阿良々木「みんなが僕のことを好きだって?」その1

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2010/03/14(日)
1 : ◆2iyjsiunz/4e :2010/02/20(土) 00:49:07.36 ID:u7NBXYmkO

 001

 阿良々木暦について何かを語ろうとしたところで、
実際に口に出来ることには、特別な話なんて意外なくらいほとんどなくて、
基本的にただの事実にしかならないプロフィールばかりである。

 自らのことを語る際に、そこから主観を取り除いたら、
他のどんな他人を語るよりも情報が少なくなるのは、ある意味当然と言えなくもない。
自分のこと以上に主観に頼って捉えている物事は――普通、ほぼないからだ。




3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:51:04.71 ID:u7NBXYmkO

 他人の目から見えている自らの姿形を見ることは、
鏡をもってしても絶対に不可能であるのと同じように。

 他人が聴いている自らの生の声を聴くことは、
録音機器をもってしても確実に不可能であるのと同じように。

 鏡を通した自分はあくまで虚像でしかないし、
スピーカーから排出される自分の声は、
頭蓋骨の振動によって聞こえる自らが認識している声とも、
生の空気の振動で伝わる声とも異なっているのは――今更、言うまでもないだろう。




4 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:51:56.44 ID:u7NBXYmkO

 なんてことを考え始めると、『自分』という存在の不確かさに目眩さえ起こしかねない、
なんとも不思議な気分に僕はなってしまうのだけれど、
その違和感とも不快感ともとれるような軽いトリップは、ひとまず置いておくとして。

 阿良々木暦。

 私立直江津高校三年生。

 薄くて弱い性格。

 吸血鬼――もどきの人間。

 人間――もどきの吸血鬼。




5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 00:53:24.30 ID:u7NBXYmkO

 なんて。
 大仰に大袈裟な言い方を散々してきたけれど。

 これは、そんな僕にとっての平和な日々に訪れた、ちょっとした不協和音。
阿良々木暦という存在が、
他人にどう思われているのか、主観を省いて考えなおすきっかけになった、
ただの慌ただしいある日の出来事だ。

 だからなにも深刻な話はなく。
 決して誰も傷付かない。

 さしずめ食玩に申し訳程度についているラムネのような。

 あるいは新聞をとるとどうだとばかりに同封されるテーマパークのチケットのような。

 もしくは本屋で買い物をするとプレゼントしてくれる紙の栞のような。

 そんな、本当にどうしようもなくて、
馬鹿馬鹿しくてくだらない、笑ってしまうような――オマケのお話。


 【こよみラクーンドッグ】





9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:01:41.63 ID:u7NBXYmkO

 002

 僕や、僕の二人の妹、他にも怪異に携わった多くの人間にいろんな形で変化を与えた夏休みを終え、
二学期の授業が始まってから数日が経過していた。

 その間、休み明けのテストで恐ろしい高得点を叩き出した僕にカンニング疑惑が持ち上がったりとか、
ツンドラからドロデレへと属性を変化させた戦場ヶ原にクラスメイトがドン引いたりとか、
僕が強化された――あるいは狂化された羽川の人格矯正プログラムの餌食になりかけたりとか、
細かいイベントは数え出したらキリがないのだけれど、
そんなこんなで今日は週に一度の休日、日曜日なのである。




10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:05:02.70 ID:u7NBXYmkO

 偶数日は学年トップクラスの成績を有する戦場ヶ原、
奇数日には学年トップの成績の羽川に勉強を教えてもらうという、
受験生としては尋常じゃなく恵まれた破格の生活を送っていた僕だけれど、
最近では戦場ヶ原は二人きりになるとこれっぽっちも勉強させてくれないので
(理由及びその手段は各人の推測に任せることにする)、
お盆――即ち僕の下の妹の事件の前に暇を出した。

 戦場ヶ原みたいな美人が甘えてくれるのは、
それはもう男として嬉しくないわけがないが、
この頃の戦場ヶ原はちょっといきすぎという気がしないでもない。




11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:07:20.90 ID:u7NBXYmkO

 ともあれそういうわけで、しかし日曜日は無条件で休みと決まっているものの、
早朝に暗記ドリルをやるという自らに科したルールは健在で、
とはいえさすがに短針が7にも至っていない時間に目が覚めてしまったことに
若干の腹立たしさとやるせなさを覚えつつ、周りの確認なんか一切しないで目をすぐに閉じて、
二度寝に臨もうとしたところで。

「……………んむ?」

 寝苦しいことに気付いた。
 身動きがとれない。
 ていうか、狭い。

 幼い頃、ありったけの毛布や羽毛布団に一人を埋めて妹たちと遊んだことを思い出す。
あの、柔らかいものに確かに包まれているのに、体を動かせなくて息苦しい感覚。

 しかし、今はまだ茹だるような残暑のうっとうしい季節である。
羽毛布団どころかタオルケット一枚で寝ている僕が、
そんな状態になることは考えにくい。




12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:09:03.07 ID:u7NBXYmkO

 あり得る話としては、僕が寝ている間に妹たちの遊びに巻き込まれて、
大量の寝具の下敷きになっているというのが一番有力だ。
二番目に……えっと、うーん。
 未だに寝ぼけている頭では選択肢を考えることさえままならない。

 最悪なのは、怪異絡みの厄介事に放り込まれて誘拐されたとか。
でも僕の周りで唯一そんなことをしうる――というか貝木泥舟の一件の際に事実、
拉致監禁を実行した前科を持つ戦場ヶ原ひたぎは、
更正してもうすっかり丸くなっているし、
なにより僕の右半身に下敷きにされている、少し骨張って痛い感触は紛れもなく僕のベッドである。

 となると、やっぱり前者か。
しっかり叱ってから寝具の類を片付けさせなくちゃな……
とか砂糖をたっぷり入れたミルクティーみたいに薄ぼやけた思考で目を開けて。




13 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:09:48.19 ID:u7NBXYmkO

「――、―――なっ、――っ!!!!」

 一瞬ですっかり目が覚めたし、頭も醒めた。
 叫び声を抑えられたのは、我ながら誉めてやりたい。

「な、なんだこれ……」

 阿良々木火憐。

 栂の木二中のファイヤーシスターズ。

 その実戦担当。

 自称「正義の味方」。

 空手二段の腕前。

 洒落にならないくらい喧嘩が強い。

 僕の二人の妹のうち、上の妹で。

 そして――蜂に刺された少女。

 そんな阿良々木火憐が――僕の目の前で、ぐっすりと寝息を立てていた。




14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:16:50.90 ID:u7NBXYmkO

 下手に動けば、唇と唇がくっついてしまいそうな超至近距離。
ところどころ触れている体はそこだけ異様に鮮烈な灼熱さを醸していて、
凶暴で、どちらかといえば格好良い外見の火憐は――しかしこうしてあどけない寝顔を見ている限り、
ただの可愛い女の子だ。
 あとどうでもいいけれど、涎垂れてるぞ。きったねえな。

「……………………」

 なんて、冷静なフリをしておきながらも、
実際には、あまりの出来事に絶句している。

 なんだこれ。

 ………なんだこれ!?




15 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:20:45.46 ID:u7NBXYmkO

 いや、まあ、確かに火憐は、囲い火蜂の事件付近からスキンシップが過剰というか、
変に従順みたいになっていたが、
しかしこんな添い寝染みたことはさすがに冗談が過ぎると思うし、
火憐が弱っているときにキスをしたやつは誰だと言われればそれまでだけれど、
しかし、だがしかしだ、
調子に乗ってやってみた歯磨きなんかの後に月火に散々怒られたのは記憶に新しいのに、
なんだってこんな……いや、ちょっと待て――月火ちゃん?




16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:21:41.76 ID:u7NBXYmkO

 阿良々木月火。

 栂の木二中のファイヤーシスターズ。

 その参謀担当。

 自称「正義そのもの」。

 外見に似合わない攻撃性に、ピーキーな性格。

 ころころ変わる髪型。

 僕の二人の妹のうち、下の妹にして。

 そして――ホトトギスの少女。

 そうだ、と気付く。マズイ。こんなところ月火に見られたらどうなることか。
圧倒的トップランカーの戦場ヶ原が突如として転落したせいか、
『身近な危険人物ランキング(肉体編)』の頂点には、
現在、阿良々木月火が君臨しているのだ。
包丁とか平気で持ち出すからな、笑えねえ。




17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:24:04.49 ID:u7NBXYmkO

「………よし」

 とにかく火憐を起こさないでここから脱出するために、
一先ず寝返りを打って。

「………、うぁ? う、あああああああああああああああああっ!?」

 叫び声を、抑えられなかった。

 ほとんど反射的に上半身を起こす。
 反対側では、件の阿良々木月火が――心地良さそうに、
さながら猫のように身体を丸めていたのである。




19 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:27:27.95 ID:u7NBXYmkO

 すぅ、すぅ、と規則的に上下する胸。
乱れてはだけた、胸元どころか肩ごと剥き出しになっている浴衣。

寝てる。……寝てる? なんで?

 ていうか、そりゃあ、狭っ苦しいに決まってるだろう。
なにが嬉しくて、シングルのベッドで
中学生と高校生の兄妹3人が、一緒に寝ないといけないのだ。

 もう今度こそ、一切の疑いもなくきっちりフリーズした僕の背中で、
もぞりと起き上がる気配があった。

「んみゅ……兄ちゃん?
叫び声なんかあげて、どうかしたのか……?」

 火憐が起きた。
 月火は寝付きがいいしばらくはなんとかなるとして、
とりあえず異性と同じベッドで寝起きの状態を共有するというのは、
なかなか鋭敏な羞恥心がある。
しかも恐ろしいことに相手は身内ときたもんだ。
やってらんねえ。




21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:38:20.72 ID:u7NBXYmkO

 とりあえず、丸くなったままの月火を見下ろしながら、
僕の背中にぴったりと額をくっつけて、
もにゅもにゅと口の中で言葉にならない言葉を転がしているらしい火憐に答えた。

「いや、どうかしたというかどうかしてるっていうか……」
「うん?
兄ちゃんがどうかしてるって、そんなの今更気に病むことか?」
「お前ら二人がだよ、どうかしてるのは!」「…………なにがぁ?」

 まだしっかり覚醒しきっていないのか、
どこかぼんやりと間延びした声に色っぽさを感じてしまった自分が
心の底から憎くて憎くてしょうがない。




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:39:50.66 ID:u7NBXYmkO

 ところで実際、いくらこんなわけのわからない状況だろうと、
妹に欲情するなんて100%ありえないと僕は断言できる。
そんな、妹がいないやつ限定の気色悪い妄想など、
完膚なきまでに否定しつくせるだろう。

 妹萌えだなんて、幾千、幾万の言葉をもってして、
全力でそのふざけた幻想をぶち壊す自信があった。

 はっきり言おう。

 リアル妹萌えは、異常だ。




23 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:40:41.72 ID:u7NBXYmkO

 だから僕は、一旦最初のインパクトさえ通り越して落ち着いてしまえば、
妹たちのおかしな行動に対して若干の嫌悪感すら含んだ呆れをもってして言葉を投げる、
いつものスタンスを取り戻すことはそんなに難しいことではない。

 つーか普通にキモいわ。
 なんだこの状況。

 第一、こんな惨状を目の当たりにしておいて何を言っているのだと思われるかもしれないが、
阿良々木兄妹の仲は決して良くはない。
勿論悪いわけでもないけれど、だからといってこれまでの話を聞いて、
まさか揃って添い寝が基本だと思う稀少で貴重で意味深長な価値観をお持ちの人もいまい。




24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:43:14.70 ID:u7NBXYmkO

 夏休みの二つの事件を挟み、先程ほんの少し前述したように、
ちょっとはお互いに歩み寄りの姿勢こそ見せたものの、
それはぎこちないながらも仲の良いように見えなくないレベルになっただけである。

 それどころかあの夏休みは、
阿良々木火憐と阿良々木月火、四六時中べったりで、
時には裸で抱き合いながら眠るなんてことまでしていた
気色悪いハイパー仲良し百合姉妹の関係を、
彼女たちの中であるいは見直すことにさえなった事件だ。

 彼女らの間で恐らく行われたのであろう話し合いによりどんな結論が出て、
どんな変化があったのか――それともなかったのかは、
僕の預かり知るところではないが。




26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:44:12.20 ID:u7NBXYmkO

 閑話休題。

 そんなわけで普通の兄妹並みには妹たちを愛しく、
また同時に疎ましくも思っている僕は、ため息を一つついてから、
振り向き様に、もたれかかるみたいに背中にくっついていた火憐を引き剥がし、
どうやらもうすっかり覚醒を済ませた様子の我がでっかい方の妹に言った。

「なにがってさ、普通に分かるだろうが。
ていうか分かれよ、そこまで馬鹿じゃないだろ。
なんでお前ら二人が、僕のベッドで寝てるんだよ」

 火憐は一瞬、本気で何を言ってるのか分からないとでも言いたげに特徴的な吊り目を丸くしてみせ、
今度は呆れたみたいに肩をすくませる。

「なんだよ、兄ちゃん。
そんなことも分かんねーのか?」




28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:48:48.58 ID:u7NBXYmkO

「なんでお前が僕のことを馬鹿にするみたいな言い方をするのかという辺りから
既にさっぱり理解できないけれど、常識的に考えろよ。
朝、目が覚めたら自分の妹が揃ってベッドに潜り込んで添い寝していたという事実に、
なんの躊躇いもなく納得できる理由を即座に見い出せる兄なんかいてたまるかっ!」
「え、本気で分かんねーの?」
「分かんねーな!」

