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ハルヒ「有希、その本面白い?」その1

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2009/03/11(水)
1 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 18:20:05.86 ID:5dWUeSxpO
長門「………読む?」

ハルヒ「読むわ。ありがとう」

コンコン

キョン「?!」

長門「…………」ペラ

ハルヒ「…………」ペラ




17 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 20:25:00.82 ID:/uQEvYgz0
俺は少しばかり急いでいた。
冷気に満ちた廊下を走り、扉の前に立つ。
今日俺が掃除当番だったという事実を果たしてハルヒは覚えていてくれているのか、そんな心配をしながら俺は部室の扉を叩き、ハルヒの許可の下、入室、目下このような光景に出くわしているわけだ。

部室では電脳世界での旅に多くの時間を費やしているハルヒが読書なんざ、雷でも落ちるんじゃないか、と
そんなどうでもいいことを考えつつ、すでに温まり始めていた部室の空気を表に逃がさぬよう俺は急いで扉を閉めた。

「遅かったわね」

本のページから視線を外すことなく、ハルヒが言う。
窓際で、こちらはいつも通りの読書に勤しんでいる長門は、やはりいつも通りなんの言葉も無い。

「ああ、掃除当番だって言っただろ」
「そうだった?まあいいわ」

長門の許可もなくページの端に小さな折り目を付けながら、ハルヒは投げやりにそう言った。




18 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 20:37:37.47 ID:4hF8suLS0
長門さんに怒られちゃうぞ




20 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 20:57:44.91 ID:/uQEvYgz0
「なんの本を読んでるんだ?」
「なんでもいいでしょ。秘密よ、秘密」

俺のほうを見て嬉しそうに宣う。
やっとこっちに顔を向けたと思ったら秘密とはな。ま、それほど知りたいことでもないし、別にいいか。

ハルヒが再び本の世界に自身を飛び込ませたのを確認した俺は、溜息を一つついてハルヒの向かいの席に座った。
なんでハルヒがいつもの自分の席ではなく古泉の席に座っているのかも気になったが、本に集中しているようなので何も聞かないでおくことにする。


コンコン――

ノックの音。
ハルヒがどうでもよさそうに、「どうぞー」という気の抜けた声を出す。
古泉だろうな、と、予想とは呼べぬ予想を勝手にしながら、俺は扉の方に顔を向ける。

「どうも。……おや」

予想に違わず姿を現したニヤケ面の超能力者は、いつもの自分の指定席が既に埋まっているのを見て動きを止めた。




22 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 21:09:01.08 ID:/uQEvYgz0
「どうしたの?……あ、そっか」

自身の問いに古泉が答えぬうちに、ハルヒは勝手に納得して席を立った。

「古泉くんの席だったわね」

"団長"の二文字が誇らしげに踊る赤い三角錐を備えた団長専用机に向かいながら、ハルヒは上の空といった感じでそう言った。本から、目を離さぬまま。

「どうもすみません」

自身に非は無いにも関わらず笑顔で謝る古泉。
ハルヒの機嫌を損ねないためと思えば、大したことではないのだろうな。

鞄が部室中央のテーブルに置かれる。
ハルヒがいつもの椅子に腰掛ける。
次いで古泉はボードゲームの用意を始める。
俺が戦場を作るために自分の荷物を除けたところで――

バタン!

いつもの柔らかな表情とは似ても似つかない決然とした色をその顔に携えた朝比奈さんが、かつてないほどの勢いで部室の扉を開いた。




25 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 21:20:06.82 ID:/uQEvYgz0
一瞬、部室の空気が固まる。

まるで面白い企画――往々にして俺達にとっては頗る面白くない企画なのだが――を見つけた時のハルヒのように、扉が吹っ飛ぶんじゃないかと思うほどの衝撃と共に登場した朝比奈さんは、いつだったか、俺に自身が未来人であることを告白した時のような、まさに決然とした光をその目に湛えていた。
開かれた扉が壁に当たって跳ね返り、ギイギイと悲しげな音を立てている。

「ちょ、ちょっとみくるちゃん、びっくりするじゃない。もっと静かに入ってきてよね!」

ハルヒが本から眼を離して、朝比奈さんに向かって言う。
自分がいつもどうやって入ってきてるのか、今度一部始終を録画して見せてやろうかと考えていた俺の頭は、次の朝比奈さんの言葉を聞いたとたんに機能を停止した。


「涼宮さん、あたし、SOS団を辞めます」


――冬の風が窓を打つ音が、やけにうるさかった。




27 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 21:32:22.18 ID:/uQEvYgz0
誰も、動かなかった。
誰も、何も言わなかった。

俺の頭はたった今鼓膜を振るわせた音の意味するところを理解するのに必死で、言葉を出せるような状態ではない。
後ろの様子は分からないが、ハルヒも似たようなものなんじゃないか、そんなどうでもいいことを頭の隅っこで考えていたとき、名指しされた団長よりも早く、古泉が動いた。

