は眼前の敵へと意識を戻す。
黒子を圧倒していた様に見えたが、カゴを片手に提げた少女は荒い息をついている。
それなりに、ダメージは与えていたようだ。
美琴「アンタには《魑魅魍狼》をけしかけたハズだったけど……まさかあの数の狼をもう片付けたって言うの?」
結標「それは聞くまでもないでしょう? 私が貴女の前に立ち塞がっている時点でね」
美琴「………」
警戒するように、美琴がカゴを構えた。
対し、黒子と結標も構えをとる。
黒子「結標さんは弁当へ向かって下さいまし。お姉さまのお相手は私が致しますの」
結標「あら、手も足も出なかった癖に、言うわね」
黒子「うっ……」
結標「それに、私も雑魚とは言えあれだけ戦って消耗しているの。手伝ってくれるかしら?」
黒子「ふふ、分かりましたの」
笑い、黒子が跳んだ。
一直線に向かうのは眼前の少女。
220 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:45:39.09 ID:ocx/fEIo
美琴「あれだけやられて、未だ分からないの!?」
振り下ろされる。
どれだけ速度を出そうが、黒子の動きは完全に読まれていた。
炸裂――するかと思われた戦槌は、しかし空を切る。
美琴「っ!? 直前に横へ跳んで!?」
完全にバランスを崩した美琴に襲いかかるのは、黒子の後ろについていた結標の拳。
美琴「くっ!」
カゴから手を離し、防御。
重たい一撃に、美琴の体が数歩下がる。
黒子「終わりではありませんのよ!」
戻ってきた黒子の蹴りを捌く。しかしそれは牽制だ。すかさず結標の攻撃が重ねられる。
後退。そこへ打撃。
防御。そこへ崩し。
再度後退。しかし攻撃は止まない。
221 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:51:55.05 ID:ocx/fEIo
追い詰めている。
黒子は結標とのコンビネーションに勝機を感じていた。
カゴを手放した今の美琴なら、二人で十分圧倒できる。
しかし、黒子の思考に反し、結標は気づく。
美琴の後退方向がある場所を目指している事に。
黒子「止めですの!」
結標「!? 待って! この方向は!」
叫ぶ。が、
美琴「もう遅いっ!」
飛び上がり、直上からの蹴り下ろしを放った黒子に、回避不能の一撃が叩き込まれようとする。
黒子(そんなっ!? 今までの後退はそのための!?)
直撃。
美琴が手放したはずのカゴが、抉るように黒子の脇腹へ突き刺さる。
骨格がひしゃげ、悲鳴を上げるような音を聞きながら、黒子が鮮魚コーナーの什器に叩きつけられた。
美琴「カゴ置き場への、逃走ルートよ」
再び握られる《雷神の槌》。
さらに今度は、
結標「二振り――!?」
美琴「《雷神の双槌》 それじゃ――天罰を下しましょうか」
222 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 15:59:15.06 ID:ocx/fEIo
そこからは一方的な展開だった。
乱打。
嵐のごとく振るわれる双槌を受けるので結標はいっぱいいっぱいだった。
結標「くっ……」
美琴「いつまで耐えられるかしらねぇ?」
いつ終わるともしれないカゴの暴風に、しかし結標の心は折れていなかった。
結標(なんとか、反撃の糸口を……)
思い、乱撃を防ぎながら結標は攻撃の軌道を見極める。
こうしたラッシュはテンポが重要だ。
その為、続けば続くほど攻撃は規則性を持ってくる。
耐え、
防ぎ、
堪え、
結標(見つけた――!)
捻じ込む。
223 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:10:50.33 ID:ocx/fEIo
右から振り下ろされるカゴに合わせるようにして左へ。
左から叩きつけられるカゴを潜るようにして前へ。
バックハンドで戻ってくる左を躱して下へ。
次の右は薙ぐように振るわれる。だからさらに下へ。
そこで捻じ込む。
美琴「――!?」
結標「通れ……っ」
身を縮め、伸び上がるようにアッパーを放つ!
結標「通れ!」
しかし――
美琴「かかったわね」
――しかし、それも誘導!
レベル5の高速演算が可能とする、正確な先読みッ!
224 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:26:27.66 ID:ocx/fEIo
ハンマーコネクト
美琴「《双槌連結》ッ!」
身を伸ばし初め、力のベクトルを定めてしまった結標に、回避は不能。
振り上げた両槌を、美琴は重ねる。
現れるのは、両手持ちの重槌。
ゴルディオン・ハンマー
美琴「《雷神王天罰槌》ァァァァァァァ!!!」
轟と、空間がたわむ。
迫り来る大質量を、結標は
結標(通す!)
構わず、放つ。
衝突。
次いで、衝撃。
結標の拳が、重槌を受け止め、押し返す――かに見えた。
美琴「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
均衡が崩壊する。
途方もない圧力が、雷のように結標を襲った。
227 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 16:52:40.73 ID:2UlZEWIo
買い物籠すげぇ
229 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:16:08.64 ID:.pgDFfw0
>黒子が鮮魚コーナーの什器に叩きつけられた。
笑う所じゃないのに吹いたww
230 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:19:29.60 ID:ocx/fEIo
黒子は朦朧とした意識の中、結標が倒れるのを見た。
連結を解除し、結標を見下ろして何か呟くと、美琴は弁当コーナーへ歩き出す。
向かう狼は居ない。
誰もが《魑魅魍狼》との戦いで手一杯だ。
ならば、
黒子(わたくしが、行かなくては)
思いに反し、身体は動かない。
身体は、すぐにでも意識を手放そうとしている。
黒子(動いてくださいまし、わたくしの身体)
もがく黒子をもはや気にする事無く、美琴はゆっくりと歩を進めていく。
黒子(わたくしは……守ることができませんの?)