 すると火憐は、今まで見せたことのないような、
ちょっと眉をハの字気味にして恥ずかしそうな笑顔で。

 頬を、染めて。

 だけどはっきりと、偽ることなく。

 偽物の正義ではなく。

 本物の誠意で。

「そんなの、兄ちゃんのことが好きだから意外に理由なんかねーだろ?
ひゃはは、本当、変な兄ちゃんだな」




29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 01:58:04.96 ID:u7NBXYmkO

「……………っ!」

 ごめんなさい、お父さん、お母さん。
 僕はもう我慢できそうにありません。

 宣言しよう。

 リアル妹萌えは、異常なんかじゃない。

 そもそも夏休み、火憐のことを、魅せ方によっては、
羽川とまではいかないにしても、
なんとか張り合えるくらいには可愛いと思った瞬間があったのもまた事実なのである。

 それが火憐をベッドに押し倒して、
おっぱいを揉もうと手を伸ばした時だったことは、
なんというか、なんともあれだが。




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:01:19.29 ID:u7NBXYmkO

「……火憐ちゃん」

 なんとも、あれではあるのだが。

「……兄ちゃん」

 一度起こした火憐の体を、再びベッドに沈め、覆い被さる。

 なんとも、あれなのだけれど。

 奇しくもその時と同じ体勢になって見下ろした火憐は、
やっぱり普通に可愛かった。
寝起きだからだろうか、いつものように溌溂としきれない目元や、
トレードマークの長いポニーテイルをすっかり失った短い髪もむしろ健康的な魅惑さを持っていて、
きっと羞恥のためだろう、ほんのりと上気した肌も艶めかしい。
 そういう目で見てみれば、口元に残る涎の跡さえエロティックだし、
色気の欠片もないはずの家用ジャージも、
この時ばかりは不思議な魅力さえ放っていた。
 ……ジャージっ娘萌えになってしまいそうだ。




32 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:03:09.01 ID:qkys5Vi90
阿良々木さん流石ド変態っすね




33 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:05:24.92 ID:r2SaQJjz0
あっさりと覆したwww




34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:11:34.58 ID:u7NBXYmkO

「兄ちゃん……いいよ」

 いつかと同じ台詞が、妹の口から発される。

 いいんですか。

 いいんですか。

 ……いいんですか!?

 ばくばくと喧しい心臓の音をあえて無視して、僕は。

「……火憐ちゃん」

 名前を呼んで、その頬に優しく指を這わせる。

「んっ……」

 驚いたようにぴくりと反応する、火憐の声。

「火憐ちゃん」

 もう一度呼んで。

 火憐の唇に、自らの唇を――。




35 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:19:52.15 ID:u7NBXYmkO

「……お兄ちゃん? 火憐ちゃん? なにしてるの」

「うわあああああああああああああっ!!!!」

 突如隣から上がった、ぼんやりとした月火の声で、
僕は火憐よろしく見事なムーンソルトでベッドから離脱、床に着地した。

「おお、兄ちゃんすげー」

 うるさい黙れ。
 大変だ。
 月火ちゃんが起きた。

 月火ちゃんが起きたっ!

 なんかもう、一日に二度も目を覚ましたわ!
さっきまでの僕は僕ではない偽物です!
僕を陥れようとした何者かの恐ろしい陰謀だ。
ファイヤーシスターズが言うところの、敵対組織(笑)みたいな。
そうだ、そうに違いない。

 ……僕はシスコンなんかじゃない、信じてくれよっ!




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:27:18.36 ID:u7NBXYmkO

「お兄ちゃん」

 寝起きが悪いはずのちっちゃいほうの妹こと阿良々木月火は、
どうやら運の悪いことに――不幸中の幸いならぬ、不幸中に辛い感じに、
今日に限ってすっきりばっちり意識を確立しているようだった。
見た目的にはいつもと変わらない眠たげな垂れ目なのだけれど、
さすがに兄貴たるもの、それくらい声の張りで分かる。

 ちなみに上半身を起こした月火の浴衣は、
もうはだけてるどころかただ腰に巻き付いているだけみたいになっていた。
当然、子供体型の胸は完璧に露出しているし、
それどころかもちもち卵肌なお腹、へそまでもはや世界丸見えである。

 和服好きはいいんだけどさ、そういうところ素人が趣味だけでやるとろくなことにならないんだよ、
詰めが甘いっていうかさ。
着方とか帯とか、いい加減なんだもん。




38 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:30:03.96 ID:u7NBXYmkO

 しかし不思議なもので、遺伝子が似ていると、
ただだらしないなぁと思うだけで、そんな扇情的な格好にもこれといって、
特にいやらしい気持ちにはならないのだった。

 ならないのだった。

 ならないのだったっ!

 ……はい。

 なりました。

 なりましたとも。

 どれだけ格好つけて体裁を整えてみても、
直前まで上の妹とちゅーする三秒前みたいな状態だったら、
今更あんまり関係ないかと諦めた。

 どうしたというのだろう、今日の僕は。
普段は(歯磨きの時の悪ノリは別として)こんなこと全然ないのに、
実の妹に対して劣情を抱くなんて兄として最高に最低な振る舞いだ。




39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:33:18.29 ID:u7NBXYmkO

「ねえ、お兄ちゃん?」
「………はっ!?
な、なんだ、月火ちゃん!」

 ヤバいヤバい、あまりのことに軽く現実逃避していた。
ベッドの上からこちらをジト目で見つめてくる
ちっちゃい方の妹(半裸)に対してどう言い訳するか考えなくてはならない。

 更正前の恐ろしい旧戦場ヶ原みたいに、
文房具を凶器にするわけじゃねえしな、こいつは。
普通に凶器となりうるものを、普通に凶器として使うのだから、
正直、手におえない。




41 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:37:42.41 ID:u7NBXYmkO

「お兄ちゃん、火憐ちゃんと二人でなにやってたの」
「うぁ、え、えっと……」

 月火の追及。
 来るぞ、来るぞ……と、最高に嫌な予感が鎌首を振り上げる。

 阿良々木月火。

 ピーキーな性格。

 その沸点は――ビニルエチルエーテルを遥かに下回る。

 ぞわっ、と、もうすっかり旧戦場ヶ原並みの長さになった綺麗な黒髪を逆立てて。

「二人でなにしてたのって訊いてるのっ!!!」

 炸裂した。
 それはもう、見事なまでに。




44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:48:26.67 ID:u7NBXYmkO

 ここのところファイヤーシスターズ的活動が沈静化していたから、
自然と僕が小言を言う機会も少なくなっていたことも手伝って、
なんというか久しぶりな爆発だった。

 つーか、朝っぱらからこんな大声を出して、両親が起きたらどうするつもりだ。
そんなに家族会議が好きか、M格好良いのは火憐ちゃんだったはずだろうが。

 ……いやまあ、深夜に僕の(ほぼ)全裸を見た羽川が上げた悲鳴でさえ起きなかった両親なのだから、
それに関してはそこまで心配しているわけではないのだけれど。




45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:49:07.97 ID:u7NBXYmkO

「いや、なにっていうか……」
「うるさいうるさいうるさい!
言い訳なんか聞きたくない! 聞いてあげないっ!」

 じゃあ訊くなや。

「絶対に許せないっ!」

 月火は僕がなにか言葉を挟む間も与えず、叫んだ。

 絶叫した。

「なんでお兄ちゃんと火憐ちゃんばっかりそんなに仲良しになって、
私も混ぜてくれないの、ズルいよっ!!」




46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:52:40.69 ID:u7NBXYmkO

「………………」
「はぁ……はぁ……」
「………………はい?」

 はいぃ?
 今、なんて?

 あれかな、僕の耳がおかしくなったのかな。
絶対に聞こえちゃいけない言葉が、月火ちゃんの口から吐き出された気がするのだけれど。
 いやいやそんなわけないよな、だってあの月火ちゃんだぜ?

 寝込みを襲って初ちゅーを奪ったら(それも兄としてどうなんだという話だが)、
涙目になって罵倒しつくした月火ちゃんだぜ?

 風呂上がりに全裸にひん剥いて帯で手首を拘束した挙句、
そのまま押し倒して身体中にじろじろ舐め回すような視線を這わせ、
おまけに貧相なおっぱいを揉んだだけではなく、
ついでに足でぷにぷにぷにぷに踏みつけたら
(これは普通に人としてどうなんだという話だ)、
散々っぱら本気で怒って嫌がった月火ちゃんだぜ?

 ははは、朝から訳の分からない状況だったから、
僕の耳、馬鹿になっちゃったのかな。
参ったなぁ。




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 02:59:51.75 ID:u7NBXYmkO

「大体、火憐ちゃんも火憐ちゃんだよ!」

 なんて思っていたら、月火の怒りは後ろでぼんやりとしていた火憐に飛び火した。

「昨日、お兄ちゃんのベッドにこっそり忍びこむ時に、
抜け駆けはなしって約束したのに!」
「いや、ごめん、月火ちゃん。でも仕方ねぇだろ?
目が覚めたら至近距離に兄ちゃんがいたんだ、我慢なんかできねーって」
「気持ちは分かるけど、でも約束は約束でしょ?
そもそも、今回は一緒にお兄ちゃんを陥落させるって言い出したのは火憐ちゃんじゃない」
「……じゃあ月火ちゃん、今日の午前中は兄ちゃんと月火ちゃんが二人で遊んでいい。
あたしは邪魔しない。それならいいだろ?」
「うーん……いいけど……」




52 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:05:38.59 ID:u7NBXYmkO

 と、ベッドの上で交渉を始めたファイヤーシスターズを呆然と眺める。
 分かったことは、僕の耳がおかしくなったわけではないということと、
彼女たちの間で僕の人権は無視されているということだけだ。

 つーか勝手にベッドに忍びこむなや……。

 あとなんでこんな二人していきなりデレてんだよ、気持ち悪いな。

 まあ、話を聞く限り、最近勉強ばかりに気をとられて二人とあんまり遊んでやらなかったから、
寂しかったとかそんなところだろう。
その不満がよく分からないところで化学変化を起こし、
夜這い→添い寝とかいう行動に移されたと、そういうわけだ。

 火憐も月火も、まだまだ子供だしな、なんといっても。




54 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:12:55.78 ID:u7NBXYmkO

「おいこら、ファイヤーシスターズ」

 果ては敵対組織がどうとか悪の大軍団がどうとかいう、
元の話がなんなのか分からない言い争いをしていた二人の馬鹿妹を止める。

「なんだよ、兄ちゃん」
「なに、お兄ちゃん」

 てへりとなぜか恥ずかしそうに笑う火憐に、
垂れ目で器用にジト目を作る月火。

 うん。
 受験勉強も大切だけれど、家族以上に優先すべき勉強なんて――ない。
 ないのだから。




55 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:14:15.84 ID:u7NBXYmkO

「分かった、今日は二人と遊んでやるよ。
ただし僕にも勉強があるし、午前中だけな。
ついでにどちらか一方とかじゃなくて、三人一緒にだ。
それでいいか?」

 せっかくの日曜日、家族サービスってやつである。

 それに、まあ、こうも素直なファイヤーシスターズは、
なんだか遥か昔の
「お兄ちゃんと結婚する」
とか言ってた時代の二人みたいで、悪い気はしないし。
馬鹿みたいな正義の味方ごっこをする小生意気な妹に比べれば、可愛いものである。

「お兄ちゃん、それ、本当?」
「本当だとも、月火ちゃん」
「さすが兄ちゃん、太ってるな!」
「失礼なことを言うな!」
「うん? ああ、間違えた。さすが兄ちゃん、デブだな!」
「悪意しか感じねえよ!」

 さすがの火憐である。
 正しくは太っ腹、だ。




57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:17:00.39 ID:u7NBXYmkO

「で、まだ朝早いけど、なにして遊ぶんだ?
さすがに今更ボードゲームやカードゲームってガラではないだろうけれど、
外に出ても店はどこも開いてないぜ」

 よっこらせ、と立ち上がって訊いた僕に、
しかし火憐ちゃんも月火ちゃんも揃って訳が分からないという顔をしてみせた。

 うん? 僕、なんか変なこと言ったか?

「外に出る必要も、ボードゲームやる必要もないよ、お兄ちゃん」
「たまーによく分かんねえこと言うよな、兄ちゃんって」

 言って。

 するりと、ファイヤーシスターズは、服を脱ぎ捨てる。




59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:18:55.64 ID:u7NBXYmkO

「なっ……なにしてんだ、二人とも!?」
「なにって、若い男女が三人ですることっていったらあれしかないでしょ」
「あれしかねーよな」
「あれってなんだ!?」

 頭がぐるぐるする。
せっかく上手いこと軌道修正できたと思ったのに、理解が追いつかない。
理性がついてこない。

 何が起こってるんだ。

 何が起こってるんだ!?