「朝比奈さん、それは……どういう意味でしょう」

意味を確認することは重要だ。
特に急な宣言には、その理解においてしばしば誤解が含まれる。
古泉がそれを意図して言ったのかどうかは分からないが――

「言葉の通りです。あたしはもう、SOS団の活動には参加しません」

――いずれにしろその問いは、少しずつ活動を再開し始めた頭が必死に否定しようとしていた事実を、綺麗に、より強固に再認識させられる手助けをしただけだった。

「……そうですか……」

古泉はそれだけ言うと、再び俺達と同じく沈黙の虜と相成った。




31 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 21:44:11.10 ID:/uQEvYgz0
極度の痛々しさを孕んだ沈黙が部室を支配している。
世界はこんなにも静かになれるものなのか。

「ちょっとみくるちゃん!」

緘黙させられていた俺と古泉の後ろで、ついにハルヒが吼えた。
それにつられて、俺は背後へと振り向く。

「いきなりそんなこと言われても訳わかんないわよ!勝手な退団は許さないわ!」

もう、先程まで読んでいた本のことなど忘れているんじゃないか。
ハルヒは立ち上がり、そんなことを思わせるほどの勢いで朝比奈さんに向かって捲し立てた。

「…………」

朝比奈さんは黙ったままだ。
でも、なぜだろう。一瞬だけ、あの決然とした表情が緩んだような気がした。

「と、とにかくあたしはもうここには来ません。今までありがとうございました」

律儀にもお辞儀を一つ。
入ってきたときとは対照的に静かに扉の向こうに消えた朝比奈さん。


後を追おうと思えば追いかけられただろう。
――それでも俺達は誰一人、動くことは出来なかった。




37 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 21:53:11.52 ID:/uQEvYgz0
数十秒はそのままだっただろうか。
唐突に沈黙は破られた。

「キョン」

何年かぶりに、その言葉を聞いた気がする。
それが俺のことを指し示しているということに気づくのに数秒かかった。

「あ、ああ。なんだハルヒ」
「追いかけて」

声が震えている。

「みくるちゃんを追いかけて!早く!」
「わ、分かった」

考えるよりも早く部室の外に出た。防寒着を部室に忘れてきたがそんなことはどうでもいい。
なぜ、ハルヒに言われるまで動こうとしなかったのか。後悔と憤りが身体を駆け巡る。
廊下には誰もいない。

「朝比奈さん!」

力の限り声を出した。普段とは比べ物にならないほど走った。
周りの奇異の目も気にせず、校舎中を駆けずり回った。

しかし、朝比奈さんは、見つからなかった。




40 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:03:12.46 ID:/uQEvYgz0
息を切らして、膝に手をつく。
走り回ったおかげで防寒着がないことなど気にならないほどに温まることが出来ていたが、朝比奈さんを見つけられないのではそんなことに意味は無い。

「まいったな……」

朝比奈さんが部室から出てからどれほどの時間俺達が固まっていたのかは分からないが、長くて一分程度のはずだ。そんな短時間で、一体朝比奈さんは部室からどれだけ離れたんだ?
それともどこか部室の近くで探していないところが……。


……いや、分かっている。
朝比奈さんが、すでにこの学校からいないことくらい。
どれだけ探し回ろうと、朝比奈さんを見つけることは出来ないだろう。

あの決然とした表情。突然の退団宣言。そして失踪。
加えて彼女がどんな立場にある人物なのかを鑑みれば行き着くところは一つ。

――朝比奈さんは帰ったんだ。彼女のあるべき時代、未来へと。




47 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:21:54.48 ID:/uQEvYgz0
訳が分からなかった。
あの朝比奈さんが、突然あんなことを言うなんて。

これも未来からの指令なのだろうかと考える。朝比奈さんは、今まで未来からの指令に従順に従ってきた。
今回も指令が下されていたとすれば、朝比奈さんはおそらくそれに従うだろう。

だが、それにしては不可解なところがある。朝比奈さんが退団すれば、ハルヒには少なからずストレスになるはずだ。
ハルヒのことを"時空のゆがみ"とまで言っている未来人が、わざわざハルヒの精神状態を乱すようなことをするだろうか。
もう一度ゆがみとやらが発生すれば、さらに未来人は困ることになるんじゃないのか?わざわざ過去の問題として、それを調査しに来たくらいだしな。


……俺がここで考えていても始まらない。
結局はそういう結論に至ったものの、俺は部室に帰ることが出来ないでいた。
このままなんの収穫も得られずに部室に戻ったとして、ハルヒに何と報告すればいいのか。

「朝比奈さんは未来に帰ったからもう会えない」

……とでも正直に言うのか?
それが出来れば苦労はしないし、第一ハルヒがそんなことで納得するわけも無い。
だがかといって、このままぶらついていても何も収穫は得られそうにないのも確かだ。


灰色の空が暗く埋められ始める頃合になって、俺はようやく部室に戻ることにした。




51 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:35:54.05 ID:/uQEvYgz0
意を決して部室の扉を開いた俺の目に飛び込んできたのは、携帯電話を片手にいつになく真剣な表情でテーブルの中央を見つめている古泉と、閉じた本を膝の上に抱えたまま部室の奥の椅子の上で佇んでいる長門だけだった。