失う。
美琴が半額弁当を掴むと言う事は、あの人との思い出の場所を失うという事だ。
黒子(それは……嫌ですの)
ならば、
黒子(抗うしか、ありませんの)
231 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:25:26.15 ID:ocx/fEIo
思うのは、ちらりと見た焼肉弁当の事だ。
たっぷりの白米に、こってりとしたタレがかかった牛肉。
つけあわせの焼きシシトウのピリっとした辛みを想像し、黒子の口内によだれが滲む。
あぁ、あの白米にタレを染み込ませ、肉と一緒に噛みしめられたら、どれだけ幸せだろう。
ドクンと、心臓が脈打つ。
血液は体中を巡り、力なく萎んでいた胃にも血を送る。
急速に膨らむ胃が空気を吸い込み、空である事に抗議の音を鳴らした。
黒子(腹の虫が……騒いでいますの)
黒子は飢餓感を堪え、しかし微笑む。
まるで孕んだ子を慈しむ母のように腹を撫でると、思い切って四肢に力を込めた。
動く。
静かに胎動する腹の虫に呼応して、黒子の足が床を踏む。
そして、立った。
232 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:34:43.03 ID:ocx/fEIo
立ち上がる黒子に、美琴が振り向いた。
美琴「まだ立ち上がるかぁ…… ホント、アンタのしつこさにはうんざりするわ」
黒子「わたくしは、そう簡単に大切なものを諦められるほど、物わかりが良くありませんので」
睨み合う。
美琴「来なさい、《変態》さん」
ジャッジメント
黒子「《風紀委員》ですの!」
駆けた。
そして、
黒子(ぶつかる!)
高速で衝突した2つの影が、中間点で拮抗する。
黒子の右拳を美琴が左手のカゴで受け、
美琴の片槌を黒子が左の掌底で止める。
233 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:41:41.85 ID:ocx/fEIo
ぐ、と美琴がカゴを押し込んだ。
黒子はそれを利用するように引き寄せ、蹴りを打ち込む。
バックステップでそれを避け、美琴が再び跳びかかった。
振り下ろされる両槌を捌き、逸らし、拳を放つ。
しかしそれも返すカゴで受け止められる。
絡めとった黒子の拳を引き寄せ、交差法気味に残ったカゴを叩きつける。
それを黒子が受け止める。
攻防は加速する。
結標を破った美琴の読みに、黒子が追ていく。
否、それは読みではなく経験。
長い間二人で過ごしてきた歴史。
彼女たちは今、経験に則った勘のみで攻防を続けている。
それはまるで、信頼にも似ていた。
お姉さまならこう打てば、こう返す。
黒子がこう放てば、私はこう捌く。
美琴のカゴを、黒子が跳びすさって避けた。
ジリ、と。互いに向かい合う。
235 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 17:58:00.97 ID:ocx/fEIo
限界が近づいてきていた。
お互いもう余力は少ない。
ならば、
黒子(次が、全力を懸けた最後の一合……)
す、と美琴が双槌を振り上げた。
美琴「《双槌連結》……」
カゴを重ねる。
それは《雷神王天罰槌》の構え。
対し、黒子も拳を握った。
静寂。
耳を刺すような静けさが狩場を支配する。
気付けばこの場に立っているのは黒子と美琴の二人だけだ。
残りの狼たちは力なくスーパーの床に身を横たえ、動かない。
ならばこれこそが決着。
次の交差で立っていた方が勝者。
236 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:03:51.20 ID:ocx/fEIo
美琴「これで最後よ。砕けて散りなさい、黒子」
黒子「その鉄槌で全てを砕けるとお思いならば、まずはその幻想をぶち殺して差し上げますの」
駆けた。
真っ直ぐな、愚直なまでの突撃。
回避は考えない。
防御はあり得ない。
全てを砕く鉄槌を、拳ひとつで打ちぬいて見せる。
《幻想殺し》が神の奇跡も打ち消すならば、その幻想の天罰も打ち破って見せる。
ここはセブンスマート。
ここが《幻想殺し》の縄張りならば、優先されるのは神の奇跡でも天罰でも無く、腹の虫の加護のみ!
踏み込み、放つ!
イマジンブレイカー
黒子「貫け!《 幻想殺し 》ァァァァァ!!」
ゴルディオン・ハンマー
美琴「叩き伏せろ!《雷神王天罰槌》ァァァァァ!!」
237 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:14:17.07 ID:ocx/fEIo
二つの力が再度ぶつかり、衝撃波を生む。
ジリジリと、黒子の腕が重槌を押し込む。
しかし、
美琴「光になれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
加速するように、槌が重くなった。
黒子(やはり、そうでしたのね!)
《雷神王天罰槌》その威力の源は、プラスチック繊維の反発力にある。
先述した通り、買い物カゴはたわむことで相手の攻撃を吸収し、受け止めることができる。
しかしそれはこちらが打撃したときにも言えること、どれだけ強く打ちつけてもインパクトの瞬間に、どうしても力が逃げてしまうのだ。
その弱点をカゴを二つ重ねることで底を補強し、全力をフルに伝えるのが《雷神王天罰槌》だ。
しかしそれでは打撃の反動がモロに返って来てしまう。
それを解決するために、美琴はインパクトの瞬間、握りを緩めるのだ。
それにより第一のカゴがたわみ、第二のカゴを持ち手を支点にして押し出す。
衝撃を吸収し、一瞬遅れて持ち手を握りこむ事により、第一のカゴのたわみを裏のカゴでたたき直す。
それが吸収した衝撃をも打ち返し、さらに強力な一撃を生む。
二段重ねの、最強の一撃。
それ故に一瞬、相手は押し込むような感覚を得るのだ。
238 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:26:47.98 ID:ocx/fEIo
黒子(そう、ならば――)
全力が来る。
その瞬間、黒子が左の拳を握った。
黒子(ならば、第二のインパクトが来た瞬間こそが勝機!)
その状態ならばもうカゴはたわまない。
つまり、
黒子(こちらの衝撃を、直に叩き込む事ができる!)