61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:22:40.52 ID:u7NBXYmkO

 パニックになる僕を尻目に、全裸になった二人が迫る。
不思議なことで、二人の裸体に対して先程までのような兄らしからぬ感情は生まれなかった。

 一度軌道修正して、今度こそ本当に冷静になれたのだろう。

 ただいま、ギャグパート。

 ぐっばい、エロパート。




62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:23:34.69 ID:u7NBXYmkO

「兄ちゃん、いいよ」
「お兄ちゃん、一緒に気持ち良くなろうよ」

 手招きする死神二人を、覚醒した僕は手早く部屋から蹴り出した。
脱ぎ散らかされた妹二人の衣類も同時に放り投げ、背中でドアを押さえる。

「な、なにすんだ、兄ちゃん!」
「開けてよ、お兄ちゃん!」

 どんどん、と扉を叩く音と衝撃が背中にダイレクトに伝わり、
ややくぐもった声も一緒に叩きつけられる。




63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:26:11.60 ID:u7NBXYmkO

「うるせえ! お前ら絶対変だよ! 変すぎるよ!
朝っぱらからなんのドッキリだ、なんの嫌がらせだ!」
「嫌がらせなんかしてないよ、お兄ちゃん!
私たちはお兄ちゃんのことが好きなだけだよ!
だから開けてよ!」
「そうだぞ、兄ちゃん!
好き合ってる男女がああいうことするのに理由なんかねぇだろ!」
「いやいやいや好き合ってはねえよ!?
前提がおかしいだろ、僕はお前らなんか嫌いだ!
いいから部屋に戻れ、普通になら遊んでやるから!」
「でもそんなんじゃだ~め!」
「もうそんなんじゃほ~ら!」
「黙れ、歌うな!」

 しかもそれは千石の歌だ。




65 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:32:28.11 ID:u7NBXYmkO

「よし、分かった、お前ら二人、どっか連れてってやるよ、それならいいだろ!
だからお前らは部屋に戻ってろ! 僕は今から着替える!」
「「手伝ってあげる!」」
「いらねぇよ、気色悪いわ! 無駄にハモるなっ!」

 妹に着替えを手伝ってもらう兄なんか嫌だ。絶対嫌だ。

 なんてやっていると、扉の向こうが大人しくなった。
よかった、納得してくれたのか。

 さて、なんだかすごい展開だったけれど、しかし言ってしまった手前どこかに連れていくしかないだろう。
 でもこんな田舎にレジャー施設なんかないしなぁ。
隣町の商店街でも行くか。




66 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:38:13.92 ID:u7NBXYmkO

 ……なんて安心して考えた矢先。

「こんな木の板程度、この阿良々木火憐の前で障害になりうると思うなんて、
兄ちゃんはまだまだ認識が甘いなぁ」

 ……なんか聞こえた!

 聞こえちゃった!

 やべえ!

 とん、とん、と準備運動でジャンプをするような音まで聞こえる。
こえー! いや、マジでこえー!
あいつ、本気出したら、それこそそこらのコンクリートの壁すら壁じゃねえもん!
 土の壁みたいにぼろぼろ破壊できるやつなのだ。




67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:46:27.72 ID:u7NBXYmkO

 そんな火憐だから木のドアが障害じゃないという言葉には嘘はないし、
中に押し入られたら最後、
取り押さえられたら悔しいことに僕なんか敵じゃない。

 勝てない。

 敵わない。

 背筋が凍る。

 何が嬉しくて、妹から本気で逆レイプされる一歩手前まで詰まされなくちゃならないんだよ。
嫌な人生だ。普通に気持ち悪いわ! 気色悪いわ!

 僕はマジで色々なものの危機を感じて、
慌ててドアから離れると、超高速で着替えと貴重品を回収、
一切の躊躇いもなく、唯一の逃げ道である窓から飛び降りた。

「うわああああああああああああああああああああっ!?」

 屋根を経由して、庭に着地。
ごろごろと転がって痛みを和らげたところで、上からばこぉん!という音が響いた。

 ドアが、蹴破られたのだ。

 おいおい、直すの誰だと思ってんだよ……。

 つーかいい加減起きろや、両親……。




68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 03:50:09.40 ID:u7NBXYmkO

「あ、兄ちゃんがいねえ! 消えたぞ、月火ちゃん!」
「え、うそ!?」
「兄ちゃんは瞬間移動の使い手だったか……
さすが、それでこそ世界の絶対悪と戦うファイヤーシスターズの兄だぜ!」
「違うよ火憐ちゃん、窓から逃げられたんだよ!
急いで追いかけなくちゃ!」

 なんて慌ただしい声もここまで届いてきて、
僕は痺れる足に鞭を打って自転車に飛び乗ると、
寝間着のまま我が家から――我が妹から逃げ出したのだった。




69 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:04:08.75 ID:u7NBXYmkO

 003

「はぁ……」

 ファイヤーシスターズから命からがら逃げ出した僕は、
ひとまずかつて忍野が住み着いていた廃墟で持ち出していた私服に着替え、
寝間着を分かりやすいところに置くと、外に出て歩いていた。

 目的なんて特にないが、せっかく朝早くに外出するハメになったのだから、
このまま早朝サイクリングすることにしたのである。




70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:08:57.38 ID:u7NBXYmkO

 しっかし、朝っぱらから、えらい目にあった。
 あいつらいつの間に僕のベッドに忍び込んだんだ。

 昨日は羽川との勉強会から帰った後、寝付きが悪かったから外に出て、
どこかの自治体が開催しているのであろう、ちょっとだけ季節外れの祭囃子の和太鼓を遠くに聞きつつ、
いくらか散歩をした。
帰ったのは随分遅くだから、ファイヤーシスターズはぐっすり夢の中だったはずなのに。

 つまりその後わざわざ起き出して、僕の部屋に突撃してきたのだろう。
アホじゃないのか。




74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:31:41.17 ID:u7NBXYmkO

 つーか久々に、本気で家に帰りたくねえ。

 ………あ。

 ああ。

 あー、そういえば前にもこんなことを考えながらサイクリングしたことがあったなあ。
その時はこんなママチャリじゃなくて、マウンテンバイクだったけれど。

 なんて考えていると、噂をすればなんとやら。

「お、八九寺じゃん」

 大きなリュックサックを背負ったツインテールの小学生、
八九寺真宵の後ろ姿を見つけた。

 八九寺真宵。

 蝸牛に迷った少女。




77 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:37:28.77 ID:u7NBXYmkO

 それにしても、八九寺かぁ。
 あいつには散々、セクハラ紛いのことしちゃったしなぁ。

 火憐と月火にやられてみて初めて分かったというか、強制的に性的なイタズラをされるのは正直、あまりいい気分ではない。
つーか、不快だ。
気持ち悪い。

 あぁ、あんな気持ちを、僕は八九寺にさせちゃってたんだなぁ。

 改めて実感。
 僕って、最低なやつだ。マジで最低だ。死ねばいい。




78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:41:17.52 ID:u7NBXYmkO

 第一、冷静になってみてほしい。

 八九寺のあんな凹凸のない体にセクハラして、何が楽しかったのだろう。
魅力がない。
身内であることを除けば、肉体的にはまだ月火の方がマシである。

 一部で僕のロリコン疑惑が持ち上がって大変なことになっているらしいけれど、
僕の彼女の戦場ヶ原然り、異性における理想系である羽川然り、
僕の好みはまず間違いなくロリ系ではないのだ。

 つるぺたとか、まったく魅力を感じないね。
ちっちっぱいぱん、ちっちぱいぱん。




79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:46:42.40 ID:u7NBXYmkO

 あーぁ。

 なんか冷めた。

 冷めちゃったよ。

 冷やし暦始めましたってなもんだよ。

 八九寺なんかにセクハラして、何をあんなに喜んでたんだろう、ちょっと前の僕って。
やってらんねえ。普通にヤバい人じゃん。
普通にロリコンだよ。

 アホか。
 これからはいかに八九寺相手だろうと、紳士的でいよう。
むしろ八九寺相手だからこそ、紳士的でいるべきだ。




81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:50:02.19 ID:u7NBXYmkO

 よし。

 僕はそう決意すると、自転車を停めた。

 コミュニケーションの基本は、挨拶から。
紳士な僕は、ゆっくりと八九寺の背後に歩み寄ると……。

「はっっっっっちっっっっっくっっっっっっ、じぃぃいいいいいいいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃいいいいいいいいいーーーー!!!
会いたかったぞ、ちくしょうっ!!!!!!!!」

 思いきり、抱きついた。




83 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:53:49.37 ID:u7NBXYmkO

「きゃぁぁぁぁああああああああああああああああああああっ!?」

「八九寺、冷めたとか言ってごめんな!
冷めてなんかないぜ、相変わらず僕は熱々だよ!
冷やし暦は始まる予兆すら見せないぜ!
凹凸がないからなんだってんだ、お前のロリハリボディが僕、大好きだ!
だから安心してくれ、僕はお前を裏切ったりしないからなっ!」

 摩擦熱で火傷するくらいの勢いで頬擦りをして、バタバタと暴れる八九寺を押さえ込む。

「ほらほらほらほら! 可愛いなぁ、八九寺ちゃんは!
柔らかほっぺにキスしちゃうぞー! 舐めちゃうぞー! 甘噛みしちゃうぞー!」

「ぎゃー! ぎゃーっ! ぎゃーっ!?」

 僕は思う存分キスの雨を振らせてから、八九寺のスカートの中に頭を突っ込んだ。

「こら、暴れるな! パンツの中に顔を突っ込めないだろうが!」




84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 04:54:29.49 ID:wD7qriRCO
やっぱり阿良々木さんは変態ですね!




87 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:02:51.28 ID:u7NBXYmkO
「みぎゃぁぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!」

 一際大きな声を上げたかと思ったら。

「がうっ!」

 八九寺を拘束していた僕の手を、思いっきり噛んだ。
 今までに類を見ない本気噛みだった。
 ぶちぶちって音したもん。

「いてえっ! なにすんだこの馬鹿野郎っ!」

 叫んでおいてなんだけれど。
 痛いのも。
 なにすんだこの馬鹿野郎も、勿論僕だった。
 言い訳のしようもない。




88 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:08:42.62 ID:u7NBXYmkO

「ふかーっ!!」

 およそ人のものとは思えない声に視線を向けると、
少し離れたところでスカートを押さえてこちらを睨む八九寺の姿があった。

 すげえ、我を忘れてやがる。
 ありていに言って、裏コード『ザ・ビースト』状態である。
 制御棒こそ出ていないけれど。

「落ち着け、八九寺! 僕だ!
冷静になれば、こんなことするのは僕くらいしかいないのは分かるだろう!」

 僕しかいないならそれがなんなのだと言われればそれまでの台詞を吐くと、
しかし八九寺はようやく意識を取り戻した。
プラグ深度は人に戻れなくなるレベルまではいかなかったらしい。




94 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:19:34.83 ID:u7NBXYmkO

「おや、誰かと思えばミララ木さんではありませんか」
「おれ、ミラじゃねーし。
人のことをダイハツ工業の生産する軽自動車みたいに言うな、
相変わらずどこからそんな絶妙な噛み方をする語彙を調達してくるのか
ほとんど感心に近い気持ちすら抱いてしまうけれど、
それでも僕の名前は阿良々木だ」
「失礼、噛みました」
「違う、わざとだ……」
「かみまみた!」
「わざとじゃない!?」
「かめはめ波!」
「まさかのスーパーハチク人!?」

 ていうか撃つなら撃つで、ポーズまでしっかりキメたんならちゃんと『め』で溜めを作れよ。
あっさり撃っちゃったら必殺技っぽさがなくなっちゃうし、
溜めてる間は敵は攻撃しちゃいけない法則が、姿を見せる暇すらない。




97 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:25:54.85 ID:u7NBXYmkO

 まあ、それはいいとして。

 八九寺は相手が僕だと分かると、
とんとん、とスキップでもするような軽さで、離れていた距離を詰めた。

「まったく、最初から阿良々木さんだと分かっていたらあんなに嫌がったりなんかしなかったのに、
惜しいことをしましたね」
「マジで? くっそう、今度からは声をかけてからセクハラすることにしよう!」

 いや、まあ、セクハラっていうかもうほとんど犯罪の域なんだけれど。




98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:27:47.22 ID:u7NBXYmkO

「わたし、阿良々木さんにだったら何をされたって嫌じゃありませんよ。
ボディタッチもキスも、パンツを見せるどころか
果てはその中を公開することだってやぶさかじゃないです」
「八九寺、お前はいいやつだなぁ……」

 とか言って、やったら即通報とか、どうせそういう手口である。

 挨拶代わりにそんなちょっとハードな冗談を交わして。




100 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:34:33.41 ID:u7NBXYmkO

「ともあれ、おはよう、八九寺。こんな早朝から散歩か?」
「おはようございます、阿良々木さん。
この時期は朝の空気が一番歩きやすいですからね」
「あぁ……そういえばそうだな」

 さすがに8月ほどではないにしても、日が昇ればまだまだ暑くなる。
夕方から夜にかけても、空気に残った熱に蒸し焼かれる感覚はあまり心地良いとは言えないだろう。

 となるとなるほど、早朝というのは適度な涼しさと捌けた湿気で、
気ままに出歩くには丁度いいかもしれない。




102 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:37:10.10 ID:u7NBXYmkO
「そういう阿良々々々々々々々々々木さんも、こんな早くにどうしたんですか?
早起きして出歩くタイプではなかったでしょう?」
「いや、あのさ、八九寺、名前伸ばしすぎだから。
もう噛んでるのかそれとも舌を巻いてるのか、ほとんど分かんねえレベルだよ」
「これは失礼。テイク8です」

 2だと思う。

「こんなに早い時間に会うなんて珍しいですね、阿木さん」
「今度は消しすぎだ! 0か1しかないのかよ、お前には!」

 無駄に言いにくいしな、アギさんって!