「ハルヒはどうしたんだ?」
「やっぱり自分も探しにいくと、しばらく前に出て行かれました」

古泉が疲れた声で言う。笑顔は無い。

「電話してたのか」

古泉が握っている携帯に目を留める。
相手は恐らく俺の予想通りだろう。

「ええ。……参りましたよ。小規模ではありますが、この数十分でもう閉鎖空間が三個も発生しています」

お手上げです、とでも言わんばかりに肩を竦める古泉。
そんな古泉にこんなことは聞きたくなかったが、俺はどうしても気になった。

「その、お前は行かなくて大丈夫なのか」
「……機関は、今の状態においては僕は神人と戦うよりも、こちらに残って涼宮さんの様子を見つつ対策を練る方が得策と考えたようでして」




56 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:45:32.16 ID:/uQEvYgz0
対策。
それは朝比奈さんがいなくなったことに関してなのか、
それとも単にハルヒの精神状態を落ち着けるためのものなのか。

一人の未来人がいなくなったことに関して超能力者が介入するケースというのはありえるのかと古泉に尋ねようとしたその時、静かに扉が開く音がした。

「……ハルヒ」

俺と同じように防寒着を忘れていて。
俺と同じように疲れていて。
そして俺よりも必死だったんだろう。

「あんたも……見付けられなかったみたいね」

俺は言葉を返さない。
見つけられなかったと、ハルヒの前で認めてしまうのが嫌だった。

「……今日は、もう解散にしましょう」

古泉以上に疲れを滲ませた声でそう言うと、ハルヒはまるで蝋人形のように立ち尽くす俺の横を通り、団長机から鞄を取って来てドアノブを握り、そして言った。

「明日みくるちゃんに会ったら、理由、聞くからね」


自分に言い聞かせるように放たれた言葉が部室に響き、扉が閉まると同時に今日の団活は終わりを告げた。




61 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:53:20.76 ID:hge8gBsN0
団員が行方不明になったのにバイトで帰ったらまずいよな




62 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:54:06.67 ID:s+0izh5k0
>>61
閉鎖空間が10個くらいでるんじゃね?




64 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 22:58:33.35 ID:/uQEvYgz0
「それで、これからどうする?」

自分の椅子に腰掛けながら、残る二人の団員に意見を求める。
もう、この三人でどうにかするしかないんだ。古泉も長門も、少なくとも俺よりはずっと頭がいい。
俺だって朝比奈さんに辞めて欲しくないという気持ちは二人に負けていないつもりだ。

「我々機関は、朝比奈さんがあのような行動をとったことに関して真相を究明し、可能なら朝比奈さんの退団を止めさせるよう努力するという方向で一致しています」
「それは、ハルヒの精神の安定を望んでのことか」

言わなくてもいいことを言ってしまう。

「その点が考慮されての判断であることは否めませんが……」

古泉は少しだけ、その顔に笑顔を戻して続けた。

「……僕自身、朝比奈さんには戻ってきて欲しいと思っています。誰かの欠けたSOS団なんて、余り見たくないですね」
「……そうか」

少し、心が軽くなる。
古泉、お前はやっぱり、SOS団の副団長だよ。




67 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 23:12:38.77 ID:/uQEvYgz0
「長門」

俺は古泉との会話を中断し、部室の隅で本を抱えたまま動かない少女に言葉をかける。

「お前んとこの親玉はなんて言ってる?」
「……情報統合思念体は」

そこで言葉を切った。
あの長門が言葉を切るなんてめったにないことだが、今はさして重要ではない。
長門は確実に俺にしか分からないであろう程度にその目に湛えた光の色を変えて、こう続けた。

「情報統合思念体は静観の構え」

静観?
俺の頭の中の辞典が正しければその意味するところはつまり……。

「対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースは、今回の出来事に干渉しない」

予想外の展開に頭が理解を拒否している。

「だから」

団の一大事なんだぞ。
嘘だと言ってくれ。


「わたしには、何も出来ない」




74 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 23:30:25.05 ID:/uQEvYgz0
風の音が、また強くなってきた。
窓の外に広がっていた灰色は今やすっかり黒にとって代わらている。

「それは本当ですか」

俺よりも先に古泉が問う。
こういう時に一番最初に冷静さを取り戻すのはいつも古泉だ。

「本当」

たった一言。それはそうだ。長門がこんな場面で嘘を言うはずはない。
かつてないほど冷たく聞こえたその言葉は、部室にある電気ストーブの暖かさすら忘れさせた。
長門が協力してくれないという事実に驚くと同時に、今までいかに長門に依存してきたかを俺は思いだす。

「……分かった」

数秒の逡巡を挟み、俺はそう言った。そうだ、確かに長門がいなければ何も出来ないようでは意味が無い。

「だが、一つだけ聞かせてくれ。お前は、今回の件についてどう思ってるんだ?」

意思を、確認しておきたかった。
繋がりを……求めていただけかもしれない。

「わたしは」

――その時、長門の顔が、なぜかとても悲しげに見えたのは気のせいだろうか。

「朝比奈みくるに戻ってきて欲しいと思っている」




81 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/24(火) 23:49:50.11 ID:/uQEvYgz0
「そうか」