そして、来た。
耐える。
押し込まれそうになる。
だが、そうはさせない。
黒子「うおおおおおおおおおおお!!! ですの!」
イマジンブレイカー
美琴「左手の――《 幻想殺し 》!?」
本命の直撃を押し切り、黒子が第二の拳を放つ。
黒子「いっけぇぇぇぇぇぇ!!!」
放った。
240 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:33:37.47 ID:ocx/fEIo
轟音だった。
静寂のスーパーを轟音が揺るがした。
宙を舞うのは二つのカゴと、その持ち主。
御坂美琴が、スーパーの狭い空を舞っていた。
美琴「かっ……はぁっ……!」
どさりと、美琴が床に落ちる。
遅れて、買い物カゴが床を跳ねた。
黒子「はぁ……はぁ……」
荒い息を付き、拳を振り抜いたままの姿勢で、白井黒子は止まっていた。
勝った。
自分は勝ったのだ。
思った瞬間、急速に力が抜けていくのが分かる。
予想以上に重い攻撃に、余力を使いきってしまったのだ。
241 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:40:11.88 ID:ocx/fEIo
黒子(後は……弁当を手にするだけですのに)
耐えられず、足が崩れる感覚を得た。
美琴と同じように、床へ倒れた。
黒子「なぜ……何故動いてくれませんの……!?」
涙が溢れる。
不甲斐ない自分が悔しくてしょうがない。
自分は、愛する人を倒してまで、半額弁当を求めたと言うのに……
美琴「ねぇ、黒子」
す、と黒子の頬に手を添える者がいた。
美琴だ。
黒子「お姉……さま」
美琴「楽しかったねぇ、黒子。やっぱり半額弁当争奪戦は、楽しくないと……いけないねぇ」
隣で倒れ伏す美琴が、同じように涙を流しながら、呟くように呼びかける。
242 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:44:23.00 ID:ocx/fEIo
美琴「私ね、本当はアイツに倒されるつもりで来たの……」
黒子「それは……」
美琴「倒されたら、そのまま半額弁当争奪戦を引退するつもりだった」
でも、
美琴「アイツ、居ないんだものねぇ。だから今度は、アイツの居場所を壊してやろうと思ったの」
黒子「それで、あんな事を……」
美琴「ごめんね、辛かったよね」
目を伏せ、悔いるように涙をこぼす。
美琴「でも、黒子や結標と戦ってる間、すごく楽しかった。初めて争奪戦の事を知った時みたいに、全力で戦えた。私はまだここに居ていいんだって思えた」
黒子「…………」
243 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 18:49:40.55 ID:ocx/fEIo
美琴「勝ちたいと、そう思えたの。でも、負けちゃった……」
だから、
美琴「立って、黒子。半額弁当を手にするのは、貴女なんだから」
黒子「お姉さま……」
歯をくいしばる。
涙をぬぐい、足に力を込める。
立った。
黒子が立った。
しかし、それすらも全力だ。
今にも倒れそうな足取りで黒子は徐々に弁当コーナーへと近づき、そして、ワゴンの淵に手をかける。
手を伸ばす。
ビニールパックされたパッケージに触れる。
キュと音をたてる弁当を撫で、
黒子「お腹が……空きましたの」
掴んだ。
黒子「やりましたの……わたくし、やりましたわお姉さま」
掴んだ弁当を掲げるようにして、振り向く。
愛する人へ、打ち倒した敵へ、勝利を告げるため。
黒子「おねえ……さま?」
だがそこに、御坂美琴の姿は無かった。
246 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/01(火) 19:21:49.55 ID:b7fWdEAO
買い物カゴの奥が深すぎて、今度手に取る時にカゴを一撫でしてしまいそう
250 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/02(水) 17:15:39.86 ID:BgZhbYAO
いずれ買い物カゴが厨二武器と呼ばれる時も近いな、こりゃ
252 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:27:15.12 ID:D8RmmnAo
御坂美琴は夜の街を歩く。
疲労で動かない足をひきずり、纏まらない思考で演算も出来ず、何の力もない無能力者のように這いずっていた。
全身を襲う痛みから意識を逸らすように、御坂美琴はただ思う。
初めは好奇心だった。
好奇心から立ち寄った、寮の近くのスーパー。
そこは箱庭育ちのお嬢様にとって、見たことも無い異界だった。
そこで彼女は半額弁当、そして《狼》と出逢う。
好奇心から立ち寄ったスーパー。
好奇心から手を伸ばした半額弁当。
ネ コ
そして好奇心は、容易く『超能力者』を殺す。
気付けば彼女は宙を舞っていた。
能力を使えば容易く得られる浮遊感を、彼女は暴力により得ていた。
それが彼女の、初めての敗北の記憶。
スーパーにおいては無敵のレベル5すら赤子同然に扱う《狼》達に惹かれ、彼女はこの世界に足を踏み入れたのだ。
253 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:30:42.45 ID:D8RmmnAo
そんな彼女を導いたのこそ、彼女の友人である佐天涙子――《幻想創造》だった。
佐天は美琴に知識を与え、技を授け、誇りを説いた。
美琴はそれを吸収し、理解し、身につけた。
彼女が二つ名持ちになるまで、時間はそうかからなかった。
半額弁当争奪戦は楽しかった。
毎夜訪れる《半値印証時刻》が、彼女の生きがいだった。
超能力者である彼女にとって、
すでに『辿り着いてしまった』彼女にとって、
まだ見えぬ《狼》の頂は目指さずにはいられないものだった。
だから、学園都市を統一するという佐天の言葉は、彼女にとって福音であり、そして宣託だ。
《幻想創造》の命ずるがままに東の《狼》達に挑み、倒し、奪う。
それは争奪戦であり、争奪戦では無かった。
彼女が求めた、
彼女が愛した争奪戦では無かったのだ。
美琴は悔み、嘆いた。
しかし気付けば、己が作り上げた流れは、止めることの出来ない瀑布となって戦争へと流れ落ちていく。
254 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:35:24.68 ID:D8RmmnAo
だから、贖罪だったのだ。
この一戦……
セブンス・マートにおける決戦は、彼女なりの懺悔だった。
《幻想殺し》に打ち破られ、その後佐天を倒すよう焚きつける事こそ、自分の使命だと思っていた。
だが、《幻想創造》はそんな簡単な幻想を生み出すことを許さなかった。
美琴「だから、黒子を煽った」
