2009/03/16(月)
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 21:56:38.24 ID:CK2sZkMB0
翠星石は不思議そうに僕の顔を見る。いきなり何ですか? とでも言いたげな表情だ。
「ああ、そうだ。夢に関することならお前に相談するのがいいと思って」
「ま、どうしてもって言うのなら相談に乗ってやってもいいですけどぉ~」
相変わらず生意気なやつだ。ちょっとからかってみるとしよう。
「じゃあいいよ。蒼星石に相談するからさ」
「ま、待ったです待ちやがれですぅ!」
玄関へと歩いていく僕を慌てて止めにくる。予想通りの展開だ。
「夢のことなら姉の翠星石のがプロフェッショナルですから蒼星石じゃなくて翠星石に相談するのがベストの選択なんですぅ!ほら、とっとと話せですぅ!」
分かりやすい性格だな、といつも思う。もうちょっと素直になればこっちとしても毎日が楽になるんだけど。
まあ、今ここでそんなこと考えてもしょうがない。とりあえず最近よく見るおかしな夢の話をしなければ。
「ここ最近、毎晩見るようになったんだけどさ。声が聞こえてくるんだ」
「声ですか」
翠星石は不思議そうに僕の顔を見る。いきなり何ですか? とでも言いたげな表情だ。
「ああ、そうだ。夢に関することならお前に相談するのがいいと思って」
「ま、どうしてもって言うのなら相談に乗ってやってもいいですけどぉ~」
相変わらず生意気なやつだ。ちょっとからかってみるとしよう。
「じゃあいいよ。蒼星石に相談するからさ」
「ま、待ったです待ちやがれですぅ!」
玄関へと歩いていく僕を慌てて止めにくる。予想通りの展開だ。
「夢のことなら姉の翠星石のがプロフェッショナルですから蒼星石じゃなくて翠星石に相談するのがベストの選択なんですぅ!ほら、とっとと話せですぅ!」
分かりやすい性格だな、といつも思う。もうちょっと素直になればこっちとしても毎日が楽になるんだけど。
まあ、今ここでそんなこと考えてもしょうがない。とりあえず最近よく見るおかしな夢の話をしなければ。
「ここ最近、毎晩見るようになったんだけどさ。声が聞こえてくるんだ」
「声ですか」
3 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:00:17.12 ID:CK2sZkMB0
「僕は真っ白な空間の中で一人ぽつんと佇んでいるんだ。あたり一面がミルク色の深い霧で覆われていて僕はその中をゆっくりと手探りで歩いていくんだ」
「ふむふむ、ですぅ」
「するとさ、どこからともなく声が聞こえてくるんだ。その声も日によって声の主が様々で、だけど何て言っているかは聞き取れない。僕はなんとかして聞き取ろうと努力するんだけど、気付けば目が覚めていて。そんなのが毎晩続くんだよ」
「うーん……そうですねぇ」
翠星石はむむむ……と小さく唸りながら考えている。
何か思い当たる節があればいいのだけど。
「分からん! ですぅ」
期待は裏切られ、はっきりと断言されてしまった。こうなったら本当に蒼星石を頼るしかないか。
「これは蒼星石でも分からないと思うです」
思わぬ追撃を受けてしまった。まるで僕の心を読んでいるかのようだ。
「というより、ジュンが気にしすぎなんですよ」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:05:00.84 ID:CK2sZkMB0
「そうか?」
「そうですよ。似たような夢がたまたま続いただけですぅ。大げさに考える必要はないですよ」
そう言われてみればそうかもしれない。事実、あの夢には実害もない。気にしなければなんということでもないのかもしれない。
「そうだな。気にしない方向でいくよ」
「それが一番ですぅ。もしまた何回も見るようでしたら、翠星石が一度、夢の中に入って確かめてあげるですよ」
「そうか。悪いな、わざわざありがとうな」
感謝の気持ちを込めて翠星石の頭を優しく撫でる。彼女はくすぐったそうな表情を見せて、直後に赤面した。
「なでなでしすぎですぅ! 調子のんなです!」
「ああ、悪いな」
手を翠星石の頭から離す。とたんに彼女は物足りなさそうな表情を見せる。どうしてここまで素直じゃないのだろうか。可愛げがあるのだかないのだか。
「ほら」
もう一度、翠星石の頭を軽く撫でる。
「ひぁっ」
まさかもう一度撫でられるとは思いもしなかったのだろう。
小動物のような可愛らしい声を上げて驚く。
「それじゃ」
撫でるのをやめると、僕は自室へ戻るため階段を上るのだった。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:09:46.96 ID:CK2sZkMB0
――深夜零時。
パソコンの電源を切り、眼鏡を外す。スイッチを押し、照明を消してベッドの上に転がり込む。布団を身体に被せると、僕は不安を感じながらもゆっくりと目蓋を閉じた。
身体は正直なもので、不安をよそにまどろみに浸り――意識がなくなる。
気付けば真っ白な空間の中に立っていた。もう見慣れつつある光景。あたり一面がミルク色の霧に覆われている。一歩踏み出すと、霧が足にまとわりつくような感触。水の中ほどの抵抗はないが歩きにくい事には変わりない。だが僕は手探りで前に進む。
『あなたは眠っていなければならない』
遥か遠くから声が聞こえた。透き通るように綺麗な声。その声の主を探し、僕は重たい霧の中をゆっくりと進む。
『こちらに進んでは駄目』
声が僕を制止させようとする。止まるわけにはいかない。
この声の主が誰なのか知りたいから。
この夢が一体何なのかを知りたいから。
霧が、重くなった。水の中を進むのと同等の抵抗感。相変わらず視界は真っ白で、霧の中を進んでいるというよりは、ミルクの海を彷徨っているような感覚と言ったほうがいいかもしれない。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:14:04.03 ID:CK2sZkMB0
ミルクの中で必死に身体を動かす。夢の中だというのに全身に疲労を感じる。あまりにもリアリティのある疲労感で、もしやこれは夢などではないのかもしれないと錯覚しそうになった。
『残念でした……』
また声が聞こえる。
『時間切れ……ふふふ』
勝ち誇ったような声。同時に目の前の景色が文字通り一瞬で霧散し、視界がぱっと開ける。目の前にはぼやけた天井が広がっていた。
「もう朝か……」
のそのそと身体を起こすと、ケースを手に取り、眼鏡をかける。窓からは明るい陽が差し込んでおり、今日も晴天だということを教えてくれる。
鞄の方へと目をやる。三つの鞄はどれも空いており、ドールたちが皆すでに起床していることがわかった。時計に目をやる。十時を過ぎていた。
僕は寝巻きから普段着に着替えると、朝食を取るべく、階下へと向かっていく。ドールたちの騒ぎ声が聞こえるリビングの扉をゆっくりと開いた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:19:34.11 ID:CK2sZkMB0
「おはようジュン」
ソファーに座ってテレビを見ていた真紅がこちらに気付く。
それに続き追いかけっこをしていた翠星石と雛苺も僕の方へと振り向く。
「おはようなのー」
「おはようですぅ」
「ああ、みんなおはよう」
見回すといつもの三体だけではなく、青い服を纏ったドールもそこにいた。
「あ、お邪魔してます」
第四ドール、蒼星石がぺこりと頭を下げる。帽子がズレ落ちそうになり、慌てながら手で押さえていた。
「いらっしゃい」
客人にも簡単な挨拶を済まし、僕はダイニングへと向かう。テーブルの上にはラップされた朝食と姉の書置きが置いてあった。
『レンジでチンして食べてね。お昼はチャーハンが冷蔵庫に入っているからこれもチンしてね。 お姉ちゃんより』
いちいち書置きしなくてもわかるのに。
イラっとしつつも僕はレンジでチンすると、遅い朝食を始める。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:23:55.75 ID:CK2sZkMB0
ゆっくりと焼き鮭を租借しながら、遊んでいるドールたちを見る。もうこの光景も見慣れたなぁと思う。
真紅と雛苺、翠星石。時々蒼星石や今はここにいない金糸雀。少し前の僕だったら見ているだけでイライラしていただろうな。今では不快に思うことも無いし、むしろ微笑ましく思う。
全部で七体いるローゼンメイデンが僕の家に最大で五体も集まるというのはなんだかおかしな話だ。彼女たちはアリスを目指して戦わなければならない宿命にあるのに、今はこうして仲良く遊んでいる。
今では我が家に溶け込んでいる金糸雀も、最初はアリスゲームをするつもりだったように見えたが、自然な流れでこちらに溶け込んでいる。きっと彼女も本質的なところでは争いごとがあまり好きではないのだろう。
「ふっふっふ。百八十二回の失敗を経てとうとうここまでバレずに侵入することに成功したかしら。ローゼンメイデン一危険な女金糸雀。とうとう乙女らをけちょんけちょんにする日がやってきたわ」
噂をすればなんとやら。金糸雀が廊下からリビングを覗き見していた。いい加減どうどうと尋ねてくればいいのに、と思う。どうやら彼女はこっそり侵入することが生きがいになっているらしい。
「みっちゃんから貰っためがほんを使って後ろからみんなをビックリさせてあげるかしら。いくわよピチカート。せーの――」
「おーい、金糸雀が遊びにきたぞー」
「ほわあああああああああああああああああああ」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:28:58.55 ID:CK2sZkMB0
「いい加減どうどうと尋ねてくればいいですのに」
翠星石が文句を言う。どうやら僕とまったく同じことを考えていたようだ。
「ひどいかしらジュン! どうしてあと一歩のところでバラしちゃうのかしら!?」
「家の中でメガホンなんて使われたらうるさくてたまったもんじゃないだろ。遊ぶなら静かに遊んでくれ。頼むから」
僕はけだるそうに返事をすると、飲みなれないコーヒーを淹れる準備を始めた。
なんだか身体がだるい。起床してから顔を洗って歯を磨き、朝食もとったのにいまいち頭がぱっとしない。完全に覚醒しきっていないような、そんな感覚。
コーヒーを飲んで完全に目が覚めればいいんだけど。
「あー! ジュン何してるなの?」
雛苺がキッチンで作業している僕に気付き、こちらに駆けてくる。
「コーヒー作ってるんだよ。お前も飲むか?」
「飲むのー!」
「ちょっと待ってろ」
出来上がったコーヒーをカップに注ぐ。真っ黒で香り深い液体。ブラックで飲むかどうか一瞬悩むが、背伸びはよくないと思い、戸棚から砂糖とミルクを取り出す。
「お前にコーヒーが飲めるかな?」
そう言いながら二人分のカップに砂糖とミルクを入れた。
ミルク。あの夢を思い出してしまう。結局あれは何だったのだろうか。その場で考え込んでしまうが、雛苺が「早くリビングで飲むのー」とせかすので、このことは後回しにして、僕はリビングへと向かった。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:33:59.15 ID:CK2sZkMB0
「あら、コーヒー?」
香りでいち早く気付いた真紅が、こちらを見る。
「悪いな、紅茶じゃなくて。お前も飲むか?」
「そうねぇ。どうしようかしら」
「ヒナもこーひーで大人になるのよ!」
「チビチビなんかにコーヒーの味が分かるわけねーですぅ」
「そうかしら! ヒナにコーヒーなんて十年早いかしら!」
「うー! そんなことないもん! ゴクッ……苦いのおおおおおおおおおおおおおお」
隣で雛苺が叫んでいる。やっぱりあいつにコーヒーはまだ早かったみたいだ。一方僕は砂糖とミルクでなんとか飲める程度なので馬鹿にすることはできないのだが。
「やはり雛苺はまだ子供ね」
真紅が口を押さえてのたうちまわる雛苺を見ながら言う。
「じゃあお前はコーヒー平気なんだな。ちょっと待ってろ。淹れてくるから」
「ちょっと待ちなさいジュン! いつ私がそんなことを」
「あ、僕にも一杯いいかな。ブラックで」
「蒼星石もか。分かった」
真紅と蒼星石のコーヒーを淹れるためにキッチンへと戻る。きっと真紅は飲めないだろうな。少しからかってやるか。しかし蒼星石も飲むとは意外だ。それにブラック……。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:38:48.00 ID:CK2sZkMB0
「カナはコーヒーなんて全然平気よ。むしろ大好物かしら!」
「じゃあ金糸雀も飲むの……」
「真の乙女は紅茶ではなくコーヒーをたしなむものかしら。ゴクッ……苦あああああああ」
「チビカナごときがコーヒーをたしなむなんてお笑い種もいいとこですぅ。ここは大人なレディの翠星石がコーヒーの楽しみかたってのを教えてやるですぅ。ゴクッ……にぎゃあああああああああい」
馬鹿三人組の絶叫が響き渡るリビングへと戻る。翠星石、雛苺、金糸雀は口を押さえながらピクピクしていた。そこまで刺激が強いとは。
「ほら、できたぞ」
「ありがとうジュン君」
蒼星石は笑顔で礼を言うとカップを受け取る。
「おい、これはお前のだぞ」
「私はコーヒーなんて……」
「なんだ、お前もあいつらと同じでお子様か」
僕は馬鹿三人組を指差し、ニタリといやらしく笑う。
「そんなわけないでしょう! コーヒーなんて飲みすぎて飽きちゃっただけよ」