103 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:40:51.05 ID:u7NBXYmkO

「ふむ……失敗してしまいました。
ではテイク9です!」

 回数すっとばしすぎである。

「こんなに早い時間に会うなんて珍しいですね、五色沼さん」
「跡形もねえよ!」

 誰だよ、ゴシキヌマさん……。
無意味に自然の神秘っぽい名前だ。

「テイク10、いっちゃいます?」
「いや、もういいよ……」

 しかもテイク5だしな。
 ……ん?
 ああ、テイク8、9、10で八九寺なのか。無意味な芸の細かさだ……。




104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:41:58.25 ID:u7NBXYmkO

 八九寺は。
 そんな、もうお決まりに近い冗談の応酬の間に、
ぴったりと僕の腕に絡み付くようにしてぶら下がっていた。

「……お前、なにやってんの?」
「いえ、最近阿良々木さんにやけに筋肉がついたと一部で評判でして。
男性の筋肉には並々ならぬセクシーさを感じるわたしとしては、
チェックしない手はないかと」

 だからと言ってそれが腕にしがみついてぶら下がる理由になるとは到底思えなかったけれど、
まあ、せっかく懐いてくれている小学生を無下に扱う必要性も特に感じない。

 八九寺をくっつけたまま右腕を振り回すようにぐりぐりと動かしてやると、
幽霊少女はきゃーきゃーと無邪気な悲鳴をあげた。




107 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:46:13.29 ID:u7NBXYmkO

「……筋肉はさ、ほら、吸血鬼性の名残なんだよ。
吸血鬼には体を万全の状態に整えるみたいな能力があってさ」

 だから吸血鬼は基本的に汚れなんかつかないし、風呂の必要もないのである。

「なるほど……って、阿良々木さんは吸血鬼だったんですか!?」
「なんで今更そこに驚くんだよ、僕を語る上でかなりメインにきそうな重要なパーソナルだろ!?
ていうかこのやり取り、夏に1回やってるよな!」

 相変わらず最高にいい顔で驚きやがった。

 とても演技とは思えない……。




108 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:47:43.38 ID:u7NBXYmkO

「繰り返しギャグは2回までと言いますから、
つまり2回目までは何らかの形でやっておくべきなのかと」
「確かに同じギャグを3回もやるとさすがに笑えないけれど、
だからといってそれは無理に2回やらなくちゃいけないってことではないんだぜ……?」

 貝木みたいなわけ分かんない屁理屈こねやがって。

「しかし阿良々木さん、2度あることは3度あると言いますし」
「もう1回やる気満々じゃねえか!
ギャグの繰り返しは2回までってさっき自分で言った台詞すら覚えてないのか!?」
「仏の顔も3度までと言いますし」
「だからなんで3回はやるのが前提なんだよ!」




109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 05:48:45.07 ID:u7NBXYmkO

 もういいよ、お前が自分の驚いた顔に自信があるのは分かったから、
もっと別のところでそれ使ってくれよ。
 同じところで同じことを何回も繰り返されると、なんだか僕の話の振り方が下手みたいじゃん。

「いえ、阿良々木さんは会話、下手ですけれどね」
「辛口だ!」

 やっぱりそうだったのか!
たまに司会進行役失格、なんて言われるから薄々感付いていたけれど、
こうはっきり言われるとさすがに傷付く!




111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 06:03:24.17 ID:u7NBXYmkO

「きっと、長らく友達を持たなかったせいで、
コミュニケーションスキルが退化してしまったんですね。
生き物って、自分にとって必要のない器官は失うものらしいですし」
「マジで激辛すぎる……」
「でも安心してください、阿良々木さん。
わたしは阿良々木さんがどんな状態になってしまっても、一緒にいますよ。
永遠に、あなたのことを好きでい続けてあげます」
「なぜか急激に甘口だーっ!」

 一人飴と鞭戦法。

 使い所を間違えれば、あるいはただの情緒不安定な人になってしまうこの高度なコミュニケーションスキルを、
いとも容易く使いこなす八九寺真宵。

 ……もう八九寺が司会進行役やれよ。
 つーか普通に凹むよ。
 万能だな、この小学生。




112 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 06:07:17.82 ID:u7NBXYmkO

「それで、阿良々木さんは何を……ああ、えっと、自分探しのカビでしたか?」
「なんだかちょっと涙無しでは語れない青春のドラマがありそうな感じで、
人のことを子実体を形成しない菌糸でできた体を持つ菌類扱いするな!」

 正しくは、自分探しの旅。

「しかもさ、唐突にそんなけったいなことをするほど、
僕は自分を見失っていねえよ」
「見失う自分がいませんもんね」
「もはや罵倒の意味が分からない!」

 どんな状態だよ、見失う自分がいないって。
 いくら日本語のプロ・八九寺とは言え、なんでも言えばいいというものではない。
 ちょっとは考えて喋れよな。




113 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 06:12:17.51 ID:u7NBXYmkO

「いやあ、だって阿良々木さん。
阿良々木さんって存在がフィクションじゃないですか」
「存在がフィクション!?
僕は誰かの手によって作り出された架空の存在だとでも言うのか!?」

 初めて言われたよ、存在がフィクションって。
ともすればちょっといいことを言っているようにも解釈できそうだけれど、
これ、僕の存在を実在しないものだって言い切っているだけの言葉だよな。
 何気に「存在がウザイ」よりも傷付く。

 八九寺はわざとらしくこほんと咳払いをすると、
仕切り直しますと前置きをしてから口を開いた。




114 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 06:13:23.31 ID:u7NBXYmkO

「それで、阿良々木さんはせっかくできた彼女さんにフラレて、
傷心のまま飛び込む路線を探してふらふらと出歩いていたのでしたっけ?」
「でしたっけ、じゃねえよ、縁起でもないこと言うな!
フラレてなんかいないしそんな兆候も見られねえよ!」

 せっかくあの戦場ヶ原がデレたのに、そんな段階で破局してたまるか。

「まだフラレていないんですか!?」
「驚くなっ!」

 驚きの表情は、別のところで使えとは確かに思ったけれど、
使うタイミングが今度は今度でやっぱりまた最悪だった。

 八九寺は何か僕に恨みでもあるのか。

 ………心当たりしかねえ。




123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 08:59:24.07 ID:u7NBXYmkO

「ちっ」
「舌打ちするなよ!
そんなに僕が戦場ヶ原と別れていなかったことが気にくわないのか!」
「ええ、阿良々木さんには申し訳ありませんが、正直、気に入りませんね」

 思いっきりぶっちゃけやがった。
出来れば知りたくなかった本心だ。

 八九寺は続ける。

「略奪愛はわたしの主義に反しますから、
この恋心が報われるためには、お二人にやはり別れていただかないと」

 …………うん?

 略奪愛?

 恋心?

 なんだか変に際どいワードが飛び出したけれど、南無三宝。
危ない危ないと思い直す。これは罠だ。
用意周到に張り巡らされた八九寺真宵の冗談の罠である。

 最近、羽川と仲の良い八九寺は、僕に効く悪質な類の冗談を身につけ始めているのだ。
油断するとすぐに絡めとられてしまう。




124 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:14:11.64 ID:u7NBXYmkO

「時に吸血鬼の阿良々木さん」
「うん?」

 上手いこと引っ掛からなかった僕に痺れを切らしたのか、
八九寺は相変わらず僕の右腕にべったりとくっつきながら、言った。

 不意に笑顔を消して。

 真面目な声で。

「阿良々木さんの吸血鬼性は――寿命にも作用するのでしょうか」




125 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:21:01.01 ID:u7NBXYmkO

「寿命って……」

 寿命。

 吸血鬼の寿命。

 彼らの寿命は、当然のことながら、人間の比では到底ない。
事実、今も僕の影に潜む忍野忍の前身、
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレードは、
実に500歳、5世紀もの時代を生き抜いた貴族の血統の吸血鬼である。

 しかしそれは、吸血鬼の話。

 僕はあくまで人間だ――吸血鬼もどきの人間だ。

 だからその恐るべき不死性が、
果たして今の僕にどこまで効力を放つのか、
正直なところ不明なのである。
この話は8月に忍と歩み寄ってから、
度々議論を重ねているのだけれど、結論は出ない。




128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:30:23.41 ID:u7NBXYmkO

 普通に考えて、吸血鬼性と人間性では遥かに人間の性質の方を多く体に保有する僕は、
普通の人間と同じように年をとって、普通の人間と同じように死ぬだろう。
しかし僕に残っている吸血鬼性は決して身体能力ではなく、
新陳代謝――即ち、回復能力に比重が偏っているのである。

 回復能力。

 傷の治りが早い。

 吸血鬼の――不死性。

 だから僕は不老不死を持っていないと、
一概に否定することはできないし――肯定することも、許されない。




129 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:33:23.88 ID:u7NBXYmkO

「どうなんだろうな。その辺、よく分かんないだよ。
僕と忍の関係は複雑で、お互い思いっきり血を与えあえば、
元の吸血鬼状態に近付けたりするくらいには、不安定だから」

 だから何をトリガーにして、どこに吸血鬼性を発揮するのか、
その全容は忍にさえはっきりとは判別しにくいらしい。

 あるいは忍野なら――分かるのだろうか。

 あの軽薄な、アロハ男なら。




130 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:35:26.02 ID:u7NBXYmkO

「わたしはですね、阿良々木さん」

 こつんと足元の小石を蹴飛ばしながら、
八九寺は言葉を落っことした。

「わたしは、阿良々木さんが不老不死ならいいとさえ、思うんですよ」
「……どうしてだよ」

 不老不死なんかきっと、いいことなんかない。

 愛する人もみんな先に死んで。

 新たな出会いに更に別れを重ねて。

 そうやって、ただ喪失し続けていく中で、
自分だけは決して大人になれないのだから。

「だってそれならわたしと阿良々木さんは――ずっとずっと、永遠に一緒にいられるじゃないですか」
「………………」

 八九寺の言葉には。
 きっとすべてが、詰まっていたのだと、思う。

 八九寺真宵という少女の孤独の全部が、内包されていた。




132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:42:22.19 ID:u7NBXYmkO

「幽霊であるところのわたしは、もう終わった存在。
止まってしまった人間なのですから」

 幽霊。
 そうだ、八九寺もまた、永遠を生きる存在なのだ。

 不死ではないけれど。

 不老ではあるのだ。

 決して大人になれない。
 これから先ずっと――小学生のまま。
 喪失を、重ねていく。

「ですから、もしそこに阿良々木さんがいてくれたら……
一緒に隣で、こうやって、いつまでもおかしなことをやっていられたらいいな、
なんて……たまに、思ったりなんかするんです」

 ぎゅっ、と。
 僕の右腕に伝わる力が、強くなった。

 それでも尚弱い、八九寺の握力。
たったこれだけの握力で、八九寺はこれから先、
大切な出会いを掴み取り、切実な喪失を握り締めていくしか、ないのだろうか。
 たった一人で。




134 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 09:51:09.63 ID:u7NBXYmkO

「………八九寺」

 その名前を、呼ぶ。

 八九寺真宵。
 僕の、友達だ。

「もっともこんなの、わたしの身勝手な願望なんですけれどね。
今や阿良々木さんは、いくらかの吸血鬼性を残していようと、
生きた人間なのですから。
普通に年をとるのが幸せに決まっています。
阿良々木さんの――好きな人と」

 だからこれはわたしの自分勝手な妄想だと思ってください、
と、照れくさそうに八九寺は笑って。
 僕の右腕から、離れようとした。

「八九寺」

 だけど僕は、それを、止める。

 一瞬離れた八九寺の体を――右腕で抱き締めた。




136 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:00:54.77 ID:u7NBXYmkO

「わ、わわっ! ちょ、ちょっと、阿良々木さん!?」
「八九寺、聞いてくれ――僕にはお前の孤独は埋められない。
僕の不死性は不完全だから、永遠に一緒にいてやるよなんて気休めは、言えない」
「ええ、ですから……ですから、それは分かっていますっ!」

 ちょっと鼻にかかった、八九寺の声。

 彼女は、僕の腹にそのいたいけな顔を押し付けて、
あるいは、泣いているのかもしれなかった。

 だって僕は今、本当に残酷なことを言っているのだから。

「なんとかしてやるなんて言えないし、きっと僕じゃ、なんともできないと思う。
生きて、死んでいくその流れは僕には止められない。
だからお前と永遠に一緒にいてやるって約束することは――できない」