長門も古泉も、そしてもちろん俺も、結局は同じ気持ちなんだ。
分かっていた。ただの確認だ。それでも、気持ちは少しだけ晴れる。
ありきたりな表現をすれば、俺達は五人でSOS団なんだ。誰が欠けても叶わぬ存在。
ハルヒももちろん、そう言うだろう。

「長門、朝比奈さんが今どこにいるのか、それくらいなら教えてもらえるか?」
「朝比奈みくるは今、この時空には存在していない」

やっぱりか。ということは未来に帰ったということで間違いないだろう。

「未来へ帰った……となると、やはり未来人の上層部から指令を受けていたということになるんでしょうか」

携帯をポケットにしまいながら古泉が言う。

「だがお前らのところほどデリケートに扱っていないとはいえ、あからさまにハルヒの機嫌を損ねるようなことをするか?」
「それに関しては、現段階でこれと判断するのは尚早かもしれません。我々の知らない事情が未来人勢力にある可能性もあります」
「それはそうだが……」

数分間、似たような議論を続けて、最終的に"情報が足り無すぎる"という見解で俺と古泉は一致した。
朝比奈さんが未来へ帰ってしまい、長門の協力も得られない今、俺達に一番必要なことは……・。

「待つこと、ですね」

古泉が両手を顔の前で組みながら言う。




89 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 00:02:37.34 ID:nu5GRhmK0
「いくら事情があろうと、このまま涼宮さんを放っておけば大変なことになるということくらいあちらも心得ているはずです。時空のゆがみが発生する仕組みや兆候はよく分かりませんが、現段階で直接的に涼宮さんが世界を崩壊させる危険性があるという点、つまり閉鎖空間絡みの問題に対処できるのは我々超能力者だけです。
「機関が動かなければ、未来人の事情がどうだろうがやがて世界は崩壊する……」
「そういうことです。ですから、我慢比べですね」

未来人が痺れを切らして動き出すのを待つってことか。

「それでなくとも、まだ朝比奈さんがいなくなってから一日もたっていません。明日になれば、涼宮さんの精神状態も少しは落ち着くかもしれませんし、新しい動きが出てくるかもしれません」
「そうだな。とりあえず俺は俺でハルヒと話してみる」

古泉が急に難しい顔をする。

「これはとてもデリケートな役割です。涼宮さんの精神状態を落ち着けてくださるのは結構なのですが、完全に安定させてしまっては未来人が動いてくれません。つまり……こんなことは言いたくありませんが……」
「ハルヒの精神状態をコントロール出来る様にしろってか」

好きなときに世界を安定させ、好きなときに世界を崩壊に追い込む。
……なんてふざけた役割だ。

「察しが良くて幸いです。いいですか?世界崩壊のカードをちらつかせておけば未来人は必ず動きます。自分達の未来へと連なる土台がなくなっては元も子もありませんからね。機関の方には僕が説明しておきます。良くも悪くも、やはりあなたが"鍵"ですね」

溜息をついた。想像以上の重荷だ。だが、未来人が動くのを待つことしか出来ないのも確かだった。

「……そろそろ帰るか」




95 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 00:26:53.04 ID:nu5GRhmK0
昼には灰色だったはずの空なのに、いつのまにか雲は綺麗に吹き飛ばされて、見上げれば満天の星。
澄んだ空気は冷えに冷えていて、俺はマフラーをしっかりと首に巻きつけた。

坂道を、三人で下る。
いつも五人で下っていた坂道が、少しだけ広く感じた。

「…………」

会話は無かった。古泉も長門も、前だけを見て歩いている。


別れ道にさしかかる。それぞれが、それぞれの家路を行くことになる。

「それでは、また明日。もっとも涼宮さんの精神状態がさらに不安定になって、世界が消えてしまわなければの話ですが」
「縁起でもないことを言うな」

それでは、という別れの挨拶に、微笑を添えてよこした古泉に、俺は手を上げて答える。
長門は、何も言わずにただこちらを見つめた。

「…………」

液体ヘリウムのような瞳に、星の光が映りこんでいるように見える。
もっとよく見ようと何度か瞬きをしているうちに長門は俺に背を向け、そのまま一度も振り返ることなく夜の闇に消えていった。
その姿をしばらく見送っていた俺も、一陣の寒風に追われるように家路を急ぐ。




翌日、ハルヒは学校に来なかった。




176 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 13:43:52.55 ID:8O87WWTE0
いつも通りに坂道を登り、いつも通りに校門をくぐり、いつも通りに教室に入る。
もう、いつも通りではなくなってしまった世界の中で、幽かないつもを求めて目をやった窓際一番後ろの席には、誰も座っていない。
失望を覚えつつ、自分の机に近づいて鞄を置いた。