ジャッジメント
裁いて欲しかったのだ。己を、 審判員 である彼女に。
そして、目的は果たされた。
果たされた、はずなのに。
美琴「なんで私は、こうも未練がましくあの子の元へ向かっているのかしらね」
255 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:38:55.55 ID:D8RmmnAo
震える足を前へ、前へ。
走ることすらままならず、彼女はただ歩き続ける。
こうして歩くことに何の意味があるだろう。
こうして向かうことで得るものとはなんだろう。
分からない。
行ってもいいのだろうか。
あの子の元へ、駆けつけてもいいのだろうか。
私は未だ――
結標「《狼》と名乗って、いいのだろうか? って所かしら?」
美琴「!?」
朦朧とした視界に映ったのは、肩からブレザーを羽織り、サラシを巻いた少女。
結標淡希。
結標「気に入らないわね。この私に勝っておいて、元々負けるつもりだったって言うの?」
256 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:43:35.06 ID:D8RmmnAo
どうやら思考は呟きとして漏れていたらしい。
不機嫌そうな彼女の台詞に、美琴は言葉を重ねる。
美琴「負ける気なんて無かったわ。本気で闘うからこそ意味があったのだから。完敗よ、あの子には」
結標「やっぱり、気に入らない」
美琴「…………」
結標「貴女、まだ夕食を食べていないでしょう?」
言う結標の表情は、いつもの皮肉めいた笑みではなく、優しい微笑み。
結標「なんだかごちゃごちゃと言い訳を重ねてるみたいだったけれど、スーパーに向かう理由なんて、一つで十分なのよ」
美琴「でも私は、東の狼で……」
結標「私は、西の狼。だから何? 戦争?そんな物は貴女の造物主が勝手に言ってる事でしょうが。私にはなんの関係もないわ」
美琴「でもっ!」
258 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/07(月) 22:46:54.71 ID:D8RmmnAo
結標「じゃあこういう事にしましょう。貴女達は少し反省が必要だわ」
だから、
結標「行って、あの人に説教受けてきなさい。それこそが、貴女の贖罪」
言い、結標はホルスターから軍用ライトを引き抜き、手の内でクルクルと回すと美琴へ向ける。
結標「全ては、腹の虫が命ずるままに…… 食べてきなさい。勝利の一味を」
す――と、結標がライトを振ったそこに、もう美琴の姿はない。
行ったのだ、己の罪を贖うために。
初めは好奇心だった。
次に懺悔となり、
最後は贖罪だった。
ライトを仕舞い、結標は傷だらけの身体をビルの壁へと預ける。
見据えるのは第七学区の東、7th-G 。
困ったように溜息を吐き、結標は呟く。
結標「見てらんないのよね、貴女みたいな子」
現在の時刻は21時30分。
7th-Gで戦闘が開始されてから、30分が経過していた。
270 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:49:25.89 ID:dm6Eh5Eo
佐天「ぐ……さすが上条さん、一筋縄ではいかないか……」
右腕を庇うように、佐天は上条と距離をとる。
戦闘開始から30分。すでに《魑魅魍狼》達は全滅、佐天自身も少なからず疲弊していた。
初めは優勢だった。
《魑魅魍狼》による牽制、妨害。そこに東区最強の《幻想創造》の力が加われば、たとえ《幻想殺し》だろうと圧倒出来る……ハズだった。
しかし弁当コーナーへ近づいた瞬間、形勢は逆転する。
《魑魅魍狼》に事前に弁当を買わせる事で残り一つとなった弁当――
『・――力は無限となる。 四川風激辛スタミナ炒飯』――を視界に入れた上条の攻撃翌力が突如上昇、佐天達を襲った。
一瞬にして《魑魅魍狼》は全滅、佐天も弁当コーナーを死守するので精一杯だった。
肩で息をつき佐天は相手を睨む。
ゆっくりと歩いてくるのは、自分の敵。
倒さなくてはならない、最強の敵。
ごくりと、無意識のうちに唾を飲む。
そして、
佐天「負けない!」
駆けた。
271 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:53:55.05 ID:dm6Eh5Eo
《幻想創造》の戦い方は、どちらかというと黒子に近い。
彼女は自分に力がないことを分かっていた。
だから、
佐天(技とスピードで戦う!)
背後に回り込み、連打。
しかしダメージは薄い。
右から振り向きざまに放たれる裏拳を回転に合わせるように左へのステップで回避。同時に回り込む。
再度背後に回ると、今度は足を狙う。
素早く、しかし振り抜くスピードでくるぶしを薙ぐ。
若干バランスを崩した上条に、こちらは姿勢を整えると、肩を入れたタックルをぶちかます。
揺れる。
不動のように見えた上条に隙ができた瞬間だった。
その隙にねじ込むように、佐天は渾身のラッシュを放った。
肩、腰、背、首、後頭部。
肉と骨を打つ音が響き、さらにその上に重なるようにして響き、鳴り止まぬうちにまた響き。
高速のあまり繋がるように聞こえる打撃音が、しかしはっきりとリズムを作る
272 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:55:14.59 ID:dm6Eh5Eo
佐天「まだまだ!」
加速する。
つながったまま、テンポが早くなる。
ど、で始まる衝撃音が絶え間なく続く。
無限に続くかと思われたラッシュ。が、
上条「効かねぇよ」
弩、と、これまでとは比較にならない音。
分厚い鉄板を鋼鉄のハンマーで殴りつけたかのような音が響く。
同時、佐天が左後方の地面に叩きつけられていた。
上条が右上方から打った拳が、佐天の頭蓋を打撃したのだ。
佐天「かっは……」
叩きつけられ、しかし立ち上がれない。
敗北。
その二文字が佐天の脳裏を走る。
佐天「嫌だ……嫌ですよ、そんなの」
273 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:56:14.57 ID:dm6Eh5Eo
上条「なら立て。言っとくが俺の腹の虫はこんなんじゃ収まらねぇぞ」
言葉とは裏腹に、しかし佐天の四肢には力が入らなかった。
衝撃で、視界が揺れている。
意識も今にも飛びそうだ。
でも、
佐天「負けられない……私は最強になるんだ……貴方に勝って、最強に!」
上条「ならその幻想は、俺が 殺 す 」
その右手を、上条が振り上げる。
トドメだと、彼の表情が告げる。
振り下ろされた。
――上条へと、鉄槌が。
274 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:57:08.47 ID:dm6Eh5Eo