137 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:05:52.19 ID:u7NBXYmkO

「…………、………」

 ぐすっという音。
抱き締めた僕の体を押し退けようと暴れる八九寺。

 弱い力。

 その小さな孤独の体を離すまいと、僕は力を込めた。

「だけどさ、八九寺。永遠に一緒にはいられないけれど」

 だけど、せめて。

「少なくとも――一生一緒には、いるから。
僕が死ぬまでは、絶対にお前の側にいるから」

 何もできない。
 永遠を約束することはできない。
 僕に出来るのはせめて、一生を約定することくらいだ。




138 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:06:58.35 ID:u7NBXYmkO

 八九寺真宵。

 蝸牛に迷った少女。

 僕の友達。

 一生、友達だ。

 無責任な僕の一生じゃ、彼女の孤独を埋めきることはできないかもしれないけれど。

「今のところ、こんなことしか約束してやることが、出来ないけれど……」
「………いえ」

 ぐいっと僕の体を押し退けた八九寺は、うつ向いて必死に目元を擦ると、
それからしばらくして、ゆっくりと顔をあげた。

 ちょっとだけ赤い目
 だけど――晴れやかな、笑顔だった。

 幸せそうな、笑顔だった。

「わたしにはそれで充分ですよ、阿良々木さん」

 充分すぎるくらいです、と。
 うさぎの目で僕を見つめた。




140 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:26:37.18 ID:u7NBXYmkO

「ごめんな、八九寺」
「何を謝っているんですか、阿良々木さん。
なんで阿良々木さんが泣きそうな顔になっているんですか。
やめてくださいよー、変な人ですねー」

 茶化すような、八九寺の声。

「そうだな、なんか変だ。
なんだろうなー、やっぱり僕は変なやつだなー!」
「存在がフィクションですもんね」
「まだ引っ張るか!
それ意外にダメージのでかい言葉だからあんまり使わないでくれないか!」
「存在がノンフィクション」
「逆にびっくりするくらい貶してねえな!」

 意味は分からないけれど。
 存在がノンフィクション。
 なんだそりゃ。




141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:29:02.02 ID:u7NBXYmkO

「阿良々木さんは存在がファンフィクションですもんね」
「確かにこれは二次創作のSSだから間違ってはいないな……」
「阿良々木さんの存在がカビ」
「普通に悪口だっ!」

 なんてやつだ。
各地で好き勝手罵倒され続けてきた僕も、
さすがに今更そんなありがちな悪口を言われるとは思わなかった。




144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:34:44.40 ID:u7NBXYmkO

「八九寺、そうやって人を馬鹿にしてると、いつか痛い目を見るぞ」
「はぁ? ああ、やだやだ、またセクハラの話ですかぁ?」
「なんて腹の立つ言い方と見下しきった目をしやがる!
セクハラなんてしねえよ!」
「分かっています。信頼していますよ、阿良々木さんは菌糸的ですもんね」
「そこまでして僕をカビ扱いしたいか!?」

 正しくは、紳士的。




145 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:40:47.70 ID:u7NBXYmkO

「まったく、阿良々木さんったら、小学生相手にそんなにムキにならないでくださいよ。
そんなだから友達が出来ないんですよ?」
「なんだとこら!」

 きゃーきゃーと追いかけっこをして。
 わざとらしく、いつも以上に、必要以上に、騒いで。

 笑った。

 笑い合った。

「では、わたしはそろそろ行きます」
「え? なんか用事でもあるのか?」
 突如切り出した別れに、少なからず僕は驚愕する。

「気ままに散歩とか言ってなかったっけ?」

 それならこのまま僕と、と言おうと思うと、
八九寺は首をゆるゆると振って道の先を指差した。

「やっぱりわたしでは――お二人には、敵いませんから」




146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:46:00.65 ID:u7NBXYmkO

 そこには、きっと同じく早朝の散歩のつもりなのだろう。

 先月、ロングヘアーをばっさりと切り落とし、ショートカットに揃えられ、
ぎざぎざとシャギーの入った前髪。
取り外された鉄仮面。

 蟹に行き遭った少女。

 戦場ヶ原ひたぎが歩いてきていた。

「それでは阿良々木さん、また会いましょう」

 八九寺はそう囁いて。

「ああ、うん……またな」

 最後ににっこりと今日一番の笑顔を見せて、去っていった。




147 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:47:44.52 ID:bGFewC0O0
八九寺の出番が終わり・・・だと・・・




148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:49:42.53 ID:u7NBXYmkO

「………ふむ」

 その後ろ姿を見ながら、思う。

 『また会いましょう』。

 いい言葉だ。次がある。また会える。

 なんて思っていたら、戦場ヶ原がこちらに気付いた。
 ぱあ、と表情を輝かせ、にぱっと笑顔になると、ぱたぱたと手を振ってこちらに駆け寄ってくる。

「よう。奇遇だな、こんな朝っぱらから散歩か?」
「そうよ、散歩」
「はあん。とりあえずガハラさん、おはよう」
「うん、おはよ、暦きゅ




149 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 10:52:59.88 ID:u7NBXYmkO

 004

 あっぶっねぇー。

 秘技・章変えリセット。

 いや、本当に危なかった。
ついうっかり、原作では体よく退場させられた
ドロデレ状態のガハラさんを登場させてしまうところだった。

 つーかどうしろって言うんだよ、
暴言吐かないで
用がなくても電話してきて
絵文字できゃぴきゃぴなメールを送ってきて
にこにこ笑顔で
おまけに僕にちょっとアレなニックネームをつけるような普通の女の子の戦場ヶ原なんて、どうしろというのか。

 いや、彼氏の僕としては命の危険はないし、デレてくれたことによる弊害は欠片もないのだけれど、
オーディエンス的にこれほどつまらないものもないだろう。

 そんなわけで、戦場ヶ原としばらく仲良く喋った僕は、
再び自転車に乗って走っているのだった。




151 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:07:11.34 ID:u7NBXYmkO

 目的地というか、目的人は我が可愛い後輩にして自他共に認めるエロ娘こと、神原駿河。

 さっき戦場ヶ原と出会った時に言われたのだけれど、
最近神原と会う機会がなかったから、寂しがっているのだそうだ。
当然悪い気はしないけれど、しかし相変わらず無駄に仲が良いよな、
この頃のヴァルハラコンビ。
そのうちあそこで百合カップルが成立し、
僕の方が邪魔者みたいな扱いをされかねない。

 ………笑えねえー。

 まあそんなわけで、戦場ヶ原の情報によると休日のこの時間はランニングをしているらしい神原を探して、
ふらふらと町中を走っているという結論に辿り着くわけである。

 神原はもう携帯電話を持っているのだから、
会うんだったら電話をすれば早い話なのだけれど、
それはそれ、なんとなく宝探しみたいで面白い程度の理由。

 ……要するに、暇なのだ。




154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:19:37.29 ID:bGFewC0O0
デレガハラさんを喋らせないところに>>1にとてつもないセンスを感じたわ




156 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:33:25.14 ID:u7NBXYmkO

「しっかし、神原ねぇ……」

 あいつ、毎朝10キロ走ってるとか言ってたしな。
普通に考えて、神原の家から半径5キロ以内にいるということだが、
この狭い町じゃ、5キロはなかなかの距離である。

 とりあえず神原の家に向かってみるかと方向を見定めたところで。

「うん?」

 ポケットに入れていた携帯電話が振動した。
取り出してみると、液晶画面に表示されていた名前は。

「……千石?」




157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:41:44.50 ID:u7NBXYmkO

 千石撫子。

 月火の友達。

 僕の妹的存在。

 極度の人見知りの前髪っ娘。

 そして――蛇に巻かれた少女。

 まだ中学生の千石は携帯電話を持っていないので、自宅からの発信である。
うちみたいな田舎町では、携帯電話を持つのは高校生になってからと相場が決まっているのだ。

 もっとも僕の二人の妹は、私立中学に通っているということもあるが、
なによりその突飛なファイヤーシスターズ的活動の危険度から、
首輪の鈴のような意味合いで持たされているのだけれど、
しかし実態は悪い方向にしか作用していない気がする。
ファイヤーシスターズが得る情報を増やすのは、
更なる危険以外のなんでもない。




158 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:43:13.81 ID:u7NBXYmkO

 なにはともあれ、千石である。

 蛇の一件以来、僕と千石は、こうしてたまに連絡を取り合うような仲になっていた。
 僕は自転車を停めると、電話に応じる。

「はい、もしも「もっ! もひもひ暦お兄ひゃん!? 千石撫子れすっ!」

「……………」
「………、ひぅ……っ!」

 噛み噛みだった。
 八九寺なんか目じゃない噛み方だ。
 しかもこっちが返事する前に言葉を被せてきた。
どれだけ力一杯電話しているのだ、と思う。

 これじゃあまるで、好きな人に電話をするのに、
電話の前で1時間くらい、コールしようかしまいか、したらなんと言おうか考えて考えて、
その末になんとか電話したのはいいものの相手の声が聞こえて舞い上がってしまい、
結局用意していた気の効いた挨拶もなにもなく、
大きな声でなんの代わり映えもしない決まり文句を言ったのだけれど、
それすら噛んでしまった恋する乙女みたいじゃないか。

 いや、まあ、僕と千石に限ってそんなことはあり得ないのは、百も承知なのだけれど。




159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 11:51:57.29 ID:u7NBXYmkO

 あの引っ込み思案な千石のことだ、元々電話は苦手とかそんなところだろう。
前から電話の時はこんな感じだったしな。

 相手が僕でよかったな、千石。
これで相手がクラスの男子だったら、勘違いさせてしまうこともあるかもしれないし、
まあ、そんなことにならないようにこうして僕が練習台になってあげられているのならば、
兄的存在としては冥利に尽きる。

「ああ、僕だけど。どうしたんだ、千石?」

 自らを落ち着かせるためだろう、
受話器のスピーカーの向こうで深呼吸をしている雰囲気が伝わってきた。
 電話くらいでこれだもん、まったく初々しいなぁ。

「あ、うん。暦お兄ちゃん、あのね」

 千石は、自らを鼓舞するように小さく掛け声をかけて。

「あのね、暦お兄ちゃん。撫子、今日、暇なの!」
「…………ふうん」

 自らに今日、これといった予定がないということを、宣言した。




162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:00:45.11 ID:u7NBXYmkO

 だからどうしたのだろうと、とりあえずリアクションは相づちをうつに留めたところ、
千石はちょっと落ち込んだみたいな声色になって続けた。

「……暦お兄ちゃんは、今日、なにか用事ある?」
「いや、これといってはないけれど」

 というか家を飛び出して、暇をしていたところだ。

「だ、だったら、よかったらなんだけど、撫子と遊ぼう?
ううん、暦お兄ちゃんは今日、撫子と遊ぶ以外にないんだよ」

 そっかぁ、遊ぶしかないのかぁ、と変に納得してしまった。
相変わらずの消去法主義である。

 しかし、なんだかその消去法の使い方が、以前より積極性を帯びてきているような気がした。
前までは今回のように、他人の行動について消去法で呼びかけるみたいなやり方は、
あまりしなかったように思う。

 対人恐怖症の千石が、少しずつだけれどそうやって積極的になっていくのは、
兄的存在としては素直に喜ばしいことだ。




163 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:02:51.40 ID:7N87JZyZ0
ラスボスはやっぱりラスボスか




164 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:03:18.38 ID:u7NBXYmkO

「まあ、僕はいいんだけれど……」

 問題は、月火だ。
千石は元々月火の友達であり、その千石が遊ぼうと誘ってきたからには、
『ららちゃんと遊びたいのだけれど、ついでに暦お兄ちゃんも一緒にどう?』
というニュアンスが、言わずとも含まれて然るべきである。
まさか千石が、友達の兄単体と積極的に遊びたがるわけもない。

 だが、僕は今、その月火(と火憐)から逃げ出したからこそ、
暇を持て余しているのであった。

「月火ちゃんはちょっと……えー、忙しいみたいなんだよ。
だから遊ぶとしたって、僕一人になっちゃうのだけれど」
「い、いいよ。撫子、暦お兄ちゃんと二人っきりでいい。むしろ都合がいいくらいだよ」

 ……僕に気を遣って、友達と遊べないことを都合がいいだなんて言わせてしまった。

 うわあ、なんか罪悪感。




165 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:10:59.64 ID:u7NBXYmkO

「甲斐性なしの兄的存在でごめんな、千石……」
「かっ……甲斐性? え、えっと、男の人が異性に甲斐性の話をするのって、つまり……」

 なぜか慌てた声。

「う、ううん、大丈夫だよ暦お兄ちゃん!
その、式は別に無理してしなくてもいいし、そうだ、撫子もパートとかするから……
だって撫子は、暦お兄ちゃんと一緒にいられるだけで、し、幸せだよ!」

 なんだかこちらが思っていた以上に気を遣わせてしまっていたようで、
場を和ませようと慣れない冗談を言って顔を赤くしている千石の様子まで浮かんでくる。
 ……不甲斐ない限りだった。




167 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:16:52.33 ID:u7NBXYmkO

 それにしてもどうしてだろう、そんなことは絶対にあり得ないのに、
実はこの会話が録音されていて、
後々自分の首を絞めかねない重要なポイントになるかもしれないなんて、
失礼極まりない気分になった。
徐々に包囲網を狭められている錯覚。

 そんなこと、本当に絶対、100%、あり得ないのは分かってあるのに。

 特に千石相手の時に、そんな妄想は本当にナンセンスだ。

 変に息苦しいのはきっと、千石は僕の周囲にいる人間の中では珍しく女の子女の子しているタイプだから、うっかり変なことを言って嫌われたりしないよう、少なからず緊張しているせいなのだろう。
あっはっは、ダメなやつだなあ、僕は。