「よおキョン」

谷口が話しかけてくる。
内容は昨日のテレビ番組に関してのことだったと思うが、俺の耳には半分も入っていなかった。

結局岡部教諭が教壇で号令をかけるまで一方的に話し続けていた谷口は、俺がけだるそうに返した「ああ」とか「そうだな」などという返事を肯定的な意味に捉えたらしく、満足そうに自分の席に戻っていった。


朝以降の時間がまるで溶けてなくなったかのようにあっという間に放課後になり、俺は帰りの挨拶もそこそこに教室を飛び出した。部室に入り、古泉と長門の姿を認める。

「どうも」

昨日よりも更に疲れたような雰囲気で、それでも古泉は笑顔を取り繕った。




180 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 13:54:28.22 ID:8O87WWTE0
「少々おかしな事実が発覚しましたよ」
「なんだ?」
「あの後機関に連絡をして、機関と関係のある未来人にコンタクトを取ってもらったのですが、その人物によれば、朝比奈さんにSOS団を辞めろなどという指令は出ていないそうです」

俺の反応を見るように、古泉はそこで言葉を切る。

「もちろんその未来人の方が知らなかっただけ、という可能性もあります。朝比奈さんがどれほどの地位にいらっしゃるのかは知りませんが、彼女への指令が未来人勢力の誰もが知るところであるとは限りませんから」

朝比奈さん(大)の顔が脳裏に浮かぶ。
今回もあの人が絡んでいるんだろうか。

「次に涼宮さんの件ですが……」

古泉が立ち上がった。

「その前にお茶でも淹れましょうか」




184 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 14:08:51.32 ID:8O87WWTE0
湯を沸かすため、やかんを手に取る古泉。

「それで……そう、涼宮さんの件ですが」

俺が何も言わなかったからか、改めて古泉が切り出した。

「彼女が今日学校をお休みしていることは既に知っています」

注がれる水道水。やかんの中に水が当たって踊る音が部室に響く。
長門が本のページを捲った。

「機関の連中に伝えられたのか」
「ええ。涼宮さんの家を監視している者によれば、彼女は昨日家に着いて以降、表には出ていないそうです」

しばらくの間頭の中をいったりきたりしていた朝比奈さん(大)の顔がフッと消え、ハルヒの困憊とした表情がそれに取って代わる。




186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 14:24:18.09 ID:8O87WWTE0
「現在は、涼宮さんの精神状態は安定しています」
「安定、ね」
「……お分かりだと思いますが」

いつの間にか沸いていたらしいお湯が急須に注がれて、その隣で湯飲みが出番を待っている。

「これはもちろん仮初の安定。とても脆く、いつ崩れてもおかしくないような儚いものです」

そんなことは分かっている。俺はそれよりも、ハルヒの精神が、おそらく一時的なものだろうとはいえなぜ均衡を保っていられるのかが不思議だった。
思考は、目の前に置かれた湯飲みで中断される。古泉は長門の所にも湯飲みを運び、昨日はハルヒが居座っていた自分の椅子に腰掛けてこう続けた。

「彼女の精神がなぜ一時的な安定性を保っているのかは分かりませんが、やはり出来るだけ早くケアが必要かと」

もちろん、あなたのですが、と付け加えた古泉は、湯飲みを手に取って口元に運んだ。
俺もそれに倣う。


「なかなかうまいよ」
「分かっています」
「まあ朝比奈さんには叶わないけどな」
「それも、分かっています」




190 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 14:34:35.60 ID:8O87WWTE0
「それで今後のことですが、あなたはどうするおつもりで?」

自身の湯飲みが空になったのを認めて、急須を取りに立ち上がる古泉。
俺は少しだけ残ったお茶を飲み干し、古泉に湯飲みを押し付けてから言った。

「ハルヒの家に行く」
「……やはりそうですか」

お茶を注ぐ手を止めた古泉は、急須を置いて俺の方を向いた。

「実は僕もそうお願いしようと思っていたところです」

まあさっきの言動からもそれは分かるけどな。世界の安寧がかかっていようがいまいが、今の状態でハルヒを放っておくことは俺にはできない。

「僕は僕で未来人勢力と接触を図るつもりです。まあ、おそらく収穫は得られないでしょうが……」

それでも、俺も古泉も、何もせずにはいられない。
喪失感と焦燥感がせめぎあって、俺達を駆り立てる。




192 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 14:43:38.10 ID:8O87WWTE0
「長門、俺達はもう帰るがお前はどうする?」

暗い色のセーターを着て、部屋の隅でいつにもまして置物と化していた長門は、題名を知る気にすらならない分厚い本を読むのを止め、こちらを向いて一言、

「ここに残る」

ポツリと、零すように小さな声でそう言うと、まるでこれ以上話すことはないとでも言うように再び本の世界へと帰っていった。

「では、もしかしたら僕らもまたここに戻ってくるかもしれませんので、留守をお願いします」

お前は長門にいつまでここにいさせる気だ。

「戻ってくるとすればそれほど時間はかからないでしょう。長門さんはいつもの終礼の時間までいるおつもりでしょうから、その時間までに帰ってこれれば、という話です」
「ここを集合場所にするってことか」
「ええ。ここで待つだけなら、長門さんも問題はないでしょう」