「じゃあ一口飲むくらいなら問題ないよなぁ」
「うっ……分かったわよ。一口だけよ。それ以上は絶対飲まないわよ」
かかった。なんだかんだで真紅も分かりやすい性格をしている。
「こんな……こんなもの。ゴクッ……っ!!!!!!!!!」
真紅は思い切り飛び跳ねると、そのまま気絶してしまった。ある意味一番いいリアクションをしている。その様子を、いつの間にか復活していた馬鹿三人組がケタケタと笑いながら見ていた。
「みんな、笑うのはよくないよ」
ブラックを何事もないように飲みながら注意する蒼星石。……少し悔しかった。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:43:30.88 ID:CK2sZkMB0
平和だな、としみじみ思う。
目の前の現実が霞んで見えなくなるくらい、この空間は温かく、そして心地よい。真紅がこの家にきてどれくらい経ったのだろうか。まだ一年も経っていないはずだ。それなのに随分変わったと思う。この家も、僕も。
毎日が楽しいと思えるようになった。そのおかげか、一日が早く感じる。楽しい時はあっという間に終わるというがその通りみたいだ。
こんな日がずっと続くといいなぁ。そう考えている自分がいることに驚きだ。最初はドールたちを呪い人形呼ばわりして厄介に思っていたのに、今ではもう――。
パリィン、と窓ガラスが割れる音。
黒い雨が、リビングの中に降り注ぐ。
舞い降りるは、漆黒の羽。
「呆れたわぁ。アリスゲームを放棄してこんなところで仲良しごっこなんかしちゃって」
割れて無くなった窓の方へと目をやる。僕の知る六体のドールの内、もっとも好戦的で、残酷なドール。水銀燈が姿を現した。
「丁度いいわぁ。まとめてジャンクにしてあげる」
水銀燈は黒い羽を大きく広げる。真紅たちをまとめて羽の攻撃によって一掃するつもりなのだろう。もう争うごとはごめんだ。僕は思わず叫ぶ。
「やめろ――」
「あー! 丁度いいところに来たのー!」
しかしそれは雛苺に妨害されてしまった。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:48:21.21 ID:CK2sZkMB0
「ナイスタイミングですぅ水銀燈」
「ちょっとこっち来るかしら」
「な、何なのよ……」
予想外の反応を受けて、水銀燈は困惑しているようだ。広げた羽を閉じ、金糸雀の指示に従ってこちらに上がりこんでいる。
困惑しているのは水銀燈だけではない。僕自身、予想外な流れについていけなくなっている。唖然としながらその様子を見ていることしかできない。
「ほら、これを飲むのー!」
雛苺は自分たちが飲んでいたコーヒーのカップを水銀燈に手渡した。
「これは、コーヒー?」
「そうですぅ。まさか飲めないとは言わせねーですよ?」
「あいにくコーヒーは飲まない主義でねぇ。ヤクルトはないの?」
「まさか水銀燈……長女なのにコーヒーは苦くて飲めないなんて言うのかしら?」
「そんなわけないでしょぉ!」
「ほら、蒼星石を見るですぅ」
「うーん、やっぱりブラックはいいね」
「四女が飲めて長女が飲めないのはおかしいですよ」
「く……何が目的なのよ」
「コーヒーを飲む。それだけでいいかしら!」
「だから私はコーヒーを飲まない主義だって言っているでしょぉ!」
アリスゲームが始まるかと思いきや、またコーヒーうんぬんで彼女たちは騒いでいる。
いったいどうなっているのだろうか。僕にはもう何がなんだかわからない。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:51:44.28 ID:i/7Dz4qF0
ヒナグッジョブ
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:53:27.89 ID:CK2sZkMB0
「さすがジャンクは言い訳がへたくそね」
いつの間にか復活した真紅が、ソファーの上から見下すようにして水銀燈をあざ笑っていた。なんて生き生きとした表情なんだろうか。
「なんですってぇ?」
「まあしょうがないわね。これだけ偉そうにしておいてコーヒー程度も飲めないなんて。恥ずかしくて言えないわよね。ごめんなさいね無理強いしちゃって」
「真紅ぅぅぅぅぅ!」
お前も飲めないだろうが、というツッコミは封印する。後が恐いし。
「そーれコーヒー! コーヒー!」
「イッキ! イッキ!」
いつの間にか飲み会のようなノリに変わる。いや、未成年だから飲み会なんて出たことないけど。
「分かったわよぉ! 飲めばいいんでしょ飲めば!」
水銀燈は雛苺からカップをひったくると、テーブルの上に乗る。そして腰に手を当てるとぐいっとコーヒーを一気飲みする。
「ゴクッゴクッゴクッ……苦いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
水銀燈の絶叫が、家中に木霊した。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:55:41.47 ID:TEmTsyFCP
ほのぼのしてますねー
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:58:33.50 ID:CK2sZkMB0
テーブルの上で水銀燈が口を押さえながら悶絶している。その様子を見て満足したのか、ドールたちは皆、部屋の片付けを始めた。
「金糸雀、手伝ってちょうだい」
「了解かしらー」
真紅と金糸雀は壊れた窓を修復。他の三体は散らばった家具や羽を片付けている。
「ほら、チビ人間も早く手伝えですぅ!」
翠星石の怒声。僕もしぶしぶ椅子から立ち上がり、水銀燈がこぼしたコーヒーを拭くことにした。
ちらっと水銀燈を見ると、白目でピクピクしており、思わず僕は笑ってしまう。
「…………」ムカッ
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおお」
黒い羽が一本、僕の眉間に突き刺さる。あまりの痛みに、僕は水銀燈のように悶絶し、床でのたうち回った。
「馬鹿みてーですよ」
翠星石が呆れたように僕を見ていた。情けない。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:03:54.64 ID:CK2sZkMB0
「今日はちょっと調子が狂っちゃったけど、次会った時は容赦しないわよ」
「コーヒーが飲めるようになってから出直しなさい」
「うるっさいわね。ブサイクは黙ってなさい」
「誰がブサイクなのよ! 言ってみなさいこのジャンク!」
「ブーブーうるさいわ。まるで豚みたい。それじゃあねぇ」
水銀燈は真紅に言いたい放題言うと、大空へ羽ばたいていった。途中でカラスの大群に襲われていたのをみんなで笑う。金糸雀が「あれはカナの卵を奪った宿敵」とか言っていたがみんなスルーしていた。
なんだかんだで、平和だった。最初水銀燈が現れたときはひやひやしたが、この調子なら心配する事もないだろう
「僕は部屋に戻るよ」
コーヒーのカップを片付けると、僕はそう言って部屋に戻る。
パソコンの電源をつけると、ベッドに寝転がる。
おかしいな。
コーヒーを飲んで、あれだけ馬鹿騒ぎしたのに。
まだ身体が覚醒した気がしない。
疲労感とは違う感覚。病気か? 少しずつ不安が押し寄せる。
そんなことあるわけないさ。そう自分に言い聞かせると、立ち上がってパソコンの前に座る。
さて、今日も怪しげな商品を探すとしよう。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:08:42.40 ID:CK2sZkMB0
――夜。
だるさが取れない身体を布団に寝かせ、目蓋を閉じる。
驚くほどあっさりと意識がなくなり、気付けば霧の中で棒立ちになっていた。
「やっぱりか」
思わず独り言を呟く。またしてもこの夢だ。一体この夢には何の意味があるのだろうか。
ローゼンメイデンが関係している? それとも僕の精神的な問題?
いくら考えても答えなんてでない。だから僕は今回も前に進むことにする。
相変わらず霧はねっとりとしていて重たい。さらに現実世界で感じただるさが夢の中にまで影響しているのか、昨夜よりも霧が重い。だが、そんなの関係ない。今できること、僕は前に進むだけだ。
『こちら進んでは駄目』
しばらくしてまたあの声が聞こえた。一体この声の主は誰なのだろうか。進めば分かるかもしれない。僕はその声を無視して前に進む。
『止まって。進んでは駄目』
何か魔力のような物が宿っているのではないか。そう錯覚しそうになるほど、この声は頭に響く。脳内に直接語りかけられているような感覚に近い。
『……く……して』
僕を制止する声とはまた別の声。かすれてうまく聞き取れないがまた別の人物の声が聞こえる。僕は耳を澄ましてその声を聞き取ることに集中する。
『早く目を覚まして』
完全に聞き取れた。今度は僕を覚醒させようとする声。まるで何かで遮られた場所から聞こえるような感じで最初の僕を制止する声のようなクリアさは感じられない。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:12:47.23 ID:CK2sZkMB0
『お願い、早く目を覚まして!』
さっきよりもはっきりと聞こえた。と同時に衝撃を受ける。この声にはどこかで聞き覚えがある。とても馴染みの深い声だ。しかしいくら記憶をさかのぼっても誰の声であるかが思い出せない。
『ふふふ。お二人とも残念でした』
笑い声。どうやらここでお終いのようだ。
『時間切れ……また明晩』
その声と同時に霧は消え、僕は真っ白な天井を見つめていた。
上体を起こし、眼鏡をかける。全身に嫌な感覚。汗をびっしょりとかいていた。布団から出た身体に部屋の冷たい空気がまとわりつき、ぶるりと身震いする。
時計を見ると、正午を過ぎていた。すこし寝すぎたみたいだ。とは言ってもあの夢のせいでまともに寝た気にはなれないけど。
完全にベッドから起き上がると身体をタオルで拭き、寝巻きから着替える。そしてトイレ、洗顔、歯磨き、食事等々を済ませるため一階へと降りていく。
昨日以上のけだるさを感じながら。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:17:58.68 ID:CK2sZkMB0
朝食もとい昼食をレンジでチンし、食べる。
リビングではすでに五体のドールが揃って遊んでいた。相変わらず微笑ましい光景だと思う。気付けばニヤニヤしながら彼女たちを見ていた。
食事を終え、食器を片付けると、椅子に座って天井を見上げた。何かをする気力が起きない。ドールたちに混ざって遊ぼうとも思わないし、部屋に戻ってネットサーフィンしようとも思わない。無気力だ。このけだるさが原因だろうか。
「くんくん探偵怒涛の五時間スペシャルの時間だわ」
真紅が突如大声をあげ、テレビのリモコンを手に取る。そしてチャンネルを帰ると、画面におなじみの人形劇が映る。体調が万全だったら僕も見たかった。録画しておいてもらうとしよう。
「真紅ー、今からでいいから録画しておいてくれないか?」
「安心しなさいジュン。何度も見直すつもりで最初から録画の準備はできているわ」
「準備がいいじゃないか。安心したよ」
そう言って僕はテーブルに身体を突っ伏した。ああ、ひんやりとした感触が気持ちいい。
このままぐーたらして一日過ごすのも悪くないかもな。
そう思った直後にパリィンと窓が割れ、黒い羽がリビングに降り注いだ。
またか。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:21:55.01 ID:CK2sZkMB0
「昨日は色々とアレだったけど、今日こそは貴女たちのローザミスティカをいただくわぁ」
黒い羽を羽ばたかせ、水銀燈が庭に舞い降りる。
そんな彼女を忌々しげに睨む真紅たち。
「あーもうなんでこんな時に来るんですか!?」
「ちょっとは空気読んでほしいかしら!」
「やっぱりあなたは頭までジャンクだったのね。今が何の時間か分かっているの?」
「水銀燈もいっしょにみるのー」
怒涛の勢いでたたみかけられる言葉に水銀燈はあたふたとする。
「な、何なのよ今度は」
「テレビの画面を見てみなさい」
「あ、あれは……くんくん!」
「あら、ジャンクでもくんくんは知っているのね。褒めてあげる。今はね、くんくん探偵怒涛の五時間スペシャルの最中なのよ!」
「な、なんですって!?」
昨日と同じような流れだ。僕は安心してほっと一息つく。こうして皆仲良くしているのが一番なんだ。争いごとなんて、無意味だ。
「ちょっとどきなさい蒼星石! こんなものが今日あるなんて知らなかったわ。知ってたら今頃めぐといっしょに見てたわよ」
「水銀燈もくんくんが好きなのね」
「当たり前でしょう。私からくんくんを取ったらローザミスティカしか残らないわ」
「スペシャルの日程すら把握できてないくせに何を言ってるの。これだからジャンクは」
「豚真紅は黙ってなさい!」
「な、なななななんですってぇ」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:26:47.24 ID:CK2sZkMB0
しかし、あの二人はどうして仲良くできないのだろうか。なんで仲が悪いのかは知らないけど、姉妹なんだから和解してもいいと思う。
「でも、ああやって言い合ってる方が二人らしいとは思わない?」
「え?」
気が付くと蒼星石が僕の正面に座っていた。そういえばさっき水銀燈に場所を奪われてたっけ。ってあれ……?