168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:19:33.49 ID:u7NBXYmkO

「よし。とにかく、千石が僕だけでもいいんならいいぜ、遊ぼう。
どうする、どこか出かけようか?」
「あ……撫子の家、今日、お父さんもお母さんもいないの」
「そっか、千石のところも共働きだったな」
「うん。だから撫子、お留守番してなくちゃいけなくて、だから……」

 なるほど。
遊びに誘われた理由が分かった、一人で留守番をするのが寂しかったのか。
そういうところはやっぱりうちの馬鹿妹二人と違って、中学生相応な感じが可愛らしい。




170 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:28:16.03 ID:u7NBXYmkO

「あー、じゃあ、千石の家にお邪魔させてもらっていいかな?」
「う、うん。撫子の家で遊ぼう。撫子の家で遊ぶ以外にないんだよ」
「今のケースの場合、本当に千石が家を留守に出来ないのだから、確かにそれ以外にないな」

 もはや消去法でもなんでもないただの事実確認だった。

 千石の方にも都合というものがあるだろうから、
昼辺りに千石家にお邪魔させてもらう約束を取り付けて、電話を切った僕は。

 丁度タイミングよく、後方から、
たったったっ……という小気味のいいリズムが耳に忍び込んでくるのを感じた。




171 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:32:35.04 ID:u7NBXYmkO

 携帯をポケットにしまい、振り返る。

 そこには、健康的な肌を剥き出しにする、タンクトップとショートパンツという格好で、こちらに向かって走ってくる神原の姿があった。

 神原駿河。

 バスケットボール部の元エース。

 そして――猿に願った少女。

「おーい、神原!」

 神原は僕の姿を見つけると、あっという間に僕の前まで走ってくると、
まるでちょっと水溜まりを避けるみたいな気軽さで僕の頭上を飛び込し
(決して僕の背が低いわけではなく、神原駿河の尋常じゃないジャンプ力のおかげだ。
僕の身長は決して低くない。決してだ!)、
着地を済ませると爽やかに笑った。




173 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:42:46.20 ID:u7NBXYmkO

「ふぅ……おはよう、阿良々木先輩。
いやあ、朝から敬愛する阿良々木先輩に会えるとは、
神の偶然は私になんという幸運を与えてくれたのだろうか。
いや、違うな。私にとっての神は即ち阿良々木先輩なのだから、
阿良々木先輩のもたらすすべての行為、偶然、そしてその結果は
私にとって感服しうる奇跡と成るのだ!」
「…………おはよう、神原」

 出会って早々、訳が分からない誉め殺しトークが爆発した。
猿の一件で出会った時から、無闇矢鱈に僕に絶大な信託を寄せる神原だけれど、
相変わらず僕はこの神原のスタンスに慣れることができない。

 謂われのない敬意。

 身に余る尊敬。

 当然、悪い気分ではないのだけれど。

 だけどやっぱり、たまにはフィフティフィフティの関係でありたいという願望も、持ってしまうのだ。




174 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:45:51.63 ID:u7NBXYmkO

 ところでそれはさておき神原駿河、
あんなペースで走ってきて更に僕を飛び越す大ジャンプまでしたというのに、
まったく息が乱れていなかった。
僕のような帰宅部にしてみれば恐るべきスピードだったのだけれど、
ともすれば自動車と並走したっておかしくない神原のことだ、
あの程度の速度は慣らしなのだろう。
しかもあのまま、あるいは更にスピードアップして10キロマラソン。
信じられねえ。

 長距離走は苦手とかいう初期設定はどこにいったんだと言いたい。

 つーか自分を鍛えるのが好きって点、
それに関して言えば火憐の方が一枚上手かと思ったけれど、
やっぱり神原も負けちゃいなかった。
毎朝夜、苦手なはずのマラソンをするとか、M格好良いよ。




175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 12:48:13.86 ID:u7NBXYmkO

「それで阿良々木先輩はどうしたのだ?
今日は日曜日だから、こんな朝から外に出ても、
ランドセルを背負った可愛い女子小学生を視姦することは叶わないぞ」
「本当にいい笑顔で何を言ってやがる!
僕にそんな趣味はないし、そんな趣味をした知り合いも皆無だ!
なによりもし仮にあったとしたって視姦という言葉を使うな!」
「え……私のライフワークの一つなのだが」
「そうだった!」
「そのためにほら、飴ちゃんは常備している」
「そのためって何のためだ、手懐ける気満々じゃねえか!」
「てっ、手懐けるなんてとんでもない!
その程度でこの私の幼女に対する愛よ……愛情が収まるか!」
「ギリギリ愛欲と言わなかった理性は誉めてやるけれど、頼むから誘拐とか止めてくれよな!」
「もし私が捕まったら、テレビの取材に対して『あいつはいつかやると思っていましたよ』と答える役を頼んでいいか、阿良々木先輩」
「M格好良いってレベルじゃねーぞ!」

 世間的に死ぬことすら快感に変えるのか。怖すぎる。




181 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:03:16.54 ID:u7NBXYmkO

「まあ冗談は置いておくとして」
「ちょっと待て、神原。
どこから冗談なのかでこれからのお前に対する僕の接し方が変わるぞ」

 僕の言葉に、神原は何でもないことのように即答する。

「そんなの、『もし私が捕まったら』のくだりの、
『答える役を頼んでいいか、阿良々木先輩』の
『阿良々木先輩』の部分が冗談に決まっているだろう」
「なんの解決にもなってねえ!
それはただ、その台詞を言うように頼む相手が僕じゃなくなるだけだ!」

 もう最低だ。

 結局何か間違いを犯すことは前提なんじゃねえか。

 ろくな話じゃねえ。




182 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:12:33.37 ID:u7NBXYmkO

「……ふむ。少し冗談が過ぎてしまったな」

 神原はちょっと反省したようにそう言葉を落とすと、
爽やかに微笑んだ。

「安心してくれ、阿良々木先輩。
真面目に言えば、私の『やあ、阿良々木先輩。奇遇だな』という台詞からが冗談だ」
「……うん? 神原、お前、今日そんなこと言ってたっけ?」
「いや、今日の台詞ではない。
かなり前の……そうだな、具体的に言えばの化物語(上)の261ページ上段5行目の台詞だ」
「それシリーズ通してのお前の初登場時の台詞じゃねえか!
そこからすべてが冗談だったのかよっ!?」

 神原駿河の存在そのものが冗談だった。

 いやまあ、何かと冗談みたいなスペックのやつではあるけれど。
 なんてことだ、今日は散々「存在がフィクション」と八九寺に言われていたが、
まさか本当にそのような人物が存在しようとは。




184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:21:21.81 ID:u7NBXYmkO

 ふふ、と、そこで神原は笑みを漏らす。

「まったく相変わらずノリがいい。
阿良々木先輩との会話があまりにも楽しいものだから、
ついつい遊んでしまった。
さすがは阿良々木先輩、会話にノらせたら当代無双と言われるだけある」
「いや、そんなこと言われたことねえし、
言われても全然嬉しくねえ……」

 そんなやり取りをしながら、神原は何気ない動きで、
左手で自分の肩をちょっとだけ触った。

 嫌でも目に入るのは、鮮烈な白。

 神原。

 神原駿河の、左腕。




185 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:24:00.99 ID:u7NBXYmkO

 百合で腐女子でネコで受けでロリコンで露出狂でマゾで欲求不満を自称する彼女の左腕は、
かつて怪異絡みの厄介事に巻き込まれた際の後遺症で、
包帯でぐるぐる巻きにされている。

 その下には更に――レイニー・デヴィル、猿の手が。

 神原は、僕らのように怪異に関わった人間の末路として、
体にその一部に残しているレアケースだ。
 戦場ヶ原と千石、それに火憐はしっかりと離別しているし、
八九寺は浮遊霊へと二階級特進。
月火は実際微妙なところだけれど、少なくとも祓った末に後遺症が残っているわけではない。




186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:25:34.79 ID:u7NBXYmkO

 ……とは言いつつも、少なくとも僕が知る中で残り3人、
神原と同様の状態の人間がいる。

 阿良々木暦は――血液に吸血鬼のそれが含まれ。

 神原駿河は――左腕に猿を宿し。

 羽川翼は――精神に猫を飼っている。

 違いがあるとしたら、神原と羽川は成人を迎えるまでには怪異と別れを告げることが出来るが、
僕は一生、死ぬまで――それこそ八九寺の言うように、
下手に不老不死性なんかが残っていたら、永遠に吸血鬼だ。

 まあ、それは、僕が背負うべきだと納得している罪なのだから、いいのだけれど。

 とにかくそんな神原だから、僕としては、怪異と関わってからの彼女の経過を、
ある意味一番気にかけている人物でもあるのだ。

 勿論、神原は僕程度に心配されるような柔な人間ではないのは言うまでもないのだけれど、
怪異を身に宿す人間としてなんとなく親近感に近いものを感じているのも確かなのである。

 羽川は障り猫の性質上、怪異の記憶をしっかりと保有出来ているわけではないし。




187 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:27:56.43 ID:u7NBXYmkO

 閑話……で済ませていいような軽い話ではなかったけれど、とにかく閑話休題。

「そういや神原、今日もポニーテイルなんだな」
「ああ、うむ。やっぱり走るときはこうしているのが一番楽なのだ」

 出会った当初は僕よりも短いくらいだった神原の髪は、
しかし猿の手の件が終わってから伸ばし始め、
夏休みには短い二つ結びみたいにしていて、男勝りな口調とのギャップでたまらない可愛さを持っていたのだけれど、
最近は更に長くなってきたのか後頭部で一つに纏めていることが多い。
 先が首にも届かないような短いポニーテイルは、
正直、なんだか以前の二つ結びよりも余計に幼く見えて、
僕の中で神原駿河はギャップ萌えキャラの地位を着々と確立しようとしていた。




188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:32:17.87 ID:u7NBXYmkO

「私のような者がこのような髪型をするのは、やはり変だろうか……?」
「いや、何言ってんだ、かなり似合ってるよ。
お前、元々が可愛い顔しているんだからさ、どんどん女の子っぽくしてけばいい」
「そうか……よかった」

 神原はちょっと照れくさそうにポニーテイルを触り、はにかんで続けた。

「いや、阿良々木先輩が買うエロ本の表紙は大抵、ポニーテイルの女性の写真だからな。
参考にしたのだ。気に入ってもらえてよかった!」
「……………なっ!?」

 一瞬、言葉が出なかった。




189 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:38:05.44 ID:u7NBXYmkO

「お、おおお前、なんでそんなことを知ってんだ!?」
「ふふ、阿良々木先輩はいつも決まって、ご家族が寝静まってからエロ本を買いに行くのだな。
最近買った一番新しいのは女子校生モノ。
ちょっと前に試しで買った人妻モノはあまりヒットしなかったのか、
二度と手を出さなくなった。
むしろ書店で人妻モノの本を見かける度に睨み付けるくらいなのだ、
よっぽどのハズレを引いてしまったようだな」

 全部筒抜けだった。

 後輩の女子に、夜のオカズどころかエロ本を選ぶ時の挙動の一つさえ筒抜けだった。

 もう嫌だ。

 ……もう嫌だ!




191 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:47:26.95 ID:u7NBXYmkO

「神原……なんで……」
「奇宇壮大な人柄で有名な阿良々木先輩ともあろう人が、
まさか忘れたわけではあるまい――私は最初からストーカーキャラだぞ!」
「わざわざ『ダッシュ』まで使って格好良さげに言って胸を張るな!
しかも確かにそうだったけれど、別にそこは全然メインのパーソナルじゃなかっただろ!」

 つーか全然気付かなかった。
 まさか尾行されていただなんて。

 そこで、にやりと。
 神原、実に嫌な、意地悪な笑みを浮かべた。

 神原が戦場ヶ原と再び仲良くなってから、彼女がデレるまでの間に戦場ヶ原(旧)から受け取ったスキル。
対阿良々木暦いじめっ子に特有の、本当にうんざりとする笑みだった。

 さすがはタダではデレない戦場ヶ原ひたぎ。

 いい迷惑である。
火憐には絶対に受け継がせないで欲しい。




192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 13:48:13.61 ID:u7NBXYmkO

「さあ、阿良々木先輩」

 神原は、言う。

「後輩に性生活を把握された憐れな阿良々木先輩。
今すぐここで、自らがエロ本で重視している点でも叫んでしまわないと、
最近買ったエロ本リスト(日付や自慰行為のスケジュール付き)が校内に出回ることになるぞ?」

 ……やり方が陰湿だった。
 まんま初期の戦場ヶ原だ。
 本当、ろくな話じゃねえ。

「くっ………」

 だが僕は、その程度の脅しには屈しない!

 戦い抜いてみせる!