古泉は自分の首にマフラーを巻きつけながら、俺に言っているのか長門に聞いているのかよく分からない話し方で意見を述べた。




197 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 15:04:06.49 ID:8O87WWTE0
「分かった。じゃあ留守を預けるとするか」

自分の鞄を持つ。古泉も用意は出来たようだ。
そこで初めて、電気ストーブの電源を入れていなかったことに気づく。

「長門、これ、つけておくからな」

対有機生命体コンタクト用ヒューマノイドインターフェースにとっては、暖房器具などあってもなくても同じかもしれないが、長門は、そうではないと思いたかった。

長門は何も言わない。ただ、顔をこちらに向けて少しだけ首を傾けた。

「では、よろしくお願いします、長門さん」

古泉が声をかけ、扉を開いた。
注いだもらった二杯目のお茶を一気にあおり、俺は湯飲みを片付ける。

「じゃあな、長門」

長門に一言残し、団長席とその右に見えるパイプ椅子に目をやる。
いつもよりも広く感じる部室に一抹の寂しさを覚え、俺は急いで扉を閉めた。




202 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 15:35:43.34 ID:8O87WWTE0
「何か進展があれば連絡します。それでは」

古泉は校門から少し外れたところに止まっていた黒塗りの車に乗り込み、そう告げて俺の前から消えた。ハルヒの家まで送るとも申し出られたのだが、なぜか歩いていきたかったので丁重にお断わりをした。

昨夜、星が見えるほどに晴れ渡っていた空は、今日になって再びねずみ色の雲に覆われている。
風が吹いて少しだけ髪を煽り、目の前に捨てられていた白いビニール袋が舞い上げられて消えていく。
冷たい空気を肺の容量限界まで吸い込んだ俺は、ハルヒの家へのルートを数秒だけ思い返し、坂道に向かって決然と一歩を――

「こんにちは」

――踏み出そうとして、唐突にかけられた声に清々しいまでに出鼻を挫かれた。




205 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 15:50:50.58 ID:8O87WWTE0
急いで振り返る。
俺よりずっと長いその髪は寒風になびき、淡い緑色が綺麗に踊っている。
SOS団依頼者一にして北高生徒会の役員、そしてさらに人間ではないというオプションまでついてしまっているその女性は、校門の側で微笑を浮かべていた。

「喜緑さん……」
「今日は冷えますね」

彼女が人並みに寒さを感じるのかどうかには疑問を呈する余地がありそうだったが、ひとまずそれは置いておく。

「どうしたんですか?」
「少しお話しても、よろしいですか?」

正直こんな美人に"お話"などに誘われてしまっては男として動じないわけには行かないのだが、生憎と今はやるべき仕事がある。

「悪いんですが、今はちょっと……」
「長門さんのことなんです。それに、涼宮さんにも関係あるかな」

彼女は俺の言葉をさえぎるように言う。
長門とハルヒのこと……?

「聞く気になっていただけましたか?」




209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 16:17:01.87 ID:8O87WWTE0
「わざわざ生徒会室までお連れするのもなんですから、せめて昇降口で風を凌ぎましょう」

喜緑さんはそういうと、くるりと後ろを向いて歩き出した。
少し遅れて、俺も再び学校の敷地に足を踏み入れる。


「あなたがたが今、大変な苦境に立たされていることは知っています」

昇降口から建物に入ってすぐ、目の前に下駄箱が並ぶ場所で、喜緑さんは切り出した。

「なんでもメンバーの一人がいなくなったそうで。でも、長門さんに聞いたと思いますけど、残念ながらわたしたちは力になれません」

喜緑さんは、これはあくまで俺個人の主観だが、本当に残念そうに見える。

「情報統合思念体は、涼宮さんやあなたに実害的な危険が及ばない限りは、基本的に静観します」
「でも、このままじゃ世界が消えてなくなる恐れもあるんですよ?」

俺は至極当然だと思われる反論をした。

「情報統合思念体は、彼女の力が自らの存在をも抹消するとは考えていません。自律進化の可能性が涼宮さんにあるならば、その精神状態の変動も可能性を探る上で無視は出来ないという考えです」




212 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 16:37:45.35 ID:8O87WWTE0
「あいつの精神が……」

言葉を切った。考えがまとまらない。
世界、ハルヒ、朝比奈さん、未来人……。
頭の中を、様々な言葉が縦横無尽にかけ巡って俺を揺さぶる。

「ここからが本題なんです」

喜緑さんのことばで我に帰る。
真剣なまなざしで見つめてくる彼女に、俺は少しばかり気圧されて目をそらした。

「長門さんの様子がおかしいんです」

一般人から見ればあいつはいつもおかしいんじゃないだろうかというどうでもいいことを一瞬考えた。

「情報統合思念体の許可なく不意に接続を遮断することが時々あって……」

長門が……?いつもとそう変わっているようには見えなかったが……。
情報統合思念体に従って静観を貫く辺りは、むしろ思念体に従順とさえ見える。

「でも、やっぱりおかしいんです。わたしが聞いても何も答えてくれないし……」




220 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 16:56:22.45 ID:8O87WWTE0
「すみません。俺には分かりません」