「僕の心を読んだ?」
「あはは、違うよ。ジュン君の表情を見たらそんなこと考えてそうだなって思っただけさ」
「なんだ……ビックリした」
ローゼンメイデンには心を読む能力があるのかと真剣に考えてしまった。どうやら僕は意外と表情に思ったことが出やすいみたいだ。
「お前はくんくん見ないのか?」
「うん、真紅たちほどあの人形劇が好きってわけじゃないからね」
「そっか。なんかお前ってドールズの中じゃクールな感じがするよ」
「そうかな?」
「コーヒーもブラックで飲むし」
「もしかして自分が飲めなかったから悔しいとか?」
「う、うるさい」
「あはは、ごめんごめん」
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:31:00.82 ID:CK2sZkMB0
「そういえばさ」
「なあに?」
「お前とこうしてまともにお喋りするのは始めての気がするよ」
自分の記憶をさかのぼると、蒼星石との思い出がほとんどなかった。むしろ、なぜか分からないが悲しいイメージに繋がることが多かった。
「どうして? 今までも仲良くしてきたじゃない」
「え?」
「よくジュン君からはグチを聞かされてたよ。雛苺が部屋中を汚す。翠星石からの暴力がひどい。真紅には今でも奴隷扱いを受けてる。そんな話ばっかりさ」
おかしい。僕の脳内を検索してもそんな記憶は見つからなかった。度忘れ? 若年性アルツハイマー? そんな馬鹿な。
「どうしたの?」
蒼星石が心配そうに僕の顔を覗く。どうやらそうとう深刻な表情をしていたらしい。
「ごめん、なんでもない。ちょっと度忘れしてたみたいでさ」
「なんだ。それでジュン君は――」
この蒼星石に対する違和感は何なんだ。毎晩見る変な夢と関係しているのか? 分からない。どうなっているんだ。
「ごめん、ちょっと気分が悪いから部屋に戻る」
そう言って僕は椅子から立ち上がると自室へと向かった。その途中、翠星石に「くんくんが終わったら僕の部屋にきてくれ」と、そう伝えて。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:36:04.82 ID:CK2sZkMB0
布団に身体を倒し、ぼうっと天井を見つめる。こうしているのが一番楽だ。夢のことをまた考えるが、何度考えても答えは分からないということに行き着く。情報が少なすぎる。
これ以上どう考えればいいのか。
だから、彼女に頼るのだ。
コンコン。
ノックの音。入っていいぞ、と返事をすると扉がゆっくりと開き翠星石が入ってきた。
心なしかそわそわしているようにも見える。
「用があるのは翠星石一人ですか?」
不思議なことを聞くな。
「ああ。僕はお前にだけ頼みがあるんだ」
そう言うと、翠星石は頬を赤らめた。
「な、なななな何ですか?」
急にどもり始めた。どうしたんだろう。
「今から僕は寝る」
「ね、ねねね寝るぅ!? それってまさか……」
何をそんなに動揺しているんだ?
「ああ、僕の夢の中を見て欲しいんだ」
「夢の中を見るぅ!? ……って、そんなことでしたか」
お前はなんだと思っていたんだ。
「前に話した夢、あれからも毎日見てるんだ。お前が実際に中に入って見てくれれば何か分かると思ってさ」
「そういうことですか。だったら翠星石にお任せですぅ」
「頼もしいな。それじゃ頼むよ」
僕はそう言って布団を被ると、目蓋を閉じた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:40:47.98 ID:CK2sZkMB0
見慣れた景色。一面真っ白な世界。ミルク色の霧。
まずは翠星石が来るのを待つとしよう。僕はその場に座り込む。
どれくらい経っただろう。翠星石は一向に姿を現さない。彼女の能力の一つとして夢の扉を開く力がある。それを使えば入ってこられるはずなのに。一体どうなっているのか。
うだうだ考えていても仕方が無い。翠星石が来ないのなら、いつも通り前に進むだけだ。
僕は立ち上がると、霧の中を一歩ずつ前進を始める。中々進まない。また霧が重くなったような気がする。
しばらくして例の声が僕の脳内に響いた。
『進んでは駄目。座っていて』
やなこった。僕は前に進む。
『お願い、目を覚まして!』
君は誰なんだ。思い出せない。
『どうせ無駄なあがき。進んでは駄目』
黙れ。無駄かどうかは僕が決める。
『お願いジュン! 私の声が聞こえないの?』
聞こえているよ。君は誰なんだ? 僕の大切な人か?
「君は誰だ?」
大声で叫ぶ。思い出せない彼女に届くだろうか。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:44:46.38 ID:HpPwQ39qO
/ ̄\
| ^o^ | < わたしです
\_/
_| |_
| |
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:45:35.61 ID:CK2sZkMB0
『ジュン! お願い、届いて……届いて、私の声!』
どうやら僕の声は届かなかったらしい。一方通行の願いだけが僕の耳に届く。
目を覚ませと警告するというのなら、この夢は僕にとって危ないものなのだろうか。それとも、彼女にとって僕に見られると都合の悪いもの? だとしたら制止する声の主と仲間? 彼女たちは僕の敵? つまり僕と契約した真紅、翠星石、雛苺の敵なのか?
仮定だけが頭を埋め尽くす。情報が足りない。何も見えてこない。
周りの景色も変わらない。進む事に意味はないのか? 僕のやっていることは制止する声の言う通り無駄なのか? 結局僕には何も分からない。
どうすればいい?
どうすればいい?
『残念でした。時間切れ。チャンスは残り僅かです……ふふふ』
タイムアップ。チャンスとは何だ? 何のチャンスだ? この夢の中で出来ることが他にもあるのか? 新たな情報だ。考えろ。僕はどうすればいい?
視界が開ける。くりっとした赤と緑のオッドアイが僕を見つめていた。
「おはようですぅジュン。だいぶうなされてたですよ」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:50:30.15 ID:CK2sZkMB0
頭がはっきりとしない。眼前にいる少女は心配そうに僕を見つめる。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと意識が覚醒していく。そうだ、彼女は翠星石。僕は例の夢から覚めて現実世界に戻ったんだ。なんだか物凄く疲れた。
「ああ、おはよう。ちょっと寝ぼけてた」
僕は翠星石をベッドから離れさせると、身体を起こして眼鏡をかけた。
さっそく話を聞かなければ。
「なあ、どうして僕の夢の中にこなかったんだ?」
「え?」
「いつまで経ってもお前は僕の夢の中に現れなかったじゃないか?」
そう、彼女は姿を現さなかった。結局僕はまた一人で歩いただけだった。
「入りましたですよ。ジュンの夢の中」
「どういうことだよ?」
「心配して入ってみたら、夢の中はいたって正常でジュンはぐっすりと安眠状態でしたよ」
そんな馬鹿な。あれのどこが安眠状態だというんだ。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:55:04.66 ID:CK2sZkMB0
「だからうなされてるのを見てビックリしたです」
「……そうか」
見たところ翠星石が嘘を言っているようには見えない。夢の世界と僕が見ている夢は別次元の空間なのだろうか。じゃあ僕が見ている夢は夢じゃないのかもしれない。あそこはどこだ? nのフィールド? 幽体離脱?
様々な考えが頭を巡る。あっちでもこっちでも考えてばかりだ。
気が付くとまた翠星石が心配そうにこちらの顔を覗いていた。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしてた」
「考え事ですか」
「そう、考え事だ。そんなことよりありがとな。お前ほとんど休んでないだろ? ゆっくり鞄で寝て身体を休めてくれ」
「そうさせてもらうですぅ」
翠星石はそう言って鞄の中に入った。
僕は鞄が閉じると同時にもう一度ベッドに倒れこんだ。
力が入らない。まるで睡眠が重労働であったかのように身体が重い。だるい。目が霞む。
ああ、何もしないのが一番楽だ。昨日もそうだったな。もう動きたくない。考えたくない。
姉ちゃんが帰ってくるまでずっと、僕はべッドの上で天井を見つめていた。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:00:55.56 ID:iu80jHn80
「ジュン君!?」
姉ちゃんが大慌てで部屋に入ってくる。もうそんな時間か。
「どうしんだよ。そんな慌てて」
「朝ごはんも昼ごはんも手をつけてないんでしょう? 調子悪いの? 大丈夫?」
ああ、そうだった。起きてから一歩もこの部屋から出なかったな。
「ちょっとだるいだけだよ。心配しなくていい」
「心配するに決まってるでしょう。大事な弟なんだから」
大げさだよ。だからブラコンって言われるんだ。
「何か食べなきゃ駄目よぅ。今日の晩御飯はおかゆよ。絶対に食べて」
おかゆか。それなら食べられそうだ。
「うん、わかった。できたらまた呼んで」
そう言うと、姉ちゃんは下へと戻っていった。ちょっと心配をかけすぎたな。できるだけ気丈に振舞った方がいいかもしれない。
しかし気分が悪い。起きてからずっと身体を休めているはずなのに、だるさは増しているような気がしてならない。四肢は鉛のように重たい。僕の身体はどうなっているのか。
まるで生気を吸い取られているみたいだ。生きていくためのエネルギーが、ゆっくりと身体のどこかから漏洩しているような。そんな感覚。
夢のことを考えなきゃ。
このだるさも関係しているに違いない。きっとそうさ。何もかもこの夢のせいだ。
しかしいくら頑張っても頭は回転せず、気付けばぼうっと天井を見つめているだけ。考える気力すら、今の僕にはない。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:05:58.18 ID:iu80jHn80
しばらくして、翠星石と雛苺が僕を呼びにきた。晩御飯の時間だ。
「ジュンー大丈夫?」
雛苺が心配そうに立ち上がった僕を見上げる。そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
死ぬわけじゃないんだから。
「なんだか、昼間よりもやつれているように見えるですぅ」
翠星石の目にもそう見えるらしい。僕が時間とともに衰弱しているのは明らかだった。
でも食事を取れば元気になるはず。そう信じて僕は階段をゆっくりと降りた。
「お姉ちゃん特製、ふわふわ卵粥よ!」
おいしそうな卵粥がテーブルの上においてある。小さな土鍋からたつゆげ。きらきらと光に当たって輝く卵とお米。さきほどまでほとんどなかった食欲がいっきに湧いてくる。
姉ちゃんが料理上手でよかったと心底思う。
「いただきまーす」
みんなの声が重なり合う。暖かい食卓。
ふぅふぅと、れんげですくった粥を冷ます。程よい温度になったところで口に運ぶ。温かい。それでいて、すごく美味しい。
「美味しい……」
自然と口からこぼれた。
姉ちゃんはそんな僕をふふ、と笑いながら見つめて、
「ありがとう」
そう言った。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:10:59.65 ID:iu80jHn80
食事を終え、僕は部屋に戻った。
姉ちゃんだけでなく真紅たちも心配してくれた。精一杯の笑顔で大丈夫、そう言った。
嘘ではない。強がりなんかでもない。そう自分に言い聞かせる。
こころなしか体調がよくなった気がする。あのお粥のおかげだろう。これなら、今晩見る夢の中でも問題なく前に進める。
あの声は言っていた。チャンスは残り僅かだと。
何のチャンスかは分からないが、残り僅かならあがくしかないだろう。今の僕にはそれしかできない。何かを知るためには、そうするしかないから。
時計を見る。二十時丁度。時間はたっぷりあった方がいいな。僕は風呂にも入らず、私服のままベッドに倒れこむ。眼鏡を外し、掛け布団で身をくるむ。
さあ、夢の世界に行こう。
体調不良も、記憶に関する違和感も、何もかもを解決させよう。変なことに悩むこともなく、楽しい日常に戻れるから。
目蓋を閉じる。
意識はあっさりと失われ、僕は現実世界から離脱した。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:15:26.56 ID:iu80jHn80
『ジュン! お願いだから目を覚まして!』
僕の知っている誰かの叫び声で、僕は夢の中にいることに気付いた。
昨夜以上にクリアに聞こえる。声の主に近づいているからだろか。だとしたら僕の歩みは無駄ではなくなるのだけれど。
『終わりは目前……進んでも意味はないわ』
もう一つの声。いつも僕を制止していた声だ。もう意味はない。どういうことだ。
息を切らしながら前に進む。最初は水の中を進む程度だった抵抗感が今ではどろどろの粘液の中を進んでいるかのような抵抗感になっている。ペースは今までで一番遅い。
でも時間はまだあるんだ。
諦めずに進み続けると、前方に大きな何かが見えた。
目を凝らしてみる。建物のようだ。きらきらと光っていて、てっぺんが尖がっている。どうやらそれはお城のようだった。
しばらく前に進むと、その容貌が完全に明らかとなった。
きらきら光っているのはお城が白い水晶で作られているからだ。さらに周りを白い薔薇に囲まれている。思わず僕は綺麗だ……と呟いていた。
あのお城がゴール? あそこにたどり着けば全てが分かる? 声の主はあそこに?
『ジュン! ジュン!』
僕の知っている誰かの声。お城の中から聞こえてくる。あの中にいるのか。
力の入らない身体に鞭を打ち、お城へと近づいていく。
限界は、あっけなく訪れた。
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:20:20.50 ID:iu80jHn80
身体が鋼鉄化してしまったかのように動かなくなる。僕はそのまま倒れこんでしまう。
お城は目前なのに。どうして動かない! どうしてあと少しが頑張れない!?