ゴルディオン・ハンマー
美琴「雷神王天罰槌ァァァ!」
撃音。
しかし、
上条「甘い技だ」
押し返された。
美琴の手から離れた買い物カゴがスーパーの宙を舞っていた。
美琴「そんなっ……」
間髪入れず、上条の拳が美琴を打つ。
床を転がり、しかし美琴が立ち上がった。
上条「今の攻撃を受けて立ちやがりますか」
美琴「伊達に《雷神》なんて名乗ってないわよ!」
上条「……やっぱり、《トール》ってのはお前の事だったんだな」
美琴「佐天さんから離れなさい!」
佐天「御坂……さん」
275 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:57:54.42 ID:dm6Eh5Eo
動けぬまま、佐天がつぶやく。
言いたいことはあった。
セブンスマートでの戦いはどうなったのか。
どうしてこの戦いに間に合ったのか。
そもそも何故来たのか。
何故、私のために、立ち向かってくれるのか。
だから、佐天は問いを放つ。
佐天「何で、来たんですか」
美琴「私、まだ晩御飯食べてないのよね」
ニヤリと、不敵に笑んで美琴が駆けた。
美琴の手に、今やカゴは無い。
だが、打撃はあった。
ひたすら連撃を放つ美琴から声が飛ぶ。
美琴「立って、佐天さん!」
276 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:58:23.47 ID:dm6Eh5Eo
しかしその全てを、上条が綺麗に捌き、受け流す。
美琴「佐天さんもまだ晩御飯食べて無いでしょ!」
言われ、佐天は自分が空腹であることを思い出す。
美琴「食べましょう! こいつに勝って、晩御飯を一緒に食べようよ!」
カウンター気味の拳が美琴の頬を掠める。
美琴「力なんてどうでもいい! 強さなんていらない!」
上条の拳を避け、美琴が足払いをかける。しかし身を落としてインファイトを決め込んだ上条には通用しない。
美琴「私は今弁当が欲しい! 半額弁当が欲しい!」
隙を生んだ美琴に上条の拳が突き刺さる。それでも美琴は怯まずに打つ。
美琴「勝って、勝利の一味の入った弁当を! 究極の料理を!」
拳を形作り、美琴が放った。
美琴「食べたい!」
277 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 13:59:56.59 ID:dm6Eh5Eo
衝撃。
上条の体が、一瞬浮く。
上条「な……に……!?」
追いかけ、回し蹴り。上条の体が今度こそ宙に浮いた。
美琴「だから――だから立って! 佐天さん!」
掌底。
踏ん張る事が出来ない上条が、ついに吹き飛ばされた。
上条「くっ……!」
空中で体を捻り、上条がバランスを崩しつつも着地する。
たたらを踏み、しかし体が傾ぐ。
上条「なんて威力だよ」
美琴「本当の《幻想創造》は、私の比じゃないわよ」
佐天はその攻防を見て、思考する。
私が《狼》となったのは、何時だっただろうか。
半額弁当ではなく、戦いのみを求めるようになったのは何時からだったか。
強さに執着するようになったのは、どれほど前だろう。
少なくとも、半額弁当の味を忘れたのは、大分前の事だったように思う。
278 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 14:00:44.93 ID:dm6Eh5Eo
食べたい。
あの味を、久しぶりに味わいたい。
口内に涎が湧く。
ひりつくように喉が乾く。
際限なくあふれる唾を飲んでも喉は潤わない。腹は満たされない。
空腹が胃を刺激する。
眠っていた腹の虫が目覚める。
そして、咆哮を上げた。
ぐぅ。
頼りない音だ。
そう聞こえるだろう。
だが、
佐天(私には、狼の遠吠えに聞こえる)
だから啼いた。
否、吠えた。
喉が枯れるまで。
胃液が、果てるまで。
279 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 14:01:13.27 ID:dm6Eh5Eo
ビリビリと、胃が震える。
腹の虫の咆哮が、体を震わす。
四肢に力がみなぎる。
足が地面を噛み、背は堂々と反った。
立った。
佐天「お腹が空きましたね、御坂さん」
美琴「もうペコペコよ」
顔を見合わせ、笑う。
それはまるで、狼が牙を剥くようで。
佐天「行きますよ!」
美琴「ええ!」
駆けた。
287 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 21:50:57.50 ID:dm6Eh5Eo
◆
先手を打ったのは美琴だ。
落ちていた二つのカゴを拾い上げ、同時に叩きつける。
上条は右を避け、左を受け止める。
上条「軽いぜ!」
佐天「ならこれはどうですか!」
佐天の飛び蹴り。
カゴを受けて、ベタ足の上条は避けられない。
上条「チッ!」
舌打ち。
さらに腰を落とし、左肩で受けた。
骨と筋肉の軋む音。
だが、
上条「オラァ!」
288 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 21:56:44.99 ID:dm6Eh5Eo
着地前の足をつかみ、投げ飛ばす。
佐天は身を捩り、受身をとって再度突貫をかける。
美琴もカゴを引き戻して打撃。
上条「聞こえるぜ! お前らの腹の声!」
右拳を美琴へ、左拳を佐天へ。
別方向への二撃。
これを佐天は跳んで回避。
美琴は受け止め、ホールド。
上条「こんなモン!」
つかまれた右手を強引に振り、美琴を引きずり倒す。
美琴は背で地面を受け止め、しかし手をはなさない。
上条「くっ……!」
上空からの襲撃。
速度と重力を伴った佐天の蹴りが、上条の背に直撃する。
美琴「やった!?」
289 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:06:01.06 ID:dm6Eh5Eo
上条「やってねぇ!」
わざと吹き飛ばされるようにし、巴投げの要領で、
美琴「うわっ!?」
美琴を投げ飛ばした。
美琴がワゴンに叩きつけられる音を背に聞き、立ち上がる。
目標は着地した佐天。
佐天「来てみなさい!」
迎え撃つ佐天は、軽くステップを踏み。
佐天「想像してよ! 貴方が倒れる様を!」
上条「うおぉぉぉぉ!!」
全体重をかけた突進。そこへ握った右拳を、
上条「はァッ!」
振り抜く。
290 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:11:59.47 ID:dm6Eh5Eo
が、
上条「!? すり抜け!?」
佐天「想像力が足りませんよ! 上条さん!」
残像だ。
ぎりぎりまで引きつけた佐天の緊急回避。
そして、
佐天「伊達に何年も、自分の能力を妄想してません!」
佐天の、軽いフットワークから放つ重い連続回し蹴り!