196 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 14:00:17.14 ID:u7NBXYmkO

「そうだ、戦場ヶ原先輩にもバラしてしまおう。
戦場ヶ原先輩はああ見えて、ある意味私以上に阿良々木先輩を神格視しているからな、
以前ならまだしも、今の戦場ヶ原先輩がこれを知ったら
少なからずショックを受けて涙を流すことになるだろう」



「素人の投稿ページが特にエロいッ!!!」



 日曜日の午前。
 後輩の女子に散々いじめられて、住宅地でエロ本の好きなポイントを叫ぶ男子高校生の姿が、そこにはあった。

 ……僕じゃないと信じたい。

 僕だけれど。

 僕だよ。

 くそう……。




198 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 14:04:23.40 ID:u7NBXYmkO

「あっはっは、さすがは起居挙動の一つひとつでさえ余すことない雄大さな満ちた阿良々木先輩、
エロ本の好きなところを叫ぶ姿さえ神々しい!」
「もうお前それ完っっっ璧に馬鹿にして言ってるだろ!?
大笑いじゃねえかっ!」

 分かって欲しいのだけれど、旧戦場ヶ原や八九寺ならともかく、
神原にいじめられると僕は夢に出るくらいに凹むのだ。
千石も最近神原と仲が良いし、悪影響が伝播しまくりである。
もし仮に千石にいじめられるようなことがあったら、
多分、僕は立ち直れないで1週間は寝込む。

 勘弁してください。




199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 14:06:19.52 ID:u7NBXYmkO

「しかし阿良々木先輩、昨日はわざわざ深夜に外出したのに、
コンビニにすら近寄らなかったな。エロ本を買いに出たのではなかったのか?」
「昨日もつけられてたのか!?
まったく気付かなかった、お前マジでストーカーの才能ありすぎだろ」
「いやあ……」
「誉めてない!」

 なんで今更になって、こんなベタなギャグをやらなきゃならないんだ。

「夜道は危険だからな、私は尊敬する阿良々木先輩を、影ながら見守っているのだ」
「いや、こんな田舎町で、早々危険になんて出会わねえよ……」

 入間人間の作品じゃあるまいし。
ていうかあの人の某作品はやたらめったら殺人が起こりすぎで、
正直、あんまり好きじゃないんだよな。
 嘘だけど。




203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 14:15:55.74 ID:u7NBXYmkO

「何を言うか、阿良々木先輩、危険はどこにでも潜んでいるぞ!
例えば深夜、全裸にコートを来た露出狂に襲われるかもしれないし、
あるいはその人が百合だからと安心しても阿良々木先輩個人に好意を抱いていたらそんなもの関係ないし、
他には雨合羽を着た悪魔に襲われたりとかするかもしれないではないか!」
「すべからくすべてお前のことじゃねえか!
つーか裸コートって、お前、何やってるんだよ!」
「頑張る駿河ちゃん!」
「頑張るところが無駄すぎる!」

 つーかマジでやめろよ。
バスケットボール部の元エースだろうと、神原だってそれ以外は普通の女の子だ。
そんな痴女みたいなことをして、本当に取り返しのつかないことになったらどうするんだ。

「痴女って、阿良々木先輩、よしてくれ!」
「あ、そうだな、ごめん。女の子に名指しで言うような言葉ではなかった」
「照れるではないかっ!」
「……神原的には言われると嬉しい言葉なんだ、痴女って……」

 がっくりと力が抜けた。

 底無しすぎる。
 どんだけだよ。




211 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:06:02.59 ID:u7NBXYmkO

 気を取り直して。

「ああ、そうだ、神原」

 さっきの話を聞いて、ちょっとした疑問を神原にぶつけてみることにした。

「昨日の夜、僕をつけて外に出てたんならさ、祭の太鼓の音聞いただろ?
あれって、どこでやっているのか分かるか?」

 もし近くでやっているのなら、2日間開催しているか調べて
戦場ヶ原でも誘おうかと思ってそう言うと、神原は首を捻った。

「太鼓? なんの話だ、阿良々木先輩」
「あれ、聞こえなかったのか? 和太鼓だよ、祭囃子。
ちょっと季節外れな祭だなって思っていたのだけれど」
「……いや、私には聞こえなかったが。祭囃子?」
「うん。あぁ……もしかしてあれかな。
吸血鬼補正で、耳がよくなり過ぎていたのかもしれない」

 阿良々木暦の、細やかな吸血鬼性。

 それも多少、吸血鬼の力は夜の方が効果が上がるし。




213 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:14:24.47 ID:u7NBXYmkO

 僕がそう呟くと、神原はしかし、「そんなはずはないのだが」とかブツブツ言いながら怪訝そうな顔をしていた。
そんなはずはないって、この辺りで祭のスケジュールはないということだろうか。
気になるけれど、まあ、昨夜は静かだったから、
神原の知らない町の音でも拾ったのだろう。

 吸血鬼の耳は、本当に敏感なのだ。

 だから僕はぼんやりと、改めて神原の姿を眺めて。

「しかし神原、相変わらずすげえ格好だな」

 呟いた。




215 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:16:45.21 ID:u7NBXYmkO

 動きやすそうなタンクトップにランニングショートパンツ。
すらりと伸びた、文字通りカモシカみたいな足に引き締まった腕。
ほとんど裸みたいな格好なのだけれど、神原が着ていると、
どこかひどく健康的な姿にさえ見える。

「……へ?」
「いや、お前に露出狂の気があるのは分かっているけれどさ、
ちょっと刺激が強すぎるんじゃないか?
神原が着る分には、僕からすればむしろ健全で色気とは無関係に格好良いけれど、
みんながそうとは限らないんだし……」

 なんて、ちょっとお節介を働かせたら。




216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:22:05.79 ID:u7NBXYmkO

 それはまさに、奇奇怪怪と呼ぶにふさわしい――奇妙な光景だった。

「なっ……な、な……!」

 神原が。

 あの、神原が。

 自他共に認めるエロ娘。

 百合で腐女子でネコで受けでロリコンで露出狂でマゾで欲求不満な神原駿河が。

 自らの姿と僕の顔を順番に見て――顔を真っ赤に染めた。
ぼん、っと音が出そうな勢いで、もう耳まで赤い。

 そう、それは、まるで。

 ……羞恥に身を染めるように。




217 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:24:31.99 ID:u7NBXYmkO

「ちょ、神原? 大丈夫か?」
「だっ、だ、だだだだ……だいじょぶなわけないだろうっ!」

 金魚みたいに口をぱくぱくさせて、真っ赤な顔で神原は叫んだ。
ちょっと呂律が回っていない上に、声が裏返っている。

 神原は、本当に羞恥からなのだろう、
ちょっと前屈みになり、ばっとその腕で露出だらけの体を抱き締めるようにして、
隠そうと躍起になっていた。

 なに、この神原。

 なにこれ、めちゃくちゃ可愛い……。




219 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:28:15.35 ID:u7NBXYmkO

 じゃなくて!

 そうじゃなくて!

 ファイヤーシスターズといい神原といい、なんだっていうんだ。

「おいおい、どうしたんだよ、神原、お前らしくもない」
「だっ、だだだ、だって、あ、あああ阿良々木先輩に!」
「僕に?」
「こ、こんなはしたない格好を……み、みみみ見るぁれてしまった!」

 神原は、そんな、なんだか千石みたいなことを言いつつ。
 絶叫した。




220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:29:39.32 ID:u7NBXYmkO

「これでは変態だと思われてしまうっ!!!!」

「今更気にするような話か、それは!?」

 僕の中じゃとっくに変態=神原みたいになってるよ!
手遅れにもほどがあるだろう。

 つーか割と初期から、お前は変態キャラを押し通していただろうが。
「神原は実は変態じゃない」と言われることが人生で一番屈辱だとまで言い切っていたくせに。
 キャラの方向転換は、戦場ヶ原だけで既に手一杯だぞ。

「う、うぁ……なぜだか物凄く恥ずかしいぞ……なんだこれは。
ダメだ、やめてくれ、こんな格好の私を見ないでくれ、阿良々木先輩!」
「いや……見ないでもなにも、今の今まで、その格好の神原と向かい合って喋っていたのだけれど」
「ひゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ!!!!!」
 そんな、およそ神原らしくない叫び声と共に、彼女は真っ赤な顔を両手で隠し、
その場にぺたりと座り込んでしまった。

 なんだこの生き物、可愛すぎる……。
 さすがギャップ萌えランキング急上昇キャラクター。




224 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:38:07.23 ID:u7NBXYmkO

「あ、えっと、神原……?」

 しかし、あれだな。
「ひぅ……ひっく……」

 と肩を震わせ始めた神原を前にしていたら、まるで僕が苛めているみたいな図みたいだ。

 最近、戦場ヶ原は阿良々木と付き合うようになってからおかしくなった(半分くらい事実)とか
、町中でいきなり女子小学生に抱き着いてセクハラをしている阿良々木を見た(紛れもない真実)とか、
阿良々木が女子バスケットボール部の元スターといきなり仲良くなったのはおかしい(まごうことなき現実)とか、
校門前で女子中学生からブルマーとスクール水着を受け取っていた男子高校生は阿良々木だ(100%史実)とか、
羽川が委員長スタイルをやめたのは阿良々木のせいだ(まあ……嘘ではない)とか、
阿良々木は妹と歯磨きを使ってエロいことをしているらしい(くっ……虚偽とは言い切れない)とか、
いやもう一人の妹の寝込みを襲ってキスをした(もうやめて!)とか、
各所で地味に評判が悪い僕である。
 こんなところを誰かに見られるわけにはいかないのだ。




225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:41:37.79 ID:u7NBXYmkO

「神原?」
「………っ、……」
「駿河?」
「………ひっ、」
「駿河さん?」
「っく……っ」
「ひらがなみっつでするがさん?」
「…………、……ひぅ」
「するがちゃーん?」
「な、なんだ、阿良々木先輩……」

 反応しやがった。
 すげえ、ことみパワー。

「えっと、その……さ。大丈夫だって、ほら、僕、別に神原のそんな姿見ても、
いやらしい気分になったりはしないし……」
「阿良々木先輩がどうとかではない! 私が恥ずかしいのだ……!」
「……………」

 いや……。

 ……なんつーか。

 かぁーわぁーいぃーいぃー!




226 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 15:45:34.46 ID:u7NBXYmkO

「ま、まあ、神原。とりあえず立てよ」

 僕が何気なく神原の肩に触れると、大袈裟にびくんと体をすくませる。

「わっ!」
「………わ?」
「私のことは忘れてくれ、阿良々木先輩っ!
うわあああああああああああああああ、もういやだあああああああああああああああああああああ!!!」
「あ、神原っ!」




230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:02:51.52 ID:u7NBXYmkO

 そう叫んで、自称エロ娘は、
自動車と並走どころか追い抜くような速度で走り去っていってしまった。

「阿良々木先輩に嫌われるうううぅぅぅぅー……」

 という声が遠ざかっていく。

「………………」

 うぅむ。

 訳が分からないけれど、なんだか本当に台風みたいなやつだ。

 さて。
 取り残された僕は。

「眼福」

 とりあえず、拝んでおいた。




235 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:20:24.84 ID:u7NBXYmkO

 005

 所変わって、千石家。

 阿良々木家からの逃避行は、一度神原家の近くというかなり遠くまで行ったくせに、
結局、自宅から自転車で10分圏内の地点に戻ってきていた。
まあ、妹たちもまさか、僕が千石と一緒にいるとは思わないだろう。

「暦お兄ちゃん、どうしたの?」
「うん? ああ、なんでもないよ。ちょっと考え事」

 ふっと、空気に染み込むようなウィスパーボイスが僕の意識を引っ張り起こすと、
千石の僅かに赤い顔が目の前にあった。
ぼーっとしてしまった僕を心配してか、顔を覗き込んでいたようだ。

 千石は、普段は目元をすっかり隠す前髪を、
今日はカチューシャであげるのではなく、一つにまとめてゴムで結び、
更にそれを可愛らしいヘアピンで寝かせるようにしていた。
 夏休みに家に招かれて最初見たときは、千石の自宅スタイルに散々驚いたものだけれど、
さすがに何度か訪ねるうちに慣れてきた。




240 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:31:34.96 ID:u7NBXYmkO

 ちなみに千石の部屋では、相変わらずクーラーが稼働していない。
エコとか環境問題とか、やたらと気にしてしまう年頃だしな。
兄的存在としてそれに付き合うことに、なんら不満はない。

 ないの、だけれど。

「千石……その、扇風機……」
「扇風機? これがどうかしたの?」
「どうかしたっていうかさ……」

 ううむ。
 なんと言うべきか。

 さしもの千石もずっと冷房機器無しでは辛いと感じたのか、
満を持して今日は扇風機が登場したのだけれど、
その首のスウィングが千石の方に向く度に、ばたばたとワンピースがはためいてはしたない。




241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:32:51.03 ID:AKJXAFmiO
ラスボすげぇ……




244 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:35:27.24 ID:u7NBXYmkO

 そもそも千石の今日のワンピースというのが、
また変にだぼだぼというかぐてっとしたデザインで、
たまに肩までずり落ちては慌てて戻す動作を繰り返していた。

 ……ていうか、あのワンピース、腰の周りもなにもなく、すとんと一直線で、
正直メンズの大きなティーシャツにしか見えないんだよな。
まあ、最近の女子中学生の間で流行っているスタイルのワンピースなのだろう。
ルーズソックスみたいなものだ。

 ファイヤーシスターズがこんなタイプのワンピースを着ているところは見たことないけれど、
あれを参考に女子中学生の流行りを見極めようなどという愚行が無意味であることくらい、
兄の僕は充分にわきまえている。

 火憐は機能性重視のジャージ一択、月火は月火で和服至上主義だ。
まったくアテにはならない。




245 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:37:05.58 ID:7N87JZyZ0
デュララ木さんのスルースキルパネェな




246 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:41:53.03 ID:u7NBXYmkO

 とにかく、千石相手に余計な詮索は無用だが。

 しかしなんと言って注意するべきかな。
千石は僕を完全に信頼しているというか、
男の前でそういう格好をすることを、恐ろしいくらい意識していない。

 まあ、中学生だしそんなもんかとも思うし、
勿論僕は千石相手にそんなやましい気は一切ないから、
この場においてはまったく心配ないのだけれど、
いつか千石がクラスの男子を家に招くような時が来るまでにはなんとかしてやらないと。

 かと言って変にそういうことを言って、
不潔だなんだと軽蔑なんかされたりしたら嫌だという、
チキン根性も未だ根強い。

 ……ま、いいか。
 いずれ千石にもそういう意識が芽生える日が来るだろう。

「……なんでもない」

 と、とりあえず僕は断りを入れてから。

「それで千石、何して遊ぶ?
テレビゲームとかは、あんまり複数でできるの持ってなかったよな」

 そう訊いた。




248 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:44:25.34 ID:u7NBXYmkO

「うん。ごめんね」
「いや、謝るようなことじゃないけれど……」
「あ、そうだ。撫子、この前新しい携帯ゲーム機買ったよ」
「マジで? DSは、確か持ってたから……」

 この前、やたらと綺麗に使っていたDSを貸してもらった。
 PSPかな?