自分の身体に文句をぶつける。だからといって動くようになるわけではない。僕はなんとか頭を上げて目の前のお城を見つめる。僅か数メートル。それが届かない。
『残念でした。……ふふふ』
笑うな。不快だ。
『貴方は間に合いませんでした……応えられませんでした……うふふ……あはははははは』
「笑うなあああああああああああああああ」
大声をあげる。何に間に合わなかったのか、何に対して応えられなかったのか、僕には分からない。だけど、例えようも無く悔しかった。悔しくてたまらなかった。
でも、駄目だ。身体は動いてくれない。
『最後の夢を、幻想を貴方に……』
夢? 幻想? 何の事だ?
考えているうちに意識が別世界に移っていく。この感覚――どうやら現実世界で目覚めるようだ。夢の時間は終わってしまった。
結局何も解決できないまま僕は、僕は――――
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:25:00.17 ID:iu80jHn80
たくさんの目が僕を見下ろしている。
「あ、目が覚めたわよぅ」
姉ちゃんが心配そうに声をかける。
「……おはよう」
そう言って僕は起き上がろうとする。たくさんの目、もとい姉ちゃんとドールズは慌ててベッドから離れた。
「大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」
「ああ……大丈夫だよ」
身体が重い。力が入らない。
「朝ごはん食べる?」
「うん……お願い」
食欲はない。でも何か食べて力をつけなくちゃ。
「すぐ準備してくるから、着替えて下に来てね」
「了解」
姉ちゃんは急ぎ足で一階へと降りていく。
「本当に大丈夫なの?」
誰よりも心配そうな顔の雛苺。
「大丈夫だよ。死ぬわけじゃないんだし」
「でも、すごいやつれてるですよ?」
「そうか? 気のせいだろ」
「無理だけはしないでジュン。大変だったら大変と言って」
「心配しすぎだよ真紅。僕は大丈夫さ」
そう、大丈夫さ。きっと。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:30:07.19 ID:iu80jHn80
「先に下に行っててくれ。着替えるからさ」
そう言ってドールズを部屋から出す。
足音で一階に行ったことを確認すると僕はもう一度ベッドに倒れこんだ。
予想以上につらい。この衰弱はいったい何なんだ。
これは本当に自分の身体なのかと疑いたくなる。体内に動力源、エネルギーをまったく感じない。からっぽだ。
なんで僕がこんなめにあわなければいけないのだろう。心当たりが無い。記憶を遡る。
ここ数日の楽しい日々の記憶。該当しない。さらに前の記憶を引っ張り出す。激しい頭痛。そして吐き気。脳が拒否しているのような抵抗感。
このままではいけない。早くエネルギーと取って体力を回復しなければ。
鉛のような四肢を動かし寝巻きから着替えると、僕はゆっくりとした足取りで慎重に階段を下りていく。足がおぼつかないため、何度もバランスを崩しそうになる。
一階まで下りるのに数分かかってしまった。しかしここからダイニングまではいつも通りに振舞わなければ。これ以上心配をかけちゃ駄目だ。
僅か数メートルの距離が途方も無く長く感じる。だが僕は覚悟を決めると、普段の歩き方を意識してダイニングへと向かった。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:35:05.86 ID:iu80jHn80
「おまたせ」
そういって椅子に座る。
足がガクガクしている。悟られてはいけない。
「はい、連日だけどおかゆよぅ。これなら食べやすいと思って」
おかゆか。今の状態でまともに物が噛めるか心配だったから丁度いい。僕は無言でそれを食べ始めた。
「なんとか言ったらどうですぅ」
翠星石が言う。すまないが喋るのも辛くなってきたんだ。
「でもすごい調子悪そうなのよ」
雛苺が言う。やっぱりバレバレか。でも大丈夫さ。
「ジュン、無理だけはしないで。何か原因があるんでしょう?」
真紅が言う。原因は……あの夢か。でもなんて言えばいい?
みんなの優しさが身に沁みる。話すべきなのか。あの夢のことを。
でも彼女たちに何かできるのだろうか。確かにローゼンメイデンは特殊な能力がある。
薔薇や苺轍を操ったり夢の世界に入ったり。
……どうして今まで気付かなかったのだろうか。もし夢の世界に干渉する能力を双子以外が所有しているとしたら。
未だに姿を見せないドールが一体だけいる。素性は全て謎。他のドールたちですら把握していない。末の妹。
ローゼンメイデン第七ドール。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:40:12.36 ID:iu80jHn80
これしか考えられない。真紅たちを倒すためにまず力の供給源である僕を叩く。そうすればつじつまは合う。立派な戦術だ。
もっと早く気付けたはずだ。僕に降りかかる不思議な出来事はローゼンメイデン絡みに決まっているじゃないか。
今まで第七ドールという存在が頭に浮かばなかったのは何故だろうか。まるで脳内を操られて意図的に第七ドールという存在を記憶の奥に押し込まれていたような感じだ。それくらい今のひらめきは唐突なものだった。
だがそんなことはもう気にする必要もない。真紅たちに話さなければ。これは僕だけでなく彼女たちにも振りかかる問題なのだから。
「真紅、翠星石、雛苺……聞いてくれ」
喋るのがこんなにつらいなんて。
「僕がこうして……衰弱してるの、は……」
第七ドールだ。そいつが僕を――
『残念でした……時間切れ』
頭に響く声。夢の中じゃないのにどうして。
頭を抑える。力が入らない。椅子から転がり落ちる。痛い。
『素敵な夢はこれでお終い。私の中で安らかに――』
視界が狭まっていく。床しか見えない。真紅たちの叫び声。うまく聞き取れない。
『――眠りなさい』
暗転。視界が黒く染まった。五感がなくなる。意識だけとなって僕は――――
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:45:14.05 ID:iu80jHn80
「ジュン! ジュン!」
誰かの声が聞こえる。僕を呼ぶ声。夢の中で聞いたあの声だ。
目蓋を開ける。そこに広がっていたのはさっきまでいた自宅とは違う、奇妙な空間だった。僕は瞬時にnのフィールドだと理解する。
身体中に白い茨が巻きつけられ、身動きがとれない。拘束されているのだ。
「ジュン! 目が覚めたのね!?」
声がする方向を向く。そして驚愕した。
空中に何枚も浮かぶ大きな額縁。その中に声の主、ローゼンメイデン第五ドール、真紅がいた。真紅だけではない。他の額縁には水銀燈、翠星石、金糸雀もいた。
徐々に記憶が戻ってくる。そうか……これは。
「おはようございます」
真横から囁くように聞こえる声。
「雪華……綺晶……」
ローゼンメイデン第七ドール、雪華綺晶が嫌らしい笑みを浮かべて僕を見ていた。
「ジュンを離しなさい!」
真紅が叫ぶ。僕がこうしている間、彼女はずっと叫んでいたのだろう。
「だあれも離しませんわ。紅薔薇のお姉さま」
雪華綺晶は僕から離れると、隣で茨に拘束されている人物に腕を絡ませた。僕よりも小さくて華奢な身体。柏葉巴がそこにいた。目を閉じ眠っているようだ。
さらに周りを見回すと、金糸雀のマスター草笛みつさんに蒼星石の元マスター結菱一葉さん、さらに見知らぬパジャマ姿の女の子が同じように拘束され、眠っていた。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:50:15.76 ID:iu80jHn80
これは、扉を開けて金糸雀と共に真紅たちを助けにいった後のことだった。
僕と金糸雀は雪華綺晶の罠にまんまとかかり、捕まってしまったのだ。金糸雀は額縁の中に、僕は茨で拘束された。
「あなたには糧になってもらいます。……私がアリスになるための、ね」
そう雪華綺晶は言って僕を眠らせた。
つまり今までの日常は……
「温かな幻想はお楽しみになれました? ふふふふ」
彼女に見させられていた、夢。
「ジュンを離しなさいと言ってるでしょう!」
真紅はずっと叫び続ける。夢の中で見た夢。そこで目を覚ますようにと言っていたのは他でもない真紅だった。僕はその声に応えることができずに……。
「もう無駄ですわ。お姉さま」
雪華綺晶が言う。
「彼の力はほとんど吸い終わってます。私が一声かければ、彼はお終いですわ」
僕に対する、死刑宣告。
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:54:10.26 ID:iu80jHn80
意気込んで助けに来た結果がこのざまだ。もっと色々な手段があっただろうに。例えばパラレルワールドの自分に力を借りるとか。
結局僕は何もできずに短い生涯を終える。
死ぬのは恐い。だけど、僕が死んだ後を考えるともっと恐い。もうドールズやそのマスターたちを助けてくれる人はいないだろう。完全にチェックメイトだ。
僕は夢の中で真紅の声に気付いていれば、結果は少し変わったのかもしれない。
後悔しかない。悔しくてたまらない。
「それではさようなら。来世では幸せな人生を」
雪華綺晶が死ね、と僕に言う。
僅かに残っていた致命的な何かが、吸い取られる。
ごめん真紅。ごめんみんな。
薄れ行く意識。動かない身体。
涙を流す真紅の表情を一瞬視認した。
何も言えないまま、僕の意識は消え去った。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:56:56.63 ID:iu80jHn80
これでお終い
読んでくれた人はありがとう
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:57:57.22 ID:Dfwp4y680
面白かった。乙
すごい文章がうまいなあ、引き込まれたよ
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:58:37.52 ID:Fl6ca8fRO
お…乙
なんという鬱エンド
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:58:37.67 ID:bL8hF9GY0
なんという結末…乙
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 01:01:58.69 ID:OT5+QoI8P
主人公補正0なJUM…
これが引きこもりの現実か…
------------------
当ブログについて
※欄284さんありがとうです。
-------------
お絵かき掲示板より名無しの権三郎さんありがとうです。

読み物:ローゼン
お絵かき掲示板
画像掲示板
「僕は真っ白な空間の中で一人ぽつんと佇んでいるんだ。あたり一面がミルク色の深い霧で覆われていて僕はその中をゆっくりと手探りで歩いていくんだ」
「ふむふむ、ですぅ」
「するとさ、どこからともなく声が聞こえてくるんだ。その声も日によって声の主が様々で、だけど何て言っているかは聞き取れない。僕はなんとかして聞き取ろうと努力するんだけど、気付けば目が覚めていて。そんなのが毎晩続くんだよ」
「うーん……そうですねぇ」
翠星石はむむむ……と小さく唸りながら考えている。
何か思い当たる節があればいいのだけど。
「分からん! ですぅ」
期待は裏切られ、はっきりと断言されてしまった。こうなったら本当に蒼星石を頼るしかないか。
「これは蒼星石でも分からないと思うです」
思わぬ追撃を受けてしまった。まるで僕の心を読んでいるかのようだ。
「というより、ジュンが気にしすぎなんですよ」
5 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:05:00.84 ID:CK2sZkMB0
「そうか?」
「そうですよ。似たような夢がたまたま続いただけですぅ。大げさに考える必要はないですよ」
そう言われてみればそうかもしれない。事実、あの夢には実害もない。気にしなければなんということでもないのかもしれない。
「そうだな。気にしない方向でいくよ」
「それが一番ですぅ。もしまた何回も見るようでしたら、翠星石が一度、夢の中に入って確かめてあげるですよ」
「そうか。悪いな、わざわざありがとうな」
感謝の気持ちを込めて翠星石の頭を優しく撫でる。彼女はくすぐったそうな表情を見せて、直後に赤面した。
「なでなでしすぎですぅ! 調子のんなです!」
「ああ、悪いな」
手を翠星石の頭から離す。とたんに彼女は物足りなさそうな表情を見せる。どうしてここまで素直じゃないのだろうか。可愛げがあるのだかないのだか。
「ほら」
もう一度、翠星石の頭を軽く撫でる。
「ひぁっ」
まさかもう一度撫でられるとは思いもしなかったのだろう。
小動物のような可愛らしい声を上げて驚く。
「それじゃ」
撫でるのをやめると、僕は自室へ戻るため階段を上るのだった。
9 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:09:46.96 ID:CK2sZkMB0
――深夜零時。
パソコンの電源を切り、眼鏡を外す。スイッチを押し、照明を消してベッドの上に転がり込む。布団を身体に被せると、僕は不安を感じながらもゆっくりと目蓋を閉じた。
身体は正直なもので、不安をよそにまどろみに浸り――意識がなくなる。
気付けば真っ白な空間の中に立っていた。もう見慣れつつある光景。あたり一面がミルク色の霧に覆われている。一歩踏み出すと、霧が足にまとわりつくような感触。水の中ほどの抵抗はないが歩きにくい事には変わりない。だが僕は手探りで前に進む。
『あなたは眠っていなければならない』
遥か遠くから声が聞こえた。透き通るように綺麗な声。その声の主を探し、僕は重たい霧の中をゆっくりと進む。
『こちらに進んでは駄目』
声が僕を制止させようとする。止まるわけにはいかない。
この声の主が誰なのか知りたいから。
この夢が一体何なのかを知りたいから。
霧が、重くなった。水の中を進むのと同等の抵抗感。相変わらず視界は真っ白で、霧の中を進んでいるというよりは、ミルクの海を彷徨っているような感覚と言ったほうがいいかもしれない。
10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:14:04.03 ID:CK2sZkMB0
ミルクの中で必死に身体を動かす。夢の中だというのに全身に疲労を感じる。あまりにもリアリティのある疲労感で、もしやこれは夢などではないのかもしれないと錯覚しそうになった。
『残念でした……』
また声が聞こえる。
『時間切れ……ふふふ』
勝ち誇ったような声。同時に目の前の景色が文字通り一瞬で霧散し、視界がぱっと開ける。目の前にはぼやけた天井が広がっていた。
「もう朝か……」