俺は正直に言う。長門の変化が気にならない訳ではなかったが、そろそろ心がまたハルヒに移り始めていた。

「そうですか……。分かりました。すみません、お時間をとらせてしまって」

それじゃさようなら、と、最後はまた微笑んで喜緑さんは去っていった。
長門の変化に関し、蟠りを抱えつつも、俺は学校を後にしてハルヒの家に向かった。


ハルヒの家には、団の活動で何度か来たことがある。
俺の家がたまたま都合が悪かったときにお邪魔させてもらったのだが、今度はこんな形で訪れることになるとはな。

呼び鈴を押す。数秒の後、ハルヒの母親のものと思われる声が聞こえて来て、俺は名を告げる。

「ああ、キョンくんね」

結局此処でもこのあだ名で呼ばれることになるのかという事実を、諦め半分に受け入れつつ、俺はハルヒの家にお邪魔した。




225 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 17:12:46.79 ID:8O87WWTE0
「わざわざありがとうね」

外套とマフラーに手をかけた俺に、ハルヒの母親が言う。

「いえ。ハルヒは風邪かなんかですか?」
「熱はないみたいなんだけどね、なんか具合が悪いんだって」

ハルヒが具合が悪い……ね。俺が団活の時に進んで勉強会を提案するくらいありえないな。
部屋に向かいながら、俺は会話を続ける。

「そうですか……。あの、昨日とか、何か変わったこととかありましたか?」
「変わったところ……。そうね……うーん…………本?」
「本……?」
「そう。あの子、何かの本をすごく熱心に読んでるみたい」

「本」という言葉にどこか引っかかりを覚える。
と、同時にハルヒの部屋の前に着いた。
俺はハルヒの母親に礼を言って、部屋の扉を二度ノックする。

「…………」

帰ってきたのは沈黙だけだった。




228 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 17:29:13.76 ID:8O87WWTE0
本当に風邪をひいていて、今はぐっすりと眠っているということならば、明らかに俺は今、入室しない方がいい。
と、考えていたのだが……、

「入っちゃっていいわよ」

ハルヒの母親が、いたずらっぽくそう囁いた。そのまま彼女はリビングの方に行ってしまい、俺は一人、ハルヒの部屋の前に取り残される。
言葉に後押しされたのか、俺の手はいつのまにかドアノブを握っていた。


ガチャリ


「ハルヒ……?」

ベッドの上には、誰も居ない。


ハルヒは眠ってはいなかった。
ハルヒは何も言葉を返さなかった。
ハルヒは机に向かっていた。
ハルヒは何かを読んでいた。


そしてその何かを知ろうとして、ハルヒの背中越しに内容を覗いた俺は――

――そのまま、暗闇に包まれて意識を失った。




232 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 17:44:05.79 ID:8O87WWTE0
「……ョン……キョン」

誰かに身体を揺さぶられて目が覚めたのはその数分後だ。
まあその誰かっていうのはハルヒだったわけだが。

「……う……ハルヒ……?」

声を出す。手を動かしてみる。正常。
目を開く。天井。ハルヒの部屋だ。

「キョン、どうしたの?」

俺は……そう、ハルヒの様子を見に来たんだ。そして部屋に入り、ハルヒが読んでいる本の中身を見て……。
そうだ。俺は辺りを見回す。目はすっかり覚めていた。

「本は……」
「本?」

ハルヒの読んでいた本。俺が中を見た本。
そしてそれは、俺の記憶が正しいなら……。

立ち上がり、机の上を見る。
その本は、そこにあった。




234 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 17:53:07.80 ID:8O87WWTE0
その本には、見覚えがあった。

――なんの本を読んでるんだ?――

つい昨日、見たばかりの装丁だ。

――なんでもいいでしょ。秘密よ、秘密――

「ハルヒ、この本はどうしたんだ?」
「これ?有希に貸してもらったのよ」
「なんで今日、学校を休んだ」
「だってあたし、忙しいから」

本に目をやる。黒い表紙には何もかかれていなくて、厚さはそれなりに詳しい参考書並だ。
忙しい?この本を読むことにか?

「あたしね、なぜかこの本を全部読まなきゃいけない、そんな気がするの」

思い出したくもない思い出が、脳裏で鮮やかに自己主張を始める。
いつだったか、閉鎖空間と呼ばれる特殊空間に迷い込んだとき、突如として現れたそれ。

今のハルヒの目は、あの"神人"を見つけたときと同じような光を湛えていた。




265 : ◆Mene.OWFJw :2009/02/25(水) 21:02:46.45 ID:EeECp8pj0
根拠のない発言など、今までいくらでもあった。
でも今回は、それがとてつもなく重要な出来事のように思えてならない。

「ちょっとみせてくれないか?」

ハルヒが机からそれを持ち上げ、俺に渡した。
受け取ったそれの重みに思わず腕に入れる力を強める。
やはり間違いない。あの時の本だ。思えばハルヒは、あの時もこの本に熱中していてほとんど上の空だった。