「これ。ワンダースワン」
「またなんでこう微妙な……」

 ていうかまだ売ってるところあったのか。

「面白いよね」

 くすくすと楽しそうに笑う千石。
 いや、千石が満足しているのならいいんだけれど。
 いいんだけどさぁ……。




249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:48:01.18 ID:wsu6P6o20
ワンダースワンとは流石だな…ww




250 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:49:24.82 ID:u7NBXYmkO

「しっかし、ワンダースワンね。
僕、ワンダースワンの起動した時の音が好きで、
それを聞くために何度も電源入れたり消したりしてたら、
結局1週間で壊したんだよな」
「あ、分かるよ、暦お兄ちゃん。
ふぃーん、みたいな音だよね。
なんだかすごく近未来な感じがして、撫子も好き」
「そのハード自体は近未来どころかもう遠い過去の産物だけどな……」

 でもやっぱりあの起動音は、現在発売されているどんな携帯ゲーム機のものよりも落ち着く。
ソニーはあの起動音だけ買いとって、PSPに搭載すればいいのに。




251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:51:59.03 ID:u7NBXYmkO

「つーか携帯ゲーム機じゃあやっぱり、二人ではできないな」
「うん……あ、そういえば据え置きのも新しいの買ったの」
「お、いいじゃん。それやろうぜ!」

 据え置きゲームか。
Wiiスポーツとか、千石がやったら可愛い気がするなぁ。
 なんて思っていたら。

「じじゃーん。 セガ・サターン」
「なんでさっきからもう普通に作ってないようなチョイスばっかりなんだ!?」

 そりゃあ、MSX2やポピラ2をやる女子中学生よりはいいかもしれないけれど。
 何かと極端すぎる。




252 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:54:23.18 ID:wsu6P6o20
セガサターンwwww




253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:56:24.35 ID:u7NBXYmkO

 つーか、目が悪くなるからテレビとかゲームはあんまりやらないみたいなことを言っていたのに、
千石、いつの間にかすっかりマイナーゲーム機収集キャラだ。
ほぼ全キャラが初期設定から変わりすぎて、収拾がつかなくなるぞ。

「暦お兄ちゃん、セガ・サターンは嫌いだった……?」
「嫌いもなにも、実は触ったこともないよ……」

 恐ろしく反応に困るネタ振りだ。

「そうなんだ。撫子、セガ・サターン好きだよ。
でも実はハードは売ってたんだけど、ソフトが全然なくて一つしか買えなかったんだ」
「まあ、そうなるよな。
まともにセガ・サターンのソフトと取り扱ってるゲーム屋なんて、もうほとんどないし」




254 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:58:24.02 ID:u7NBXYmkO

 近所のゲームショップじゃ、そもそも中古コーナーですら猫の額程度のスペースしか設けていなかったのに、
DSやらPSPやらPS3やらWiiやら一気に新たなハードが出たせいでそこも追いやられ、
しばらくは投げ売りワゴンに放り込まれていたけれど最近それすらなくなった。

 セガ・サターン。
 デザインは嫌いじゃないんだけれど。

 カプコンの格ゲーマーには夢のようなハードである。




255 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 16:59:32.00 ID:u7NBXYmkO

「で、その買ったソフトってのは、なんなんだ?」
「うん、これ」

 千石がごそごそと取り出したのは。

「なっ……それはっ……!」

 なんと。
 あろうことか。

 『QUIZなないろDREAMS~虹色町の奇跡~』だった。

 『QUIZなないろDREAMS~虹色町の奇跡~』。
 あれはいつのことだったか、
以前、八九寺とこのゲームについて熱く語った幻の恋愛クイズゲームであるところの、
『QUIZなないろDREAMS~虹色町の奇跡~』だ。
ゲームについての説明はもはや不要だろう。
ていうかあんな長い説明台詞を一から言い直したくない。お察しください。

 マジかよ。
 八九寺、お前の続編を望む草の根活動は、とんでもない局所で地味に花を咲かせかけているぞ。




256 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:03:31.27 ID:u7NBXYmkO

「暦お兄ちゃん、これ知ってるの?」
「知っているとも」

 勿論、知っているとも。

 八九寺に『阿良々木さんはリンツを狙うような人』呼ばわりされた作品なのだ。

 だが、僕はあえて声を大にして言いたい。言ってやりたい。

 よし。
 言おう。

「残念ながら僕はリンツよりも絵美さん派だッ!!!」

 言ってやった。
 唐突にそこだけ叫んでやった。

 僕は決してロリコンじゃないから、シャルロッテ――通称ロッテなるロリキャラに心を動かされることなど、あり得ないのである。




258 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:07:08.15 ID:u7NBXYmkO

「………………」
「はっ……!」

 やべえ。
 思いっきり千石に引かれていた。

「……こ、暦お兄ちゃんは、絵美さんが好きなんだ?」
「やめてくれ! そんな同情に満ちた慈愛の表情で僕に話を合わせないでくれ!」
「だ、大丈夫だよ、暦お兄ちゃん。
撫子はロッテちゃん可愛いって思うし……」

 千石がロリコンだった。
 衝撃の新事実である。

 つーかあの千石が、クイズ形式とは言え恋愛ゲームの類を、
咄嗟に好きなキャラ名が出る程度にやり込んでいることの方がむしろ驚きだ。




262 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:10:30.50 ID:u7NBXYmkO

「ロッテと言えば千石、知ってるか?」
「うん? なぁに?」
「このゲーム、元はといえばアーケードでゲームセンターに置いてあったゲームを
家庭用ゲーム機に移植した、いわゆるコンシューマ版なのだけれど、
アーケード版ではロッテが貧乳を思いっきり露出してしまうシーンがあるんだぜっ!!」
「………………」
「カプコンの奴ら、コンシューマ版ではそのシーンをカットしやがったんだ。
ロッテの貧乳の代償がリンツ攻略可能への仕様変更だと言うのなら、
むしろ僕はリンツルートなんかいらなかったねっ!!!」
「………………」
「はっ……!」

 やべえ。
 思いっきり千石にドン引かれていた。

「こ、暦お兄ちゃんは、ロリコンなの……?」
「違う、僕はロリコンじゃない!」

 自分でもびっくりするくらい説得力のない言葉だった。

 つーか、なんの話をしてるんだっていう。
 誰もついてこれない話だろう。




266 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:17:23.72 ID:rMKKnSS+0
ロリリ木さんwwwwwwwww




267 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:18:39.86 ID:u7NBXYmkO

「ご、ごほん。気を取り直して……」

 僕は誤魔化すためにぽんと手を打つと。

「どうする? 一応クイズゲームだから、それなら二人でできるけれど」

 恋愛ゲーム的な要素があるというのは、男女でやるのに適しているとは言えないけれど。

「ううーん、これは実は自慢したかっただけだから」
「あ、そうなのか」

 ワンダースワンとセガ・サターンを自慢っていうのもどうなんだろう。

 別にいいけど。

「だけど暦お兄ちゃんがやりたいなら、撫子、いいよ」
「いや、僕は別に……千石のやりたいことでいいよ。なんかあるんだろ?」
「うん」

 僕の言葉に千石は頷いて。

「実は今日は暦お兄ちゃんに、お勉強を教えてもらおうと思ってたの」
「………勉強」
「お勉強」




270 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:23:56.71 ID:u7NBXYmkO

 断っておくけれど、はっきり言って僕は落ちこぼれだ。
数学ならまだしも他の教科なんてさっぱり分からない。最近の受験勉強のおかげで全体的に成績は上がっているとは言っても、それはやっぱりまだまだ付け焼き刃で、他人に教えることが出来るレベルではない。

 誰かにものを教える際には、三倍の理解が必要と言うし。

 でも、中学生の範囲だしな。
 なんとかなるか。

「よし。僕なんかでどこまで為になるかは正直、保証できないけれど、いいよ」

 千石の期待に満ちた目に負けて、見栄を張ったという理由が大部分で頷いた。

「それで、教科はなんなんだ?」




271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:25:47.71 ID:u7NBXYmkO

「えっとね、待ってて」

 そう断りを入れてから、千石は四つん這いで部屋の隅のスクールバッグを漁り……、

 って、パンツ見えてる、パンツ!

「えっと……確か、この辺に……」
「………………」

 比較的シンプルな、薄い水色のパンツ。
 ふりふりとなぜかやたら揺れる腰が、あるいは誘われてるようにすら思えて、生唾を飲み込んだ。

 いや、うん、勿論、そりゃあもう勿論、千石にそういう意識がないのは分かっているけれど、
むしろその意識のなさが問題だ。
大体、ワンピースでそんな格好をするとどうなるかも分かっていないのか、この子は。

 これはさすがに注意するべきだよなぁ、と思いつつ。

「………………」

 全力で目を反らした。
いくら妹的存在とはいえ、
女の子に対して「パンツ見えてるぞ」なんて気安く言えるような男では僕はないのだ。

 ……小学生には散々セクハラしてるくせに。




274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:32:39.44 ID:u7NBXYmkO

「こ、暦お兄ちゃん……」
「う、うん!? あー、ああ、見つかったのか……」

 気付けば千石が僕の前に戻ってきていた。

 千石はなぜか変に赤い顔をしつつ、ずるりと肩を滑り落ちたワンピースを戻す。

「あー、えっ、と。勉強だったな。
そ、それで……教科はなんなんだ?」
「う、うん。…………こっ、これっ!!」

 そう言って、思い切るように千石がばっと突きつけてきた教科書には。

「……………はい?」


 保健体育と、書かれていた。




275 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:35:05.91 ID:EyX/eE3tO
こ、これは……ゴクリ




276 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2010/02/20(土) 17:37:38.55 ID:rMKKnSS+0
 *     +    巛 ヽ
            〒 !   +    。     +    。     *     。
      +    。  |  |
   *     +   / /   イヤッッホォォォオオォオウ!
       ∧_∧ / /
      (´∀` / / +    。     +    。   *     。
      ,-     f
      / ュヘ    | *     +    。     +   。 +
     〈_} )   |
        /    ! +    。     +    +     *
       ./  ,ヘ  |
 ガタン ||| j  / |  | |||
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その2へ





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コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 19:05: :edit
    これも1
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 19:12: :edit
    002getだぜ!!
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 20:16: :edit
    03だが…まだあるのか。
  4. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 20:18: :edit
    この神原は俺の嫁
  5. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 20:25: :edit
    5・・・?
  6. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 20:29: :edit
    テンション上がってきた
  7. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 21:29: :edit
    ひとけた
  8. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 22:05: :edit
    イヤッッホォォォオオォオウ!
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/14(日) 22:11: :edit
    化物 火憐ちゃんまで出てくれるといいな
  10. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/15(月) 03:39: :edit
    なかなか好きだwww
  11. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/15(月) 13:47: :edit
    台詞のみのSSにしたら良いのに模倣小説
    化物語は好きなだけに残念、無駄に長い
  12. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/03/15(月) 22:12: :edit
    >>町中でいきなり女子小学生に抱き着いてセクハラをしている阿良々木を見た(紛れもない真実)とか、

    なにそれこわい
  13. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/05/03(月) 14:35: :edit
    クオリティ高い。
    文体が好き。
  14. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/16(水) 10:51: :edit
    ていうか、八九寺は幽霊だから噂されるわけねえじゃん。
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2010/06/29(火) 23:55: :edit
    ※14
    原作読んでないなお前
  16. 名前: 通常のナナシ # #-: 2010/09/11(土) 12:18: :edit
    ほんとうまいな~

    スレでも言われてたけど、ガハラさんを出そうで出さなかったところ最高の描き方だ思う

    まあ原作じゃまだ出てないから、ああいう反応なのかどうかもわからんがね
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