のそのそと身体を起こすと、ケースを手に取り、眼鏡をかける。窓からは明るい陽が差し込んでおり、今日も晴天だということを教えてくれる。
鞄の方へと目をやる。三つの鞄はどれも空いており、ドールたちが皆すでに起床していることがわかった。時計に目をやる。十時を過ぎていた。
僕は寝巻きから普段着に着替えると、朝食を取るべく、階下へと向かっていく。ドールたちの騒ぎ声が聞こえるリビングの扉をゆっくりと開いた。
11 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:19:34.11 ID:CK2sZkMB0
「おはようジュン」
ソファーに座ってテレビを見ていた真紅がこちらに気付く。
それに続き追いかけっこをしていた翠星石と雛苺も僕の方へと振り向く。
「おはようなのー」
「おはようですぅ」
「ああ、みんなおはよう」
見回すといつもの三体だけではなく、青い服を纏ったドールもそこにいた。
「あ、お邪魔してます」
第四ドール、蒼星石がぺこりと頭を下げる。帽子がズレ落ちそうになり、慌てながら手で押さえていた。
「いらっしゃい」
客人にも簡単な挨拶を済まし、僕はダイニングへと向かう。テーブルの上にはラップされた朝食と姉の書置きが置いてあった。
『レンジでチンして食べてね。お昼はチャーハンが冷蔵庫に入っているからこれもチンしてね。 お姉ちゃんより』
いちいち書置きしなくてもわかるのに。
イラっとしつつも僕はレンジでチンすると、遅い朝食を始める。
14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:23:55.75 ID:CK2sZkMB0
ゆっくりと焼き鮭を租借しながら、遊んでいるドールたちを見る。もうこの光景も見慣れたなぁと思う。
真紅と雛苺、翠星石。時々蒼星石や今はここにいない金糸雀。少し前の僕だったら見ているだけでイライラしていただろうな。今では不快に思うことも無いし、むしろ微笑ましく思う。
全部で七体いるローゼンメイデンが僕の家に最大で五体も集まるというのはなんだかおかしな話だ。彼女たちはアリスを目指して戦わなければならない宿命にあるのに、今はこうして仲良く遊んでいる。
今では我が家に溶け込んでいる金糸雀も、最初はアリスゲームをするつもりだったように見えたが、自然な流れでこちらに溶け込んでいる。きっと彼女も本質的なところでは争いごとがあまり好きではないのだろう。
「ふっふっふ。百八十二回の失敗を経てとうとうここまでバレずに侵入することに成功したかしら。ローゼンメイデン一危険な女金糸雀。とうとう乙女らをけちょんけちょんにする日がやってきたわ」
噂をすればなんとやら。金糸雀が廊下からリビングを覗き見していた。いい加減どうどうと尋ねてくればいいのに、と思う。どうやら彼女はこっそり侵入することが生きがいになっているらしい。
「みっちゃんから貰っためがほんを使って後ろからみんなをビックリさせてあげるかしら。いくわよピチカート。せーの――」
「おーい、金糸雀が遊びにきたぞー」
「ほわあああああああああああああああああああ」
16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:28:58.55 ID:CK2sZkMB0
「いい加減どうどうと尋ねてくればいいですのに」
翠星石が文句を言う。どうやら僕とまったく同じことを考えていたようだ。
「ひどいかしらジュン! どうしてあと一歩のところでバラしちゃうのかしら!?」
「家の中でメガホンなんて使われたらうるさくてたまったもんじゃないだろ。遊ぶなら静かに遊んでくれ。頼むから」
僕はけだるそうに返事をすると、飲みなれないコーヒーを淹れる準備を始めた。
なんだか身体がだるい。起床してから顔を洗って歯を磨き、朝食もとったのにいまいち頭がぱっとしない。完全に覚醒しきっていないような、そんな感覚。
コーヒーを飲んで完全に目が覚めればいいんだけど。
「あー! ジュン何してるなの?」
雛苺がキッチンで作業している僕に気付き、こちらに駆けてくる。
「コーヒー作ってるんだよ。お前も飲むか?」
「飲むのー!」
「ちょっと待ってろ」
出来上がったコーヒーをカップに注ぐ。真っ黒で香り深い液体。ブラックで飲むかどうか一瞬悩むが、背伸びはよくないと思い、戸棚から砂糖とミルクを取り出す。
「お前にコーヒーが飲めるかな?」
そう言いながら二人分のカップに砂糖とミルクを入れた。
ミルク。あの夢を思い出してしまう。結局あれは何だったのだろうか。その場で考え込んでしまうが、雛苺が「早くリビングで飲むのー」とせかすので、このことは後回しにして、僕はリビングへと向かった。
18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:33:59.15 ID:CK2sZkMB0
「あら、コーヒー?」
香りでいち早く気付いた真紅が、こちらを見る。
「悪いな、紅茶じゃなくて。お前も飲むか?」
「そうねぇ。どうしようかしら」
「ヒナもこーひーで大人になるのよ!」
「チビチビなんかにコーヒーの味が分かるわけねーですぅ」
「そうかしら! ヒナにコーヒーなんて十年早いかしら!」
「うー! そんなことないもん! ゴクッ……苦いのおおおおおおおおおおおおおお」
隣で雛苺が叫んでいる。やっぱりあいつにコーヒーはまだ早かったみたいだ。一方僕は砂糖とミルクでなんとか飲める程度なので馬鹿にすることはできないのだが。
「やはり雛苺はまだ子供ね」
真紅が口を押さえてのたうちまわる雛苺を見ながら言う。
「じゃあお前はコーヒー平気なんだな。ちょっと待ってろ。淹れてくるから」
「ちょっと待ちなさいジュン! いつ私がそんなことを」
「あ、僕にも一杯いいかな。ブラックで」
「蒼星石もか。分かった」
真紅と蒼星石のコーヒーを淹れるためにキッチンへと戻る。きっと真紅は飲めないだろうな。少しからかってやるか。しかし蒼星石も飲むとは意外だ。それにブラック……。
21 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:38:48.00 ID:CK2sZkMB0
「カナはコーヒーなんて全然平気よ。むしろ大好物かしら!」
「じゃあ金糸雀も飲むの……」
「真の乙女は紅茶ではなくコーヒーをたしなむものかしら。ゴクッ……苦あああああああ」
「チビカナごときがコーヒーをたしなむなんてお笑い種もいいとこですぅ。ここは大人なレディの翠星石がコーヒーの楽しみかたってのを教えてやるですぅ。ゴクッ……にぎゃあああああああああい」
馬鹿三人組の絶叫が響き渡るリビングへと戻る。翠星石、雛苺、金糸雀は口を押さえながらピクピクしていた。そこまで刺激が強いとは。
「ほら、できたぞ」
「ありがとうジュン君」
蒼星石は笑顔で礼を言うとカップを受け取る。
「おい、これはお前のだぞ」
「私はコーヒーなんて……」
「なんだ、お前もあいつらと同じでお子様か」
僕は馬鹿三人組を指差し、ニタリといやらしく笑う。
「そんなわけないでしょう! コーヒーなんて飲みすぎて飽きちゃっただけよ」
「じゃあ一口飲むくらいなら問題ないよなぁ」
「うっ……分かったわよ。一口だけよ。それ以上は絶対飲まないわよ」
かかった。なんだかんだで真紅も分かりやすい性格をしている。
「こんな……こんなもの。ゴクッ……っ!!!!!!!!!」
真紅は思い切り飛び跳ねると、そのまま気絶してしまった。ある意味一番いいリアクションをしている。その様子を、いつの間にか復活していた馬鹿三人組がケタケタと笑いながら見ていた。
「みんな、笑うのはよくないよ」
ブラックを何事もないように飲みながら注意する蒼星石。……少し悔しかった。
22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:43:30.88 ID:CK2sZkMB0
平和だな、としみじみ思う。
目の前の現実が霞んで見えなくなるくらい、この空間は温かく、そして心地よい。真紅がこの家にきてどれくらい経ったのだろうか。まだ一年も経っていないはずだ。それなのに随分変わったと思う。この家も、僕も。
毎日が楽しいと思えるようになった。そのおかげか、一日が早く感じる。楽しい時はあっという間に終わるというがその通りみたいだ。
こんな日がずっと続くといいなぁ。そう考えている自分がいることに驚きだ。最初はドールたちを呪い人形呼ばわりして厄介に思っていたのに、今ではもう――。
パリィン、と窓ガラスが割れる音。
黒い雨が、リビングの中に降り注ぐ。
舞い降りるは、漆黒の羽。
「呆れたわぁ。アリスゲームを放棄してこんなところで仲良しごっこなんかしちゃって」
割れて無くなった窓の方へと目をやる。僕の知る六体のドールの内、もっとも好戦的で、残酷なドール。水銀燈が姿を現した。
「丁度いいわぁ。まとめてジャンクにしてあげる」
水銀燈は黒い羽を大きく広げる。真紅たちをまとめて羽の攻撃によって一掃するつもりなのだろう。もう争うごとはごめんだ。僕は思わず叫ぶ。
「やめろ――」
「あー! 丁度いいところに来たのー!」
しかしそれは雛苺に妨害されてしまった。
24 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:48:21.21 ID:CK2sZkMB0
「ナイスタイミングですぅ水銀燈」
「ちょっとこっち来るかしら」
「な、何なのよ……」
予想外の反応を受けて、水銀燈は困惑しているようだ。広げた羽を閉じ、金糸雀の指示に従ってこちらに上がりこんでいる。
困惑しているのは水銀燈だけではない。僕自身、予想外な流れについていけなくなっている。唖然としながらその様子を見ていることしかできない。
「ほら、これを飲むのー!」
雛苺は自分たちが飲んでいたコーヒーのカップを水銀燈に手渡した。
「これは、コーヒー?」
「そうですぅ。まさか飲めないとは言わせねーですよ?」
「あいにくコーヒーは飲まない主義でねぇ。ヤクルトはないの?」
「まさか水銀燈……長女なのにコーヒーは苦くて飲めないなんて言うのかしら?」
「そんなわけないでしょぉ!」
「ほら、蒼星石を見るですぅ」
「うーん、やっぱりブラックはいいね」
「四女が飲めて長女が飲めないのはおかしいですよ」
「く……何が目的なのよ」
「コーヒーを飲む。それだけでいいかしら!」
「だから私はコーヒーを飲まない主義だって言っているでしょぉ!」
アリスゲームが始まるかと思いきや、またコーヒーうんぬんで彼女たちは騒いでいる。
いったいどうなっているのだろうか。僕にはもう何がなんだかわからない。
25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:51:44.28 ID:i/7Dz4qF0
ヒナグッジョブ
26 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:53:27.89 ID:CK2sZkMB0
「さすがジャンクは言い訳がへたくそね」
いつの間にか復活した真紅が、ソファーの上から見下すようにして水銀燈をあざ笑っていた。なんて生き生きとした表情なんだろうか。
「なんですってぇ?」
「まあしょうがないわね。これだけ偉そうにしておいてコーヒー程度も飲めないなんて。恥ずかしくて言えないわよね。ごめんなさいね無理強いしちゃって」
「真紅ぅぅぅぅぅ!」
お前も飲めないだろうが、というツッコミは封印する。後が恐いし。
「そーれコーヒー! コーヒー!」
「イッキ! イッキ!」
いつの間にか飲み会のようなノリに変わる。いや、未成年だから飲み会なんて出たことないけど。
「分かったわよぉ! 飲めばいいんでしょ飲めば!」
水銀燈は雛苺からカップをひったくると、テーブルの上に乗る。そして腰に手を当てるとぐいっとコーヒーを一気飲みする。
「ゴクッゴクッゴクッ……苦いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」
水銀燈の絶叫が、家中に木霊した。
27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:55:41.47 ID:TEmTsyFCP
ほのぼのしてますねー
28 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 22:58:33.50 ID:CK2sZkMB0
テーブルの上で水銀燈が口を押さえながら悶絶している。その様子を見て満足したのか、ドールたちは皆、部屋の片付けを始めた。
「金糸雀、手伝ってちょうだい」
「了解かしらー」
真紅と金糸雀は壊れた窓を修復。他の三体は散らばった家具や羽を片付けている。
「ほら、チビ人間も早く手伝えですぅ!」
翠星石の怒声。僕もしぶしぶ椅子から立ち上がり、水銀燈がこぼしたコーヒーを拭くことにした。
ちらっと水銀燈を見ると、白目でピクピクしており、思わず僕は笑ってしまう。
「…………」ムカッ
「ぎゃおおおおおおおおおおおおおお」
黒い羽が一本、僕の眉間に突き刺さる。あまりの痛みに、僕は水銀燈のように悶絶し、床でのたうち回った。
「馬鹿みてーですよ」
翠星石が呆れたように僕を見ていた。情けない。
29 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:03:54.64 ID:CK2sZkMB0
「今日はちょっと調子が狂っちゃったけど、次会った時は容赦しないわよ」
「コーヒーが飲めるようになってから出直しなさい」
「うるっさいわね。ブサイクは黙ってなさい」
「誰がブサイクなのよ! 言ってみなさいこのジャンク!」
「ブーブーうるさいわ。まるで豚みたい。それじゃあねぇ」
水銀燈は真紅に言いたい放題言うと、大空へ羽ばたいていった。途中でカラスの大群に襲われていたのをみんなで笑う。金糸雀が「あれはカナの卵を奪った宿敵」とか言っていたがみんなスルーしていた。
なんだかんだで、平和だった。最初水銀燈が現れたときはひやひやしたが、この調子なら心配する事もないだろう
「僕は部屋に戻るよ」
コーヒーのカップを片付けると、僕はそう言って部屋に戻る。
パソコンの電源をつけると、ベッドに寝転がる。
おかしいな。
コーヒーを飲んで、あれだけ馬鹿騒ぎしたのに。
まだ身体が覚醒した気がしない。
疲労感とは違う感覚。病気か? 少しずつ不安が押し寄せる。
そんなことあるわけないさ。そう自分に言い聞かせると、立ち上がってパソコンの前に座る。
さて、今日も怪しげな商品を探すとしよう。
31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:08:42.40 ID:CK2sZkMB0
――夜。
だるさが取れない身体を布団に寝かせ、目蓋を閉じる。
驚くほどあっさりと意識がなくなり、気付けば霧の中で棒立ちになっていた。
「やっぱりか」
思わず独り言を呟く。またしてもこの夢だ。一体この夢には何の意味があるのだろうか。
ローゼンメイデンが関係している? それとも僕の精神的な問題?