イマジン・イマジネイション
佐天「想え! 《 幻 想 想 像 力 》」
決まる。
一撃目は足へ、二撃目は腰へ。
佐天「まだまだっ!」
独楽のように回る。
再度の二連撃。
次は勢いを増し、佐天の足がさらに上がった。
佐天「踊れぇッ!」
腹へ、側頭部へ、決まる。
291 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:23:17.09 ID:dm6Eh5Eo
上条「ぐっ……」
揺らぐ。
軽い脳震盪に冒された上条の体が傾ぐ。
だが、まだ倒れない。
美琴「私も忘れないでよね!」
そこへ走りこむのは美琴。その手には、
美琴「《雷神の槌》多重連結!」
吹き飛ばされた先、積んであった買い物カゴ、十数個!
もはや長大となった槌を両腕を広げ保持、叩きつける!
ゴルディオン・ストライク
美琴「《 雷神王の一撃 》ッッッ!」
衝撃。
店を震わす轟音が、響いた。
◆
ドサリと、ポテトチップスの袋が棚から落ちる。
カルビーではなく、コイケヤだ。
それを拾い、棚に戻すのは老人。
《四竜》の一人、四吉。
四吉「なかなか楽しい戦いでゴザルが――」
店内に流れるのは、終局の旋律。
蛍の光。
四吉「もう、終わりが近いでゴザルよ」
◆
292 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:29:50.83 ID:dm6Eh5Eo
カゴを担ぎ、立ち上がるのは美琴。
その横では、佐天が息をついていた。
佐天「やりました……よね?」
美琴「ええ、あれで立っていられるはず無いわ」
しかし、目を向けた先には、立ち上がる上条の姿。
佐天「なっ!?」
美琴「そん……な」
ゆらりと地を踏み、一歩を踏み出す。
まさに、幽鬼の如く。
上条「楽しいなぁ……お前らも楽しいだろ?」
更に一歩。
思わず佐天が後ずさる。
294 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:43:52.66 ID:dm6Eh5Eo
上条「やっぱさぁ、半額弁当争奪戦はこうでなくっちゃなぁ……」
ふらついてはいるが、しかしその足は床を噛み、離さない。
上条「腹、減ったなぁ。食いてぇなぁ、弁当」
奥歯を食い締めるのは、美琴だ。
もう自分たちに余力は残っていない。
負ける。
そう思った。
上条「お前らもさ、分かっただろ? 思い出しただろ? スーパーってのは、こんなに熱い場所何だぜ?」
更に一歩。
佐天と美琴は、もはや手の届く距離だ。
上条「だからさ、最強だとか、戦争だとか、そんな幻想捨てちまえよ」
上条が両腕を振り上げた。
ぎゅっと、美琴と佐天が目を閉じた。
上条「《狼》には、半額弁当さえあればいい。それでもお前らが強さを求めるってんなら――」
ぽんと、二人の肩に上条の手が置かれた。
佐天「えっ……?」
上条「まずはその幻想、俺がぶち殺 してやるよ」
295 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:49:02.63 ID:dm6Eh5Eo
パリンと、何かが砕ける音。
しかしその音も、物悲しい蛍の光の旋律にかき消される。
佐天「上条……さん?」
上条「へへっ……参った。降参だ。《幻想創造》それに《トール》」
上条「勝利の一味。俺の代わりに、存分に味わえ」
どさり、と上条が床に伏した。
呆然と、美琴と佐天はそれを見下ろす。
美琴「勝った……の?」
佐天「みたい……ですね」
じわりと、佐天の目尻に涙が浮かんだ。
ついに、やったのだ。
自分は師を超え、最強に――。
296 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 22:55:18.85 ID:dm6Eh5Eo
しかし、想像していたような歓喜は無い。
なんだか、心の奥に、ぽっかりと穴があいたような。
胃袋に、何も詰まっていないような。
佐天「お腹、すいたなぁ」
美琴「奇遇ね、私もそうよ」
お互い笑いあい。
佐天「なら!」
美琴「やることは一つ!」
構え、叫ぶ。
美琴「それじゃあ、最後の弁当を懸けて!」
佐天「忘れていた誇りを懸けて!」
そう、答えは一つ。
弁当も、一つ。
立っているのは、二人。
ならば――
美琴・佐天「いざ尋常に――勝負!」
激突した。
297 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:02:34.83 ID:dm6Eh5Eo
エピローグ
公園に、湯気が立つ。
それは温められた弁当と、お湯を入れたカップ麺が立てるもの。
パキリと、上条が割り箸を割った。
ペリリと、美琴がどん兵衛の蓋を剥がした。
カポッと、佐天が弁当の蓋を開けた。
同時、鼻の粘膜を刺激する匂いが、佐天の鼻腔を襲った。
それは、唐辛子の匂い。
目に沁みるような辛さが、口を付ける前から感じられる。
じわりと、無意識の内に涎が垂れた。
拭い、箸を持ち直す。
上条「それじゃ」
美琴「手をあわせて」
佐天「いただきます!」
喰らった。
298 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:05:12.41 ID:IurFTFE0
蛍の光が神すぎるwwww
299 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:07:09.97 ID:dm6Eh5Eo
一口。
同時、口内の唾が一瞬で蒸発した。
それほどの感覚を得る辛さが、佐天の口腔を蹂躙する。
思わず、一緒に買ったジュースへ手を伸ばす。
しかし、口にしようとした瞬間だった。
佐天「アレ……? 辛く、なくなってる?」
アレほどまでの刺激を与えた辛さが、口の中から完全に消失していた。
そして、辛さのあとに残るのは――
佐天(濃厚な、旨み……!)
これは、海老の濃厚なエキス……!
プリプリとした海老の食感が口の中で弾け、同時に軽く素揚げされた海老の中から旨みがドロリと溶け出す。
佐天(でも、これだけで辛味が軽減されるとは……)
思った瞬間だった。
プチリ、と、口の中で何かが爆ぜた。
その味は――
300 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:10:23.25 ID:dm6Eh5Eo
佐天(あ、甘い!?)