「ハルヒ、この本にはどんなことが書いてあるんだ?」
「うーん、うまく説明できないわね……」

この本の内容は分からない。しかし俺は、この本に書いてある文字を一瞬だけ見て、そして気を失った。これがただの本でないことは明白だ。

「あとね、書いてある言葉は絶対に日本語じゃないはずなのに、なぜか読めちゃうのよ」

そう。たしかに一瞬だけ見えた文字の羅列は、明らかに日常的に日本人が使用するような言語ではなかった。
詳しくは思い出せないが……。俺は……。




268 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 21:15:28.46 ID:EeECp8pj0
「キョン、あたしその本を読まなくちゃならないから」

ハルヒがそう言って、俺に本の返還を求めてきた。俺は躊躇いを隠さない。
ハルヒのこの本への入れ込みようは少々異常だ。まあ元々一つのことに熱中するタイプでないわけではないが……。

「分かった。ほら」

数瞬の間を置いて、結局俺はハルヒに本を返すことにした。
SOS団から一人が脱退するという、ハルヒにしてみれば自身の身体を削られるような苦しみであるはずの状態においてハルヒの精神状態が均衡を保っていられるのは、この本にを読むことに熱中しているからではないかという考えに行き当たったからだ。

「今日は団活は無しか?」
「あ、うん、そうね。みんなにも伝えておいて」

読書のために学校を休み、何よりも優先してきたはずのSOS団の活動もあっさりと切り捨てる。
元からおかしな奴ではあったが、今日はそういうおかしさではない。

……つまり、ハルヒらしくないんだと、数秒の逡巡の後に俺は結論付けた。




271 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 21:28:51.50 ID:EeECp8pj0
「きっとね」

本に目を落としながらハルヒが言う。

「きっともうすぐ分かると思うの。これがなんなのかが」

俺も視線を、ハルヒの手元の本に向ける。
これがなんなのか。そうだな、ハルヒなら分かるのかもしれない。

「……ああ、分かった。じゃあ、俺は帰るぞ」

視線をハルヒの顔に戻して、俺は別れを告げる。
ハルヒの様子を見るという目的を果たした今、長居は無用だ。

「うん、……あ、キョン」

背を向けて部屋から出ようとする俺を、ハルヒは小さな声で呼び止め、

「その……今日は来てくれてありがと」

呼び止めたときよりももっと小さな声で、顔をそらしてそう呟いた。




274 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/02/25(水) 21:40:01.60 ID:EeECp8pj0
ハルヒの母親に挨拶を済ませ、表に出る。
相も変わらず灰色がかった空は今にも泣き出しそうだった。

収穫はあった。ハルヒの精神状態は、あの本に熱中している限りはおそらく心配ない。
相変わらず根拠のない話しだし、一時的というオプションも外れてはいないが。

情報も得た。長門がハルヒに渡したという本。間違いなく普通の本ではない。
だがあれがなんなのか。どんな意味を持つのか。中身を少し覗き見ただけで気を失ってしまう俺にそれを知る術は無い。
つまりだ、俺が次になすべきことは決まっている。
気持ちを新たに、目的の場所へ向かおうとした瞬間、どこかで何か低い音がした。
それがポケットの中で震える携帯電話の音だということに気づくのに数秒を要した俺は、まだボーっとしているんじゃないかと自分の頭をゴツンと叩きつつ、逸る手で通話ボタンを押した。


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その2へ



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コメント
この記事へのコメント
  1. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 16:48: :edit
    ひとけたぁ
  2. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 16:49: :edit
    ひとけたぁ
  3. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 17:00: :edit
    こんな時間に更新なんて珍しいな
  4. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 17:38: :edit
    初の一桁
  5. 名前: 通常のナナシ #1Nt04ABk: 2009/03/11(水) 17:44: :edit
    ´`
  6. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 18:15: :edit
    一桁!
  7. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 18:40: :edit
    ゲッター死ね
  8. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 18:46: :edit
    一が取れない!!!
  9. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 19:00: :edit
    ハルヒの母が出てくるだけで
    勃起する症状がまだ収まらん
  10. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 21:58: :edit
    ハルカさんか・・・
  11. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/11(水) 22:02: :edit
    ※9
    よお兄弟
  12. 名前: VIPPERな名無しさん #-: 2009/03/11(水) 22:38: :edit
    一瞬、音読したらヤバイ類の本かと思ったぜ。
    そういうのは読んでるだけでSAN値ガリガリ削れそうだけど。
    ふんぐるいむぐるうなふ……
  13. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/12(木) 12:06: :edit
    wktkしつつ次に行こうじゃないか
  14. 名前: #: 2009/03/13(金) 01:13: :edit
    このコメントは管理人のみ閲覧できます
  15. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/14(土) 00:46: :edit
    いつものことだが、その1は米欄があまり伸びないな
  16. 名前: 通常のナナシ #-: 2009/03/14(土) 13:18: :edit
    ※12長門が渡したからSAN値が
    削れていくことはないのでは・・・・・
    まあ、その2を読んでないからわからないけど。
    確かに小林 泰三の「本」みたいだった。
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