いくら考えても答えなんてでない。だから僕は今回も前に進むことにする。
相変わらず霧はねっとりとしていて重たい。さらに現実世界で感じただるさが夢の中にまで影響しているのか、昨夜よりも霧が重い。だが、そんなの関係ない。今できること、僕は前に進むだけだ。
『こちら進んでは駄目』
しばらくしてまたあの声が聞こえた。一体この声の主は誰なのだろうか。進めば分かるかもしれない。僕はその声を無視して前に進む。
『止まって。進んでは駄目』
何か魔力のような物が宿っているのではないか。そう錯覚しそうになるほど、この声は頭に響く。脳内に直接語りかけられているような感覚に近い。
『……く……して』
僕を制止する声とはまた別の声。かすれてうまく聞き取れないがまた別の人物の声が聞こえる。僕は耳を澄ましてその声を聞き取ることに集中する。
『早く目を覚まして』
完全に聞き取れた。今度は僕を覚醒させようとする声。まるで何かで遮られた場所から聞こえるような感じで最初の僕を制止する声のようなクリアさは感じられない。
34 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:12:47.23 ID:CK2sZkMB0
『お願い、早く目を覚まして!』
さっきよりもはっきりと聞こえた。と同時に衝撃を受ける。この声にはどこかで聞き覚えがある。とても馴染みの深い声だ。しかしいくら記憶をさかのぼっても誰の声であるかが思い出せない。
『ふふふ。お二人とも残念でした』
笑い声。どうやらここでお終いのようだ。
『時間切れ……また明晩』
その声と同時に霧は消え、僕は真っ白な天井を見つめていた。
上体を起こし、眼鏡をかける。全身に嫌な感覚。汗をびっしょりとかいていた。布団から出た身体に部屋の冷たい空気がまとわりつき、ぶるりと身震いする。
時計を見ると、正午を過ぎていた。すこし寝すぎたみたいだ。とは言ってもあの夢のせいでまともに寝た気にはなれないけど。
完全にベッドから起き上がると身体をタオルで拭き、寝巻きから着替える。そしてトイレ、洗顔、歯磨き、食事等々を済ませるため一階へと降りていく。
昨日以上のけだるさを感じながら。
36 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:17:58.68 ID:CK2sZkMB0
朝食もとい昼食をレンジでチンし、食べる。
リビングではすでに五体のドールが揃って遊んでいた。相変わらず微笑ましい光景だと思う。気付けばニヤニヤしながら彼女たちを見ていた。
食事を終え、食器を片付けると、椅子に座って天井を見上げた。何かをする気力が起きない。ドールたちに混ざって遊ぼうとも思わないし、部屋に戻ってネットサーフィンしようとも思わない。無気力だ。このけだるさが原因だろうか。
「くんくん探偵怒涛の五時間スペシャルの時間だわ」
真紅が突如大声をあげ、テレビのリモコンを手に取る。そしてチャンネルを帰ると、画面におなじみの人形劇が映る。体調が万全だったら僕も見たかった。録画しておいてもらうとしよう。
「真紅ー、今からでいいから録画しておいてくれないか?」
「安心しなさいジュン。何度も見直すつもりで最初から録画の準備はできているわ」
「準備がいいじゃないか。安心したよ」
そう言って僕はテーブルに身体を突っ伏した。ああ、ひんやりとした感触が気持ちいい。
このままぐーたらして一日過ごすのも悪くないかもな。
そう思った直後にパリィンと窓が割れ、黒い羽がリビングに降り注いだ。
またか。
37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:21:55.01 ID:CK2sZkMB0
「昨日は色々とアレだったけど、今日こそは貴女たちのローザミスティカをいただくわぁ」
黒い羽を羽ばたかせ、水銀燈が庭に舞い降りる。
そんな彼女を忌々しげに睨む真紅たち。
「あーもうなんでこんな時に来るんですか!?」
「ちょっとは空気読んでほしいかしら!」
「やっぱりあなたは頭までジャンクだったのね。今が何の時間か分かっているの?」
「水銀燈もいっしょにみるのー」
怒涛の勢いでたたみかけられる言葉に水銀燈はあたふたとする。
「な、何なのよ今度は」
「テレビの画面を見てみなさい」
「あ、あれは……くんくん!」
「あら、ジャンクでもくんくんは知っているのね。褒めてあげる。今はね、くんくん探偵怒涛の五時間スペシャルの最中なのよ!」
「な、なんですって!?」
昨日と同じような流れだ。僕は安心してほっと一息つく。こうして皆仲良くしているのが一番なんだ。争いごとなんて、無意味だ。
「ちょっとどきなさい蒼星石! こんなものが今日あるなんて知らなかったわ。知ってたら今頃めぐといっしょに見てたわよ」
「水銀燈もくんくんが好きなのね」
「当たり前でしょう。私からくんくんを取ったらローザミスティカしか残らないわ」
「スペシャルの日程すら把握できてないくせに何を言ってるの。これだからジャンクは」
「豚真紅は黙ってなさい!」
「な、なななななんですってぇ」
39 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:26:47.24 ID:CK2sZkMB0
しかし、あの二人はどうして仲良くできないのだろうか。なんで仲が悪いのかは知らないけど、姉妹なんだから和解してもいいと思う。
「でも、ああやって言い合ってる方が二人らしいとは思わない?」
「え?」
気が付くと蒼星石が僕の正面に座っていた。そういえばさっき水銀燈に場所を奪われてたっけ。ってあれ……?
「僕の心を読んだ?」
「あはは、違うよ。ジュン君の表情を見たらそんなこと考えてそうだなって思っただけさ」
「なんだ……ビックリした」
ローゼンメイデンには心を読む能力があるのかと真剣に考えてしまった。どうやら僕は意外と表情に思ったことが出やすいみたいだ。
「お前はくんくん見ないのか?」
「うん、真紅たちほどあの人形劇が好きってわけじゃないからね」
「そっか。なんかお前ってドールズの中じゃクールな感じがするよ」
「そうかな?」
「コーヒーもブラックで飲むし」
「もしかして自分が飲めなかったから悔しいとか?」
「う、うるさい」
「あはは、ごめんごめん」
40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:31:00.82 ID:CK2sZkMB0
「そういえばさ」
「なあに?」
「お前とこうしてまともにお喋りするのは始めての気がするよ」
自分の記憶をさかのぼると、蒼星石との思い出がほとんどなかった。むしろ、なぜか分からないが悲しいイメージに繋がることが多かった。
「どうして? 今までも仲良くしてきたじゃない」
「え?」
「よくジュン君からはグチを聞かされてたよ。雛苺が部屋中を汚す。翠星石からの暴力がひどい。真紅には今でも奴隷扱いを受けてる。そんな話ばっかりさ」
おかしい。僕の脳内を検索してもそんな記憶は見つからなかった。度忘れ? 若年性アルツハイマー? そんな馬鹿な。
「どうしたの?」
蒼星石が心配そうに僕の顔を覗く。どうやらそうとう深刻な表情をしていたらしい。
「ごめん、なんでもない。ちょっと度忘れしてたみたいでさ」
「なんだ。それでジュン君は――」
この蒼星石に対する違和感は何なんだ。毎晩見る変な夢と関係しているのか? 分からない。どうなっているんだ。
「ごめん、ちょっと気分が悪いから部屋に戻る」
そう言って僕は椅子から立ち上がると自室へと向かった。その途中、翠星石に「くんくんが終わったら僕の部屋にきてくれ」と、そう伝えて。
43 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:36:04.82 ID:CK2sZkMB0
布団に身体を倒し、ぼうっと天井を見つめる。こうしているのが一番楽だ。夢のことをまた考えるが、何度考えても答えは分からないということに行き着く。情報が少なすぎる。
これ以上どう考えればいいのか。
だから、彼女に頼るのだ。
コンコン。
ノックの音。入っていいぞ、と返事をすると扉がゆっくりと開き翠星石が入ってきた。
心なしかそわそわしているようにも見える。
「用があるのは翠星石一人ですか?」
不思議なことを聞くな。
「ああ。僕はお前にだけ頼みがあるんだ」
そう言うと、翠星石は頬を赤らめた。
「な、なななな何ですか?」
急にどもり始めた。どうしたんだろう。
「今から僕は寝る」
「ね、ねねね寝るぅ!? それってまさか……」
何をそんなに動揺しているんだ?
「ああ、僕の夢の中を見て欲しいんだ」
「夢の中を見るぅ!? ……って、そんなことでしたか」
お前はなんだと思っていたんだ。
「前に話した夢、あれからも毎日見てるんだ。お前が実際に中に入って見てくれれば何か分かると思ってさ」
「そういうことですか。だったら翠星石にお任せですぅ」
「頼もしいな。それじゃ頼むよ」
僕はそう言って布団を被ると、目蓋を閉じた。
44 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:40:47.98 ID:CK2sZkMB0
見慣れた景色。一面真っ白な世界。ミルク色の霧。
まずは翠星石が来るのを待つとしよう。僕はその場に座り込む。
どれくらい経っただろう。翠星石は一向に姿を現さない。彼女の能力の一つとして夢の扉を開く力がある。それを使えば入ってこられるはずなのに。一体どうなっているのか。
うだうだ考えていても仕方が無い。翠星石が来ないのなら、いつも通り前に進むだけだ。
僕は立ち上がると、霧の中を一歩ずつ前進を始める。中々進まない。また霧が重くなったような気がする。
しばらくして例の声が僕の脳内に響いた。
『進んでは駄目。座っていて』
やなこった。僕は前に進む。
『お願い、目を覚まして!』
君は誰なんだ。思い出せない。
『どうせ無駄なあがき。進んでは駄目』
黙れ。無駄かどうかは僕が決める。
『お願いジュン! 私の声が聞こえないの?』
聞こえているよ。君は誰なんだ? 僕の大切な人か?
「君は誰だ?」
大声で叫ぶ。思い出せない彼女に届くだろうか。
45 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:44:46.38 ID:HpPwQ39qO
/ ̄\
| ^o^ | < わたしです
\_/
_| |_
| |
46 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:45:35.61 ID:CK2sZkMB0
『ジュン! お願い、届いて……届いて、私の声!』
どうやら僕の声は届かなかったらしい。一方通行の願いだけが僕の耳に届く。
目を覚ませと警告するというのなら、この夢は僕にとって危ないものなのだろうか。それとも、彼女にとって僕に見られると都合の悪いもの? だとしたら制止する声の主と仲間? 彼女たちは僕の敵? つまり僕と契約した真紅、翠星石、雛苺の敵なのか?
仮定だけが頭を埋め尽くす。情報が足りない。何も見えてこない。
周りの景色も変わらない。進む事に意味はないのか? 僕のやっていることは制止する声の言う通り無駄なのか? 結局僕には何も分からない。
どうすればいい?
どうすればいい?
『残念でした。時間切れ。チャンスは残り僅かです……ふふふ』
タイムアップ。チャンスとは何だ? 何のチャンスだ? この夢の中で出来ることが他にもあるのか? 新たな情報だ。考えろ。僕はどうすればいい?