それは粒状の点心だ。
激辛のチャーハンの中に混ぜられた小粒のタピオカが口の中ではじけているのだ。
これが、辛味を抑える正体!?
激辛と甘み。
相反する二つの要素がぶつかり合い、一口目の火をふくような辛さと、後に来る清涼が如き甘みが、佐天の身体を震わせた。
佐天(美味しい……)
もっと、と、腹の虫が佐天を急かす。
辛さが跡を引き、海老だけではなく、脂っこい肉までもがつかれた身体にエネルギーを補充し、その脂っこさを青菜の苦味が引き締める。
食べれば食べるほど、佐天は次々にスプーンを動かした。
そして。
佐天「ご馳走様でした」
手を合わせ、祈る。
食材に、調理者に、そして腹の虫に。
明日も、こんなにおいしい料理が食べられますように、と。
301 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:12:58.68 ID:dm6Eh5Eo
上条「美味かったか?」
佐天「はい……すごく、美味しかった」
美琴「佐天さん、すごい食べっぷりだったわね」
佐天「えへへ、恥ずかしいですね、なんか」
上条「恥ずかしがる事ではないさ。誇りを懸け、命を賭して手に入れた弁当だ。がっつくのも無理はないって」
微笑む上条に、佐天は目を伏せ、問う。
佐天「こうして弁当を食べていると、実感します。私はやはり、間違っていたのだと」
美琴「佐天さん……」
上条「そんな事、無いさ」
え? と、佐天が上条を見つめる。
その表情は、驚きに満ちていて。
上条「だって、間違えていた奴が、あんなに楽しい戦い、出来るはず無いんだからさ」
にこりと、上条が笑みを深くする。
上条「お前は、俺を超えた。もう立派な、一人前の《狼》だ」
じわりと、佐天の目に涙が溜まる。
嗚咽が、喉からこぼれた。
佐天「がみじょう……ざんっ!」
302 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:14:38.94 ID:dm6Eh5Eo
上条「泣くなよ、涙子」
美琴「もう、佐天さんてば泣き虫なんだから」
言葉に、佐天は無理やり笑みを刻む。
そして、精一杯の声で。
佐天「はいっ!」
頷いた。
これは、己の誇りと空腹を懸けて戦う、狼達の物語。
そして、正しい強さを求める、若者達の物がt 黒子「ちょ、ちょっとお待ちになって!」
黒子「これで終わりですの!? わたくしは? わたくしの出番は?」
結標「いいでしょ、貴女は弁当取れたんだし。私は結局やられただけなんだから」
黒子「せ、せめて食事シーンだけでも! ほら、おいしいですの! 焼肉弁当チョー美味しい!」
結標「はいはい、私もどん兵衛 オン ザ コロッケが胃袋に染みるわぁ」
黒子「悲しみの味ですの……」
……出番を求める、若者達の物語。
黒子「半額弁当ですの!」 END
303 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:17:04.65 ID:S.DRs3so
おつ
いつも楽しいよ
304 名前:1:2010/06/12(土) 23:19:25.06 ID:dm6Eh5Eo
後半駆け足過ぎたかな?
でもこれが俺の限界なんだ……ゆるしてくれ。
ともかく、最後まで読んでくれたみなさんありがとうございます。そして、お疲れ様でした。
続編については特に考えて無いので、これが最後だと思ってくださって結構です。
もしかしたらまたスレを立てるかも知れませんが、その時はよろしくお願いします。
305 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:23:32.40 ID:1p9MR02o
乙
よみやすくて面白かった
306 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/12(土) 23:30:41.13 ID:5c5AhEk0
これが最後は実に惜しい。
というか、俺をとあるベン・トーの世界に引き込んだ責任として、ネタとヒマが出来次第続編をお願いしたい。とミサカモドキは懇願します。
316 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 01:08:23.52 ID:Tza/J1k0
/≦三三三三三ミト、 . ―― .
《 二二二二二フノ/`ヽ / \
| l  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ∨{ミvヘ / , !l ヽ
ト== ==彡 》=《:ヽ ′ ―‐ァ!l / ̄}
/≧ァ 7¨7: :ァ.┬‐くミV!ハ | (__ _ノ |
′: /: イ: /': :/ |:リ ヽ }i! : . | _j_ ツ |
i. /: il7エ:/ }:/ ≦仁ミ ト:.i|: i| | d __ 、、 |
|:i|: :l爪jカV′´八ツソ Vミ :l| | ノ - ノ |
|小f} ` , ´ ji }} : .{ { ┌. ー ´ }
}小 _ ,ムイ|: :∧ . |/ ヨ
//:込 └` /| : :i i : :.∧ 、 o ―┐!l /
/:小:i: :> . .イ _L__|:| :li {∧ \ __ノ /
. /′|从 :|l : i :爪/´. - 、 〈ト |ト:ト :'. / く
N V 「{´ / ヽ{ハ| `\ / ヽ
| }人ノ/ li V _.′贈 惜 と '
i´ } //} i′′ ハ 、| `ヽ. り し ミ !
{ { 〃ノ {l l! } : { } ま み サ |
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`¨¨` ー .、 ` < ` | `ト、 } ヽ を
}}\  ̄ `ヽ ト ソ \ /
327 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 12:11:28.72 ID:ttZw5y2o
俺の腹の虫も乙と言っている
328 名前:VIPにかわりましてGEPPERがお送りします:2010/06/13(日) 14:43:22.78 ID:uyYncCoo
乙でした
ほんとお腹の空くスレだwwww
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この記事へのコメント
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:20: :edit久しぶりにベン・トーか
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:25: :edit2ゲット
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:25: :editベン・トーと聞いて
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:26: :edit黒子のふとももにおにんにんはさみたいよぉ
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:27: :edit4なら俺が狼!!
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名前: #-: 2010/07/17(土) 22:36: :edit以下ゲッターイカ娘でゲソ!!
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:37: :editとーまのおにんにんふとももにはさみたいんだよ!
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:40: :edit8か?
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:41: :editひとけた!ですの
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 22:46: :editGガンとガオガイガーも混ざってんのな
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:00: :edit原作のネタ多いなwww
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:21: :editさぁ、値切るぜ!!!
間違えた、振り切るぜ!!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:24: :editあせびちゃんのふとももにおにんにんはさみたいよぉ
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:28: :edit※13
やめろ死ぬぞ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:32: :editこれで最後なんて嘘だろ・・・そんなのってねーよ・・・死にきれねーよ・・・!
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:40: :editクロニクルネタが見えた気が・・・
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名前: 通常のナナシ #tFlhzpKU: 2010/07/17(土) 23:43: :edit川上成分も多くなってきたな
こんな時間に読むもんじゃないな、夜食がほしくなってきた -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/17(土) 23:51: :editそろそろ一方さんや青ピあたりの男勢もでるか?
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名前: 名無しさん@ニュース2ちゃん #-: 2010/07/17(土) 23:51: :edit最近VIPに禁書スレ立たないから、ついに製速進出か・・・
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名前: #-: 2010/07/17(土) 23:53: :edit全裸の前で待ち合わせすんなww
7th-Gを選んだセンスも素晴らしい! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 00:02: :editまさかの四吉ww
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 00:25: :edit久々のベン・トーか…腹が減るぜ
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 00:55: :edit夢枕獏で吹いたw
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:02: :edit一方さん来ても、能力を過信しすぎて宙を舞う姿しか浮かばないんだが
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:07: :edit※13
あせびちゃんは渡さん
貴様には筋肉愛好家をさし上げよう
今ならバイバイもつけるぞ? -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:13: :editダンドーと猟犬群は小萌先生あたりに抑えてほしい
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:14: :edit※25
※13
やめとけお前ら死ぬぞ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:18: :edit俺…この戦争が終わったら…
あせびちゃんに告白するんだ… -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:27: :edit筋肉刑事のネタがあったのは良いね
原作見てるとより楽しめる、 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:40: :edit石岡君と内本君がまさかの女体化
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 01:42: :edit俺のコメントまで収録してくれてぷん太乙
と、ミサカモドキ大歓喜 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 02:44: :edit二重の極みか
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 03:31: :edit期待してた黒子×上条の絡みが少なくて悲しいよぉ
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 03:57: :editこのスレみたせいでどんべえ買ってきちまった・・・うめえ
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 04:20: :editスーパーバイトしてたことあるけど、まじ半額シール貼る時おばちゃん群りすぎ。
まじ邪魔だったわ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 08:27: :edit※35
豚は潰せ -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 09:26: :editまさかの勇者王ガオガイガー
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 11:04: :editキタキタキタ!!
待ってたんだぜ!!
やっぱおもしろ!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 12:35: :edit「「さぁ、お前の値引き商品を数えろ!!」」
「半額がお前のゴールだ・・・!」
「通りすがりの店員だ、覚えとけ!」 -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 12:55: :edit最初wii春が黒幕だと思って読んでたけど違った。
…ただの腐女子だった。 -
名前: #-: 2010/07/18(日) 13:47: :editなんでただの弁当に概念核がついてるんだよww
ああ『7th-G』ってそういうことですか -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 14:48: :editホライゾンネタがわかっただけで満足したw
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 15:05: :edit※28
どんだけ死にたいんだよww -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 15:20: :edit長門「ユニーク」
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名前: 七氏の巌窟王 #aYpzl2JE: 2010/07/18(日) 21:01: :edit続編キタ━━━━━━(゚∀゚)━━━━━━ !!!!!
と思ったら製速でやってたのか気付かんわけだ
このシリーズの黒子は可愛い+安定して面白いなあ。
ぷん太&うp主にExcellent -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 22:02: :edit上条さんがアンチスキルのオッチャンに陵辱される日は来るのか…
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 22:19: :editてかインデックスさん最強だよねこれだと
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/18(日) 22:25: :editインさんはジョーカーだから出せないわな
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/19(月) 13:30: :edit上条さんが最強なのは、腹の虫じゃなくてもはや生活力だからじゃね?ww
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/20(火) 06:18: :editこのシリーズマジ最高ww
熱くて笑えて心温まる
バン・ドー吹いたwww -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/20(火) 06:47: :edit朝食前に読むもんじゃねえなwww
チクショウ腹減ってきたwwwww -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/21(水) 05:46: :editしかしキャラも内容も他人のものって…
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/07/26(月) 01:09: :editおもしろいなぁ~
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名前: 通常のナナシ #-: 2010/08/29(日) 04:28: :edit※45
気持ちはわかるが2ch系のまとめブログで「うp主」っていう単語は禁句だニコ厨。
※52
SSって知ってる? -
名前: 通常のナナシ #-: 2010/09/13(月) 23:33: :edit※52
ワロタwww
一方さんも来てほしいけどなぜだろう
噛ませ臭しかしない -
名前: 通常のナナシ #-: 2011/02/15(火) 23:15: :edit半額弁当で検索しようとすると、
候補に半額弁当ですのが出てくる -
名前: 通常のナナシ #-: 2011/03/17(木) 02:04: :editやばいなもうこれ佐天さん能力者でいいだろ、肉体強化系の何かだろ
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名前: 通常のナナシ #-: 2011/04/02(土) 05:40: :editあぁ……腹減ったなぁ
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名前: 通常のナナシ #-: 2011/05/26(木) 20:37: :editコレ読むと太る
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名前: 通常のナナシ #-: 2012/01/23(月) 02:25: :edit思い出したのでまた読みに。
これで最後とか言わずに新作期待。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2012/01/28(土) 11:12: :edit主人公の声とかまんま上条さんだったからこれ思い出した
また書いてくれないかなー -
名前: JOJO #-: 2012/01/28(土) 20:45: :edit>>13ちぎれるぞ
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名前: 通常のナナシ #-: 2012/06/11(月) 17:59: :edit佐天さんもうこれ肉体強化レベル4くらいいってね?
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名前: 名無しさん #-: 2012/10/22(月) 19:30: :editインドアフィッシュさん最強かと思ったけど
どっちかというと半額になる前に待ちきれず手を出す豚のほうになりそう -
名前: #: 2015/02/23(月) 18:37: :editこのコメントは管理者の承認待ちです
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名前: #: 2015/08/23(日) 04:31: :editこのコメントは管理者の承認待ちです

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.