視界が開ける。くりっとした赤と緑のオッドアイが僕を見つめていた。
「おはようですぅジュン。だいぶうなされてたですよ」
47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:50:30.15 ID:CK2sZkMB0
頭がはっきりとしない。眼前にいる少女は心配そうに僕を見つめる。
「大丈夫ですか?」
ゆっくりと意識が覚醒していく。そうだ、彼女は翠星石。僕は例の夢から覚めて現実世界に戻ったんだ。なんだか物凄く疲れた。
「ああ、おはよう。ちょっと寝ぼけてた」
僕は翠星石をベッドから離れさせると、身体を起こして眼鏡をかけた。
さっそく話を聞かなければ。
「なあ、どうして僕の夢の中にこなかったんだ?」
「え?」
「いつまで経ってもお前は僕の夢の中に現れなかったじゃないか?」
そう、彼女は姿を現さなかった。結局僕はまた一人で歩いただけだった。
「入りましたですよ。ジュンの夢の中」
「どういうことだよ?」
「心配して入ってみたら、夢の中はいたって正常でジュンはぐっすりと安眠状態でしたよ」
そんな馬鹿な。あれのどこが安眠状態だというんだ。
48 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/06(金) 23:55:04.66 ID:CK2sZkMB0
「だからうなされてるのを見てビックリしたです」
「……そうか」
見たところ翠星石が嘘を言っているようには見えない。夢の世界と僕が見ている夢は別次元の空間なのだろうか。じゃあ僕が見ている夢は夢じゃないのかもしれない。あそこはどこだ? nのフィールド? 幽体離脱?
様々な考えが頭を巡る。あっちでもこっちでも考えてばかりだ。
気が付くとまた翠星石が心配そうにこちらの顔を覗いていた。
「ああ、悪い。ちょっと考え事をしてた」
「考え事ですか」
「そう、考え事だ。そんなことよりありがとな。お前ほとんど休んでないだろ? ゆっくり鞄で寝て身体を休めてくれ」
「そうさせてもらうですぅ」
翠星石はそう言って鞄の中に入った。
僕は鞄が閉じると同時にもう一度ベッドに倒れこんだ。
力が入らない。まるで睡眠が重労働であったかのように身体が重い。だるい。目が霞む。
ああ、何もしないのが一番楽だ。昨日もそうだったな。もう動きたくない。考えたくない。
姉ちゃんが帰ってくるまでずっと、僕はべッドの上で天井を見つめていた。
51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:00:55.56 ID:iu80jHn80
「ジュン君!?」
姉ちゃんが大慌てで部屋に入ってくる。もうそんな時間か。
「どうしんだよ。そんな慌てて」
「朝ごはんも昼ごはんも手をつけてないんでしょう? 調子悪いの? 大丈夫?」
ああ、そうだった。起きてから一歩もこの部屋から出なかったな。
「ちょっとだるいだけだよ。心配しなくていい」
「心配するに決まってるでしょう。大事な弟なんだから」
大げさだよ。だからブラコンって言われるんだ。
「何か食べなきゃ駄目よぅ。今日の晩御飯はおかゆよ。絶対に食べて」
おかゆか。それなら食べられそうだ。
「うん、わかった。できたらまた呼んで」
そう言うと、姉ちゃんは下へと戻っていった。ちょっと心配をかけすぎたな。できるだけ気丈に振舞った方がいいかもしれない。
しかし気分が悪い。起きてからずっと身体を休めているはずなのに、だるさは増しているような気がしてならない。四肢は鉛のように重たい。僕の身体はどうなっているのか。
まるで生気を吸い取られているみたいだ。生きていくためのエネルギーが、ゆっくりと身体のどこかから漏洩しているような。そんな感覚。
夢のことを考えなきゃ。
このだるさも関係しているに違いない。きっとそうさ。何もかもこの夢のせいだ。
しかしいくら頑張っても頭は回転せず、気付けばぼうっと天井を見つめているだけ。考える気力すら、今の僕にはない。
56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:05:58.18 ID:iu80jHn80
しばらくして、翠星石と雛苺が僕を呼びにきた。晩御飯の時間だ。
「ジュンー大丈夫?」
雛苺が心配そうに立ち上がった僕を見上げる。そんな悲しそうな顔をしないでほしい。
死ぬわけじゃないんだから。
「なんだか、昼間よりもやつれているように見えるですぅ」
翠星石の目にもそう見えるらしい。僕が時間とともに衰弱しているのは明らかだった。
でも食事を取れば元気になるはず。そう信じて僕は階段をゆっくりと降りた。
「お姉ちゃん特製、ふわふわ卵粥よ!」
おいしそうな卵粥がテーブルの上においてある。小さな土鍋からたつゆげ。きらきらと光に当たって輝く卵とお米。さきほどまでほとんどなかった食欲がいっきに湧いてくる。
姉ちゃんが料理上手でよかったと心底思う。
「いただきまーす」
みんなの声が重なり合う。暖かい食卓。
ふぅふぅと、れんげですくった粥を冷ます。程よい温度になったところで口に運ぶ。温かい。それでいて、すごく美味しい。
「美味しい……」
自然と口からこぼれた。
姉ちゃんはそんな僕をふふ、と笑いながら見つめて、
「ありがとう」
そう言った。
57 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:10:59.65 ID:iu80jHn80
食事を終え、僕は部屋に戻った。
姉ちゃんだけでなく真紅たちも心配してくれた。精一杯の笑顔で大丈夫、そう言った。
嘘ではない。強がりなんかでもない。そう自分に言い聞かせる。
こころなしか体調がよくなった気がする。あのお粥のおかげだろう。これなら、今晩見る夢の中でも問題なく前に進める。
あの声は言っていた。チャンスは残り僅かだと。
何のチャンスかは分からないが、残り僅かならあがくしかないだろう。今の僕にはそれしかできない。何かを知るためには、そうするしかないから。
時計を見る。二十時丁度。時間はたっぷりあった方がいいな。僕は風呂にも入らず、私服のままベッドに倒れこむ。眼鏡を外し、掛け布団で身をくるむ。
さあ、夢の世界に行こう。
体調不良も、記憶に関する違和感も、何もかもを解決させよう。変なことに悩むこともなく、楽しい日常に戻れるから。
目蓋を閉じる。
意識はあっさりと失われ、僕は現実世界から離脱した。
59 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:15:26.56 ID:iu80jHn80
『ジュン! お願いだから目を覚まして!』
僕の知っている誰かの叫び声で、僕は夢の中にいることに気付いた。
昨夜以上にクリアに聞こえる。声の主に近づいているからだろか。だとしたら僕の歩みは無駄ではなくなるのだけれど。
『終わりは目前……進んでも意味はないわ』
もう一つの声。いつも僕を制止していた声だ。もう意味はない。どういうことだ。
息を切らしながら前に進む。最初は水の中を進む程度だった抵抗感が今ではどろどろの粘液の中を進んでいるかのような抵抗感になっている。ペースは今までで一番遅い。
でも時間はまだあるんだ。
諦めずに進み続けると、前方に大きな何かが見えた。
目を凝らしてみる。建物のようだ。きらきらと光っていて、てっぺんが尖がっている。どうやらそれはお城のようだった。
しばらく前に進むと、その容貌が完全に明らかとなった。
きらきら光っているのはお城が白い水晶で作られているからだ。さらに周りを白い薔薇に囲まれている。思わず僕は綺麗だ……と呟いていた。
あのお城がゴール? あそこにたどり着けば全てが分かる? 声の主はあそこに?
『ジュン! ジュン!』
僕の知っている誰かの声。お城の中から聞こえてくる。あの中にいるのか。
力の入らない身体に鞭を打ち、お城へと近づいていく。
限界は、あっけなく訪れた。
61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:20:20.50 ID:iu80jHn80
身体が鋼鉄化してしまったかのように動かなくなる。僕はそのまま倒れこんでしまう。
お城は目前なのに。どうして動かない! どうしてあと少しが頑張れない!?
自分の身体に文句をぶつける。だからといって動くようになるわけではない。僕はなんとか頭を上げて目の前のお城を見つめる。僅か数メートル。それが届かない。
『残念でした。……ふふふ』
笑うな。不快だ。
『貴方は間に合いませんでした……応えられませんでした……うふふ……あはははははは』
「笑うなあああああああああああああああ」
大声をあげる。何に間に合わなかったのか、何に対して応えられなかったのか、僕には分からない。だけど、例えようも無く悔しかった。悔しくてたまらなかった。
でも、駄目だ。身体は動いてくれない。
『最後の夢を、幻想を貴方に……』
夢? 幻想? 何の事だ?
考えているうちに意識が別世界に移っていく。この感覚――どうやら現実世界で目覚めるようだ。夢の時間は終わってしまった。
結局何も解決できないまま僕は、僕は――――
63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:25:00.17 ID:iu80jHn80
たくさんの目が僕を見下ろしている。
「あ、目が覚めたわよぅ」
姉ちゃんが心配そうに声をかける。
「……おはよう」
そう言って僕は起き上がろうとする。たくさんの目、もとい姉ちゃんとドールズは慌ててベッドから離れた。
「大丈夫? だいぶうなされてたみたいだけど」
「ああ……大丈夫だよ」
身体が重い。力が入らない。
「朝ごはん食べる?」
「うん……お願い」
食欲はない。でも何か食べて力をつけなくちゃ。
「すぐ準備してくるから、着替えて下に来てね」
「了解」
姉ちゃんは急ぎ足で一階へと降りていく。
「本当に大丈夫なの?」
誰よりも心配そうな顔の雛苺。
「大丈夫だよ。死ぬわけじゃないんだし」
「でも、すごいやつれてるですよ?」
「そうか? 気のせいだろ」
「無理だけはしないでジュン。大変だったら大変と言って」
「心配しすぎだよ真紅。僕は大丈夫さ」
そう、大丈夫さ。きっと。
64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:30:07.19 ID:iu80jHn80
「先に下に行っててくれ。着替えるからさ」
そう言ってドールズを部屋から出す。
足音で一階に行ったことを確認すると僕はもう一度ベッドに倒れこんだ。
予想以上につらい。この衰弱はいったい何なんだ。
これは本当に自分の身体なのかと疑いたくなる。体内に動力源、エネルギーをまったく感じない。からっぽだ。
なんで僕がこんなめにあわなければいけないのだろう。心当たりが無い。記憶を遡る。
ここ数日の楽しい日々の記憶。該当しない。さらに前の記憶を引っ張り出す。激しい頭痛。そして吐き気。脳が拒否しているのような抵抗感。
このままではいけない。早くエネルギーと取って体力を回復しなければ。
鉛のような四肢を動かし寝巻きから着替えると、僕はゆっくりとした足取りで慎重に階段を下りていく。足がおぼつかないため、何度もバランスを崩しそうになる。
一階まで下りるのに数分かかってしまった。しかしここからダイニングまではいつも通りに振舞わなければ。これ以上心配をかけちゃ駄目だ。
僅か数メートルの距離が途方も無く長く感じる。だが僕は覚悟を決めると、普段の歩き方を意識してダイニングへと向かった。
68 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:35:05.86 ID:iu80jHn80
「おまたせ」
そういって椅子に座る。
足がガクガクしている。悟られてはいけない。
「はい、連日だけどおかゆよぅ。これなら食べやすいと思って」
おかゆか。今の状態でまともに物が噛めるか心配だったから丁度いい。僕は無言でそれを食べ始めた。
「なんとか言ったらどうですぅ」
翠星石が言う。すまないが喋るのも辛くなってきたんだ。
「でもすごい調子悪そうなのよ」
雛苺が言う。やっぱりバレバレか。でも大丈夫さ。
「ジュン、無理だけはしないで。何か原因があるんでしょう?」
真紅が言う。原因は……あの夢か。でもなんて言えばいい?
みんなの優しさが身に沁みる。話すべきなのか。あの夢のことを。
でも彼女たちに何かできるのだろうか。確かにローゼンメイデンは特殊な能力がある。
薔薇や苺轍を操ったり夢の世界に入ったり。
……どうして今まで気付かなかったのだろうか。もし夢の世界に干渉する能力を双子以外が所有しているとしたら。
未だに姿を見せないドールが一体だけいる。素性は全て謎。他のドールたちですら把握していない。末の妹。
ローゼンメイデン第七ドール。
70 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:40:12.36 ID:iu80jHn80
これしか考えられない。真紅たちを倒すためにまず力の供給源である僕を叩く。そうすればつじつまは合う。立派な戦術だ。
もっと早く気付けたはずだ。僕に降りかかる不思議な出来事はローゼンメイデン絡みに決まっているじゃないか。
今まで第七ドールという存在が頭に浮かばなかったのは何故だろうか。まるで脳内を操られて意図的に第七ドールという存在を記憶の奥に押し込まれていたような感じだ。それくらい今のひらめきは唐突なものだった。
だがそんなことはもう気にする必要もない。真紅たちに話さなければ。これは僕だけでなく彼女たちにも振りかかる問題なのだから。
「真紅、翠星石、雛苺……聞いてくれ」
喋るのがこんなにつらいなんて。
「僕がこうして……衰弱してるの、は……」
第七ドールだ。そいつが僕を――
『残念でした……時間切れ』
頭に響く声。夢の中じゃないのにどうして。
頭を抑える。力が入らない。椅子から転がり落ちる。痛い。
『素敵な夢はこれでお終い。私の中で安らかに――』
視界が狭まっていく。床しか見えない。真紅たちの叫び声。うまく聞き取れない。
『――眠りなさい』
暗転。視界が黒く染まった。五感がなくなる。意識だけとなって僕は――――
72 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:45:14.05 ID:iu80jHn80
「ジュン! ジュン!」
誰かの声が聞こえる。僕を呼ぶ声。夢の中で聞いたあの声だ。
目蓋を開ける。そこに広がっていたのはさっきまでいた自宅とは違う、奇妙な空間だった。僕は瞬時にnのフィールドだと理解する。
身体中に白い茨が巻きつけられ、身動きがとれない。拘束されているのだ。
「ジュン! 目が覚めたのね!?」
声がする方向を向く。そして驚愕した。
空中に何枚も浮かぶ大きな額縁。その中に声の主、ローゼンメイデン第五ドール、真紅がいた。真紅だけではない。他の額縁には水銀燈、翠星石、金糸雀もいた。
徐々に記憶が戻ってくる。そうか……これは。
「おはようございます」
真横から囁くように聞こえる声。
「雪華……綺晶……」
ローゼンメイデン第七ドール、雪華綺晶が嫌らしい笑みを浮かべて僕を見ていた。
「ジュンを離しなさい!」
真紅が叫ぶ。僕がこうしている間、彼女はずっと叫んでいたのだろう。
「だあれも離しませんわ。紅薔薇のお姉さま」
雪華綺晶は僕から離れると、隣で茨に拘束されている人物に腕を絡ませた。僕よりも小さくて華奢な身体。柏葉巴がそこにいた。目を閉じ眠っているようだ。
さらに周りを見回すと、金糸雀のマスター草笛みつさんに蒼星石の元マスター結菱一葉さん、さらに見知らぬパジャマ姿の女の子が同じように拘束され、眠っていた。
73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:50:15.76 ID:iu80jHn80
これは、扉を開けて金糸雀と共に真紅たちを助けにいった後のことだった。
僕と金糸雀は雪華綺晶の罠にまんまとかかり、捕まってしまったのだ。金糸雀は額縁の中に、僕は茨で拘束された。
「あなたには糧になってもらいます。……私がアリスになるための、ね」
そう雪華綺晶は言って僕を眠らせた。
つまり今までの日常は……
「温かな幻想はお楽しみになれました? ふふふふ」
彼女に見させられていた、夢。
「ジュンを離しなさいと言ってるでしょう!」
真紅はずっと叫び続ける。夢の中で見た夢。そこで目を覚ますようにと言っていたのは他でもない真紅だった。僕はその声に応えることができずに……。
「もう無駄ですわ。お姉さま」
雪華綺晶が言う。
「彼の力はほとんど吸い終わってます。私が一声かければ、彼はお終いですわ」
僕に対する、死刑宣告。
76 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:54:10.26 ID:iu80jHn80
意気込んで助けに来た結果がこのざまだ。もっと色々な手段があっただろうに。例えばパラレルワールドの自分に力を借りるとか。
結局僕は何もできずに短い生涯を終える。
死ぬのは恐い。だけど、僕が死んだ後を考えるともっと恐い。もうドールズやそのマスターたちを助けてくれる人はいないだろう。完全にチェックメイトだ。
僕は夢の中で真紅の声に気付いていれば、結果は少し変わったのかもしれない。
後悔しかない。悔しくてたまらない。
「それではさようなら。来世では幸せな人生を」
雪華綺晶が死ね、と僕に言う。
僅かに残っていた致命的な何かが、吸い取られる。
ごめん真紅。ごめんみんな。
薄れ行く意識。動かない身体。
涙を流す真紅の表情を一瞬視認した。
何も言えないまま、僕の意識は消え去った。
78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:56:56.63 ID:iu80jHn80
これでお終い
読んでくれた人はありがとう
79 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:57:57.22 ID:Dfwp4y680
面白かった。乙
すごい文章がうまいなあ、引き込まれたよ
80 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:58:37.52 ID:Fl6ca8fRO
お…乙
なんという鬱エンド
81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 00:58:37.67 ID:bL8hF9GY0
なんという結末…乙
84 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/07(土) 01:01:58.69 ID:OT5+QoI8P
主人公補正0なJUM…
これが引きこもりの現実か…
------------------
当ブログについて
※欄284さんありがとうです。
-------------
お絵かき掲示板より名無しの権三郎さんありがとうです。

ローゼンメイデン 1 (1) (ヤングジャンプコミックス) | |
![]() | PEACH-PIT 集英社 2008-12-19 売り上げランキング : おすすめ平均 ![]() ![]() ![]() ![]() Amazonで詳しく見る by G-Tools |
読み物:ローゼン
お絵かき掲示板
画像掲示板
この記事へのコメント
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 22:41: :edit1?
-
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2009/03/16(月) 22:42: :edit2かああああああああああああ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 22:44: :edit鬱エンドも悪くない
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 22:50: :edit1
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 22:51: :edit以下ゲッターはオナニーして寝る
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 22:55: :editなんという鬱エンド
-
名前: 通常のナナシ #fS09P3lU: 2009/03/16(月) 22:59: :edit久しぶりの正統派SS
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:02: :editやっぱりローゼンは変態よりも真面目が好きだ。
でも「幻想」って単語が出ただけで右手の人を思い浮かべてしまう俺はもうダメだ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:03: :edit今まで変態系SSしか読んでなかったけど
こういうのもいいな -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:04: :editそういえば、蒼星石は姉妹中で一番良い子な設定でしたね
すっかり忘れてました -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:09: :edit鬱エンドは好きじゃ無い
正統派のよく出来た作品だけに、個人的には残念だったなー -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:16: :editいいねー。
緩急がしっかりついていて最後にズンと決まる。
素晴らしい。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:17: :edit引き込まれた。文章ってすごいな。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:27: :editこう言うエンドもたまには良いな
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:30: :edit読み終わった瞬間、ほああ……ってなった。こんな物語もあるのか…すっきりしないけど。印象に残るSSでした。
作者&ぷん太乙! -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:34: :edit最近珍しい欝エンドか。
いいもん読めたよ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:36: :edit巻かなかったジュン、巻いたジュン
パラレルに助けを呼ばなかったジュン、呼んだジュン・・・
ヤンジャンのローゼンで少し出てきそうな内容で面白かった -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:37: :editこの作者、文才がないのに良くSSを書こうと思ったものだ。
話の内容、展開、構成、表現力、全てにおいて低レベル。腹立だしい。日本語を馬鹿にしているのだろうか。評価するのも恥ずかしい。
ぷん太はちゃんと内容を把握して載せているのだろうか?
このような低レベルな作品が続けば、サイトの質を疑われるだろう。
星☆☆☆☆☆ -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:43: :edit※18
コピペすんなカス -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:46: :editいいSSは大抵他でもう載ってるんだよね
これも戯○言に載ってるし -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:49: :edit18はどこを縦読みですか?
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:53: :edit※18はコピペだから反応すんな
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/16(月) 23:59: :edit23get
》5オナニーして寝るわ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:05: :editう~む…
どこに面白みを感じればいいのか分からん -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:25: :edit〇〇で見たしって自慢はもういいよ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:27: :edit白星が5個ですね。わかります
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:31: :edit鬱展開は珍しいな
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:38: :edit原作遵守の話って点で好評価。
ローゼン系はキャラ崩壊の多すぎて萎えることが多い。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:39: :editブームくんにやられたww
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 00:47: :editなんかローゼン本編鬱エンドでもいいような気がしてきた。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 01:00: :editいつも緑ばっかり人気で赤は不人気と言われますが赤だって充分人気者なのですぞ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 01:01: :edit>評価するのも恥ずかしい
ようやく…ようやくそこに気付いたか!!! -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 01:46: :edit鬱エンドこそ至高
ぷん太&作者乙 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 02:03: :edit最近ローゼン少ないって※欄でみんな言ってたから
被りを承知で載せたんじゃないかな -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 06:39: :editジュン頑張れ!
他のリア充主人公に負けんな! -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 07:07: :edit鬱エンドってのはさ手抜きエンドなわけよ
ハッピーエンドが考えられない奴が鬱エンドにしちゃう
簡単だから
これから面白くなりそうって時に終わったのは残念でならない
でも乙 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 07:42: :edit文章は巧いけど面白くはない
何で糧にするのにJUM死んでるの?って話だし
雪華綺晶も流石に殺人はせんだろ -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 07:43: :edit※36
自分が嫌いなだけだろ -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 08:02: :edit※37
原作読んだことあるのか? -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 08:15: :editだめな鬱エンドは緩急が無かったり、伏線無しに急転直下するようなやつだと思う。
このSSはちゃんと考えてあると思うよ。
でも、確かに上手くて、面白かったけど、物足りなくは感じたな。
もっと見たかった。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 09:31: :editただ鬱なだけのSS、中身が薄い。
所々おかしな言葉遣いはあるが、基本的に文の作りは上手い。
内容をもっと練れば格段に良くなるはず。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 10:31: :edit生で見たなぁ。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 10:35: :editこれはつまらない
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 10:48: :edit版権物に一人称は合わないってか難しくないか
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 12:14: :editうーんあんまりおもしろくはなかったかも
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 12:57: :edit出来が良いからマルチエンド風にしてくれたら良かったかも。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 14:14: :edit原作読んだこと無いの?
↑
お前だろカス
養護したくて事実すらねじ曲げるのか池沼 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 14:46: :edit雪華綺晶が殺人行為を行ったソースは無い謝罪と賠償を要求する
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 14:55: :edit1つのSSでそこまで熱く討論できるお前らがうらやましいよ
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 15:01: :editまた見えない敵と戦ってるのか
-
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2009/03/17(火) 15:12: :edit※18
だから腹立だしいってなんだよ原田 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 16:31: :edit続くのかと思ったら唐突に終わった
-
名前: +吉良+ #-: 2009/03/17(火) 17:53: :edit殺人ではないけど、雛苺を食べたり、
オディールを眠らせたままの永眠状態にした描写があるのでソースが無いとは言えない。よって賠償半額返すべきでは?
でもきらきーは俺の嫁だから悪口と見なし半額m9(^ω^)プギャーダオー -
名前: VIPPERな名無しさん #-: 2009/03/17(火) 18:20: :edit原作に忠実だとばらしーが出てこないんだよね・・・・・・
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 20:53: :edit文章や展開が巧みで良かったけどオチが安易だったのが残念。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 22:24: :edit非常に面白かった
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 23:11: :editなんでお前らは素直におもしろいって言えないんだよ
俺はすごくおもしろかったよ -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 23:33: :edit※57
素直な感想を言ったまでなんだが… -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 23:38: :editせっかく引き込まれたのに鬱エンドか・・・
やっぱ最初に※欄見ないといけないな -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 23:50: :edit※57
おもしろい つまらない
言うのは自由だろ?
俺は面白かったけどさ。 -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/17(火) 23:59: :editなんでJUM本人がパラレルワールド云々言っているんだよアホか
原作で異世界の自分と連絡とれたのは金糸雀と一緒に居たからだろ
作者が鬱エンドに引っ張りたくて穴だらけなのが痛々しいんですけど -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 00:02: :edit※57養護厨は回線切って吊ってろカス
養護以外禁止ならコメント欄は要らねーんだよ池沼か -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 00:14: :editそれにしてもこのSSは破壊力があったな・・・
もうSSは見なくていいやと思わせるくらいの破壊力が -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 02:33: :edit起承…結
あ、あれー!? -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 03:19: :edit※64
考えるんだ
結だと思ったのが実は転でさらに続きが……ねーか -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 16:29: :editつまんない
つまんない
重要なことなので二回言いました -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 21:02: :edit※61が内容を理解してないのは良く分かった
なんか続きそうな感じやったのに終わったのに拍子抜けしたわ
ただ結構おもしろかったとは思う -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/18(水) 23:32: :edit結局夢が何だったのかよく分からんかったのが残念
でも面白かったよ -
名前: 999098 #-: 2009/03/19(木) 00:07: :edit面白かったです。
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/19(木) 14:38: :edit鬱エンドってか投げっ放しじゃね?
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/19(木) 15:18: :edit米66
養護厨は早く死ね -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/19(木) 18:44: :edit※71
養護……厨……? -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/19(木) 20:34: :editばかばっか
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/19(木) 21:19: :editギャルゲとかでバッドエンドフラグが
完全にたってしまった後のフェードアウトストーリー(うまい表現が見つからん)みたいなもんだと思えば結構いい感じだと思う -
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/21(土) 22:51: :editいい感じに文章に引き込まれたところでブーム君にやられた
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/22(日) 20:03: :edit誰かこのストーリーの続きを書くんだ早く!
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/05/03(日) 02:44: :editうわあ、つまんねえ、うわあ
蒼星石、蒼星石、俺の蒼星石ああ -
名前: aaaaa #-: 2009/05/10(日) 15:21: :editクズほど何もできないのに批判する
-
名前: 通常のナナシ #-: 2009/05/11(月) 01:28: :editあれ?
最後ジュンが死んだって描写ははっきりされてないじゃん

俺の妹がこんなに可愛いわけがない 黒猫 白猫Ver.